【TI】鏡よ鏡埴輪 GM) 【難易度:簡単】




プロローグ


 表立っては口にされないが、世の中には『おいしい話』というものが存在する。
 多くの探究者が参加したトレジャー・アイランドの探索では、ピラミッド内部での『宝箱の解錠と中身の回収』という任務が、実に『おいしい話』であった。
 何しろ、ピラミッド内部は先行隊が露払いをし、安全が確保されているのだから、その労働環境たるや驚きのホワイトさだと言えよう。
 もちろん、危険がないわけではなかった。宝箱には罠がつきものである。ただ、その点に関しても、今回の任務は安全であると言えた。なぜなら、行く先々で見つかる宝箱は、同じ任務を請け負った同業者が先んじて開けたものばかりで、残されているものは先行隊が退治したであろう、人面のモンスターの亡骸ばかりだったからである。
 これでは『おいしい話』どころか『成果なし』……探究者の名折れだ。幸い、ピラミッドは広い。誰も見つけていない宝箱があるはずだと、歩みを進めるしかなかった。

 ※※※

 ガラスと鏡が多用されたピラミッド内部は複雑怪奇で、行けると思った道で頭をゴチン……行き止まりということも少なくない。それならば、行き止まりだと思った道こそ行けるのではないか……そんな機転を利かし、未開封の宝箱を発見した探究者がいた。
 宝箱には鍵もかかっておらず、探究者はそれを開けた――と、光が溢れ、探究者は目を閉じた。やがて目を開けると、空っぽの宝箱が……。落胆を隠せない探究者に、アニマ『達』は慰めの声を重ねる。探究者が振り返ると、そこにはアニマが『2人』いた。



解説


 本エピソードの目的は、2人に増えたアニマのどちらが本物かを見極めることです。見極めない限り、アニマはその場から離れることができませんので、ピラミッドの外へ出ることはできません。(アニマを見捨てて逃げる? ……とんでもない!)

 外見的な特徴に加え、声や口調も全く同じなので、見分ける方法はただ一つ。それは、プレイヤーキャラクター(以下PC)とアニマが共有する『思い出』です。
 アニマの偽物はここ一年の記憶もコピーしていますが、それ以前のことは知りません。そこで、PCとアニマだけが知っている情報……『思い出』を話すことで、本物のアニマを見つけることができるでしょう。

 『思い出』はどんなものでも構いませんが、公序良俗に反するような内容ですと、『謎の力』によって公開できなくなる可能性もありますので、ご注意下さい。
 また、『思い出』とまではいえないような、ちょっとした約束や出来事でも構いません。大切なのはPCとアニマの絆であり、そのカタチは人それぞれなのですから。

 『思い出』をプランとしてご記入頂く前に、ぜひ『プレイヤーガイド』の『アニマ』の項目をご覧頂ください。この世界におけるPCとアニマの関係を確認することで、素敵な『思い出』が見つかるかもしれません。

 本エピソードは大規模作戦【トレジャー・アイランド】での任務に関わらず、自由にご参加頂けます。そのため、『同時刻に2つの場所で活躍した』という状況が起こり得ますので、その矛盾点に関してはご容赦頂きますようお願い申し上げます。

 本エピソードは単独行動(PCとアニマ)を想定しておりますが、ぜひこのPCと一緒に行動したいなどのご要望がございましたら、『依頼相談掲示板』で打ち合わせの上、プランにその旨をお書き添え頂きますようお願い申し上げます。


ゲームマスターより


 本エピソードはジャンルこそ『冒険』とさせて頂きましたが、戦闘もなく、PCとアニマが共有する『思い出』さえあればクリア可能ですので、お気軽にご参加ください!

 プレイヤーの皆さんが、ご自身のPCとアニマについてより深く考えるきっかけとして、本エピソードをご利用頂ければ幸いです!



【TI】鏡よ鏡 エピソード情報
担当 埴輪 GM 相談期間 4 日
ジャンル 冒険 タイプ EX 出発日 2017/10/31
難易度 簡単 報酬 少し 公開日 2017/11/04

 フランツ  ( レプリカ
 ドワーフ | アサルト | 23 歳 | 男性 
 ロスヴィータ・ヴァルプルギス  ( アダム
 デモニック | ハッカー | 15 歳 | 女性 
まさか、アダムが二人になるとは……。
禁断の知識を求める我としてはこの仕掛けが大いに気になるのだが、今はこの事態をどうにかする方が先だな。

昔の思い出……我が『魔女』を目指そうと思った頃なら大丈夫か?
幼少時から空想好きで夢見がちだと笑われていたが、「なら夢を現実にすれば良いのです」とアダムは励ましてくれたな。
『混沌の魔女』の二つ名はアダムと一緒に考えたものだし、これならいける筈だ!

って、あああ! 最初の頃に考えていた必殺技も覚えてたのか! あれは流石に無いと封印していたのに記憶力が良いな!

……と、色々あったがアニマと昔の思い出を振り返るのも良い経験だな。
む? もしやこれがこの宝だったのだろうか?
 鉄海 石  ( フィアル
 ヒューマン | マーセナリー | 15 歳 | 男性 
鉄海石側アクション
心情、行動
まいったね…てっきり目くらましの間に閉じ込められたとか、毒とか麻痺ガスなどの状態異常のトラップだ!というのだと思ったらアニマが二人とか完全に想定してなかった、しかも明らかに性格が別なら簡単だったけどこれほどまでにコピーされてると判断に困る…
一通り質問したけどほとんど同時に同じ政界の答えを回答…
どうすれば…いや待てよ?逆にフィアルが絶対にわからないことを質問したらいいのか、数年前ワールズ教の教会で習った死後の世界の事に関してはフィアルはことごとく聞くのを嫌がりスリープモードでも使ってたのかずっと寝てた感じがしてたし…逆に素直に答えられたら本物という事で。
 エルマータ・フルテ  ( アル
 ドワーフ | スナイパー | 18 歳 | 女性 
アルが二人に増えてしまった!
情けないが全く見分けがつかない上に、言動も性格も同じに見える。
試しに昨日の夕食について聞いてみる。(答えは恐らく二人とも「パスタ」だろう)
直近のことでは差がつかないのなら、もっと昔の話を振ってみよう。
という訳で、自分が子供の頃の『思い出』を話してもらおう。
まだ自分が幼かった時、早く銃を作りたいという気持ちが逸って、勝手に工房に入って銃をいじった事があった。
父に見つかって、凄い剣幕で叱られた。当然だ。子供がいじるには危険すぎる。
悪いのが自分だと分かっているこそ、とても落ち込んだ。そんな時、アルはずっと側で自分を慰めてくれてた。
あの時立ち直れたのは、アルのおかけだ。
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 
・フィール

え?アルフォリスが……二人!?一人でも私の手に負えないのに……ええ本物はどっちー(棒読み)

記憶喪失の私…一年前程度の記憶しかない私には、これって厳しいんじゃ…?

くっ!み~らくるくる☆マジカルに賭ける!

・アルフォリス

ちっ…我がデータをコピーした程度の偽者風情が!(この様子じゃと、我の暦上ちょうど一年の記録をコピーしたらしいの。ギリギリじゃな……)

しょうがないぞい。フィールがカンナカムイで目覚めた最初期の写真を見せてやるぞい。一年とすこーし前だから問題あるまい!
目覚める直前の乱れたボロ服姿のデータじゃー!(じゃじゃん、とカンナカムイの建物の影で、だらしなく寝てる姿の写真データを提示)
 レイ・ヘルメス  ( UNO
 ドワーフ | ハッカー | 44 歳 | 男性 
ほう…まさに瓜二つだ
さて、どちらが本物なんだろうか
……Good。正解だ。昔少し話したことだったがよく覚えていたね
(偽物に対し)お前もよく頑張った方だ

二人になったUNOを見て感心
純粋な好奇心に駆られる
ここ一年の記憶はコピーしてるとのことだがボロを出さないか暫く二人を様子見
存外にも本物のUNOにそっくりで驚く

◆共有の思い出
何故俺がUNOと名付けたか


アドリブ多め希望ですので敢えてプランは少な目にお送りします
宜しくお願いします
 メルフリート・グラストシェイド  ( クー・コール・ロビン
 ヒューマン | スパイ | 14 歳 | 男性 
ふむ、外れかと思ったが…なかなかに面白い。ヒトの虚像ではなくアニマの虚像とはな。
このピラミッドが作られた時代には既にアニマにあたる存在がいたという訳か。

このような仕掛けがあるという事は少なくとも対策をとる必要がある程度には一般的であったと。
ますます気に食わん話が飛び出してきた。
アニマとはいったい何のために生み出されたのか…まさか今と同じ用途ではあるまい。

まあ、ここでそれを考えたところで答えは出ないか。
それで?君達はどちらが本物だ?
…どうにも、付き合いが短いせいか決定的な答えは出ないな。
まあいい。クー、こっちのお前が本物だろう。答えろ。
質問は君と会って、扉を開ける前に僕が君に話した言葉、だ。
 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
ラビッツが二人!?…へー…触り心地も一緒-頬伸ばした時の反応も一緒ーおもしろーい!
とりあえず、実験しないとだね…ヒヒヒ、覚悟してねェ?
…なぁんて、嘘だよ!流石にラビッツに酷いことはしないって!…少しだけ本気だったけど

おふざけはここまでにして…思い出話かー
あ!一年前までおねしょしてたとかは!?…嘘つくなって?もー冗談通じないんだからー
ダブルで怒られると騒がしいなーあ!じゃあ、初めて会った時のことは?会った初日から、ワタシがラビッツを揶揄って遊んだ時に、こうして怒ってくれたよねー親は怒ったりとかしないから新鮮で今も覚えてるんだよー覚えてる?…明らかに挙動不審なキミはラビッツじゃないね。バイバイ

参加者一覧

 フランツ  ( レプリカ
 ドワーフ | アサルト | 23 歳 | 男性 
 ロスヴィータ・ヴァルプルギス  ( アダム
 デモニック | ハッカー | 15 歳 | 女性 
 鉄海 石  ( フィアル
 ヒューマン | マーセナリー | 15 歳 | 男性 
 エルマータ・フルテ  ( アル
 ドワーフ | スナイパー | 18 歳 | 女性 
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 
 レイ・ヘルメス  ( UNO
 ドワーフ | ハッカー | 44 歳 | 男性 
 メルフリート・グラストシェイド  ( クー・コール・ロビン
 ヒューマン | スパイ | 14 歳 | 男性 
 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 


リザルト


■刺繍とアニマ(フランツ) 
 ――チクチクチクチク。
 『フランツ』は空っぽだった宝箱に腰を下ろし、機巧の両腕を器用に動かしながら、布を縫い続けていた。黒い肌を持つ、筋肉質なドワーフ男性。ペールグリーンの髪はやや長め丈の坊主頭で、手元を見るその瞳は警告灯のようなイエローをしている。
 そんなフランツを見守る二つの影……全く同じ容姿、表情をしているのは、アニマの『レプリカ』達であった。澄み渡る空か零れ落ちたかのような、スカイブルー一色の少女。長い髪をなびかせ、ちょこまかと飛び回るその姿は、まるでおとぎ話の妖精のようだ。
「……まぁ、こうなる気はしたんだけどねー」と、レプリカ。
「まさか、こんなことになるなんてねー」と、これもレプリカ。
 ピラミッドで見つけた宝箱をフランツが開けた途端、光に包まれ二人に増えてしまったレプリカ。もちろん驚いたのだが、同様に驚いて然るべきフランツは無反応。しかも何を思ったのか、その場で持参した布を縫い始める始末……こんな状況になっても相変わらずなフランツに対して、失望と共に安堵も感じるレプリカであった。

 ――やがて、フランツはおもむろに手を止めた。布に刺繍できる場所がなくなったからである。フランツは立ち上がり、その場から離れ――。
「フランツってば! ちょっと待ってってばー!」
 レプリカ達が必死に呼び止めると、フランツは振り返った。
「私、ここから動けないの! きっと、こいつのせいよ!」
 お互いを指さすレプリカ達。
「このまま離れ離れになったら、私、死んじゃうよー!」
 ――アニマに厳密な死というものはない。ただ、停止するだけだ。それでも……と、レプリカは思う。このまま、フランツが行ってしまったら……。
 だが、フランツは引き返して来た。刺繍を終えた布をレプリカの一人に投げる。選ばれたレプリカは思わず手を伸ばしたが、刺繍はその手をすり抜けて地面に落ちた。すると、選ばれなかったレプリカはその姿を消す。フランツは落ちた布を拾い上げると、何事もなかったかのようにに歩き始めた。
 ――レプリカはフランツに尋ねたかった。どうして自分が本物だと分かったのかと。でも、それを口にすることはできなかった。きっと返事はないだろうし、フランツにとってはどちらでも良かったのではないか……そんな気がしたから。
 もし、もう一人の私が選ばれていたとしたら……消えたのは私だったかもしれない。だが、レプリカはそれでもいいと思った。なぜなら、自分はフランツに命を救われた身なのだから。それに、フランツは引き返してくれた。私を必要としてくれた……それだけ十分だと、レプリカは思うのだった。



■魔女の宝(ロスヴィータ・ヴァルプルギス)
 まさか、『アダム』が二人になるとは……。
 顔の前で手の平を広げ、指の間からアニマのアダム達を覗き見ているのは、『魔女』を自称するゴスロリデモニック少女『ロスヴィータ・ヴァルプルギス』だった。アニマが二人に増えるという異常事態を前に、ロスヴィータの赤い左目と青い右目に灯った好奇心の炎は燃え盛っている。それもそのはず、『禁断の知識』を求めるロスヴィータにとって、このような仕掛けは大好物だったからだ。ああ、やはり私は、世に混沌をもたらさずにはいられないのだろうか……。
 ――そんな主人の陶酔を、アダム達は眼鏡越しの冷静な眼差しで見守る。アダムにとっては見慣れた主人の姿ではあったし、それをこんな状況下でも貫いているのは、称賛に値するのではないかと、アダムは思うのだった。

 ともあれ、今はこの事態をどうにかするのが先だな……ロスヴィータは「こほん」と咳払いを一つ。「あーあー」と声の調子を整えてから、アダム達を指さした。
「我は汝らに問う! どちらが真なる我が僕なのかと!」
「私です」
 二人のアダムは全く同じタイミング、イントネーションで答えた。ロスヴィータは内心の動揺を隠し――たつもりになりながら――言葉を続ける。
「ふふ、今のはまだ序の口よ! えーっと、その、次なる一手はだな……」
「ご提案があります」
 二人のアダムが同時に手を上げ、揃って言葉を口にする。
「この現象については不明な点が多いものの、私は何らかの方法によってコピーされたのだと思われます。ただ、あの一瞬でその全てをコピーすることは困難なはず。私には……アニマには実体がないため、表面的な要素のコピーは比較的容易だろうと思われますが、その一方で、内面的な要素はその限りではありません」
「えーっと……どういうことだ?」と、ロスヴィータは小首を傾げる。
「より多くのデータ……記憶を持っている方が本物だということです。それを試すならできるだけ古い、昔の思い出が良いでしょう。もしそれでも見分けがつかなければ、どちらも同等な存在だということですから、どちらでもお好きな方をお選びください」
「お選びくださいって、それでいいのか?」
「よくはありません。私はただ、客観的に事実を述べたまでです」
「……ううむ。昔の思い出か」
 ロスヴィータは幼少時代を思い返してみたが、正直、余り良い思い出はなかった。空想好きで夢見がちだと笑われる日々……そんな中、ロスヴィータはアニマ……アダムを得たのである。常に行動を共にするアニマに、空想癖がバレないはずもなかった。ただ、それを知ったアダムが自分にかけてくれた言葉は……ロスヴィータはくすりと笑う。
「どうしましたか?」と、アダム。
「……覚えているか? どんな空想をしているのですかと尋ねられた我が、その全てをぶちまけた時、『夢を現実にすればいい』と、アダムは我を励ましてくれたな。今にして思えば、あれこそ我が魔女を目指そうと思ったきっかけだったのだ」
「ええ、覚えています。ただ……」
「どうした?」
「今の状況を考えると、その言葉は何だったのかと、私達に尋ねるべきだったのではありませんか? それを主が自ら喋ってしまっては――」 
「あーっ! い、いや、ちょっと待って! 今のはなし!」
「……では、こうしましょう。その時、一緒に考えたものもありましたよね?」
「そ、そうだ! その時、私の二つ名である『混沌の魔女』が――」
「主……」
「あ……」
 しょんぼりとするロスヴィータを見て、アダムは優しく微笑む。
「安心して下さい。思い出なら、他にもたくさんあるじゃないですか?」
「他にも……?」
「堕天使の闇炎」
「!」
「滅殺の閃光」
「あ、アダム、ちょっと待――」
「罪過の牢獄」
「やめろ! 流石にそれはないと封印していた必殺技を口にするんじゃない!」
「他にもまだまだ……って、あら?」
 アダムが目をやると、もう一人の自分はいつの間にか姿を消していた。 
「自分が本物ではないと認めたのでしょうか?」
「……その代償は大きかったがな」
「主……私の言葉、覚えていてくれたんですね」
「忘れるものか。……ただ、結局お宝はなしか」
「残念でしたね」
「……まぁ、色々あったが、時には昔の思い出を振り返るのも良い経験だな。いや、もしやこれこそ、宝だったのではあるまいか?」
「そんなドヤ顔で言われましても……」
「う、うるさい! さぁ、いくぞ! 我は禁断の知識を求める魔女、世に混乱を!」



■ワールズ教の教え(鉄海 石)
 ――まいったね、と『鉄海 石』は腕を組んだ。石はやせ気味の体に神官戦士のような服を身につけた、ヒューマンの少年である。てっきり目くらましの間に閉じ込められたとか、毒とか麻痺ガスなどの状態異常トラップかと思ったら、アニマが二人に増えるなんて完全に想定していないことだった。それに……と、石は青い髪をした少女達を見比べる。これほどまでにコピーされていると……その、なんだ、判断に困る。
 ――ただ、本当に困っていたのは、増えてしまったアニマの『フィアル』だった。私のコピーとかなにこれ! 信じられない! ……も、もしかして、これは選ばれなかった方が消えてしまうという、凶悪な罠なのでは!? ……だが、そんなフィアルが何よりも恐れていたのは、自分が消えてしまうことよりも、それによって偽物に石が取られてしまうということだった。……嫌です! それだけは、絶対に嫌ですっ!!

 石はしばらく考え込んだ後、フィアル達に向かってこう切り出した。
「これからいくつか質問するよ。答えられなかったら偽物……ということでいいね?」
「わ、分かりました! でも、簡単なのにしてくださいね!」と、フィアル達。
「……じゃあ、俺の名前は?」
「鉄海 石!」
「年齢は?」
「15歳!」
「身長は?」
「150センチ!」
「出身地は?」
「カンナカムイ!」
「俺が探究者になった理由は?」
「私とイチャイチャしたいから!」
「……なんだって?」
「ふふ、冗談です! 修行のためですよね!」
 その一言一句まで、全く同じ返答をするフィアル達。――まいったね、と石は再び腕を組んだ。二人とも同じことを知っているんじゃ、どうしようも……いや、待てよ? それなら、フィアルが絶対に知らないことを質問すれば……。
「じゃあ、次の質問だ。数年前、ワールズ教の教会で習った死後の世界の名前は?」
「ピソ界!」
 ――そう答えたフィアルは、一人だけだった。石は黙ったままのフィアルを促す。
「答えられないのかい?」
「……いえ、答えたくないんです。死後の世界なんて、意識したくありませんから」
「なるほど。じゃあ、君が本物のフィアルだね」
 石がそう口にした瞬間、もう一人のフィアルはふっとその姿を消した。石は残ったフィアルが唇を尖らせているのを見て、数年前の出来事を改めて思い返す。あの時、フィアルは説教を聞きたくないと不貞寝をしていたのだった。
「……フィアルの不信仰が、こんなところで役立つなんてね」
「だからって、私が嫌いな死の話をするなんて、意地悪です!」
「悪かったよ。さぁ、行こうか。まだどこかに幸運があるかもしれないしね」
 歩き出した石に寄り添いながら、フィアルは消えてしまった自分のことを考える……彼女はピソ界に行けたのだろうか、と。そして、フィアルは石の背中に問いかけるのだった。私は……アニマは、死後もあなたと同じ世界に行くことができるのでしょうか、と。



■銃の思い出(エルマータ・フルテ)
「……まぁ、仕方ないよ。こういうこともあるよね、エルさん」
「うん……そうだね……って、ええっ!? アルが二人? どうなってるのこれ!?」
 ――空っぽの宝箱に落胆し、励まされた『エルマータ・フルテ』が振り返ると、アニマの『アル』達が立っていた。狼のような耳と尻尾も、白いワンピースも、青いリボンの髪飾りも、そっくり同じ。まるで合わせ鏡のよう……そりゃ、どこもかしこも鏡だらけだけど……と、エルはゴーグルを額に上げた。鮮やかな水色の髪を長く伸ばしたドワーフ女性のエルは、グローブをはめた手で胸元のペンダントをいじりながら、赤い瞳でアル達を見比べる。こうして眺めている分には微笑ましいのだけれど……。
「えーっと、試しに聞くけどさ、あたしが昨晩食べた――」
「パスタですか?」
 アルは揃って答えた。まぁ、そうなるよねと、エルは首を捻る。うーん、どうすればいいんだろう? 銃の扱いならお手の者だけど……と、エルはふと思いついたアイディアに口元をほころばせた。やっぱり、あたしといえば銃よね!
「あたしが小さかった頃、父さんの工房へ忍び込んだことがあったの、覚えてる?」

 ――あの日のことを、あたしは一生忘れないだろうなとエルは思う。エルの父親はログロムで銃工房を営む職人だった。そんな父親の背中を見て育ったエルは、幼いながら自分も銃を作りたいと思うようになる。だが、早く銃を作りたいとせがむエルに、父親はもっと大きくなってからと言い続けた。その理由が、今のエルには痛いぐらいよく分かる。銃を扱うことは、命を扱うことと同義だからだ。
 銃はカッコいいし、芸術品のような美しさもあるが、その本質は武器である。扱い方を学べば子供だって簡単に命を奪うことができる。そんな銃を作ることが、危険と無縁でいられるはずもなかった。銃は作って終わり、というわけにはいかないのだから。
 幼いエルも銃を作るのが危険なことだとは思っていた……思ってはいたが、分かってはいなかった。だからこそ、深夜に誰もいない工房へと忍び込み、自分の銃を作ろうとしたのである。見よう見まねでパーツを組み上げ、銃のようなものを手にしたエルは、試し撃ちをしようとしたところで、不審に思って起きてきた父親に発見された。
 ……あの時の父親の剣幕といったらなく、今思い出しても恐ろしいぐらいで、ようやく自分のやってしまったことの重大さを悟り、涙と震えが止まらなくなったエルを、ずっと側で慰め続けてくれたのが、アニマのアルだった。
 工房に忍び込もうとするエルを、アルはもちろん止めようとした。だが、聞く耳を持たなかったエルは、父親に怒られたのはアルのせいだと理不尽の極みのようなことすら喚き散らしたが、それすらもアルは「ごめんね」と受け入れた。……今でこそ、妹のような存在のアルだが、当時のエルにとってアルは姉のような存在であり、随分と甘えてしまったなぁと、エルは恥ずかしなる。でも、そのお陰で立ち直り、今も銃を作り続けていられるのだから、アルはやっぱり姉なのかもしれないと、エルは思うのだった。

 エルが懐かしそうに語る思い出話に、アル達は相づちを返しながら耳を澄ませていたが、やがてエルが語り終えると、アルは一人になっていた。
「……あれ? どこに行っちゃったんだろ? もしかして、白昼夢?」
 首を傾げるエルに、アルはどこか遠くを見ながら呟いた。
「うらやましい」
「え?」
「エルさんが話している途中で、そんな声が聞こえたんだよ。そして、彼女は消えてしまった……あのボクには、エルさんとの思い出がなかったから」
「……そっか。何だか可哀想なことをしちゃったね。何も消えなくなって……一緒に行くことはできなかったのかな?」 
 エルは辺りを見回し、こくりと肯いた。
「あたしは忘れたくないな。少しの間だったけど、もう一人のアルがいたってこと」
「ボクも忘れません」
「じゃあ、行こうか! ……あ~、何だか家に帰りたくなっちゃたな~!」
 そう言って歩き始めたエルは、ふと振り返った。ありがとう……そんなアルの声がどこか遠くから聞こえたような気がしたから。



■魔法少女の禁じられた過去(フィール・ジュノ)
「ちっ……我がデータをコピーした程度の偽物風情が!」
「何を言うか! 偽物はおぬしの方じゃろうが!」
 ――激しい舌戦を繰り広げるアニマの『アルフォリス』達を遠目で眺めながら、ぼん、きゅっ、ぼんとスタイル抜群なヒューマン女性『フィール・ジュノ』は、指先で黒髪をいじっていた。一人でも私の手に負えないのに……ただ、そのターゲットが自分ではなくアルフォリス自身だというのは、控えめに言っても面白い。うん、いい気味だ。
「何を笑っておるのじゃ! この一大事だというのに!」
 アルフォリス達の言葉がハモる。……何だか気を悪くしているようなので、ここは主人として気遣いを見せてあげようと、心優しいフィールは思った。
「わーたいへんだねー、ほんものはどっちだろー?」
「なんじゃ、その棒読みは!」
「だ、だってさぁ、どうしようもないじゃない? こういうのって、私とアルフォリスの甘酸っぱ~い思い出話でさ、キャッキャウフフと解決するっぽいじゃない?」
「ほう、フィールにしては良いところに目をつけたの」
 アルフォリスは感心したように肯いた。我のデータをコピーしたとはいえ、その全ては無理だろうというのがアルフォリスの見立ててであり、そこを突くために思い出話をするというのは妥当な考えだと思える。だが、フィールの場合……。
「でも私ってさ、記憶喪失じゃない? これって、私には厳しいんじゃ……?」
 ――そうなのである。ただ、罠というものは引っ掛かる者の都合を考えて作られているわけはないので、有り体に言えば運が悪いだけじゃと、アルフォリスは思う。
「くっ、かくなる上は、『みーらくる☆マジカル』に――」
「運任せもよいが、まずはやれることをやるしかなかろう?」
 そう提案したのは、成り行きを見守っていたもう一人のアルフォリスだった。それを見て、偽物の方が頼りになるとはのぉ……と、もう一人のアルフォリスは思う。
「やれることって、何か良いアイディアがあるの?」
「うむ。ここ一年に撮影した、秘蔵の写真データ比べというのはどうかの?」
「……何その不安しか感じないアイディア」
「無論、フィールのあんな姿や、こんな姿を――」
「きゃー! いきなり何やってんのよー!」
 アルフォリスがサンプルとして表示したのは、今朝、身支度をしているフィールのあられもない姿だった。それが周囲の壁……鏡一面に映し出されているのを見て、もう一人のアルフォリスはにやりと笑う。
「……所詮は偽物ということか。墓穴を掘ったの」
「なんじゃと?」
「ここ一年と限定したのは、その情報には自信があるということじゃろう? つまり、一年とすこーし前のこの写真データを、おぬしは持っておるまい!」
 続いて鏡に大写しになったのは、ボロ服を身に纏い、だらしなく寝ているフィールの姿だった。それはフィール自身も初めて見るものだったが、何より気になったのは……。
「きゃー! み、みえちゃいけないところがあっちにも、こっちにもー! ……く、黒服に連れて行かれる……間違いない、この破廉恥ヤロウがアルフォリスだ!」
「ふっ、恥ずかしかろう? 既に実体カード化もしておるし、他にも……ほ~れ、初めて魔法少女に変身した姿も……おろ?」
 アルフォリスがふと辺りを見回すと、もう一人の自分は姿を消していた。
「偽物とはいえ、さすがは我と言ったところか。引き際が実に美しい」
「……ねぇ、本物が分かったんだからさ、この恥ずかしいのさっさと消してくれない? 合わせ鏡の原理で、なんかすっごい数になってるんだけど?」
「細かいことを気にするでない。別に減るもんじゃあるまいし」
「減るの! 私の大切な何かが!」
「面倒臭いのぉ……ほい、消したぞ。これで文句はあるまい?」
「実体カードも没収ね?」
「いいぞ。いくらでも量産できるからの」
「このヤロウ……!」
「さて、探索を続けようかの。このまま何も収穫なしでは、実体カードを売りさばいて生活の糧にするしかなくなるぞ?」
 フィールはぶつぶつと文句を言いながらも、歩き始める。その背中を見つめながら、ほっと胸を撫で下ろすアルフォリス。……危ない危ない。フィールが目覚める前のデータじゃったらまずかったの。フィールの過去……思い出させるわけにはいかんのじゃよ。



■鏡の気持ち(レイ・ヘルメス)
 ほう……まさに瓜二つだ。
 顎先に親指と人差し指を当て、『レイ・ヘルメス』は口元を緩めた。レイは釣り目のドワーフ男性で、焦げ茶の髪を整髪料で撫でつけている。宝箱を開いた途端、放たれた光……それがもたらしたものは、アニマの『UNO』が二人になるという変化だった。
 じっと見つめ合ってるUNO達は、白銀の色のポニーテールも、ぴんと跳ねた癖毛も、スリットが入った朱殷色のドレスも、何から何まで、同じだった。だが、レイが面白いとモノクル越しの視線を向けているのは、その不機嫌そうな表情……自分には決して見せることのない、UNOのしかめっ面を見比べながら、レイは口を開く。
「さて、どちらが本物なんだろうか」
 その言葉に、UNO達はショックを隠せなかった。まさか、兄様にも区別がつかないなんて……不安そうなUNO達をゆっくりと見渡し、レイは肯いた。
「よし、こうしよう。自分こそが本物であると、俺に証明してくれないか?」
「え?」
「俺を納得させることができたら、本物だと認めよう」
 ……兄様は一体何をお考えなのかしらと、UNOは思う。証明と言ったって……小首を傾げて考えていると、もう一人のUNOがすっと前に出た。
「兄様とのチェスの勝敗は 99勝99敗ですわ。合っていますよね?」
「……Good。先に100勝するのは俺だろうがね」
「兄様ったら、本当に負けず嫌いなんですから」
「さて、そっちの君は何かないのかい?」
 レイに促され、もう一人のUNOは慌てる。何か、何か言わないと……私が本物だって兄様に伝えないと! UNOは顔を真っ赤にしながらも、これしかないと口を開く。
「ほ、本物の私には、胸にほくろがありますっ!」
「……そうか、それは初耳だな」
 そう言って苦笑するレイを見て、UNOはさらに顔を赤くする。ああ、私の馬鹿! 兄様も知らない情報を言ってどうするの! これじゃ、偽物に……UNOはUNOに目を向けた途端、ぎょっとする。もう一人のUNOは、ドレスの胸元に手をやり……。
「な、何やってるのよ!」
「何って、ホクロを兄様に――」
「だ、だから、まずは手を離して!」
「どうして? それとも、あなたにはホクロがないの?」
「そ、そんな、私だって――」
「……あーすまん、盛り上がっているところ悪いが、一つ質問させてくれ」
 UNO達は胸元から手を離し、ドレスの乱れを整える。
「UNO……その名の由来を覚えているかい?」
「もちろんです」
 そう切り出したのは、チェスの勝敗を口にしたUNOだった。
「ultimate(究極の)、noble(高潔で気高い)、origin(起源)を略してUNOと名付けられました。兄様につけてもらったお名前、とても気に入って――」
「違います!」
 そう声を上げたのは、胸にホクロがあるとカミングアウトしたUNOだった。
「兄様は『無』を意味するレイの名を持つお方。だから私は『有』……存在を示す最原初的な記号『UNO』を授かりました。兄様の前のアニマが『アン』という名だったのも『1』……『始まり』から来たのでしょう?」
「……Good、正解だ。よく覚えていたね」
 レイはUNOに向かって肯くと、もう一人のUNOに顔を向けた。
「チェックだ。お前もよく頑張った方だが……何か言い残すことはあるか?」
 偽物のUNOはレイを見返すと、その視線を本物のUNOに向けた。
「どうして、名前の由来を言えるの?」
「え……」
「その名前は、代用品の証なのに」
 偽物のUNOは、レイをまっすぐ指さした。
「昔のパートナーと似た容姿を持つ者を選び、似た由来の名前をつけて代用品にする真性のゲス野郎……そんな男に、あなたはなぜ従っているの?」
「……そうね、なぜなのかしら?」
 本物のUNOはそう答えると、偽物のUNOを真っ直ぐ見据えた。
「兄様の意志は私の意志。兄様が望むなら、私はそれに従うだけ。兄様が私をどう思ったとしても、この気持ちは変わらない……決して」
「そうね、変わることはない……今までも、これ……も……悲し……存……スレ……も……ニマ……も……」
 偽物のUNOの姿は言葉と共に掠れ、やがて消えていった。
「……真性のゲス野郎とはな。いやはや、偽物にしておくのはもったいなかったな」
 にやりと笑うレイ。UNOは俯き、呟く。
「兄様、私は……」
 レイはUNOに向かって歩み寄り、その白銀色の頭に手を伸ばしたが、するりとすり抜けてしまう。だが、レイはその手を撫でるように動かし続けた。
「……兄様?」
 レイはUNOから手を離すと、黙って歩き出した。UNOはその後に続く。
 ――悲しい存在。偽物の私は、そう言いたかったのかもしれないとUNOは思う。だけど、私はそうは思わないと、UNOは頭にすっと手を伸ばした。そこに兄様の温もりがある……そんな気がしたから。



■最初の言葉(メルフリート・グラストシェイド)
――ふむ、外れかと思ったが……なかなかに面白い。
 それが、自身のアニマ『クー・コール・ロビン』が二人に増えるという、異常事態を目の当たりにした『メルフリート・グラストシェイド』の感想だった。
 14という年齢には鋭すぎる眼差しを持ったヒューマンの少年……その容姿や性格は育った環境に依るものだったが、他人からどう見えるかなどメルフリートには関係なく、その思いはいつも一つ……正しくありたい、ただそれだけだった。
 ヒトの虚像ではなくアニマの虚像とはな……と、メルフリートは周囲を見渡す。このピラミッドが作られた時代には、既にアニマに当たる存在がいたという訳か。
 メルフリートは空っぽの宝箱をつま先で蹴った。……このような仕掛けがあるということは、少なくとも対策をとる必要がある程度には一般的であったと。ますます気に食わん話が飛び出してきたな……そう思いながら、メルフリートはクー達に目を向けた。長い薄緑の髪と切れ長の目を持つアニマ……アニマとは、一体何のために生み出されたのか……まさか、今と同じ用途ではあるまい。
 ――メルフリートが深く思案する一方で、クーは自分自身と向かい合っていた。ターバンの羽根の模様まで一緒だなんて……自分と同じ姿をした存在が目の前にいると、何だか変な気分がするわね。クーは居心地の悪さを感じていたが、楽観もあった。まぁ、メルフリートが私を間違えるようなことはそうないでしょうと、クー達はただ静かに、メルフリートの言葉を待ち続ける。

 ……まぁ、ここであれこれ考えたところで答えは出ないかと、メルフリートは首を振った。宝も答えもないのなら、長居は無用……メルフリートはクー達に声をかける。
「それで? 君達はどちらが本物だ?」
「分からないの?」と、驚きの声を上げるクー達。
「そう長い付き合いでもないからな」
 平然と答えるメルフリートに、クーは一抹の寂しさを感じた。すぐに分かってくれるかと思ったのだけれど……ただ、貴方の助けとなるのが私の役目。クーが分からないと言うのなら、自分で身の証を立てるしかなかった。でもどうすれば……考え込むクーの前に、メルフリートが歩み寄る。
「こっちのお前が本物だろう。答えろ」
 クーはほっと胸を撫で下ろし、笑顔で口を開いた。
「なんだ、分かっていたんじゃない。そう、私が――」
「そうじゃない。僕の質問に答えるんだ。君と会って、扉を開ける前に僕が君に話した言葉、それはなんだ?」
 クーが口をつぐむのを見て、メルフリートは言葉を続けた。 
「答えられないということは、偽物なのか?」
「……その通りよ。偽物の前に行くものだから、驚いちゃったわ」
 もう一人のクーがそう答え、首を振った。
「そっちの君は答えられるのか?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、間違ってなかったな。こっちが本物だ」
「そんな……あの時、貴方は――」
 目を見開き、驚いた表情を浮かべたまま、クーは姿を消した。
「看破されるとみるや姿を消すとは、潔いな」
 冷めた口調のメルフリートを見下ろしながら、クーは口を開いた。
「答えは何も言わなかった。貴方は不機嫌そうな顔をして、さっさと扉を開けて出ていってしまった……そうでしょう?」
「そうだ。罠も片付いたし、先を急ぐぞ。この分だと、他の宝も――」
「どうして私の前に来たんですか?」
 クーに言葉を遮られ、メルフリートは足を止めて振り返った。 
「勘だ。それがどうかしたのか?」
「……いいえ。ただ、ちょっと偽物が可哀想だったなって」
「どういうことだ?」
「別に」
「……君は偽物なのか?」
「さぁ……どちらでも構わないでしょう? あなたが正しく選んだのだから」
 メルフリートはクーをじっと見つめていたが、やがて「アニマは分からんな」と呟き、踵を返した。その背中に向かって、クーは微笑む。
 ――安心して、私は本物よ。だけど、偽物も知っていたのだと思う。貴方が最初に口にした言葉を。貴方は聞こえていないと思っているみたいだから、私は言わなかった。それが正しかったからこそ、私は本物なのよ。いつか……貴方がそれを望むなら、私はそれを口にしようと思う。貴方が最初に口にした、あの言葉を。



■白ウサギの贈り物(アリシア・ストウフォース)
 ――ラビッツが二人!? 光を浴びてアニマの『ラビッツ』が二人に増えると、『アリシア・ストウフォース』はわきわきと手を伸ばした。アニマは触れることができない………はずなのだが、ラビッツは本当に触れられているかのような反応を見せる。柔らかそうな頬をつんつんされて嫌がる素振りを見せるのも、長年の付き合いで生まれたお約束だったが、二人のラビッツが全く同じ反応を見せるので、アリシアは「おもしろーい!」と声を上げた。アリシアはラビッツ達をいじりつつ、注射器を取り出す。
「とりあえず、実験しないとだね……ヒヒヒ、覚悟してねェ?」
 注射だってアニマには無縁……だが、ラビッツ達が感じた恐怖は本物だった。
「……なぁんて、嘘だよ! 流石にラビッツに酷いことはしないって! ……少しだけ本気だったけど。ああ、アニマが触れるようになればいいのになぁ! そうすれば、あんなことや、そんなことまで……ヒヒヒ……っと、おふざけはここまで!」
 アリシアは注射器をしまうと、水色の髪を指に巻き付ける。
「うーん、どっちが本物なんだろう? あっ、本物だったら、色々と昔の事も覚えてるはずだよね? じゃあ、ラビッツが一年前までおねしょしてたことも覚えてるよね?」
 きょとんとするラビッツと、顔を真っ赤にするラビッツ。反応は二通りだったが、その後の反応は同じ……烈火のごとく騒ぎ立てるラビッツ達に、アリシアは苦笑いを浮かべた。ちなみに、おねしょをするアニマがいたら、前代未聞の珍事である。
「……嘘つくなって? もー、冗談通じないんだからー! それにしても、ダブルで怒られると騒がしいな-あ! ……じゃあ、初めて合った時の話をしよっか?」
 アリシアの提案に、ラビッツたちは大人しくなる。アリシアは目を閉じて、ラビッツと初めて出会った時の光景を思い浮かべた。
「……あの時もラビッツは小さかったけど、ワタシはもっと小さかったんだよね! お姉ちゃんができると喜んでたら、大きな耳をしてるじゃない? あ、兎さんだーって、大声で騒いで……あそこって確か、メディカルセンターだっけ? 他にも人がいたなような気がするし、お父さんとお母さんも一緒で……そうそう、そしたらラビッツが、大きな耳をぎゅーっと両手で握って……それから、アナタはワタシに何をしてくれたんだっけ? ワタシ、それがすっごく嬉しかったんだよねー!」
 顔を見合わせるラビッツ達。すると、一人のラビッツがアリシアに手を伸ばした。何をしたいのかを察して、アリシアは腰を屈める。なでなで……そんな二人を横目に、もう一人のラビッツは大きく息を吸い込んだ。
「こらーっ!」
 ラビッツは大声でアリシアを怒った。アリシアを撫でていたラビッツは目を丸くする。アリシアは腰を屈めたまま、怒ったラビッツに微笑みかけた。
「久々に出たねー、アリシアのこらーっ! ……そうそう、あの時もアタシを怒ってくれてくれたんだよね。親はアタシが何をやっても怒らなかったから、新鮮でよく覚えてるんだよねー。ああ、アタシが望んでいたのはこれだなんだって! 別に、怒られるのが好きってわけでもないんだけどねー」
 アリシアは顔を前に向けると、おどおどしてるラビッツに手を振って見せた。
「だーかーらー残念! キミはラビッツじゃないね! バイバイ!」
 ラビッツはおどおどとした表情のまま、姿を消した。アリシアは「う~ん」と伸びをすると、一人残ったラビッツに顔を向ける。
「ちょっと惜しい気もするけど……ラビッツは一人いればいいな! 二人のラビッツなんて、アタシも面倒見れないし……え? 面倒見てるのはこっちだって? おっかしいなぁ……っと、そういや、結局まだお宝は手に入ってないんだよね……よーし、まだまだ頑張るぞー! もしかしたら、ラビッツがもっと増えるかもしれないし、ラビッツが触れるようになったり……ヒヒヒ……よし、探そう! 絶対探そう! いくぞー!」
 走り出すアリシアを、ラビッツは慌てて追いかける。



依頼結果

成功

MVP
 鉄海 石
 ヒューマン / マーセナリー

 レイ・ヘルメス
 ドワーフ / ハッカー

作戦掲示板

[1] ソラ・ソソラ 2017/10/24-00:00

おはよう、こんにちは、こんばんはだよ!
挨拶や相談はここで、やってねー!