【隠れた真実】手負いの刃革酎 GM) 【難易度:普通】




プロローグ


 レーヴァテイン内に幾つもある市街地の中の、とある一角。
 侵入した空賊どもの破壊行為に晒されたその住宅街は、どちらかといえば下町と呼ぶべき古い家屋の連なりで構成されている。
 この区域に侵入した空賊の大半は、既に軍や自警団などによる迎撃で討ち倒され、どちらかといえば戦闘後の処理にひとびとが奔走している光景が多く見られていた。
 ところが――。

「ねー、あのおっかないおっちゃんって、やっぱり空賊かなー?」
 六歳の少年コビーは、全身に浅い傷を負った中年の男が、半ば廃墟になりかけている街中を隠れるように駆け抜け、周囲を警戒しながら路地裏へと消えていく様を目撃していた。
 ところが、周囲の大人達はコビーの声にはまるで耳を貸さず、軍や自警団から矢継ぎ早に飛んでくる無数の指示に対応するだけで手一杯の様子だった。
 仕方なくコビーはひとりでその男が消えていった路地裏の入り口付近に、漫然と佇む。
 と、そこへコビーの遊び友達が複数名、寄り集まってきた。
「コビーちゃん、どしたの?」
「んー。何か空賊っぽいおっちゃんが居たんだ」
 まだ五歳や六歳といった年齢の子供には、空賊の恐ろしさは実感として沸いてこない。
 ただ珍しい、どんなのか見てみたいという好奇心だけが、彼等の心をむんずと掴んで離さなかった。
「ちょっと見に行ってみるー?」
「あー、行こ行こー」
 などと至極軽い調子で、路地裏へと足を踏み入れていった。
 しかしひとりだけ、警戒心が強いというよりも単純に怖がりな子供が居た。
 イルズというその五歳の少年だけは、薄暗い路地裏が非常に恐ろしく思えた為、他の友人達が臆することなく軽い歩調で路地裏へと消えていくのを眺めているだけだった。

 それから、数時間後。
 武装した空賊の生き残りが大型のマチェットを手にして、町中を逃走していたという目撃談が自警団に伝えられ、住民の間に緊張が走った。
 と同時に、何人かの子供が行方不明になっていることも併せて、伝えられた。
 消えた子供達の親兄弟は必死になって行方を探そうとするも、手がかりが全く掴めない為、ただただ半狂乱になりながら右往左往するばかり。
 そんな中で、イルズが手近に居た年若い自警団員に、小さく消え入るような声で伝えた。
「えっとね……そのおじさんだったら見たよ。コビーちゃん達が、追っかけていった」
 そのひと言で、ある住民はパニックに陥る、ある住民は目眩を起こし、またある住民は自警団や軍に怒りの矛先を向ける。
 何故、子供達を放っておいたのか。
 何故もっと、あの子達に注意を向けておいてやらなかったのか。
 だが今更悔いたところで、遅い。
 自警団はすぐさま警戒線を張り、逃げた空賊の追跡と同時に、路地裏へと消えた子供達を保護すべく、新たに人員を掻き集めに奔走し始めた。


解説


 このエピソードはグランドプロローグ「崩壊の始まり」の連動エピソードです。
 イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
 歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
 なお「崩壊の始まり」にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
 逃走中の空賊の追撃と、消えた子供達の捜索と保護が、本エピソードの主目的となります。
 以下、空賊と子供達の情報です。

<空賊:ジール・バティスタ>
 外見年齢40歳前後。
 マチェットと残弾数僅かな拳銃を所持。
 全身に浅くて細かな傷を負っていますが、いずれも致命傷ではありません。
 精神的に追い詰められており、場合によっては子供であろうとも躊躇なく殺そうとします。
 軍の追撃をかわし、ひとりで複数名の兵士を相手に廻して殺害していることからも、戦闘力は決して低くはありません。

<路地裏に消えた子供達>
 コビー・キャナン(男、六歳)青いベストと少し長めの黒髪
 フィル・エーダ(男、五歳)上下ともに白いパジャマ姿
 ケティ・メルエル(女、六歳)赤いワンピースと大きな熊のぬいぐるみで長い金髪をおさげにまとめている
 マルディオ・カズーラ(男、五歳)黒いタンクトップと半ズボン姿

 路地裏は古い建物が複雑に連なるように軒を並べており、一部は破壊されて通行出来ないところもあり、半ば迷路のような状況です。
 手負いの空賊ジールは逃げ回っていますが、どのような行動に出るのか予測がつかないところもあります。


ゲームマスターより


 本プロローグをお読み下さり、誠にありがとうございます。
 敵は決して強力ではありませんが、子供達という存在が、予断を許さない状況を生み出しています。
 ひとりでも子供に犠牲者が出たら失敗となりますので、早さが要求されます。
 狭くて迷路のように複雑な路地裏を、どのようにして捜索するのかに重点を置いてプランを考えて頂ければ、成功率は高まるでしょう。
 もし宜しければ、参加をご検討頂けますと幸いです。



【隠れた真実】手負いの刃 エピソード情報
担当 革酎 GM 相談期間 8 日
ジャンル --- タイプ EX 出発日 2017/7/4 0
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2017/7/14

 スターリー  ( フォア
 デモニック | 魔法少女 | 23 歳 | 男性 
【挽回】

・目的

空賊に行動をかける事で犠牲を出さずに済ませる

・動機

この頭の痛い状況をどうにかしねえと飯の種がどうのこうのも言ってられねえな。
今回組んだセルバンテスが地図を出してくれている。幸い迷う事はない。
後は如何に空賊をやり込めるか、だが…。

・行動

空を飛んじゃ警戒されちまう。足で探すしかないだろう。
隠れてる子供を見つけたら警戒線の人間に引き渡して、味方のハッカー経由で情報を共有したい。

追い詰めたとして、焦る賊を刺激はしたくないな。
他の面子が正面から行くなら、物陰から隙を見て賊の武器か腕を吹き飛ばしたい所だ。

事態が膠着したら一芝居打つ。俺は空賊だと騙って、追われているように見せかけて寄って…
「同族のよしみだ、逃げれば助かる場所を知っている。荷物(人質)は捨てて全力で走れ」
とでもホラを吹いてみるか。

野郎、子供から離れたら魔法で吹き飛ばしてやる。
 ファウスト・セルバンテス  ( アマーリア
 デモニック | ハッカー | 52 歳 | 男性 
【挽回】

・最優先目的
子供たちの発見に注力する

・動機
表立って荒事に突っ込むようなガラではないのだが、どこもかしこも人手が足りん。
それに子供たちは将来吾輩の教え子になるかもしれないのだからな。教師とは時に体も張らねばならんものだ。

・行動
ハッカーとして端末から周辺情報へアクセスを試みる。
煩雑な路地裏とはいえ大まかな地形データはあると考え、そのマップ情報を全体で共有する。
捜索範囲やルートを導き出し、賊の潜んでいる可能性の高いエリアや発見した子供たちを連れ出せる最短ルートを提示できるよう動こう。
4人で4人の子供を探すよりは早期に賊を片付けねばなるまい。
荒事は他の同行者に任せているが、必要であれば魔法弾の支援攻撃も手の届く範囲で行うとしよう。
 水翔  ( カノン
 エルフ | ハッカー | 20 歳 | 女性 
子供たちの近くにある電子機器をハッキングして位置を読み取る。

近くの自警団に報告後、アニマと共に救出手伝い。
 ケニー・タイソン  ( ナタリア・ウィルソン
 ヒューマン | アサルト | 35 歳 | 男性 
子供と手負いの空賊が入り組んだ同じ路地裏にいるってのかい。そりゃ、早くどっちかを見つけて対処をしないとな

とりあえず、オレは肉体派だから、現地の路地裏に飛び込んで探していくしかないな
まあ、子供たちの居場所や空賊の居場所についてはハッカーの二人(水翔、ファウストのこと)が地図やらで当たりを付けてくれるだろうから彼らの誘導に従うとして、細かいところ特に物陰や家の中は重点的に探します

子供は見つけ次第保護して仲間の元へ。空賊は見つけ次第、取り押さえるために荒事モードに移行します

対空賊については路地裏ということもあるので徒手空拳で行う
相手の武装から間合いに注意するより迅速に自分の一番得意な間合いである近接距離へ詰めていきます。
間合いを詰めたら相手の喉元や顎を目掛けてエルボーやチョップを放ち、ひるんだところをボディスラムでたたきつけます
叩きつけた後はパラダイスロックに固めておきます

参加者一覧

 スターリー  ( フォア
 デモニック | 魔法少女 | 23 歳 | 男性 
 ファウスト・セルバンテス  ( アマーリア
 デモニック | ハッカー | 52 歳 | 男性 
 水翔  ( カノン
 エルフ | ハッカー | 20 歳 | 女性 
 ケニー・タイソン  ( ナタリア・ウィルソン
 ヒューマン | アサルト | 35 歳 | 男性 


リザルト


●既に切迫していた
 薄暗い路地裏へと入る狭い通路の前で、『ファウスト・セルバンテス』は手にした支給品のタブレットをじっと凝視している。
 傍らで、ファウストのアニマである『アマーリア』がタブレットから抽出される分析データを、別の支給品タブレット端末に次々と入力していた。
 そんなふたりの姿を、自警団や地元の住民らが不安そうに覗き込む。
「よし……スキャンはあらかた済んだ。残りの分析を済ませたら、スターリー達に転送するのだ」
 ファウストはアマーリアに命じてから、小型のインカムに触れて通話モードに切り替える。
 先に路地裏に突入し、子供達と空賊の捜索に入っている『スターリー』と『ケニー・タイソン』に、三者通話の回線を開いた。
「我輩だ。今、アマーリアに路地裏の地図データと子供達の居場所、及び空賊残党が潜伏している可能性の高いポイントを転送させている」
『あぁ、受け取ったぜ。ま、子供の逃げ込む場所なんて大体相場は決まってそうなもんだが……』
 イヤホンの向こうから響く声を受けて、ファウストの頭の中ではスターリーが肩を竦めて溜息を漏らしている姿が容易に想像出来た。
 ファウストはもうひとりのハッカーである『水翔』に、スターリーと通話しながら手信号で別の指示を出した。
 水翔はアニマの『カノン』と並んで立つような位置を取り、自身に支給されているタブレット端末の画面をファウストに示した。
 そこには、路地裏に足を踏み入れていった四人の子供達が身に着けている時計や携帯端末等の電子機器からの信号発信位置が、ファウストが用意した地図に重ね合わせられる格好で表示されている。
「今、五分前に子供達が居た位置データも送る。どうやら固まって動いているようだが……いや、違うな」
 途中までいいかけて、やめた。
 ファウストは水翔が小さくかぶりを振る姿に、事の深刻さを改めて理解し直したのである。
 水翔はひとつだけ、信号が離れて移動していることを指先で指摘していた。
『何か緊急事態か?』
 ケニーの問いかけに、ファウストと水翔は揃って渋い表情を浮かべた。
「ひとりだけ、別行動しているみたい」
 水翔の言葉に、ケニーの息を呑む気配が無線通信越しに伝わってきた。
 それが何を意味しているのか――想像は簡単だった。
『空賊に捕まって、一緒に連れ廻されている可能性が高いってぇ訳か。こいつはのんびりしてられねぇ』
 ファウストと水翔が手にしているタブレットには、スターリーとケニーの位置情報も示されている。
 そのうち、ケニーの方が転送された情報をもとにして、素早く動き出している様子が描き出された。
「ひとつだけ離れている信号に、空賊が張り付いている可能性が高い。スターリーとケニーはそちらを頼む」
「なら自分は」
 路地裏で空賊の追跡を始めたふたつの信号を凝視しつつ、水翔は路地裏に向けて一歩踏み出していた。
「子供達の保護に」
 既に歩き出している水翔とカノンの後ろ姿に、ファウストは頼む、と小さく頷いた。

●芝居達者な男達
 空賊残党と子供を追って路地裏を小走りに駆けていたスターリーの視界に、十字路の右手から合流してきたケニーとアニマの『ナタリア・ウィルソン』の姿が飛び込んできた。
「何か、作戦はあるか?」
 合流するや早速問いかけてきたケニーに、スターリーは渋い表情を見せた。
 幾分の後ろめたさを感じなくはないが、今は他にこれといった良策が思い浮かばなかった。
「俺は見てくれがこれだからな、空賊の真似ぐらいなら出来るっちゃあ、出来る」
「ひと芝居、打とうって訳か」
 スターリーがいわんとしていることを即座に理解して、ケニーはスターリーの背後に控えるアニマの『フォア』に視線を向けた。
 フォアはほとんど表情らしい表情は見せず、スターリーのいっている意味を理解した様子で、ケニーに対して静かに頷き返した。
「芝居なら、オレも得意だ」
 自身の分厚い胸板を軽く打ってから、ケニーは口元を僅かに綻ばせた。
 レスラーとして上がるリングではヒール(悪役)として振る舞うことが多い上に、ナタリアとはギミック上の夫婦として時折スキットを演じることもある。
 尤も、それがアングルであることも観衆のほとんどは理解しているので、演技しているといって良いのかどうかは微妙なところではあったが。
 だが、ケニーが子供達を救いたいと思っているのは、心の底からの、本気の本気であった。
 子供達は未来の宝、というのがケニーの本懐である。
 その子供達に少しでも危害を及ぼそうという者には、例え恨みはなくとも怒りを覚えるのがケニーの偽らざる性分であったろう。
「アンタは正面から挑んでくれ。俺とフォアは横手から、事態を窺う。チャンスがありそうなら最初から一発ぶちかますが、駄目っぽいならこっちの芝居に乗ってくれ」
「合点承知だ」
 ここでスターリーは、自身が描いている騙しの口上をケニーとナタリアに、手短に伝えた。
 成程、と頷くケニーだが、しかしその芝居を空賊残党に信じさせる為には、スターリーがケニーに攻撃を加える必要性が出てくるかも知れない。
 だがそこは、レスラーとしての打たれ強さには自信のあるケニーだ。
 任せておけと胸を張った。
「だが、出来るだけお手柔らかに頼むぜ」
「勿論だ」
 かくして、ふたりの作戦会議は終わりを告げた。
 ここで両者は二手に分かれる。
 ケニーとナタリアは空賊残党の正面に出る通路に、そしてスターリーとフォアは予想逃走経路に対して直角にぶつかる通路に向けて、それぞれ走り出していた。

●子供達の安堵
 子供達の、泣き声が聞こえる。
 水翔とカノンは、足を急がせた。もしも怪我でもしていたら、すぐにでも応急手当が必要になる。
 だが、肉体的に特に優れている訳ではない水翔としては、出会い頭に空賊残党と遭遇してしまえば、たちまち討ち倒されてしまう。
 その可能性を考慮すれば、自然と歩みが鈍るのは当然といえば当然であったが、矢張りそれでも心が急いてしまうのは仕方のないところであろう。
 地図上の信号との距離が狭まるにつれて、泣き声は次第に大きくなってきた。
 単純に聞き分けただけでも、泣き声の主はふたり。
 一方は男の子、そしてもう一方は女の子だ。
 女の子は、ケティ・メルエルで間違いないだろう。もうひとり泣いている男の子の方は、誰だろうか。
 そんなことを考えながら水翔は、三つの信号が寄り集まっている路地裏奥の共同ゴミ集積場に辿り着いた。
「皆、怪我は無いかな~?」
 子供達を驚かせないよう、極力声量を抑えて静かに呼びかけてみた。
 すると、ひとりだけ泣いていない男の子が少しばかり驚いた様子を見せつつ、しかしはっきりと、そして大きく頷いた。
「おねぇさんはー?」
「自分は水翔。キミ達をお父さんお母さんのところへ連れて行ってあげる為に、やってきたよ」
 水翔の言葉に、ふたり分の泣き声がぴたりとやんだ。
 涙と鼻水で顔がもうべとべとになっているが、あどけない幼児が泣き止んで、ぼーっとした顔でこちらを覗き込んでくる姿は、矢張り何ともいえない愛らしさというか、愛嬌のようなものを感じる。
 カノンが苦笑しながら、今の今まで泣いていたふたりの子供達に、もう大丈夫だから、と優しく声をかけている傍らで、水翔はひとりだけ泣かずに頑張っていた男の子に、静かに問いかけた。
「もうひとり、お友達が居たよね? 今、どこに居るか分かるかな?」
「えっと、知らない変なおじさんが連れてった」
 その応えを聞きながら、水翔は後ろ手でタブレット端末に素早く現状を入力。
 矢張り、子供がひとりだけ、空賊残党に連れ去られた――その情報を、仲間達に送信していたのである。
 水翔とカノンが保護したのはフィル・エーダ、マルティオ・カズーラ、そしてケティの三人。
 つまり、空賊残党が連れ去ったのはコビー・キャナンという六歳の男の子ということになる。

●最後の突入者
 水翔から子供達のうち三人を無事に保護したとの連絡が入ると、路地裏に入る通路前では大きな歓声が上がった――が、それも束の間で、コビーが現在、空賊残党に連れ廻されている事実が報告されると、再びその場は水を打ったような静寂に包まれた。
 誰もが一様に、息を呑んでいる。
 その中でファウストだけは至極冷静に、現況分析を進めていた。
「定点カメラ映像からの分析結果を送る。賊はマチェットひと振りを装備。更に拳銃と思しき小火器をホルスター内に収めている模様」
『負傷している様子は?』
 スターリーが無線通話回線の向こうから、訊いてきた。
 ファウストは、うむ、と小さく唸ってから、ひと呼吸置いた。
「全身に細かな負傷が見られる。血痕が路上に点々としているが、命に別状は無さそうだ。余力はまだ十分に残していると見て良い」
 伝えてから、ファウストはアマーリアに突入準備を指示した。
 また自警団に対して、保護した三人の子供達を迎えに行くようにとの言葉も忘れない。
「エーダご夫妻、カズーラご夫妻、メルエルご夫妻はここで待機して頂きたい。下手に路地裏内で感動の再会などして喜びの声を上げられては、賊に余計な警戒心を抱かせてしまう」
 三人の子供の両親達はそんな殺生な、という顔つきでファウストを見たが、自警団の面々はファウストの言葉が正しいことを理解している様子で、三組の夫婦をここで待つようにと説得してくれている。
 後は、ファウスト自身がアマーリアを連れて空賊残党の対処の応援に向かうだけだ。
「ここに居る子供達も将来、我輩の教え子になるかも知れん。ならば、我輩も身を削らねばな。教師とは時として、体も張らねばならん職業よ」
 やや自嘲的にひとりごちてから、ファウストはタブレット端末を腰から吊るしている簡易サックに放り込み、気を引き締め直した。
 心なしか、アマーリアも緊張しているような顔つきだ。
 アニマでも緊張することがあるのか、などと悠長な疑問を抱きつつも、ファウストは路地裏へと踏み込んでいった。

●乗せられた空賊
 路地裏の最も奥まった三叉路で、ケニーとナタリアはコビーを後ろから抱きすくめる格好の空賊残党と対峙していた。
 コビーは泣き出しそうな顔だが、恐怖の余り声も出せずに硬直しているようだ。
 そしてそのコビーの首元には、マチェットの刃先が軽く触れていた。
 ケニーとナタリアは空賊残党と正面から鉢合わせる形で遭遇したのだが、その時、空賊残党は迷わずコビーを人質に取った。
 恐らく、追手に追いつかれた際には最初からそのように行動すると決めていたのだろう。
 その全く迷いもない咄嗟の動きに、ケニーは怒りが込み上げてくると同時に、呆れてもいた。
 ケニーの実力からいけば、真正面からのタックルで空賊残党を取り押さえるぐらいのことは出来たかも知れなかった。
 だが相手は、子供を人質に取っている。
 ケニーは早々に、肉弾戦を挑んでの身柄確保は諦めた――少なくとも、今の時点では。
 しかしながら、布石は打ってある。
 ファウストの助言通り、空賊にはケニーから見て左手方向に逃げる道を作っておいた。
 まだ逃走出来る可能性がある、という安心感は、多少なりとも殺意を抑える心理作用が働く筈であった。
 そしてここで予定通り、スターリーが現れた。
 人質に扮したフォアの背後を取る形で三叉路に踏み込んできたスターリーに、空賊残党は若干ながら、驚きの色を浮かべた。
「どうやらアンタも、ここで袋のネズミになっちまったようだな……だが、望みはあるぜ」
 後ろ手に両手首を縛られ、目隠しをされているフォアの首元から、スターリーは空賊残党に呼びかけた。
 そのひと言に、空賊残党は食いついてきた。
「本当なのか……お前、行き方が分かるのかッ!?」
「あぁ。逃げれば確実に助かる場所を知っている……が、お荷物を抱えたままじゃ、無理だ」
 身軽になって全力で走る必要がある、とスターリーは付け加えた。
 お荷物とは即ち、人質だ。
 スターリーの提案が余程魅力的に聞こえたのか、空賊残党は口元をニヤリと歪め、ケニーを見た。
「このガキが欲しいなら……くれてやるぜッ!」
 叫ぶやいなや、空賊残党はコビーを手放し、その背中を蹴飛ばした。
 小さな幼児の体躯は弾かれるように前のめりに跳んで、レンガ積みの壁に激突しそうになる。
 そこへ、ケニーの大きな体が割って入り、コビーの為に自身の肉体を緩衝材とした。
 その隙を突いて逃げる空賊残党。
「おい、行くぜ……案内しろッ!」
 声高に叫ぶ空賊残党に倣うようにして、スターリーもフォアを手荒に放り出す芝居を演じた。
 が、その直後に空賊残党は、声にならない悲鳴を上げた。
 スターリーの放った魔力による一撃が、空賊残党を背後から襲ったのである。
「て、てめぇ……何しやが……ッ!」
 が、そこで空賊残党の声が途切れた。
 コビーをナタリアに預けたケニーが、空賊残党の脇腹に痛烈な肉弾攻撃を叩き込んでいたのだ。
 頭から突っ込むような姿勢での、右肩に全体重を乗せたショルダーアタック。
 スピアーと称されるその技は、ケニーの巨躯とパワーがあって初めて最大の効果を得るといって良い。
 更にそこへ、追いついてきたファウストが遠隔からの援護射撃を加え、同時にスターリーが残る力全てを叩き込んでの魔力攻撃を加える。
 既に負傷で体力を失っているところにケニーのスピアーで相当なダメージを受けた空賊残党は、最早それらの一斉攻撃に耐えるだけの防御力も気力も、残していなかった。

●未来の報酬に向けて
 結局、空賊残党――後に、ジール・バティスタと名乗ったという――は、然程の抵抗もしないままに取り押さえられた。
 最初、ケニーはパラダイスロックなる技で空賊残党の手足を封じ、その上で取り押さえようと試みたのだが、この技は実は仕掛ける側よりも、仕掛けられる側にある程度の柔軟性が無いと中々完成しないという隠れた欠点があり、緊急を要するこの場では、思うように技がかけられなかった。
 そこで仕方なく、ケニーは空賊残党の背後を取ってチキンウィング・フェイスロックでぎりぎりと締め上げることにした。
 駆けつけてきた自警団や水翔といった面々は、嬉々とした表情で空賊残党を締め上げるケニーに、呆れて苦笑を浮かべるしかなかったという。
 その後、保護された子供達はそれぞれの両親達に喜びの涙を持って迎え入れられたが、当然ながら、安堵した後にはこっぴどく叱られていた。
「ま……あの子達には良い教訓となったことだろうね~」
 空賊の恐怖ではなく、今度は親に叱られる怖さでギャンギャンと泣いている子供達を眺めながら、水翔は可笑しそうに肩を小さく揺すった。
 その傍らでスターリーが、納得いかんとばかりにぼやく。
「中々シビアな依頼だったんだが、その割には報酬が少ないように思えてならねぇな」
 だがそのスターリーに対して、ファウストとケニーが揃って苦笑を並べる。
 彼らにとっては、子供達が無事に保護されたという安堵感こそが、最大の報酬だった。
「情けはひとの為ならず、といってな。あの子達を救ったことがいずれ巡り巡って、自分自身の幸運になって返ってくると思えば安い報酬でもなかろう」
「同感だ。子供こそ、人類の宝だからな」
 ファウストとケニーの満足そうな笑みに、しかしスターリーは尚も納得のいかない表情で小さくかぶりを振った。
 どうやら彼等とは、価値観が少しばかり異なるらしい。
「次からは実入りの良い依頼を探すしか、ないんじゃないかな~?」
「……だな」
 水翔の言葉に、スターリーは素直に頷くしなかった。




依頼結果

成功


依頼相談掲示板

【隠れた真実】手負いの刃 依頼相談掲示板 ( 14 )
[ 14 ] ケニー・タイソン  ヒューマン / アサルト  2017-06-30 01:18:24

じゃあ、こっちは荒事担当かな。
路地裏に追い詰めるにしろ取り押さえるにしろ、多少の荒事になるだろうからな  
 

[ 13 ] スターリー  デモニック / 魔法少女  2017-06-29 23:49:26

待っていた。
オーケー、ハッカーが2人か。じゃあ誘導やらは任せて詰めの部分をどうにかするか…。  
 

[ 12 ] 水翔  エルフ / ハッカー  2017-06-29 17:01:06

遅くなってすまない。
自分は近くにある機械をハッキングして子供たちを誘導するつもりだ。  
 

[ 11 ] スターリー  デモニック / 魔法少女  2017-06-29 00:42:37

正面から事を起こして短気を誘ってしまうのは不味い。

・誘導して追い詰めて囲む
・喋りで時間稼ぎをして焦り始めた所を強引に取り押さえる
・空賊になりすまして油断を誘う

辺りしか思いつかねえ。  
 

[ 10 ] スターリー  デモニック / 魔法少女  2017-06-29 00:37:12

となると地図からあたりを付けて歩きで探すっきゃねえか…。ま、それはハッカーのセンパイにお任せするとして。

後は空賊と人質への対応か。
見つけた時点でPTに知らせて、そこからどうするかだな。  
 

[ 9 ] ファウスト・セルバンテス  デモニック / ハッカー  2017-06-27 20:26:24

あとは…そう。エスパイロの使用も人質という可能性を考えるのならば控えた方がよいのではないか?
逃走手段となる足を見せてしまった場合、「エスパイロと交換するため」に無理に人質を取る可能性がある。  
 

[ 8 ] ファウスト・セルバンテス  デモニック / ハッカー  2017-06-27 20:22:05

空賊である以上、空からの警戒は最も高いといえるであろうな。
吾輩はハッカーであるが故、まずは該当区画のMAPを手に入れてみようと思う。
狭い路地とはいえ隠れることのできる場所は限られているはずだ。  
 

[ 7 ] スターリー  デモニック / 魔法少女  2017-06-27 20:17:08

すまん被った。何分文字数が少なくてな。
思う事があればどんどん言ってくれりゃ助かる。  
 

[ 6 ] スターリー  デモニック / 魔法少女  2017-06-27 20:16:05

・どう空賊を探すか
エスパイロで空から探す、っていうのは難しいだろうな。警戒させちまうかもしれん。

・人質の救出方法
アニマを囮に人質を増やさせようとして隙を狙うか
空賊になりすまして油断を誘うか?  
 

[ 5 ] ファウスト・セルバンテス  デモニック / ハッカー  2017-06-27 20:15:56

ふむ…全員が人質という線はやや薄いのではないかと考えるな。
逃亡中の賊は1人という話だ。手練れとはいえ4人もの子供を捕らえておけるとは思えん。
なにせ1人いれば人質は十分なのだからな。  
 

[ 4 ] スターリー  デモニック / 魔法少女  2017-06-27 20:12:16

時間がねえってのに考える事は山ほどあるな…挨拶は済んでないが始めようか

・子供が全員人質になっているのかどうか
バラバラなら保護して警戒線の人間に引き渡せば問題ない。全員人質の場合は言うまでもないな  
 

[ 3 ] ケニー・タイソン  ヒューマン / アサルト  2017-06-26 00:26:26

複雑に入り組んだ路地裏に子供と手負いの空賊か。これは厄介なこと極まりないぞ。
今見えている情報以上のことを想定したうえで動かないといけないかもしれないな  
 

[ 2 ] ファウスト・セルバンテス  デモニック / ハッカー  2017-06-25 21:45:26

二重の意味であまり時間的余裕はないようだが、よろしく頼もう。
さて子供らはまだ固まって行動しているのか、散り散りになっているのか……思う以上に厄介だなこれは。  
 

[ 1 ] スターリー  デモニック / 魔法少女  2017-06-25 21:42:32

手がかりなしとは参ったな。だがガキを4人も連れて警戒線を突破できるとも思えん。
…家屋の中に隠れてるんだろうな。
空賊が人質は1人で十分な事に気付いたら面倒だ。さて、どうするか…。