プロローグ
俺の名前は平凡(たいらぼん)!
何事も一人称視点で誰かに語り掛けるように考えるのが好きな、ごく普通の高校生!
……のはずだったんだが、どうやらそうでもないらしい。
ある日異世界より召喚された夢を見た俺は、気づけばこの不思議な世界に転移していた!
右も左も分からないこんな場所。周りの人に相談してみたはいいが、誰もまともに取り合ってくれない上に、気づけば【自称異世界人】なんてあだ名が付いちまった。
まぁ幼馴染で可愛い同級生なんてものはいなかった俺には、またとないチャンスだ!
ここは開き直って心機一転、名前も変えて新しい世界を満喫だぜっ!
……なんて話をこの前にもした気がするが、まぁいいか。
というわけでこの世界に馴染むため探究者になった俺だったが、ここ最近は依頼を受ける事もなく平穏な日々を送っていた。
「う~ん……」
(どうしたのご主人様? お仕事が無さ過ぎてお疲れなのかな?)
ご主人様が無職でも異世界転生でも、私は味方だよっ! と、俺のアニマは笑顔で言う。
どうやら最近頭周りの健康チェックをされる事が多い気がしているのは、間違いではないらしい。
「いや、別に疲れた訳じゃなくてさ。むしろここ1週間寝てばっかりだったから、最近の事を思い出してたんだよ」
(最近か~。色んなお仕事があったよね~。浮き猫探しとか、迷子探しとか、近所のおばあちゃんのお手伝いもやったよね!)
「ああ、やった。やったよな、うん。でもこうさ、もっとカッコいい依頼とかもあったじゃないですか」
(う~んと…………えっと~…………? ああっ! 金ぴかの指輪を探したやつかな!?)
「あっ、そ……ソウソウ。ソレソレ」
本当は魔物の群れを討伐した話がしたかったんだけど……
こうしてどうにも上手く伝わらない時もある、だがこうしてすれ違いが起きるのも、アニマに人格があるという証拠。もどかしいが愛おしい。
さてさて、話を本題に戻そうか。
ここ最近結構大きな出来事があった。
それはブロントヴァイレスが現れた事件だ。
七大旅団全ての力を持って対処し、18匹ものブロントヴァイレスを倒した様は、正に圧巻だった。
この化物の襲来に呼応し現れた空賊やアビスメシア教団も、俺達探究者の行動で無事に撃退された事も合わせ、今でもデレルバレルの語り草になっている。
だが俺を始め、何人かの探究者には別の記憶がある。
当初、七大旅団が結束を深める前にブロントヴァイレスの進攻を受け、俺達人類側は壊滅寸前まで追い込まれたという記憶だ。
この記憶では俺も精一杯戦ったのだが、最終的にはケガをして戦線を離脱したのを、今もハッキリ覚えている。
まぁ、現にこうして全ての旅団が事なきを得ている以上、この記憶はあり得ないのだが。
妙に鮮明な記憶として残っているのが気にかかる。
(ご主人様?)
「よ~し! やめだ、やめ! さ、デレルバレルへ依頼を探しに行こうか!」
(わ~い! 久しぶりの外出だね!)
妙に、心の端々をつつかれている気がするのだが、悪気はないんだ。きっと、恐らく。
~~~
そんなこんなで、テレルバレルにやってきた俺達。
どうやらしばらく来ないうちに、ここのテレルバレルも大規模な改装が行われたらしい。
内装が綺麗になり、依頼をまとめた掲示板も新しくなっている。
「おおっ、結構依頼溜まってるな~。さて、どの依頼を受けたもんか……」
(新しく依頼のジャンルが見られるようになったんだね! これなら分かりやすいかも)
「えっと、ジャンルの種類は、コメディ、ハートフル、シリアス、サスペンス、ロマンス、イベント……」
(日常、冒険、戦闘、推理、恐怖……ご主人様、恐怖はやめようね! ゼッタイ!)
「そんなに怖がることないさ。仲間と協力すれば大丈夫だよ。それに、これはあくまで、デレルバレルが依頼の内容を見て判断したもの。戦闘以外でも戦闘はあり得るし、逆もまた然り……恐怖でも大して怖くないやつだってきっとあるさ」
(じゃあ、怖い依頼に行くときは、手……握っててね、ご主人様……)
俺のアニマがこちらに手を伸ばす。
その手に触れる事は叶わないけれど……
「ああ、もちろん」
俺は【そこ】に手を伸ばす。
そしてその手を……強く握り返した。
今、貴方の目の前には不自然に横へ手を伸ばした少年がいます。
何かを握りしめるようなそれは、この世界では良く見る光景です。
微笑ましい気持ちになったら、視線を上へとずらしましょう。
そこに並べられた依頼は、貴方の助けを待ち、貴方を癒し、貴方を楽しませるはずです。
そして選び抜いて手を伸ばした依頼を終えたならば……
さぁ、未来で何を掴み取るかは貴方次第。
解説
今回は各PCに焦点を当てる日常エピソードとなります。
まずはこちらのテンプレをご覧下さい。
【・時
・場
・誰
・何
・理
・味 】
今回参加される皆様には、こちらに沿ってプランを作成して頂きます。
そのプランを参考に、記載された内容に応じてオリジナルショートストーリー(OSS)を作成します。
ゲームの世界感上採用できないプランを除きまして、プラン採用の上ほぼアドリブの形になりますので予めご了承ください。
〇各項目解説
テンプレの各項目は、詳細な程皆様のご想像に近いものに出来ると思います。
分からない、埋められない場合は空白で構いません。
・時 OSSがいつ頃の出来事か、です。
PCが生まれてから今回のリニューアルオープンまでの期間で好きな時をご指定下さい。
ここまでゲーム内で描かれた時間軸は
GP1回目⇒GP2回目≒GP連動エピソード⇒各種エピソード
となっております(但し各種エピソード内で時期が指定されている場合を除く)。
プラン記載の際は【6歳の頃】や【GP2回目終了から数か月後】、【自分の参加したエピソード○○の後】等の形でご記載下さい。
※以前参加されたエピソードにこのエピソードを関連させる場合、指定できるエピソードは1本までとさせて頂きます。
他GM様の使用するNPCとの交流や、公開済みリザルトの結果を覆すような内容のものには出来ません。
・場 OSSの舞台となる場所、です。
具体的な旅団名でも良いですし、水の流れる場所など抽象的でも構いません。
・誰 OSSの参加者、です。
基本的にはPC本人とアニマになりますが、このエピソードに一緒に参加しているPCであれば、共通の思い出として指定出来ます(いわゆるGAに当たります)。
・何 OSSで何があったか、です。
戦闘、捜索、ただの世間話、パーティー等々、出来事の種類をご記載下さい。
・理 OSSは何故起きたか、です。
巻き込まれた、放っておけないなど、心情や行動の目的に近い部分です。
ゲームマスターより
※解説追記
・味 OSSがどういったお話なのか、です。
喜怒哀楽や甘い、酸っぱい等、OSSの方向性をご記載下さい。※
プロローグに興味を持って頂きありがとうございます。
私のエピソードに関する注意点は個人ページにございますので、お手数ですがそちらをご覧下さい。
リニューアル大攻勢、今回のエピソードは皆様のキャラクターの内面を深めるための内容フリーなエピソードです。
プロローグがリザルトと関係が薄い、解説が煩雑で申し訳ありません。要は好きに楽しんで頂ければ~というものですので気楽にご参加下さいませ!
手前味噌のようで恐縮なのですが、以前に同様の形式で私が出したエピソード「あの日の思い出」に、参加して下さった方々がいらっしゃいますので、プラン記載に迷った際は、是非そちらのプランをご参照ください。
それでは、リザルトにてお会い出来る事を楽しみにしております。
未来に向けて、位置について! エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
3 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/21
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2017/10/30 |
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ラジチョフ
( 春歌 )
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ヒューマン | スナイパー | 25 歳 | 男性
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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・時 あの日の君に希望の欠片を(1) 後 ・場 行きつけの酒場 ・誰 自分、雪月(セレナ:クロカの所属していた隊の長) ・何 酒を呷るクロカ。アビスメシアとの邂逅を経て、何故今も復讐に拘るのかを静かに雪月が尋ねる。過去、自身がレーヴァテインの軍属であった事、上層部の裏切りにより上司として、一人の女性として愛していた人と仲間を失った事。その正体がアビスメシアに通じていた事を知り、己が未来を見る為にはそれを清算せねばならない事。誰にも消せない復讐の炎の在り処 ・理 戦いを離れ穏やかな人生を送る気はないのか、という側で見てきた雪月の情 ・味 正しい道でないと知りつつ、”己の為”の復讐を果たす意志と覚悟
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彩月
( 壱華 )
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デモニック | マッドドクター | 21 歳 | 男性
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【テンプレ】 ・時 6歳の頃の話だよ ・場 子供の頃住んでいた洋風豪邸かな ・誰 ・何 アニマとの出会いだね ・理 6歳の誕生日3日前に両親共に事故死してね。 一族集会の会合の末に誕生日当日アニマ…壱華ちゃんが来たんだ。 ・味 シリアスのちハートフル…かな? 【補足】 両親は共にあちこち飛び回るタイプでね。 仕事中にそうなってしまったみたい。 当時の俺は凄く悲しんだけど 壱華ちゃんに一目惚れして、彼女の為に生きてたら その悲しみもいつの間にか癒されてたみたい。 まぁ今でも親子が救助を求める依頼とか見つけちゃうと 俺みたいな子供を出したくなくて、つい受けちゃったりして。 俺、「正義の味方」みたいなの苦手なはずなんだけどなぁ〜
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・時 GP2数ヶ月後 ・場 景色のいい墓地 ・誰 アニマ+花屋の店員 ・何 母親の墓参り ・理 月命日恒例の墓参り。 黒づくめのロリ服で、途中の花屋で花を購入。 少女と思い込む花屋と会話、「いい娘に育ってお母さんも天国で~」のような言葉に愛想笑い。 「いい娘、だって。きっとお母さんは僕がこんな喋り方聞いたら泣き喚いちゃうよ」 墓に花を手向け、GP1→巻き戻し→GP2の不思議な現象を思い返し近況報告。 …お母さんが生きていた頃に戻れる未来もあるのかな。 そうしたら僕は男の子だよ、って話せたのかな…なんてね。 そんな都合のいい世界なんてきっとないから、とこの世界を生きていく決意を新たに。 また来月ね、と墓を後にする。 ・味 切ない
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エクリプス
( 陽華 )
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フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性
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・時:10歳の頃 ・場:カンナカムイ・商店街っぽい場所 ・誰:エクリプスと陽華 ・何:医者である兄の往診を手伝った帰り道 ・理 18歳年上の兄上は医者でな 我輩も、医者になりたくて兄の手伝いをしていた その背中を見ながら、陽華と町を歩く 兄上はいろんな人から頼られる、既に評判の良い医者で凄くかっこいい 兄曰く、「俺たちの母さんは凄くて頼られる医者だったんだぞ」だそうな 我輩はそんな2人を越えたいんだ 陽華は「エクルなら、なれますよ」と応援してくれた 頑張ると決意した我輩の背中を、彼女が押してくれたんだ それから猛勉強の日々を重ねて、12歳の秋、旅立った ・味:さっぱりさわやか 雰囲気としてはやる気に満ちた感じ
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時:夏のある日 場:大きめのショッピングモール 誰:胡の枝・カメリア 何:浴衣や水着、他夏物の購入 事件が起きたらさくっと解決して、あとはお昼ご飯食べたり冷たいスイーツ食べたりして、最後は晩ご飯の材料買って帰る 理:暇だし、とりあえず浴衣と水着を買いに行こう! ついでに何か美味しいもの食べたい! 味:楽しい、日常、わいわいがやがや
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ゆう
( カイリ )
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ケモモ | アイドル | 16 歳 | 男性
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・時 ゆうが記憶を失う3年前 ・場 実家の台所 ・誰 ゆうとカイリ ・何 ゆうの紅茶を淹れる練習 火傷しかけたり、硝子ポットとカップをぶつけて割りそうになったり ドサールから茶葉を零したり 紅茶の味が薄すぎたり、濃すぎたり 不器用に何度も繰り返す カイリに不器用だと呆れられつつ、それでも真摯に向き合い 無駄にしないように頑張って飲み干しては、 もう一度淹れ始め 少しずつ、少しずつ上手になっていく ・理 父親を治療する心療医であり、 自分のお茶の先生に教えられたことを実践するため それがいつか、自分の願いにつながると信じて ・味 必死に生きることが救いだと信じていた頃 ただアニマのカイリと、温かく笑えたことがあったことを
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参加者一覧
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ラジチョフ
( 春歌 )
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ヒューマン | スナイパー | 25 歳 | 男性
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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彩月
( 壱華 )
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デモニック | マッドドクター | 21 歳 | 男性
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エクリプス
( 陽華 )
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フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性
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ゆう
( カイリ )
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ケモモ | アイドル | 16 歳 | 男性
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リザルト
●とある依頼掲示板の前で
【ラジチョフ】とアニマの【春歌(ハルカ)】は目の前の光景にそっと微笑む。
この少年と見えない相棒は幸ある日々を過ごしていくのであろう。
そんな事を思いながら2人はその場を去っていった。
●黒に染まる復讐の炎
その日【クロカ】は行きつけの酒場へと赴いた。
彼は店に入ると迷いなく進んでいき、奥の方に置かれた2人用のテーブル席に座る。
「いつも通り」
「……かしこまりました」
酒場のマスターに注文を告げ物が来るのを待つ。
その間、目をつぶりじっと動かない主人の姿に【雪月(ゆつき)】は声をかけた。
(……何故、御主人は今も復讐を止められないのでしょうか)
静かな口調だ。雪月の奔放な気質はなりを潜めている。
「……」
彼は先ほどまで、輸送船をヴァイレス進攻から防衛する為に戦っていた。
その中でアビスメシア教団の信者が暗躍していた事を知った彼は、見事その信者を倒したのである。
だがその時、雪月は確かに聞いていたのだ。
『誰が何と言おうが、オレはお前達を許しはしない。……過去に誓ってな』
そう呟く主の声を。
「お待たせ致しました。エッグノッグとアブ・ジン・スキーになります」
そこへウェイターが2つのグラスを持ってやってきた。
1つは彼の目の前に置かれ、もう1つは向かい合う席へと置かれる。
(彼女は……あの方は、生きてと仰っておりました)
「……確かに、セレナはそう言ったよ。けどな……」
彼は酒を一口呷ると、じっと動かないグラスを見つめ続ける。
その瞳には、今は居ない誰かの姿が映っていた……。
~~~
『どう? 静かでいいでしょ、ここ』
『セレナ。アンタ酒強くないだろ? こんな所、来たって意味ないんじゃないか』
『何よ~。上司に向かって生意気ね。ウェイターさん、エッグノッグ下さい。貴方は?』
『……アブ・ジン・スキー』
レーヴァテイン軍の制服を着こんだ一組の男女。
本日の役目を終えた2人はほっと一息。
『貴方……変わったわね』
『何だよ急に?』
『私の隊に来て暫く経つけど、前より笑うようになった』
『最前線で戦う機会が多くて楽しい毎日だ』
『皮肉屋な所は相変わらずね……もぅ。でも本当にいつも助かってるわ。ありがとね』
『おいおい、もう酔ったのか?』
『別に~。たまには頼りになる仲間を労わろうとしてるだけですよ~だ』
『ああそうかい……ま、誰かさんのお陰で仲間と何かを守るってのも、案外良いもんだって気づいたからかもな』
『案外熱血だもんね、貴方って。ふふっ!』
自身に色をつけてくれた彼女に。
共にいればいるほど心が安らぐ彼女に。
彼は心惹かれていた。
~~~
だがそんな日々は唐突に終わりをつげる。
軍が下したとある任務により、セレナ隊はある辺境地域へと訪れていた。
飛空艇の警備を任され待機していたクロカは、中々戻って来ない隊の様子を確認に向かう。
『つっ!? セレナ! 皆!』
そこには、血の海に眠る仲間達の姿があった。
抱き上げた彼女の金髪は紅に染まり、蒼く透き通った目からは光が消えかけている。
『一体何が!?』
『良かった……無事、だった……』
『クソっ! もういい喋るな!』
『アビスメシアの……黒禍(くろか)計画……きっとそれのせい……』
『おいセレナ! セレナァ!!!』
『泣く、なんて……らしくない、よ……』
彼女は自身の帽子を彼に深く被せる。
帽子に着けられた黄色のバッチは、こんな時にも淡い輝きを放っていた。
『――。……貴方は……生き、て……』
~~~
ガツン。
苦い記憶を打ち砕く様力強く置かれたグラスはほのかに机を揺らす。
(あれから時が経ちました。戦いに囚われる日々はもう終わっても良いはずです)
「ああ……だが、それでも俺はやらないといけないんだ。誰の為でもない、自分の為に……」
一筋の光を失った心には今も炎が揺らぐ。
しかし軍を辞め己が名に復讐の咎を込めた彼の決意は揺らがない。
決意と怨毒が身を焦がす様を、白き酒はただ静かに見守っていた。
●注がれる愛を失った少年が注ぐべき愛に出会った話
「【彩月(さつき)】様……大変申し上げにくいのですが……ご当主様と奥様が、その……遠くへ旅立たれました」
じーやは何を言ってるの?
ボクのお父さんとお母さんは、いつも家には居なかったもん。
でも良いんだ。3日後はボクの誕生日だから、きっと帰ってきてくれるもんね。
それが当時の俺だったかなー。
それは6歳となる前の出来事。
両親はよく旅団の外へ出かけっぱなし。
だから僕はずっと1人で執事のじーやと勉強三昧。
寝る前の読み聞かせは御付きのメイドが交代で。
屋敷の皆は俺に優しかったけど、でも……俺が欲しかったものはくれなかった。
そして迎えた誕生日の当日。
開かれた誕生パーティーは楽しいなんて雰囲気は欠片もなくて。
俺は訳も分かんないまま父さんの席に座らされて、黒服に身を包んだじいさんやばあさんが色々な言葉をかけてくれた。
今思えばおめでとうよりもお悔やみの方が多かったかなー。
親戚は屋敷をどうするとか遺産がどうだとか小難しい話ばっかりだし、皆があんまりにも悲しそうな顔するもんだから、なーんか俺も分かっちゃって。
あの夜は暫く泣いてたっけ。
「ひっぐ……! うぅ…… っく!」
「坊ちゃま……。こちらにおいで下さいませ」
じーやはボクを、ケガとかを直すところに連れてってくれた。
手をひっぱられてベットみたいなのにねかされて、じーやは急にボクにお注射するんだ。
いたいいたいいたい! どうしてボクにヒドいことするの?!
こんなボクを残してどこにいくの!?
「正式な設備ではございませんので、痛みを与えてしまい申し訳ございません……。ご当主様達最後のプレゼント。どうかこれが、坊ちゃまの救いとなりますよう……」
でも痛みはその一瞬。
俺はそこで、本当の運命に出会ったんだ。
~~~
その日私は生を受けた。
私の職務は登録されたご主人様を精一杯お世話する事!
どんな人だろうな~、女の子に優しい人だったらいいな~。
そんな事を考えながら目を開いた私の前には、綺麗な二重の可愛い男の子がいたの。
でもここには彼が1人ぼっち。
悲しい表情で泣いてて、でも私をじっと見つめてて。
どうして小さく震える彼の体を誰も抱いていないのかな。
そう思った私は彼に聞いてみる。
「ご両親は?」
「……居ないよ」
「えっと、お家のどこにいるのかなーって」
「ぐすっ……居ないもん」
私はこれまでの人生で彼の御両親を見た事は無い。
勿論、彼らが何をしてるかも教えてくれない。
ただ、私はその時しなきゃいけないと思った事をしたの。
「大丈夫、これからは私が側に居るからね」
「……へっ?」
「私は【壱華(いちか)】。御主人様のお名前は?」
「彩月……」
この気持ちは、きっとプログラムなんかじゃない。
それだけは絶対の自信があったんだもの!
だから私は全力でこの子に尽くすと決めたの。
何事も挑戦! 元気で明るく素直でいれば、きっと笑い合えるようになるもんね!
~~~
とある掲示板前で、彩月と壱華は依頼を確認する。
「壱華、これを受けよう!」
「彩月さん……これでいいんだよねっ?」
彼が指差すその先には子供探しの依頼があった。
依頼主はその母親だ。
「彩月さん……」
「大丈夫。壱華ちゃん傍に居てくれるんだから寂しくないよ」
俺って正義の味方みたいなの、苦手なはずなんだけどなぁ~。なんて呟く彩月の満面の笑顔には一点の曇りもない。
運命に出会った彼の愛は、山より高く海よりも深い。
それは自身の悲しみを癒してくれた対象へ全て注がれる。
その少々行き過ぎた愛を受け止める彼女は、主をもっと知りたいと願った。
依頼へと赴く2人の先で、その願いは成就されていくのだろう。
●不安と渇望に濡れた衣
良く晴れた休日。街の通りには多くの人々が行き交う。
安寧な日常と小さな幸せ。そんなものが溢れる人込みの中を【ノーラ・サヴァイヴ】は歩いていた。
アニマの【ミモザ・サヴァイヴ】もその隣を付き従うように歩く。
「今月は晴れて良かったよね。もし雨だったら、折角の服が台無しになっちゃうところだもん」
(本当に。行楽日和と言ったところでしょうか)
だがその装いはおよそ行楽向きではない。
普段は黒と白、二色のフリルやレースに彩られたロリータファッションのノーラだが、今日は黒一色に染め上げられており、ミモザもまた黒の礼装を纏っている。
(いつものお花屋さんは本日休業ですので、あちらで購入致しましょう)
「うん」
ノーラはミモザの示した花屋へと足を踏み入れる。
そこには中年くらいの男性が、1人で花の手入れをしていた。
「らっしゃい! 今日は……って……すいやせん。確認ですが、どんな花をお探しで?」
「お墓参りに行くんです。綺麗に咲いてるやつを選んでもらえると嬉しいなぁ」
「あいよ、ちょっと待ってて下せぇ」
男性店員は慣れた手つきで選定し、花束を準備する。
だが花束を作るのも意外と時間のかかるものだ。トークで場をつなごうと彼はノーラに語り掛けた。
「あんた、14くらいかい? 1人で墓参りなんて偉いねぇ」
「あはは……いえ、そんな」
「つかぬ事を聞きますがねぇ、誰の墓参りだい?」
「母親のです」
「んじゃ女性向けのやつ、特別サービスすっからよ」
「ああ、ありがとうございます」
「いやいや。いい娘に育って、お母さんも天国でさぞかし喜んでると思いやすよ」
(……んっ!)
ミモザが気色ばんだ。反射的にノーラは、店員に聞こえぬよう小声で告げる。
「ダメ、ミモザ」
効果はすぐに現れた。
(……はい)
ミモザはいささか不満げではあるものの、口をつぐんだのだった。
店員から花を受け取ったノーラはミモザに電子決済で料金を支払わせ、感謝を伝えつつその場を後にする。
そこからはバスで街の郊外にある墓へと向かった。
1つ、また1つ。
停車場を過ぎる度に人は減り、終点の墓地前で降りる頃には最後の1人となっていた。
「暗くならない内にしっかりお参りしないとだね」
人がいない事を確認し、ミモザはプライベートからオープンへとモードを変える。
(ノーラくん、どうして私を止めたのですか)
「仕方ないよ。だってこんな見た目だもの」
ミモザは男のノーラが女の子として見られたことが許せず、オープンで訂正を加えようとしていたのだ。
だが、それはノーラ自身によって止められた。
「それにしてもいい娘、だって。きっとお母さんは僕がこんな喋り方してるの聞いたら泣き喚いちゃうよね」
その後ノーラは、母親の墓を丁寧に掃除し、花を活け手を合わせる。
そして彼はこれまであった事を親へと報告した。
一度世界が滅んだ事。そしてその記憶を持ったまま世界の時間が巻き戻った不思議の事。
「もしかしたら……お母さんが生きてた頃に戻れる未来もあるのかな。そしたら僕は男の子だよ! って話せたのかな……」
(…そうですね、でも私は、ノーラくんとこうして過ごせる今の世界が大好きです。一緒に、この世界を生きていきましょう)
「……うん。ありがとミモザ。また来月ね、お母さん」
そんな都合の良い世界はないのだと、彼は生きる決意を新たに袖を握りしめる。
自身が男であるから家庭は崩壊した。
だからせめて嫌われずに。
愛されようと、女であろうとしてきた少年の心は、未だその装いに縛り付けられる。
(ニーナお母様。貴女の愛は未だノーラくんを歪めて縛ったままです。それでもいつか、私はノーラくんが立派な男性になると信じています。言葉遣いも直す事が出来たのですもの。これからも私はずっと、ノーラくんの傍に)
美しい夕日と墓石を前に、ミモザもまた誓いを立てるのであった。
●理想の先へ
崩壊へ向かうこの世界には未来を歩むことを諦めてしまったような、無気力となる人々も多い。
だが人間とは欲深いもので、自分が苦しめば全力で助けを求めてみたりする。
「全く。普段はあれだけ医者嫌いだというのに、いざ病にかかればさっさと治せとは……あの爺さんも身勝手なものだ」
【エクリプス】は、医者である兄の往診を手伝った帰り道にそうぼやいていた。
「ははは。確かにな。だが相手がこちらをどう評価しようと関係ないさ。患者がいれば治療し助ける、人の役に立つというのに特別な理由は要らないよ」
彼の問いに兄は笑って答えてくれた。
28歳にして医者としての名を知られている兄はその人柄も評判が良い。
誰にでも優しく、手先が器用で何でもできる。
おまけに黒髪金目の美丈夫と来ているので、老若男女から頼られているその姿は彼の憧れだ。
「そうか……! 流石は兄上なのだ! 心意気が違うな!」
「お前もその内こうなるさ。さて、そこで待っててくれ。ちょっと買い物を済ませてくる」
近場の店に姿を消す憧れの姿を、エクリプスは見つめ続けている。
そのまま黙りこんでいた彼の様子にアニマの【陽華(ヤンファ)】は語り掛けた。
(エクル、何を思っているのです?)
「うむ……我輩は、一日でも早く兄上のような医者になりたいと、改めてそう思うのだ!」
エクリプスの家には、15歳になると3年以上の旅に出て世界を巡るという風習がある。
多くの者はその旅の始まりとともに本格的な医療の勉強をスタートさせるのだが……。
目の前でこうして将来の目標が輝いているのだ。
その光に魅せられたエクリプスには、とても待ちきれるものではない。
成長への意欲と知識の渇望。
一番傍で見守ってきた陽華には彼のそんな気持ちが、痛い程伝わっていた。
(確かに貴方は彼の手伝いを通して、既に多くを学んでいます。でもまだこんな子供ですのに……)
「今の我輩では役不足であると、そう言いたいのであるか……陽華は」
(そういう訳では……)
「はーい、ストップストップ」
そんな2人のところへ、兄が買い物を終えて戻って来る。
気心の知れた家族だ。陽華の声は聞こえなくとも、エクリプスの声と様子だけで会話の内容を把握していた。
「エクリプス。お前はまず人の心を勉強しないとな」
「兄上、どういう事なのだ?」
「陽華はお前の実力や努力を認めていない訳じゃない。だが旅に出るとは相応の苦労や困難が待ち受けているという事だ。俺も含めて、お前を大切に思えばこそ心配するというものじゃないかな?」
「そ、それは……」
「さぁ、お前はどうする?」
「我輩は……それでも、早く立派な医者になりたい! その為なら何だってやり遂げるのだ!」
彼の決意に兄は微笑みで応える。
「実は俺達の母さんも旅に出たのは早くてな。13歳の頃だったそうだ。そんな母さんだが我が家系でも指折りの実力者として知られている。とっても頼りにされてたそうだぞ?」
「母上は、それほどに凄いお方だったのだな!」
エクリプスは陽華へと視線を移す。
「ならば、我輩は兄上を……母上をも超えて見せる! 亡くなった母上が誇れるような医者になってみせるのだ!!」
(ふふっ。エクルなら、絶対なれますよ)
爽やかな彼の笑顔に、笑顔でその背中を押すことに決めた陽華。
無茶をするなら自分がサポートしていこう。
自身のこの姿が彼の母に生き写しであることの意味を、彼女も感じていた。
「ならまずはパセリを食べられるようにならないとな」
「うぐっ、医者とは困難な道なのだ……」
そして彼は猛勉強の日々を重ね、それが認められた12歳で旅に出る。
まず一歩、追いかける理想を彼は超えたのであった。
●シーズンオトメイク~in summer~
わいわいがやがや。
まるで人が砂の粒であるかのように、これでもかと所々にひしめいている。
そんなショッピングモールに緑の髪を靡かせる【朔代 胡の枝(さくしろ このえ)】の姿があった。
「いや~、皆ヒマしてるね~。こんなあっついのにご苦労様だよー。まるで人がゴ……」
(コノエ。それ以上は言ってはなりません)
彼女を制したのはアニマの【カメリア】。
もう10年近く連れ添った仲だ。
このデジタルジャンキーなご主人様が何を言いたくなるか全て把握している。
「アハハ……ですよねー。それよりカメリアちゃん、このパフェどうどう?」
(水菓子が良い涼味を醸し出しているように思います。ですが、彼の舌には少々甘すぎるやも知れません)
「そっかー。美味しいのに……残念」
現在の彼女は食後に女子力高めのデザート中。
自身の食した味覚情報をアニマに分析してもらうのだが、中々にカメリアの評価は厳しい。
だが、冷静沈着クールな料理評論家の忌憚のない意見は彼女の料理スキル向上に非常に役立っていた。
ちなみに昼御飯として食したのはホットケーキのシロップつゆだく。
少々糖分の摂取量が気になる気もするが、この年頃の女の子ならば多少の事など気にならない。
それに胡の枝は少々痩せ気味だ。
流石に深夜の学校で激甘カステラを多量摂取した際には、アニマに苦言を呈されたらしいが。
「よーし、エネルギー充填完了~。次は浴衣と水着を買いに行こう! カメリアちゃん」
(分かりましたわ)
カメリアは目を閉じ店舗情報へアクセスする。
ピンクのロングヘアーはしっかりとウェーブがかかっており、頭につけたベールはうっすらとその顔を覆う。
純白のドレスも相まって、まるで女性が抱く理想の形を一つ体現したかのような姿だ。
自分にはない魅力を纏った大切な存在。胡の枝自慢のアニマである。
(検索終了。コノエ、近くの階段を1つ上がってから、エレベーターで6階へと向かいましょう)
「ラジャー!」
店を出た胡の枝は真っ直ぐ階段へと向かう。
ちらと覗き見ると1階では人混みが多くエレベーターは混雑していた。
しかしカメリアの指示通り胡の枝が階段を登ってみると、2階でやっていた物産展を見るためにその大半がエレベーターを下りていく。
「うん。タイミングバッチリ、食後の運動も終えていい感じ!」
(コノエ。今回の消費カロリーでは……)
「いいのいいの! コノさんはスーパーボデーだから、この位で充分なのだ~」
(はぁ、分かりましたわ)
そして訪れたのは服飾店。
この時期は水着や浴衣等の商品が派手に売り出されていた。
胡の枝は一着一着時間をかけて、この夏の相棒を選んでいく。
見事彼女のハートを射止めお持ち帰りされるのは2着。
白地に波模様の横ボーダーが入った水着は記念すべきビキニデビューの一品。
薄緑色の浴衣はしっとりレディーの雰囲気が醸し出されている。
勿論髪を纏めるリボンはそれぞれに合う色をチョイス。その他の小物もがっつり購入した。
「はー! 一杯買った沢山食べたし、今日は良き日だねー。さて次は……」
(コノエ、もうすぐ18時ですの)
「えっもう!? えっと食品コーナーは……」
(その荷物では動き回るに不便ですわ。まずは先程の店で衣類を自宅へ送るのが先決かと)
「あちゃー、う~ん……カメリアちゃん。何か上手い事宜しくっ! あ、それから陽一君に晩ご飯何がいいかメール入れといて!」
(ええ。了解しましたわ)
具体性に欠けた割と滅茶苦茶な指示。
だがカメリアは顔色一つ変える事はない。
大切だと想う主人の為に、今日も彼女は道を示すのだ。
今宵胡の枝家では無事に夕食会が開かれたという。
●忘れて欲しい過去に眠る幸せの夢
探究者である【ゆう】は、今日も無事に家へと戻ってきてしまった。
普通戻ってきたことを『しまった』とは考えないものであるが、彼にとっては違う。
生まれも家族も何もかも。
記憶を失っている彼にとってここは、ただ寝食を行うだけの場所でしかなく。
得体の知れない絶望に抱かれる彼にとって、生きる事はただ苦しいだけの非生産的行いなのだから。
そんな中、今夜の彼はただ静かに眠っていた。
その様子を【カイリ】は切なげに見つめている。
「ゆう、ですか……」
彼女は目の前に眠る主人を本当ではない名で呼んだ。
彼の職業はアイドル。つまり世間一般から見れば彼の全てが【アイドルゆう】として映るのだ。
黒い犬耳、黒と白の尻尾を持つ彼は白と黒の衣装に身を包み、歌い上げるバラードは人々の心を奥底から揺さぶる魂の嘆きとさせ言われている。
だが、それも彼がなりたくてなったものではない。
たまたま拾われたミルティアイの事務所から、仕事をする上で必要だとされた便宜上の名前だ。
そんな彼のアニマであるカイリは、ファンからは性格がころころ変わる自由奔放な存在として知られている。
だが、今宵の彼女はそんな捉えどころのない存在ではなく、主人を一途に想う素直なアニマであった。
彼女はそっと、昔の……本当の彼を思い出す。
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『うえ……苦いな』
『(それは茶葉をお湯に浸す時間が長すぎるのが原因よ。ほら、もう一回)』
『う~ん……了解』
ゆうが記憶を失う3年前。
彼は病床に伏す父親の為に紅茶を入れる練習をしていた。
彼の父親はとりわけ体に不自由があったわけではない。
それは自身にお茶を教えてくれた診療医の先生が言っていたことだ。
『えっと、こっちにミルクポット、んでこっちが……ああぁ!?』
今度は砂糖を試作の紅茶の中へこぼしてしまう。
他の家族や友人に教えてもらえばいいのに、断固として1人で練習を続けるゆう。
もう何度目の失敗かもわからないそんな状態に、カイリは呆れていた。
『(もう、何回失敗してるのよ。不器用過ぎるんじゃない?)』
『しょうがないだろ。初めてなんだから』
『(なら辞めちゃいましょうよ)』
『そんな! 折角先生が教えてくれたんだ。これを俺がやらなくちゃダメなんだ!』
この頃から、ゆうには自己否定の気があった。
それは彼の生まれに関わる部分でもあり、6歳より前の事を知らない当時のカイリには分からないことも多い。
だがカイリの一生懸命な説得と努力によって、彼は自身の生まれと向き合い、自身の存在を赦そうと取り組み始めていた。
その瞳には当初の無気力さがなりを潜め始め、必死に未来を生きようとする意思が生まれ始めていた。
『こうして誰かを想って、何かを為す事が出来たなら……赦される気がするんだ。お前はここに居ても良いんだぞ、って』
『(じゃ、まずは私を大事にしてみるっていうのはどう?)』
『お前を?』
『そ。アニマは人じゃないから例外?』
『ふっ……ううん』
その日、カイリは彼が自身に微笑みかけるのも見た。
これまでになかったような柔らかな笑みは、カイリの心を優しく温める。
『これからも宜しくな。カイリ』
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(――の周りは皆、優しいもの。きっと――も優しくなれる)
あの時、私は確かにそう思った。
確かに彼と笑い合えたのだ。
記憶の中の思い出に、カイリは涙を流す。
(ずっと損な事ばかりだって思ってたけど……あの時、あなたのアニマで良かったって本当に思った。それは……今もずっと変わらないわ。あなたが本当に忘れなきゃいけないもの……私が絶対、消して見せるから)
彼の過去を代わりに背負う彼女の覚悟は、ずっと前から決まっていた。
依頼結果