レーヴァテインは既によく知られているが、極めて巨大な超大型空挺都市だ。
当然ながらその内部には、居住区である街並みの他に、艦の機能を維持する機関部や動力部など、様々な機能区域が存在する。
それら膨大な数に上る機能区域内のひとつで、事件が起きた。
その日、とあるデレルバレス支部に、幾分顔を青ざめさせた下級機関士の中年男性が脚をもつれさせるような勢いで走り込んできた。
「頼む、至急応援を寄越して欲しいッ!」
「探究者の派遣が必要な、緊急事態ですか?」
デレルバレル職員が事情を訊くと、下級機関士はのっぴきならない台詞を口にした。
「ありゃあ恐らく、アビス感染者だ……それも、かなり厄介な化け物になっちまってるッ!」
曰く、二メートル近い頑健な体躯の成人男性と思しき漆黒の影が、その下級機関士が担当する巨大空調管理機関部内に出現した、というのだ。
その外観は、見るもおぞましい程に禍々しく変化してしまっているのだという。
四本の丸太のような豪腕を持ち、それぞれに血糊がべっとりとこびりついた鉄パイプや鎖などを携え、近くに居る者全てをその場で撲殺しようと襲いかかってくるらしい。
そしてその顔面には、目も鼻も無く、耳も無い。
歯茎と乱杭歯が剥き出しの大きな口だけが、呻き声にも似た耳障りな呼吸音を響かせているのだという。
近頃、レーヴァテインの機能区域内でたびたび発見されるようになった、重度のアビス感染者――通称ノーフェイスという存在であるらしい。
視覚や聴覚が具わっているようには思えないが、闇の中でも自由自在に狭い通路を駆け巡り、恐ろしく精度の高い攻撃を繰り出してくるということで、機能区域に近い場所に設置されている一部のデレルバレル支部には、警告の通達が出されたばかりであった。
「実は、仲間が何人か逃げ遅れているかも知れないんだッ!」
下級機関士の必死の形相に、職員は頷き返しながら近くに居る探究者を次々とリストアップしてゆく。
どうやら件のノーフェイスが出現した区域は、高温蒸気管からの蒸気漏れが発生し、修理の為に立ち入り禁止となっている模様。
逃げ遅れたというのは、その蒸気管を修理する為に送り込まれた配管工達らしい。
「蒸気漏れで相当な熱量が発生しているから、あの区域は防護シェルターで隔離されちまってるッ! 内側からはあの防護シェルターを開けることが出来ねぇんだッ!」
つまり、任務は単純だ。
逃げ遅れた配管工を探し出し、連れ帰ること。
尤も、ノーフェイスへの対処という極めて困難な状況が付随するかも知れないのだが。
蒸気漏れが発生し、60度近い高温に達している巨大空調管理機関部内から、逃げ遅れた配管工を救出することが本エピソードの目的となります。
ノーフェイスは最早回復不能なまでに感染が進んだ重度のアビス患者で、今やただの化け物です。
今回の目撃情報は一体だけですが、これまでに複数の存在が確認されていることから、油断は出来ません。
ノーフェイスの戦闘能力は、通常の探究者であれば複数でかかれば倒せる程度ですが、狭い通路や高温に達した密閉空間という最悪の環境が、より難度を上げているといって良いでしょう。
逃げ遅れたと思われる配管工は全部で五人居ますが、既に何人かは犠牲となって命を落としているという未確認情報もあります。
必ずしもノーフェイスを倒す必要はありませんが、救助活動の中で生存が確認された配管工がひとりでも犠牲になれば任務失敗です。
本プロローグをお読み下さり、誠にありがとうございます。
夏も終わり、爽やかな秋の空気が気持ち良い季節となりましたが、敢えてえげつないスプラッターホラーのようなお話をお届けに参りました。
もし宜しければ、参加をご検討頂けますと幸いです。
闇路を往く エピソード情報 | |||||
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担当 | 革酎 GM | 相談期間 | 6 日 | ||
ジャンル | 恐怖 | タイプ | ショート | 出発日 | 2017/10/8 |
難易度 | 難しい | 報酬 | 通常 | 公開日 | 2017/10/14 |
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参加者一覧
スターリー ( フォア ) | |
デモニック | 魔法少女 | 23 歳 | 男性 |
ニーア ( コロナ ) | |
フェアリア | マッドドクター | 6 歳 | 女性 |
simple ( MNA ) | |
ケモモ | アサルト | 25 歳 | 女性 |
グリード ドレッドメア ( ウリュリュ ) | |
デモニック | アサルト | 38 歳 | 男性 |
Απōκάλυψις ( νῶσις ) | |
デモニック | ハッカー | 28 歳 | 女性 |
エルマータ・フルテ ( アル ) | |
ドワーフ | スナイパー | 18 歳 | 女性 |
エクセル=クロスワード ( ソーラー ) | |
ヒューマン | マーセナリー | 32 歳 | 男性 |
アクア=アクエリア ( フォブ ) | |
フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性 |
リザルト
●暗闇の中へ
閉鎖された巨大空調管理機関部内に突入すると、背後の隔壁が轟音を響かせて、外界とのあらゆる接触を完全にシャットアウトした。
周囲に敵の気配が無いことを確かめてから、『アクア=アクエリア』はすぐさま手近の制御盤に自らのタブレットをケーブル接続し、区域内に取り残されたと思われる配管工達のアニマとの接触を試みた。
が、不気味な程に反応が無い。
傍らに佇む『フォブ』に指示を出し、複数の通信回線を通じて区域内のアニマに対して救助に来た旨の報知信号を送出してみたが、矢張り全くといって良い程に応答がひとつも返ってこなかった。
じっとりと、頬を汗が伝い落ちる。
隔壁の内側は60度前後という高温に達しており、ちょっとしたサウナ状態だ。
こんなところに長時間籠っていては、確実に熱中症で命を落としてしまうだろう。
最寄りのデレルバレル支部から借用した耐熱性の断熱服を着込んでいるが、それでも体感温度は真夏の35度を超える超酷暑日の中を歩いているような暑さだ。
如何に優秀な探究者といえども、数時間もすれば完全にへばってしまうだろう。
「配管工さん達のアニマからは何の応答も無いね……もしかしたら、この高温で機能不全に陥っているのかも知れないね」
「それはちょっと困りものですね。区域内が全部この高温ですから、体温感知での位置特定は不可能ですし」
小さく肩を竦めながら、『Apocalypse』はアクアから制御盤に繋いだケーブルのコネクタを受け取り、自らのタブレットに繋ぎ直す。
監視カメラで配管工達の位置を特定出来ればとも考えたが、ほとんどのカメラが蒸気でレンズが曇ってしまっており、映像データとしては使い物にならなくなっている。
こうなるともう、地道に足で探すしかないか――やや諦めにも似た感情を『Vosis』に向けた時、そのVosisがもうひとつの感知機能の存在に気付いた。
どうやらこの管理機関部内には動体探知センサーも各所に設置されているらしい。
「空気圧の変化に反応するタイプのようですね……これなら配管工の皆さんだけでなく、ノーフェイスとやらも位置の特定が出来るかも知れません」
僅かな希望の光を見出し、Apocalypseはアクアのタブレットに無線経由で全ての情報を転送した。
「リアルタイム受信で一分おきに自動更新をかける設定にしておいて下さい」
制御盤との有線接続を解除し、タブレットを断熱式のウェストポーチ内に押し込む。
精密機器であるタブレットは人間以上に、高温と蒸気に弱い。常に画面を見ながら使用することは、生憎この最悪の環境の中では不可能であるといって良い。
そこでふたりは、有線イヤホンとタブレットを接続し、アラート音で状況の変化を感知することにした。
勿論ふたりのアニマも異常があればすぐに警告を出してくれるが、対ノーフェイスともなると、矢張り勝手が違う。
「先に見つけるとしたら、配管工さん達よりも、ノーフェイスって化け物の方の確率が上だろうなぁ」
アクアは汗まみれになった愛用のゴーグルを一旦外し、無駄だと分かりながらもレンズを拭ってから、再度額の上にかけ直した。
一方、閉鎖区域の外側。
無機質な制御室内には、デレルバレル支部の職員や下級機関士の他、探究者の姿もあった。
(……こいつぁ、あんまり宜しくねぇな)
隔壁操作と、配管工救出時の救急搬送手配を担当する『エクセル=クロスワード』は、無線越しに届いたApocalypseとアクアの会話に、ふと表情を曇らせた。
エクセル自身の仕事は、閉鎖区域内に突入していった仲間の探究者達の為に諸々の装備や情報を揃え、突入後は隔壁の外でサポートに徹することの二点だった。
が、もし可能であれば隔壁を操作してノーフェイスの進行を妨害し、配管工達の救出を少しでもスムーズに行えるよう手助けすることも視野に入れていた。
ところが、動体探知での発見ともなると、ノーフェイス発見から隔壁操作までの間にどうしても多少のタイムラグが生じてしまう。
かといって、あっちもこっちも隔壁を無闇に閉じてしまうと、細分化された各区域内での蒸気による温度上昇が一気に早まってしまい、取り残された配管工達だけでなく、突入した探究者達をも窮地に陥らせかねない。
折角掻き集めたユピーターも、その機動力を失わせることになる。
それでは本末転倒であろう。
「ま……流石にどうしようもねぇなぁ。大人しく果報を寝て待つスタイルに徹するしかねぇかなぁ」
先行突入組から緊急SOSが届けば、エクセルは『ソーラー』ともども、追加戦力として閉鎖区域内に自ら足を踏み入れるつもりではあったが、それは本当に最後の最後、とっておきの切り札として残しておかなければならない。
顎を指先で軽くなぞりながら、エクセルはソーラーを一瞥した。
ソーラーはソーラーで、フォブと同じく配管工達のアニマと通信接触を何度も試みていたが、今のところ芳しい成果は得られていなかった。
●灼熱の閉鎖空間
巨大空調管理機関部内は、思った以上に狭い。
ところどころに点在する制御室や配管整備室等はそれなりの広さがあるが、それ以外の通路や束管路はというと、人間ひとりがやっと通れるぐらいの細い空間であり、複数名が纏まって移動するには、余り向いていないといって良い。
集団で進むにしても、長い列を作ってひとりずつ狭い通路を抜けてゆく必要があった。
「こりゃ拙いね。ユピーター単機で駆け抜けるぐらいなら問題無いけど、こうやって一斉に動くのは却って手間がかかるっていうか……」
ユピーターに跨り、低速で前進している『エルマータ・フルテ』は、渋面を浮かべて額の汗を拭った。
狙撃による遠隔攻撃を担当するエルマータだが、後衛としての戦闘スタイルが有効となるのは、それなりに広い空間での戦闘に限られる。
アニマの『アル』が後方を振り返り、通り過ぎた後の通路の向こう側を警戒しているが、仮に敵が出現したとしても、前衛担当がノーフェイスと接敵してしまえばもうそれだけでスペースがなくなり、援護射撃を叩き込める空間的余裕は一切無くなってしまう。
「戦うとしても、制御室か配管整備室にまで敵を誘い出してから、だね」
「そうする以外に、無さそうだな」
すぐ前を行く『スターリー』も、同調して静かに頷いていた。
エルマータと同じく後衛を担当するスターリーとしては、敵と距離が取れないことよりも、接敵した味方が妨げとなってノーフェイスに一撃を叩き込むことが出来ないような狭い空間では、己の能力や技術がフルに発揮出来ないことを早い段階から懸念していた。
もし通路でノーフェイスと遭遇した場合、後方の制御室等が近ければ素早く後退して敵を誘い込むか、或いは前方の空間が近い場合には先頭の前衛が押しに押しまくって一気に開けた場所にまで戦場を移動してゆくしか、方法が無い。
だが、接敵した前衛が力及ばずノーフェイスに倒されてしまったら、それらのプランは一気に瓦解する。
もうもうと立ち込める蒸気の中では視界も悪く、ノーフェイスと鉢合わせになる可能性も高い。
エルマータにしろスターリーにしろ、出会い頭の不意打ちで前衛がひと息に崩され、後衛が直接ノーフェイスと接近戦を強いられるという最悪のケースも頭に入れておかなければならなかった。
「……フォア、今からでも良い、準備をしておけ。ぶっ壊れて使用が一度きりになっても構わん。二度も三度もとっておきを使わせてくれる程、ノーフェイスも悠長じゃないだろう」
スターリーはじっと前を見据えたまま、『フォア』に対して低い声音で指示を出した。
初撃で最大出力を叩き込み、一気に勝負をつけるという戦術は、短期決戦では必須であろう。
下手に小出しで少しずつ戦力を投入し、味方を消耗させてゆくのは愚の骨頂である。
前衛が崩れ、ノーフェイスが瞬く間に接近してきた後となっては、最早最強の一撃を叩き込む以外、助かる道は無い。
「何とか化け物と遭遇する前に、救助が出来たら良いんだけどね」
暑さで喉がからからに渇く中で、ふとエルマータの本音が漏れた。
戦闘は出来れば避けたい。目的はあくまでも配管工達の救助であって、ノーフェイスの駆逐ではないのだ。
エルマータとしては、不要な戦いは可能な限り避けたかった。
しかし兎に角、狭い。
非常に大きな体躯を誇る『グリード ドレッドメア』にとっては、この圧迫感さえ覚える狭苦しい空間は、苦痛以外の何物でもなかった。
今回グリードは、ノーフェイスとの真正面からの殴り合いに臨むことが出来るということで、突入前までの時点では、内心で随分と気分が高揚していた。
ところが実際に入ってみると、この狭さである。
恐らくはノーフェイスもその戦闘能力を完璧には発揮出来ないだろうが、グリード自身も己の戦闘能力が著しくセーブされる格好になるのは、間違いなかったろう。
立体映像である為、物理的な空間の影響には全く左右されない『ウリュリュ』は余裕しゃくしゃくの表情を見せていたが、グリードはそういう訳にはいかない。
小さな小屋や建物程度ならばその怪力で易々と破壊することも出来ただろうが、この巨大空調管理機関部内の構造は兎に角堅牢だ。
分厚いコンクリートと鉄骨で密閉され、何十個もの爆弾でも用意しない限り、この狭い空間を綺麗さっぱり排除することは不可能である。
そもそもグリードの長身では、相当に上半身を窮屈に屈めなければ、前進することすら難しい。
仮にノーフェイスと遭遇しても、力で押しに押して、広い制御室に戦いの場を移す必要があるだろう。
「何だか大変そうね……何なら私が膝から下を切り落として、少しぐらいは広くしてあげても良いんだけど」
「そいつぁ御免こうむる。下半身が無くちゃ、殴り合いもへったくれもねぇからな」
すぐ後ろを歩く『ニーア』からの冗談とも本気ともつかぬ提言を、グリードはぴしゃりと退けた。
例え軽口であっても、下手に応じてしまうと、ニーアならば本当に膝から下を切断しかねない。
ニーアのアニマ『コロナ』はというと、ニーアの発言が如何に常軌を逸していても、全く笑うこともなく、平然と傍らに佇んで前だけをじっと見つめていた。
と、その時だ。
先頭を進んでいた斥候担当の『simple』が、前方を見据えたまま、停止の手信号を出してきた。
一同に、緊張が走る。
現れたのは取り残された配管工か、或いは――ノーフェイスか。
●遭遇戦
simpleは、蒸気で視界が極端に悪くなっている薄闇に支配された空間を、じっと凝視した。
そして次の瞬間には、猛然と駆け出していた。
焼けつくような高温が上下左右から噴き出してくる中を、simpleの健脚は一気に突破し、開けた空間に飛び出す。そこは、巨大空調管理機関部内に点在する制御室のひとつだった。
低いくぐもった悲鳴と、耳障りな呼吸音が同時に、simpleの鼓膜を打った。
制御室の入り口から入ってすぐのところで、尻餅をついている配管工の姿。その正面には、鉄パイプを振り上げ、今にも強烈な一撃を繰り出そうとしている醜悪な化け物の姿があった。
simpleは、いつもならば自身の名を名乗ってから相手を誰何するという習慣を身に着けていたが、今回ばかりはそんな悠長なことはいっていられない。
弾丸のように駆け、その化け物――ノーフェイスの脇腹に強烈な体当たりを叩き込んだ。
ノーフェイスは見た目の大きな体躯とは裏腹に、意外と足腰が貧弱なのか、simpleの体当たりを喰らって盛大に吹っ飛んだ。
「大丈夫かい?」
「あ、あぁ……助かった、よ……」
全身傷だらけではあるが、中年の配管工から発せられた声にはまだ生気が感じられる。自分で立ち上がろうとしている様子からも、体力的には問題無いことが見て取れた。
ここで漸くsimpleは、謎の敵と真正面から向き合うことが出来た。
「ウチはsimple。アナタは?」
問いかけたものの、当然ながら答えは返ってこない。
その代わり、ノーフェイスは乾いた血が黒々とこびりついた鉄パイプを振りかざし、声なき雄叫びを上げて殴り掛かってきた。
ここで戦っては危険だと判断したsimpleは、ノーフェイスを狭い通路に誘い出そうと考えたが、それよりも早く、グリードの巨体が雪崩のような勢いで制御室内に飛び込んできた。
「こいつぁ俺の獲物だッ! お前はそいつを連れて、さっさと後退しろッ!」
一瞬、グリードひとりで大丈夫なのかと不安に駆られたsimpleだったが、ウリュリュが楽しげな表情で頷き返すのを見て、simpleは腹を括った。
「そういうことなら……MNA、救急搬送用意ッ!」
アニマ『MNA』に指示を出しつつ、simpleは最初の救助者である中年の配管工に素早く近寄り、アビス感染の有無を確認した。
幸い、この配管工には感染の兆候は見られなかった。が、当の本人は自分のことよりも、逃げ遅れた仲間を助けてくれと必死の表情で訴えてきた。
「まだこの先の通路にひとり、怪我をして動けない奴が居るんだ」
「そのひとは、もう感染しちゃってる?」
問いかけてきたのは、グリードに続いて入室してきたニーアだ。
中年の配管工はアビス感染の専門家ではない為、逃げ遅れたというその仲間が感染しているかどうかは、分からないとかぶりを振った。
ならば、自分の目で確かめるしかない。ニーアは微笑を湛えたまま、制御室を通り抜けて更に奥の通路へと向かう。
ニーアがもうひとりの逃げ遅れた配管工のもとへと向かうということで、スターリーとエルマータもその後に続こうとした。
が、その時、タブレットの無線を通じてアクアから警告の声が飛び込んできた。
もう一体のノーフェイスが出現し、ニーアが向かう先の通路内を移動してきている、というのである。
「距離50ッ! もう目と鼻の先に居る筈だよッ!」
「ニーアが前衛か……不本意だが、そうならざるを得んか」
既に制御室を通り抜け、狭い通路へと入ってしまったニーアの後を追う格好になってしまっている為、ここで順番を入れ替える為に後退させてしまっては、もうひとりの配管工とノーフェイスの接触は避けられない。
スターリーは腹を括った。エルマータに頷きかけ、まず自身がニーアの後に続き、その更に後にエルマータを後詰として控えさせた。
「なるべく腹這いで仕掛ける。ニーアの体格も然程大きくはない。狙えるようなら、撃って構わん」
「そうするしか、なさそうだね」
かくして、スターリーとエルマータはもうひとりの配管工を確保すべく、高温の蒸気が容赦なく噴きつける通路内を足早に駆けた。
程無くして前方から、ニーアの嬉々とした声が響いてきた。
「貴方、従来の方法じゃもう助からないけど……誰かの役に立って死ぬか、それとも只、アビスに呑まれて死ぬか、どっちがいいかしらぁ?」
呼びかけている相手は配管工ではなく、ノーフェイスのようだ。
致死量を超える抗アビス薬を叩き込んでいるようだが、ノーフェイスの動きには全く変化がない。
それでもニーアは楽しげにノーフェイスと対峙を続けている。平時であればこのままニーアに任せても良かったが、今はそんな悠長なことはいっていられない。
この高温下で、一般人に過ぎない配管工を長時間放置するのは、問題が多過ぎる。
スターリーとエルマータは当初の予定通り、ノーフェイスを仕留めにかかった。スターリーは腹這いの状態で攻撃態勢を取り、エルマータはユピーターに跨ったまま狙撃態勢に入る。
ノーフェイスが鉄パイプを振り上げた瞬間、スターリーとエルマータの攻撃が同時に襲いかかった。
「……あら、死ぬと消えちゃう訳?」
ニーアが幾分、残念そうに頭を掻いた。
スターリーとエルマータに仕留められたノーフェイスは、声なき断末魔を上げて、その場で四散した。
重度のアビス感染者の最期は、死体どころか肉片や血飛沫すらも散らさず、本当にただ、虚空の中に消滅するだけの味気ないものだった。
●救助
simpleが発見した最初の配管工を、後方で待機していたApocalypseとアクアが保護し、その場で応急手当に入った。
きちんとした処置は閉鎖区域を出た後になるが、止血だけはやっておく必要がある。
アクアが配管工の応急手当に取りかかっている間、Apocalypseは手近の制御盤にタブレットを有線接続し、最新の動体探知結果を採取した。
最初は淡々とデータ解析を進めていたApocalypseだが、次第にその表情には緊張の色が漂うようになってきた。
「もう一体、ノーフェイスがこっちに来てますね」
「えッ……そいつは拙いんじゃないの?」
止血を手早く済ませたアクアが、幾分驚いた顔つきでApocalypseを見上げた。
しかし、Apocalypseの表情に変化はない。どうやら、冗談ではなさそうだった。
「エクセルさん。緊急事態です。応援を要請します」
隔壁外に待機しているエクセルに呼びかけてから、Apocalypseは戦闘態勢に入った。
simpleとアクアは、配管工を庇う格好で位置を取り、少しずつ移動を開始する。が、その足がすぐに止まった。
丁字路に差し掛かったところで、ノーフェイスの不気味な姿が闇の向こうからのっそりと出現したのだ。
この時、Apocalypseの表情が妙に高揚して見えたのは、気のせいだったろうか。
ここでsimpleがApocalypseと入れ替わる形で前に出た。丁字路の少し開けた空間では、四本の腕を持つノーフェイスの方が有利だ。
simpleは一気に間合いを詰め、狭い通路内での接近戦を選んだ。
一方でアクアは、輸血パックをノーフェイスの後方に投げたり、懐中電灯の光をノーフェイスの体表に向けたりしたが、まるで反応らしい反応が無い。
同時にフォブが超音波の発生を検知してみたが、それも不発だった。
どうやらノーフェイスは、常識的な感知能力とは全く異なるところで、何らかの感覚能力を発揮しているらしい。
音でも血でも光でもない。ならば、残る可能性はひとつ。
simpleはノーフェイスの攻撃をかいくぐり、超至近距離から、乱杭歯が剥き出しの口元に必殺の一撃を叩き込んだ。
直後、ノーフェイスは突然狂ったように四本の腕を遮二無二振り回し始めた。
慌てて後退したsimpleは、あの口こそが何らかの感覚器として機能していたことを初めて知った。
ところが、そのノーフェイスは突然前のめりに倒れ、そのまま空中に溶け込むようにして四散した。
「あ……エクセルさんッ!」
「よぉう、無事だったかい」
知覚機能を失い、背後からの接近にまるで気付かなかったノーフェイスの後頭部に、エクセルは必殺の一撃を叩き込んで勝負をつけたのだ。
simpleがノーフェイスの口元を攻撃していたからこそ可能だった訳だが、それでもあの凶悪な化け物の背後に迫ろうという度胸は、流石といえるだろう。
「それにしても、暑いなぁここは。さっさと脱出しちゃってくれ。隔壁の外ではもう、救急搬送の準備が整ってるからよ」
その後、Apocalypseとエクセル、そしてアクアの三人はもうひとりの配管工を救助すべく、グリードが激闘を繰り広げている筈の制御室へと足を急がせた。
三人が到着すると、グリードは丁度、自身が対峙したノーフェイスを仕留めたところだった。
「凄ぇな。ひとりで一匹、始末したってぇのか」
「他の奴も俺の獲物にしたかったんだが、もう仕留めちまったようだな」
若干呼吸が上がってはいるものの、それでもグリードはけろっとした顔で小さく肩を竦めた。
と、そこへエルマータが通路の奥で救助した配管工をユピーターに乗せて引き返してきた。
更にその後に、後方を警戒しながらニーアとスターリーが続く。
ニーアがその配管工から聞き出したところによると、もうこれ以上の生存者は居ない様子だった。
「他の三人は、私達がここに突入する以前に、もうお亡くなりになってたみたい」
仕方なさそうにかぶりを振るニーアだが、彼女が残念がっているのは、残りの三人が生きたままアビスに感染していなかったことに対してだ。
これには他の面々も、流石に閉口した。
その時、再びApocalypseのタブレットから警告を示すアラート音が鳴り響いてきた。
ノーフェイスが更にもう一体、こちらに接近中らしい。
ここでグリードが、にやりと笑った。
「そいつは俺の獲物だ。お前らはさっさと帰んな」
「そうさせて貰うぜ。俺らの仕事は配管工さんの救助だからな」
呆れたように応じながら、エクセルが先頭を切って退出してゆく。その後にスターリー、ニーア、アクア、そして配管工を乗せたユピーターを操るエルマータと続いた。
が、どういう訳かApocalypseだけがその場に残っている。
グリードは不審げな顔を向けた。
「色々と、観察させて頂きます。あ、手出しはしませんのでご安心を」
にっこりと笑うApocalypseに不気味なものを感じながらも、グリードは更に現れたもう一体のノーフェイスに向けて戦闘態勢を取った。
尤も、このノーフェイスもグリードの戦闘欲を多少は満たした程度で、結局は数分と持たずに四散してしまった訳だが。
依頼結果
成功
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MVP | |||||||
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作戦掲示板 | ||
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[29] アクア=アクエリア 2017/10/07-10:19
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[28] エクセル=クロスワード 2017/10/07-07:02
|
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[27] エクセル=クロスワード 2017/10/07-07:00
|
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[26] スターリー 2017/10/06-20:51
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[25] スターリー 2017/10/06-20:51
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[24] アクア=アクエリア 2017/10/06-18:09
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[23] アクア=アクエリア 2017/10/06-18:09
|
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[22] エルマータ・フルテ 2017/10/06-15:27
|
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[21] エルマータ・フルテ 2017/10/06-15:27
|
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[20] Απōκάλυψις 2017/10/06-09:28
|
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[19] Απōκάλυψις 2017/10/06-09:28
|
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[18] エクセル=クロスワード 2017/10/06-06:32
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[17] エクセル=クロスワード 2017/10/06-06:32
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[16] simple 2017/10/06-01:36
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[15] simple 2017/10/06-01:36
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[14] スターリー 2017/10/06-01:18
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[13] スターリー 2017/10/06-01:18
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[12] エクセル=クロスワード 2017/10/06-00:49
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[11] エクセル=クロスワード 2017/10/06-00:49
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[10] エクセル=クロスワード 2017/10/06-00:44
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[9] エクセル=クロスワード 2017/10/06-00:44
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[8] スターリー 2017/10/05-23:59
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[7] スターリー 2017/10/05-23:59
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[6] スターリー 2017/10/05-23:58
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[5] スターリー 2017/10/05-23:58
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[4] ニーア 2017/10/05-01:23
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[3] エルマータ・フルテ 2017/10/05-00:36
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[2] スターリー 2017/10/02-21:06
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