プロローグ
『緊急指令、緊急指令、至急現場へ急行せよ。繰り返す、至急現場へ急行せよ』
まだ太陽も顔を出していない夜、その連絡は急に訪れた。
眠気まなこをこすりながら戦闘用の装備を整え、自らのエスバイロに乗り込む。
目的地に向かいながら告げられた任務内容をもう一度思い出すのであった。
『本日午前3時26分、ファヴニル郊外のショッピングモールで人質を取った立てこもり事件が発生』
驚いている間もなく言葉は続く。
『相手は集団だ、それ相応の戦闘が予想されるだろう。各自万全の準備を整えてくるように!』
そのあとで詳しい状況が話された。
わかったことを要約するとこうだ。
ショッピングモールは3階建てで、人質は2階にある映画館内にいること。
モール内の各店舗には監視カメラが設置されていて、アニマによるハッキングが可能になっていること。
相手は重火器で武装しており、各階に数名づつの監視をつけているということ。
そして一番注意すべきはショッピングモールを支える一本柱に爆弾が仕掛けられているということ。
これをテロリスト、と呼ぶならそうかもしれない。
下手に手を打てばモールごと吹き飛ばす覚悟が相手にはあるということだ。
それ以上の情報はまだわからないそうだがやることは決まっている。
テロリストの掃討と爆弾の解除、そして人質の救出。
目的が鮮明であるからこそ細心の注意を払わなければいけないだろう。
そう考えているうちに目的地へ到着する。
するとすぐに連絡した張本人が駆け寄ってきた。
「時間がない、すぐに侵入の準備に入ってくれ」
その人はこっちを見て噛みしめるように言葉を出す。
「敵の情報が少ないうえに目的も不明、まさしく悪夢……ナイトメアの状態だ」
そう、まだ夜も明けていない夢の中。
悪夢というのはあながち間違いでもないかもしれない。
「この悪夢から救ってくれるのは、君たちしかいないのだ。頼んだぞ」
解説
今回の目標はテロリストの掃討と爆弾の解除、人質の救出です。
舞台はショッピングモール、簡単な説明を下に記します。
~全体情報~
・真ん中は吹き抜けになっていて一階ロビーに立つと全階から目視される。
(ドーナツが積み重なっているイメージをしていただければわかりやすいかと…)
・モール内は明るく、視界は通常通りである。
・柱は吹き抜けの真ん中に立っていて、爆弾は一階正面玄関から入ってすぐ目視できる。
(すぐに近寄るとみつかっちゃいますからね!)
・屋上からも侵入可能、階段を降りると発券ロビーにつながる。
~1階~
・入口は正面玄関の一つ
・食品売り場
・フードコート
・書店
・玄関入ってすぐに階段、エスカレーター、エレベーターあり
~2階~
・映画館シアタールーム(ここに人質)
・映画館発券ロビー
・館内用の売店
・ゲームセンター
~3階~
・楽器店
・スポーツ用品店
・洋服店
・休憩所
情報は以上です。
爆弾の解除は近づいてしまえばアニマが解除してくれる設定でいきます。
※解除に活躍できるPCがいればそちらを優先します。
各場所にカメラが付いているので監視役がいれば索敵も容易になるかと思います。
音声通信はアニマ間で可能ですので有効に活用してください!
ゲームマスターより
ここまで読んでいただきありがとうございます、GMのじょーしゃです。
今回久々の執筆ということで多少緊張もしていますが最大限の努力をさせていただきますので是非ご参加ください!
このシナリオの特徴はPLさん(PCさん)の動き方によってどのような展開も可能、ということですかね。
僕が考えているのは制圧&救助、爆弾解除、監視の班に分かれてアニマ間で通信しながら進行していくってとこです。
でも全員で制圧!とか単独潜入のほうが見つかりにくい!とかいろいろあるでしょうから……。
皆さんのプランがどのようになるか楽しみにしながらお待ちしております。
それでは今回はこのへんで。
気に入ってもらえたら参加ボタンポチっちゃってください!
オペレーション ナイトメア エピソード情報
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担当 |
じょーしゃ GM
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相談期間 |
7 日
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ジャンル |
戦闘
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/9/29
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難易度 |
難しい
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/10/08 |
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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【制圧】 可能であれば、メイン装備のモノ70にサプレッサー(消音器)を取り付けてから現地に向かう。 エスバイロを使い、屋上から侵入。 その後、3階に向かい、索敵しつつ階の安全を確保。 索敵の際は、アニマのアルにも警戒を手伝ってもらう。 そこからは2階→1階と順に制圧していく。 但し、人質に危険があるかもしれない時は戦闘は避けるようにする。 戦闘では、他の探求者の援護を中心に後衛からの射撃で戦う。 距離が離れている敵に対しては、スキル「フラッシュエイム」ならびにアニマのエンチャントで命中率を引き上げてから狙撃。 近い敵に対しては、前衛を誤射しないよう注意しつつ射撃。 また、救助班からの応援要請があれ応援に向かう。
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人質の救助を目的に潜入。人気のない所を通り、シアタールームへと続くスタッフ専用通路等が無いか調べる あればその通路を通りシアタールームへ潜入 無ければ制圧班が事を起こすまで発券所近くで姿を隠す(騒音と障害物の多い場所なのでゲームセンターが良さげか) 事が始まる時に人質の近くに居る敵が2人以上なら他の班から応援を回してもらえないか聞いてみる もし無理そうなら強行突入 テンペストで意識を自分へ向けている間にヴァニラビットに人質を逃してもらう それまでの間は全力で回避を続ける 人質の救出が終われば逃げる 全員集まり敵を殲滅するのであれば、テンペストで妨害することに専念 ぬいぐるみの中にはスモークグレネードを
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めんどくせぇ…ああ実にめんどくせぇ状況だ 人質…爆弾…まあどうでもいい… それよりも…見えるやつ全部血祭りにあげた方が実に早えなぁ さてと…他の探索者共にはゴミクズ共は狩らせねえ… 全部…俺の獲物だ…喰らい尽くしてやる… ククッ…クハハッ…フハハハハハツ!! 見せてやろう…これが『暴力』だ…!!
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「処理」 事前に監視カメラから「エクステリアメルト」で敵の位置、ステータス等分析し敵弱体化、結果を共有 その後定期的に敵位置更新共有 敵側に監視カメラのダミー映像を流す 原則戦闘避ける 「制圧」班に敵の注意が向く隙に罠や敵に気を付け1階から侵入 爆弾を分析しアニマの爆弾解除のスピードUP 爆弾解除後「救助」班に合流 怪我人に「アップロード」使用 「エクステリアメルト」を設備(スプリンクラー、防火扉等消火設備)建物、相手武器にも使用し 利用又は破壊による敵の行動を制限・無効力化し敵と遭遇しないよう人質解放ルートを確保 精神的脆い敵にデモニック特性で言葉巧みに篭絡し動機、リーダー等聞き出し可能なら虜にし下僕を目論む
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※プレイング外の絡み・セリフ等はお任せで。アドリブ歓迎! 「なかなかにハードな状況、だけど…!」 行動は『救出』カーディナルと組んで動くことになると思う。齟齬や未決定部分は彼女に合わせて。 タイミングは処理・制圧班とあわせて、同時に抑えられるのがベストかな。 「イースター、敵の動きは?」 可能な限り身を潜めで、EST-EX(イースター)からの情報を元に人質の元へ…犯人が突入に動揺して動きだせば狙い目、立てこもるようなら自分を囮に強襲。 人質を盾にされたら大人しく従うフリをしつつ、注意を引き付けカーディナルが動きやすいように。 「怖い目に合わせちゃったわね…大丈夫?」 救助成功したら、制圧班に協力して仕上げ!
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参加者一覧
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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リザルト
●GATHERED
風が不穏に吹く肌寒い夜、悪夢のような事件は唐突に起こった。
ショッピングモールが占拠されて一時間、探求者たちは緊急会議を開いていた。
「なかなか緊迫した状況だけど……目的が不明というのも恐ろしいわね」
「分っている情報はほとんどないわね、本当に情報が少なすぎるわ」
最初に口を開いたのは『サディエンズ・ヘバハード』。クラスはガーディアンで、黒い髪の毛が闇夜によく馴染んでいる。
そしてその言葉に答えたのが『ヴァニラビット・レプス』。兎のような雰囲気を持つケモモで、サディエンズと同じ黒髪だが青い瞳を持っていた。
二人は共にサディ、ヴァニラって呼んで、と軽く付け加えた。
「マーセナリーのクロカだ、中々に制圧し甲斐が……いや、なんでもない。まぁ斬り込み役とか、機動力にはそこそこの自信はあるからな、俺は遊撃手として動くことになりそうだ。」
「私はカーディナル。よろしく。行動は二人一組、バラけすぎるのは危ないから。隠れながら進むというのがいいかも」
着実な戦略をマーセナリーの『クロカ』と魔法少女の『カーディナル』が立てていく。
そこに『エルマータ・フルテ』、『Apocalypse(アポカリプス)』が付け加える。
「あたしはライフルでの援護役になるかなあ。役割ごとに分けるってのもありかも」
「目的別にチーム組みませんか? 例えば、制圧・処理・救助・監視みたいに」
「とりあえずあたしはライフル持ちだし、制圧希望かなぁ」
クロカも制圧班に名乗りを上げ、エルと二人で行動をすることに決定した。
その後ヴァニラとカーディナルが救助班に名乗りを上げ、アポが索敵した後処理に回ると言った。
「そうですね、私は爆弾を処理しているアポさんについていきましょう」
「じゃあ私は監視を引き継ぐわね、君たちに随時情報を送るから注意しておいてくれると助かるわ」
マーセナリーの『アルヴィン・メイス』とヴァニラが共に名乗りを上げ、大体の役職が決定した。
制圧にクロカとエル、処理にアポとアルヴィン、救助にカーディナルとヴァニラ、監視にアポとサディだ。
配役を確認しているとアルヴィンが不自然なことに気付く。
「あれ、今日招集されたのって八人じゃなかったですっけ……ここには七人しかいませんよね?」
確かにそうだ。
今回この任務に招集されたのは八人で、全員がこのショッピングモールに集められているはずだ。
なのにどこを見渡してもこの七人以外に人は見当たらない。
――不意にどこかから声が聞こえてくる。
「にーに、つながったよ!」
とてもかわいらしい声だ、アニマの通信音声だろうか。
謎めいた状況に困惑していると、ゴクリと何かを飲み干したような音のあとにビンが割れる炸裂音が聞こえた。
そしてそのアニマの主が聞こえる。
「めんどくせぇなあ……実にめんどくせぇ、人質? 爆弾? そんなものどうでもいい……お前らは残りカスとでも遊んでな」
「えへへ、ウリュリュもにーにとあそぶー!!」
通信がぶつり、と切れた後にショッピングモールの屋上に何者かが飛び移る影が見えたのであった。
●SINGLEHELL
「めんどくせぇなあ……実にめんどくせぇ」
テロ事件が起きているらしいショッピングモールの隣にあるビル。
その屋上で身長二メートルを超える大男が一本の酒を飲みほし、空き瓶を地面にたたきつけた。
音声通信すらも面倒だと思い、一方的に切る。
ショッピングモールの屋上に飛び移ると早足で入口を目指し、ドアを思いっきり蹴破る。
その勢いで扉の前にいた監視が倒れ、横であっけにとられていた監視も軽く一発殴っておいた。
「さぁて……上から順にぶっ飛ばしていくかなぁ……」
階段を駆け上がり、楽器店から出てくる敵の姿を確認すると同時に相手にとびかかる。
悲鳴を上げるその顔に渾身のナックルをたたきつける。
肉の下で骨が軋む音のあとに、敵の体が派手に地面にたたきつけられる音が響いた。
その派手な音を聞きつけた敵が一斉にこちらに攻撃を仕掛けようとする。
しかし問題は人数ではない、何人狩れるか、だ。
「全部、俺の獲物だ……喰らい尽くしてやる! ククッ、クハハッ……フハハハッ!!」
「えへへ、ふはははーっ! にーにのまね!!」
そしてアニマの『ウリュリュ』も、相当乗り気だった。
荒れ狂う弾丸の中を駆ける。
面白いように敵の弾は当たらず、一人、また一人と狩り続ける。
「フハハハハ!! どいつもこいつも雑魚ばかりだなぁ、もっと骨のある輩はいねぇのか!」
突入してからものの十数分、三階の制圧は完全に終わったのであった。
【狂龍】こと『グリード ドレッドメア』。
その名に恥じぬ戦いの後、拳に付いた血をぬぐいながらこう言った。
「見えるやつ全部血祭りにあげた方が実に早えじゃねぇか」
肩を二、三度回した後近くにあった休憩室に入る。
「少しだけ疲れたしなぁ、下の奴らはあいつらに任せるとするか……」
そう言ってグリードは敵が陣取っているはずのモール内で、堂々と眠りにつくのだった。
●SUPPRESSION
通信が途絶えた。全員が状況が理解できないまま呆然としている中、クロカだけが冷静だった。
「さっきの奴が中に入ったことを考えると、俺たちもそろそろ侵入しないといけないかもな」
エルは愛機であるモノ70にサプレッサーを取り付けながら「そうだね」と軽く答えた。
謎の通信が途絶えてから十数分、二人は屋上からモール内に続く階段に入る。
扉は開け放しになっており、すでにテロリスト2人が入口のそばで倒れていた。
発券ロビーまで降りたところで、サディに連絡をとって二階にいる敵の人数を教えてもらう。
監視カメラの情報によると売店に三名とゲームセンターに二名。
そして何より驚愕なのが、三階にいるはずの敵がほぼ全員倒れていると言われたことだ。
「よくわからないけど……さっきの人がやったんだよね、ならあたしたちはこの階を制圧してしまおっか。クロカが前に出てくれれば私は後ろから狙撃するよ、敵の注意を引いてもらえると嬉しいな」
「わかった、俺は揺動だな、ちゃんと当ててくれよ……?」
「もちろんだよ、でもあたしの射線に入ったら容赦なく撃ち込むからねっ!」
エルが軽く冗談を言って空気を和ませる。
するとアニマの『アル』が真剣な表情でエルに話しかけた。
「エルさんが敵を見失っても……ボクが全力でサポートする。大丈夫、エルさんなら……外さないよ」
「わかった、頼りにしてるよ……アル!」
アルが偵察した情報を共有して、二人の作戦はスタートした。
売店にいる敵を一人確認、狙撃と同時にクロカが売店に飛び込み、残りの敵を引きずり出してくる戦法だ。
エルは目標のヘッドラインに照準を合わせた後、軽く呼吸を整え、息を止める。
クロカがハンドサインで合図を送り、二人はそれにカウントを合わせる。
3、2、1……パシュン――と、弾丸がサプレッサーの内側をを潜り抜けた音が聞こえた。
放たれた弾丸はショーケースのガラスを突き抜け、目標の急所を見事とらえたようだ。
力なく人体が床に崩れる音と割れたガラスが砕けて飛び散る音が聞こえるのはほぼ同時のことだった。
それ合わせてクロカが敵の元へ飛び込む。
「ははっ、鬼さんこっちだ! その体を晒しな!!」
クロカが叫びながらエルが覗くスコープの真ん中に現れる、そして思いっきり――横へ飛ぶ。
その瞬間エルはつられたように引き金を引いていた。
スコープには残り二人の敵がしっかりと重なっており、一発の弾丸で二人が墜ちていた。
敵の攻撃をかわしながらクロカは二人が重なるように揺動してきたのだ。
「ふぅ……あぁ、ごめんな。戦闘になるとついテンションが上がっちまうんだ。多分さっきの音を聞きつけてゲームセンターにいる奴らがこっちに向かってくるだろ、ここは直線の一本道。なかなか距離があるからな、俺は一切役に立てそうにない。アンタの狙撃に……すべてがかかってる」
「うん、ありがとうクロカ。あたしにはアルがついてるから、大丈夫。行ってくるね」
そう言って狙撃地点を見晴らしのいい通路に持ってくる。
ゲームセンターまで百メートルぐらい、エル一人の力じゃ照準がブレてしまう距離だ。
「アル、フラッシュエイム行くよ。サポートお願い!」
「敵正面……距離百メートル。無風だから軌道修正は大丈夫。エルさん、いけるよ!」
一発、また一発と走ってくる敵に対して瞬時に照準を合わせる。
エルとアル、二人で放った弾丸は吸い込まれるように次々と相手の急所を突き、逃れようもなくテロリスト達は地面に突っ伏せた。
「やった、アル! 完璧だね!」
隣で見ていたクロカは壁にもたれながら笑顔で二人を見ていた。
どうやら制圧班の戦いはここでひと段落付いたみたいだ。
――警報音が鳴り響く。
状況が理解できないまま戸惑っているとアルが救助班のカーディナルから音声通信を受け取った。
『エル、クロカ……聞こえる? ごめんなさい、しくじったみたい……』
●RESCUE
謎の影がショッピングモールに飛び込み、制圧班も屋上に向かった。
揺動、制圧を終えるまで大体二十分といったところだろうか。
救助班に志願したカーディナルとヴァニラビット・レプスの二人は救助までの段取りを話していた。
「待たせたな……」
「な、なんですか? そのいい声風のしゃべり方は?」
なんでもない、とカーディナルは首を横に振り、何かを取り繕うかのように作戦を話し始める。
「シアタールームにスタッフの専用通路とか……ないかな?」
「そうですね、侵入口は確保したほうがよさそうです。私のイースターに偵察させますね」
イースターとはヴァニラのアニマである、本当の名前は『EST-EX』。ヴァニラは愛称としてイースターと呼んでいるようだ。
「そろそろ制圧班が突入してから十分が経過しますね、私たちも移動しましょうか」
「そう……だね、監視カメラの映像を見てから、出発しよう」
カメラに何か映っていないかと監視班のアポとサディに尋ねる。
アポは監視カメラの映像を見ながら何やら不思議がっている様子だ。
「んー、何かがおかしいんですよね。一階に全く監視がついてない、なんででしょうね。まぁ作戦に支障はなさそうですからこのまま入っちゃって大丈夫だと思いますよ」
安心してモールに入る。目の前の柱には、問題の爆弾が確かに鎮座していた。
大きさからみて確実に柱を吹き飛ばせるものだと確信する。
二階に上がり、ロビーに到着すると同時。ガラスが割れる音が聞こえた、恐らく制圧班が戦闘を開始しているのだろう。
敵の注意がそちらに向いている間にシアタールームの偵察を開始する。
「イースター、この辺にスタッフ専用の入口があるか見てきてくれない?」
「はい、任務をお預かりしました。こちらはお任せを」
カーディナルはシアタールームの映像がないか監視班に尋ねるが、どうやら中のカメラは壊されているらしく状況まではわからないということだ。
「イースター、敵の動きは?」
「スクリーンの前に人質がいます。監視は二人で人質のすぐそばに一人と観客席の後ろのほうに一人が配置されてる感じです、犯人も結構カリカリしてたみたいですし、急がないとどうなりますかねぇ……」
「応援を呼んでる時間もないみたい……だから、突入しようか」
カーディナルの提案にヴァニラも賛成する、まずカーディナルがスタッフ専用通路から突入して敵の注意を引き、その間にシアターの正面入口からヴァニラが突入して敵を制圧するという方針。
それぞれが配置につき、タイミングを合わせる。3、2、1……0と唱えると同時にカーディナルが勢いよく扉を蹴破り、敵の注意を向けた。
「さぁ……踊りましょう?」
敵はカーディナルに向けて引き金を引く。弾丸は座席を軽々と突き破りこちらの頬をかすめるように飛んでいく。
敵の射撃勘が優れていないからか、回避に専念したからか、被弾はほぼゼロに等しかった。
カーディナルが突入すると同時にヴァニラも潜入しており、攻撃が開始される頃には近くにいた敵に近づき首を絞めていた。
ヴァニラの腕は対象の喉に容赦なく食い込む。相手の意識が落ちるまでさほど時間はかからなかった。
意識を失った相手を床に投げ捨て、カーディナルが交戦している相手に忍び寄る。
気配を悟られないように近づき、後ろから首を絞める。それと同時に先ほどまで唸りを上げていた射撃音も止み、シアタールーム内に元の静寂が訪れたのであった。
「これでひと段落、ですかね」
「そう……だね、このまま人質を……外に運び出そうか」
そう言って人質の元へ向かう。布をくわえさせられ、頭の後ろで縛ることで声が出ないようにしてあった。
手足も布で縛られており、全く身動きが通れない状況だっただろうことは容易に想像できる。
「怖い目に合わせちゃったわね……大丈夫?」
ヴァニラが声をかけながら近づくとその人質は声にならない声をあげながら首を何度も横に振る。
「もう大丈夫だから、安心してください」
口の布を解くと、人質の女性は軽くせき込む。
息切れもしているがそれにかまっていられるか、というぐらいの剣幕でこちらに言葉を投げてきた。
「近づいちゃダメなの! 私のっ、私の服にセンサーが入ってて、近づいたら……爆弾が!」
――迂闊だった。
爆弾は処理するものだと考えていたせいで誰一人起爆装置の存在を考慮していなかった。
そしてすぐに会場全体に警告音が鳴り響く。
カーディナルはとっさに、同じ階にいるはずの制圧班へ連絡をとっていた。
「エル、クロカ……聞こえる? ごめんなさい、しくじったみたい……」
●PROCESSING
よくわからない人からの通信が途絶えてから数分、制圧班が屋上から突入した。
こちらも監視カメラの映像をくまなくチェックして情報をすぐにでも渡せるようにしておく。
不思議なのは一階にいるはずの監視が一切見えないことだ。
そう思っているとカーディナルがこちらにショッピングモール内の状況を聞いてくる。
「んー、何かがおかしいんですよね。一階に全く監視がついてない、なんででしょうね。まぁ作戦に支障はなさそうですからこのまま入っちゃって大丈夫だと思いますよ」
そう伝えたはいいもののやはり不安要素は残る。
これが思い違いだったらいいのだが……とりあえず今は各班からの連絡を待つことにした。
「アポさん、やっぱりシアタールームのカメラは全部壊されてるみたいです」
同じく監視役のサディもカメラを見ているがシアタールームのカメラは壊されているらしく、中の様子をうかがうことは出来ない。
そうこうしているうちに制圧班からモール内の情報が欲しいとの連絡があった。
各エリアにいる敵の人数と、一応三階の敵が全滅していることも伝えておいた。
「そろそろ…………だ」
そうつぶやきながらカメラに映っている敵を観察し、あれこれ考えを巡らせてるうちに笑みが自然とこぼれる。
それを押し隠しながら自らのスキルを発動する。
「……エクステリアメルト」
敵は何も気付いていない、気付くはずもない。
――まさか自分の防御力が第三者の手によって下げられている……なんて。
安心してこちらも爆弾処理の準備を整える。
監視の役目をサディに任せ、アルヴィンと共に爆弾の処理に向かう。
二階からガラスの割れる音とライフルから弾丸が発射される音が聞こえた。敵が揺動されているうちに爆弾に近付く。
爆弾は予想していたものよりもはるかに大きかった。柱を吹き飛ばすには十分すぎるほどだ。
すぐに自らのアニマである『Vosis(グノーシス)』に解除をさせようとする……が、どこにもいない。
「あのサボりアニマ……どこに行ったんだ……」
主としてアニマに呼びかける、早く戻ってこい、と。
グノーシスは気怠そうに戻ってきて爆弾の解除を始める、それと同時に自らも解析をすすめた。
アルヴィンには解除中の護衛を任せる。
数分が経ったところで二階の一角から銃声が聞こえはじめた、それも鬼のような乱射だ。しかしかまっている暇もない。
「それにしてもこの爆弾……今まで見たこともない構造をしているなぁ、火薬の原料は何を使っているんだ? あと起爆装置のところにセンサーの受信機、か。珍しい形をとってるよね、はは、すごいな。これは……是非持って帰りたい……!」
「アポ、解析に集中しなさい。こっちも頑張っているんですから」
……迂闊にも興奮してしまっていた。
こちらも爆弾の解析を急ぎ、八割程度の作業が終わったころだった。
――とてつもない音量の警報がモール中に鳴り響く。
爆弾をを見てみると先ほどまで何も表示されていなかった液晶に『30:00』と表示される。
その数字は刻々と秒を読む。誰の目に見てもこれは起爆までのカウントダウンだろう。
するとすぐに背後にある正面玄関のシャッターが下り始めた。これは一大事だ。
閉まりきるギリギリでサディがモールの中に滑り込んでくる。
「アポさん! 大変なんです、一階から消えていた監視は……地下に潜っていただけでした! ここはもうすぐ包囲されます!!」
●ASTRAL
モールにいたすべての探求者に警告音が届いた。モール内の出口という出口は塞がれ、爆弾も起動してしまう。
アポ達がいる位置をグリードは三階から、エルとクロカは二階から覗き込む。
救助に向かっていたカーディナルとヴァニラは屋上の出口付近に人質を退避させ、制圧班に合流した。
それと同時に一人の女性が、地下の階段から出てきた。
動きにくそうなスーツを身にまとい、右目の下にはバーコードのような刺青が入れてある。
続いてその人をSPのように囲う二人のテロリストが出てきた。
「私は『アストラル』幹部のメト・アイナと申します。勇敢な探求者さん、お疲れさまでした」
彼女は告げる。この爆弾を起動させてしまった今、ここにいる全員が道連れになる運命なのだと。
抵抗するならせいぜい頑張ることね。と言い捨てて地下へ戻ろうとしたところをアルヴィンとサディが止めた。
すぐさまSP風に構えていたテロリストは攻撃を仕掛けようとしてくるが、二人は素早く反応しその動きを封じる。
「はぁ……最後まで面倒な人たちね、いいわ。遊んであげようじゃない」
そしてその女は、モール全体を揺らすほどの声で叫ぶ。
「てめぇら! 死ぬ前にこのアホどもと遊んでやりなぁ!!」
それと同時に地下から残りのテロリストが湧き出てくる。
人数にして十数人ほどだろうか。武装は今までの人と同じだが、今回はエクステリアメルトの支配下にある敵はいない。
アポがどうしたものかと考えていると、グリードとクロカが飛び降りて来て、真っ先に敵に向かった。
「クッ、フハハハ! 見せてやろう……これが『暴力』だ!!」
「相当な数だ、これはなかなか倒し甲斐が……おっと、なんでもない」
二人は次々と敵をなぎ倒していく。右から左、左から右へと敵の射線をうまく見極めながら敵をダウンさせる。
二人に続きましょう! とヴァニラが飛び降りながら叫ぶ。アポは戦闘を任せ、爆弾の解除に向かった。
声に反応してアルヴィンとサディが戦闘に加わる。三人とも確実に一人一人を狙って、仕留める。
カーディナルは二階からテンペストで敵の動きを妨害。スモークを張って解除作業をしているアポに注意が向かないようにする。
そして二階からはエルがフリーになっている敵をライフルで仕留めていく。
完璧と言わざるを得ないほどの連携は相手を圧倒し、完全にこちらのペースに持ち込むことが出来た。
戦闘が終わる頃、解除作業も最後の一手に差し掛かっていた。タイマーには、『00:54』と表示されている。
――ここで、アポの動きが完全に止まる。
そして大きく深呼吸をする。タイマーは『00:30』を超え、その数字を減らしていく。
アポが周りを見渡す前に探求者全員がアポのもとに集まっていた。
「これで、全部終わるんですね……」
誰かの声が聞こえる。
そして全員がアポの肩に手を添える。
「この悪夢は、全部、終わります……」
アポが最後のボタンを押すと、タイマーは完全に停止した。
『00:01』という表示だけを残して。
●EPILOGUE
爆弾の解除と同時にモールの扉が開き、人質を含む全員が生還した。
幹部だと名乗っていたメト・アイナの身柄も確保され、事件は一件落着である。
どうやら敵組織の名前は『アストラル』というようで……目的は最後まで不明だったが、取り調べ等で今後明らかになるだろう。
今の自分たちが気にしても仕方がない、と思いながら死闘を潜り抜けた探求者同士で、目を合わせる。
空を見上げると、悪夢から目覚めたような日の出が訪れている頃だった。
オペレーション・ナイトメア END
●PREUDE
――電話のコール音。そして誰かと話す男の声。
『はい……はい。その件は着実に進んでおります。承知しました、次こそは……必ず成功させてみます』
依頼結果