プロローグ
先日、探究者達によってトレジャーアイランドという巨大浮島の大規模捜索が行われた。
かの地では様々な冒険と発見があり、その報告に各旅団に生活する市民は色めきを隠せなかった。
中でも人々を騒がせたのは多量の『フラグメント鉱石』が発見されたというニュース。
それも当然だろう。
はるか昔から空に浮かんでいるこの大型飛空艇は、フラグメントエネルギーによってあらゆる生活必需品を内部で生産するという構造で出来ている。
裏を返せば、フラグメントが無ければあらゆる部分で生活に支障をきたすとも言えるだろう。
長きに渡って航行を続けてきた各旅団船の資源は既に底が見えて始めてしまっていることくらい、この世界の人間であれば薄々感づいているはずだ。だからこそ、探究者という存在が生まれたのだから。
そしてその探究者が見事使命を果たして見せたのだ。これほど喜ばしい事はない。
そんな発見から少々の日数を経た現在では、七大旅団の協議によりそれぞれ住民の生活情勢にあった資源が必要な場所に配分され始めていた。
勿論、これで全ての資源問題が解決するとはいかない。だが、巷でガソリンスタンド等と称されるエスバイロの燃料補給施設からは『給油は停止しております。ご迷惑をおかけします』という紙は消え去った。
人々の生活は確かに向上したのだ。
それは一時(いちじ)の延命処置に過ぎないとはいえ、落下の恐怖を持つ彼らに一時(ひととき)の安寧を与えてくれる。
「よ~し、それじゃ明日はドライブにでも行こうか」
「わーい! 父ちゃん休み取れたんだね」
「パパ、私カンナカムイに遊びに行きた~い!」
「ちょっとアナタ。本当に大丈夫なの?」
「ああ。今回の発見は久しぶりの大発見だったからな。俺達みたいな二次エネルギー業者だってこんな時くらい休んだって罰は当たらないだろ? それにこいつらにも全然構ってやれなかったしな」
ある探究者の側を、そんな会話が通り過ぎていく。
男女の夫婦に子供が2人。母親の遺伝子が色濃い男の子と、父親の特徴を受け継いだ女の子。
よくみる家族のカタチだ。
別に聞きたくて聞いたわけではないが、会話の内容から察するに父親はこのところゆとりのある時間を過ごしていなかったのだろう。
それは、考えてみれば当たり前だったのかも知れない。
黒い龍の襲撃を少ない被害で乗り切れたとはいえ、それは旅団の存亡をかけた総力戦であったのだ。
武装に、飛空艇に、通信に……これまでに残されていたフラグメントは惜しみなく消費されたに違いない。
その穴を埋めるため、電力の安定供給から始まる各種ライフラインの運用に従事する人々には相当の負担がかかっている。
そんな現実が垣間見えた気がした。
「……さて、行くとするか!」
だが、こうしてフラグメントを見つけ続けさえすれば、きっと未来は開けて行けるのだ!
そう自分自身を奮い立たせ、ある探究者は依頼主が指定した場所へと向かう。
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今回ある探究者が受けた依頼は、レーヴァテインの街外れに1人で来ること。という何とも不可解な内容であった。
しばらくそこで待機していると他の探究者が1人、また1人と集まって来る。
ある程度の人数まで集まると突然男が姿を現した。
「来て下さってありがとうございます。こちら、依頼の報酬です」
恐らく依頼主であろう。
フードやマスクで顔は判然としないものの、その深い紺色の瞳は妙に脳裏へと焼き付いた。
大した内容でもないのに通常の報酬が出た事に疑念を感じた探究者が依頼主へ目的を尋ねる。
「その質問を待っておりました。実はここからが本題なのです」
彼は用意した小型端末を探究者達に配布する。
「それを左手首に巻いて下さい。巻き終わりましたら自動で端末が起動します。アニマにもアクセスを承認させて下さいね」
各自迷いは見せるものの、報酬を受け取った以上依頼であることに変わりはない。
腕時計の様に装着しアニマの承認を経て端末が起動すると、視界上に地図が映し出される。
そこはレーヴァテインのフラグメント貯蔵庫の1つであった。
「単刀直入に言いましょう。貴方達には私の計画に協力して頂きます」
そう言いつつ、依頼主はフードに付属したマスク部分を外す。
それまで目元だけしか確認出来なかったその頬には、三日月の刻印が掘られていた。
微笑みを向けるその顔にうっすらと見覚えがある探究者は問いかける。
お前は誰だ? と。
「私の名は、そうですね。クレッセント……【クレゼ】とでも呼称して下されば」
明らかな偽名だろうが、それ以上の回答は得られそうにない。
探究者達がそれを理解したことを悟った彼は一方的に話を進める。
「この顔は皆様から言えばお初にお目にかかるものでしょうね。本来私と貴方達は剣を向け合う存在として交わりこそすれ、こうして依頼関係となる事などあり得ない……だが、今回は少々事情が事情ですからね」
彼は肩を竦めて見せるが、とても残念がっているようには見えない。
「私からの真の依頼は、この倉庫にあるフラグメント鉱石を持ち出す事。それも出来る限り多量にね。おおっと、そんな怖い目でこちらを見つめないで下さいね? 盗みなんて気が進まないお気持ちは察してるつもりですから」
探究者達の抗議を封じるかのように、クレゼは人差し指を口元に突きつける。
男か女か、はたまたその顔すらも本物ではないのか。掴み切れない存在に困惑は深まるばかりだ。
「皆様にお見せしているのは、ここからおよそ50km先にある4階建ての倉庫の外観です。外部内部共に、常に多くの警備兵が巡回しています。気を引くなり、見つからない様に移動するなりやり方はお任せしますので、彼らに捕まる事無くここへ持ち出したフラグメント鉱石を運んで下さい。本来貴方達はそのような違法行為に及ぶことなど許されるはずもありませんが……その時はその腕輪を調べさせてください。きっと納得してくれるでしょうから、ふふっ」
そんなハッキリとしない言い回しに苛立ちを感じる探究者はその怒りをぶつける。
「欲しがりさんですね~。良いでしょう! タネを明かしてしまえば、その腕輪は爆弾としての機能を備えています。つまり私の意思1つで貴方達の腕は体から旅立ってしまうのです。騙され脅されたといい訳すれば、理解を示してくれるでしょうね? ですがそこまでの心配は不要ですよ……先程も述べましたように、今回は特別。貴方達にばかりリスクを背負わせるのはフェアではありませんから。私もリスクを負いましょう」
彼はニヤリと口元を歪ませると、突然腕輪のロックを解除したのだ。
探究者達の足元には手のひらに乗るような爆弾がいとも簡単に転がり落ちる。
「作戦の決行は今から24時間後。明日の夜1時からとさせて頂きます。その時その端末を装備していた者には、倉庫の内部詳細情報に潜入ルートや脱出ルート、仲間との通信網確保までこの私が用意致しましょう。ふふっ、至れり尽くせりですね~。あ、ちなみにそれを軍に突き出して解析すれば当然こちらの動きは筒抜けです。あー怖い怖い」
彼は寒さに震えるように、己を抱きしめる形で二の腕を上下に擦る。
そんな冗談臭い仕草を終えると、真剣な表情で彼は向かい合う。
「貴方が世界を救う事よりも誰かを救う事に魅力を感じられるのならば……この話、後悔するような事はないと、私は思っておりますよ?」
それだけを言い残しクレゼは姿を消してしまう。
月が一周回る頃、貴方が選んだ選択は如何に?
解説
※【TI】とエピソードタイトルに付いた物に関しては『必ずしも自分が参加した大規模作戦に関連するシナリオにしか参加できない』わけではありません。
このエピソードに関しても大規模作戦とは異なるノリやプランを書かれていても構いません。
大規模作戦に関連したエピソードとはいえ、時間軸的には大規模作戦より少し間が開いておりますし、あくまで一GMのエピソードですので、上記の注意文はあまり関係ありませんが一応連動という形でやらせて頂きます!
皆様の活躍により大量のフラグメント鉱石が発見されました!
きっとここから未来は前向きに進んでいくのだろう! ……という流れの中こんなエピソードが生まれてしまいました。
今回はクレゼと共に倉庫へと侵入、フラグメント鉱石を盗み運搬して頂きます。
クレゼは盗みに造詣が深いようで、実行から15分もあれば計画は完了すると言っています。
この計画に参加する場合は、信頼の証として爆弾機能つき端末を腕輪として装着して頂きます。
その代わり倉庫の警備状況等はクレゼが把握し教えてくれますので、そちらはほぼ皆様の思った通りになると思います(これをメタ的に訳せば、潜入アクションでやってみたいプランをご提出下さい、となります)。
ちなみにクレゼも盗みの現場におりますので、人手が必要であれば基本的には自由に使えます。
また今回クレゼは皆様に信用されるために敢えて腕輪のロックを解除しました。
彼を信頼するに値しないと思えば、腕輪を用いて計画をレーヴァテイン軍に内通する事が出来ます。
その場合警備担当【ガズバ】の部隊・警備システムと共に、盗みに来たクレゼとそちらに協力した探究者と戦う形となります。
PC同士戦闘になった際は、現在のゲームシステム都合上装備は参考程度とし、プランとGM都合で判断し勝敗を決める部分も出てきます。
あらかじめご了承下さい。
とっさの裏切り、埋伏の毒等は自由ですが配分にはご注意下さいませ。
ゲームマスターより
プロローグに興味を持って頂きありがとうございます。
私のエピソードに関する注意点は個人ページにございますので、お手数ですがそちらをご覧下さい。
リニューアル大攻勢、無料期間が伸びましたので死ぬ気で頑張ります!
どこまで出せるか分かりませんが是非こちらと幻カタの世界をまだまだ見守って頂ければ幸いです!
さて、皆様はどれくらいエピソードに参加して頂けたでしょうか?
折角の無料機会、お手隙の際には色々なGMのエピソードに参加する事をお勧め致します。
どのGMが皆様の琴線に触れるエピソードを書けるかは、やはり一度参加して頂けないと分かりません。
例えその一度が酷くとも、エピソードの題材が違えば同じGMでも参加して良かったと思える時もあると思います!(GMとの相性、というのはどうしてもありますが汗)
皆様とGM側と二人三脚でこの世界を深められたら幸いです。
それでは、リザルトにてお会い出来る事を楽しみにしております!
【TI】宙に舞う 山吹視せる 夢の路 エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
5 日
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ジャンル |
サスペンス
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/28
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難易度 |
普通
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報酬 |
多い
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公開日 |
2017/11/07 |
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フラグメント鉱石…ふふふっ…しかも大量… これはいくつか頂いてカンナカムイに持ち帰っちゃおう… それと何個かは何処かで売っぱらってお金に… とと…他の探究者達にバレたりしない様にちゃんと何個かはクレゼだっけ…あいつの所に持って行って… それとあー…警備側に私がアカディミアの生徒だってバレたらマズいしちゃんとほっかむりを被って…服装は制服の上にローブでも羽織って… よし完了…名前は…名乗る必要があるなら【怪盗プラーラ】でいいか… ふふふ…待ってなさいよお金…じゃなかったフラグメント鉱石…!! あ…でももし警備側に捕まりそうになったら隠れて変装を解いてここに迷い込んだアカディミア学生のフリをしよう…
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目的 潜入する人の援護 心情 潜入は他の人がやってくれるっぽいから、警備の人とか軍側の人の錯乱を担当しようか ふふふー何しようかな 行動 邪魔するための道具を持ってこー! 縄でしょ?ライトでしょ?あとネズミ花火!エスバイロに植物を詰め込んで準備万端! 夜が更けたら行動開始 ライトで暗明転の目くらまし!それとネズミ花火のコンボ!この隙に潜入してくれたらいーけど… 縄は輪っかの形にしてカウガール! 近付いて来る人には準備しておいた植物に成長促進剤加えて驚かしちゃえ! 錯乱はこんなもので十分かな?あとは時間稼ぎ!ラビッツ!エスバイロ用意して行くよ!突進ー! 怪我したらファストヒーリングあるから大丈夫!大丈夫!当たって砕けよ!
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【目標】 ガズバ隊に協力、F鉱石盗難&運搬を阻止 【事前に】 念のため、担当のガズバ氏について調べる 【行動】 腕輪のデータをガズバ氏に提供、相手を追い詰める 向う側の探究者にはあえて触れないでおくね 後、ガズバ氏に他部隊から増員しないか聞いてみようかな 倉庫内はまちぶせ提案、ルートを信じるか否かはガズバ氏にお任せ 外では照明弾をバンバン打ち上げるよ 周囲からも注目されるよう、なるべく派手にいこう! 【こんな事もあろうかと】 予め、気嚢植物の苗を持ち込むよ 小型パラシュートの中に入れて、スキル「生長促進剤」 化学忍法『パラ風船の術』 装備して、空へ逃げた賊を追跡だ! 【知人】 お初なのは、プララさん、オクセンさん、シンさん
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蛇上 治
( スノウ )
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ヒューマン | マッドドクター | 25 歳 | 男性
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【目的】盗みの妨害 【行動】腕輪を持っていきレーヴァテイン軍に計画について話す プロローグで見かけた他の探究者の情報も分かる範囲で話しておく 現場ではガズバの部隊と協力して行動 撃破ではなく鉱石を守ることを優先 腕輪をしている者の動きは腕輪を解析すればわかるらしいが、クレゼは腕輪をしていないだろうから動きが把握できないので特に注意 煙幕や照明を落とす手が使われる可能性を考え用意できるならマスクや暗視ゴーグルを用意 戦闘ではガズバの部隊のサポートを行う ファストヒーリングで最もHPの減っている者を回復 毒や麻痺状態の者がいたらメディポイズンやメディパラライスで回復 回復の優先順位は麻痺>毒
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ミクシィ
( ミヤビ )
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デモニック | マーセナリー | 20 歳 | 女性
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クレゼさんの言う通り、手伝うこととしましょう。 私は力がありますから、運搬等を主な仕事として行うこととしましょう。 細かい作戦内容等は他の皆様にお任せ致します。 裏切る予定もありませんので。 立ち塞がる方に関しては、命を取らない程度で倒させて頂きますの。 運搬時は足元や、台車みたいな道具を使う場合は障害物等にも気を付けて慎重に運びましょう。 クレゼさんの真意はさっぱりわかりませんし、知ろうとも思いませんが、受けた依頼は依頼です。 きちんと遂行し、後の不都合は後で考えれば宜しいのではないでしょうか? アニマのミヤビちゃんに関しては、私のサポートを主に手伝って頂くことに致しましょう。 息ぴったりの連係プレイで♪
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あいつ(クレゼ)はいったい何を考えているんだ……? ただ単に鉱石が欲しいだけなら腕輪で脅し続けるほうがいい。 なのに味方をするも敵になるも自由。そして何よりも最後の言葉。 とはいえ協力する理由はない。正義があるとしたらレーヴァテイン軍側にある。 だが、もし協力するに価する理由があれば―― 基本的には腕輪をつけずレーヴァテイン軍側にいて盗みに来る人と対峙。 高所からスナイパーの能力を生かしての索敵や狙撃を中心に。 目立つと目的を果たせなくなるので隠密に行動し、とにかく周囲の情報を集める とはいえ目的といえどレーヴァテイン軍側に落ち度はないので、取られる鉱石は最小限に もしクレゼが確認出来たらそちらへの対応を追加。
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シン
( 風子 )
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ケモモ | アサルト | 19 歳 | 男性
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まあ、一度受けた依頼だし、何やら事情もありそうだ。 そんなわけで盗みに入るけど、警備員がいるなら、警備員に扮装しよう。 クレゼさんは警備員の服持ってない?ないなら適当な警備員気絶させて借りるけど。 警備員として堂々と入って、こっそり持ち出させてもらおう。とっさに他の人のサポートもできそうだ。 盗む計画がバレてるなら、逆に「盗まれる前に保管場所を移すことになった」という事にして堂々と持ち出せるかもしれない。 失敗したら盛大に暴れながら逃げよう。 こっちに目を引いて、戦力を集めたら、他の人が盗みやすくなるだろうしね。 盗むまでは依頼だからやるよ。 ただ、盗んだものを引き渡すかどうかは、詳しい事情を説明してからだ。
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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●事前 クレゼさんにもらった端末と自分の端末をリンクさせておいて 警備体制、位置情報、鉱石の情報などを アニマのゆゆゆに常時監視してもらいますのです ●怪盗まゆゆ ゆゆゆに警備員さんの位置や、鉱石の場所を教えてもらいつつ センシブルも使用してミッションに挑みます 警備員さんはもちろん 仲間の人にも姿を見られないよう気をつけながら鉱石を集めますですね 鉱石を見つけたら、いちどに運ぶ量は自分が普通に動ける範囲の重さにして 集める場所とを何度か往復する気持ちでいきますですね 鉱石はオレンジ色っぽいのを狙って質を上げていくのです-! ●戦闘 できるかぎり回避していくのです みつかったらバグレターで足止めして、その隙に逃げるのです
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参加者一覧
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蛇上 治
( スノウ )
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ヒューマン | マッドドクター | 25 歳 | 男性
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ミクシィ
( ミヤビ )
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デモニック | マーセナリー | 20 歳 | 女性
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シン
( 風子 )
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ケモモ | アサルト | 19 歳 | 男性
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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リザルト
●作戦前の裏話
午前1時の十分前に依頼主であるクレゼは現れた。
「おおっ、これはこれは。意外と来て下さいましたね」
「まあ一度受けた依頼だしね。取り敢えずはこなしてみせるさ」
クレゼの呟きにうさぎ耳ケモモの【シン】はそう答えた。
「それにしても、僕以外は皆やる気満々って感じだね。特に君とか」
「わたしですか?! 今回は泥棒のお仕事ということで形から入ってみたのですが……何か変でしたでしょうか?」
シンの指摘に驚きの声を上げる【まゆゆ】。
かくんと首をかしげる仕草は外見相応の可愛らしさであるが、薄緑のレオタードに身を包んだ彼女は腰に大きなリボンを結び付け、右目にはお気に入りのモノクルを装備。おまけにマントまで羽織っている。
「実用性と見た目を詰め込んでみましたのですー! みなさまも一緒にどうです?」
「僕は遠慮しておくよ」
「そうですかー……」
「まゆゆちゃんは可愛いけど、ワタシも厳しいかなー。背中の羽とか引っかかっちゃいそうだし」
シンだけでなく【アリシア・ストウフォース】も残念そうに答えた。
彼女はデモニックの身体的特徴である悪魔の羽がしっかり生えている為、着る服も特注の場合が多い。
今日もいつもの白衣に身を包む。
「そういう事でしたら今度デモニックに優しい服飾店をご紹介致しましょうか? いくつか心当たりがありますの」
「え、本当ー!? 【ミクシィ】さんありがとう!」
「いえいえ。同族の友人ですもの、私に出来る事であれば協力させて頂きますわ」
アリシアにミクシィと呼ばれた女性は、小さく微笑みを浮かべた。
そのお淑やかな佇まいはどこかのお姫様の様に気品が溢れるが、彼女の本職はメイドである。
ちなみにそんな彼女は漆黒のボディースーツで全身を包まれていた。
ぴっちりとしたその服は身体のラインがはっきりと出る代物。彼女のグラマーさもあって、かなり刺激的だ。
(あれ、私って割と恐ろしい所に飛び込んでいるんじゃ……)
これから盗みに入ろうというのに和気合い合いとしている4人を見て【プララ コンデストア】は内心動揺していた。
彼女はアカディミアの第三学区に所属する学生で、友人には運動が大好きでちょっと勉強が苦手なごく普通の女子高生として知られている。
そんないたいけな少女が悪さを働こうというのだ、流石にそのままではマズいと紺色のほっかむりを被り、自分の制服の上にローブを羽織ってきたはいいものの……これではここにいる集団が、仮装パーティーへ繰り出そうとしているように見えるではないか!
身分をバレないようにするためとはいえ、自分が一番変な格好をしていると思っていた彼女には衝撃的すぎる展開であった。
「さて、皆様大分打ち解けられたようですね。そろそろ本題に移っても?」
クレゼの問いに、探究者達は先程までが嘘であつまたかのように静まり返る。
「まず私に協力して下さるという証を」
探究者達は各々手を前に差し出す。
そこにはクレゼから事前に配られていた爆弾内臓の腕輪がはめられていた。
「ありがとうございます。それでは……」
クレゼが指を鳴らす。
すると腕輪に、今回盗みに入る倉庫の映像が映し出された。
「これが今回の作戦エリアになります。皆様がご歓談されている間に、それぞれの配置と役割分担、行動ルートを準備させて頂きました」
映像上では、各探究者の名前が書かれたアイコンと説明文、何処を通れば良いのか道筋が光っている。
「私は突撃役かー! オッケー、皆が侵入しやすいように頑張っちゃうよー!」
「アリシアさん宜しくなのですー! わたしは4階から侵入して3階に行けばいいのですね! 怪盗まゆゆの雄姿をご覧あれなのです!」
「私は……2階で待機し集められた鉱石を運搬する役ですね」
「私も2階だね。宜しくミクシィさん!」
「プララさんでしたか、宜しくお願い致しますわね? ふふっ」
「そして僕は1階、戦闘と陽動……いいね。嫌いじゃないよ」
最後にシンの笑顔を確認すると、クレゼは話を続ける。
「言い忘れていましたがここには5名の探究者様しか来て頂けておりません。つまり……」
「恐らくこの計画を警備側に伝えた探究者がいる、って事だよね?」
シンの問いかけに頷くクレゼ。
「作戦中決して腕輪を外さぬ様……お願い致しますね?」
クレゼが不敵に笑うその瞬間。
午前1時を告げる鐘が鳴る。
「では、作戦開始です」
●泥棒の心得~派手なかく乱~
「なるほど~。この腕輪を起動してると、向こうの音声と情報は筒抜けなんだね」
腕輪を装備していた【アクア=アクエリア】は、感心したように首を縦に振る。
そしてオープンモードで起動している【フォブ】と共に振り返ると、ウインクをしながらこう言った。
『これが証拠ですっ!』
それはクレゼ達が狙う施設の警備担当【ガズバ】に向けられたものであった。
「確かにお前達が言う事は本当らしい。まさか探究者が盗みに加担するとはな……結局どいつも、人間ってのは本質は変わらねぇのかも知れないな」
彼はかつて空賊の頭領だった時期があり、レーヴァテインのある食糧庫を襲った際、探究者によってそれを阻まれ改心するきっかけを得た。
どんな理由があろうと盗みは盗み、してはならない事だ。
そう諭した者達と今回盗みに加担すると見られる探究者達は別の人間であるが、彼にとっては一括りの『探究者』。もどかしい思いが胸に渦巻いていた。
「クレゼに加担するのにはきっと考えがあるのでしょう。私やアクアさんの知人もあちら側についていますが、その人達は決して根っからの悪人ではありませんから」
【蛇上 治(へびがみ おさむ)】が彼を励ますように声をかける。
「そうそう! ボク達も頑張るからさ!」
「あくあんと治兄ちゃんを信じてよ~ガズバ兄ちゃ~ん!」
「うおっ? アニマが急に主人以外に纏わりつくな!」
「こらフォブ! ダメだってば~?!」
ガズバがフォブのイメージ映像と揉み合っている所に、突如ネズミ花火が投げ込まれる。
「いやっほー! 【ラビッツ】、他のもどんどん投下しちゃえー!」
(うう、こんな事に使うなんて聞いて無かったよー?!)
それはアリシアがエスバイロ上から投下した物であった。
昨日一日様々な道具を検索させられていたのが、まさかそれが盗みの手助けをするためだとは思ってもみなかったアニマのラビッツ。
半泣き状態であるものの、主人の命令には逆らえない。
(あうう……アリシアが悪いご主人様に……下の皆さん、ごめんなさぁぁ~いい!!)
アリシアはネズミ花火や煙幕玉を倉庫周辺の至る所に投下。同時にエスバイロで手あたり次第の外付け監視カメラを破壊する。
彼女の過ぎた後には煙と火花が残されていった。
「げほっげほっ。まさかアリシアさん?!」
「ゴメンねーアクアちゃん! でも、在庫がなくなるまでどんどんいくよ~!」
「大丈夫ですか? これを使ってください」
煙を吸ってせき込むアクアに、蛇上が予備のガスマスクを装備させる。
彼はこのような事態を想定しマスクを持参していたのだ。
蛇上のアニマである【スノウ】は、煙に麻痺や毒の成分がないか確認する。
(この煙、本当に視界を奪うだけのものみたいね。……ねぇ治。どう思う?)
「相手は同じマッドドクターのアリシアさんだ……まさか人の命を奪う事はないだろうし……普段と変わらないあの口調、彼女は本気で戦いに来たわけじゃなさそうだ」
(くふふっ。なら、目的はアンタ達へのご挨拶だけなのかしら?)
「分からないな。だが、アクアさんの腕輪に表示されている人物がここへ来たんだ。内部の警備に移った方が良いだろうな」
思考を働かせ、いち早く危険を察知した蛇上は急ぎ屋内へと向かった。
それに気づいたアクアもその後を追う。
一方、煙から逃れたガズバも奇襲で混乱する警備兵達を統率し始める。
「落ち着けお前達! A班、地上の監視ライトで奴の動きを抑えろ!」
『了解!』
「きゃあっ!?」
突然自分を照らす強い光に思わず目を瞑るアリシア。
その妨害工作は中断させられる。
「次、B班照明弾放て! 煙幕に隠れてる侵入者を探せ!」
『はっ!』
次々と打ち上げられる照明弾によって、倉庫一帯は所々昼間になったかのような明るさに包まれる。
照明弾を打ち上げる場所は、腕輪のデータを分析したアクアの提案によって決められていた。
「ちっ、あの煙幕女の姿しか見えねぇか! ……ということは、既に侵入された?! 警備兵、屋内の警備を固めろ! 奴らが来るぞ! 屋外の者は屋内へ移動だ!」
ガズバの指示に従い、正面入口へと向かう兵士達。
だが、目をつぶったままエスバイロを運転するアリシアが突撃してくる。
「運転だけならアニマでも出来る! という事で邪魔はさせないよっ!」
彼女はスキル【成長促進剤】を打ち込んだ植物の苗を兵士の前に多数投下する。
急激な成長をする植物は近くの植物と絡み合いツルの壁を作り出す。
それは兵士にとって微妙に邪魔くさかった。
「外の時間稼ぎはワタシが頑張るから……中の皆も頑張って!」
●泥棒の心得~変装~
アリシアの煙幕投下と同時に一階正面玄関へと走り込むシン。
腕輪の情報を確認するアニマの【風子(ふうこ)】から、警備情報のアナウンスを受ける。
(シンさん~。正面入口に兵士が2名と~、1階屋内には10名を超える人数が配置されていますよ~)
「了解。まぁ、こっちの場所は向こうにバレてるわけだし、その辺りはあんまり気にしても仕方ないかもだけど」
(ですね~。とはいえここでは隠れる事も出来ないですから~、なんとか中に入ってしまわないと~)
「分かった。つまり中に入って全員ぶん殴れば良いって事だ」
(あ~、脳筋らしい良い回答ですね~。ですが今回ばかりは同意です~)
気だるげなアニマの了承も得た彼は、煙に紛れるまま正面玄関の兵士に接近。
装備していたナックルで気絶させる。
「おし、それじゃあちょっと失礼させて貰うよ」
シンは気絶した2人を物陰に隠すと、その内の1人から警備服とヘルメットを拝借する。
「風子、入口のパスコードは?」
(えっと~、3387だそうです~)
「……お、開いた」
無事侵入を果たしたシン。
彼と一緒に黒煙が屋内に入り込み、兵士達は身構える。
「後は分担通り、僕はここで各階の警備員をなるべく外へ誘導するのが役目か……よし!」
シンは深呼吸をすると、一声こう叫ぶ。
「敵襲だ~! 皆、外の奴の対処を手伝ってくれー!」
兵士達には煙に紛れるシンの姿は見えていない。
しかし、煙の中にクレゼの仲間がいるのは間違いない情報だ。
まずはそいつを捉えようと一階の警備員達は次々と煙の中へ突入していく。
「おっし。それじゃ後はシャドーボクシングならぬスモークボクシング……ってねっ!」
シンは煙の中で、警備兵達を次々と気絶させていくのであった。
●泥棒の心得~表と裏の顔~
「合図ですわね」
腕輪からシンの雄叫びが聞こえてくる。
それが聞こえたら、2階の指定された場所の窓から侵入するのがミクシィとプララの役目であった。
太陽光を取り入れるためか、そこには大きめの窓があった。
その側には、警備システムに感知されないようジャミングが施された貨物運搬用の小型艇がある。
「おっ! ミクシィさん! 窓のここ、道具で切り込みが入れてあるよ!」
「ありがとうございますプララさん。では、行きましょうか」
事前に小型艇と共にクレゼが用意していたのだろう。
丸く傷をつけられた窓はプララが蹴りつけるとすっぽりと穴が開く。
2人は自前のエスバイロと小型艇をロープで結び付けると、それらをそこに残して屋内へ侵入する。
「んっ……ふっ……」
(うぅ……ミクシィさんの胸とお尻が通り穴に少し……なんか、えっちぃかも……)
「ふぅ。なんとか通れましたけれど、帰りはぶち破った方が良いかもですわね」
「う、うん。その方が色々引っかからなくて良いんじゃないかな?」
プララは頬をかきつつそう答えた。
そしてミクシィは自身の周囲を確認する。
「どうやらここは業務用資材庫の前ですわね。私はここで台車などの用意をしますから、プララさんは奥の第2倉庫から鉱石の回収をお願い致しますわ」
「オッケー! 任せて任せて!」
ミクシィに運搬に必要な準備を任せ、彼女は腕輪の指示に従い第2倉庫へと向かう。
シンの陽動に敵はひっかかったようで、当初予想されていた警備員の姿はない。
(これでも一応軍の施設なのに、ドアロックは無効化され人的障害も無くすとは、この手際の良さ……あのクレゼって人ただ者じゃないわね)
(どうしたんすかプララ? 何か難しい顔してるっすけど、ドアのパスコードなら腕輪の映像に表示されてるっすよ)
「なんでもないわよペトラ。ただちょっと、うさん臭いアイツに私と同じものを感じただけ」
彼女の心の声まではアニマには聞こえない。だが【ペトラドロギア】はプララの表情からその心情を察していた。
主人のやる事に付き合うのは面倒くさがるタイプのペトラだが、今回の仕事は金になる。その思いから今回は彼女も積極的だ。
「さぁ、私も本気を出しちゃいましょうかね」
彼女の顔からは女子高生モード時の柔和な笑顔は消え、スパイを生業とする本来の部分が垣間見え始めた。
開いた扉の先、大量にある鉱石を前に彼女は舌なめずりをする。
「はあぁぁん! 私の鉱石ちゃん達……今お金に換えてあげまちゅからねぇ~……にししし」
●泥棒の心得~隠密行動~
「あわわ……マントが引っかかってしまったのです!?」
ミクシィ達が潜入を終えた頃、クレゼと共に屋上へ降りたったまゆゆはロープを使い4階の窓から侵入を試みていた。
しかし、衣装が意図せず彼女の行く手を阻む。
(だから止めた方が良いって言ったのに~)
「漫画だったら上手く行くのです! おかしいのですーっ!!」
アニマの【ゆゆゆ】に苦言を呈されつつ、もがくまゆゆ。
その時警備側が打ち上げた照明弾の1つが彼女の上で炸裂した。
「いたぞー! 4階だ!」
(わわっ!? 兵士さんに見つかっちゃったみたいだよ?!)
「うう、こんな状態で捕まる訳にはいかないのですよ! んー! んーー!!」
踏ん張って何とか侵入したまゆゆ。
しかし彼女を目撃した警備兵の情報から近くの兵士がこちらに向かってきている。
(どうするの!?)
「ぐぬぬ……こうなったらあれをやるのです!」
~~~
数秒後、警備兵達が到着し周囲を目視で確認する。
だがそこにまゆゆの姿はない。
不審に感じた兵士達が腕輪の情報を確認しようとしたその時、遠くから声がかけられる。
「不審人物はあっちに逃げたみたいです!」
「あちらですか、アクア様、協力感謝します。行くぞ皆!」
『おおーっ!』
兵士達は廊下の奥へと走り去っていく。
彼らの向かう先と反対方向を向いたアクアは、目の前にある大きめの段ボール箱を凝視していた。
「まゆゆさん。警備の人達は行きましたよ」
「この隠密を見破るとは……流石はアクアさん! なのです」
妙な声を上げる段ボール。
そこからはまゆゆが姿を現した。
普段と違い猫目に見えるコンタクトが、怪しく光る。
そこにアクアの情報を頼りに侵入者を探していた蛇上も合流する。
「……一体なんですかその恰好は」
「あっ、蛇上さん! お久しぶりなのです」
「久しぶりですね。ですがアクアさんの情報によればここに貴女は居ないはず……アクアさん、やはりクレゼ側に強力していたのですね」
「黙っててゴメンね。でもさ治さん、クレゼさんが言った事覚えてる?」
「世界を救う事よりも誰かを救う事……というあれですか」
「うん。誰か救う事で世界も救える……僕はそう思ってこれまで医者をやってきたんだ。だから、クレゼさんが何をしたいのか、確かめてみたい。ダメかな?」
「ですが盗んだフラグメントをどうするか言わず、我々を煽るような言動を繰り返した。そして依頼の際にはこちらを爆弾で脅す始末……これは全く信頼できないと私は思います」
「なら、直接聞いてみれば良いと思うのですよ!」
2人に対しまゆゆは提案を持ちかける。
彼女が指さす先には、普通の恰好なら潜り抜けられる穴と屋上へ続くロープが見えていた。
●真意を探る眼差し
倉庫内では、各盗各自った盗られたの戦いが繰り広げられる。
【オクセン・マイスナー】は近くのビルからクレゼ側、警備側双方から悟られないようライフル越しに全体の状況を観察していた。
傍らには起動した腕輪が転がっている。
「どう、オクス?」
「腕輪の情報通りだ。どうやら本気で鉱石を盗み出すつもりのようだな」
アニマの【シュリー】に答えつつ、オクスはライフルのスコープから目を離すと思考に耽る。
(オクスがこうも考え込むなんて、珍しいですね)
「クレゼの行動がどうにも解せなくてな。ただ単に鉱石を盗んで欲しいだけなら、この腕輪で俺達を脅し続けるほうがいい。なのに腕輪のロックを解除し味方をするも敵になるも自由とわざわざ自分でリスクを負った。そして何よりも最後の言葉……引っかかることが多すぎる。シュリーはどう思う?」
(ん~。さっぱり、わからないです!)
「おいおい、即答か?」
(悪い事を企んでるのかもですし、本当に何か人助けになるような事をしようとしてるのかも知れません。でもそれはクレゼさんじゃないと分かりません。そして分からないなら分かるまで調べる、それが私の知ってるオクスですよ)
「……ふっ。それもそうか。ならば、直接確かめてみるとしよう」
彼は自身のエスバイロに乗り込むと、倉庫の屋上へ飛び立った。
~~~
「なるほど。それで直接私の所へ来たという訳ですか。……オクセンさん?」
「ああ。おかげさまで居場所はこちらに筒抜けだったからな」
彼はそう言うと自分が渡された腕輪を床に放り投げる。
「残念ながら俺は腕輪を起動させたが身に着けてはいない。だから脅しても無駄だ」
「そうですか。では他の探究者の皆様の物を爆破する……と言えばどうでしょう?」
「顔見知りもいるから悪気が無いかと言えば嘘になるが……多少の犠牲はやむを得まい」
「ふふっ。くははっ!」
「何がおかしい?」
「いえ、本当に探究者には色々な方がいらっしゃる」
クレゼからはこれまで自分の側についた探究者に見せた丁寧さが消え去り、最初に出会った頃の挑発的な態度へ変貌した。
「貴方が一番利口なようですね。どちらにも加担せず、安全な立場からしっかり物事を見据える……うんうん、実に真っ当な人間らしい。素敵だと思いますよ?」
「……お前は何を考えている? 訳をちゃんと話せば、こちらも協力の用意がある」
「ふ~む……貴方は何をもって人を信じますか?」
「何を?」
「ええ。貴方は今『ちゃんと話せば』と言いました。ですが私は言葉というものが一番嫌いでしてね」
そこにアクアと蛇上もロープを伝ってやってきた。
それを見たクレゼは溜息をもらす。
「……時間切れですね。では最後に。『お前を何を考えている』でしたっけ? 私は復讐を考えていますよ。それでは」
「待て!」
クレゼが指を鳴らすと、彼の周りから色とりどりの煙が吹きあがりその姿が消える。
それと同時に倉庫の周囲に赤みの強い閃光弾が打ちあがった。
●泥棒の心得~華麗に逃走~
赤い閃光が屋内に入り込む。
これはクレゼ達に決められていた即時撤退の合図だ。
クレゼに加担した探究者達は一斉に逃走を開始する。
「こちらシン、煙に紛れて無事に逃走したよ」
シンが逃げ切った事を報告する。
それと同時に3階の窓が割れた。
「ま、待てーっ! このコソ泥め~!」
「コソ泥じゃなくて『怪盗まゆゆ』なのですよ~♪」
まゆゆはアクアと蛇上を上へ誘導した隙に3階の保管庫に潜入。
濃い山吹色に光る鉱石を回収していた。
そして閃光を確認し、窓へと体を突撃させ外に飛び出した。
あれほど邪魔になっていたマントは、今はハンググライダーに変形し彼女の体は宙を舞う。
「はーい! こっちこっちー!」
まゆゆを待ち構えていたアリシアはそのまま空中で彼女を回収すると仲良く脱出した。
そして2階からは多量の鉱石を詰め込んだ小型艇を牽引するミクシィとプララのエスバイロが飛び出してくる。
「くっ、このまま逃がす訳にはっ……!」
クレゼが消え、周囲を捜索していたオクスは牽引される小型艇を視認する。
事情も分からぬのに見逃す事は出来ない。
彼は狙いを定めると、プララのエスバイロと小型艇をつなぐロープを撃ち抜く。
「ああっ!? 私のお宝がぁー?!」
バランスが崩れ、幾つか零れ落ちる鉱石にプララが手を伸ばす中、ミクシィは1人で牽引を続けていた。
「【ミヤビ】ちゃん、今の、見ましたわね?」
(うん、もうバッチリ!)
「では、宜しく頼みますわ」
再度襲い掛かるオクセンの銃弾は、ミクシィ側のロープを狙う。
しかしミクシィは、アニマと息の合った連携でエスバイロを巧みに操りその狙撃を回避。
無事に逃げ切ったのである。
「これ以上は無理か……」
追撃を諦めたオクスは、アクアと蛇上にクレゼが語っていた内容を打ち明けるのであった。
●悪事の先には
無事に倉庫から逃げおおせた5人。
彼らは目隠しをされ、鉱石と共にある場所へ連れてこられた。
目隠しを解かれると、ミクシィはクレゼに問いかける。
「さて、私達はきちんと依頼を果たしましたが……こんなに大量の鉱石を何に使うのか、少々興味が沸いておりますの」
「僕も同意見だね。盗むまでは依頼だけど、引き渡すかどうかはこっちが決める事なんじゃないかな?」
彼女の質問にシンも続く。
それにクレゼは優しい笑みを返した。
「対価には対価を、信頼には信頼で答えましょう。こちらの穴をご覧下さい。ここは国家も把握していない、大型飛空艇の内部へと繋がる秘密の通路です。ここには……」
彼らが待っていると、ボロボロの服を着た子供達がそこから這い上がってくる。
子供達はガズバから話を聞くと、嬉しそうに鉱石を持って行った。
その様子にまゆゆとアリシアもご満悦だ。
「今回夢の宝島で回収されたフラグメントは、所謂一般市民の為に使われます。それはつまり飛空艇内部に広がるこの社会の暗部、スラムの人間にその恩恵が届かない事を意味します。ですが、彼らも地上に生きる貴方達同様……生き残るにもまたフラグメントが必要なのですよ」
貴重な資源である鉱石には価値がある。
(時にお金よりも強力な力を持つ……それがこれなのよ)
プララはポケットにこっそり忍ばせた鉱石を握りしめる。
そしてクレゼは最後に一言こう告げると、5人を町の外れまで送り届けるのであった。
「皆様のご助力に最大限の感謝を。願わくば……次も互いが殺し合う対象でありませんように」
依頼結果