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 空域(そら)の一角ではまだ戦いが続いているのだろう。
 悪のサンタ、三択弄す空賊団との戦いだ。クリスマスツリーをめぐる攻防戦、知恵比べ力比べ、せめぎ合いが行われているに違いない。
 目を凝らせばこの場所からでも、戦火の輝きが見えるかもしれない――ふとそんな気がして、『メルフリート・グラストシェイド』は夜空を見上げた。
「どうしたの?」
 彼のアニマ『クー・コール・ロビン』が問う。星あかりを浴びるクーの髪は、日頃よりずっと黒みを増している。
「別に、何も」
「考えごと?」
「考え……そうだな、考えていたのかもしれない。子は、未来だと……僕の年齢でいう言葉ではない気もするが」
「そんなことないと思うけど」
 クーの言葉には、わかっているから、と語りかけるような響きがあった。
 メルフリートの半生は波乱の連続だった。通常の意味での『子ども時代』は彼にはない。最下層を知り、そしてまた市民としての生活を知り、短い期間で彼は、なかば強制的に成熟を強いられてきたのだ。
(……本当は自分だって、子どもと言えなくもない年齢でしょうに)
 愁いを顔に出さぬよう気づかいながらも、クーはメルフリートの境遇を思わずにはいられない。
(あなたがプレゼントをもらったことは……あってもせいぜい5歳程度までか。まあ、その分を他の子に届けたい……のかしらね)
 クーはこれを口にしなかった。メルフリートは憐れみを求めているのではない、そう知っているから。
 だからクーはむしろ、笑顔でこう言うのである。
「あなたなりの未来志向として、前向きにとらえたいわね」
 クーに承認をもらった気がしてメルフリートは「ありがとう」とうなずいた。彼の口に微笑みはなく、目は氷のように冷たいが、その声にはどことなく温かさが感じられる。
「小さな希望が未来への活力となる。そういった話はそこら中に転がっているものだ。ゆえに、僕は後へ続くものたちへ道を示したい」
 そういうことだ、というメルフリートの締めくくりは、クーに対してだけではなく、己にも言い聞かせているかのようだった。
「行くぞ、クー」
「私からも何かあげられればいいのだけれど」
 メルフリートは、プレゼントを積んだエスバイロのスターターを蹴った。
 エンジンが、目覚めた大型犬のようにぶるっと震える。
 仮装こそしないものの幸福を配達するという意味で、彼らこそ本当のサンタクロースに違いない。

 そんな、一日署長ならぬ一日サンタを務める探求者のひとりに『遊星』がいる。
「マップデータは頭に入ってるか?」
「任せて。っていうかこの話が来たときから、とっくに用意してるから」
 頼もしい返しをするのはアニマの『アキ』、オープンモードで姿を見せ、勧進帳でも開くような仰々しいしぐさで大きな地図をばらっと広げてみせる。(実際は電子データなので、これはイメージだ)
「用意周到だな」
 ふふ、とアキは唇の端を上げる。
「この私にぬかりはないってだけのことよ。尊敬した?」
「ま、アキなら当然といえば当然か」
 よし行くか、と遊星は、星降る町の上空へ飛び立った。
 担当した地域において、事前に洗っておいた子どものいる家を最短ルートで効率的に回るという計画だ。そうでもしなければ回りきれないほどの人口密集地に向かうのである。朝までに完遂できるかどうかは、遊星自身の働きはもちろん、アキのナビにもかかっている。
「まあ、『当然』だけどね……」
 彼とタンデムするような格好で同行しつつ、アキは多少、複雑な表情をしている。
 できて当然と言われるのは信頼されている証拠と言えようが、それでも「さすがだ! 尊敬した!」と言ってもらっても一向に構わなかった。というか実際は、後者のほうが嬉しかった……かも。
 アキ経由で遊星宛てに、僚機から通信が入ってきた。
「お互い大変ね」
 声の主は『エティア・アルソリア』だ。彼女はサンタクロース姿に扮し、カンナカムイ方面に向かっている。
 やがて都市部に到達したエティアは、大通り付近にゆっくりと機体を着陸させた。
 ちらちらと綿毛のような雪が降り始めている。
「よーし、それでは……」
 エティアは身を包んでいたコートを脱ぎ捨てた。
 最初に地に触れたのは真っ赤なブーツだ。すらり長い脚を飾るのは網タイツ、ずっと上までいってようやく、下着が見えるか見えないかギリギリ当落線上のミニスカートが現れる。上着だって大胆だ。ヘソ出し、胸元V字カット、おまけに思い切りのいい半袖ときている。ちょこんと頭にのせた帽子以外、まったくもってけしからん体裁のガールサンタ、それが本日のエティアなのである。
 モデル立ちしてぴたり、その素晴らしいプロポーションを披露したエティアであるが、そんなフォトジェニックな瞬間は長く続かなかった。
「うわ寒っ!」
 たちまち両腕を押さえてガタガタ震えだしたのだ。
「そりゃそうでしょう。そんな薄着では」
 アニマの『メルファ』は、これ以上ないほどにあきれ顔だ。
 やめますか? とメルファは訊くも、エティアは水から上がった猫のように激しく首を横に振るのだった。
「でも」
 覚悟ができたのかエティアはふたたび、そのままファッション誌の表紙にしたいようなポーズに戻った。顔だって笑顔だ。根性だ!
「空賊がクリスマスを荒らし、この大切な夜に暗い影がさしているとき……こういうときこそ聖職者の出番だと思うのよね! 心頭滅却すれば火もまた涼し! プロの聖職者として、街中でプレゼントを配って回るわよ! 目指せ! 沈んだムードの払拭っ!」
 心が寒さに勝ったというのか、宣言するなりエティアは、街ゆく人々に呼びかけるのである。
「メリークリスマスっ! お菓子を無料配布するわ!」
 彼女が配るのは、緑や赤の包装紙で、クリスマスっぽく包んだ菓子箱だ。
「志(こころざし)は立派だと思うけど……それでなんで、ミニスカサンタになるのでしょうか?」
 メルファは腑に落ちぬ様子だが、いいのいいの、とエティアは笑った。
「こういうのは景気よくいかないと! さあメルファも! データ用意してあげたでしょ?」
「景気よく、ですか。まあ一理はあります……仕方がないですね」
 やれやれ、と肩をすくめると、メルファは一回転してコスチュームを改めた。
 そう、メルファもミニスカサンタとなったのである。
 腹をくくったメルファは強い。にこやかに呼び込みを行う。
「決して世の中捨てたものじゃありません。笑顔で明るく参りましょう。ささやかながらお菓子をご用意しました」
「その調子その調子♪」
 エティアの前には行列ができはじめていた。撮影もバシャバシャされている。気のせいか撮影者は男性ばかりのような……ともかく、明るくなったのでよしとしよう!

 ハードな任務に就いているのは『ロゼッタ ラクローン』だ。
 緊急着艦し母艦クルーに荷を手配する。メンテナンスと給油に駆け寄ったメカニックには、手振りを交え最低限の指示だけ出す。そうして待つ間に大急ぎでチューブ入りドリンクパックを吸うのだ。
 数分もせぬうちにすべての手順は終了した。再発進のためロゼッタは、ふわりとエスバイロのシートに収まる。
「隠密行動、気取られたら即失敗、それでいて黒い風のように迅速な行動が求められる……高難易度のオペレーションね」
 でも、と言ったときロゼッタの目は輝いていた。
「だからこそ私は賭けてみたい。自分のポテンシャルに」
 どさっ、と荷台に最後のコンテナが積まれた。大きな荷物だ。ロゼッタはすでに今夜七往復目、今回の総重量が一番大きい。
 ロゼッタのもとに『ガットフェレス』が姿を見せ、険しい表情で告げた。
「小さいとはいえ機体損傷あり。さすがに今回の荷物は過負荷と思うよ。再考を提案したい」
「作戦遂行には無茶はつきもの。任せて、私は輸送のプロよ。こなしてみせる」
「そう言い切れる根拠は?」
「プロの勘。それ以上何が言えて?」
 ガットフェレスは何か言おうとしたが、諦めたのか首を振った。
「いいよ。それを信じる」
「OK。通信回線開いて」
 にこりと微笑むとロゼッタは、ガットフェレスを仲介にして輸送母船の艦長に通信を入れた。
 進路よろし、の報を聞くと、ロゼッタは身をかがめて機を、カタパルトから急発進させるのである。
「ロゼッタ、行きまーす!」
 滑走路で加速し一気に飛び立つ! 強烈なGが全身にかかる。けれど機の制御はガットフェレスがいるから心配無用だ。
 ロゼッタは夜空を駆ける。子どもたちにプレゼントを配るという隠密任務を果たすために。
 その姿は配達のエースといっていい。

「よくお似合いですね、そのお姿……蛇上様」
 と話しかけて来たのは、どこか浮世離れした雰囲気の少女だった。1センチ程度宙に浮いていると言われても、信じてしまいそうなほど『この世の人ではない』空気をまとっている。ぱっと見はせいぜい十代後半だが、言葉づかいと目に大人びたところがあり、もっと歳上だと言っても通るだろう。
 それもそのはず、彼女は『フラジャイルのマリア』と呼ばれる【スレイブ】なのだ。
 古代の文献にしか登場しない魔法生命体、千年のまどろみから覚め、この時代に足を踏み入れた異邦人(ストレンジャー)。しばし軟禁状態にあったマリアも、現在ではその制限は緩み、『探求者が同行すること』という条件で比較的自由な行動が許されている。
「ああそれは、ありがとうございます」
 普段は白衣だが今日に限り『蛇上 治』は、サンタクロースの赤い服に袖を通している。帽子も太いベルトも、もちろん白ヒゲも装着したという徹底ぶり、それでも知的なその目だけは変わらない。
(サンタクロースおじいさんが似合うってよ。ということは治、老け顔ってこと?)
 プライベートモードのまま、『スノウ』が揶揄するように言った。
「こらスノウ、今日はそういうのはなしでいこう、って決めただろ?」
 治がへの字形の口をしたので、スノウは、そうだったそうだった、と舌を出した。
(ま、孤児院への慰問だし、楽しい雰囲気にしないとね)
「あの、お話をされているのですか? どなたかと……?」
 マリアが怪訝な顔をしたので、
「いえ、うちのアニマと話していただけです」
 と、天気の話でもしているように治は告げ、「行きましょうか」とマリアにうながした。
 本日、彼ら一行はマリアとともに、孤児院への慰問を行うのである。
 度重なる【アビス】の侵略は、不幸な子どもたちを多数生み出していた。その心のケアを行うのも、探求者として、医師としての立派な務めといえよう。
 孤児たちには楽しんでもらいたい、そう治は考えている。
 マリアにも、また。

 孤児院。
 小学校低学年前後、この孤児院では『年少クラス』と名付けられている子どもたちの教室を、『羽奈瀬 リン』はサンタ衣装で訪れた。ちゃんと白いつけ眉毛までしているという再現度の高い扮装だ。そうして、
「メリークリスマス!」
 クラッカーがはじけたときみたいに元気よく呼びかける。
 歓声と拍手で迎えられるだろう、リンはそう予想していた。
 ところがそれは間違いだった。
 ……そんな程度ではすまなかったのだ!!
 わあああああああああああああああああああっ! 声が爆発する! 三十人近い幼児の口から、一斉に!
「サンタさんだ!」
「サンタさん!」
「サンタさあああん!!」
 飛び跳ねる子ども、抱きついてくる子ども、猛突進してくる子ども、喜びのあまり踊り出している子ども。爆発的なエネルギーがリンを包んだのだった。小動物が跳ね回るケージに飛び込んだときのよう、とにかく、大騒ぎだ。
(圧倒されそう!)
 驚きのあまりアニマの『スピカ』は、プライベートモードになって宙に浮かんだ。
 もう圧倒されてるかも、とリンは苦笑交じりで、それでも、堤防のように子どもたちの勢いを受け止めて宣言した。
「実は今日、みんなのためにミッションを用意したんです。全部達成できたら、いいものがありますよ!」
 いい煽りだったようだ。子どもたちは目を好奇心で輝かせ、サンタクロースからの『ミッション』が下されるのを待った。
 リンの用意したミッションというのは、小さく単純な、それでいて刺激的なゲームばかりだった。
 たとえば、クリスマスソングの合唱、動物の鳴き声当てや地名クイズ、簡単な計算という問題も出した。
 いずれもその分野が得意な子というのが出てきて、それぞれの知識を披露してくれたものだ。
 姿を見せたスピカが出題役を担当し、巧みに子どもたちの注目を自分に集めた。
 全員で大縄飛びを何回か跳ぶ、というチャレンジが、大いに盛り上がったのは言うまでもない。
「さあこれでミッションは完了! いよいよ『いいもの』の登場よ!」
「クリスマスツリーを見て下さい」
 リンサンタがふふっと笑う。子どもたちは振り向いて、ふたたび爆発的な歓声を上げたのである。
 スピカが子どもたちの目をそらせている間に、リンが用意したプレゼントの包みが、クリスマスツリーの下にぎっしりと揃えられていたからだった。
 そしてこちらはもっと幼い。ほとんど赤ちゃんみたいな子から、ぎりぎり小学校前までの子どもが集められた『乳幼児クラス』だ。普段は全校集会がひらかれるような場所である。
 ここを任されたのは『ロベリア』だった。
「喜んでもらえるでしょうか……?」
 クラスの扉前で立ち止まると、やや不安げにロベリアは言った。
(ロベリーなら大丈夫だよ! 自信をもって)
 励ますように告げるのは、ロベリアのアニマ『アーモンド』だった。
「自信、ですか……」
 ロベリアはきゅっと下唇を噛んだ。緊張している。
 乳幼児クラスの子どもたちは皆、幼いということもあってアニマリベラーの装着手術を受けていない。だからアニマの自分が出るのは混乱を招くかも、と配慮して、アーモンドはプライベートモードを保っていた。
 つまりロベリアは、たった一人で子どもたちの前に出ることになる。
 人という字を手に書いて飲むジェスチャーを取るとリラックスできるという。単なるおまじないではあるものの、これを行ってからロベリアは扉を開けた。
「みなさん、こんばんは!」
 ロベリアは至福、白をベースとした普段着姿だった。
 幼い子らはそんな彼女に、無邪気に拍手を送ってくれる。
 だが子どもたちの拍手は、直後歓声混じりのものへレベルアップした!
「へーんしん☆トランス」
 ミラクルでマジカルな星型の光が、ぱっと四方八方に散った。くるっと一回転したロベリアはたちまち、サンタクロースの衣装へと一変している!
 幼い子ゆえ反応は可愛らしい。
「わー☆」
 まるで花が咲いたよう。六人いる子らが、一様にきゃっきゃと喜んでいる。
(いいよいいよ! その調子!)
 アーモンドも歓声を上げてくれた。
「サンタクロースのロベリアです、よろしくお願いします!」
 歓迎されるというのは嬉しいものだ。じいん、と胸を熱くしつつロベリアは、用意してきた大きな絵本を取り出した。今夜のために用意した自作の絵本だった。読み終わったらそのまま孤児院に寄贈する予定だ。
「今日はね、みんなに絵本を用意してきたんです。題名は『五匹のトナカイ』」
 ロベリアが座ると、彼女を取り囲むようにして子どもたちが集まってきた。
「ある所に、サンタさんをお手伝いする五匹のトナカイがいました……」
 クレヨンで塗った淡いイラストを見せながらロベルトは語り出す。
 それは風邪を引いたサンタさんのかわりに、トナカイたちが力を合わせプレゼ ントを届けるというストーリー。

 小学校高学年『年長組』の教室に、『七枷陣』が乗り込んでいく。
 ……いや、その前に。
「じゃあマリア、手はず通りに頼む」
 教室の前で陣は足を止め、フラジャイルのマリアに言ったのである。
「はい……! 重大、ですね……本機の責任は」
 普段はとろんと眠そうな垂れ目をしているマリアが、このときばかりはキッと眉に力を込めている。
「そうだマリア。お前さんのアクションがおじさんの演出の成否を決める」
「うう……がんばります。アクション」
 昂ぶってきたのか彼女は瞳を潤ませていた。両方の拳を握りしめている。
(大袈裟です。マスター)
 プライベートモードで『クラン・D・マナ』が言った。少々、冷ややかな目で陣を見ていた。
(アクションとかなんとかおっしゃってますが、マリア様にはただ、部屋の電気を消してもらうだけでしょう?)
(ぶっちゃけその通りだが)と陣は心中でクランに返した。(おじさんとしては、マリアにも、ほら、なんというか、イベントに参加してる、って感覚を持ってもらいたいわけよ)
(……理解はできませんが、まあ、言わんとすることはわかりました。マスター)
「行きます、アクションに」
 そのときもう、マリアは教室のドアをガラッと開けて、
「きゃ!」
 悪ガキどもがしかけた古典的トラップ、『ドアに挟んだ黒板消し』を頭部にくらって悲鳴を上げていた。
 どっと子どもたちが笑う。しかし、
「でも負けません……陣さんのためにも」
 マリアは果敢に教室に飛び込み、すべての電気を消したのである。
「上出来だ!」
 陣は颯爽とその後を追った。そして厳かに口上するのである。
「サンタってのは世を忍び影から影に渡り歩く、姿無きウォッチメン。1人だけって誰が決めた? つまりおじさ……いや、オレが……オレ達が、サンタムだ!」
(マスター、ドヤ顔でサンタムとか言われても意味不明です)
 クランが水を差すも陣は気にしない!
 そしてチョーク粉まみれになりながら、マリアが照明のスイッチを入れた!
 暗闇に浮かび上がる勇姿! このとき陣は、段ボールを加工して作ったロボット風アーマーをまとっていた! 時間をかけて作ったので無駄にカッコイイ! もちろんカラリングは赤と白! そう、これがサンタムだ! 
「うおおおおっ!」
 場が湧く! 座っていた子どもらは一斉にスタンディングオベーション! 成功だ!
 悪ガキといってもやはり小学校高学年、特にその男子の心を陣はガッチリつかんだのだった。
「サンタムがプレゼントとケーキを配るぜ! そこに並びやがれ! そうそう、イタズラ坊主はちゃんとマリアに謝っておくようにな! 以上、サンタムのオペレーション開始だ!」

 雪の勢いは衰えない。この分なら、明日は銀世界を拝むことができそうだ。
 さてこうして夜も更けて、外回りのサンタクロース部隊も、なんとか仕事を終えていた。
 気を失いそうなくらい忙しかったのが嘘のよう、遊星はゆっくりとエスバイロを運転している。
「もうこんな時間か……だが、空が白む前に完遂できてなによりだったな」
 ソリ風の装飾をほどこしたエスバイロで、冴え渡る真冬の空を飛ぶ。激しい運動を経たせいか、それとも満足感のためか、もうあまり寒さは感じていなかった。
 そうね、と彼の横に浮きながらアキは言ったものの、後部シートを見て小首をかしげた。
「あら、プレゼント残ってるみたいよ?」
 おかしいな、とアキは言う。たどった配達ルートに漏れはなかったはずだ。
「ああ、それは」
 こともなげに遊星は返事した。
「アキへのプレゼントだ」
「えっ? わ、私に?」
 予想していなかったらしい、アキは頬に手を当てている。
「新しい冬物コートのデータディスクだ。メリークリスマス」
「ちょ、ちょっと、私は何も用意してないんだけど!」
「だったら着た姿を見せてくれ。それが俺へのプレゼント、ってことで」
 返す言葉が見つからないらしい、なにやらわたわたしてきたのか、アキはぐるぐるとソリの周りをめぐっていたが、やがて、
「じゃ、じゃあリクエストに応えて……あげるわ」
 観念したかのように、ちょん、とエスバイロの後部シートに収まったのである。
「見ないでよ! 着替えるんだから!」
「着替えるって……?」
 単なるデータであるし、アニマであれば装着は一瞬だろう。
 けど、まあいいか、と遊星は口をつぐんだ。
 せっかくの聖夜だ。野暮はよそう。



執筆:桂木京介GM