◆はじめに◆
下記『◆プロローグ◆』にて、【】で囲われた用語は、『俺の嫁とそそらそら』独自の用語です。 『基本情報』ページ『●用語解説●』欄にごく簡単な註釈があります。あわせてご覧ください。 また、さらに『俺の嫁とそそらそら』の世界観が知りたい! という場合には、『●ワールドガイド●』をご確認ください! |
◆プロローグ◆
◆リンの場合レーヴァティン軍少尉『リン・ワーズワース』は困惑していた。 やはりおかしいと思う。世界は変わってしまった。 かつて彼女が知る世界、ブロントヴァイレスが出現するまでの世界では、そんな空賊団がいるという話はなかった、と思う。 しかしブロントヴァイレス出現に伴う歴史の歪みにより、そういう空賊がいた、という新たな【事実】が形成されていた。 特殊な空賊団である。大変に特殊だ。 やつらは毎年12月末冬至のころ、具体的にはクリスマスの時期限定で、いずこかより忽然とあらわれる。 所属員は赤い外套、赤い三角帽を着用する。いずれにもふわふわとした白い縁取りを施してあるのが特徴だ。さらには白い袋を肩より提げる。 乗っているのはエスバイロだが、原則外装をソリ型に改造しており、凝った者はこれをトナカイ型の小型機に引かせているという。 ……まあ要するに、あの人をもじっているのだ。 覆面がわりに白い付けひげで、顔の下半分を隠している者も少なくないというし。 「それだけでもたいがいだけど、一番あきれるのはここよね」 熱でもあるかのように、リンは額に手をあてた。 空賊は少数、あるいは中規模程度の集団を組んで物資輸送艇に襲いかかる。どうしても配送物の多くなるこの時期だ。標的には不自由しないだろう。 といってもいきなり攻撃を仕掛けてきたりはしない。パイロットらに迫ってこう告げるのだ。 運命を選べ、と。 「常に提案は三つ、毎回、趣向を凝らした質問をするそうだけど、よくあるパターンは『1.撃墜される 2.積み荷を半分引き渡す 3.その他』なんだって」 言葉で尋ねるより内容を書いたホワイトボードを見せるといった出題(?)方法を好むそうだ。 「そうすると大抵の人は3番『その他』を選びがちじゃない? でもそれこそがやつらの狙いなわけ」 3を選ぶと「良いチョイスだ! では積み荷を全部いただいた上で撃墜するとしよう!」などととんでもないことを言ってこれを実行に移してくるらしい! なんというインチキ! なんという詭弁! 三択を迫り言葉を弄すこの手法をもじって、連中は三択を弄す者、三択、弄す……【三択弄す】と名乗っているという!! 「って」 きらっ! リンは空手チョップの姿勢で右腕を天空に突き上げた。そして、 「こじつけやないかーっ!!」 ドゴーン! その平手で何もない空間を叩きつけたのである! (……気が済んだ?) リンのアニマ『オトヒメ』が静かに問いかけた。 「あんまり」 とリンは言った。 というわけでこの冬、空挺連合都市国家連合【メデナ】は、聖夜期限定空賊【三択弄す(サンタクロース)】団一掃作戦に乗り出すのであった! なお連中はクリスマスツリー型の浮遊島を本拠地にしているという! まったくもってけしからん! ◆ソラの場合アカディミア学生『ソラ・リュミアート』は困惑していた。 やはりおかしいと思う。だってこの時期なのに!? 「今年はケーキの予約不可!? オー、イッツ・ジョーキング! HAHAHA!」 などと大げさに爆笑、腹をかかえるゼスチャー付きで吹き飛ばそうとしたソラだったが、それでどうにかできるはずがない。 アニマ『ミィ』は冷静だった。 「いや、冗談じゃないみたいよ」 ミィは、チラシを手にしてぴらぴらと振っている。 チラシを手に、といってもミィはアニマであり実体をもたない。だから実際にチラシをつまんだり振ったりすることはできないはずだ。 けれどもこの『ケーキとお菓子の店・ストロング丸高』のチラシは紙にあらず電子データなので、擬似的ながらこういった行為が可能なのだ。 作れないものはしょうがないじゃない、とミィは肩をすくめた。 「材料不足よ。今年はサンタクロース空賊団がはやばやと現れて、小麦や生乳の運搬コンテナを奪い去ったからだって」 「今年は……って、去年はそんな連中いた?」 ソラが顔を向けると、ミィはシニヨン髪の頭をナナメに傾けた。 「うーん、そういえば……でも、いた気がする……」 「そんな気もする、かなぁ……? 三択強盗だったっけ?」 「そうそう」 「それそれ」 ソラもミィも、どうにも緊張感のない表情で向かい合った。喉元過ぎれば熱さを忘れる、というから、クリスマスシーズンだけ騒いでも、年が明ければ忘れてしまうのだろう――とりあえずそのように納得することにする。 けれど気が緩んだのは一瞬だ。 拳を握り、目に炎を宿してソラは声を上げる。 「ボクは義憤に駆られてる! 許せないよ! サンタさんの名をかたって悪事をするなんて!」 「お、やる気じゃない」 「ボクのクリスマスケーキをどうしてくれるのさ!」 「えらく個人的な義憤ね」 デートやパーティでホーリーナイト、リアリア充々(ジュウジュウ)なイブもあっていいが、彼女、ソラ・リュミエールにとってのクリスマスイブとは、『一人でホールケーキを買って好きなだけ食べる』というサイレントナイト&ホーリーナイト、ただしもちろんハッピーナイト、これがなきゃ年が越せないというほどの重大イベントなのだった。 「それにこんなことして、本当のサンタさんに恥ずかしいとは思わないの!?」 ソラは吼えた。 もしかして、とミィは怪訝な表情になる。 「ソラってまだ、サンタクロースが実在するって思ってる?」 「いないの!?」 「……」 リンは決意した。 ニセサンタ空賊団を捕縛すべく囮作戦に参加しよう、と! サンタがいないなどと言うミィが、間違っていることも証明しよう……とも! できれば! ◆マリアの場合「ええ、本機も存じております。その風習は」 マリア――『フラジャイルのマリア』と呼ばれる少女はうなずいた。 白いドーム状の無菌室、その内側でシートに腰掛け、 「あったと思います。千年の昔にも」 かつて存在した【地上】の世界にも、とマリアは繰り返す。 マリアは人間ではない。この世界でいう人類、【ヒューマン】【エルフ】【ドワーフ】【ケモモ】【デモニック】【フェアリア】のいずれにも該当しない。もちろんアニマでもない。古代世界の存在、魔法生命体なのだ。千年前、まだ地上があった時代には、ごく一般的な存在だったという。 当時、彼女のような存在はこう呼ばれていたそうである。【スレイブ】と。 古代遺跡で見つかったとき、マリアは冷凍睡眠の状態にあった。目覚めるもその記憶は復さず、メデナに保護されたまま現在に至っている。 しかしこの日、クリスマスについて尋ねられたマリアは、知っていると答えたのだった。 「祝祭、なのですよね? 喜びをわかちあうための」 できれば、と 「参加しとうございます……本機も。何かお手伝いできることはございますでしょうか」 すべての人におとずれる。 クリスマスが。 フラジャイルのマリアにも、空賊にも、あなたとあなたのアニマにも。 見てみよう、空の世界の聖夜を。 執筆:桂木京介GM |