プロローグ
● アニマだって欲深い
月に一度のお給料日。
それは心のオアシス、一か月の疲れを癒し、また次の一か月の活力を生む重要な日。
そんな一か月で一番裕福な日にとある戦争が勃発することになった。
それはお金の使い道。
「セリア~、アイスかって~」
「セリア~、あの靴かわいい」
「せりあ~」
「ああああああ! うるさい!」
それはたまの休日『セリア・アイスコフィン』は町に繰り出していた。戦闘服を脱ぎ捨ててお洒落なワンピースへ着替え。必要な日用雑貨の買い出しに着ていたのだが。
そのセリアのアニマである『アキラ』が先ほどからうるさい。
「セリア~、だってきょうお金たくさん持ってるんだよね?」
「持ってないわよ」
「ジャンプしてみてよ」
「そんなあくどいやり口どこで覚えてきたの」
そうセリアは溜息をついて紅茶に口をつける、雑誌を片手にのんびりと午後を過ごしていたのだが、視界の端でアキラが暴れている。
もし実体があったのならたいへん人目を引いたのだと思うが、幸いプライベートモードである、アキラの叫びは誰にも届かない。
「だって、セリアばっかり豪遊してずるいよ。私も欲しい」
「何が欲しいの」
「いろいろ欲しい」
「だから! 何が欲しいかって聞いてるじゃない」
たんっとティーカップを置くセリア。さすがに視線が集まる。
恥ずかしくなったセリアは一つ咳払いをして冷静にアキラの話を聞くことにした。
「焼肉が食べたい」
「あなた実体ないでしょう」
「新しい靴が欲しい」
「あなた実体……」
「飴が食べたい」
「だからあなた実体が……」
アニマもアニマとて個人である。主のサポートだけでは息が詰まることだろう。
「なんでもいい、使えるとか食べれないとか関係ない、ただ買ってほしいの、買い物したって実感が欲しいの」
アニマとて少女である。なので日常生活の片隅で彼女らは皆さんに何かをねだることもあるだろう。
「なによ、そんなにストレスがたまってたの?」
「うーん、というよりセリアに何か買ってもらうと幸せな気持ちになるというか……」
何かを買ってもらうようにねだるかもしれないし、ダイレクトにお金を要求してくるかもしれない。
そんな要求を皆さんが交わすのか、受け入れるのか、和解するのか。
そんなお金にまつわる、日常を描くのが今回のお話だ。
「でも無駄になるようなものは買いたくないから、そうね。あなたが持ってても楽しいものにしましょうか」
「うん、ありがとうセリア」
● アニマの欲しいものは何ですか
今回はアニマとその主人のお給料をめぐるお話だ。
アニマもラストエイジの皆さんと協力して日々を過ごし、任務をこなしているのでお給料には自分の取り分もあるはずだと主張してきたのだ。
そこでまず皆さんにはアニマが欲しいものとはなんだったのか、を考えていただきたいです。
服とか、新型の装備とか。
皆さんのアニマは何を欲しがるでしょうか。
実体がないので難しいかもしれませんが。
たとえば他人のお金で焼肉にいきたいとか。
もしくは何か目的があって、お金自体を欲しがるかもしれません。
もしお金を欲しがるのであれば、理由が何かしらあると思います。
その理由もセットで考えるとキャラクターが深まってよいのではないかと思います。
それに対して皆さんの探究者たちはどのように反応するでしょうか。
却下するのか、二つ返事でOKしてしまうのか。
OKしてしまうのであれば一緒に買い物に繰り出してみるのもいいかもしれないですね。
しがない休日をアニマと一緒に過ごす、それが今回のテーマなのですから。
解説
目標 アニマと休日を過ごす。
今回はちょっとコメディータッチの休日を描ければいいなと思ってこのような題材にしてみました。
アニマと探究者の趣味趣向をぶつけ合い、何を今買うべきか決めるシナリオ……
というと大仰ですけど、実際はカップルの痴話げんかみたいなものだと思います。
● アニマが欲しがるものってどんなもの?
アニマは実体が存在しないので、服やアイテム、食べ物を欲しがらない……はたしてそうでしょうか。
物を買ってもらうという行為自体とてもうれしいものなので、焼肉に行ったとしても連れてきてもらっただけでもうれしいのではないでしょうか。
それに、贈り物を送られると言うだけでもうれしいと思います。
アニマの性格次第なところはあるので断言はしにくいのですが。
それにアニマが食べられる食べ物をうっている場所もあります。
アニマが味や触感を感じることができる食料データ店や。アニマの衣服データを取り扱う店は多く存在し、その買い物に付き合ってあげるのもいいかもしれません。
逆に今回アニマの要求を全て却下してあなたの買い物に付き合わせるのもありです。
ゲームマスターより
お久しぶりでございます、鳴海です。
のとそらでは最近かけていなかったのでドキドキです。
今回はまだ自分のPCになれていないPL様も多いかと思ったのでキャラクターを堀深められるシナリオをと思い作成しました。
日常生活のごたごたをイメージする方がキャラクターって動かしやすくなると鳴海、思いますので。
では皆さんの楽しい休日プランお待ちしてますね。
争奪戦。あなたのお財布 エピソード情報
|
担当 |
鳴海 GM
|
相談期間 |
4 日
|
ジャンル |
コメディ
|
タイプ |
ショート
|
出発日 |
2017/10/20
|
難易度 |
とても簡単
|
報酬 |
なし
|
公開日 |
2017/10/29 |
|
イーレ
( ルクア )
|
ドワーフ | マーセナリー | 17 歳 | 女性
|
|
|
|
|
鉄海 石
( フィアル )
|
ヒューマン | マーセナリー | 15 歳 | 男性
|
|
|
石のアクション 心情 装備が買えるようになったら装備を揃えたいため財布の紐を固めたい。 反論材料 武装の良し悪しは生命線に直結にする、しかもこっちの命が尽きるということはフィアルの命も尽きるに等しい…それがわかってる以上装備…武器はあるからせめて防具は質のいいのを仕入れたい…出来れば剣も欲しいが…防具優先だうん…自分だけの命じゃないからね そりゃ出来る限りフィアルの望みは叶えて上げたいが…金持ちじゃない以上、叶えてあげる願いは厳選しないとな…あと甘やかし過ぎるのもダメだと思うし…でも拗ねられたら嫌だし…ガチで泣かれたら心が辛い…く、どうにかしてお金を使わない妥協案考えないと… メタ補足 どっちが勝ちでもいい
|
|
|
|
今日は月に一度のギャラの支払日だぜ。さて、今月は結構興行にも呼ばれたし、他の仕事もやったから割と実入りはいいはずだ。 とりあえず、いつもの酒場で1ポンドのチキンステーキをエールで流し込んで街でもふらつくか。 「ひい、ふう、みい・・・ヒュウ。今月は本気で実入りがいいじゃねぇか。これはナッティに何か買ってやらないと罰が当たるな」 「あら、ケニー、本当にいいの?なら、いつも行ってるブティックの新作を買ってもらおうかしら?せっかく、新作の秋物が出たのに私一人だと買おうにもね・・・。やっぱり買い物は好きな人と行くのが愉しいから」 HAHAHAナッティには敵わないな。オッケー、じゃあ、さっそく向かいますか。
|
|
|
|
アニマはエスバイロの魔改造を考えておりパーツ等を欲しがる。 空挺操縦はほぼアニマ任せ、アニマは好奇心旺盛なNN-0型、在住の地アカディミアはこの手の研究・実験が盛んと状況が揃っている。 ガットフェレス自身もエスバイロの性能に物足りなさを感じており(主に機動性)、ロゼッタがハッカーである事も手伝って情報だけが先走ってる状況。 ただしおそらく金額が大変なことになると思うのでアニマ用のシステムパーツで・・(アニマの性能が上がっても空挺の性能は上がらないけど)とロゼッタはお財布の中身を労わりたい。 結果、空挺乗り用マフラーとか「アニメの主人公かよ!」と突っ込みたいゴーグルとかフライトジャケットとか買うかも。
|
|
|
d12ch2
( 純 )
|
ケモモ | ガーディアン | 24 歳 | 男性
|
|
|
Dの行動てしは、せっかく大きな船に来たし自分のマニアのメンテ等のついでに、なんかしてやろうかなという気まぐれから始まる。 理由は他の人のマニアの頼み事を聞いてる優しい人をたまたま見かけ、自分のマニアは何か望んでいるとこがあるのだろうかと言うことを思ったため。 今の仕事柄大きな船にいながら学校に通わせるのはDの設定上不可能。しかし何か形に残る物を渡すことは可能。 会話の中で不機嫌になってしまった自分のマニアを喜ばせてやろうという気遣いもある。 品としては学校に通いたいとの事だったので「色鉛筆とノート」を予定。安価で学校や訓練所関連のものなら変更してもいいです。
|
|
|
ゆう
( カイリ )
|
ケモモ | アイドル | 16 歳 | 男性
|
|
|
自室に疲れを見せながら帰ってくる 記憶を失って一年、普段は人と接しないように生きているため、 ファヴニルでの買い物は気を遣うものだった カイリ「でも交渉は全部、カイリがやったんだよ」 膨れるアニマを片目に、買ったものを机の上に並べる 硝子ポットにカップ、ドサール、複数の紅茶の茶葉、ティーコジー…等 ゆう「で、これを淹れたら良いのか?」 カイリ「ふふ、期待しているわよ」 戸惑いつつも言われるままに食器を洗うところから始める カイリの言葉に淹れた紅茶のカップを持ち上げる手を止める 「ダメだよ、話を作っては」 薫りが失った記憶を刺激する 「これは、俺じゃない別の人のためのブレンドだね」 カイリの意図に、哀し気に微笑む
|
|
|
エクリプス
( 陽華 )
|
フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性
|
|
|
お給料日ということで消耗品の買い足しに来たわけだが、 陽華の視線は……何故か旬の果物を使ったタルトに行っているわけで 「陽華、どうしたんだ?」 「いえ、なんでもありませんよ」 様子がおかしい陽華に首をかしげながら、必要なものを買っていく が、やはり彼女の様子が気になるので「本当は欲しいものがあるんじゃないのか」と真正面から問う 漸く白状したら「やっぱり、か」と笑顔で納得し休憩がてらスイーツショップに行き、果物のタルトを仲良く食べる 正直な事をいうと(背伸びしたい年頃なので)我輩も自分からスイーツが食べたい、とは言い出しにくくなっていたから、丁度良かったかもしれない 勿論陽華にそれも伝える あ、コーヒー2つ追加で
|
|
参加者一覧
|
イーレ
( ルクア )
|
ドワーフ | マーセナリー | 17 歳 | 女性
|
|
鉄海 石
( フィアル )
|
ヒューマン | マーセナリー | 15 歳 | 男性
|
|
d12ch2
( 純 )
|
ケモモ | ガーディアン | 24 歳 | 男性
|
|
ゆう
( カイリ )
|
ケモモ | アイドル | 16 歳 | 男性
|
|
エクリプス
( 陽華 )
|
フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性
|
リザルト
● 今日は御給料日
皆さんは給料日というものをご存じだろうか。
俗にいう最高の日。お財布が熱くなる……もとい。厚くなる最高の日。
そんな最高の日を最高に過ごすべく『ケニー・タイソン』は馴染みの店で、自分の顔より大きな肉一枚をナイフとフォークでせっせと切り分けていた。
同じく給料日なのだろう、探究者たちでにぎわっているその店をざっと眺める。その視線の中に『ナタリア・ウィルソン』が入った。
「どうしたナッティ、そんなしけた面してよ。今日は最高の日なんだ、楽しまないとな」
「あなたが食事している時ってだいたい暇なのよね。それにあなたのお金であって、私には関係ないし」
そうぽつりと告げたおすまし顔のナタリア。だが数秒後彼女の表情が変わる。
「そうでもねぇぞ。今日は好きなもの買ってやる」
「………………」
ナタリアはケニーを二度見する。
「……今なんて?」
そんなケニーはナタリアの様子に気づかず財布の中身を数えていた。
「ひい、ふう、みい……ヒュウ。今月は本気で実入りがいいじゃねぇか。これはナッティに何か買ってやらないと罰が当たるな」
今月はナタリアも頑張って仕事をしてくれた。なのでいつにもまして実入りがよく懐にはかなり余裕がある。
であれば功労者のナタリアを労ってやろう。そんな風に思うのがケニーである。
「あら、ケニー、本当にいいの?」
そうケニーの顔を覗き込むナタリア。ケニーは平らげたステーキの皿を親指で押しやってナプキンで口を拭いた。
「男に……二言はねぇ」
「なら、いつも行ってるブティックの新作を買ってもらおうかしら?」
ぱぁっと華やぐナタリアの表情。
「せっかく、新作の秋物が出たのに私一人だと買おうにもね……。やっぱり買い物は好きな人と行くのが愉しいから、でも大丈夫?」
その言葉にケニーは頷く。何せ生活費と遊興費は別に分けてある。遊興費をいくら使おうとも生活に影響はない。
「まかせとけ! そして連れて行け。そのブティックによ」
まぁ、実際行ってみるとちょっと後悔したのだが。
店の前につくなり漂う香水のいい香り。店構えはがっちりしており。なんとなく優美な雰囲気が漂っている。
「ここは……」
ケニーはこの場所にたどり着く前から違和感を感じていた。
通りに出たあたりから人の見に纏う雰囲気が変わったのだ。
いや召し物も変わっただろう。生地がさらさらしていて高そうだ。
そんな雅な通りを悠々と歩いていくナタリア。
そして連れてこられてのがこのお店。
「……ふっ」
店内に通されるなりニヒルに笑って見せるケニー。
値札を見れば想像していた金額と一ケタくらい差があって。少し引いた。
「ふふふ、どれにしようかしら」
あくまでアニマが装備できるのは、現在目の前にある衣服を模したデータである。
しかし、それが虚構の者だとしても、それを楽しみながら眺める彼女の表情は本物だという気がした。
「まぁ、いいだろ、たまには……」
これもこれでいいかと思うケニー。
その場ではドレスを新調した。
あとで着て見せてもらったのだが、それはそれはよく似合う煌びやかなドレスだった。
● ショッピングモールは誘惑が沢山
この町一番の商業施設に本日『エクリプス』は足を踏み入れた。
人が多いことを覗けばこの場所は便利なことこの上ない。
お給料日ということで消耗品の買い足しに来たわけだが『陽華』は入り口近くに漂う甘い香りにご執心のようだ。
「おい……」
きょろきょろとあたりを見渡す陽華、そんな彼女は見つけてしまった、陳列棚にずらっと並んだ色とりどりの甘き王国。スイーツ天国。
ごくりと陽華は生唾を飲み込む。
「陽華、どうしたんだ?」
そんな陽華にエクリプスは強めに声をかけると陽華の背中がびくりと跳ねる。
そして取り繕ったような笑顔を陽華はエクリプスに向けるのだった。
「いえ、なんでもありませんよ」
様子がおかしい陽華に首をかしげながら、エクリプスは籠を手に取って先へ進む。
「時間がないぞ、チャッチャと済ませるからな」
探究者が普段枯渇させがちな日用雑貨をどんどん買っていく。と言ってもエスバイロに乗る程度しか買えないのだが。
「あ、あのエクル?」
「なんだ?」
その間ずっとソワソワしている陽華しきりにエクリプスに話しかけては、やっぱり何でもないです……そんなやり取りを繰り返している。
結局代金を支払って購入したものをまとめるまでそれは続いた。ようもないで施設から出て行こうとするが。
その時はたりと陽華の足が止まった、相変らず幸せなかおりがあたりに充満している。
「あの、エクル……じつは」
ついに陽華は白状した。食べたいのだと。
あのスイーツショップに並んでいるタルトが食べたいのだと。
その言葉にエクリプスは、やっぱりかと答えた。
「ほら、いくぞ」
荷物を背負い直してエクリプスは告げる。
「実を言うと我輩も自分からスイーツが食べたい、とは言い出しにくくなっていたから、丁度良かったかもしれない」
そう微笑むエクリプス。
「ほんと? じつは……わたしも」
普段は保護者然ととしている陽華である。そんな自分がわがままを言うなんてと胸に秘めていたんだろう。
「似た者同士ですね」
ただ他にも、この外見年齢で果物を使ったスイーツが好きだとか。そう言うのもどうなんだろうと思って言い出すことはできなかったのだが。
エクリプスには御見通しだったらしい。
「あ、コーヒー2つ追加で」
アニマには実際の現物が出てくるわけではない。データ上の物で栄養価値などはなく、あくまで嗜好品。
それでも二人で並んで食事をとるという事は嬉しいことなのだ。
店につくとさっそくエクリプスはメニューを広げた、二人で仲良くメニューを眺める。
ただ、この後陽華がスイーツに夢中ですっかり買い忘れていたものを、買いに走ることになるのだが。
それはまた別のお話し。
●淡い願い
アニマのメンテナンスを行うための施設が存在する。そこは休日人でごった返していて、一時間も待たされたのだが、診察室までたどり着いてしまえばスムーズで、全ての工程を終えた『d12ch2』と『純』は帰り道を仲良く並んで歩いていた。
そんな中、ショーウィンドウの前で立ち止まる青年とそのアニマを目撃する。
彼はアニマにねだられているようだ。やがて観念した彼は共に店の中に消えていく。
そんな姿を横目で見て不意にd12ch2は自身のアニマに声をかける。
「ん? どうしたディー。行きたい所……だと?」
首をかしげる純。
「どうした、気まぐれ? なら学校だ」
だがその言葉に思わずd12ch2は考え込んでしまった。なぜなら一身上の都合から学校に行くことは難しいためである。
それをd12ch2は純に素直に告げた。
「え? 通うのは無理? なら行くことは出来るのだな!!」
そうきたか……d12ch2は思わず頭を抱える。
「む? 休みの日だと? 自分が腕を磨いた所とな……なあディーよ、それは訓練所だぞ」
言葉を続けるd12ch2。
「なに? 学舎であることには変わりないだろ? 何を抜かすか!! それでは大人の階段を登れな……へ?」
まくしたてようとする純、その口をふさぐように手を差し出したd12ch2である。
「ある意味あってるだろ? とな?」
むむむと思考を巡らせる純。だが長らく考えた結果、やっぱりなにか間違っている気がするのだと純は思った。
「まあ、確かにあってる……ってなるか!! アホ!! デカオヤジ!!」
きんっと耳元で響く純の声にd12ch2は思わず身を固くした。思わずいらない言葉が口を全てって出てしまうd12ch2である。
「すぐに文句を垂れる所がガキ? 心が小さいから体も小さい?」
この時d12ch2は堪忍袋とか、癪に障るとか、そう言う概念を間近で見た。プツンという音がどこからか聞こえた気がした。
それほどに相棒の逆鱗に触れた気がしたのである。
「おいディートゥエルブ2チャンネル!! 平然とアタシが気にしている事言うな!! 泣くぞ」
そうなると売り言葉に買い言葉。d12ch2は純にまくしたてる。
「な!? 泣けだと!? 貴様それでもアタシのマニアか? へ? 当たり前だ……だと……バァカ!!」
そのままピュンっと飛んで行ってしまう純である。
あまりの素早さに茫然としていたd12ch2だったが我に返るととあるお店に視線を止める。
確か彼女は学校に通いたがっていた。
だったら。
そうd12ch2は店の戸に手をかける。きっと彼女は喜んでくれるだろう、機嫌を直してくれるだろう。そんな願いを込めてd12ch2は純へと色鉛筆。そしてノートを購入するのだった。
●追悼の香り
その日『ゆう』は『カイリ』に好きなものを買ってあげるという約束した。
こんな風に言ってくれたのはいつからだろうか。
思えばゆうが記憶を失ってから一年。いろんなことがあった。
普段人と接しないゆう、彼はこの一年でいろいろな顔を自分に見せるようになったけど。
でもそれは一年以上前のゆうとは全く別の側面で。
カイリはたまに思い出す。一年以上前。しかしかれが六歳になって以降の歳月。
それをたまに思い出す。彼には何も言わない。言えないから、例えばこんな一人の夜に、ふと思い出すのだ。
「カイリの注文、探すの大変だった」
買い物袋をテーブルの上に投げ出すと椅子に腰かけ一息つくゆう。
「でも交渉は全部、カイリがやったんだよ」
そう頬を膨らませて抗議するカイリ。
任務は自分も一緒になって頑張ったのだから、こうやっていろいろ買ってもらう権利があるはずだ。
そう抗議する。
「はいはい」
そうカイリを尻目にゆうは机の上に勝ってきたものを並べた。
硝子ポットにカップ、ドサール、複数の紅茶の茶葉、ティーコジー……等々。
端的に言うとティーセット。
これが彼女の欲しいもの……ではない。これを含めた時間も彼女が所望するところである。
「で、これを淹れたら良いのか?」
ゆうが問いかけた。
「ふふ、期待しているわよ」
カイリはとらえどころなく微笑んだ。
下準備としてゆうは、買った茶器を洗い始める。気付けばその手つきはとても丁寧に、そして茶器の温めも、茶葉同士の配合も手と五感が覚えているまま、慣れた手つきでこなしていく。
最後に掛け替えのない大切な人に振舞うように、そっとカップに注いで。
そしてティーソーサーを手に取った。
一連の動作はまるで、自分が遠い日にわかれた友人に出会ったような感動をくれて。そして、口に含んだ紅茶の味に何かを見た気がした。
温かい木漏れ日と、誰かの笑顔。それはきっと。
「――」
その時カイリが何事かを告げた。
その口調はゆうが記憶を失う前、彼が慕っていた人を模倣して告げた言葉『もう充分頑張った』そう伝えようと告げた言葉。
その言葉にゆうは、微笑を湛えてカップを置いたのだ。
「ダメだよ、話を作っては」
ゆうは静かにそう拒絶する。薫りが思い出させる、幽かな記憶のままに。
「その言葉をくれたのは、過去の俺に対してだよ」
苦し気に無理やり笑みを作り、ゆうはカイリに向き直る。
カイリは震えていた、まるで罪を犯したことを叱責される、そんな表情。
けど、違う、違うんだ。
そうカイリは首を振った。
「あの人が今、なんて言うかは分からない。でも俺の都合の良いように、意図と過去を曲げちゃダメだ」
そしてもう一口、紅茶を飲み下す、そして。
「これは、俺じゃない別の人のためのブレンドだね」
泣きぬれたカイリの頬に手を伸ばす。触れられない、通過してしまう……ゆうの腕。
「カイリ、ずっと考えてくれてたんだろう。俺が楽になるための方法として」
泣きじゃくるアニマを抱き留める術はない。
目の前にいるのに温もりを伝えられないカイリと。
もうすでに冷たくなってしまった彼女。
自分の周りには何一つ確かなものはなく、記憶すらない身だけれど。
自分は愛されている、そう確かに実感できる。
「ありがとう、カイリ」
●大空を夢見て
「おじさん、やってる?」
油臭い、土臭い。そんな薄暗い整備場に彼女が顔を出すと空気が柔らかくなるそうだ。
『ロゼッタ ラクローン』はおつれのアニマ『ガットフェレス』を隣にたてて工房の中を覗き込んだ。
それは小さな民間のエスバイロ工場、彼女はここのお得意さんというわけだ。
「いろいろパーツを見に来たんだけど」
その声に店長が気が付いて歩み寄ってくる。
「おや、お嬢ちゃんいつもと違うね。その髪型もいいじゃねぇか」
店長が告げるとロゼッタははにかんだ。いつもは髪を結いあげ、ギブソンタックにして飛行や行動の邪魔にならない様にしているが、今は三つ編みだけで髪を下ろしている。
休日だからだろうか、私服もとても可愛らしい。
「悪いね、国内どこも品薄でなぁ、すぐに販売できるものはないんだよ」
「今取り付けてるものは?」
「これは予約物だからな。生産が落ち着くしか待つしかねぇ」
「ふぅん」
そう工場内を眺めるロゼッタ。彼女が見渡すといたるところに鈍く輝く金属パーツが散見できる。
中には見たことも無いパーツがあり、それを装備したらどんなふうにエスバイロが動くのか楽しみで仕方なくなった。
「速度をまずあげたいよね」
ロゼッタがもくろむのはエスバイロの間改造。
空挺操縦はほぼアニマ任せだが、空を自由に飛ぶのはなんとも心地よくて好きだった。
そのためのお金ならいくらでも……と考えているのだが、先の大きな戦いの傷がまだ癒えきっていないのか改造のために使えるパーツがほとんどなかったのだ。
アカディミアは学問の町。エスバイロ研究も盛んなはずではあるのだが。
「しばらくは現状で満足するしかなさそうだね」
ガットフェレス自身もエスバイロの性能に物足りなさを感じており、ガクッと肩を落とす。
「いっそアニマ用のシステムパーツで」
「アニマの性能が上がっても空挺の性能は上がらないよ?」
そう苦笑いを浮かべるガットフェレス。
「ねぇおじさん。ペーネミュンデ航空団の兵装とかないの?」
「うちはジャンク屋だぞ、そんな最新式の装備があるわけないだろうが」
「どんなの使ってるかも分からない?」
「わかるにゃわかるが、カタログ上のもんしか分からん。大体国家が抱える群体がそうそう軍事機密を出すもんかね」
「うーん、まぁそうだよね」
物資不足はこの前の宝島依頼緩和されてきてはいるようだが、それでも世界全体が貧乏である。
いくら財布が厚くとも世界全体が貧乏であれば、買えるものも買えないのだ。
とても悲しくなるロゼッタだった。
「あ~あ、私もエスバイロにつけたいなぁ、アフターバーナーとか」
「敵をまるこげにして倒すつもりなの?」
ガットフェレスが問いかける。
そんなゲットフェレスだが陳列棚の中から面白い物を見つけた。
「マスターはこれでも着ていて」
そうガットフェレスが指差したのは分厚い生地のフライトジャケット、そしてゴーグル。
「なにこれ! アニメのキャラクターみたいだね」
しかし実用性はばっちりだ。空中を高速で動いても体温の低下を抑える革製のジャケットに丈夫なゴーグル。これで空の旅がいっそう楽しくなるだろう。
「私は寒さとか、分からないけれど。ロゼッタはいつも寒そうにしてるよね?」
「速度出すと寒いんだよね」
「だったらまずこういうところから買い揃えないと」
「私と空を飛びたいんだね。素直じゃないんだから」
そうロゼッタは微笑むと店主に値段を尋ねた、大丈夫、大切なアニマと空を楽しく飛ぶためなら少しの出費くらい平気。
そうロゼッタは笑っていた。
● 街中での一コマ
雑踏の中『鉄海 石』は振り返った『フィアル』がショーウィンドウに視線を注いでいる。
そこにあったのは女性らしい服でも、美味しいお菓子の陳列でもなく。数冊の本。
誰が書いたか知らないが甘ったるそうな想定の恋愛小説と。
誰が書いてしまったのか知らないが、手に取っただけで呪われそうな装丁の宗教本。他にもいろいろがそこに陳列してある。
石は苦笑いを浮かべて膨らんだ財布を叩いた。
厳重にしよう、がま口は縛って開かない。
なぜなら装備が買えるようになったら装備を揃えたいからだ。
けれどそんな空気を察してか可愛い相棒、ふぃあるはすねた視線を石に向けてくるのである。
「行くぞ、フィアル。食材を買い足したら今日の買い出しは終わりだ」
そう石は彼女の望みを知らんふりしたのだが。フィアルの服を掴むようなしぐさにその場に縫いとめられてしまった。その手は石を通過して触れることはできなかったのにもかかわらずだ。
「んー」
フィアルは言葉にしない、だから仕方なく石がフィアルの想いを、言葉を先読みして口にするしかなかった。
「無駄遣いはまだ駄目だ。懐に余裕がないんだ」
その言葉にフィアルはやっぱりかと思いながらもそれでも、これは絶対に欲しいから、そう思って食い下がらない。
「わかってるだろう? 装備を整えたいんだ」
「それはわかってますよ。けど大事なものって他にもあると思いませんか?」
「武装の良し悪しは生命線に直結にする、しかもこっちの命が尽きるということはフィアルの命も尽きるに等しい……」
命の話を持ち出されては何も反論できないフィアル、俯き石のブーツを見つめる。
「それがわかってる以上装備…武器はあるからせめて防具は質のいいのを仕入れたい……出来れば剣も欲しいが……防具優先だうん……自分だけの命じゃないからね」
ほかでもない主が、命を大切にしてくれていることは嬉しい。それはわかる、それはわかるのだが。
「そりゃ出来る限りフィアルの望みは叶えて上げたいが……」
懐に余裕がない上に、いつ出費するかもわからない。
かなえてあげるとしても、それが本となると……。甘やかすのもまずいし。
そう頭を悩ませる石だが。
そんな思考をまたもや先読みしてフィアルは口を開いた。
「本は知識の塊! 例えどんなに役にたたなさそうな物でも意外なところで役に立つことが多いのです!」
「いや、それはわかるけど」
「それに主が本も読めない脳筋になるのは純粋に嫌ですよ?」
次いでかけようとしていた言葉を「うぐっ」という呻きと共に失う石である。
「ただてさえ邪教が関係ある信仰系の話になると周りが見えなくなることがたまにあるんですから本を読んで色々と学習してください!」
「勉強は……してるけど」
フィアルが指差す先にはおどろおどろしい装丁の本。あれ触っても呪われないだろうか大丈夫だろうか。
「わたしのご主人様が別に本を読むのが苦手じゃないのは知ってるんですからね? あ、あとついでに隣の本も参考になると思います、買うべきです」
「恋愛小説は私が読みますし」
「それがねらいか」
石が目を細めるとフィアルの頬を冷や汗が流れた。
「だ、だって! 本を読みたいの! 服だって欲しいの! 本は純粋に読みたいし、服は……石の趣味がわかるから、絶対買って後悔させないから!」
往来の真ん中で全力で叫ぶフィアル。プライベートモードでなければ大変なことになっていただろう。
「でもなぁ。割とたかいなぁ」
「お願いです、お願いですから! 私だって、私だっていろいろ欲しいんです」
「装備も欲しいんだろ?」
「もちろん欲しいです! けど、本も読みたいしお洒落もしたい」
そう、じっと石の瞳を見つめるフィアル。石が困って視線を外してもそれを追いかけるようにフィアルは移動した。
「あ~」
悩む石。本気で悩む石。
この調子だと断るなら面倒を覚悟しないといけないだろう。すねられればいろいろ面倒なことになりかねないし。
この真剣さ。断ったら泣くかもしれない。
というか、もはや泣きそう。目の端に涙をためている。
それを見て石は決意する。
「わかった、買うよ。買う。ついでに宗教の本も買うから」
「やった! 服もいいんですか?」
「服はだめ!」
「え~」
間髪入れず答える石と、肩を落とすフィアルであった。
エピローグ
ふと財布の中から転がり落ちたコイン。それを拾って『イーレ』は街並みを見渡す。
その視線の向こうに行き交う人々が見えた。全員が穏やかな表情を浮かべてどこかへと歩きさろうとする。
皆自分たちと同じようにどこかに買い物に出かけるのだろうかそうイーレは思った。そんなイーレを『ルクア』がせかし再び歩き出す。
目的地に向かって一直線に。
依頼結果