体の病と心の病埴輪 GM) 【難易度:簡単】




プロローグ


 ――探求者ラストエイジの仕事は実に様々だ。

 時には命がけの戦いに身を投じる危険な仕事も舞い込んでくるが、それは幸いなことに……あるいは、血気盛んな探求者達にとっては不幸なことに、【非日常】である。

 では【日常】に身を置く探求者達が、国際アビス対策機構【デレルバレル】からどんな仕事を請け負っているのかと言えば……彼らは今、医療物資を運んでいるところだった。

 先のブロントヴァイレスとの戦いによって、軍事旅団【レーヴァテイン】では大勢の怪我人が出ていた。そのため、シティにある【メディカルセンター】は満員御礼。全自動治療装置がフル稼働しても追いつかず、必要最低限の人員しか配属されていない医者やナース達はてんてこ舞い……まさに、猫の手も借りたい忙しさだった。

 ――そんな時、猫の手よりも重宝されているのが、【市民の味方】探求者である。

 ※※※

「ケチ! 一個ぐらいいいじゃねぇか!」
 ――学術旅団【アカディミア】で医療物資を受け取り、届け先であるレーヴァテインのメディカルセンターまでやってきた探求者達を待っていたのは、受付のナース……ではなく、そのナースに向かって声を上げている少年だった。
 少年の身なりは清潔とはほど遠く、周囲の市民が一様に眉をひそめているのも、その大声はもちろん、漂う臭いにも原因がありそうである。
「……またお前か! ここはお前のような者が来ていい場所ではない!」
 眼鏡をかけた男性医師が駆けつけるなり、少年を怒鳴りつける。少年はぺっと床に唾を吐いて踵を返し、入り口付近に立つ探求者達を押しのけて出て行った。
「盗人が……っと、ああ、探求者の皆さんですね? これはお見苦しいところを……」
 探求者達に顔を向けた医師の右頬には、大きな青あざが見て取れた。医師は頬に手をやりつつ、苦笑いを浮かべる。
「先日、転んでしまいましてね。何しろ、目の回るような忙しさで……ああ、アリア君、彼らから薬を。床の掃除も頼んだよ。では、私はこれで……ああ、忙しい、忙しい」
 医師はその場から立ち去り、アリアと呼ばれたナースが探求者達に歩み寄る。
「ご苦労様です! お薬の数を確認をさせて頂きますので、少々お待ち下さい!」
 アリアは医療物資を笑顔で受け取ると、てきぱき数を数えていく。
「えっと、最後にヒスジニンが百錠っと……はい、バッチリです! ありがとうございました! いつもお薬を届けてくれている運送会社の方もお怪我をして、どうしたらいいかと……皆さんのお陰で、本当に助かりました! お薬には貴重なもの少なくありませんから、運搬は信頼のおける方にお願いしないといけせんし、先日だって――」
 アリアは口を閉ざし、床に目を向けた。思い詰めた表情……深呼吸し、口を開く。
「……もし良かったら、お話を聞いて貰えませんか? 私、あの子を助けたいんです!」


解説


 本エピソードの目的は、アリアの依頼で【あるもの】を探し出すことです。それは砂の中のダイヤモンドを探すような作業ですが、少年を助けることにつながります。
 
 本エピソードは物語(シナリオ)を楽しむことを主としているため、プレイヤーキャラクターがプランによって介入できる余地は限られています。ただ、それだけに他の参加者との綿密な打ち合わせが必要ありませんので、PBW初心者の方にもお勧めです。
 その一方で、プレイヤー同士はすでに医療物資の運搬という仕事をこなしていることから、掲示板で気軽に交流(雑談)を楽しむのも一興だと思います。

 探し出す【あるもの】に関しては、ネタバレ対策として伏せているだけで、それが何かを推理することが目的ではありません。
 ただ、プレイヤーキャラクターを少しでも活躍させたいとお考えの方は、【あるもの】はとても小さく、探すのが難しいということを踏まえ、プランにはそれを探し出すためのアイディアを書いて頂くことで、それがリザルトノベルに反映される可能性があります。

 繰り返しとなりますが、本エピソードは物語を楽しむことを主としております。プランに具体的な行動を書かなくてもご参加できますので、プレイヤーご自身がプレイヤーキャラクターを知るための場としてご利用頂ければ幸いです。


ゲームマスターより


 こんにちは、GMの埴輪です!
 皆さんと一緒に『のとそら』の世界に触れてみたいという思いから、今回のエピソードをご用意させて頂きました!
 PBWを始めたばかりの方も、ベテランの方も、『のとそら』においては皆さんまだまだ初心者です!(私を含めて)
 様々なエピソードを通じて、一緒に『のとそら』の世界を作り上げていきましょう!



体の病と心の病 エピソード情報
担当 埴輪 GM 相談期間 4 日
ジャンル --- タイプ EX 出発日 2017/8/19
難易度 簡単 報酬 少し 公開日 2017/8/29

 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
何か訳ありっぽい?普段からよく話す間柄とかじゃないけど、初めましての関係じゃないし、名前が似ているのもあって親近感湧くから、何とか出来たらいいんだけど…。

それに…医師の人は痣放置してて大丈夫かなー?もう青あざにまでなっちゃってるけど、見てて痛々しー。
まさにてんてこまいな忙しさだね!ワタシ、マッドドクターだし、その面でも手助け出来たらいいんだけどっと…そんなことより、今は探し物をゆーせんしないとね!
アリアさんの話しをちゃんと聞いてー探し物開始ってことでいいのかな?
見つけるの大変そーだし、何か探すためのひんとでもあるといいんだけど。
小さいものってことは分かっているから、ルーペでも準備しておけばいいかな?
あとは…人海戦術!ラビッツも探索よろしくねー!

さて、探し物頑張るぞー!
 ロゼッタ ラクローン  ( ガットフェレス
 ヒューマン | ハッカー | 16 歳 | 女性 
医療物資の運搬という職務をこなす、世渡り的には好ましい。
一応信用も得てさらに頼りにされるとは探求者としては幸運と見るべき到達点か、爽やかに応じる。

【あるもの】を探し出すためのアイディアとしては、ハッカーとしての能力とそれを強化するセンシブルの使用という事で。

参加者一覧

 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
 ロゼッタ ラクローン  ( ガットフェレス
 ヒューマン | ハッカー | 16 歳 | 女性 


リザルト


「あの子を助けたい、か……」
 メディカルセンターの裏庭で、『ロゼッタ ラクローン』が呟く。オレンジ色の髪と瞳を持った、ヒューマンの少女だ。
「いいのか?」
そう口にしたのは、黒髪ときっちり着こなしたスーツが似合うクールな美男子……のような見た目の女の子。ロゼッタのアニマ『ガットフェレス』である。
「何が?」
「ここで待っていても」
「だって、ここで待っててって――」
「アリシアはアリアを手伝っているが?」
「……アリシアはマッドドクター、私はハッカー」
「それでも、何か――」
「適材適所ってやつよ。ほら、来た来た!」
 ロゼッタは『アリシア・ストウフォース』とアリアに手を振った。
 アリシアにアリア……名前が似ていてややこしいが、だからこそ、アリシアはアリアに親近感が湧いたという。(でも、見た目は全然……)ロゼッタは二人を見比べる。
 アリシアは水色の髪と瞳を持つデモニックの女性で、とってもグラマー。一方のアリアは、金色の髪と瞳を持つヒューマンの女性で、色々と、まぁ、控えめだった。
「お待たせしました! 今日は患者さんが多くて……アリシアさんに手伝って頂いて、本当に助かりました!」
「ううん、初めましての関係じゃないし、困った時はお互い様だよ!」
「……ロゼ、見てごらん。これこそが、自然な協調性というものだよ?」
「うるさいわね!」
 ロゼッタはガットに向かって声を上げたが、その姿が見えないアリシアとアリアは揃って目を丸くした。ロゼッタは口元を押さえる。
「ちょっと空耳が……えっと、お話を聞かせて貰えるかしら? あの子を助けたいって言ってたけど……スラムの子よね?」
「はい……あの子は市民ではなく、下ブロックの住人です」
 アリアが肯くのを見て、ロゼッタは腕組みする。……文化的な生活が保証されている市民にしては、あの少年の身なりは酷かった。それに、臭いも。
「実は、あの子の妹さんがアビスに汚染されてしまったようなのです」
「な……」
 絶句するロゼッタ。汚染とはアビスの残酷な愛情であり、汚染が進むにつれ、その身には悪魔的変化が生じる……率直に言えば【人が怪物になる病】である。
「公にはなっていませんが、先のブロントヴァイレスとの戦いは、下ブロックにも大きな被害を与えたようです。その際に、妹さんが……ですから、あの子は抗アビス薬を必要としているのです」
「ヒスニジンだね」と、アリシア。
 アカディミアのとある大学が開発したという抗アビス薬のことを、アカディミア出身のアリシアはよく知っていた。汚染が初期段階なら、薬を服用することで進行を抑えることができる。また、事前に服用しておけば予防にもなり、仕事の内容によっては、探求者に支給されることもあった。
「ただ、ヒスニジンは貴重なお薬です。たとえ市民であっても、一部の限られた方にしかお渡しすることができないものですから、その……」
「公に存在すら認められていない、幽霊みたいな子には渡せないってことね」
 責めるつもりはなかったが、つい口調がきつくなってしまうロゼッタ。アリアはきゅっと唇を噛み締め、小さく、だがしっかりと、首を横に振った。
「……メディカルセンターは市民のための施設です。ですが、地位や資産によって受けられる治療の内容に差があったり、市民ではない方の治療をしなかったりというのは、間違っていると思うんです!」
「うんうん! そんなの、不公平だもんね!」
 アリシアが賛同の声を上げる。ロゼッタもその通りだと思ったし、それなら素直に賛同すべしとガットが目で訴えていたが、どうしても気になることがあった。
「だけど、治療はどうするの? 薬は汚染の進行を抑えるだけで、治すことはできなかったと思うんだけど……」
「その点なら、大丈夫です! 私が言うのも変ですが……」
 アリシアは躊躇いがちに先を続けた。
「下ブロックにも治療の設備はあるようです。無免許ながらお医者様もいるようですし、抗アビス薬だって……大半が粗悪品のようですが。あの子の妹さんは、幸い治療を受けられそうなのですが、粗悪品では汚染の進行を食い止めることが――」
「待った! ……あなた、随分と詳しいのね?」
「実は、あの子の受け売りなんです。あの子は何度も私の前に現れては、お話を聞かせてくれました。そのどれもが、私が知らないことばかりで……だから、私……」
「それなら、こっそり渡せばいいんじゃない?」
 ガットは眉をひそめたが、ロゼッタは涼しい顔。
「ヒスニジンは一錠単位で管理されているので、持ち出したらすぐに……」
「なるほどね。でも、メディカルセンターのデーターベースにハッキングするのは……さすがにリスキーよね」
「院長先生にお話してみたらどうかな? アリアさんの話を聞いたら、誰だってどうにかしてあげたいって思うはずだよ!」
 アリシアがそう言うと、アリアは胸の前で両手を握り合わせた。
「どうしたの?」
「いえ……その、ずっと迷っていたのですが、お二人の優しさに甘えさせてください。先日、ある事件が起きました。いつも薬を届けてくれる運送会社の方が強盗に襲われ、ヒスニジンが奪われたのです」
「運送会社の方が怪我をしたって……そういうことだったの?」と、ロゼッタ。
「はい。被害者の方は昏倒したフリをして、犯人が薬を数えている隙に反撃したそうですが……薬を嗅がされて眠ってしまったそうです。ただ、揉み合いになった際、ヒスニジンが入った瓶が割れて、辺りに散らばってしまったとか。ただ、目を覚ました時には、他の薬品共々、全てなくなっていたそうです」
「……ということは、お話っていうのは犯人逮捕のお願い?」
「それは警察の方に……ですから、お二人にはまだ現場に残されているかもしれないヒスニジンを探して欲しいんです。私も探しましたが見つからなくて、でも、探求者の方なら……」
「事件が起きたのはいつ?」
「三日前です」
「……ま、やるだけやってみましょ」と、ロゼッタ。
「うん、頑張って探すぞー!」と、アリシア。
 アリアは二人を交互に見直し、深々と頭を下げた。

※※※

 ロゼッタとアリシアが訪れた事件現場は、先のブロントヴァイレス騒動の爪痕が色濃く残されていた。瓦礫が散乱し、割れた瓶から零れた薬がころんと一錠……溝や隙間に迷い込んでいてもおかしくなさそうな雰囲気である。
「さてと……アリシア、それは?」
「ルーペだよ! これならどんな隙間に入り込んでいたって、見逃さないぞ〜!」
 アリシアはルーペを目に当て、くるりと一回転。
「じゃあ、まずは正攻法ね」
「ルーペはロゼッタさんの分もあるよ! はい、どうぞ!」
「ありがと。私はこっちを探すから、アリシアは向こうをお願いね」
「了解!」
 ――かくして、ロゼッタとアリシアはルーペを片手に、地面を這いつくばって薬を探すことになった。始めこそ、宝探しのようなワクワク感も手伝って、二人は熱心に薬を探していたのだが……十分経ち、二十分経ち、一時間も過ぎる頃には、それが砂の中でダイヤモンドを探すような作業であることを思い知るのだった。
「……正攻法がダメなら、ハッカーらしく探すとしますか!」
 ロゼッタが立ち上がると、アリシアも「よいしょ」と立ち上がった。
「どうするの?」
「あそこを見て。ビルの上の方……監視カメラがあるでしょ?」
「本当だ! 犯人、映ってないかな?」
「それだと話は早いんだけど、ガットに……私のアニマに調べて貰ったら、壊れていることが分かったわ。十中八九、犯人の仕業ね」
「残念……」
「でも、収穫もあったわ」
 ロゼッタは持ち歩いている入力端末を左手に持ち、右手だけで器用に操作する。アリシアは入力端末の画面を覗き込んだ。
「この画像って、ここだよね?」
「うん。監視カメラは犯人に壊されるまでは機能してたわけ。その画像をデータバンクから拝借したんだけど……今時、こんな低解像度なんてね」
「お手上げ?」
「ううん、ここからが腕の見せどころ……移動するわよ」
 ロゼッタは監視カメラの死角まで移動し、アリシアもそれに続く。
「ガット、やるわよ!」
 ロゼッタは監視カメラの上に立つガットに向かって叫び、オーバーチューンを発動。入手した現場の画像に補正を繰り返して解像度を引き上げつつ、ガットがカメラ代わりとなって撮影した今の現場の画像と比較していく。
「ここで問題。事件前に撮影した画像と、事件後に撮影した画像。それが同じ場所から撮影されていた場合、両者を比較することで何が見つかると思う?」
「えーっと……」
「ヒントはね、事件の前にはなくて、事件の後にはあって欲しいなーって――」
「あっ、お薬!」
「ピンポーン! ……だけど残念、見つからなかったわ」
 ロゼッタは手を止め、溜息をついた。ガラスの破片や砂粒一つ……そのレベルまで精査したが、薬は一錠も見つからなかった。
「今度こそ、お手上げ?」
「まだよ。私が探したのは、監視カメラが届く範囲……それ以外は対象外ってわけ」
「そっか! なら、そこを探せば……って、どうしたの?」
 アリシアはアニマの『ラビッツ』が、瓦礫のそばで這いつくばったまま、手招きしていることに気付いた。白い髪と赤い瞳を持った、その名がピッタリな女の子。
 アリシアはラビッツに駆け寄ると、同様に這いつくばり、瓦礫の隙間に目を懲らす。
「あっ! あったよ! この下!」
「この下って……」
 ロゼッタはアリシアのもとに駆けつけながら、瓦礫を見上げた。崩落した建造物の残骸が、幾重にも折り重なっている。アリシアは隙間に向かって腕を伸ばしたが、とても届くような距離ではなかった。
「せっかく見つかったのに……」
 しょんぼりするアリシア。その隣で、ロゼッタは両腕を回したり、腰を曲げたり、準備運動を開始。それを見て、アリシアはきょとんとする。
「何やってるの?」
「……私がこの瓦礫をどかすから、後のことはお任せしていい?」
「う、うん、分かった!」
「じゃあ、ここから離れて。……分かってるわよ、ガット。薬は残るように調整するから。そのためのクラスフォーム、エンチャントでしょ?」
 ――どこからともなく、風が吹き込んできた。徐々に風力を増し、ただ一点……ロゼッタが掲げた右の拳に集まっていく。
「トルネード……パァーンチ!」
 ロゼッタが繰り出した風を纏う拳は、一撃で瓦礫を粉砕せしめるのであった。

※※※

「……あんた達、何やってんだ?」
 アリシアが振り返ると、そこにはメディカルセンターで見かけた少年が立っていた。 
「アナタ……ちょ、ちょっと待ってて!」
 アリシアは自分の両膝に乗せていたロゼッタの頭を、そっと地面に下ろした。クラスフォームにエンチャント、さらにはオーバーチューンによって力を使い果たしたロゼッタは、深い眠りに落ちていたのである。強制的に回復させることも可能だったが……アリシアはゆっくり眠らせてあげることに決めた。
 アリシアは立ち上がって少年に歩み寄ると、手にした白い錠剤を差し出した。
「……あんた達も、これを探してたのか?」
「うん! アリアさんのお願いでね」
「よく見つけたな。俺でも見つからなかったのに……」
「ロゼッタさんがね、頑張ってくれたんだよ!」
「姉ちゃんもだろ? そんなに汚れてさ」
「え? あちゃー、お洗濯しないと……」
「……どうしてだ?」
「え?」
「あんた達も、アリア姉ちゃんも、何で俺なんかのために……」
「助けてあげたいって思ったからだよ!」
 少年は目をぱちくりすると、俯いて、鼻の頭を掻いた。
「……へへ、そっか」
 少年はアリシアから薬を受け取ると、代わりにガラスの破片を手渡した。
「ここで拾ったって、アリシア姉ちゃんに渡してくれよ。手を切らないようにな。姉ちゃん、ありがとよ! そこで寝てる姉ちゃんにも、よろしくな!」
 少年はそう言い残し、あっという間に走り去っていった。

※※※

「見つかったんですか! ああ、良かった……!」
 メディカルセンターに戻ったアリシアは、待合室でロゼッタを休ませつつ、再びアリアの仕事を手伝う。休憩時間になると、アリアは何度も頭を下げた。
「何とお礼を言ったらいいか……」
「困った時はお互い様! そうだ、あの子がこれをアリアさんにって!」
「私に? ……こ、これ!」
 アリアはガラスの破片を目にするなり、声を上げた。
「どうしたの?」
「これは……眼鏡のレンズだと思います」
 首を傾げるアリシア。アリアはガラスの破片を見つめながら、口を開いた。
「……以前から、ここでは薬品の紛失が問題になっているんです。その度にナースが犯人だと疑われて、責任を取らされているんです。誰もが自分はやっていない、院長先生に陥れられたと主張しながら……」
「それって……」
「三日前の事件が起きた翌日、院長先生は顔に怪我をしていました。そして、怪我をするまでいつもかけていた眼鏡は……この破片と同じ色をしていました」
「あの怪我をしていた人が院長先生で、院長先生の眼鏡の破片が事件の現場に落ちていたということは……そういうことだよね?」
 アリアはこっくりと頷き、すがるような眼差しをアリシアに向けた。
「……私は、どうするべきなのでしょうか?」
 アリシアはすっと目を閉じると、静かに口を開いた。
「ワタシからは何とも言えないけど……あの子がアリシアさんにそれを託したこと、そこにヒントがあるんじゃないかな?」
 その言葉を耳にして、アリアはぽろぽろと涙を零した。
「……院長先生が、あの子が犯人だって、スラムの子供だからって……」
 アリシアはアリアを抱き締めた。ややあって、アリアは顔を上げる。
「私、警察に行きます。それでどうなるかは分かりませんが……」
「ワタシはアリシアさんが決めた道を進めばいいと思うな! もしメディカルセンターを辞めることになったら、探求者になればいいんだよ!」
 アリシアの提案に、アリアはにっこりと微笑んだ。

※※※

「……そんなことがあったのね」
 ロゼッタは目覚めたものの体が怠く、メディカルセンターを出た後は、近くにある公園のベンチに座って、アリシアの話を聞いていた。
「心の病ね」
 ロゼッタの呟きに、アリシアは首を傾げる。
「市民はメディカルセンターで治療を受ければ、大抵の病気は治すことができる……しかも、無料でね。だけど、心の病まではどうにもならないのかもね」
「ロゼッタさんは、どうすれば良かったと思う?」
「そうね……アリアは別に、院長をどうにかしたいってわけじゃないと思う。ただ公平に、正直でありたい……その意志は尊重すべきだと思うわ」
「うん、そうだね!」
「ただ、私が手に入れた現場のデータや、個人的見解……たとえば、眼鏡の破片からメーカーや顧客を割り出す方法とかを、匿名で事件担当者に送りつけても、罰はあたらないと思うんだけど、どう?」
「大賛成!」
 ……盛り上がる二人を見て、ガットは思う。これも自然な協調性なのだろうかと。



依頼結果

大成功


依頼相談掲示板

体の病と心の病 依頼相談掲示板 ( 2 )
[ 2 ] アリシア・ストウフォース  デモニック / マッドドクター  2017-08-19 23:35:04

うん、よろしくー。マッドドクターのアリシアだよー。
探し物、頑張ろうね!  
 

[ 1 ] ロゼッタ ラクローン  ヒューマン / ハッカー  2017-08-19 09:10:28

よろしくおねがいします。