【隠れた真実】奇跡のトマト防衛戦埴輪 GM) 【難易度:普通】




プロローグ


 ――爆音と振動。
 それがそう遠くない場所からもたらされたものだと感じながらも、彼……リコ・ペルシカムは黙々とトマトを収穫していた。
日課であり、生き甲斐であり、たとえ世界が滅びる時が来ても……そう思っていたリコにとっては、今の状況も『たとえ話』が『現実』になっただけのことである。

 リコは四方を高い柵に囲まれた敷地に四つのハウス――トマト畑――を所有しており、環境制御装置の恩恵を受けて、一年中トマトを収穫することができた。今は敷地の中央にある家から見て、南東にあるハウスが収穫時期を迎えており、リコもその中にいた。

 リコのトマトは大きくて甘いと評判だったが、近年では別の効果も期待できるのではないかと、医療関係者から注目を集めている。『奇跡のトマト』……そう評するものもいたが、リコはトマトなんてものは美味ければそれでいいと思っていた。

 トマト狩りも人気だが、本日の客は食すためではなく、踏み荒らすためにやってきたようだ。一様に黒いフード付きのローブを身にまとい、手にはハサミならぬ剣を持って。

 とんだ団体客であり、とても老人一人でもてなすことなどできない。リコは覚悟を決めた……決めるしかなかったのだが……振り返ると、探求者の姿が見えた。
 黒いフードの集団……アビスメシア教団がここに向かっていると知らせに来ただけでなく、それでも逃げようとしないリコを、トマト畑ごと守ろうというのである。

 だが、リコはそれを酔狂だとは思わなかった。なぜなら、彼らの表情ときたら……世界が滅びゆく中にあっても絶望に沈むことなく、希望に満ち溢れていたのだから。

「よろしく頼む。終わったら、たらふく食わせてやるからな」
 リコは前に向き直ると、真っ赤なトマトに手を伸ばした。

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このエピソードはグランドプロローグ「崩壊の始まり」の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお「崩壊の始まり」にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
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解説


 西門より現れた多数のアビスメシア教団から、リコとトマト畑を守ることが目的です。探求者は東門から敷地に入ったのですが、その先は都市の中心部へと続いているため、ここでアビスメシア教団を叩くことは、都市全体を守ることにも繋がります。

 四つある畑の内、現在トマトが収穫できるのは南東のハウスのみで、アビスメシア教団はそこを目指して押し寄せています。目的は『奇跡のトマト』だと考えられますが、ローブから僅かに覗く表情を見る限り、食べようとしているわけではなさそうです。
 アビスメシア教団は剣や斧などの近接武器で武装している他、中には自爆装置を持っているものも……戦闘力こそ高くありませんが、接近戦には注意が必要です。

 敷地には西門から東門に続く一本道があり、その中央にリコの家が建っています。道幅は十人が並んで歩けるほどの広さで、敷地を囲む柵沿いに裏道がありますが、こちらは一人が通り抜けるのがやっとです。

 以下に敷地内の施設をまとめます。

○リコの家
 西門から東門の中央に位置する小さなログハウスです。リコがその人生の大半を過ごした場所であり、終の棲家と決めている場所でもあります。

○トマト畑
 リコの家から見て北東、南東、南西、北西にハウスがあり、全てトマト畑です。現在トマトが収穫できるのは南東のハウスのみで、リコもそこにいます。
 ハウスは刃物で簡単に切り裂ける他、出入り口に鍵もないので侵入は容易です。

○環境制御装置
 散水、空調、湿度の管理……その他ハウスに関する一手を引き受けている装置です。高さは三メートル、横幅と奥行きは二メートルの直方体で、北東にあるハウスに隣接した小屋の中に置かれています。なお、これ一台で四つのハウスを全て管理しています。

【補足】
 東門は開いたままですが、そこから敵味方とも増援が現れることはありません。ただ、西門から進入したアビスメシア教団が、東門を突破するような事態は避けたいものです。


ゲームマスターより


 世界の滅亡を前にしたとき、皆さんが守りたいものはなんですか?
 大切な人、物、思い出……色々あると思いますが、リコにとってそれはトマトでした。
 命よりも大事なもの……それこそが、本当に守るべきものではないでしょうか?

 ……というわけで、新人GMの埴輪と申します!
 皆さんが『のとそら』の世界を存分に楽しめるように尽力して参りますので、今後ともよろしくお願い致します!



【隠れた真実】奇跡のトマト防衛戦 エピソード情報
担当 埴輪 GM 相談期間 7 日
ジャンル --- タイプ EX 出発日 2017/7/3 0
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2017/7/13

 ウェイ・ゴーイング  ( マイ
 ケモモ | ガーディアン | 25 歳 | 男性 
東門は大忙しで土嚢なり木材なり資材等でふさぐ。装備は片手剣・片手盾。
西門の入り口をエスバイロで少しふさぎ、道幅を狭く。入り口付近に環境制御装置を設置、リコに環境制御装置による援護を頼む。
頼めない場合はアニマ・マイをインストールし、マイによって援護をさせる。(放水等で)
敵が侵攻を開始したらひたすら耐え、倒す。自分を無視しようとしたり、脇を通り過ぎようとした相手がいたらクラススキルで引き寄せる。自爆兵がいて、認識できたら、出来たら爆発する前にできるだけ遠くか敵に向かって放り投げる。
体力が低くなったら、ネリネに回復を頼む。数が多く、アイギナに余裕がありそうだったらアイギナに援護を頼む。
 ネリネ・アランドロン  ( コラプター
 フェアリア | マッドドクター | 10 歳 | 女性 
えっとえっと…トマトさんを護りに来ました…ですがわたしは戦闘は苦手なので…
一応治療とか注射針で威嚇とかはしますが基本は皆さんの後ろでアビスメシアの方々の警戒を行います…
わたしに出来る事はほとんどないと思いますけれど…リコさんの想いの詰まったトマトさんは絶対護り抜きます!!
「リコさんのトマトさんは皆さんに愛されているのです…だから帰ってください!!」
 アイギナ  ( ルル
 ドワーフ | ハッカー | 31 歳 | 女性 
まず念のため東門を塞ぐ。門をゴーイングくんに叩いてもらい門のレール(引き戸なら)を歪ませる。また、エスパイロや何かしらの農具を積み上げバリケードを作る。(自分たちが内側にいるのに内側から通れないように門を塞ぐって結構無理ある)
南側の裏道へ移動し前進する。敵がを見つけ次第「マジックミサイル」で一方的な攻撃を行う。
南東ハウスの端まで来たら足を止め見張る。少しだけ待って敵が来なさそうなら南東ハウスか南西ハウスを突き破って(ここでトマトを食べて回復できる)中央の一本道へ出て合流を目論む。
自爆兵は遠距離で処理できるなら優先して処理したいなぁ。こちら側は偏った編成なので、ハッカーだけど攻撃スキルを多用する中央の一本道へ行き合流を目論む。
自爆兵は遠距離で処理できるなら優先して処理したいなぁ。

参加者一覧

 ウェイ・ゴーイング  ( マイ
 ケモモ | ガーディアン | 25 歳 | 男性 
 ネリネ・アランドロン  ( コラプター
 フェアリア | マッドドクター | 10 歳 | 女性 
 アイギナ  ( ルル
 ドワーフ | ハッカー | 31 歳 | 女性 


リザルト


 ――東門の前には、急ごしらえのバリケードが築かれてた。土嚢、木材、農具……使えそうなものは何でもと、フラツキーニ社製のエスバイロ『ブリスコラ』までもが2台、仲良く並べられている。
「これでバッチリだな!」
 満足そうに肯くのは、大柄な狼耳のケモモ男性『ウェイ・ゴーイング』である。見た目通りの体力自慢で、バリケードの設置でも大きな活躍を見せた。
「本来バリケードってのは、外敵の侵入を防ぐためのものなんだけどね」
 そう言って肩をすくめるのは、ドワーフ女性の『アイギナ』だ。これでは自らの退路を断っているに等しく、差し詰め背水の陣である。
「で、でも、この先は都市の中心につながってますから、市民の皆さんにとっては、立派なバリケード……ですよね?」
 声を上げたのは、フェアリアの少女『ネリネ・アランドロン』。アカディミアの制服の上に白衣を羽織り、黄緑色の髪をピンクのリボンでポニーテールにまとめている。
「ネリネの言う通りだぜ! おいら達がここでアビスメシア教団の奴等を倒しちまえば、レーヴァテインを救うことにもなるってんだから、一石二鳥だな! ガハハ!」
 ウェイが大声で笑うと、ネリネはアイギナの影に身を隠した。怖がらせちまったか……ウェイはバツが悪そうに、こほんと咳払い。
「そ、それにしても、アイギナさんの地図は良かったな!」
「ああ、本当に助かりました! ありがとうございます!」
 深々と頭を下げるネリネに、アイギナは小さく首を振った。
「必要だと思ったから用意したまでよ。人手が人手だしね」
 ――そう、この場にいる探求者はウェイ、ネリネ、アイギナの三名だった。
 そもそも、アビスメシア教団が都市の中心に向かっているという情報があり、その確認と逃げ遅れた市民の救助へと赴いた結果、辿り着いたのがリコのトマト畑だった。
 最善の手はリコを連れて帰ることだが、当の本人はここから離れるつもりはなく……かといって、見捨てることなどできるはずもなかった。
「リコの畑は広いから、三人じゃとても守り切れない。だから、リコと南東のトマト畑を守ることに専念しましょう。……それだって、大変だけれどね。くれぐれも無理はしないこと。特にゴーイング君は、一人で矢面に立つことになるんだから」
 アイギナの言葉に、ウェイは胸を張った。
「任せとけって! おいら、ここのトマトが大好物だからさ、バッチリ守ってやるぜ!」
「わ、わたしも……リコさんの想いが詰まったトマトさん……絶対に守り抜きます!」
 ネリネが賛同の声を上げる。やる気満々の二人を前に、アイギナは小さく笑った。
「……ところで、本気でそれを使うつもりなの?」
 アイギナが指さしたのは、ウェイのエスバイロ『バイコーン』に積まれたクワだった。
「多人数を相手にするなら、長物の方が有利だしな! これなら片手で扱えるし、盾だって持てるし、何より手に馴染むんだよなぁ、これが!」
 ガハハと笑うウェイを横目に、アイギナはネリネを見下ろした。
「私は南側の裏道に向かうから、ネリネは北側の裏道を通って環境制御装置の操作をお願いするわ。終わったら引き返して、私と合流すること。いいわね?」
「は、はい! 頑張ります!」
 敬礼するネリネ。フェアリアは成人しても子供のような姿だが、ネリネは十歳……正真正銘の子供だ。後方支援としてリコの傍に置いておきたいところだが、今は猫の手も借りたい状況である。それに、幼くともネリネは探求者……対等な仲間なのだ。
 ――ウェイのエスバイロが動き出し、アイギナとネリネも持ち場へ向かう。

 黒いフードを目深に被り、性別はおろか、種族すらも分からない、体格だけがまばらな集団が西門に押し寄せる。その表情は窺えないが、手した剣や斧がその悪意を雄弁に物語っていた。それを待ち受けるのは、クワと盾を手にしたウェイである。
 ウェイは西門にエスバイロを置き、簡易のバリケードとした。マクガイア社製のエスバイロは丈夫さが売りなので、その役目を果たしてくれるだろう。
「ガハハ! ここを通りたきゃ、おいらを倒していきなっ!!」
 その豪快な笑い声か、あるいはその容貌に驚いたのか、足を止めるアビスメシア教団。
「おいら、暴力は嫌いだけどよ! 守るためなら、戦うぜ!」
 リコにトマト……それに、仲間は女だしな! ウェイはクワを持つ手に力をこめた。
 ――先頭の団員が剣を構え、声もなくウェイに斬りかかった。ウェイがクワを一閃させると、剣が宙を舞い、続く柄の一撃が団員の頭を強かに打ち、昏倒させる。
 それを皮切りに、続々と押し寄せてくる団員達を、ウェイはことごとく打ち倒した。裏道に向かおうとする団員には、手近な団員を担ぎ上げ、力任せにぶん投げる。
 ……そういえば、爆弾を持ってる奴もいるんだったか。ウェイは黒い目を凝らしたが、外見からその有無を見分けることはできなかった。
 まぁ、分からないものは仕方がないよな! ウェイはにやりと笑い、クワを握り直す。

「は、始まっちゃった……」
 風に乗って運ばれたウェイの声を耳にして、ネリネは呟いた。
 アニマの『コラプター』が環境制御装置にいたずらをしている間、ネリネは裏道を通ってアビスメシアの方々がやってきたらどうしようと、そればかりを考えていた。
戦闘は苦手だし、できることはほとんどない。だからこそ、何でもお手伝いしたい……そんな一途な想いが、ネリネをこの場に立たせていた。
 ――コラプターから完了の合図を受け取ったネリネは、急いで来た道を引き返す。

 南側の裏道に向かったアイギナは、南東にあるハウスの端で足を止めると、入力端末に指先を走らせ、マジックミサイル……魔法弾を裏道に向かって撃ち放った。敵を見つけたわけではなく、威嚇と牽制をするためである。
 相手にはこちらの正確な人数は分からないだろうし、教えてやる義理もなかった。機動力を駆使すれば、人数を多く見せることができる……要はブラフ、はったりである。
 幸いだったのは、裏道が思ったよりも狭かったこと。自由に伸びた草木が天然の障害となっていたのだ。細身のアイギナでもやっとだったのだから、無骨な武器を手にしたアビスメシア教団が通ろうものならば……道半ばで後悔することになるだろう。
「お、終わりました! はぁ、はぁ……」
 アイギナが振り返ると、ネリネが立っていた。裏道を駆け抜けることができたのも、小柄なフェアリアだからこそ。ネリネはアイギナを見上げ、桃色の瞳を丸くした。
「お顔が真っ赤……大丈夫ですか?」
 はっとして、アイギナは頬に手をやった。熱い。探索分析が本業の自分には珍しい実戦ということもあって、思った以上に気持ちが高ぶっているようだ。
 (……それにしても、自分こそ顔を真っ赤にして、息切れしているというのに、他人の心配をするなんて、私と違って優しい子ね。)アイギナは小さく肯いた。
「大丈夫、私も裏道もね。だから、中央の一本道でゴーイング君を援護するわよ」
「はい!」
 南東のハウスへ足を踏み入れたアイギナは、そこに広がる光景……黙々とトマトを収穫するリコの姿と、鮮やかな緑に息を呑んだ。鼻腔をくすぐる、土の香り。
「……何だか、夢みたいですね」
 隣に立つネリネの言葉に、アイギナは肯いた。何しろ、空艇都市レーヴァテインは未曾有の危機に晒されている真っ最中なのだから。だが、それを在りし日の夢にさせてなるものかと思えばこそ、守らなければならない光景がそこにあった。
 アイギナは駆け出し、その後ろにネリネが続く……と、リコは二人を呼び止め、収穫したばかりの真っ赤なトマトを差し出した。
「喉が渇いただろう?」
 アイギナとネリネは顔を見合わせると、それぞれトマトを手に取って、口に運ぶ。
「……甘い! とっても美味しいです!」
 飛び跳ねるネリネの隣で、アイギナも顔をほころばせた。瑞々しい果肉はもちろん、匂いまでも甘く、まるでフルーツのような味わいが、二人の渇きを癒やしていく。
「あ、あの、ウェイさんの分も頂けますか?」
 ネリネの申し出に、リコは特別に大きいトマトを差し出すことで応えた。
 トマトを食べ終えた二人がハウスから一本道に出たところで、ネリネが声を上げる。
「あ、そろそろです!」
 ――南東以外のハウスから悲鳴が上がった。無理もない。長年に渡ってリコのトマト畑を最適な状態に整えていた環境制御装置が、散水、空調、湿度……その持てる力を全て発揮して、人間には最悪な状態を作り上げたのだから。
 黒いフード付きのローブがより黒く……濡れ鼠になったアビスメシア教団員がハウスから飛び出してくると、アイギナはすかさずマジックミサイルを撃ち込んだ。
「す、凄いです!」
 ネリネは手を叩いて称賛したが、当のアイギナから「あなたのお陰よ」と言われ……恥ずかしそうに笑った。

 西門にはアビスメシア教団が死屍累々……だが、その呼吸は止まっていなかった。なぜなら、ウェイのクワの歯は武器へと向けられ、団員にはクワの柄が向けられていたのだから。その結果を青い瞳で見渡しながら、アニマの『マイ』は首を振った。
「アンタってさ、脳筋の癖に変なとこだけ気を遣うわよね」
「……おいらは暴力が嫌いだって、いつも言ってるだろ?」
 体力自慢のウェイも疲労の色は隠せず、クワを杖代わりに何とか立っているという状態だった。致命傷ではなくとも、その身に負った傷も少なくない。ただ、それも気を遣わなければもっと少なく済んだというのが、マイの見立てであった。
「……ま、それが良いところでもあるんだけど」
「何か言ったか?」
「な、何でもないわよ! ……ほら、また来たわよ!」
 ――斧を手にした大柄な団員が二人、数名の団員を従えて西門に飛び込んで来た。初動が遅れたウェイには目もくれず、一本道を駆け抜けようとする。
「そうはさせるか!」 
 ウェイは大柄な団員に飛びかかり、盾で一撃を食らわせた。シールドアタック。それで一人の注意を引き、クワの柄で昏倒させることに成功。だが、その間にもう一人の大柄な団員が遠ざかり、ウェイの前には後続の団員達が立ち塞がるのだった。

「き、きました!」
 ネリネは大柄な団員が一本道に走り込んでくる姿を見て、声を上げた。大柄な団員はリコの家の扉を蹴破り、その中へと躍り込む。アイギネとネリネがその後に続くと、団員は手にした斧を振り回し、家の中を滅茶苦茶に壊し回っていた。
「酷い……」
 ネリネの目に涙がにじむ。壊されているものはどれも物ではあったが、写真、トロフィー、テーブル、柱時計……そのどれもが、リコの人生を偲ばせる品々であった。
 アイギネは入力端末に指を走らせた。マジックボルト。魔法弾が背中に直撃し、大柄な団員は振り返った。斧を振り上げ、アイギネに迫る……アニマの『ルル』が逃げるように訴えたが、足がすくんで動けない。――と、次の瞬間、大柄な団員の手から滑り落ちた斧が、床板にめり込んだ。続いて、膝から崩れ落ちる大柄な団員。
 アイギネはしばし呆然……大柄な団員の傍で屈んでいるネリネに顔を向けた。
「……ネリネ?」
「えっと、お注射をしました! よく効くお薬なので、朝までぐっすりですよ!
 睡眠薬……アイギネがその場に座り込むと、ネリネが慌てて這い寄った。
「だ、大丈夫ですか?」
「平気よ、気が抜けただけ。……ありがとう」
「い、いえ……そうだ! アイギネさんもお注射しますか? ……ああ、その、睡眠薬じゃなくて、ファストヒーリングっていう、マッドドクターのスキルがあって……」
 注射器を手に熱弁を振るうネリネに、アイギネは苦笑するしかなかった。

 アイギネとネリネが家から出ると、満身創痍のウェイが立っていた。ネリネは注射器と救急キットを持ってウェイに駆け寄り、その場に座らせると、ファストヒーリングを初めとする治療を施していく……その間に、トマトを手渡す事も忘れない。
 アイギネはウェイがトマトを食べ終わるのを待ってから、声をかけた。
「お疲れ様。あなたがここにいるということは、終わったと考えていいのかしら?」
「多分な。ただ、大物を一人取り逃がしちまって――」
「それなら、家の中で寝てるわよ。ネリネのお注射でね」
「おお! そいつは凄いな!」
「そんな大声を出してると、あなたもお注射されるわよ?」
「そ、そんなことしません!」
「冗談よ、冗談」
「ガハハ!」 
 ――和やかな一時。治療が終わると、三人は南東のハウスへと向かった。

 ハウスの中で三人を待っていたのは、リコともう一人……アビスメシア教団員だった。全身が濡れているところから、他のハウスを抜けてきたようである。
「……呪われた果実を食す穢れし者達よ、浄化の炎で焼き清められるがいい!」
 団員がローブの前を開き、体に巻き付けられた多数の筒……爆弾を見せつけながら、手にした起爆スイッチを押した。――何度も押した。だが、何も起こらない。
 アイギナは溜息をつき、入力端末を操作。団員の顔面にマジックボルトが直撃、後ろにひっくり返った。……大方、防水加工がされていなかったのだろう。
 リコは倒れた団員を一瞥すると、三人の探求者に頭を下げた。
「ありがとう。お前さん達のお陰で、無事にこの子達を収穫することができた」
 リコが目を向けた先には、収穫されたばかりのトマトの山……アイギナは思わず表情を緩めたが、すぐにそれを改め、口を開いた。
「ですが、他の畑やあなたの家は――」
 リコが笑顔で首を振るのを見て、アイギナはその先を続けることができなかった。
「……あの、呪われた果実って、トマトさんのことでしょうか?」
 ネリネがおずおずと声を上げると、ウェイは首を傾げた。
「変な話だよな。『奇跡のトマト』って話は聞いたことがあるけどよ」
「……お前さん達、『汚染』のことは知っておるかな?」
 リコの言葉に、三人は肯いた。アビスの闇や深淵の近くに生活する者達や、その使者と角に接触した者達に、アビスは残酷な愛情を示す……それが、汚染である。
「儂のトマトを食べると、汚染が除去されるという話があってな。もちろんただの噂で、真偽を確かめたこともないが……信じたものもいたのだろう。トマトが赤くなると医者が青くなるという言葉もあるし、分からんでもないがな」
「……それが本当の話なら、教団にとっては大きな脅威ね」と、アイギナ。
「どうりで、あんな大勢で押し寄せてきたわけだ」と、ウェイ。
「じゃあ、これからもアビスメシアの方々やってくる可能性も……」と、ネリネ。
 ――長い沈黙。それを破ったのは、リコの明るい声だった。
「そうなる前に、ここから避難した方がいいな」
「避難って……」
 だったら、私達は何のために……アイギナはそう言いたい気持ちをぐっと堪える。
「ああ、お前さん達が守ってくれたこの子達を、ちゃんと届けるためにもな」
 きょとんとするアイギナに、リコは肯いて見せる。
「……レーヴァテインは危ないのだろう? それでも、明日への希望を捨てることなく抗う者達に、この子達をぜひ食べて欲しいと思ってな」
「じゃあ、そのために……?」
「そうだと言ったら格好もつくが、そうではない。お前さん達には悪いが、ここでこの子達と共に終わりを迎えるのも天命だと思っておった。だが、こんな老いぼれを、その想いごと守ろうという若者がいることを知ってな、希望が湧いてきたのだよ」
「そう……希望です! リコさんのトマトさんを食べたら、誰だって明日がこないなんて信じられなくなります! 私だって、ウェイさんだって、アイギナさんだって!」 
 ネリネが声を上げると、ウェイも力強く肯いた。
「その通りだ! よし、そうと決まれば早速――」
「その前に、やることがあるだろう?」
 リコの言葉に、アイギナ、ウェイ、ネリネの注目が集まった。
「言っただろう? たらふく食わせてやるってな。まずは腹ごしらえからだ!」
 ――その後、トマトをお腹いっぱい食べた三人によって、リコのトマトは都市の中心へと届けられた。過酷な状況にあっても、リコのトマトを口にした人々は、まるで奇跡のように笑顔を取り戻したという。



依頼結果

成功


依頼相談掲示板

【隠れた真実】奇跡のトマト防衛戦 依頼相談掲示板 ( 14 )
[ 14 ] ネリネ・アランドロン  フェアリア / マッドドクター  2017-06-28 19:41:38

は、はい…!頑張りますっ!!  
 

[ 13 ] ウェイ・ゴーイング  ケモモ / ガーディアン  2017-06-28 09:39:12

現状は、東門塞ぎ、西門がおいらが担当。裏道はアイギナさんが対処と。
ネリネは、出来れば索敵兼回復役を頼みたいぜ!なるたけ自爆兵はまともに相手せずぶん投げてぇ!  
 

[ 12 ] ウェイ・ゴーイング  ケモモ / ガーディアン  2017-06-28 09:33:16

よろしくな、ネリネ!盾に索敵、回復職か、こいつぁ守りに適してるな。ま、攻撃に難があるが!ガハハ!

アイギナさん、地図助かるぜ!どういう訳か、おいら位置関係を誤解してた!  
 

[ 11 ] ネリネ・アランドロン  フェアリア / マッドドクター  2017-06-27 16:49:24

あの…その…遅れて申し訳ないです…
それにわたしはマッドドクターなので全く戦力にならないです…
ですが足手まといにならないように精一杯お手伝いさせて頂きますっ…!!  
 

[ 10 ] アイギナ  ドワーフ / ハッカー  2017-06-27 05:34:15

とりあえず場所情報をまとめて図面を作ってみたわ
https://twitter.com/sekai_tiger
そろそろ三人目の方ともお会いしたいところね

 
 

[ 9 ] ウェイ・ゴーイング  ケモモ / ガーディアン  2017-06-27 00:53:23

ん?てっきり、裏道を通って敵が西門にやってくるかと思ったぜ!
じゃあ、西門はエスバイロか何かでふさいで、東門にゃ環境制御装置とおいらで対処するか!
見張るなら、真ん中にリコの家が良い立地な気がするぜ!  
 

[ 8 ] アイギナ  ドワーフ / ハッカー  2017-06-26 19:50:02

口調が乱れてしまったわね
「間反対だから“難しいのではないかしら?”」  
 

[ 7 ] アイギナ  ドワーフ / ハッカー  2017-06-26 19:33:43

ところで裏道は一人ずつ戦うことになるうえ、相手は近接武器しかないから遠距離のわたしが見張りたいのよね。
細い道なんてわたしがスナイパーだったら貫通すら狙えるような地形なのにもったいないわ。  
 

[ 6 ] アイギナ  ドワーフ / ハッカー  2017-06-26 19:25:46

なるほど、いいわね。東門を塞げば見張る必要もなくなるわけね!
でも西門に触れるにはアビスの人達がたくさんいるし、間反対だから難しいんじゃない?  
 

[ 5 ] ウェイ・ゴーイング  ケモモ / ガーディアン  2017-06-26 14:36:49

間違えた!東門を完全に塞いで、西門を少しだけ塞ぐ、だ!
そんで、東門で環境制御装置も使って敵の進行を防ごうぜ!ガーディアンのクラススキルもあるからある程度は引き付けられるし!  
 

[ 4 ] ウェイ・ゴーイング  ケモモ / ガーディアン  2017-06-26 14:34:12

おう、よろしく頼むぜ、アイギナさん!
助かったぜ!索敵は何とかなりそうだな!
それで、おいら考えたんだが、東門を完全に塞いで、東門も入り口を狭くしておかないか?
おいらたち三人しかいないからな!  
 

[ 3 ] アイギナ  ドワーフ / ハッカー  2017-06-26 02:56:54

よろしくね。ここのトマトいいわよね、もうこんなのフルーツよ。ここにはいつもお世話になってるわ。


 
 

[ 2 ] ウェイ・ゴーイング  ケモモ / ガーディアン  2017-06-25 20:07:54

プランとフレーバーの書き込みになんでいいんで文字を入れれば、相談掲示板に書き込めるようになるぜ!
『書込み内容の確認』ボタンを押して書き込めば、プラン/フレーバに入れたのは消えるから安心しな!  
 

[ 1 ] ウェイ・ゴーイング  ケモモ / ガーディアン  2017-06-25 19:56:39

おいらはウェイ!ケモモガーディアンのウェイ・ゴーイングだ!
ここのトマトが大好物でな!護るためにやってきた!
よろしく頼むぜ!