プロローグ
その日、新たな伝説が生まれた。
探究者達は謎の浮島で、不思議な泉を調査し、これまた不思議な【主】と遭遇したのだがそれに勝利したのだ。
得られた対価は莫大なフラグメント鉱。こうして人々は明日の未来を掴み取ったのであった、めでたしめでたし。
「ではそんな彼らを讃え何か記念式典を行おうじゃないか!」
どんな世界にも金持ちはいるものだ。
そんな金持ちのボンボンの発案で、とある浮島にてイベントが行われることになった。
とまぁここまではまだ普通の英雄譚だったはずなのだが……
~~~
「一日限定オープン、濃霧触手遊戯(ノームワームトリート)……?」
各所デレルバレルの掲示板やインターネット上には、その名を冠したイベントの情報が出回っていた。
これだけ手広くやられては、雑な裏紙コピー紙でも目立つというもの。
ここでも1人の探究者の目にそれは留まる。
「何々~、クリームミストの中でトリックorトリート? フラグメント鉱石大争奪戦……?」
なにやら不安な文字が躍っているのだが、一度読み始めるとそこそこ気になってしまうのは人間の性(さが)だろう。
落ち着いて、極めて冷静に資料から読み取った情報をメモに書き起こしていく。
【会場・基本ルールについて】
・場所はレーヴァテインよりほど近い浮島に立てられた仮設屋内ドーム(遊戯スペースは広さ10000平米ほど)
・参加者は【探究者側】と【泉の主側】のどちらかで、希望したグループのメンバーとして遊ぶ
・会場内は少量のクリームを配合したミストが噴射されており、視界が悪い他ベトベトして歩きづらい
・会場中央部には円形プールがあり、そこで体を洗い流す他武器の修理ができる(深さは3mほど、広さはそこそこ)
【探究者側ルールについて】
・探究者は、魔女のコスプレをし泉を目指して歩いていく
道中には運営側が用意した面白ギミックや、泉の主側による妨害が待っている
無事に泉へたどり着けたら、底に沈んでいる防水シートに包まれた飴を回収出来る
たくさんの飴を集めてこの場所を脱出しよう! 多かった人にはご褒美が待っているゾ★
他にも主を捕まえちゃった人には特別ボーナスだ~っ♪
・武器は運営側から配布されるゴム製武器を使いましょう!
何、普段の武器は銃だって? なら水鉄砲を用意しよう!
入力端末? まじかーる☆が飛び出すただの端末が君を待っている!
手持ちマイク? 相手は所詮人間、自慢の持ち歌でうち負かせっ!
魔法も技法も大歓迎! 武器以外にも皆がケガをしないような持ち物は一品だけ持込を許されるっ! 戦略を生かして貞操の危機を脱す……無事生還を目指せ!
【泉の主側ルールについて】
・泉の主側はクラゲのコスプレをし探究者を追いかける
頭の被り物から2本、両手に2本、腰につけた予備2本の計6本あるヌルヌルの触手で誰かを捕まえたら『トリックorトリート』を宣言できる
・トリックorトリートを宣言した時捕まえた探究者が飴を持っていれば……残念、その場から逃げられてしまうぞ!
飴を持っていなければ、念願叶って! 合法的にトリック出来るゾ★
3分間のノームワームタイムで一体何が起きてしまうのカミングスーンッ!
※でもあんまりオイタはいけないぞ、黒服サングラスの運営チームが常に見張っているっ!?
・探究者の武器には特殊な薬品が塗ってあるから、あんまり触れると触手が切られちゃう~
(まじかーる☆は不思議な力で卑わ……危ない展開から発動者を守るからこれでも切られてしまう!)
全部切られちゃったら、お前は主の中でも最弱……宜しく、探究者にお持ち帰りされてしまうゾ★
・泉の水は命の源! ちょっと長めに浸かれば触手を1本だけ回復できちゃう、自然ってすっごーい!
水の中に潜んでてもいいけど、窒息しないように注意しよう♪
「……ッハッ!?」
極めて冷静に、をモットーとしていたはずが、気づけばメモは元の文章にかなり汚染されていた。
頭に妙な痛みが走る。頭痛が痛い、というやつだろうか。
「なんだこのイベント、早くなんとかしないと……」
一応レーヴァテイン公認イベントなので問題はないのだが、内容が内容である。
大規模作戦の成功を祝し、トレジャー・アイランドで展開された泉の探索を再現する遊戯であるとはいえ、この金持ちの道楽はいささか暴走が過ぎるのだ!
そう考えた探究者は、勇気を持って会場へと赴いて行くのであった……。
※【TI】とエピソードタイトルに付いた物に関しては『必ずしも自分が参加した大規模作戦に関連するシナリオにしか参加できない』わけではありません。
このエピソードに関しても大規模作戦とは異なるノリやプランを書かれていても構いません。
※相談期間短いです、ご注意を!
解説
今回の目標は楽しむことです。
えっちぃ展開を希望の方もいれば、イベントの趣旨も分からず参加してしまった友人を守る! という目的の方もいるでしょう。
勿論友人やアニマとのイチャコラを堪能する感じでも大丈夫です。
R-18以上の表現は規定上出来ませんし、清らかな魂をお持ちであればここはただの泡風呂ですから、遊び場があるという理由だけで子供PCが遊びに来ることも充分ありえるかと思います!
具体的な行動を考えるのも勿論ですが、自身のPCにどこまで乱れる事を許すかどうかの基準はぜひプラン内にご記載下さいませ。
基本ギャグ時空の大いなる力により皆仲良くキャッキャウフフの流れに誘導されます。
また面白くなりそうなギミックが唐突に現れます。
こんなのがあったら面白い! と思うものがあれば出来る限りボンボンが用意致しますのでご意見をお聞かせ下さい。
一応イラストの方でハロウィンキャンペーンをやっておりますので、そちらを意識した連動エピソードになります。
服装に関する言及があっても良いかもしれません。
それでは、皆様の楽しいプランをお待ちしております!
※以下、GMより
初めまして、又はいつもお世話になっております。
【ぱんくじゃんぷ】と申します。
私のリザルトはPCもアニマ/スレイブもアドリブ多め・絡み多めです。
プラン以上の交流を必要とされない方はプラン内に【アドリブ不要】とご記載下さい。
プロローグや解説上にない情報に基づくプランも大歓迎です。
但しそれにより極端な不公平が生じる場合等は不採用又は行動がプランから逸れたものになります。
以上をご理解頂いた上ご参加して下さる皆様は宜しくお願い致します。
ただ読まれる方にも楽しんで頂けるよう、皆様のキャラクターが輝くよう、精一杯頑張ります!
※MVPについて
特別突出した方>迷ったらダイス決め≧その他GM裁量
の基準で基本1人出します(大抵迷う程皆様素晴らしいです)。
ゲームマスターより
※難易度について
難しい以上はエピソード成功までに必要とされる行動が多い、目標が複数存在する等、若干やる事が複雑になっておりますが、その分皆様の行動がエピソード結末に直結致します!
レベルや装備、参加人数等に不安があってもプラン内容やPC間の協力等で充分攻略可能です!
プロローグにて興味を持った際には、どなたでも遠慮なくご参加下さいませ!
※プランに記載頂けると嬉しいもの
・PC心情(プロローグの状況をどう感じているか)
・口調例/語尾
・他参加者とこれまで関わりがあるか(私のエピソード内の交流は覚えてますので不要です)
・どんな活躍がしたいか(カッコよく・セクシーに、など特別にご希望があれば。こちらアドリブ等頑張りますがプラン依存度高いです)
※リザルト作成時の基本的な情報優先度
PCが共同で行う作戦=エピソード内ルール・固定ギミック>各プラン=PC活躍配分>自由設定>エピソード展開・結末・変更可能ギミック
【TI】乳白まみれのノーム・ワーム・トリート エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
2 日
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ジャンル |
コメディ
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/27
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2017/11/04 |
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催し物でも全力で行くわ!目指すは完全制覇よ!と、意気込んできたものの、 進んでいくうちに思ってたのと違う展開に戸惑いながらもギミックの完全制覇をして飴を回収しに向かいます。 主側と遭遇したらきゃるーん☆テンペストで応戦し、杖でぽかすか殴ります。 MPに余裕があるときはみ~らくるくる☆マジカルを。 ギミックを探して挑戦しながら泉を目指し、泉についたらまずはクリームなどの汚れを流します。 そのあと、何回かにわけて泉に潜り、取れるだけ飴を取って、戻ります。 飴が取られたらまた取りに。
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【探究者側】で参加 視界確保&目くらまし用にパワー高めなフラッシュライトを持ち込みます プールまではサイレントムーブを使い、泉の主側に見つからないように進みます サイレントムーブが切れて使えない間はフラッシュライトを上手く使い、索敵しながら進みます 泉の主側に見つかったらライトを当てて目くらましして逃亡 触手で攻めて来たら捕まらないように迎撃しつつ、折を見て逃亡 プールに到達できたら潜って飴を回収、その後クリームを洗い流し、武器を修理したら出口へ向かいます その時もサイレントムーブやフラッシュライトを駆使して警戒を忘れずに! また、他の探究者側の人と協力できそうな時はそれを行い、余裕があれば主の捕縛も試みます
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【探究者側】 ・フィール うう、アルが何も持ち込ませてくれない。これでどうしろって言うのよ!(涙目) 仕方ないから、へーんしん&み~らくるくる、な二つのスキルと根性で乗り越えるしかない。 こうなったら、相手の服を半脱ぎにさせれば!男の子でも女の子でも、きっとこれなら何とか……なるかなぁ? ・アルフォリス 待っとったぞこういう機会を! フィールに武器?……だめじゃ!素手に決まっておろうが!(秘蔵写真公開するぞと脅h…お願い) 武器に塗る特殊な薬品とやらは手袋の上にでも塗っとけばよいのじゃ! 道具持込?ふざけるでないわ!魔女のコスプレ(露出度高い)ならぜんぜんおっけーじゃ。 どんな姿も、キッチリ撮影するからのー?
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◆担当 探究者側 ◆持ち込み 外套(ローブ) 魔女ならローブは必要でしょ的な感じの黒ローブ。 使い道は色々(後述 ◆行動 「どういう事かしら…イースター!?」 『あなたに大変ふさわしい企画かと』 (※と、いうわけでアニマにノセられて会場で趣旨に気づきました) …こうなった以上はパーフェクトでクリアしてやるわよ。 まずは飴を探しに行きましょうか…触手やら粘液やら、特に足下、頭上からの妨害ギミックに注意。 主側が襲ってきたら包囲を避けつつ1VS1になるよう引き離して応戦。 掴まれそうになったら外套を投げ捨てて回避!ウツセミ=ジツ(空蝉の術)ってヤツ? 上手いこと外套が主側に絡まったらそのまま茶巾包みにしてお持ち帰りしてやるわ
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…探求者は沢山の飴を集め、尚且つ怪我をさせることのない物を1つだけ持ち込める… なら、これはレギュレーション違反ではありません(伸縮出来る虫取り網(1m~1.5m)を持ち込む …少し、キツイでしょうか(アンバランスな爆乳のせいで先端がギリギリ見えない程度 まぁ、大丈夫でしょう。見られるぐらいでしたら、構いませんよ。燕子花は心配過ぎます とりあえず燕子花。索敵はしなくても構いませんよ。貴女はもう少し、情事の耐性を付けるべきかと …ここですね。それではこれで一気に頂いていきましょう(虫取り網で根こそぎ さて、後は楽しみましょう んっ…触手、ですか…ローションみたいで、気持ちいい、ですね…(悪戯は好意的に楽しむ
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参加者一覧
リザルト
●おいでま……せん!
一日限定オープン、濃霧触手遊戯(ノーム・ワーム・トリート)。
各地でばら撒かれた紙や情報を目にした探究者や観光客達は、こぞってこの浮島に集まっていた。
実際会場に着いてみれば、親子連れが泡の出る温水プールで楽しそうに遊んでいる。
ここはただの遊戯施設……問題はなさそうですね。
と、人々の笑顔を守りに来た【チュベローズ・ウォルプタス】と【ゲッカコウ】のコンビは安堵し立ち去る。
意外性も何もない催し、興味が失せました。
と【Apocalypse(アポカリプス)】と【Vosis(グノーシス)】達も肩透かしをくらったように帰っていった。
●おいでませ、濃霧触手遊戯へ!
アニマである【EST-EX(イースター)】に誘われて【ヴァニラビット・レプス】もまたこの場所を訪れていた。
「へぇ~。ここでコスプレ衣装を貸してくれるって訳ね」
(ヴァニラは探究者側で参加登録しておきました。そちらから入って魔女の衣装を選んで下さい)
受付を済ませた彼女達が通されたのは衣装の試着室。
そこには以前依頼で共に戦った事のある【フィール・ジュノ】の姿があった。
「あらフィール。こんな所で会うなんて奇遇ね」
「ヴァニラビットさん!? お久しぶりです! そっか、じゃあこれはアルの罠じゃ無かったんだぁ……!」
「何か言った?」
「いえいえ! 今日はお祭りの盛り上げ役、頑張りましょうねっ」
どうやらフィールもアニマの【アルフォリス】からこのイベントを紹介されたらしい。
アニマの策略により、これまで多数破廉恥な目に合ってきた彼女。
当然警戒していたのだが、頼りになる知人も参加していた事を知り彼女の心には少しの安らぎが生まれた。
(私はこないだの大規模作戦を模した遊びだと聞いたんだけど……まぁ細かいところはいいわね)
「今日こそは、今日こそは無事に終わりますように……!」
「そういえば、泉の主側だとどんな衣装になっていたのかしらね? クラゲがどうのって聞いたけど」
「ヴァニラビットさんはあの時泉の方には居なかったんでしたよね。泉にはクラゲみたいな変な生物が居たので、多分その仮装をするって事かと」
実際に泉の主と対峙したフィールは、その時の事を彼女に説明するのだが、自身がどんな目にあったかを思い出して体を震わせる。
「あれは何かヌルヌルしてて……うぅ」
「あー、その……ごめんなさいね。ほら、衣装選びましょ!」
「はいぃ……」
気を取り直して2人は衣装を選ぶことに。
「私はこれにするわ」
「これ……ちょっと露出の仕方が……え、参加した人を楽しませるため? それじゃあ……」
しばらくして、遂に2人の衣装が決まった。
「魔女と言えばローブは外せないわよね」
ヴァニラは自身が持ち込んだロングローブに身を包む。
特に黒地に白糸で縫われた飛びウサギのワンポイントは、彼女のお気に入りの部分だ。
そして会場で借り受けた帽子はケモモの耳を阻害しないよう、穴の2つ空いた短めの三角帽。
全体的に落ち着いていて、由緒正しき魔女仮装といった印象を受ける。
「う~ん、ちょっと動きづらい……」
一方のフィールはアニマ全面プロデュースの下、全身コーディネートされていた。
帽子こそ普通の先折れ三角帽ではあるものの、今日は肌色少なめのピンクドレスセットで、魔法少女というより急に大人に成長してしまったお嬢様といったところか。
だがそこはアルフォリス。
露出した肩を隠すマントの留め具は、丁度胸の谷間をハート型にくり抜いているし、フワッと広がるロングフリルスカートは太ももを透かしてしまっている。
(ぬふふ……我ながら良い出来じゃな!)
(相変わらず、あなたは素敵なご趣味をお持ちの様ですね)
(ほう! お主にもこの良さが分かるか!)
(そちらは正直さっぱりですけれど……方向だけであれば。アルフォリスさんとは同じ方向を見ているかも知れませんね)
(ふむ……EST-EX殿だったかの? お主は何を考えてるかよう分からぬな)
(くふふ……それはこちらのセリフです)
主人達が互いの着付けを確認する間、彼女達のアニマは不敵な密談を交わすのであった……。
●遊戯の幕開け
「これより、メインイベントを開催致しまぁす!!」
『うおぉぉっっ!!』
「……ひっ!?」
参加者が屋内ドームへ入場を終えしばらくすると、主催と思われる男の掛け声とともにイベントの開催が宣言される。
突如会場各地から湧き上がる野太い雄叫びに、悪寒を感じるフィール。
「ルールは分かっているな泉の主共よ! やりすぎはダメだぞ!? 絶対ダメだからなっ!!」
男がアナウンスでルールを説明する間、各所に埋め込まれたスプリンクラーからミストが放出される。
「何これー!? すっごい、べとべと……」
(くっくっくっ……あーはっはっはっ! 待っとったのじゃ! このような機会を!)
「どういう事かしら……イースター!?」
(いえ。私はただ、あなたに大変相応しい企画かと思いまして?)
ぐぬぬな主人とふふふな相棒。
どうやらアニマの2人はどちらもこうした主人の困った顔が大好物な様子である。
「勝負は探究者側の誰かが脱出するか、主側が飴を規定数確保するまで続く。ではいくぞ! トリック・オア~~~……」
『トリート~~!!!』
クラゲ達の狂乱の声を合図に、天井に向かって吊り上げられていた幕が次々に落とされる。
ヴァニラビット達の目の前には、乳白化粧に染めあげられた密林が広がっていた。
この風景は、実際に泉の調査へ訪れたフィールも驚いてしまうほど精巧な作りとなっている。
「本当にそっくり……ハッ! ということは、密林を抜けた先に泉があるはず!」
「そこまで辿り着いて、飴拾ってさっさと脱出すれば良いのね? こうなった以上はパーフェクトでクリアしてやりましょ。フィール!」
「了解!」
ヴァニラは掛け声と共に試着室で配布されていたゴム製の槍を構える。
剣先からしたたる薬品は主の触手と渡り合える唯一の手段。
勢いそのまま続こうとしたフィールであったが、魔法少女としても魔女としても肝心な杖がそこにはなかった。
「ちょっと、あなた武器は!?」
「だってアルが武器の持ち込みは禁止だって?!」
(ぬはははっ! 当然フィールに武器など与える訳がなかろうて! 薬品ならその辺の壺に入っておる。その手袋にでもつけて戦うが良いのじゃ!)
「そ、そんなぁ~~?!!」
「おい、こっちから女の悲鳴が聞こえるぞ!」
フィールの悲しみ溢れる悲哀の声に、欲望剥き出しの野獣共が群れ出てくる。
数は5人……いや、5匹。
クラゲの仮装に身を包んだ姿は独特で、頭から垂れた触手は脳波によって自由自在に動き回り、両手にはアクアブルーの触手を装備している。
そして腰には刀よろしく鞘に収められた予備触手。
幾ら素人対百戦錬磨の探究者と言えども、人数差も武装差も大き過ぎる。
「やっちまえぇぇーー!!」
『うあああぁ!!!』
「くっ、フィールは取り敢えず逃げて! ここは私が! はあぁぁぁ!!!」
「ご、ごめんなさぁぁぁぃい~~!!!」
スカートを持ち上げながら、お嬢様走りでその場を離れるフィール。
対してこの場を預かったヴァニラは、華麗な動きで触手を切り払う。
「プギャッ!?」
「よっと……キャッ?!」
1匹のクラゲの頭を踏み台に空中を一回転。
しかし着地場所が運悪く乳白だまりであったため、足をとられ尻もちをついてしまう。
そんな様子を相棒は笑みを浮かべながら見つめていた。
(クスクス。大丈夫ですかヴァニラ?)
「もう! お尻と尻尾がベタベタじゃない! 覚えておきなさいよ!」
(そうですね。もし無事に帰れましたらの話ですが……クス)
「足元の悪さに上からのミスト、突然の現れるクラゲ。一筋縄じゃいかないわね……」
彼女は改めて槍を構えると気合を入れ直すのであった。
●泉に潜む女神様?
「ひゃうっ!? 勢い、凄すぎます……!」
遊戯が始まってからしばらく経った頃【舞鶴 冬花(まいづる ふゆか)】はアニマの【プラチナスノウ】の助けを借りつつ【サイレントムーブ】を駆使して泉の側まで辿り着いていた。
しかし油断は禁物。
彼女が足元に埋め込まれたギミックを踏むと突如ホースが出現し、顔付近に向かって濃いクリームを噴射してきたのだ。
(大丈夫ですか、冬花?)
「はいっ、私は! プラチナスノウは大丈夫ですかっ?!」
(はい。私はアニマですから、このミストの影響は受けませんよ)
「あ。そ、そうでしたっ」
冬花には、以前別の世界で自身が危険な状況を彼女に助けてもらった記憶がある。
それは勿論夢であると考えられるのだが、冬花はその記憶をとても大切に思っていた。
その特別な感謝の気持ちが、ついこうしてから回ることがある。
(折角の衣装が汚れてしまいましたね)
「でも、もうすぐ泉みたいですしそこで洗えればっ」
冬花もこの催しには探究者側として参加していた。
借りた衣装はチューブトップにミニスカート。
覗かせるおへそが、元気な魔女っ娘という印象を見る者に感じさせる。
その他にも頭には長めの三角帽子を被り、腕には指先の空いたアームカバーを着けていた。
どちらもキラキラの飾りがふんだんにあしらわれており、可愛らしさをより強調させる。
「おっ、探究者見っけ。そりゃ!」
「ふああっ?!」
アニマとの会話に夢中になっていた彼女は、スキルが解かれた状態になってしまっており、クラゲの仮装をした男性に捕まってしまう。
「ではでは…『トリック・オア・トリート』! お嬢ちゃん、飴は持っているかな?」
「ま、まだ泉まで行けてなくて……持っていないのですがっ……」
少し気弱なところがある冬花。
潤んだ瞳に、男性はふっと笑いかける。
「じゃあトリックだ。お嬢ちゃんはこのまま進むのをやめて、この左の林を真っ直ぐ行く事」
「それは……そんな簡単な事で良いのでしょうかっ?」
「ああ。この辺りは主側でも変な人達が多くてね。巻き込まれない様にとの老婆心さ」
「そうなんですね! ありがとうございますっ!」
冬花は大きくお辞儀をすると、男性の言葉に従って左の林を進む。
木々を払いのけ、しばらく歩くと冬花は無事に泉へ到着。
泉は温水となっており、体を綺麗に洗った彼女は周囲を確認する。
「結構辿り着いた人がいるみたいですねっ」
(そうですね。ですが飴は中心部の方まで行かないと取れないみたいです……)
彼女は泉の中心を怪訝な目で見つめる。
なぜなら泉の中心に近づくほど、触手が水の表面へと顔を出しているのがここからでも分かるからだ。
クラゲも泉に入れるとはいえ飴を拾う事は出来ないので、催しの趣旨を解していればここで襲う意味はほとんどない。
しかし探究者から飴を集めるよりもイタズラに熱を上げる不貞の輩が沈んでいるのであろう。
しばし様子を伺っていた彼女達は、突如泉の中心から浮かび上がってくる1人の探究者を目撃する。
「……ふぅ。これで粗方は掬い上げる事が出来たでしょうか」
グレーの長い髪をかきあげると水飛沫が辺りに飛び散る。
顔を出したのは探究者側として参加した【月瀬・沙耶(つきせ・さや)】。
彼女は1m少々の虫取り網にこれでもかと飴を詰め込んでいた。
どうやら浅く潜りつつ、底に沈む飴を一気に頂くという作戦だったようで、結果は見ての通りだ。
(沙耶様! は、は! 早く服を直して下さいぃ!!)
アニマの【燕子花(かきつばた)】は顔を手で覆いつつ、主人に提言する。
月瀬はこうして水に浸かることを想定してなのか、仮装というより水着の様な格好でここにいた。
一応魔女服であろうそれは、黒一色のV字ハイレグ。
胸以外はほとんど布がないと言っても良いだろう。
しかも彼女の胸は標準をはるかに上回る大きさである為、大事な部分はちゃんと隠れているものの布は張り裂けてしまいそうなほど圧力を受けていた。
「そうですか。では……」
そう言うと月瀬はお情けで被っているようなミニハットの角度を整える。
彼女の耳はそれほど大きくない事もあって、帽子は似合っているのだが燕子花が指摘したいのはそこではない。
主人のお尻部分から触手の切れ端がはみ出している事が問題なのだ。
(沙耶様は羞恥心に欠けています!!)
「燕子花。貴女はもう少し、こうした肌をさらす事や情事に耐性を付けるべきかと。……んんっ。これですか。ローションみたいで気持ちいいですから……気づきませんでしたね」
月瀬はもふもふとした尻尾に絡まった触手を泉に放り投げた。
ケモモである彼女の尻尾は種族的に見ても大きく、布が足りない部分を上手く覆い隠している。
「恐らく先程邪魔な主を倒した時の物が残っていたのでしょうね。さて……飴は回収しましたし、後は楽しみましょうか」
月瀬は多数確保した飴の重さにも顔色一つ変えず、陸へ上がると林の奥へと歩き出す。
(あぁ! み、見えちゃいますぅ?!)
「……全く。私は見られるぐらいでしたら、構いませんよ。燕子花は心配が過ぎます」
冬花は彼女の去っていく姿を見つめる事しか出来なかった。
「あ、あれが大人の魅力なのでしょうかっ……!」
(あれを見習うのは少々問題が……冬花。飴が流れてきましたよ)
「え? 本当だ、やりましたっ! では、早く脱出を!」
『いいい~~やぁぁ~~!?!?』
飴を手に入れた冬花だったが、遠くから聞こえた悲鳴が気になった彼女はそちらの様子を伺いに行ってしまうのであった……。
●触手なんかに負けない……!
自分がそのように意気込んでいたのは、何分前の事であっただろうか。
【エティア・アルソリア】は、身動きの取れなくなった体で過去を振り返っていた。
「はぁ……はぁ……」
~~~
彼女もまた趣旨を勘違いして参加した探究者側の1人であった。
折角の催し物、彼女は手当たり次第にギミックを走破していった。
勿論そんな罠にわざわざ引っかかる必要は無いのだが、それは完全制覇を望む彼女のプライドが許さない。
道中武器を失い、首にはひんやりとした乳液をつけられ、纏ったローブは剥ぎ取られてしまった彼女が最後に辿り着いたのは、過激派クラゲ達が用意した樽のようなギミックであった。
中には人が少しだけ腰かけられる部分があるのみで、一度中に入ってしまえば1人で脱出するのは困難を極めるだろう。
「おいおい、子供がこんな所に迷い込んできたのかい?」
「こりゃあいけねぇお嬢ちゃんだ」
「なっ!? 私を馬鹿にしたわね!」
(エティア、これは絶対に避けるべきです。今回ばかりは私の言う事を聞いた方が良いと思いますよ?)
「世に変態が栄えた例(ためし)無し、覚悟なさい! 【み~らくるくる☆マジカル】!」
相棒である【メルファ】の警告も、心に炎を灯す彼女には届かない。
エティア渾身の魔法は、クラゲ達の心境に変化を与えた!
「っはっ!? 皆、彼女は合法だっ!!」
「しゃーっ!!!」
「ちょ?! なんでそうなるのよ~~??!!」
み~らくるくる☆マジカルは何か幸運を引き起こす不可思議な魔法。
最終的には幸運になるとしても、効果がどう発動されるかは使用した本人にも分からないのだ。
抵抗虚しく、クラゲ達に捕まり樽の中に入れられる。
未だ泉に辿り着けていない彼女に悪戯を拒む術はない。
彼らはトリートと称して樽の隙間に1本ずつ触手を差し込むと、持ち手を使って上下に揺らす。
「んふぅ?!」
触手はエティアの脇をくすぐる形となった。
不規則な動きがこそばゆい彼女は樽の中で身悶えする。
「くっ。私は……触手なんかに、負けないっ!!」
~~~
「はぁ…ああぁ……」
(ああもう……だから言いましたのに)
頭に被った白と黒の二股帽子。それに着けられたお気に入りのリボンは呼吸に合わせて上下に揺れる。
この場合触手から身を守るのは衣装だけであるのだが、既にローブを剥ぎ取られた彼女はワンピースタイプのドレスを纏うのみである。
背中は大きく開き腰まで来る深いスリットの入った露出度の高いドレスだった事もあり、彼女の体は触手の動きに敏感に反応してしまう。
(も、もう……ああん!)
「そ、そこまでですっ!!」
エティアが悪戯に屈服しかけたその時、冬花が助けに入る。
彼女は握りしめたたった1つの飴を差し出すと、エティアの解放を要求した。
「ちっ。飴か……」
一体彼らはこの催しの趣旨を何だと思っているのだろうか。
そんなツッコミを入れたくなるほど激しく文句をたれつつ、1人の男は触手を『当たり』と書かれた穴に突き刺した。
それがスイッチとなり、彼女が腰かけていた部分が上へ跳ね上がると、エティアは樽の上部に開いた顔出し穴から射出される。
「んああぁぁん?!」
突然股下から襲い来る衝撃に妙な声を上げてしまった彼女は、腰が抜けてしまったのであろう。
飛ばされた先で体をピクピクと震わせ、動けなくなっていた。
「さて、んじゃお嬢ちゃん……今度はアンタに犠牲となってもらおうか!」
「むむむ……! 私だって、触手になんて負けませんっ!」
冬花は持ち込んだフラッシュライトで目くらましをしながら、ゴム製の短剣で触手を処理していく。
しかし半分以上は倒せたものの、時間が経てば経つほど、洗った体には乳白が再度付着し、武器の切れ味も落ちていく。
「べ、べとべとでナイフが上手く扱えな……ひゃあぁっ!?」
『トリック・オア・トリート』!
結局、彼女も触手に勝つことは出来なかった。
こうなってしまえば最後、かわるがわる突き刺される触手の餌食だ。
残された数匹のクラゲが襲い掛かる。
「ああっ!? そこをあたっくしちゃだめぇー!」
「ここか、ここがええんか?」
「ひあああぁぁっ?! も、もうわらひ…あああぁぁっ!!」
(冬花! しっかり!)
(あ、ああ……このままじゃ、私も最後まで完食ごちそうさまされちゃう……)
冬花がアニマの声かけに応える気力を失いかけたその時、今度は槍が次々と触手を切断する。
「そんな小さな子達に一体何してるのよ、この変態っ!」
「ヴァ、ヴァニラビットさん!!」
「大丈夫? 冬花ちゃん」
「き、貴様! 何者だ?!」
「ただの探究者よ。ちょっと傭兵として名を上げているだけのね!」
ヴァニラはローブで相手の視界を奪うと、ついに最後の触手を切り払う。
彼女はそのままローブで動きを封じると、クラゲを気絶させた。
「さ、とにかく逃げましょう!」
こうして仲間を救出したヴァニラは確保した主と2人を担ぎ、一目散に脱出へと向かう。
●饗宴の終焉間際
「こんな催しだったら参加しなかったぁぁ!」
(ほれ、戦うのじゃフィール! R-17の展開がお主が待っておるぞ!)
「誰が行くもんかぁぁぁー!!!」
武器を持たないフィールはハンターにとって格好の餌である。
【へーんしん☆トランス】で衣装をいつもの姿に着替え何とか逃げ回っていたものの、MPの限界は近い。
(荒ぶる主共よ! 餌はここじゃ!)
「オープンモードでそんなに叫ばないでよ!? この服まで破かれちゃったらもう予算がぁ!」
(その時は今回の恥ずかしい秘蔵映像をまた売るまでじゃ)
「アルの鬼! 悪魔ぁー!!」
アルフォリスはカメラを回し主人の痴態を撮り続ける。
彼女の叫びが届いてしまったのか、近くの茂みが揺れ動く。
「うう、またうねうね触手に体を弄られちゃう……こ、こうなったら! 相手を先に半分くらい脱がしちゃえば!」
目には目を。恥ずかしさには恥ずかしさを。
覚悟を決めた彼女は、茂みに向かい合う。
「……おや?」
しかしそこから姿を現したのは月瀬であった。
丁度その時、フィールの魔力が底を尽く。
「えっ!!?」
元の姿に戻った彼女。
立派だったドレスセットは既にビリビリに破かれ、下着が見えてしまいそうなギリギリのチラリズムで何とか持ちこたえているものの、その決壊の時は今にも訪れそうだ。
「ふむ……なるほど。準備は万端という訳ですね。分かりました」
月瀬はそう呟くと、飴の入った網を置き自身の服に手をかける。
(沙耶様! 一体何を!?)
「情事に決まっているでしょうに。目の前に淫らで豊かな女性がいるのです。据え膳喰わねばとは聞いたことありませんか?」
(なななんて爛れた?!)
顔を真っ赤にして驚くのは燕子花だけではない。
まさか同じ探究者側の、しかも女性である相手から脱ごうとしてくるとはフィールも想定外だ。
横では鼻息荒く相棒が自身が喰われる姿を映像に残そうとしている。
もう天は私を見捨てたのか! 彼女は心の中で嘆いていた。
「それでは、トリート……させて頂きますね?」
「ひいっ!?」
「競技終了~! 探究者側で脱出者が現れたぞ~!!」
「……空気の読めないアナウンスですね。そう思いませんか?」
「お……思いませんっ!!」
命拾いをしたフィールの瞳には涙が溢れていた。
主催のアナウンスを受け、見張っていた黒服の男や女が参加者を会場外へと案内する。
勿論月瀬はタオルでその姿を隠され、半ば連行するような形で連れ出されるのであった……。
●慰労会へご招待
終了後、一番に脱出したヴァニラ達は主催から景品を受け取る。
「今回は変な輩が紛れ込んでたみたいで……申し訳ない! お詫びも兼ねてだが、これが景品の温泉旅行券だ。主を捕まえたボーナスに浮きクラゲ鍋をオプションに付けてある。施設では代金の代わりに飴を使ってくれ。それが私の支払いの代わりとなる」
「待って。私は主を捕えたけど、飴は持ってないわ」
「私も持ってないですっ」
「私なんか結局泉に辿り着けなかったわよ!」
三者三様ではあるものの、結局飴は手に入れられなかった一行。
「では……私の飴は使えますか?」
そこに月瀬とフィールが現れる。
「ぎゃあ! 痴女が2人も!?」
「んなっ?! そ、そっちだってそんな深いスリット、まさか下着はいてないんじゃないの?!」
「何よ、ちょっとスタイルが良いからって調子にのって! 私だってその内立派に育つんだからっ!」
フィールとエティア。
魔法少女達が不毛な争いを繰り広げるのを背に、月瀬は主催に自分が旅行へ参加可能か確認する。
許可が下り、一行は月瀬の飴を軍資金に5人で温泉へとしゃれこむ事となった。
「私はいつでも続きをお待ちしておりますよ、フィールさん?」
「い、いえ! 結構です!」
(なんじゃ。女子同士のくんずほぐれつ等、最上のシチュエーションではないか!)
「もう! アルは黙ってて~~!」
色々あったものの、何だかんだで一行はそれなりにこの催しを楽しんだ。
寝坊して参加には間に合わなかった【スターリー】も上空から顔見知り達の無事な姿に安堵し【フォア】に命じて自身の家へと帰っていくのであった。
この後女だらけの温泉旅行でまた一悶着あったのであるが……それはまた別のお話。
依頼結果