プロローグ
● 空に囚われた少女。
エスパイロのエンジンが唸る。廃気口から発される熱気が、陰炎を作って空間を歪めた。
無数のエスパイロと雷撃で空気が熱されているだろうか『メナ』は額の汗をぬぐい。その気温への悪態をついた。
「うるさいのよ! メア」
幼口調のアニマ『アメ』に怒られるメアである。
「ごめんごめん。あー、これが終わったらシャワーだ!」
直後急降下、すり抜けざまにブロントヴァイレスへの斬撃。
綺麗に決まった。
翼を裂かれたヴァイレスはやや高度をおとす。
「これなら!」
「危ないの! メア!」
翻るスカートがしたなく、それも気にせずメナはエスパイロの座席から躍り出た。
拳を突き上げ、勝利に酔う。だが。
だが……それが悪かった。
「え?」
伸びたのは黒い首。
ビヨーンなどと可愛らしいオノマトペがつくようなものではない。
捻じれて砕けて、繋がって、それを何度も繰り返したようにバキバキと……音を立ててその首が。口が。
牙が。
メナをつらぬいた。
身を竦めたくなるような音が響く。
バキリと何かが砕ける音。体の内部から何かがこぼれそうになり鼓膜を内側からうった。
殴られたようにもうろうとする意識、視界。
「あ……がっ。」
鉄臭い香りが鼻腔をえぐった。生暖かい物が食道を駆け抜ける。
視界が真っ赤に染まった。白い牙が赤く塗れる、自分の手が赤く塗れる。
「寒い」
メナは震える。さっきまでの熱量はどこへやら。
「メナ! メナ! しっかりしてほしいの! メナ!」
しかし汗はかいている、ぬめるような汗。
そのせいだろうか。
おかしいな。
手が滑って、牙から抜け出せない。
「泣かないで……、泣かないでアメ」
泣いてる、あの子が泣いてる。
自分が射ないとダメで、いつだって自分の後ろをくっついてきていて。サポートも満足にできないけど。
「あなたの笑顔、本当に好きだった」
だから、早く早く戦場に戻らないといけないのに。
アメが乗り移ったエスパイロが遠のく、アメの声も遠のいていく。
「ごめんね。アメ」
そうメナは自分のアニマに笑みを向けた。
涙を置き去りにして、メアの体が落下を始める。
ブロントヴァイレスのアギトに捕まれたまま。メナは奈落の底を目指した。
● 戦場で涙する少女。
『アメ』は君たちに告げる。
「お願い、メアを助けて!!」
「アメじゃできない、護れなかったの」
「みんなが大変だってわかってるの、でもこのままじゃメア帰って来れない」
「アメは、アニマだから、メアの手取れないから」
「お願い、お願いします。いい子にするの。もうわがまま言ったりもしないの……だから」
「だから助けて」
その言葉を聞き入れて、君たちは奈落へと走る。
涙声を背に受けて、エスパイロのギアを上げた。
状況的にかなり厳しい、そう自覚したうえで。
解説
● 落ちる少女
今回のミッションは、ブロントヴァイレスに噛みつかれたまま落ちるメアの救出です。
ブロントヴァイレスは片方の翼を負傷、高度をこれ以上稼げずにゆっくりと落ちている状況になります。
このままどこまで落ちれば奈落かはわかりませんが、猶予はあまりないところ。
ポイントは三つ。
1メアの説得を振り切る。
彼女自身、死ぬ覚悟を決めています。なので追ってきた皆さんを上の方に返そうとするでしょう。
「まだ敵が残ってる」「戦って! そのために来たんでしょ」「みんなの死を無駄にしないで!」「また失敗したいの?」「みんなが抜けたら仲間はどうするの?」「私はもうたすからない」「こいつを道連れにできるなら私は」「メアをよろしくね」
そんな感じです。ただ、受け答えしている間は気をしっかり保つので、ある程度かまってあげると死を遠ざけることができると思います。
2 ブロントヴァイレスの顎を開かせる。
優先すべきはヴァイレスの顎を開かせること。牙を破壊すること。
などで、メアを助け出すことです。
時間はありません。おぞましいほどの出血と、奈落堕ちる恐怖。
皆さんはメアを追って奈落に向かって突き進んでるのですから危険です。
それでも彼女を助けたいと思う皆さんの勇気、賞賛します。
3 攻撃をしのぐ
実を言うと。このヴァイレス、個体として弱く、しかも余力を残していません。そしてなぜか口を開かないので得意のブレス攻撃もしません。
翼を振り回して暴れたりカギヅメをつかったりでしょうか。
その攻撃をどういなすかで作業効率が変わってくるでしょう。
ちなみにこのブロントヴァイレスは羽を負傷しているので、飛ぶことはできません。
せいぜい体を振り回すくらいしかできることがないので。取り押さえるなり、先に絶命させるなり好きにやってください。
ゲームマスターより
こんにちわ、鳴海です。
初めての人は始めまして。
リザルトで出会った方はこんにちは。
別世界からいらっしゃったら、いらっしゃいませ。
鳴海です。
別世界の私を知っている人はわかるかもしれませんが、鳴海空中戦闘大好きです。
なので今回は、落下しながらの戦闘にチャレンジしてみました。
まぁ戦闘と言っても、説得・心情が半分以上になるかと思いますけども。
そこは、自分の好みの配分で。よろしくお願いします。
それではお楽しみください。
【隠れた真実】牙に囚われたメナ エピソード情報
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担当 |
鳴海 GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/2 0
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難易度 |
普通
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報酬 |
少し
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公開日 |
2017/7/12 |
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「状況はアメから聞いた。大丈夫かメアさん!」 まずは竜を観察する。 「(翼を振り回す力は健在か…竜のかぎ爪も危険だな。だが…弱っていそうだな。)」 「竜のかぎ爪はルーさんが。牙は蓮さんが担当だったな。」 「よしアイリス、サポートを頼む。俺たちは竜の口を開かせるぞ。」 竜の左右の口角部分に対し、デュエルブラッディを使用して渾身の力で攻撃し口を開かせる。 開き次第、蓮さんと牙の破壊に取り掛かる。 牙の破壊の際、メアから説得されるので此方も説得する。 「メアさん、君は諦めているようだが。」 「アメは言っていた。もうわがままも言わないしいい子にするからメアを助けて、と。」 「あの子の涙は君を想う力の強さだと思った。だからこそ生きて帰ってアメの抱きしめてやるんだ。」 「その為に俺たちは助けに来た。」 無事救出できればエスバイロにメアを乗せ、ガーゼと包帯で怪我をしている部分を応急手当。アメの所へ行く。
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ルー
( ローパー )
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ドワーフ | スナイパー | 14 歳 | 男性
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説得に言う言葉 どれか使ってください「はあ、死にたがりをなんで俺が……おい!お前のアニマがうるさいぞ!さっさとそんな臭い口から出て黙らせてくれ」 「死ぬ覚悟?はっ笑わせるな。残念ながら俺含めお前の覚悟なんてものを聞く奴なんかいない。黙って俺たちに救出されるんだな」 やる事 アニマに操縦を任せ竜の下方に位置どりし一緒に落ちながら限界高度を計りぎりぎりを見極める。 竜に近ずく人を下から銃でスキル込みの援護する。 口が開かないなら顎の周りを撃ちまくってみる。牙も撃てるならうつ 遠くから常にヴァイレスを観察する。変な所があれば皆に報告する。 アニマとの会話「ルー様すいません」 「……なんの事やら。急にどうしたんだ。そんな事より早くお前も手伝ってくれ。さっさと助けて応酬をたっぷりぶんどってやろう。ははっ」 「はい!エスパイロと同期します。操縦は任せてください」
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顎を開かせる。 持ってる辛いものや、痛みを感じるものを投げる。 最終的に自分のアニマの意見が一番だと考え実行
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蓮 蒼馬
( アスナ )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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フルスロットルでエスパイロを飛ばし竜の元へ。先に辿り着いたら俺のアニマ、アスナに「支援してくれ!」と呼びかけ竜の眼前を飛び回り、攻撃を回避しながらなるべくその場に釘付けにするようにする。仲間が揃ったら、フリューゲルが口角を攻撃して顎を開けさせるのでその支援の為引き続き竜の眼前に出て挑発しながら注意をこちらに惹き付ける。顎が開いたらメナの側に行きエスパイロのアームユニット、又は自身の拳で竜の牙を砕くべく牙を攻撃。その際メナの言葉に対しては 「ふざけるな!お前が言ってる事は唯の自己満足だ。世界にとってお前の命はたいした事はないのかもしれん。だがアメにとってはお前は唯一絶対の存在なんだ。俺は誰かにとって大切な命を失わせる事は絶対にしない!」 と返し同時にメナの意識を保たせるよう努める 牙が砕けたらメナを引っ張りだす。その際医師の治療を受けられるまで牙を抜かず出血を抑えるようにする
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参加者一覧
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ルー
( ローパー )
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ドワーフ | スナイパー | 14 歳 | 男性
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蓮 蒼馬
( アスナ )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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リザルト
●プロローグ
『フリューゲル』はその日無人島に浮き羊を観察しに向かっていた。エスバイロを飛ばして戦場を迂回するルートで空を駆ける。
その手には『アイリス』が作ってくれたサンドイッチ、それの入ったバスケット。空の散歩と言うには少し物騒な日だったが。それでも何気ない休日を謳歌しようとしていた。
「この時期の浮き羊は換毛期で自然に毛が抜けるんだ」
そうフリューゲルが告げると、アイリスは答える。
「その毛のサンプルの採取が今日の目標ってことだね!」
ただその和やかな会話は長くは続かなかった。
竜に襲われている少女とそのアニマの叫びを聞いてしまったから。
おねがい……。
「アイリス……」
お願い助けて……。
「うん、わかってるよ」
静かに瞳をあげるフリューゲル。
小さく鋭くアイリスは言葉を返して、アイリスはそれに頷くとエスバイロのギアをあげた。
高く唸りを上げるエンジン。その肩に大剣を担いで。ブロントヴァイレスへ恐れずに接近するメナへと接近する。
その時アメの声が聞こえた。
「お願い、お願いします」
少女は泣いていた。自分の無力に打ちひしがれながら、最後まであきらめたくない。
最後までそばにいたい。離れたくない。そう主人への愛情を叫ぶ。
「いい子にするの。もうわがまま言ったりもしないの……だから」
叫びが空をつんざいて一人の英雄の耳に届く。
「だから助けて」
「任せろ」
その声で真っ先に奈落へと駆けるのは『蓮 蒼馬』
アメが操るエスバイロを抜きさって蒼馬は重力加速度を味方につけた。
その視線はただただ、命を終えようとするメナに注がれて。
「ありがとう」
その優しい背中に、もう一度だけアメはそう呟いた。
●接敵
『ルー』は蒼馬と同じように奈落への道をひた走る。その隣に『swear』が並んだ。
彼女の窮地に気が付いた人間は多くいるようである。
それは善意か、はたまた彼女の懇願が届いたのか。
実はルーとしては、本当は救助に向かう気などさらさらなく。
だがそれでも来たのは、自分のアニマ『ローパー』がアメの声を聴いてしまったがゆえに。
「ルー様」
戦場でブロントヴァイレスと向き合う最中、命のやり取りを繰り返す最中。ローパーが意識をそちらに向けている素振りを、ルーが感じたからだった。
「助けてほしいのか」
その言葉に従者は何も言葉を返さない。自分が何か言える立場ではないと知っていたから。
だがローパーの内心としては、今にも泣きだしそうなくらいに助けてあげて欲しかった。
「……」
もし、自分が同じ場面に出会ったならその時は、そう思わずにはいられなかったから。
でも言えない、自分の立場はわかっている。
だがルーは、ローパーを理解している。彼女がどう思い、どう考えるかそれを知っているからこそ。ルーはそれを決断した。
「わかった」
彼にとっての優先順位としては本来自分のアニマが一番上なのだ。
だけど……いやだからだろうか一度決断すれば迷うことはもうなかった。
小柄な体格に似合わない大型狙撃銃、スナイパーライフルを構え。空を裂く音を耳で聞き、気流を感じ、スコープを覗く。
「弾道修正、距離計算。視界に出します」
「その子を返してもらおうか、魔竜よ」
ルーは超速で駆けるエスバイロの上からでも精確に外すことなく弾丸を撃ち込んでいく。
一発放つたびにロール、場所を変えて位置を変えて再計測、銃弾を放ち再度ロール。
弾丸の雨がブロントヴァイレスを襲った。
「ルー様すいません」
「……なんの事やら。急にどうしたんだ。そんな事より早くお前も手伝ってくれ。さっさと助けて応酬をたっぷりぶんどってやろう。ははっ」
そう感情のこもらない笑いを向けるとローパーが笑った。
「はい! エスパイロと同期します。操縦は任せてください」
次いで嬉しそうな声をだすローパー、途端に気合を入れ直し戦場へと全神経を向ける。
そんなルーの眼前を交錯していく二人の影。巨大な拳を装備した蒼馬と大剣を装備したフリューゲル。二人は交錯し、離れ、股肉薄しブロントヴァイレスへとのアプローチを試みていた。
「それに、嫌いではない」
自分が遅れるわけにはいかないな。そうルーは思う。
「何がですか?」
「ああいう形の関係がだ」
さらにルーはギアを上げる。エンジンの唸りは心地よく、ブロントヴァイレスを抜きさりながら、腹、首、瞳へと銃弾をみまっていく。
「状況はアメから聞いた。大丈夫かメナさん!」
蒼馬はその加速性能をフルに活用、あっという間にブロントヴァイレスに追いついた。
髪が巻き上げられるほどの上昇気流、目が乾く、だがメナから視線をそらすことはしない。
手を伸ばすとメナが蒼馬を向いた。
突如叩きつけらえる翼。たまらず蒼馬は距離を開いた。
「支援を頼むアスナ!」
「わかってる!」
アスナが同調したエスバイロそのコントロールはアスナに委譲される、委譲されたと言っても、二人は長年の付き合いだ。お互いがお互いの意識を理解している、であれば自分が運転するより信じられる動きをする。
アニマとはそう言うものだ。蒼馬はにやりと笑みを浮かべる。
「おお!」
爪が迫る、その爪は鋼鉄すら切り裂く。だが爪の上側を叩けば切り裂かれることはない。攻撃をそらす。翼は逆にその翼を掴みあえて吹き飛ばされる。
足だけでエスパイロに体を固定。逆噴射して奈落に叩きつけられることを拒否。
急加速、エンジンが悲鳴を上げるが構わない。
流星のように孤を描いて加速力を交えた狂拳をブロントヴァイレスの背に叩き込んだ。
それに『ユー・トワイナイト』も続く。
二人がかりの連続攻撃、だがブロントヴァイレスはびくともしない。
「何をしてるの! このブロントヴァイレスは飛べないのよ! 他の個体を狙った方が……」
そのメナの言葉を無視して蒼馬はブロントヴァイレスの爪を回避。髪が巻き込まれて宙を舞う。
その空振りした腕を砕くようにフリューゲルが突進した。
大剣を前に構えた砕くような斬撃で、鈍い音が、空に響いた。
「うっ」
唸りをあげたのはメナ。ブロントヴァイレスが痛みで歯を食いしばったのだ。
「この!」
焦るフリューゲル、フリューゲルは素早くエスパイロの向きを変えると直線運動が円運動に代わった。大きく空中を振り回されるフリューゲルだったが。その状態から刃を伸ばせば。
それは回転するのこぎりに代わる。
折れて空中たなびくブロントヴァイレスの腕を、フリューゲルのそれが叩き斬った。
歯を食いしばるブロントヴァイレス。そんなブロントヴァイレスのかわりにメナが悲鳴を上げた。
「すまない! メナさん」
「……いっそ。殺してくれないかな」
青ざめた表情でメナは告げた。
「もう、手足の感覚もないし、視界が暗いから」
その言葉にフリューゲルは首を振る。
「それは、認められない!」
「これ、助からないとおもうよ?」
「助かる! 絶対だ!」
「むりよ、だからあなた達は先に行って」
血が滴っていた。ブロントヴァイレスの牙を伝って空に赤い雫が舞い散る。
その光景に拳を握りしめたフリューゲル、そんなフリューゲルの耳にルーの通信が入る。
「限界高度を計算した。データを送る。アニマに確認させろ」
そう五人に通達するルーである。そんなルーは常に下方に位置を取りながらブロントヴァイレスに弾丸を浴びせていた。
真正面から、柔らかそうな目や、口。歯茎、歯。そのあたりを重点的に攻撃する。
「口の筋肉を断裂させれば……」
ルーは分析結果を述べた、ブロントヴァイレスのような超生命体と言っても、基本的な体の構造は生物のはずだ。骨があり筋肉があり歯がある。
では歯を食いしばるのに必要な筋肉、それを寸断してしまえば口も開くだろう。
そうルーは見解を述べる。するとフリューゲルも蒼馬もその言葉に同意した。
「翼を振り回す力は健在か……竜のかぎ爪も危険だな。だが攻撃しすぎれば口に力が入る……弱っていそうだな、けど」
「手分けして空中で解体するしか……」
蒼馬が告げるとフリューゲルが頷き担当を確認した。早急に対処するにはチームワークが必須だ。
「竜のかぎ爪はルーさんが。牙は蓮さんが担当でいいかな?」
全員がその言葉に頷いた。そして再度散る。
「よしアイリス、サポートを頼む。俺たちは竜の口を開かせるぞ」
散会、そして近接アタッカーである蒼馬、フリューゲルは加速力を頼りに攻撃力を強化。
すれ違いざまに斬撃、拳による強打。翼を切り付け。脳を打ち付け。混乱のさなか。ルーがトリガーを絞る。
「遅い!」
都度に三連射。その弾丸はいかに鋼より硬いと謳われるブロントヴァイレスの爪でも弾き、削り、砕き、撃ち飛ばす。
その血が空に舞った。油が霧散し唇がべとつく。
「あああああああああ!」
メナの悲鳴。
「こんの!」
隙を見てフリューゲルは空中で急速反転反転、その加速力を円運動へのエネルギーに再び変換。
そのままはじかれたように直角に軌道を変えると。えぐるように大剣を振りかぶって。ブロントヴァイレスの口角部分に刃をすきいれた。
それは血しぶきと肉片を巻き上げながら肉をえぐり、削り。
力が弱まる咢、ようやくメナの悲鳴が収まった。
「そんな、本当に?」
驚きの声を上げるメナ。
「これで!!」
矢のように駆ける蒼馬。加速力が最大となるタイミングに合わせて距離を調整。
そしてその拳が、ブロントヴァイレスの顎を砕く。
歯に亀裂が入った。
だが、それでも、それでもブロントヴァイレスは咢を開かない。
奈落が迫る。
「もういい、やめて! 時間の無駄だから。私の命一つでこいつの命と交換なら、安いから、だから」
叫ぶメナ。しかしその言葉に鋭く反論したのは蒼馬だった。
「ふざけるな! お前が言ってる事は唯の自己満足だ」
ひるむメナ。ブロントヴァイレスが瞳を蒼馬に向ける。ぎらつく視線。だが不思議と敵意はなかった。
代わりに悲しそうな青い色を宿している気がして、少し蒼馬はたじろいだ。
「世界にとってお前の命はたいした事はないのかもしれん」
メナに重なる面影。それは幼馴染で兄の嫁である義姉、唯一愛した女性であるその人。そして敬愛する兄の姿。
「だがアメにとってはお前は唯一絶対の存在なんだ。俺は誰かにとって大切な命を失わせる事は絶対にしない!」
メナは目を見ひらく、そして涙に潤んだ瞳を隠すように瞼を下ろした。
「けど、けどこのままじゃみんな死んじゃう、私なら死ぬ覚悟はできてる。だから……」
その言葉を遮ったのはルー。
「はあ、死にたがりをなんで俺が……おい! お前のアニマがうるさいぞ! さっさとそんな臭い口から出て黙らせてくれ」
「え?」
ローパーが通信を直結、するとアメの無く声が周囲に響き渡る。彼女は必死にメナを呼んでいた。離れたくない、一緒にいたい。
そうメナを呼んでいた。
「死ぬ覚悟? はっ笑わせるな。残念ながら俺含めお前の覚悟なんてものを聞く奴なんかいない。黙って俺たちに救出されるんだな」
次の瞬間。歯の隙間にフリューゲルが大剣を差し入れた。
「メナさん、君は諦めているようだが」
渾身の力を籠めて刃を滑り込ませるフリューゲル。
「アメは言っていた。もうわがままも言わないしいい子にするからメナを助けて、と」
「うん」
「あの子の涙は君を想う力の強さだと思った。だからこそ生きて帰ってアメの抱きしめてやるんだ」
「うん!」
「その為に俺たちは助けに来た」
メナの目の色が変わった。涙を呑んで彼女は。
助けをこう。
「お願い、私、もっと生きたい」
その言葉にフリューゲルと蒼馬は顔を見合わせて微笑みあう。
ルーは満足そうに鼻で笑い。
そして三人は動く。
ルーが歯茎に銃弾を撃ち込むと亀裂がさらに走り。そのひびの真ん中を蒼馬が殴った。
陶器が砕けるような音共に歯が粉々に分解され、歯が突き刺さったままメナは解放された。その咢が閉じないようにフリューゲルが大剣をつっかえにして蒼馬に救出を求める。
「ありが……くぅ」
「喋るな、あとでいくらでも聞く」
素早くメナの体を引っ張り出す蒼馬。そして自分のエスバイロに乗せて戦線を素早く離脱した。
「あとすこしだ、頑張ってくれ」
そう空を急ぐ蒼馬を尻目に。フリューゲルはブロントヴァイレスに向き直った。
「ここで完全に命を絶つ」
「手を貸そう」
告げたルーの弾丸がアギトをつらぬき骨を砕き。
「はああああ!」
最後に放たれたフリューゲルの斬撃が、喉笛を切り裂いた。
致命傷の一撃。
ついに絶命したブロントヴァイレスは奈落の底に沈んでいく。
ルーとフリューゲルは空中で完全静止。
最後に二人は、あのブロントヴァイレスの悲鳴を聞いた。まるで激痛に耐えるような激しい悲鳴。奈落の向こうに何があるのか、想像し少し恐ろしくなるが。
その堕ちていくブロントヴァイレスの姿から目を話すことができないのも、また事実だった。
●エピローグ
「メナ! メナ!」
メナを乗せながらキャンプ地へ戻るメアはとてもうれしそうだった。
今回作戦に参加してくれた五人の戦士にしきりにお礼を告げながら。雨はずっとメアに言葉をかけている。
それを見て。ローパーは満足げに笑った。
「これでよかったのか?」
ルーは尋ねる。するとローパーは告げた。
「はい、ありがとうございます。ルー様」
「じゃあ俺たちは、羊をめざそう
そうエスバイロに乗せていた応急手当きっとで、止血だけ済ませるとフリューゲルは一行とは別の方向に加速した。
どっと疲れてしまったがそれもいい。
何より、アイリスの機嫌がますますよくなった。
「よくやったな、アスナ」
そう蒼馬はアスナの頭を撫でる。
「えへへ」
そうアスナは照れ臭そうに笑う。
「ありがとう」
その時メアが告げた。
「この子を泣かせずに済んだみたい」
アニマは生まれながらにしてその人に寄り添う存在、家族と同じだろう。
そんな彼女らを大切にするという意思が絆となってこの場に助けを導いたのかもしれない。
そんなことをメナは思い、そして、ゆっくりと眠りの淵に落ちて行った。
依頼結果
依頼相談掲示板