廃墟に巣くう……弥也 GM) 【難易度:とても簡単】




プロローグ


●差出人不明メール
「はぁ……」
 『ミカ・コトー二』は白紙の企画書にため息を吹きかけた。
「何をしてるの?」
 ミカのアニマ『グリース』が不思議そうに尋ねた。
「こうやって、この語りつくせぬ想いを吹きかけたら企画書に文字が浮き上がるんじゃないかと思って」
 今度は企画書をパタパタと振り始めた。
「それはただの紙。何をしても、何も起きないわ」
 グリースの真面目くさった様子に、ミカのため息は更に深くなってしまった。
「分かってるから暫く黙ってて」
 つい、グリースに当たってしまう自分に嫌気がさした。
 添乗員を職業に選んだのは、子供の頃連れて行って貰ったツアー会社の旅行が本当に楽しかったからだ。
 いつか自分もあんな風に人を楽しませてみたい、そう思っていた。

 しかし……
「似たようなのばかりだな」
 ミカの企画書に目を通した社長は、終始渋い顔だった。

「これ、イケると思ったんだけどな……」
 そう言って社長から戻された企画書をゴミ箱に投げ入れた。
 入社して半年、企画が通った事はなく、ゴミ箱へと投げ込まれた企画は数知れず。
 先輩のツアーを手伝うだけで半年が過ぎてしまった。
 同期の中には企画が通りツアーが実施された者もおり、焦れば焦るほどありきたりな企画しか浮かんでこない。
「メール来てるよ……」
 ミカの機嫌を損ねないよう、遠慮がちにグリースが伝えた。
「見るわ」
 何かに役立つかと登録しているメールマガジン、ショップのセール案内等、ピンと来るものはない。
 何だかもう何も思い浮かばない気すらし始めた。
「ん?」
 メールマガジンではないメールに目が止まった。
「なにこれ……」
 タイトル『企画書差し上げます』
 知らない相手からのメール。
「グリース、このメール大丈夫?」
「うん、特にウィルスなどはないよ」
 ならば……
 ミカは、メールを開いた。
 
●地図にない……
 メールに添付されていた地図が示していたのは、街の外れにあるインフラから取り残された廃墟ビルだった。
「こんなところがあるなんて知らなかった……」
 添付されていた地図は随分と古い物らしく、現在の地図にこの廃墟は載っていなかった。
「どうしよう……」
 廃墟に立ち入るかミカは迷った。
(入りたくないなぁ)
「地図にすら載っていない建物なので所有者はおらず、立ち入っても不法侵入にはならないよ」
 ミカの想いとは裏腹な事をグリースがしれっと言った。
 リベレーターは近くに止めてあるから、何かあれば飛び乗って逃げればいい。
 今ミカがすべき事は、この企画書通りにツアーが行えるかの確認だ。
「さぁ、行こうよ!」
 どうやらグリースは楽しんでいるようだが、ミカはこの手が非常に苦手なのだ。
「う、うん……」
 陽の高い今なら、建物の中も明るい。
 行くなら今しかない。
 ミカは廃墟の中へと歩みを進めた。


「良いじゃないか!」
 社長の声で、先輩達の視線が一斉にミカに向く。
「あ、あの、でも、これ……」
(知らない人から送られてきた、何て今更言えない……よね……イマサラ……)
「なんだ、下見まだか?」
(今はとにかく結果を出さなきゃ)
「いえ、大丈夫です!」
(言っちゃった……)
「じゃぁ、決まりだ。初めての企画だな。おめでとう」
「ありがとうございます!」
 もう、行くしかなかった。


●●ミステリーホラーツアーのご案内●●

 新企画!!!日帰りミステリーホラーツアー。
 
 地図に載っていない廃墟を発見!

 なにやらイワクつきの建物のようです。

 出発は陽が落ちた後。

 何が起こるか予測不能ですので、何か身を守る物を必ずご持参ください……。
 
     添乗員ミカ・コートニ


解説


 このエピソードは「日常系」エピソードです。
 イベントメインの戦場から離れた場所が舞台になります。
 戦いの喧騒を逃れ、一休みしてみてください。


 ちょっとしたミステリーホラーです。

 添乗員は新人ですし、企画書そのものが非常に怪しいです。
 本当に何が起こるかわかりませんので、身を守る物をご持参ください。
 添乗員ミカは、祖母から昔貰った『お守り』を持っていくようです。

 身を守る物の使い方を、フレーバーにてお知らせください。

 建物は随分昔に廃業した小さなホテルで、3階建て築年数は不明です。
 客室やフロント等に忘れ物等が放置されたままらしく、持ち主が探しています。

 お仲間やアニマと協力し、探し出して回収してください。


 一人行動、グループ行動どちらでも大丈夫です。


 回収物全てを回収する必要もありませんが、念のため現在分かっている物のリストを……。

<回収物>
・1階 一番奥にあるフロントで預かったままの忘れ物の財布
・1階 入口すぐ横宴会場 花嫁のブーケ
・2階 エレベーターホールにある日本人形
・2階 208号室の壁に掛けられた絵画
・3階 リネン室にある従業員の指輪
・3階 301号室の……行けば分かります。



 それでは、引き寄せられた皆さまのご参加お待ち申し上げております。


ゲームマスターより


こんにちは!弥也です。

夏と言えばホラー。ホラーと言えばお化け屋敷。
最近のお化け屋敷は、本当に怖いですよね……。

やっぱり「きゃぁ」って言って好きな子に抱き着いたり抱き着かれたり、夢ですよねぇ……。

私は怖すぎて声も出ず平静を装って出てくるけど、夜中思い出して寝れないタイプですが、皆さんはどうですか?



廃墟に巣くう…… エピソード情報
担当 弥也 GM 相談期間 4 日
ジャンル --- タイプ EX 出発日 2017/8/12
難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 公開日 2017/8/22

 キミシア  ( フリーオウ
 ケモモ | アサルト | 21 歳 | 女性 
あたしはミクシィとペアで回収に向かうね。
3階リネン室の指輪、それと301号室の何か。

気のせいかな、ツアー主催のミカまでソワソワしてるように見える。
ううん、きっと考えすぎ。
スラムでは依頼の裏を取るのが当たり前だったから癖になってる。
忘れよう、今のあたしは探究者だもの。

うーん、身を守るもの。
普通のツアーに武器は物騒かな。
うん、鍛えたこの身体だけで十分。

ミクシィとデート気分、ぴったりくっついてハンドライトで探索を進めるよ。
「なんだろ、寒気がする」

いや、白状すると実際に怖いのさ、得体のしれない何かっていうのは気味が悪い。
出るならいっそお化けでも出てくれた方が退治できてスッキリする。

けれど、それと同じくらいに興味も尽きないよ。
地図に載ってない建物なんて、それもホテル。
何かあったのかな。

頑張って全部回収して帰りたいな。
 ミクシィ  ( ミヤビ
 デモニック | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
キミシアちゃんとペアを組んで探索致します。
護身用の武器はいつものクレイモアを持参致しましょう。(イラスト全身図の新しい方を参照)

私達は3Fを探索。
アニマちゃん共々、3Fの忘れ物を探索します。
リネン室にある従業員の指輪から探し、301号室の……行けば分かります。に向かいます。
但し他の参加者さんが、残りの忘れ物でまだ回っていない所がある場合、そこも忘れずに回ることとしましょうか。
探索時の判定はINT、でしょうか。
その場合は私とアニマちゃん、合わせればそこそこの数値になると思いますので、私達が中心となり探すこととしましょう。

さて、折角のツアーですし、楽しんで参りたいですわね?
 ロベリア  ( アーモンド
 デモニック | 魔法少女 | 13 歳 | 女性 
●動機
ホラーツアーかぁ。怖い物苦手なんだよね…。
え、今アーモンド笑った?
わ、私だって頑張れば怖いものくらい平気だからっ!
あっ。(ツアーに参加するボタンを押してしまう)
●目的
ニーアと共に1Fから探索する。
●行動
グループ名【怖いもの見たさ】
なんでホラーツアーに参加しちゃったんだろう…怖いよ…。
取りあえず懐中電灯とお塩は持ってきたよ!
で、どこを回ろうかニーア?…え。全部!?
と、取りあえず1Fから行こう!できれば日本人形は避けてね…。
(覚悟はしてたけど…廃墟の入口で足が動かない!)
怖い怖い怖い…これなら飛び牛のほうが怖くないよ…。(しゃがんで頭を抑える)
え…手、繋いでくれるの?うん…頑張る。
ここまで来たら、帰れそうにないしやるしかないよね。
あ、そうだ。清めの塩持ってきてたんだった。いざという時はこれで…!
 アクア=アクエリア  ( フォブ
 フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性 
【方針】
ボクは2階の探索班になったよ
でも、何があるかわからないので、臨機応変に行動するつもり
なんだか回収物で分岐がありそうな…
気になるアイテムが落ちてたら、それも拾っておこう

【1階】
1階班に任せて2階へ向かうよ
「気を付けてね!」

【2階】
3階班と別れて探索開始
「こっちが終わり次第、合流するね!」

〇日本人形
こわい!こわいけど目が離せない!
埃だけでも払っておこう
〇絵画
どんな絵なのかな? フォブに検索してもらおう
外す時、お約束なので裏返してみたいな…落とさないように気をつけようね

【3階】
2階の探索が終わったら、すぐに3階の応援に向かうよ
301号室で集合する感じになるのかな?
何がでるんだろうね…こわいけど、ちょっとドキワクするね

※アドリブ大歓迎
 ニーア  ( コロナ
 フェアリア | マッドドクター | 6 歳 | 女性 
【怖いもの見たさ】
目的
探求とロベリアの様子を楽しむ

動機
楽しそうだから

行動
ロベリアと一緒にホテルへ行きましょう。怖がってるロベリア、可愛いわねぇ
とりあえず全部まわっておきましょうかぁ。え?日本人形だけは嫌?仕方ないわねぇ
それじゃあ、それ以外の忘れ物と、恐怖の探求しましょうかぁ。もしそういうものが見つかったら全部持ち帰っちゃいましょう。
放棄されてるし、誰のものでもないのなら、良いわよねぇ?
あんまり怖がってるようなら手を繋いであげたり、抱きしめてあげましょうかぁ。身長差的に逆な気もするけどぉ。
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 
フィール
・持っていく身を守る物
1カンナカムイで拾った十字架っぽいもの。神様が助けてくれる…といいなぁ?
2魔法少女の杖。物理が効かない幽霊でも、魔法なら効く筈だから。魔力をあげて魔法で消し飛ばせってやつだよね。
あ、『回収物を入れるバックパック』も持っていかないとねー。


誰も探してない回収物があったら、私はそれを優先して探そう。
探す人が少ない場所をね。2Fになるかな?



・対敵?
他に方法がなかったら、魔法使います。どうしても必要なら、だけど……そうなったら建物が壊れても(全壊しても)……しかたないよね?
爆砕済みリストに、廃ホテルが追加されないよう、がんば…れるといいなぁ。

ところで思ったんだけど……忘れ物……どこに忘れたかわかっているのに数年も放置しているって……実はそこまで大切な物でもない?

アルフォリス

探索の様子を撮影するのじゃ。
ふん、ユーレイなんぞ時代遅れにもほどがあるんじゃ。ただの勘違いかアニマに属する何かに決まっておる。
……ヴァイレスだったら流石に恐怖もあろうが、そんなもんが都市内にいたら大問題じゃ。

撮影目的は単純じゃ。何があったのか報告用じゃな。証拠を残しておかんと、色々とこまるじゃろ?
それに、この企画の宣伝にもなるじゃろう。


そうそう、フィールは探し物は別段得意というわけでもないからの。我が演算能力を使って建物内部をスキャンして回収物がありそうな場所をピックアップしてやらねばならんじゃろうなぁ。


参加者一覧

 キミシア  ( フリーオウ
 ケモモ | アサルト | 21 歳 | 女性 
 ミクシィ  ( ミヤビ
 デモニック | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
 ロベリア  ( アーモンド
 デモニック | 魔法少女 | 13 歳 | 女性 
 アクア=アクエリア  ( フォブ
 フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性 
 ニーア  ( コロナ
 フェアリア | マッドドクター | 6 歳 | 女性 
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 


リザルト


●到着
 廃墟の前にリベレーターが滑り込んだ。
「それでは皆様、現場に到着です」
 本当にこの企画を実行して良いのか、ここまで来てミカは悩み始めた。
 『キミシア』はミカをつい食い入るように見つめてしまった。
(気のせいかな、ツアー主催のミカまでソワソワしてるように見える。ううん、きっと考えすぎ。スラムでは依頼の裏を取るのが当たり前だったから癖になってる。忘れよう、今のあたしは探究者だもの)

【怖いもの見たさ】の『ロベリア』は後悔していた。
(なんでホラーツアーに参加しちゃったんだろう…怖いよ…)
 そんなロベリアの様子を同じ【怖いもの見たさ】の『ニーヤ』が愛でるように見ている。

 すらりと長い手足、輝く黒く長い髪、それに一際目をひくクレイモアを手にリベレーターから降り立ったのは『ミクシィ』だ。
「私はこういうのは平気ですが、果たしてキミシアちゃんやアニマちゃん達はどういう反応をするのか、楽しみですの♪」
 ミクシィは、ミカにそう言ってくすりと笑った。

「では、廃墟の見取り図をお配りします」
 『アクア=アクエリア』は受け取った見取り図で地下の有無を確認していた。
「どれどれ?」
 アクアのアニマ『フォブ』が、オープンモードで背後から抱き着き肩越しに見取り図を覗き込む。

 バックパックを背負い、配られた見取り図をマジマジと見つめているのは『フィール・ジュノ』だ。
(忘れ物……どこに忘れたかわかっているのに数年も放置しているって……実はそこまで大切な物でもない?)

「では、行ってらっしゃいませ……」
 ミカは何かに怯えるように、参加者の背中を見送った。

●出発
「取りあえず懐中電灯とお塩は持ってきたよ!」
 と、自ら懐中電灯で照らし出した廃墟の姿に、ロベリアは恐怖が一気に高まり足が止まった。
(覚悟はしてたけど…廃墟の入口で足が動かない!)
「怖い怖い怖い……。これなら飛び牛のほうが怖くないよ……」
 ロベリアは頭をかかえてしゃがみこんでしまった。
「ほら、顔を上げて」
 アニマの『アーモンド』が、ロベリアに囁いた。
「ん……?」
 言われるがまま顔を上げたロベリアの視界に、ニーアの手が入った。
「え……手、繋いでくれるの?」
「ほら、ロベリア。私がついてるから大丈夫よぉ?」
「うん……頑張る」
 ロベリアはニーアの手をしっかりと握りしめて立ち上がった。
「あ、そうだ。清めの塩持ってきてたんだった。いざという時はこれで……!」
 利き手である右手は、何があってもニーアの手を離さないつもりなのか、左手で手あたり次第に塩を振りまき始めた。
「ロベリアさん、それは何ですか?」
 アクアがそう話しかけた時、塩がアクアの口に入った。
「しょっぱい! ロベリアさんは、清めの塩ですね。僕はこれ!」
 アクアはそう言って、消臭除菌抗ヴァイレスが謳い文句の『ファヴニーズ』を掲げた。
 なぜファヴァニーズなのか……。
 その場にいた全員の表情がそう物語った。
「これで除霊できる…ってまとめサイトに載っていたよ」
 納得した者は、誰一人いなかった。

 フィールのアニマ『アルフォリス』が嬉しそうに録画モードを開始した。
「また……なの………?」
 フィールにとって得体のしれない何かより【アルフォリスの計略により引き起こされる恥ずかしい事態】の方が怖いのだ。
「毎度恒例の視聴者サービスシーンを撮るぞい。恐怖シーンと、フィールのあられもない姿のサービスシーンのコラボじゃ! ネットにばら撒いてフィールの知名度を高めるのじゃ! 人気が出れば出るほど、不思議パワーが集まりやすくなるはずなのじゃ!」
 フィールは肩を落とた。

「なんだろ、寒気がする」
 キミシアがミクシィにぴったりと身体を寄せると、ミクシィがくすりと笑いその細く長い腕でキミシアの肩を抱き寄せた。
「さぁ、キミシアちゃん。私達は3階を捜索しましょう」
 
●一階忘れ物の財布
 小さな窓から入り込む月明かりが暗闇への恐怖をかきたてる。
「ほ、本当に真っ暗だね……。ちゃん記録できてる?」
 アクアはフォブと共に一階奥にあるフロント奥の従業員控え室を目指していた。
「ちゃんと出来てるよ。でも、どうして控え室に?」
 ニーアとロベリアに「気を付けてね!」と言って、上の階を探索する参加者達と共に建物中央付近にある階段まで行った後、列を離れたのだ。
「あそこには地下に向かう階段がなかっただろ? だとしたら、従業員控え室に地下への入り口があるかもしれないからね」
 大きなフロントカウンターが、月明かりに照らされいる。
「よし、行こう」
 アクア達はカウンター内側へと回り込み、従業員控え室の扉を開けた。

●一階花嫁のブーケ
 入口ではニーアとロベリアが顔を寄せ合い見取り図を見ている。
「で、どこを回ろうかニーア?」
「とりあえず全部まわっておきましょうかぁ」
「え。全部!? と、取りあえず一階から行こう! できれば日本人形は避けてね……」
 ニーアの提案に、ロベリアは思わず懐中電灯を強く握りしめた。
「え? 仕方ないわねぇ。それじゃあ、それ以外の忘れ物と、恐怖の探求しましょうかぁ。もしそういうものが見つかったら全部持ち帰っちゃいましょう。放棄されてるし、誰のものでもないのなら、良いわよねぇ?」 
 
「案外と広いね」
 ニーア嬉しそうに宴会場を調べ歩くその隣で、ロベリアが懐中電灯の光を恐る恐るニーアの興味に合わせて動かすも、右手はまだニーアの手を握りしめていた。
「ここまで来たら、帰れそうにないしやるしかないよね」
 と、いつでも使えるように持って来た清めの塩を持とうとして、右手はニーア、左手は懐中電灯を握っており、持てない事に気付いてしまった。
「これじゃ塩も杖も持てない……」
 泣き出しそうなロベリアを、ニーアが抱き寄せた。
「ほら、懐中電灯は私が持つから大丈夫よぉ」
「う、うん……」
 ロベリアが差し出した懐中電灯を受け取ったニーアは、さっと宴会場全体を見渡した。
「コロナ、探し物はどこ?」
 ニーアのアニマ『コロナ』は、即座に見つけ出した。
「そこから五メートルほど先に行った床です」
 ニーアが懐中電灯で照らすと、確かにブーケだったらしき物が床に転がっていた。

●一階従業員控え室
「地下はなさそうだね」
 フォブの問いかけに、アクアは恐怖で声が出なかった。
 控え室の扉を開けた時、一瞬目の前で何かが動く気配がしたのだ。
(な、なにか、いる……)
 ファヴニーズを握る手に力が入る。
 さっと周りを見渡したが、フォブの言うとおり地下へと続くものは見当たらない。
「あ……」
 立ち去ろうとした時、デスクの上に財布らしき物を見た。
(せっかくだし……)
 アクアが手を伸ばそうとした時
「お客様、こんな所に勝手に入られては困りますね……」
 フォブの声ではなかった。
 
●階段一階から二階へ
 一体階段が何処まで続くのか分かららない暗闇。キミシアの持つハンドライトが恐る恐る歩を進める度、影の形を変える。
「でたぁぁぁ!」
 影が大きく角度を変え時、後ろから走って来たアクアがフィールに激突、アクアとフィールは転倒落下。
 その音に驚いたキミシアが叫びミクシィにしがみついた。
「キミシアちゃん、何も出てませんわ。階段下にアクアとフィールが転がっているだけ」
 確かに階段下には、あられもない姿で転倒しているフィールと、その下敷きになっているアクアの姿があった。
「そこのお二人、わたし達は3階へ向かいます」
 そう言って先へと進むミクシィとキミシアに、フィールの下敷きになったままアクアが手を振った。
「こっちが終わり次第、合流するね!」

●再び一階
 花嫁のブーケだった物を回収したニーアとロベリアは、宴会場を後にしていた。
「コロナが言うには財布がまだ回収されてないみたい」
 ニーアの足取りに迷いがない、ここまで来たらロベリアはついていくしかないのだ。
 もし、廃墟の外へ出たとしても、一人で待つのは怖いし悔しい。
 ロベリアは、清めの塩の残量を確認した。

●日本人形と絵画の回収
 二階へと到着したフィールとアクアは、早速日本人形を発見した。
 最初はキミシアのハンドライトに目が慣れてしまっていたせいで、真っ暗な中何も見えなかった。
「ねぇ、アルフォリス。撮影してるのならライト付くでしょう?」
 いくらフィールが懇願してもアルフォリスは応じない。
 暗闇の中、まだ闇に目が慣れない二人の目の前で突如日本人形がスポットライトを浴びた。
「きゃぁぁ!」
 フィールの悲鳴が響いた。
「ちょっと! アルフォリス!」
 アルフォリスの仕業だ。
「ふん、ユーレイなんぞ時代遅れにもほどがあるんじゃ。ただの勘違いかアニマに属する何かに決まっておる」
 悪びれる事の無いアルフォリスに、再びフィールが肩を落とした。
「だ、大丈夫ですか……?」
 とは言うものの、アクアもフォブも真っ青だ。
 その場に居た全員、アルフォリスさえもが一瞬日本人形から目を離した。
 気付いたのはフォブだった。
「あくあん、あのお人形、さっきとお顔の向きがちがうよ……」
 フォブが耳元で小さく囁いた。
「!!」
 確かに最初に視界に入った時とは顔の向きが違う。
(こわい! こわいけど目が離せない!)
 見つけたのに無視するわけにもいかず、フィールは自身のアニマとなにやら揉めているようなので、人形の頭上に積もった埃だけでもと払っておいた。
「あらアクアさん、回収しなくて良いんですか?」
 フィールは、そう言い終わらないうちに日本人形をバックパックへとしまい込んだ。

 どうやらフィールとアルフォリスの話し合いの末、アルフォリスがライトを付け続ける事になったようだ。
「ここよ」
 フィールが208号室の扉を慎重に開き、その背後にはアクアがファヴニーズを構え、その背後にはフォブがアクアの肩越しに覗き込んだ。
 
●財布の回収
 ロベリアから預かった懐中電灯の光が届かない暗闇に、ニーアは覚えのある気配を感じていた。
「…とお、さま?」
 白衣についた父の血液に、父の何かが残っていたとしたら……。

 従業員控室には、所々積もっている筈の埃が無い場所があった。
「誰か来た……」
 デスクの上には、回収物の財布が置かれたままだ。
 ニーアは迷うことなく財布を手に取った。
「お客様、こんな所に勝手に入られては困りますね……」
 男の声だ。
 ロベリアは一心不乱に声の方へを清めの塩をありったけぶん投げてしまった。
 懐中電灯の先には、すっかり埃と塩まみれになり、色さえ判別が出来ない従業員の制服らしきものがかけられていた。
「せ、制服が喋った!?」
 やっと声の出たロベリアが、じりじりとそこから離れようと交代するのと対照的に、ニーアはその制服を手に取ってしまった。
「へぇ、すごいわねぇ…こんなことが。面白そうだし持ち帰っちゃおうかしらぁ」
 ほら、とその制服を目の前に差し出されたロベリアは思わず尻餅をついてしまい、手を繋いだままだったニーアはロベリアに覆いかぶさる様に倒れこんだ。

●絵画回収
「え?」
 声を出したのはフィールだった。
 208号室の扉を開けた時、風が吹き抜けフィールの魔法少女の衣装を捲り上げ、後ろにいたアクアに激突しアクアは転倒した。
 まさか……。
「ちょっと、アルフォリス!」
 アルフォリスは今の瞬間を再生して確認していた。
「何か映った……?」
「写っておる……」
 フィールの顔がこわばった。
(まさか……)
「危険な何かどもよ、しっかりとフィールを辱めるのじゃぞ!」
 士気の高まったアルフォリスは、しっかりと映ったフィールの絶対領域に気を取られ、それ以外のものには興味がない様子だ。
「私にも見せて」
「ボ、ボクも見たいです……」
「アルフォリス、再生して」
 再生された映像は、恐怖で表情を硬くしたフィールのアップや、露出した肌、動作に合わせて動く胸元や髪。
「アイドルのプロモーション動画みたいだね」
 フォブが遠慮なしに言い放った。
 そして問題のシーン。
 男が必死の形相で飛び出していく姿が映り込んでいた。
「う……」
 アクアは言葉が出ない。
 確かに、何かに体当たりされたが、姿は絶対に見えていなかった。
 なのに……。
「写っちゃってますね……」
 フィールが気の毒そうに言った。
 全員が男性の走り去った方を思わず見た。
「戻ってくるとアレなので、急いで絵画を回収しましょう」
 フィールが十字架を握り直しながら言った。

 部屋の中は、ある日突然時間が止まったままの様であった。
 すっかり埃まみれだが、確かにそこに誰かがいた形跡がある。
 乱れたベッドの脇の壁に、小さな絵画があった。
 ひまわり畑に佇む女の後ろ姿が描かれている。
「これ、ですね」
 フィールが固い表情で絵画に顔を近づけた。
「んー、何も感じませんねぇ」
 左手に十字架、右手に魔法少女の杖を持ったフィールが不意にアクアを振り返った。
「アクアさん、特に問題なさそうなので、絵を壁から外してもらえますか? 私両手がふさがっているもので……」
 確かに、アクアの左手一本でも外して持ち出せそうな大きさだ。
「わ、わかりました!」
 大きな声で返事はしたものの、手の震えは隠せなかった。
 右手でファヴニーズを構え、左手で額縁を掴み壁から外した。
「そうだ」
 アクアが、絵画の裏に何か貼っていないか確認しようとした瞬間、ひらひらと何かが落下した。
「あ、おふだ!」
 フォブが楽しそうに叫んだのと、絵画から何かが勢いよく呼び出したのが同時だった。
「なに!?」
 フィール、迷わず十字架を構えた。
「この十字架っぽいものが目に入らんかー! 頭が高い、ひかえおろー!」
 顔が見えない程長く伸びた前髪から片目だけをぎらつかせた女が、フィールに向かってきた。
「あれ……」
 今度は魔法少女の杖を構え女をぶん殴ると、女はフィールに向けていた両手を慌ててアクアへと向けた。
「宗教旅団うまれのアクアさんを舐めるなーっ!」
 とファヴニーズを噴霧するも、効き目は広がる良い香だけで女は気にする様子もなく、じわじわとアクアに迫る。
 その手は確実にアクアの首を狙っていた。
「まとめサイトのウソつきーっ!」
 アクアは女が抜けだした絵を胸に抱え、部屋から逃げ出した。

●指輪回収
 三階のミクシィとキミシアは、お互いの体温を感じながらゆっくりと歩を進めていた。
「開けますわよ?」
 キミシアはハンドライトでリネン室の扉を照らした。
 きぃ……。
 小さな音を立てて扉が開いた。
「綺麗……だね」
 扉の向こうから何か恐ろしいものが飛び出してくるのではと構えていたキミシアは、虚を突かれた。
「そうね」
 リネン室はその名のとおり所せましと並べられた棚にシーツや枕カバーが綺麗に積まれている。
 ここだけを見れば、今すぐにでもホテル業を再開させられそうな様子だ。
 ただ、ここから小さな指輪を探し出すとなると、気が遠くなりそうだ。
「すべてのリネンを広げ再び畳む。シーツなどは大きいですからとても良い肩のトレーニングになりますね」
 アニマの『フリーオウ』がそう言えば、キミシアはやるしない。
 おもむろに棚からシーツを一枚取り出し広げたキミシアの手をミクシィが掴み、手にしているクレイモアを前方に構えると、キミシアの身体が勝手に反応し毛をブワっと逆立て尻尾を膨らませて目を見開き、ミクシィに抱きついた。
 ハンドライトで照らしているわけでもないのに、奥の棚の一部が明るく見えている。
 意思を持ったように闇がうごめく。
「行きましょう」
 キミシアに抱き着かれたまま、ミクシィが棚へと向かう。
 近づけば近づくほど、うごめく闇は姿をはっきりと現した。
「メイド……さん……?」
 此処で働いていたであろうメイドの姿だった。
 ただし、顔と手足が黒く焼けただれている。
「火事……?」
 メイドが頷くと、棚からカチンと音を立てて指輪が落ちた。
「あ!」
 キミシアが反射的にそれを拾おうと手を触れたとき、メイドがキミシアに襲い掛かった。
「キミシアちゃん! 気を付けて!」
 ミクシィが叫ぶと同時にクレイモアを振り上げた。
「大丈夫です!」
 キミシアが鍛え上げたその肉体で、メイドを投げ飛ばそうと抱えた。
「ん?」
 途端に、メイドの動きが止まり身体がボロボロと崩れ落ち始めた。
「イタイ……、アツイ……、ユビワ……、ワタシノ……」
 全てが崩れ落ちメイドは再び闇へと戻った。 
 そのに残ったのは、今ジュエリーケースから出されたばかりの様に光る指輪だけだった。

●火災
 フロアへ出たニーアとロベリアが見たものは、先ほどまでの廃墟ではなく、多くの人で賑わっていた当時のホテルだった。
 ただし、宴会場とホテル入口は火の海で、火だるまの花嫁の姿もある。
「こちらへ!」
 フロントから飛び出した男性が、混乱する客をフロント奥の従業員控室にある非常口へと案内し始めた。
「あ、あの声」
 ニーアが気付いた。財布を取った時聞こえた男の声だった。
「ねぇ、私のブーケ返して……。私の指輪返して……」
 誰かがニーアとロベリア二人の耳元で同時にささやいた。
 ロベリアが、ゆっくりと声の方へ振り返ると、顔が焼けただれた花嫁が立っていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ロベリアは階段を一気に駆け上がり、ニーアも後を追った。
 
 二階まで逃げたところで、フィールとアクアに遭遇し一緒に三階を目指した。

●三階301号
 懐中電灯とアルフォリスの照明で、明るく照らされた三階の廊下は静かだった。
「ミクシィさんとキミシアさんは、どこでしょう……」
 1階から一気に三階まで階段を駆け上がって来たロベリアが息を切らせ言った。
「ここはもう回収してるとコロナが。だとしたら……」
 ニーアが目の前の301号室を見ると、全員の視線が301号室に集まった。

「やっと来ましたわね」
 ミクシィが迎え入れた。
「ここの回収物は何だったんですか?」
 ニーアが部屋を見渡した。
 そこは廃墟ではなく、ホテルの一室だった。
 キミシアが、シャワールムを指さした。
 擦りガラスに、子供らしき小さな影が見えた。
「え?」
「一緒に行きましょうって言うんですが、怖がって出てこなくて……。こんな小さな子をイベントに使うなんて酷いですわね」
 ミクシィの長い髪が揺れた。
「急がないと! 一階から火がきてるのよ!」
 ロベリアが、シャワールームに向かって叫んだ。
 と、小さな影が動いた。
 キミシアの尻尾は太く膨らみ、フィールの表情がこわばった。
「その子……」
 フィールが言おうとした時、小さな影がシャワールームの扉を開けた。
 それは変わらず小さな影だった。
「イッショニ、ニゲル……」
 小さな影が、両手を差し出した。
 誰もが息を飲んだ瞬間、ミクシィとロベリアが影の小さな手を取った。
「アリガトウ……」
 小さな影が微笑んだ。影なので表情は見えないが、確実に微笑んだ。
「ボ、ボク、逃げ道探してきます!」
 アクアが部屋を出ようとしたが、廊下は既に煙で充満していた。
「だめです! この煙を吸うと死にます!」
「残された道は……」
 フィールが指さしたのは、大きな窓の下に置かれた避難梯子だった。

●その後
 考えれば不自然に置かれた、廃墟には似合わない現代的な避難梯子だった。
 下まで降りてみると、筋トレと称してフィールが背負って降りた子供の影は姿を消し、アクアが抱きかかえていた絵画以外の回収物は跡形もなく消えていた。
「皆さま、お疲れさまでした。深夜の廃墟探訪いかがでした?」
 全員無事に揃っている事に安心したのか、リベレーターと共に現れたミカは嬉しそうである。
「回収物は記念にお持ち帰りくださいね」
 と言われても、手元に残っているのは絵画だけだ。
 アクアがどうしたものかと絵を確認すると、ひまわり畑に佇む女がこちらを見そして絵から消えた。
「ボクは遠慮します……」
「じゃぁ、私が持ち帰って調べてみますねぇ」
 申し出たニーアに絵を渡すと、アクアはじりじりと絵から離れた。

「それでは、解散場所までご案内します」
 リベレーターに乗り込むと、太陽の光が辺りを照らし始めた。
 廃墟の三階から、走り去るリベレーターに手を振る子供の姿は、もう陰ではなかった。



依頼結果

大成功


依頼相談掲示板

廃墟に巣くう…… 依頼相談掲示板 ( 11 )
[ 11 ] キミシア  ケモモ / アサルト  2017-08-13 17:27:51

ミクシィ、3Fね。OK♪  
 

[ 10 ] フィール・ジュノ  ヒューマン / 魔法少女  2017-08-13 14:21:04

ロベリアさんも魔法少女!うん、確かに!仲良くしよう!
私も魔法はどうしても必要にならない限りは使わないようにするよ。
でも…必要になったら、廃ホテルが爆砕されても……怒らないでね(目そらし  
 

[ 9 ] ロベリア  デモニック / 魔法少女  2017-08-13 13:55:04

フィールさんも魔法少女なんですね、なんだか親近感ありますねっ。
私は今回は魔法は使わずに、この懐中電灯と清めのお塩で頑張ります!
3Fと2Fを探索してくれるようなので、私とニーアは1F中心に回ります!  
 

[ 8 ] フィール・ジュノ  ヒューマン / 魔法少女  2017-08-13 13:42:17

どうも~。魔法少女、フィール・ジュノです!滑り込みで登場!

一応、誰も探してない、か探してる人少ない物や階を探すことにしまーす。
もし敵がいても、魔法があれば何とかなる!……はず。  
 

[ 7 ] アクア=アクエリア  フェアリア / マッドドクター  2017-08-13 13:39:49

それじゃボクは2Fを探索するよ
2Fはフロアの装飾品って感じだね
日本人形と絵画かー…、アハハハ、コワクナンテナイヨー?(糸目だけど青ざめた顔)  
 

[ 6 ] ミクシィ  デモニック / マーセナリー  2017-08-13 12:41:41

さて、もう今夜出発ですわね。とりあえず、6名参加しているようですし、落とし物の探索は1F~3Fの三つで分けましょうか。私とキミシアちゃんは3F、いってみましょう?  
 

[ 5 ] キミシア  ケモモ / アサルト  2017-08-13 11:15:36

キミシアだよ、よろしくね。
すごく気になるよね。
身を守るもの……いつものナックルかな。
 
 

[ 4 ] ロベリア  デモニック / 魔法少女  2017-08-12 22:55:27

宜しくお願いしますアクアさん!
私も怖いの凄い苦手ですけど…好奇心が抑えられなくて…!  
 

[ 3 ] アクア=アクエリア  フェアリア / マッドドクター  2017-08-12 17:24:55

マッドドクターのアクアだよ、よろしくね
実は怖いの苦手だけど、がんばるよー  
 

[ 2 ] ミクシィ  デモニック / マーセナリー  2017-08-10 22:00:46

こちらこそ、よろしくね?
キミシアちゃんにロベリアちゃん。
ふふ、いつものメンツですわね。  
 

[ 1 ] ロベリア  デモニック / 魔法少女  2017-08-10 21:05:42

こんばんは、宜しくお願いします!