プロローグ
「……今日も真っ赤に燃えるのね」
窓越しに遠い空を見上げ、小さく呟く女性。
彼女は穏やかな言葉とは裏腹に、常に辺りへの警戒を緩めない。
いつ敵の砲撃が空から飛んでくるのか?
もしここで足元の床が抜け落ちてしまうとすれば?
突然にアビスの闇が目の前を覆ったなら?
不安は彼女を狂おしいほどに抱きしめ続けていた。
そんな様子が気になった一人の探究者は、何かあるのかと尋ねてみる。
今回の依頼で監視対象とされているフェアリアの女性、【ミファレラ】に。
「いえ。変な話よね。何も起きない事を望んでいるのに、何か起きる事ばかり考えているなんて……」
気にしないで。その言葉の冷たさには何か気にかかるものを感じた。
「さ、貴方達もついてくるんでしょう? 私はもう一度外の見回りに向かうから」
言うや否や、彼女は足早に部屋を出るともう何度目か分からない行動を繰り返す。
彼女の側についていた探究者達は、置いて行かれないようその後を追うはめになった。
後ろから見る分には、まるで子供のような華奢な体つきに思える彼女。
だがそんな姿には似つかわしくない1mを越えようかという剣が、光を浴びて鈍く輝く。
「この辺りは……異常なしね」
彼女は、軍事旅団レーヴァテインに所属する軍人だ。
マーセナリーとして数々の戦場に駆り出され戦果を上げてきた強者らしいが、何故かネメシス兵団のメンバーには入っておらず、この場所の警備を任されていた。
「ちょっと。アタシを見るのは勝手だけれど、もう少し仕事に集中してもらえるかしら? 見落としがあったら承知しないわよ」
こちらを一瞥もせずに、ピシャリと言い放つ。
流石は実力者といったところだろうか。こちらが彼女を探るように伺っていることに気づいているようだ。
そう、彼女が推察しているであろうものも含め、今回探究者達がテレルバレルを経由しレーヴァテインより受けた任務は2つ。
派遣された通信補助設備の管理施設を警備する事。
そしてその指揮官であるミファレラの素行調査、並びに監視を行う事。
本来、こうした複数の目的がある依頼ではその全てをこなすことが探究者には求められる。
だが、今いるここはレーヴァテインの中でも、ほとんど人の行き来が無い地域。
突然魔物の襲来がある事などはなく、泥棒が盗みに入ろうにも取る物がない。いわば辺境。
これらの状況を鑑みれば、おおよそ依頼の趣旨に検討はついていた。
「こちらミファレラ、各階警備部隊、状況を報告せよ」
「こちら1階、異常なし」
「こちら2階、異常なしです」
「こちら3階、問題ありません」
「了解した、4階も現状不審な点はない。これより我々は5階の調査に当たる。各員、警戒を怠るな」
各階に配置した部下に無線で確認を取ると、彼女は外の階段を使って5階へと登っていく。
~~~
その頃、2階の警備にあたっていた警備兵の1人は、異常なまでの彼女の警戒態勢に嫌気がさしていた。
「ったく。何度目だよこの確認。外も中も行ったり来たりで見張らせやがって」
「そんなこと言っちゃダメですよ、先輩」
「だってよ、もう3日もこの感じだぜ? 朝から晩まで働きっぱなしじゃねぇか」
「仮眠と食事の時間は与えられているじゃないですか」
「こんなボロ施設のボロボロベットで体はバキバキ。食事は持ち込みのレーションじゃ味気ねぇよ」
「でも職務はしっかり全うしませんと。それにボロ施設と言いましたが、ここだって立派な公共の通信施設、要所ですよ」
「かもしれないがこんなとこの通信システムがいかれたところで、誰が困るよ? 居住区はあんな遠いんだぜ?」
「まぁ、それは確かにそうですが……」
「しかもこの施設は全自動で絶賛安定稼働中だ。一階は外壁があるから、空でも飛んで来ない限り侵入できない」
「そうですね」
「仮に不審なエスバイロが接近すれば、検知されて防犯システムが対処。こんなの誰も襲って来やしねーよ」
「そのシステムが何か細工されるかも知れないじゃないですか」
「そこはよ、月に一度は専門の技師とアニマによるメンテも入ってるし心配ないだろ。問題があったとしても機械に疎い俺達にはどうにも出来ねぇさ」
「で、ですが!」
「そんないつも肩に力入れっぱなしじゃ、肝心な時にへばっちまうってーの。俺はゴメンだね」
「……分かりました。そこまで言うなら、僕が外の見回りに行きますから、先輩はここで肩の力を抜いてて下さい!」
「おう、気が利くな! よろしく~」
ひらひらと手を振りながら後輩を見送ると、警備兵は地面に腰を下ろす。
「大体今時歩き回って目視で警備ってのがふりぃーんだよ。そんなんだから俺達みたいな部下に疎まれて【呪われた指揮官】とか言われんだっつーの」
彼は目を閉じ体勢を楽にする。
「あんなちょっとしかない背で生意気なんだよな。まぁ腕の方は知らねえけど、行く先々で任務失敗・部隊崩壊を繰り返してこんな所に流されてちゃ世話ねぇわな」
彼はアニマに2階の内部索敵を任せ、ぶつくさと文句を言っているといつしか眠りに落ちてしまう。
データ上許可されていない不審な人物がいれば、アニマが見つけてくれる。警備などこれで充分なはずなのだ。
そんな慢心が、彼の担当するこの区画を『スキマ』としてしまった。
「よぉ……ご苦労さん。んじゃあ……そのままいい子でおねんねしてな」
~~~
「これで5階も異常なし……そう、異常なし……よね」
ミファレラは自身の担当区画を確認し終える。
(私の不幸……今日も静かに眠っていてくれると良いんだけれど)
彼女は心の中で小さく呟くと、そっと息を吐く。
「それじゃ、4階の持ち場へ戻るわよ」
今度は内部を見回りながら戻ろうと施設内の階段へと足を向けた時、突如非常扉が作動し行く手を塞ぐ。
「つっ!?」
続けざま、機械の作動する大きな音がしたかと思うと、探究者達の体に電撃のような鋭い感覚が突き抜ける。
「今の音は……皆、大丈夫?」
ミファレラの声に応えようとする探究者達だったが、体が思うように言うことを聞かない。
「……痺れてるの? なら無理しないで。原因は私が調べるわ」
体に異常の無い彼女は、自分達の置かれた状況を確認する。
各階警備達との通信は途絶し、防犯カメラは機能しない。
またどうやら屋内階層毎に非常扉のロックがかかってしまい、それを解除しなければ通行出来そうにない。
(電子ロックに、魔術回路の併用?……これをすぐに解くのは無理ね。となれば……)
彼女は周囲を調べる。
どうやら非常扉以外のシステムはほとんど動かなくなっているらしい。
目に付いた通風孔の柵を剣でこじ開けると、するするとその中へ入っていく。
「貴方達は動けるようになるまでそこにいなさい。なんとかするから」
彼女を1人にしておくわけにはいかない。
この程度の痺れ、まったく動けない訳でないしアニマに解析してもらえばすぐに治せるだろう。
そう考えた探求者は自身のアニマに呼びかける。
だが、そこにあるべきはずの【姿】は……なかった。
紅の太陽がもたらしたものは、賊と怖れと。
そして……
解説
これは軍事旅団レーヴァテインに焦点を当てたエピソードです。
今回の目標は前述の通り、ミファレラの監視とこの施設の警備です。
共通装備として
・探究者同士位置が分かり連絡を取れる通信機
が貸し出されます。
今回皆様のアニマが現状姿を現しません。
普段の戦いやハッキング等の情報操作、エスバイロの操縦から自動ドアの開閉に至るまでこの世界ではアニマがいることが当たり前です。
なのでどんなに鍛え上げたPCでもアニマの力がない以上、剣は普段より重みを増し、解析には時間がかかり、注射を挿すにも躊躇いが生じるでしょう。
そうした不利な状況の中困難に立ち向かって頂きます。
今回のみ、各種族毎に活かせる特性があります。
(種族的に該当しない行動でも時間がかかりますが出来ないわけではありません。またクラスによって行動に得意補正がつきます)
ヒューマン:全ての行動が頑張れば出来ます
エルフ :風の動きなど自然の状態を感じ取り、付近の状況を察知しやすくなります
ドワーフ :配線等の内部構造を組み替える事で機械類の挙動にある程度作用出来ます
ケモモ :各階の外部から飛び移ることで、1つ上、1つ下の階へある程度任意で移動できます
デモニック:魔術回路を比較的早く解読できます
フェアリア:通風孔を利用し、任意の場所へ移動出来ますが少々時間がかかります
施設は5階立て、PC所有エスバイロは使用不可です。
各階詳細は警備情報として共有されているので、戦闘しやすい・しにくい場所など、ある程度皆様の想定通りでしょう。
施設の中核となる場所は2階中央コントロールルームです。
各階警備員達の状況は不明です。
PCスタート位置は1階か3階か5階(ここのみ最低2人以上)になります。
基本的にアニマは皆様を6歳からこれまでずっと一番近くで見守ってくれた存在です。
危険と隣合わせの中で、彼女達への想いに気づく事もあるはずです。
それを届けられたなら、きっと奇跡は起こるでしょう。
ゲームマスターより
プロローグに興味を持って頂きありがとうございます。
私のエピソードに関する注意点は個人ページにございますので、お手数ですがそちらをご覧下さい。
ゲーム開始当初より進めて参りました旅団フォーカス物、遂に全大型旅団のNPCを登場させる事が出来ました。
これまで6つの旅団フォーカス物無料エピソードでご縁がありましたPC様は総勢34名、一度きりの方も常連の方もお世話になっております。
無料とはいえ短期間にこんなにも多くの方を担当できた事、嬉しく思います。少しでも皆様が楽しめていれば幸いです。
(最後が無料期間に間に合わず……申し訳ありません!)
今後の展開としては、皆さんの反応をプランなどから察しつつOSS等も含めてどのエピソードを動かしていくか決めていこうと思います。
幻カタもありますのでゆったり進行予定です。
ごゆるりとお付き合い頂ければ幸いです。
それでは、リザルトにてお会いできることを楽しみにしております!
Calling You エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
戦闘
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/11/6
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難易度 |
難しい
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/11/16 |
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真奥
( 恵美 )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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1階をスタート位置として、開始からすぐに物陰に潜み、状況確認を行い続ける。 仮にばれそうになった場合は、隙をついて関節技などを使い昏倒させようと思う。ロープは無くても、ベルトやカーテンとかタオルとか、紐の代わりになりそうなもので縛って拘束する。 コントロールルームのみんなの動き次第で、恵美が戻ってくるだろうから、そこからは反撃開始。クラススキルをフルに使って、攻撃を行う。仮に他にも1階担当が居る場合は、その人の行動に合わせて戦う。 2階が苦しければそちらに行くように努力するが、1階がそれで誰も居なくなったら困るので、一人の場合はそれはしない。 「バイトに遅刻して皆勤賞逃したら……お前らの所為だぞ」
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3Fスタート 通信機でPC間の状況を確認して、担当階を調査 他階から敵や危険の連絡が来たら、上下階への『飛び移つり』で救援に 自体が起きたらミファレラの通信に連絡 「一つ確認させてください。あなたは敵?」 緊急事態と判断し、正面から素行調査の依頼ブチまけて反応を確認…9割シロと認識しているが 「内通者や黒幕なら、咄嗟に『痺れてるの?』なんて返事はでませんよね」 「私も似たようなもの(ファヴニル傭兵だが団未所属)で、(誹謗は)身に覚えありますから」 確認取れたら治が援護に向かう事も伝え、自分は3Fを警戒すると連絡 事態が同時に動いた場合は2F(ミファレラ)優先 「酒と愚痴なら付き合いますよ…今を切り抜けてからね!」
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目的 自分が使える特性を活かし、アニマが居ない中でも最大限の努力をする 心情 そっか…ラビッツいないのか― ちょっと不安感残るけどがんばろー 行動 まゆゆさんと一緒に行動! 最初にラビッツが居ない事での普段との違いを確認― 確認後は出来るだけ早く魔術回路を解読して、非常扉のロック解除に努めるよー まゆゆさんが電子ロックの解除を担当している間はワタシが警戒をしつつ、フォロー 解除が終わったところは通信機で皆に連絡して情報の共有化をはかるね もし、何かしら予想外の事があったら、すぐさま判断して実行! 例えば戦闘の場合は自分が前衛になって、ドーピングクッキングでVIT上げつつ、ヤバくなったらファストヒーリングで回復とかね!
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開幕後、み~らくるくる☆マジカル使用。 1 ご都合主義ぽい状態で、一階にある外壁調査(埃とか足跡痕跡とか)=進入形跡ないか 2 侵入者の可能性判明なら、即座に敵性存在進入の可能性を皆に伝達。 戦闘 一階で、目視状況確認。 バリケードを構築できそうな物があれば、簡易構築。 盾になりそうな物があれば、片手で持つ。 戦闘直前に、へんしーん☆トランス。 攻撃能力を高めて、ぴかりん☆サンダーで迎撃。 1階は『空でも飛んでなければ入れない』=『飛行してれば、入出の可能あり』。 1階に敵が残ってなくても、『迎撃されて逃亡しようとしたら戻ってくるかも』 侵入者を逃がさないように、1階で退路を塞ぐように逃げ道潰しておこう!
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【目標】 ミファレラさんの警護。 【行動】 5Fスタート。 痺れが取れたらミファレラさんを追って通風孔へ。 ボクもフェアリアだから楽々! 掃除してない通風孔って埃だらけなんだ。 なんで知ってるかって? フォブが来てくれる前の一年間よく使ってたからね。 埃が少ないのは彼女が通った印、急いで追いかけるよ。 施設の奪還や警備兵の方はみんなにお任せ。 信頼できる仲間ってありがたい! そうそう、最近施設の点検した技師、調べてもらった方がいいかも。 【ミファレラさん】 何故、そんなに不安なのか聞いてみたい。 できれば原因調べたいね。 【戦闘】 肉盾するよ! 【交流】 GMさんが把握中の方だけです 【三原則】 情報共有、臨機応変、アドリブ大歓迎!
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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アリシアさんとペアで行動なのです ●事前 地図と電子ロックの種類は調べていきますね ●アニマ いつも頼り切っていたんだな、と、あらためてゆゆゆに感謝しつつ なんとか作業を完了させたいと思うのです ●スタート地点などなど 5階 ミファレラさんの解放を最優先に行動 アリシアさんが魔術回路を解析している間は 指示をいただきつつ、わたしができるサポートを全力でさせていただくのです。 逆に、電子ロックの解除をしているときは アリシアさんといっしょに解除していけたら嬉しいですね。 ●戦闘 後衛から、魔法射撃戦、したいと思うのです まずはエクステリアメルトを使って弱点を共有 マークを付けたら、そこをマジックミサイルで攻撃していきますですね
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蛇上 治
( スノウ )
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ヒューマン | マッドドクター | 25 歳 | 男性
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【目的】コントロールルームを抑える 【スタート】3階 【行動】仲間への連絡はこまめにする 頑張って3階から2階へ飛び移って移動 他に2階にいるメンバーがいたら合流して行動する 仲間ができない範囲の行動は頑張って行う コントロールルームに敵がいたら仲間がいればサポートに回り連携して排除 仲間がいない場合は身を潜め仲間に連絡し近くにいる仲間を呼ぶ コントロールルームを抑えることに成功したら、何かあった時の為にその場に残り、頑張って分かる範囲で機械を操作し正常にするように試みる
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参加者一覧
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真奥
( 恵美 )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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蛇上 治
( スノウ )
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ヒューマン | マッドドクター | 25 歳 | 男性
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リザルト
●欠けているもの、支えてくれる者
「はうぅ~……な、何だか体に力が入らないのです~?」
地べたに女の子座りでへたりこむ【まゆゆ】。その目は漫画宜しくグルグルと渦を描くように回っていた。
彼女と共に行動していた【アリシア・ストウフォース】と【アクア=アクエリア】もまた、膝をつかないまでも彼女と同様の痺れのようなものを感じ、動けないでいた。
「まゆゆさん、アリシアさん大丈夫ですか? 今診察を……あれ、【フォブ】?」
体調不良と言えば本来、マッドドクターの腕の見せ所である。
こうした時には、彼のアニマであるフォブは喜び勇んで相手の体調をスキャンし始めるものなのだが……
しかし今回は何故か主人の声にも姿を現さない。
「え、あれ!? おーい、フォブ~?」
アクアは周囲を見渡してみる。
普段勝手にオープンモードで起動している事が多いフォブなら、この異変にどこかを勝手に調べているのかとも思ったが、辺りには閉ざされた非常扉とミファレラが通って行った通風孔の柵が残されるのみであった。
「大変なのです! 【ゆゆゆ】もどこにもいないのですよ!?」
「まゆゆさんのアニマも? ワタシの【ラビッツ】もいないから、どうやら偶然じゃなさそうだねー……」
そう言うとアリシアは、非常扉へ手を触れる。
デモニックである彼女にはこの扉にかけられた魔術回路から放たれる魔力が強く感じられていた。
その魔力に一瞬顔をしかめる彼女だったが、2人の方へ振り返る際には笑顔を見せる。
「とにかく、アニマが居なくても一生懸命やるしかないよね~。でも、アタシ達ならきっと大丈夫!」
これまで何度も冒険を共にした仲間の激励に、まゆゆとアクアも強く頷いた。
「それじゃあボクはミファレラさんを追いかけますね! このまま彼女を1人にしておくわけにも行かないだろうし……」
「アクアさん宜しくお願いします、なのです! わたしはこの非常扉を何とかしてみようと思うのです!」
「じゃあアタシもまゆゆさんと一緒だね。この扉、何だか変な魔術がかかってるみたいだから、2人ちゃちゃっと解除しちゃおー!」
「おー! ですー!」
「分かりました。ではまた下の階で会いましょう! お2人とも気をつけて下さいね?」
彼等のいる5階はミファレラと探究者が警備担当であったため、3人の他には誰もいない。
現状閉鎖されたこの空間を無理なく脱出できるのは、フェアリアであるアクアだけであった。
アクアが通風孔へと入っていくのを見届けると、まゆゆとアリシアは非常扉のロック解除に取り組み始める。
「むぅ……中々手ごわいのです」
普段の賑やかで人懐っこい笑顔は消え、まゆゆは入力端末を手に真剣な表情で扉と向き合う。
「各階の扉は連動しているようですから、ここさえ解除出来れば行き来が出来るようになると思うのですがっ……魔術回路が邪魔になってパスコードの解読が難しいのです」
「なら、一緒に少しずつやってくしかなさそうだねー。まずはこのセンサー部分の魔術回路を……」
「あ、アリシアさん。先にバックグラウンドに作用している方を解除してほしいのです」
「え? バック……あ、こっちの方かな?」
「んとー……そっちなのです!」
「おっ、これだね! ……オッケー!」
「アリシアさん、次はこっちの解読をお願いしたいのです」
「待って、先にモニター? の電子ロックを解除しないと、そこは解読できないみたい」
「はわわ?! 分かりましたなのです!」
2人は互いにアドバイスをしつつ、時に立ち止まりながら作業を進めていく。
中々のデジタルジャンキーでこうしたハッキング作業に造詣が深いまゆゆも、アリシアにデジタル用語を解説しながら作業に当たるのは骨が折れる。
普段以上に考える事が多いためか、彼女はいつも以上に左頭部から垂れる自身のサイドテールの先をくるくるとさせていた。
(こんなときゆゆゆがいれば解析がスムーズなのですが……計算も分析もコードも全部入力するなんて、いつぶりだったでしょうか……)
端末や電子の世界の魅力にとりつかれた彼女。
そんなまゆゆの姿を見て、ゆゆゆは当然のようにその知識を深めていく。
そんな日々を過ごす中で、悪い事はしないもののこうして何かをハッキングしたり分析するのは、いつの間にか2人の趣味となっていた。
だが、今ここに大切なパートナーの姿はない。
その事実は彼女の指の動きを止める。
「まゆゆさん……ゆゆゆさんがいなくて、不安?」
その様子に気づいたアリシアは、極めていつも通り声をかけた。
「不安もありますけど、ただ……ちょっと寂しいな、と思いましてっ」
「寂しい?」
「はいです。いつも隣で作業を助けてくれて一緒に楽しんでくれて……こうして急にいなくなられると、色々な意味でゆゆゆに助けられてたのだな、と感じてるのです」
でもでも! と、言いつつまゆゆも笑顔を見せる。
「アリシアさんが居てくれるからわたしは大丈夫なのですよっ! わたしもラビッツさんの居ない分を埋められるよう頑張りますなのです!」
「うん、ありがとー! それじゃあここ、解読しちゃうね」
「お願いしますなのです!」
アリシアは、解読作業を行いながらまゆゆの話を思い返していた。
(寂しい、か……まゆゆさんはそんな風に感じるんだね)
最近は探究者としての活動が増えてきたアリシアも、これまではマッドドクターとしての仕事が多かった。
当時の彼女にとってはラビッツは医療を行う際の助手のようなものであり、自身が何かをやり過ぎる際の歯止め役でもあった。
勿論アニマへの愛着はある。だが、友達のような思いを持つまでには至ったことはない。
だが、彼女もまた。
まゆゆの自由な明るさとも違う、いつもワタワタとして賑やかなラビッツの声が無い事に何か欠けたものを感じていた。
「んん? アリシアさん、通信機に連絡が入って来たのですよ。ヴァニラビット氏からなのです!」
「了解! ちょっと今手が離せないから対応お願いー!」
「お任せあれ、なのです!」
●防衛戦線、異常あり!
一方、1階では【フィール・ジュノ】が周辺の様子を確認していた。
「う~ん……どっかに怪しい痕跡があるかな、と思ったんだけど……」
「おい、まだ状況が良く分からないんだ。ここは隠れて様子を伺った方が賢明。そうだろう?」
ずんずんと遠慮なく歩いていく彼女を【真奥(マオウ)】が制止する。
本来彼はこの不可解な事態に対して物陰に隠れ、隠密に状況確認をするつもりであったが、ついさっき目撃したフィールの姿に黙っていられず出てきていた。
(まさかこの俺様が異常発生から1分で釣られてしまうとはな。だがあそこまで騒がれては致し方あるまい)
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『くぅ~、何今の~……!? はっ! こんな状況、敵か何かが攻めてきた?! よ~し、魔法少女フィール・ジュノ! 【へんしーん☆トラーンス】っ!…………あれ? 何で? 魔力はまだ充分あるはずなのに?! ねぇ、あ……え? 【アルフォリス】がいない? なんで~!?』
『……あぁぁ! おい貴様! ちょっと落ち着けっ!』
~~~
(こうして冷静さを欠いた者を導くのも、将来バイトリーダーとなるに必要な資質だ。必ずや俺様はこの女を導き今日のシフトに間に合って見せる……!)
「ねぇねぇ真奥さん?」
(そしてゆくゆくはバイト先の店長に昇進、そこからエリアマネージャー、役員、代表へと人生の成り上がりを体現するのだ!)
「真奥さーん、聞いてますかー?」
「ん!? あ、ああすまない。どうした?」
「これ、何でこんな所にあるんでしょう……」
フィールの指さす先、1階外部の影になるような所に、レーヴァテイン軍の物ではないエスバイロが数台停車していた。
「なるほど迷惑駐車か。こいつはレッカー移動が必要だな」
「いやいや! そういう問題じゃなくてですね?! さっきまで一緒に警備してた兵士さん、こっちの方を見回ってた時に異常なしって言ってたじゃないですか」
「確かにな」
「だから私達こっちの方へは来なかったですけど、普通こんなの見つけたら報告しますよね?」
「ああ。しかも件の兵士達の姿がいつの間にか見えなくなっている……これは由々しき事態だ。通信で他の階と連絡を取ってみよう」
真奥の提案で他の階にいる探究者達へ通信を試みるが、強いジャミングの影響を受け電波が遮られてしまう。
「いよいよもってきな臭い、か……取り敢えずは情報が欲しい。コントロールルームへ行ってくる」
「じゃあ私は、真奥さんが2階へ上がったら階段の所に、その辺の資材でバリケードみたいなやつを作って、怪しい奴の侵入を防ぎますね!」
「うむ。このフロアは任せた! フィール君」
1階を探索し、警備兵も含めて誰の姿もない事を確認した2人。
他の階の状況を知るため真奥は階段を使い2階へ、停車されていたエスバイロに不信感を抱いたフィールは、何者かの侵入を予防するため1階を封鎖する事に決めた。
●不安の正体
1階・5階で事態が進行する中、3階の状況を確認していた【ヴァニラビット・レプス】と【蛇上 治(へびがみ おさむ)】は、突如襲い掛かってきた空賊の対処に追われていた。
ヴァニラはまゆゆとの通信を終え、飛び掛かってきた空賊の剣をハンドアックスで切り払う。
蛇上もまた敵を突き飛ばすと彼女に近づき通信の内容を確認する。
「どうでした、他の皆さんの状況は?」
「5階は大丈夫そうね。今そこの開かずの扉を開けようと頑張ってくれているみたい。問題は通信の繋がらない1階、2階の状況と……」
「ここ、ということですね……」
目の前では5人の空賊が己の獲物を手にこちらの様子を伺っている。
「謎の痺れが来たと思ったら、これだものね。空から正面切ってエスバイロで乗り込んでくるとは思わなかったけれど」
「ですね。そしてここの警備システムが空賊の侵入に反応しなかった事も気になります。何とかして下のコントロールルームに辿り着かないと」
「任せて」
ヴァニラは蛇上にウィンクをすると、彼と空賊の間に立つ。
「屋内の移動は出来そうにないけど、外からなら何とか飛び降りれるはず。治は先にコントロールルームへ! 私はここの奴らをどうにかするわ」
「でもそれなら戦闘能力の高いヴァニラビットさんが下へ降りた方が良いのでは?」
「いえ、貴方が適任よ。ここの警備兵はやられちゃったけど、下の兵士達はまだ動けるかもしれない。彼等が生きていれば治療することが出来る。それは私じゃ難しいもの」
「なるほど……了解しました。では、一足先に下でお待ちしております」
「すぐ行くわ」
蛇上が走り出すと同時に、ヴァニラビットは空賊達へと突撃する。
大きく振り回した斧は敵を怯ませるが、相手と比べてリーチと手数の差が大きい。
「邪魔だこのアマ!」
「くっ!」
何とか空賊の攻撃を受け止めるものの、斧と剣の接触場所が悪く腕にいつも以上の負担がかかる。
(……劣勢ね)
空賊周りにはどこかで手に入れた改造アニマが姿を見せる。そのアニマが彼等の武器の太刀筋を良くし、こちらの動きを分析して指示を出すことで、空賊達は的確にチームプレーを行ってくるのだ。
対して彼女の【EST-EX(イースター)】は主人の呼び声に応えてはくれない。
「あの子が易々くたばるとは思えないけど……このままやるしかないわね」
彼女自身の戦闘力は決して低くはない。
だが、センシブルも使いこなす彼女にとってアニマの不在は想像以上に影響があった。
ちょっとした武器の取り回しや索敵の反応速度、クラススキルの封印……細かな要素が積み重なって、普段のような魅せる戦い方には無理が生じ始める。
「はっ! どうやらここに骸が1つ増えそうだなぁ!」
「あら、まだ私は一太刀も浴びていないわよ?」
「減らず口が!」
空賊がヴァニラに切りかかろうとしたその時、通風孔の柵が勢いよく外れるとその行く手を遮る。
咄嗟に柵を回避した空賊だったが、次の瞬間大剣の刃の無い部分を腹に受け、空賊の体は後方へ大きく吹き飛ばされた。
「……無事?」
「ミファレラさん!」
驚くヴァニラの眼前には、ホコリにまみれた小さな女性の姿があった。
「通風孔に入ったとは聞いてましたけど……これはまた随分な汚れっぷりですね」
「軽口が叩けるのなら心配は無用ね」
ミファレラの登場に対処するため、残った4人の空賊達は彼女達を囲むように陣形を組む。
それに呼応する様に背中合わせとなったミファレラとヴァニラ。
ヴァニラは背中越しに問いかける。
「一つ確認させて下さい。あなたは敵?」
「……貴女は敵に背中を預ける趣味があるのかしら?」
「いえ実は……」
「ええいやっちまえぇ!」
先程までは一対五の戦いであったが、救援が入った今ならば、ヴァニラも遅れをとることはない。
彼女は空賊の攻撃を受け流しながら、自分達がミファレラの素行調査も依頼されていたことを明かす。
「ふんっ! そう、そんなこと……だろうと思ったわっ!」
「でも私は! 貴女を、信じ……たいっ!」
「裏切られる、かも、知れないわよ!」
「ならっ……!」
ヴァニラは空賊の攻撃を器用に斧の持ち手部分で受け止めると、一気に押し出すことで敵を弾き飛ばす。
そして自身の手から斧を手放すとミファレラにそっと呟いた。
「……チャンスですよ?」
「……ふふっ」
ミファレラはそれを見て笑みをこぼすと、突如反転しヴァニラのいる方へ突進する!
「せやあああぁぁぁ!」
小さな体から繰り出される大剣の一撃は、ヴァニラの体を捉え……る事は無く。
彼女の向こう側、吹き飛ばされた2人の空賊にトドメを指すものとなった。
ヴァニラはその姿に何かを確信したように頷き、地面に落とした斧の柄を思いっきり踏みつけ衝撃で回転しながら浮き上がったそれを掴むと、華麗な斧捌きで残りの空賊を倒すのであった。
「ふぅ……。これで終わり……ですかね?」
「そのようね」
差し迫った脅威を排除し安堵する2人。
しかしそれも束の間、ミファレラが出てきた通風孔から不審な音が聞こえてきたため、2人は武器を構えなおす。
「こっちの方に……ってうわぁ?!」
ビターン。
そんな音が3階フロアに小さく響く。
音の正体は通風孔から落ちてしまったアクアであった。
「キミは確か、こないだ浮きイルカに乗ってた……」
「あ、えっと、ヴァニラビットさんですよね? その節はどうも!」
以前別の依頼で一度一緒になった事のある2人。
挨拶もそこそこに、アクアはここへ来た経緯を話し出す。
「ミファレラさんは悪い人じゃない、って気がしたので通風孔を使って追ってきたんです。通った道はホコリが取れてたから良く分かりましたしね」
「フェアリアのキミならではの追跡方法って訳ね」
「はい!」
感心するヴァニラを他所に、ミファレラはアクアに問いかける。
「なら聞くけど……どうして貴方は私の事、悪い人じゃないって気がしたのかしら?」
「それはミファレラさんがとっても不安そうにしてたから……だと変ですかね?」
彼女と共に5階で行動していたアクアは、念入りに行われた警備と仕草から不安を感じ取っていた。
更に痺れが襲ってきた際、真っ先に自分達を気遣った事も理由に挙げる。
「探究者を心配した事に関してはまゆゆちゃんから聞いていたので、私もそれで貴女をシロと判断しました。内通者や黒幕なら咄嗟に『痺れてるの?』なんて返事、でないでしょうから」
ヴァニラもアクアに同意する。
「ミファレラさん、何がそんなに不安なんですか?」
「……貴方達、アニマがいない感覚って、どう感じるかしら」
「ボクはフォブがいなくて……五感半減、いや、1つ完全封殺ぐらいきついなーって思ってます。この1年、何をするのでもフォブがいるのが当たり前でしたから、こうして姿を見せてもらえなくなると、やっぱり不安です」
「そう。ならそれがこれからずっと続くとしたら? 一番の理解者がここに居るはずなのに、感じられないだなんて……」
ミファレラは胸を部分を握りしめながらそう呟く。
そして彼女は、元々不幸に巻き込まれやすい体質から周囲に煙たがられていた事、以前参加した軍の作戦で敵の罠にはまりアビスの闇に包まれた際、仲間に大勢の犠牲が出た事や自身のアニマが姿を見せなくなったという過去を2人に打ち明けた。
「エスバイロが運転できる以上、私のアニマは消滅してしまった訳ではないはず。なのに……」
「そんな事があったんですね……今なら、ミファレラさんの気持ち、分かる気がします」
でも、とアクアは続ける。
「なんでかな、とっくに回復してるのに面白がって顔見せないでいる気がするんです。それには何の根拠もないですけどね。ただ、ボクはそう思うから、後でフォブに笑われないように、自分でできるトコまではしっかりやろうって。そう思えるんです」
見えない相棒を信じる彼の言葉。
その言葉に、ミファレラは目を少しだけ大きく開いた。
「そうねアクア。キミの言う通り、今は戻って来るのを信じる事と、戻ってくるまでに出来る事をやるしかないですもの。ただ、孤独を感じた貴女が気弱になってしまうのも分かります。私も似たようなもので、傭兵をやっていると周囲から浴びせられるあらぬ誹謗は、いくつも身に覚えありますから」
「アクア、ヴァニラビット……」
「ヴァニラとかラビとか、愛称で良いですよミファレラ、勿論アクアもね?」
「分かりました! ではこれからはラビさんってお呼びますね!」
そこにアリシアから通信が入る。
「仲間の皆聞こえるー? 魔術回路と電子ロック、突破できたよっ! 2階のコントロールルームで合流しよー!」
友人の吉報に笑顔を浮かべるアクア。
ヴァニラもまたミファレラを見据える。
「私で良ければ酒と愚痴なら付き合いますよ……勿論、今の状況を切り抜けてからですけど」
「……そう、なら楽しみにさせてもらうわ。……私、案外強いわよ?」
こうして5階に残った2人だけでなく、3階の3人もまた2階へと歩を進めるのであった。
●守るべき命を前に
何故こいつらは膝をつかないのか?
ボロボロになりながらも、目の前に立ちはだかる蛇上と真奥の姿に、空賊達は一種の恐れのようなものを感じ始めていた。
「助かりましたよ、真奥さん。私だけでは少々役不足でしたから」
「まさか3階から上とは連絡も行き来も出来ないとは。これじゃ営業してるのに品物が入荷されてこない寂れたコンビニみたいなものだ」
2人は空賊の攻撃を受け、至る所から血を流していた。
実はこうなる少し前、蛇上が外部を伝って2階へ着地した時、コントロールルームでは空賊達が何かを行った後のように見えた。
彼は周囲を確認すると、空賊に倒されていた若い警備兵にまだ息がある事に気づく。
丁度そこに真奥も階段を上がってきた。
蛇上からのアイコンタクトで素早く状況を察した真奥は、装備していたナックルと、自身のバイト先に強盗が押し入った時の為に身に着けていた格闘術で空賊へ対処する。
その隙に蛇上は警備兵の治療を行う。
アニマの【スノウ】による生体スキャンが行えないため、これまでの自身の経験に基づく診察と対処を行う形を余儀なくされた蛇上であったが、頭に浮かぶ誤診の不安を気にしつつも、何とか無事にその兵士の治療を行うことが出来た。
治療を終えた蛇上も加わって、そこから2階では空賊対探究者による肉弾戦が繰り広げられ現在に至るのである。
「ほら、アニマが使えなくなって弱体化した俺様達を倒すんじゃ無かったのか? 空賊さんよ?」
「医者としての見地から言わせて頂くのなら……私達はまだまだ戦えますよ。ですよね、真奥さん?」
「当然だ」
「畜生! 何なんだお前達は!?」
煽り言葉に反応したため、真奥はただ一言、こう述べる。
「俺様は真奥! 時間帯責任者から店長、そして世界をすべる男だ。その大切な足掛かりとなるバイトに。もしこの依頼が長引いたせいで遅刻し皆勤賞を逃したなら……お前らの責任だぞ。一生をかけて償わせてや……」
彼が決め台詞を言い切ろうとした正にその時、アリシアから非常扉開通の知らせが届く。
「ちっ、各階に孤立させて探究者共を倒すはずがこれでは……」
警備兵の服を纏った空賊が舌打ちをすると、他の空賊達に指示をして撤退を始める。
その後を追いかけようとする蛇上であったが、真奥に制止される。
「あいつらは放っておけ。それより、急いでこの施設の異常を調べちまおうぜ」
彼の言葉に従い、蛇上もコントロールルームの機材を調べ始める。
調査の最中、蛇上の目には自身のお陰で救うことが出来た警備兵の安堵した表情がしっかりと映っていた。
●おかえり、皆
1階でのフィールの足止めが成功したおかげで、無事に空賊を捉えることが出来た。
また、蛇上達の活躍により、コントロールルームから出ていた電波は途絶え、アニマ達も意識はまだ戻らないものの姿は見えるようになっていた。
捕まえた賊は通信を受けてやってきた探究者の【トリスタ・カムラ】のエスバイロで軍へと連行される。彼のエスバイロを運転するアニマの【フォルテ・ハーモナー】は健在であることから、今回の痺れ現象は、あくまで局地的なものであるようだった。
そして無事に任務を終えた一行もまた、生き残った警備兵と共にレーヴァテインの中心部へと帰還する。
「でね、必死な形相の空賊達をバリケードで抑えてたら、急にこう体に力が湧いて来たような気がしたから、思わず叫んだの。【ぴかりん☆サンダー】って。そしたらスキルがちゃんと発動して!」
「なるほどー! フィール氏の魔法を受けていたから、わたし達が着いた時には空賊さんは皆さん倒れてしまっていたのですね!」
「そうそう! あ、でも空賊がこっちに逃げてきたのは、まゆゆさんがロックを解除して、皆が来るーってなったからだよ!」
「それはアリシアさんがいたから出来たのです! ねー、アリシアさん?」
「……え? あ、ああうん! アタシとまゆゆさんの友情パワーの勝利なのだ~」
そんな盛り上がりの様子を見守る蛇上。
アリシアに何か違和感を感じた彼であったが、今は水を差すべきではない。
大人の男には無言を通さねばならぬ時もあるのだ。
そう思った彼は、飛び降りの際に痛めた自身の足にそっと湿布を貼り付けるのであった。
「あれ、そういえば真奥さんは?」
「あの人ならバイトのシフトがあるからって、別のエスバイロで先に行ったわよ?」
真奥の不在に気づいたアクアに、ヴァニラが答える。
この後真奥は、探究者の義務であるデレルバレルへの依頼詳細報告よりもバイトを優先した事を【恵美(エミ)】にどやされるのだが、それはまた別のお話。
依頼結果