プロローグ
「私、ソラ・リュミアート、十六歳! 趣味はお絵かきと、プリン半分食べた状態でボーッと固まることです!」
(……あたしに自己紹介してどうするのさ)
「いや、これ明日の自己紹介の予行演習だから」
(あ、そ。じゃあ『プリン半分うんぬん』はやめたほうがいいと思うよ。アホっぽいから)
「アホじゃないもん! 本当に好きなんだもん! ていうかミィなら知ってるでしょー!」
(知ってるからあえて客観的にアホっぽいと言っただけなんだけど)
「アホ言うなー!」
独り言しながらエスバイロを飛ばしているのは、最初に名乗りがあったように『ソラ・リュミアート』という少女だ。
独り言、と書いたが正確には違う。彼女は今、自分のアニマ『ミィ』と話しているのだ。ミィは現在【プライベートモード】といってソラにだけ見える脳内映像で姿を現しているため、第三者視点からすれば独り言しているように見えてしまうだけなのである。
現在ソラの視界では、ミィは彼女のすぐ隣に浮いており、シニヨンを結った髪型で、腕組みしてふふんと笑みつつ、エスバイロと平行に動いているように見える。
(それにしてもわが宿主ながら、あんたがよくアカディミアの編入試験通ったものだと思うよ)
「ちゃんと勉強したもん! ミィだって手伝ってくれたじゃない、勉強ー」
(独学するあんたがあまりに無様で、見てて気の毒になったもんでねえ)
「ちょっとは褒めてよねーっ!」
ぷー、と頬を膨らませるソラなのだ。そういうところがアホっぽいんだけど、とミィは言いかけたが不毛なのでやめた。というより、(ま、そこがソラのチャームポイントでもあるわけで)と合理的に考えたからである。
(で、どうすんのさ。『プリンがどーのこーの』は結局話すつもり?)
「まあ、変に取り繕ってもいつかバレることだし、言っとこうかな♪」
(あんたねー、友達できなくても知らないからね)
「いいよ、できなくても」
(いいの?)
「だって私には、ミィがいるから♪」
(ちょ……いきなり何をいうかなこの娘はっ!?)
「あ、照れたー♪」
(照れてないっ!)
「照れた照れたー♪」
(照れてないってば!)
ミィは両手を頭上にふりあげ、頭から湯気を出していた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
滅び行くこの世界、【最終世代(ラストエイジ)】と呼ばれるあなたたちが、希望を捨てず生きていける理由のひとつは、皆が一人一体ずつ備えている少女型人工生命体【アニマ】ではないだろうか。
アニマは人生をともに歩むパートナーであり、話し相手であり、ときには師や妹の役割を勤めたりもする。もちろん【嫁】、つまり妻がわり恋人がわりの役割を果たす場合もあるだろう。
彼女らの主な機能は生活サポートで、近距離(十メートル以内)にある家電や公共の設備にアクセスして宿主(ないし主人)の日常生活を助ける。実際、アニマなしでは電車の自動改札すらくぐれないだろう。
だがアニマには、実体がない。姿が見えると言っても、それは透明がかった立体映像でしかなく、実際に触れることはかなわない。
だから【嫁】と言っても、それは代理に過ぎない。彼女が本当にあなたの子を産んでくれたり、抱きしめてくれたりはしない。キスはもちろん、手を握ることすらかなわないのだ。
けれどそれゆえに神聖性があるということもできるのではないか。
一番近いところにいて、誰よりも長い幼馴染みで、あらゆる意味で助けてくれる【嫁】、けれど決して手の届かない守護霊のような存在、それがアニマなのだ。
あなたとアニマの交流を教えてほしい。
例で示したように会話を楽しんでいる場面であっても、一緒に買い物に行く場面でも、服選びに悩むあなたにアドバイスをくれる場面であっても、それは自由だ。
アニマとの生活をはじめよう。ほんの些細な日常場面で十分だ。
なぜってアニマがいるだけで、あなたの世界はずいぶん、違って見えるだろうから。
解説
本作『俺の嫁とそそらそら』というゲームの特長は色々あると思います。
滅び行く世界、という状況を受け入れた上で、どう物語を続けていくか。地上が存在しない空中だけの舞台で、想像の翼をどうひろげていくか、空中・地上の戦いの道をどう究めていくか……などなど、です。
でもやはり【アニマ】! アニマなくしては『のとそら』は語れないですよね!
そんな、アニマと自キャラに脚光をあてた小さな物語をご用意します。
キャラクターの準備はできましたか?
性別や外見も含め自分とはまったく違うキャラクターにするのも面白いでしょう。(あなた自身が女性なら、男性のキャラクターを作っても面白いと思います)。逆に、あえて自分を投影したキャラクターにするのもドキドキしますよ。
自分のキャラクターが決まったら次はアニマです。
アニマは女性固定ですが、よほど猟奇的でもない限り外見や服装に制限はありません。
あえて自分の趣味を投影した理想の女性的アニマにするのも推奨! でも、全然タイプではない、むしろ敬遠したいタイプのアニマにしてみるのも面白いと思います!!
そうして、アニマとあなたの交流を教えてほしいのです。
こういうシチュエーションでこういうことをする、とカッチリ定まっているほうが私は書きやすいのですが、大雑把であっても全然構いません。
彼らがこの世界で、どんな一日あるいは数時間もしくは数分を過ごしているか、想像したものをアクションプランとしてご提出下さい。
世界観の資料をざっと読んで、「なんとなく」書いたもので十分です。
※難しければ箇条書きでいいですし、慣れている方は、キャラクターの口調で書いてみても面白いでしょう。
楽しいアクションプランをお待ちしております!
ゲームマスターより
はじめまして、マスターの桂木京介と申します!
口の悪いアニマと丁々発止のやりとりをやってみても、大人しいアニマに本を読んであげても、お姉さんアニマに思いっきり甘えるのも可能です。……全部接触できないのが残念ではありますが!
いやむしろ、「さわれたいのにさわれない」というもどかしさが良いという考え方もできますね!
プレイ・バイ・ウェブというこのゲーム形式が初めてというかたは、「自分の考える理想の女の子とイチャイチャ会話するだけ」という妄想を一杯に叩きつけてくれても構いません! ていうかドンと来い、ですよ! ある意味、それをやるゲームが本作なんですから!(しかも今回は無料! やるしか!)
それでは、次はリザルトノベルで会いましょう!
桂木京介でした!!
アニマ! アニマ! アニマと私! エピソード情報
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担当 |
桂木京介 GM
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相談期間 |
4 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/3
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2017/10/07 |
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今日は面倒だけど買い物に来ている 正直通販で済ましたいと切実に思うが、エクスが余計な物を追加しようとしやがる。アニマは色々と自由自在に変えられるんだから女物の道具なんて買う必要ねえだろ そんなわけでこうして俺が外出して買い物をせざるを得ないってわけだ。これなら会計はアニマ経由だが、物は自分で選べる そんなに言うなら夢に出てきた理想の子にやってもらえ? それがいないからこうしてるんだろ ……せっかくだから、アニマも見ていくか ダイ・レルはエクスの作られた会社だからパス。となるとオムニ? 後で後悔しそうだがソンブレロも…… っておい、お前なんだその「あっ……」は。俺の場合はできないんじゃなくて作らないだけだ
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場所は、アカディミアの第7学区……PC(トゥルーソウター)の私室に最寄りの役場。 シチュエーションは、数年に一度の……アニマの定期検診……と言うか、無料のメンテナンス。 主役は、アニマ(リュミエール)の方で……PCは今回、サブ役。尚、どちらもアドリヴ大歓迎です。 最近……特に、遠出していたりせず……リュミエールは、基本的にメディカルセンターと常時接続で 情報共有をしており、アニマの健康管理……的には、何の問題も、不具合も……無い事は判っている。 無料メンテナンスも、義務ではなく……あくまでも、推奨されている……だけ、だから……と。
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朝の日課である情報集めを欠かさない 世界情勢を常に把握し、先を見据えて最善の行動を取るのが日々の流れ アニマの歴史についての情報も出来る限り集めておこうかね 一段落した所でUNOを呼ぼうか 少し休憩しよう(米神押さえ UNO、少し付き合いたまえ(チェス盤取り出し 今日も俺があっさり勝たぬよう精々飽きさせないでくれ 嗚呼、いいことを思いついた(悪い顔 負けた方は勝った方の言う事を何でも一つ聞くというルールにしようか 今から何をしてもらうか考えておかねば 負ける気は毛頭ないな 盤の上で展開される幾つもの未来やロジックを読み解く どこまでも理論詰め 髪弄りながら思考 なかなかに厭らしい手だ、読まれたか ゲーム終了後の反応お任せ
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今日はレーヴァテインにある自室で勉強をしています。 知識はいざという時に皆を、私自身を助けてくれますからね、学びすぎるという事はありません。 テキストを読み込んで知識を深めていきましょう。 そうしているとゲッカコウから声をかけられます。 ゲッカコウどうしました?何かありましたか? えっ、先ほど貰ったテキストのデータが間違っていた? 仕方ありませんね、でわ正しいデータを貰えますか?と軽く笑いながら新しいデータを頼みます。 幼い時から一緒ですし慣れてしまいました。 それに、これでもいざとなったら頼りになるんですよ? と今までの事を思いだして微笑みます。 ゲッカコウ大丈夫ですから、これからもよろしくお願いしますね。
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君がモノを食えればよかったのだがな。 何のことかだと?決まっているだろう、食事の事だ。 下ブロックにいた頃は碌な食材も手に入らなかった上に火を使うことすら苦労したものだが僕はもともとグルメだ。 もっとも、それは実に幼き頃の話であるのだが… 食うに困る事が無くなった以上、食生活の向上は急務であると言えるのだ。 しかし、街に並ぶ品々は一人にはどうにも量が多い。 無駄を出すのは好きでない。だが僕は味にはうるさいが量はさほど食わんのだ。 少ないカロリーで生命を維持する生き方が染みついているのでな… それに…どうせ作るなら一人で食べるよりはと思う所もある。 厳密には一人ではないのかもしれんが… まあ、一人の時よりはマシか。
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Zzz……(どこかの屋根で寝ている …ん…?何です…?(燕子花に起こされる あぁ…もうそんな時間ですか いえ、止めませんよ?だって気持ちいいですし、相手も望んでますし マイノリティだから止めろ、と?確かに一般的ではありませんが…違法行為ではありませんよ? 倫理、ですか…。では、燕子花。愛とは何です? 男女間でなければ成立しないというのであれば、私や彼女達はどうなるのです? さて、と…(建物の屋根伝いに移動し、目的地周辺へ着くと地面へ降りる こんにちは。月瀬です(複数居る愛人の1人の家へ ふふっ。リンに逢いたくて…えぇ。ラピスさんとはまた今度。(複数人との爛れた関係の模様 それでは、今夜も楽しみましょうね。
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普段はシスターとして務め、事あるごとに魔法少女ごっこをしている。 「今日も教会で悩める子羊たちの相談も聞いたし、次は街で彷徨う子羊たちに救いの手を差し伸べるわよ、魔法少女として!」 とはいえ、カンナカムイでそうそう事件があるわけでもなく、道案内や迷子の保護とかのお手伝いが多い。あとはたまに絡まれる酔っ払いの鎮圧。 ただし、毎回登場時にポーズを決めて名乗りを上げるので時間がかかる、迷子は泣き出す、酔っ払いはヤジを飛ばすと拗れる事も。 決めポーズと口上は試行錯誤中なので毎回違う(魔法少女モノやヒーローモノのようなものです。たまに変なモノもアリ) 他の人と絡めたりアドリブ入れたりなどはお任せします。
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明智珠樹
( チア )
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ヒューマン | マーセナリー | 28 歳 | 男性
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【アニマの服装問題】 街をフラフラと散歩する明智。 服飾店の傍を通りかかり、ハタと気付き、傍らのチアへ。 「そう言えば、チアさんの洋服はご自身の趣味なんでしょうか?」 ピンクのブレザー姿はとても愛らしい。 「ハァハァするほど似合っております、ふふ…!」 「例えば。他の服を着ることはできるのでしょうか? 私がスーツを脱ぐことが出来るように」 「例えば…そうですね、セェラァ服だとか 兎耳をつけたセクシィバニーガールとか あどけなさの残る表情に黒のボンテージだとか…! 嗚呼。夢が膨らみます…!」 うっとりド変態。 「…あ。チアさんが見たい私の姿がありましたらおっしゃってくださいね。 ぜひ希望を叶えたいと思います」
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参加者一覧
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明智珠樹
( チア )
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ヒューマン | マーセナリー | 28 歳 | 男性
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リザルト
朝は冷え込むようになった。薄着だと肌が粟立つほどに。
けれど『レイ・ヘルメス』はむしろそれを歓迎している。脳を活性化させるには、肌寒いくらいがちょうどいい。
情報旅団【テストピア】、タワーマンションの一室。
朝の自室でもレイは、寝間着姿のままでいたりはしない。ビジネス上の会議に招集がかかったとしても、そのまま出られるほど整った出で立ちだ。
レイの右目のモノクルに、最新の株取引情報が表示されている。手元のタブレットにニュースを展開する一方で、耳では音声版の金融情報をキャッチしていた。
これでもレイ自身はリラックスしている。世界情報を把握し、先を見据え最善の行動方針を定めるのが、彼にとっては朝の日課なのだ。
一段落すると、
「UNO、構わないか?」
レイは自分のこめかみを抑えながら、アニマ『UNO』を呼んだ。
「兄様、お呼びですか」
UNOが姿を現す。今朝も彼女は、セクシーな朱殷色のドレスを身にまとっている。
このときドアが開き自動カートが部屋に入ってきた。カートに載ったティーカップから、ふくよかな香りの紅茶が湯気が上げており、添えられた皿には、オペラと呼ばれるダークチョコレートケーキがあった。すべてUNOが、調理器を操作して準備したものだった。
「用意がいいな」
休憩を考えていたところだ、とレイはアールグレイに唇を付けた。ケーキを口に運ぶと驚いたように、
「美味だな、これは。なめらかな舌触りはもちろん、甘すぎないところも」
「恐縮です」
「生地から焼いたのか。原料の配分には悩んだだろう」
「はい。テストピアにはメシマズ国という汚名が着せられていますが、そんなものを兄様に食べさせるわけにはいきませんから」
照れているのかうつむき加減の姿がまた、可憐なUNOなのだった。
食べ終えて、
「少し付き合いたまえ」
とレイが取り出したのは、アンティーク調の木製チェスボードだった。
「ふふ、喜んでお受けしますよ」
「今日も俺があっさり勝たぬよう、せいぜい飽きさせないでくれ」
「すでに勝った気でおられるのね」
ここで悪戯っぽっくレイは目を細めた。
「嗚呼、いいことを思いついた。負けた方は勝った方の言う事を何でも一つ聞くというルールにしようか」
「余程自信がおありなんでしょうが、足元掬われないようご注意下さいませ兄様?」
望むところ、と言うようにUNOは微笑した。
レイとUNOは互いをよく知っている。好みはもちろん、無意識下の思考の癖まで。
だからふたりにとってチェスは、互いの心を裸にする行為に似ていた。
「なかなかいやらしい手だ、読まれたか」
溜息をつくとレイはキングを横に倒した。
「さあ、望みを言ってくれ」
「そうですねえ……」
彼女の返答は……失敬、紙幅が尽きたゆえ次の機会とさせていただこう。
●
面倒。
それが『ブレイ・ユウガ』の正直な気持ちだ。
食料品、どっさり、文具雑貨、山のよう、そして服飾品、目がくらむほど! 消費文化の最前線で、ブレイはショッピングカートを押している。彼はアニマ『エクス・グラム』に引っ張られるようにして、旅団アカディミア内の大型ショッピングモールに来ているのである。
でも買い物に心躍るどころか、
「通販で済ませればいいだろ、こんなの」
ブレイは率直な不満を口にしていた。
ブロントヴァイレス襲来により麻痺していた通信網もほぼ回復した現在、自宅にいながらにしてショッピングは簡単に済ませられる。それをわざわざ、とため息が洩れる。
妖精のようにブレイの周囲を巡り、ぴっとエクスは片手の指を上げた。
「そんなモノグサの極みみたいなこと言ってるの不健康だから、おねーさんが頑張ってお外に行くように仕向けてやったんだぞ☆」
「不健康じゃなくて効率的なの」
「ダメよ~。あなた今ですらどうしようもないめんどくさがり屋さんなんだから、便利な事を覚えちゃったら心身共にアビスに堕ちるが如く堕ちちゃうも~ん」
「アビスて……それに、アニマは色々と自由自在に変えられるんだから買い物なんて必要ねえだろ」
「だからブレイの服を選んであげてるんじゃなーい。あれなんて似合うと思うけど?」
ブレイは、エクスが示したジャケットを片眼で見た。明るい色調のテーラードジャケット、デザインだけはいいと思った。けれど、
「色が明るすぎる」
即却下だ。
「えーっ!? 外見に気を遣わないとデブになっちゃうんだから! ものぐさでデブとか即死系レベルの存在になんてさせないぞ☆」
「言い過ぎだろ」
エクスはその反応に不満らしく、「なんかグチグチ言ってるけど」と腰に手を当てて言った。
「なら、こないだ夢に出てきた理想の子に頼ればいいじゃない!」
執事服を来たボーイッシュな少女らしい。少年疑惑もある。
「それがいないからこうしてるんだろ……せっかくだから、アニマも見ていくか」
ブレイはカートを、アニマ販売ショップ(大型モールなので存在する)へと向けた。
「ダイ・レルはエクスの作られた会社だからパス。となるとオムニ? 後で後悔しそうだがソンブレロも……」
などと独言したところ、「ひどい!」とエクスは声を上げた。
「おねーさんみたいな優秀で美麗なアニマがいながら……よよよ」
両手を目に当て泣き真似する。
「自分で言うかそれ」
「でもおねーさん的には自分の理想の子はリアルで見つけて……あっ」
なにか察したように、エクスはわざとらしく黙った。
「って、お前なんだその『あっ……』は。俺の場合はできないんじゃなくて作らないだけだ」
と言いながらもブレイは、このやりとりと買い物を、それなりに楽しんでいる自分に気がついていた。
同じモール内の別フロアでは、『明智珠樹』とアニマの『チア』が連れだって、やはり買い物中だった。
「大きなモールですよねえ。お店がいっぱい、人もいっぱい。賑やかで、故郷(ふるさと)の秋祭りのようです……」
えっ、とチアは色めきだった。
「記憶が戻ったのか!?」
「……私にそういう故郷があったらいいのになぁ、と思いました、今」
「お前の言葉を一瞬でも信じた僕がバカだったよ」
ぷーと子リスのように頬を膨らませるチアである。
あべこべな性格ながら、このふたりにはある共通点があった。それは過去の記憶がなく、先日気がついたとき以来、否応なくこの共生関係を続けているということである。
「ふ、ふふ……そうヘソを曲げないでください、チアさん。大きな服飾店にさしかかりましたよね」
ほら、と珠樹は近くのブランドショップを指した。
「それがどうしたんだよ」
「思ったんですよ。チアさんの洋服はご自身の趣味なんでしょうか、って。そのピンクのブレザー姿はとても愛らしい」
そう言われるとチアも悪い気はしない。
「ん? この服? あぁ、気に入っているよ」
と機嫌を直す。
「結構ピンクは好きなんだよね。僕の髪や瞳の色だし、愛着が湧く色だし」
「ええ、似合っております、ハァハァするほどに、ふふ……!」
このとき珠樹は荒い息で、くねくね悶えるようにしながら艶っぽい目でチアを見ていた!
「不審な動きをするなド変態!」
蹴飛ばしてやりたいとチアは強烈に思うのだが、なにぶんアニマの身ゆえそうもいかない。
オープンモードのまま大きな声を出してしまったため、周囲の通行人の視線が自分たちに集まり始めた。
「と、とにかく行くぞ!」
足早にその場を離れる。
やがて広い場所に出て、おもむろに珠樹は口を開いた。
「ところでチアさんは他の服を着ることはできるのでしょうか?」
「他の服か……うん、イメージすればできるみたいだ」
チアの衣装は音もなく、ロングカーディガンとデニムパンツのガーリーな組み合わせへと変わっていた。
「素敵です! 便利ですねえ。私のほうはいちいちスーツを脱がないと着替えられませんから……」
「でもここで脱ぐなよ」
すでに上着に手をかけていた珠樹は、ニヤリと笑って手を止めた。
「ふふ……だんだん私のことがわかりはじめたようですね?」
「わかりたくなかったよ」
「せっかく早着替えできるんですから、チアさん着てくれませんかねぇ」
と珠樹は恍惚な表情で、碑文でも刻むように言う。
「セェラァ服とか、
兎耳をつけたセクシィバニーガールとか、
あどけなさの残る表情に黒のボンテージとか…!
嗚呼、夢が膨らみます……!」
「それは夢じゃなくて妄想だ! ド変態!」
「あ、チアさんが見たい私の服装がありましたらおっしゃってくださいね?」
「まともな姿」
即答!!
●
アニマが『生きている』ことは間違いがない。
生きているがゆえに、定期的な健康診断が必要となるのも事実だ。
旅団【アカディミア】の第7学区、自宅最寄りの役場に『Truthssoughter=Dawn (トゥルーソウター ダーン) 』は来ていた。彼と共生状態にあるアニマ『lumiere=douceur (リュミエール ドゥサール)』が同行していることは言うまでもない。
(毎年のことですけれど……)
他の人に見られたくないのだろう、リュミエールはプライベートモードで姿を見せ、小さくふるふると首を振った。
(健康診断は……いやでございますぅ)
いつも以上に甘えるような口調で、トゥルーソウターの腕にひし、とすがる。
「リュミエール、考え次第です」
トゥルーソウターは穏やかに、触れられないがらも彼女の背を撫でるようにして言い聞かせた。
「健康診断、と考えるから怖いイメージがあるのです。一年一度の無料メンテナンスだと思えば楽になるのではありませんか?」
(でも、いやなものはいやなのですよう)
「レーザーを照射するだけでしょう。時間的には、数分です」
(その数分が、すっごく気持ち悪いのございます~)
宿主が腕を器具に固定され、アニマの本体である【アニマリベラー】というカプセルが埋まっている部分とその周辺数センチに検査用レーザーを当ててもらうこと、それが検査のすべてだ。これによりアニマの精神状態や健康状態を調べるのである。時間は早くて数分、かかってもせいぜい十数分というのが普通だった。
理論上アニマは病気はしないはずなのだが、心を病んだり声や姿が不鮮明になることはある。それを事前に防ぐのが目的だ。
周期や内容に違いこそあれ、アニマの定期検査は大抵の旅団で推奨されている。義務化されている旅団もあった。
(アカディミアでは義務ではありませんし……今年1回くらいはパスでもいいのでは~)
「でも大切なことですから」
(普段メディカルセンターと常時接続で情報共有をしているじゃありませんか。あたしには何の問題も不具合もないのでございますよー! ですから……!)
まったくこの検査を意に介さぬアニマもいる一方で、「落ち着かない」と嫌がるアニマもいる。といってもリュミエールほど嫌がるのはちょっと極端だ。
「そうはいってもですね、リュミエール」
コホン、と軽く咳払いしてトゥルーソウターは優しく告げた。
「僕はあなたを大切に思っています。だからこそ、小さな不安でも未然に取り除いておきたい」
(……)
リュミエールは頬を染め下を向いた。
そうして、すっと姿を消したのだった。今のうちに調べて、ということだろう。
やれやれとトゥルーソウターは安堵の笑みを浮かべた。
毎年こんなやりとりをしている気がする。
きっと、来年も。
●
宗教旅団と称される【カンナカムイ】だが、そのすべてが静謐というわけではない。観光地としての側面もあり、中心部は花が咲いたように賑わっているのだ。
「今日も教会で悩める子羊たちの相談も聞いたし……」
『エティア・アルソリア』がフードを跳ね上げると、長く豊かな黒髪が、帆にいっぱいの追い風を受けた船のように踊り出してあふれた。
「次は街で彷徨う子羊たちに救いの手を差し伸べるよ、魔法少女として!」
まどろっこしいとばかりに五六段、石段を飛び降り着地する。シスター服なのに、ぶわっとひるがえるその様はまるでマントだ。
「後片付けが済んでません! 後で神父のお説教ですよ!」
アニマの『メルファ』が追いすがるように言うも、
「いいの! 救いを求める声は待ってくれないんだから!」
エティアは止まらない。人々を救いたいという彼女の気持ちは、シスターとしての勤めだけでは収まらないのだ。
といっても基本は平和なカンナカムイだ。探し歩いてもそうそう事件に出くわすことはない。
小半時も探索した頃、
「あの子、迷子のようですね?」
おや、とメルファが手をかざして告げた。
ぬいぐるみを抱いた四歳くらいの少女が一人、べそをかきながら歩いている。
「事件発生!」
すぐさまエティアは高台を探してよじ登り、そこから少女の眼前にひらり飛び降りた!
「お呼びとあらば、即、参上! 情け無用のエティア・アルソリア!」
まくれあがる裾もかまわず、片足をバレーダンサーのように上げてポーズを取った。
……当然、子どもは火が付いたように泣きだした。
「あれ?」
エティアのほうはおろおろして、メルファを振り返り振り返りするばかりだ。ああもう、とメルファは、妖精のような可愛らしい衣装にチェンジするとしゃがんで少女をなだめる。
「大丈夫ですよ。お母さんとはぐれちゃいました? 私たちが探す手伝いをしますね」
そしてエティアを振り仰ぐのである。
「泣きそうな子の前で勢いよく名乗りとかしたら泣いちゃうじゃないですか……しかも『情け無用! ファイヤー!』だなんて……!」
「いや『ファイヤー』までは……でもごめん、反省してる」
「あと、さっきのポーズはパンツ見えますから却下です!」
「それも反省してる」
メルファの尽力もあって少女は泣きやみ、幸いその母親もすぐ見つかった。
「いやあ人助けをすると気持ちがいいね!」
「助けたのはほとんど私のような気がしますが……」
というメルファの言葉が終わらないうちに、もうエティアは弾丸のように走り出していたのである。
「今度は通行人に絡む悪い酔っ払い発見! 魔法少女エティアちゃんの出番よ☆」
「待って下さいまた変な名乗りとポーズはー!」
メルファは慌ててこれを追った。
エティアの活躍は続く!
メルファの気苦労も、たぶん続く。
●
空が朱に染まってゆく。
せっかくの休日だが、この日『チュベローズ・ウォルプタス』は一歩も家から出なかった。今日はずっと、旅団【レーヴァテイン】の自室で勉強をしていたのだ。
読んでいた書物をぱたりと閉じると、チュベローズは静かに深呼吸した。知識が頭にしみこんでいくのを感じる。何度も読んだテキストだったが、こうしてまとめて読んだほうが理解が深い。
「精が出ますね」
チュベローズが振り向くと、そこには彼女のアニマ『ゲッカコウ』が両足を揃えて立っていた。
「ゲッカコウどうしました? 何かありましたか?」
集中していたせいか、チュベローズはゲッカコウのことを忘れていた。もちろんこの世界において主人とアニマは切っても切れない関係なのだが、この数時間はゲッカコウのことを意識してなかったというのが正しい。
「驚かせたのならすみません。お邪魔にならないよう、姿を消して控えておりましたので」
ゲッカコウはチュベローズが小休止を取るまで待っていたのだった。
「ありがとうございます。おかげさまで勉強ははかどったと思います」
「チュベローズ様、コーヒーを召し上がられますか?」
「お願いします」
その声に応えるように、キッチンにあるコーヒーメーカーのスイッチが入った。ゲッカコウが遠隔操作したものだ。
「朝からずっと猛勉強をされていましたね」
「知識はいざという時に皆を、私自身を助けてくれますからね、学びすぎるということはありません」
「その意気です」
いつかその努力が実を結び、ネメシス兵団から声が――と口にしかけたゲッカコウだったが、考え直し口を閉ざした。
そのことならきっと、チュベローズ自身が一番よくわかっているに違いないから。
レーヴァテイン軍には、世界最強と呼ばれる精鋭部隊【ネメシス兵団】が存在する。ブロントヴァイレス戦とその後のメディア報道で一躍時代の寵児となった『リン・ワーズワース少尉』もネメシス兵団の所属だ。
ブロントヴァイレス戦で多くの兵員を喪ったネメシス兵団だが、現時点ではまだ新隊員を迎えるという話は出ていない。単純に欠員が出たから補充を行うのではない、あくまで所属員にふさわしい人員が育つまで待つ、という性質こそが、ネメシス兵団がエリート部隊たる理由なのである。
チュベローズもレーヴァティンの探究者として、真面目さ、忠実ぶりが評価されているものの、ネメシス兵団からのスカウトの声はまだ来ていない。だが必ずその日が来ると信じ、こうして今日も彼女は自己を鍛錬しているのだ。
かわりにゲッカコウはこう言った。
「今勉強をしている所の詳細の資料をネットから集めておきました。休憩後にご覧下さいね」
ネメシスの徽章がチュベローズの襟に輝くその日まで、ゲッカコウは彼女を支えるつもりだ。
●
調理器を動かす、というアニマ『クー・コール・ロビン』の申し出を断って、『メルフリート・グラストシェイド』は厨房に立ちフライパンに溶き卵を流し入れた。
しばらく無言で調理していたが、
「……君がモノを食えればよかったのだがな」
と、思い出したように口を開く。
「いきなり何を……?」
クーはメルフリートの隣に立つ。
「決まっているだろう、食事のことだ」
「ああ、食事。そればかりは私にも難しいわね」
アニマは食事を取らない。いや、取れない。実体がないゆえだ。
「下ブロックにいた頃は碌な食材も手に入らなかったし火を使うことすら苦労したものだが、僕はもともとグルメだった。もっとも、それは実に幼き頃の話だ」
メルフリートは居住する旅団【ログロム】の、いや、この世界全体の抱えているジレンマを身をもって学んだ人間だ。
アニマを有し飛空艇を日常的に使うような人々は【市民】と呼ばれる。超巨大飛空艇の甲板部にある都市部(シティ)に住む一般人は、ほぼこれにあてはまるだろう。
だが社会の最下層、飛空艇の船底付近に存在するスラム地域でしか生きられない人々もいる。彼らはアニマを持たずあるいはアニマを拒否して、赤貧にあえぐようにして暮らしているのだった。
メルフリートはシティの生まれでありながら、ある事情でアニマを移植される前にスラムへと転落した。しかしその後シティへ戻ることができ、こうしてクーと共生するに到ったのだが。
ピンとこないわ、とクーは首の後ろをかくような仕草をした。
「私はまあ、あなたの下ブロック時代のことを知らないしね」
クーの発言を聞き流すようにしてメルフリートは呟く。
「食うに困らなくなった以上、食生活の向上は急務だ」
「お望みとあらばその向上とやらを体感することは難しくないのだけれど?」
「しかし街に並ぶ品々は単身には量が多い。僕は味にはうるさいが量はさほど食わんのだ」
少ないカロリーで生命を維持する生き方が染みついているのでな、とメルフリートは自嘲気味に言った。
「だから一人の食事は嫌っていうわけね?」
クーは肩をすくめた。
「それだけではない。どうせ作るなら一人で食べるよりはと思うところもある……君と一緒とか」
「ふふ、そう思ってもらえるのは悪い気分ではないわね」
でも、と彼の耳に唇を寄せクーは囁いた。
「男のツンデレという奴はあまりあなたのキャラには合っていないと思うのだけれど?」
「ツン……? 耳慣れない言葉だ」
「知らないんだったらいいわ。忘れて」
メルフリートが振り向くと、クーはテーブルに着きくすくすと笑っていた。
「私も……あなたと共に一つの釜の飯を、と言えたらどんなに素敵でしょうね」
ま、今は気分だけでも、とクーは自分の前にも皿を置くようメルフリートに求めたのだった。
●
真夜中に、『月瀬・沙耶』を揺り起こす声がある。
「沙耶様、沙耶様。そろそろ約束されていたお時間ですよ……」
「……ん…? 何です……?」
沙耶が寝ている場所は、どこかの家の屋根の上だ。雅な造りの瓦屋根、そこに丸まって休んでいるのである。
「あぁ……もうそんな時間ですか」
と欠伸を漏らした沙耶は実に落ち着いていた。彼女が屋根寝をするのはこれが初めてではないのだ。目は開けぬままケモモの耳を起こし立ち上がった。
その足元にひかえるアニマの『燕子花』は、言っても無駄と知りながら今宵も苦言を呈さざるを得ない。
「沙耶様……そろそろこのようなことはおやめ下さいませんか」
けろりとした表情で沙耶は答える。
「いえ、やめませんよ? だって気持ちいいですし、相手も望んでますし」
「ですが、一般的に良くありません」
「ほう」
一般的に、という言葉がひっかかったらしく、音もなく着物の袂(たもと)より扇を抜くと、ぱっとこれを広げ沙耶は口元を隠した。
「たしかに一般的ではないでしょうね。しかし違法ではありませんよ?」
「法に触れなければ何をしてもいいという訳ではありません。倫理というものが……!」
「倫理、ですか」
沙耶は片手を振りぴしゃっと扇を閉じた。その扇を燕子花の額に突きつける。
「ならば問います。燕子花、愛とは何です?」
「えっ……そ、それは……男の人と女の人が互いに好きになって……」
「間違いではないですが、それは『愛』という言葉のごく一部でしかありません。親子きょうだいの愛、友情、故郷を想う心……いずれも愛ではありませんか。それに共生、私たちの不離一体の関係も……」
しゃがむと沙耶は燕子花に向き合って、
「愛といって間違いありますまい。燕子花、愛していますよ」
「えっ!? えっと……あの……あ、ありがとうございます……」
燕子花は屋根の上に正座して、顔をぽっぽと真っ赤にしている。
「ああ、燕子花、あなたと私を隔てる『主人』『アニマ』の関係が憎らしい。できるなら私は、燕子花を抱きしめて口づけ、服を優しく脱がせてたっぷりと愛して、愛して、愛し尽くしてあげたい……それなのに私たちは、触れあうことすらできないのですから」
「あの沙耶様、なんか変な方向に話が進んでません……?」
しかし燕子花に構わず、
「だから私は、可愛い女の子たちを一晩中愛することで、この気持ちを満たすのです」
ぴょんと沙耶は隣の屋根へ移った。屋根伝いに駆けてゆく……少女らの家に夜這いをかけるために!
「今宵はリンを可愛がってあげましょうかねぇ。マイちゃんもディアーネ様も、待っていてくれるでしょうかねぇ。ああ、時間的には、ラピスさんとはまた今度ということに……」
そんな計算をしながら。
「月瀬様ー!」
燕子花は、ただただ涙であった。
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