プロローグ
なぜこの周波数に接続していたのだろうか。
あなたのアニマが『レユニオン通信』内で受信したメッセージがあると言う。
メッセージを開いて、とアニマに頼むと、その内容を読み上げてくれた。
「この内容は無差別に、様々な周波数に送信している。受信したものがいれば最後まで読んでほしい」
表情が硬くなっていくのが自分でもわかる。
ただの文面ではあるが何か緊迫したものを感じながら、続きを聞く。
「我々は今戦線の最前線にいる。つまりブロントヴァイレスと戦っているわけだ。
恥ずかしながら戦線は崩壊寸前、わずかな戦力ではあるが増援が来るまで何とか持ちこたえている状況にある。
負傷者も多数出ているのだが我々の戦力では負傷者全員を安全地帯まで護送することが厳しいのだ。
もしこのメッセージを読んだものがいれば、頼む。無理な願いであるのはわかっているのだが、頼む。
前線で負傷している者たちを安全地帯まで避難させるために手を貸してはもらえないだろうか」
背筋が凍る、思考だけがただただ回り続ける。
増援部隊が到着するまでは戦線の回復は出来ないだろうし負傷者は増え続けるばかりだ。
ブロントヴァイレス狩りを行っている最前線に足を踏み込むということはもちろんそれなりの危険を伴う。
その中で負傷者を護衛し、安全地帯まで送り届けるということがどれだけ難しいかぐらい
戦闘経験が豊富なものでなくても容易に想像できる。
それを一番知っているはずの防衛軍が届くかもわからない通信手段を利用してまで
探究者に救護要請を送らなければいけないぐらい、戦線は疲弊しているのだ。
メッセージには詳しい戦闘中の位置と負傷者は14名だがこれからも増えるかもしれないという旨も記してある。
ただ、『行かなければならない』という思いだけが感情を支配する。
ほかに誰か見ていないか確認もせずに『レスニオン通信』のその周波数に
一言だけ『前線まで向かいます』と記し、空挺に乗り込むのであった。
解説
このエピソードはグランドプロローグ「崩壊の始まり」の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお「崩壊の始まり」にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
この連動エピソードの目的は負傷者を前線から避難させ、病院まで護送することです。
探究者様同士は現地で初めて出会う、という設定で話を進めさせていただきます。
現地で話し合うという状況になるため、長引きすぎると重傷患者の命にかかわるのでご注意ください。
現地に着くと詳しい被害状況を教えられます。
・負傷者は全部で20名、うち5名が助かるか分からない重傷患者である。
・護送用に15人乗り(運転手は別)の中型空挺を用意している。
・負傷者の中には手当てをするだけで戦える者も数名いる。
戦場とレーヴァテインの中間地点に「SU-22」と「SU-23」という二隻の病院船があります。
しかしここはパンク寸前のため重傷患者以外の受け入れは断られるかもしれません。
その場合は一度本国まで戻って病院を探す必要があるでしょうが、本国のほうも混乱や病院のパンクが予想されます。
手当てのみで前線に帰れるものを見極め、その場で治療してあげることも可能です。
治療が成功するかどうかは探究者の腕次第、といったところでしょうか。
本国周辺空域には混乱に乗じた空賊が略奪行為を目的として
護送用空挺に襲い掛かってくる可能性があります。
戦闘の準備も欠かさずにお願いいたします。
ゲームマスターより
お初にお目にかかります、じょーしゃです。今回初の執筆ということで緊張しております。
初作品なので僕自身にとっても思入れ深いものになるのではないかと思ってます。
さて今回のプロローグですが、探究者様の考えによって
どのような行動でもできるように幅を利かせてみました。
少しぐらい奇想天外な動きでも対応できると思いますので
じゃんじゃんプランに書き込んでください!
参加者の皆様に満足していただけるような作品を執筆できるように頑張りますので
どうか温かい目で見守っていてください……!
これからよろしくお願いいたします。
【隠れた真実】負傷者の護送 エピソード情報
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担当 |
じょーしゃ GM
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相談期間 |
10 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/6 0
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難易度 |
難しい
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/7/16 |
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俺は治療云々は知識がないからな…ま、怪我人を運んだりは出来るぜ… だか戦闘こそが俺の本職だ…護送用空挺に襲い掛かってくる空賊共は任せな… 俺の一撃を喰らわせてやるぜ…蹴りも殴りもお手の物ってな… 「護衛は俺に任せな…動けない奴は先に乗せて動けそうな奴は治療して戦いな…ま、逃げてもいいがな」
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参加者一覧
リザルト
言葉を失った。
こんな光景がこの世にあるなんて……とそう思うしかなかった。
『グリード ドレッドメア』は『レユニオン通信』内に残されたメッセージを読んでブロントヴァイレスとの戦闘区域最前線の上空までエスバイロでやってきたのだ。
その景色は想像していたものよりはるかに遠い、最悪の事態と言わざるを得ないような状況で、2mを超える彼の身長さえもちっぽけに映るほどあたりは広大な焼け野原でしかなかった。
その中にポツリ、と佇んでいる崩壊寸前の駐屯地から1人の男がこちらに向かって手を振っている。
きっとレユニオン通信にメッセージを残した張本人なのであろう。
グリードは駐屯地の傍らにエスバイロをとめ、その男のもとへ駆け寄る。
振っていた手を止めると男はすぐに顔をこわばらせ、名前も聞かないまま話し始めた。
「本当にすまない、礼を言わなければいけないところだが事態は一刻を争うのだ。
簡潔に現状だけ説明させてほしい。その後どうするかは君が決めてくれ」
言葉は続く。
「現在負傷者はちょうど20名だ。そのうち5人は命が危ぶまれるほどの重傷。
中には軽い治療だけで戦える者も数名いるのだが我々の隊は皆戦闘に出払っていて、治療の技術を持っているものがいないのだ……
すまないが、彼らを安全地帯まで護送してもらえないだろうか」
グリードは状況を理解し無言でうなずく。それを見て男は話を続ける。
「中間地点に『SU-22』と『SU-23』という病院船があるはずだからまずはそこへ向かってくれ。
そこまでの護送用に中型の空挺も用意しているから使ってほしい。
私は戦闘に戻る、すまないがよろしく頼んだぞ」
話し終えるとその男は自らのエスバイロに乗り込み、また戦闘へと戻っていったのであった。
時刻はわからないが自らの影は真下にあるだけで、太陽は高く登っていた。
それからすぐグリードは駐屯地の中に足を踏み入れる。
ずらっと並んだ扉の一つからうめき声とも話し声ともとれないような音が聞こえ、その扉を開けると数名が驚いたようにこちらを見る。
どうやら怪我人同士で軽い手当を行っているようで、包帯やハサミなどがあたりに散らばっている。
中には話に聞いていた通り手当が行き届かないほど大量に出血している者もいた。
戦闘に戻れる者もいるだろうがその誰もがこの世の終わりを迎えたような顔をしていた。
身体に受けた傷と共に精神的にもだいぶ参っているであろうことが容易にうかがえる。
その中でグリードは簡単に状況を説明しだす。
「今からお前らを安全なところまで連れていくが生憎定員がいっぱいなんだ。護衛は俺に任せて、動けない奴を先に乗せて動けそうな奴は治療して戦いな……。
ま、逃げてもいいがな」
そう言って負傷者を中型空挺に乗せ始めようとしたとき、遠方から爆発音が聞こえた。
きっとまだ激しい戦闘があっているのだと思っていると後ろのほうからポツリ、と声が聞こえる。
「すいません、僕、戻ります」
聞き返してしまうほどにか細い声だった。
しかしその内に何か秘めた思いを感じさせるような声だった。
「僕は戦闘に戻ります」
見た目は15歳ぐらいの少年が何か所も骨折しているのであろう手を押さえながら発した勇気は、他の折れた戦士の心に再び火を灯させるには十分だっただろう。
「俺も戻るよ」という言葉があたりから聞こえ始める。
怪我人を空挺に乗せ終わる頃には6名の戦士が傷を負いながらも前線へと帰っていった。
「あれだけ怪我をしながら戦おうとする奴は嫌いじゃねぇ、
そういう奴は最後まで生き残るだろうな」
そうつぶやいた後、空挺の運転をもう一人の助っ人である『ノエル=ウォーロック』という少年に任せ、
自分は乗ってきたエスバイロ、マクガイアM29「バイコーン」に乗り込む。
灰色地の赤や黒が染み込んだコートをなびかせながら、まずは目的地である病院船に向かって飛び立つのであった。
道のりはさほど荒れた様子でもなく、空賊や敵対しそうな生物に出会うこともなかった。
病院に着くと予想していた通りのあわただしさで職員が行ったり来たりを繰り返している。
護送用空挺を病院の屋上に停め、重傷者の搬送を急いだ。
幸い病室は空いているそうだが重傷者を優先したいという理由で病室を空けねばならないため動けるものは入院できず、最終的に命が危なかった5人を受け入れてもらうことが出来た。
「次々と患者が運ばれてくるもので……申し訳ない、私たちもこれで精いっぱいなのです。
治療可能かを診るのでもう少し時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
医者が申し訳なさそうに語るので軽く礼を言っておく。
「仕方ねぇだろ、受け入れてもらっただけありがたいと思ってるよ」
「申し訳ありません……ではしばらくお待ちください」
そう言って、医者は足早に集中治療室に向かっていくのであった。
医者が戻ってくるまでの間グリードは最前線の風景と戻っていった戦士たちを思い出していた。
その命を賭して戦っている者がこの世界にはたくさんいることを知った。
あの場所では子供も老人もみな等しく誇り高き戦士であるのだと、そう感じていたのだ。
そう考えている間に医者が戻ってくる。
しかしその表情は固く、なにか冷たい印象を感じた。
医者が淡々と話し始めると、その予感が当たっていることに気付く。
「大変申し上げにくいのですが……3名、命は助からないと思います。
傷が深く大量に失血したようです。応急処置が間に合っていればよかったのですが……
本当に、残念でなりません」
何も言うことが出来なかった。
自分に応急処置の心得があれば救えた命かもしれないと思うと心が痛む。
『狂龍』のグリードとして何人もの相手をぶちのめしてきたが、ぶちのめして、それだけだった。
こういう事態に立ち会って初めて命の大切さがわかった気がした。
だから何も言わず、何も言えず、ただ病院を後にする。残りの負傷者を送り届けるために本国を目指して。
空挺に乗り込むとき、先ほどまで青かった空は鉛色に染まっているのであった。
本国まであと数kmというところでグリードは何者かが後をつけてきているのに気付いていた。
そのため運転席のノエルに遠回りになるルートを行くようお願いしたがやはりその何かの気配は消えない。
しかしこれといった攻撃も受けることはなく本国の空港上空に到着する。
(街の中はこの空挺じゃ動きにくい、一度ここで降ろすか……)
そう考えたグリードは空港の一区画に空挺を停め、負傷者に現状を伝えるため扉を開こうとした。
その時だった。背後から発砲音が聞こえ、その刹那弾丸がグリードの右頬をかすめる。
攻撃が来た方向にまだ姿は見えないが音が近づいてくるのがはっきりとわかる。
きっと本国到着前に後ろをつけてきていた奴だろう。
「俺はここにいるぞ! どんな奴か知らねぇが出てきやがれ!」
そう叫ぶと同時に雲の切れ間から相手空挺が見えた、空賊だ。
目視できるだけで3機、まだ後方から数機が現れるがそんなものはどうでもいい。
「全部ぶっ潰せばいいんだろう……? 簡単じゃねぇか」
空港に相手機が着陸する。
すると空賊の長らしき人物がこちらを嘲笑うように話しかけてくる。
「おや……あなたは『狂龍』のグリードさんではありませんか、
どうしてあなたのような喧嘩屋が戦闘の最前線なんかにいらっしゃったのですか?
軍隊に入った……なんて訳ありませんよね?」
「どーしても来てくれっていうオッサンがいたからただ助けに行ってやっただけだ、勘違いするな」
やれやれといった様子で長は護送用の空挺を指さす。
「ほう……まぁ私達としてはその空挺に乗っている荷物を頂ければそれだけでいいんです。
この人数差です。そうするほうが懸命だと、私は思いますけどねぇ」
握手を求めて長が近づいてきた。
グリードは迷いもなくその顔面に渾身のナックルを叩きつける。
肉の下で骨が折れる音が聞こえ、後方に吹き飛んだ長は痛々しく地面にその背中をぶつける。
「お前らにかまってる暇はねぇんだよ、全員まとめてかかってきやがれ!」
そう叫ぶと相手の短剣使いが一斉に襲い掛かってくる。
その数は3人。馴れた手さばきで腹、顔とナックルを浴びせていく。
いくつか短剣のかすり傷を負う形にはなったものの、
筋骨隆々の体から繰り出される攻撃は確実に相手の意識を削り取っていくのだった。
倒し切った後、息をつく間もなく後方支援のガンナーがこちらを狙撃してくる。
逃げ場を失ったグリードは銃弾を浴びながらも空港の建物に向かって走る。
建物の壁に付き、その次にグリードが取った行動はそこにいた誰もが驚愕するものだった。
「さすがにこれは出来ねぇだろう……なぁ!」
建物の壁を思いっきりぶん殴る。
拳の力とは思えないほどの破壊力で壁に穴が開く。
「建物の中ならご自慢の銃も一気に宝の持ち腐れってな!」
建物の中に逃げ込んだグリードは相手ガンナーを迎え撃つために、柱の陰に隠れる。
追いかけて入ってきたガンナーの気配に気づくと息をひそめて自分の攻撃範囲に敵が来るのを待つ。
一歩、また一歩と近づいてくる足音が自分の近くに来たのを感じた瞬間にグリードは飛び出した。
相手のこめかみにナックルが刺さると、驚いたような声を上げて崩れ落ちていったのであった。
「俺に勝とうと思ったのがまず間違いだな、それにしてもあっけねぇ……」
赤く染まるグリードのざんばら髪が夕焼けに照らされていっそう赤く見える時刻になっていた。
一通り空賊を処理し終えて護送用空挺に戻るとノエルが空いている病院を調べてくれていた。
後は負傷者をその病院に送り届けるだけである。
そう決まると行動は早く、自らの怪我には目もくれず病院に向けて飛び立ったのであった。
病院側もすぐに治療が出来るように器具を用意していてくれたらしく。
空挺が到着するとすぐ負傷者の治療が始まった。
「ありがとうございます」とところどころから声が聞こえてくる。
どうやら命にかかわるような怪我をしている人はいないらしく、全員が復帰可能らしい。
「ほら、あなたも怪我しているじゃありませんか、早くこっちへ」
と医者が話しかけてくる。
「俺はいいんだよ、早く運んできた奴を治療しろ」
と一言だけ残し、病院を立ち去るのであった。
この後はまた喧嘩と破壊の生活に戻るのかもしれない。
ただ命をかけて戦うものの姿と、命を落とした者の姿を見て命の重みを感じたグリードは、
「少しぐらいは手を抜いてやっても、いいかもな……」
と、そうつぶやいたのであった。
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