プロローグ
シティでもビルが密集していた地帯では、空賊たちの爆撃によって多くのビルが倒壊していた。
崩れたビルのいくつかは骨組みの一部が折れ、別のビルに寄りかかったりして大きな山のようになっている。
完全に崩れたビルの瓦礫は隙間を埋め、シティに言葉通りの瓦礫の山を生んでいる。
内部の空洞では、逃げ遅れた人々の群れが迷路のように入り組んだ洞窟を進んでいる。
「くそ! ここも行き止まりだ!」
先頭を歩いていた男が目の前のビル壁を蹴りながら毒づいた。
彼の後ろには大勢の人々。
その多くは運良く無傷に近かったが、何割かは崩れた壁や家具にやられて負傷している。
中でも1人は足に重傷を負っている。止血はしてあるが、かなり弱っていた。
「引き返そう、別の道を探すんだ。崩れてる壁があっただろう。あそこから別のビルの非常口にまで行けるはずだ」
煙の臭いに顔をしかめながら提案する彼に、人々が不安そうにうなずく。
ここで生き残るためには常に行動しなければいけない。
瓦礫の山の一部では火災が発生している。
そこからやってくる煙に追い立てられながら、被災者たちはみな歩き続けていた。
瓦礫の山の中に取り残された人数は約50名。
いくつもの通路が炎の壁によって封鎖され、外へ逃げるどころか奥へ奥へと避難している。
このまま煙で死ぬか、それとも炎で焼け死ぬか、それとも生きるために出口を探すか。
しかしもういくつもの道を調べ、どれも塞がっていた。
誰かが藁にもすがる気持ちで声をあげる。
「なあ、外と通信できたアニマはいるか?」
ここから外へ助けを呼ぶためにはアニマの通信が一番だ。
しかし誰も通信機を持っていないため、アニマ単体では遠い相手には助けが呼べない。
「くそ、とにかく歩け! 煙が多くなってきてる。火はでかくなってるぞ」
「下へ行こう。上に行きすぎると煙にまかれる」
「下に行くと瓦礫で塞がってるところが多くなるんじゃないか? 出られなくなるぞ」
「くそ……どうすればいい」
貴方は住民の避難を行うためシティの災害現場をいくつも駆け巡っている。
救護班が現場に駆けつけたとき、すでに現場は大混乱に陥っていた。
いくつものビルが倒れ、至るところで火の手があがっている。
難を逃れた住民により助けを求められるものの、動けるようなら避難所の場所を指示するだけだ。
助けを待つことしかできない人々が残っている可能性がある限り、気を抜くことはできない。
そうやって数人で探索しているとき、誰かのアニマがビルの密集地帯だったところからの救難信号を拾った。
「一瞬だったが間違いない。行こう」
そこは火の海だった。
「ビルが崩れて山みたいになってる。火は手前だけみたいだ。向こう側はまだ燃えてないはず」
「あの様子なら内部には空洞がありそうだ。生きている可能性は高い」
だが、助けだそうにも外からでは被災者たちの位置が分からない。
近くに行けばアニマ同士の通信で分かるはずだが……。
そうこうする間にも火の勢いが強くなっている。
付近には持ち主を失った車などが放置され、人影もない。
このままでは中にいる被災者は炎にさらされるか、炎で脆くなった瓦礫が崩れてその下敷きになるだろう。
貴方は、決断を下す。
解説
被災者の居場所すら分からない状況のため、内部の被災者と協力して救助を行う必要があります。
また、周囲の人々と協力をしなければ安全な救助はできそうにありません。
火災のため時間に余裕がなく、役割分担が重要になります。
被災者との連絡ができれば一気に楽になります。
どうやらアニマ同士の通信は瓦礫越しでも充分に行えそうです。
また脱出をさせるためにはビル壁や瓦礫をどうにかする必要があります。
これには大人数で対処したり、何かいいアイデアが必要になりそうです。
また、空賊の攻撃は続いています。
空賊の大規模な部隊は防衛部隊と戦っているようですが、単独で暴れている空賊もいそうです。
重傷者を見捨てれば救助にかかる時間が短縮できます。けれど、助けなければ悲しいことになるでしょう。
救助側には分かっていないものの、被災者の半数以上は脱出できないだけで元気です。
中にいる人々に協力してもらうことができれば思いもよらぬ方法で助け出すこともできそうです。
このエピソードはグランドプロローグ「崩壊の始まり」の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお「崩壊の始まり」にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
ゲームマスターより
皆様こんにちは。新人マスターのイシミヤです。
波のある展開を好んでおり、傾向としては情緒よりも展開の早さを優先することが多いです。
みんな英雄、それぞれの人生。
敵に塩を送るようなヒロイック成分で物語が加速します。
よろしくお願いします。
【隠れた真実】灼熱の向こう エピソード情報
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担当 |
イシミヤ GM
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相談期間 |
8 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/4 0
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難易度 |
簡単
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報酬 |
少し
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公開日 |
2017/7/14 |
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ジュアと二手に分かれて行動 ジュアはあっちこっちを移動して被災者たちのアニマとの通信出来る場所を探す ラルフは移動しながら大声をあげ被災者たちに救助に来たことを知らせ声が返ってきた場合はその場所中心に瓦礫の撤去を始める それでも見つからない時は比較的残ってるビルの非常口を探しそこから瓦礫の撤去を始める 被災者たちの居場所がわかり次第他の人たちにも連絡し瓦礫の撤去を始める 大きい瓦礫に対してはスキルを使い破壊しやすくする 中からも瓦礫の撤去作業ができそうなら被災者たちに撤去をして欲しいと頼む 空賊の相手は他の人たちに任せる 被災者たちを全員救助するまで諦めない。誰も見捨てない
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火災などに気を付けながら、被災者を見つける 空賊が近くにいるときは、他の人に救助を任せて、注意を引き付けるために戦う。できるだけ距離をとって、倒すよりも時間稼ぎを優先する 瓦礫が邪魔なら、破壊して先に進めるようにしておく できるだけ、中にいる人に協力してもらえるように、連絡をとれるように心がける アドリブ大歓迎です。好きに改編してください
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瓦礫の山をエスパイロの低空飛行で飛び回りながら、度々足を止めてスナイパーライフルのスコープで空賊の動向を伺う。こちらに向かってくる動きがあればそちらの対処を最優先に。 基本的にこちらの行動を優先して行う 空賊の相手は一貫してパイロット狙い 瓦礫で姿を隠しながらエスパイロに乗ったまま狙撃、移動を繰り返す 接近を許した場合は同じく瓦礫を隠れ蓑にしながら背後に執拗に回り込むように動く 救難信号を捕捉した場合は周囲にそのことを知らせてその場を離れる 空賊のエスパイロを動かせる状態で鹵獲でき、まだ瓦礫が退かせていない場合、それを操縦して瓦礫の前に持っていき銃撃し爆破する
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避難民の救助…か 特に瓦礫が邪魔みたいだね…そこらへんに長い棒でもあれば、てこの原理でどかせそうなんだけど…無理かな? ただ、ワタシ一人じゃ何の助けにもならないんだよね… 流石に何の覚悟もない一般市民を見捨てるわけにもいかないし、頑張らないと とりあえず、アニマ同士で連絡が出来るんだっけ?人が集まっていそうなところに移動が先決かな アニマには常時連絡できるようにしてもらって移動を始めよう そこで人に会えたら、方法を伝えよう ああ…もし救助された人の中に重傷がいれば、治療をしたいんだよねェ ヒヒヒ…試したいことが沢山あるんだよ マッドドクターってクラスは本当にワタシに合ってると思うんだよね 簡単な処置をするだけでも、助かる命がある 間違った知識は怖いから、できる限り一番いい方法で治療をしないと ワタシは実験台を減らさないためにも、治療に手を抜くことはないよ さァ、治療を楽しもうか
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ビル山へ空艇で低空で近づき(火災と空賊避け)入力端末とアニマで被災者との連絡を取る。 一応CHR10あるので対話は安心と信頼を得つつ速やかにこなせれば良いかなと。 そしてビル山のどの方面からの救出が適切か早急に解析・回答を出し(INT10で如何か)救助活動へとつなげる。 あと、瓦礫撤去で期待できる肉体派がメンバーにいない事に戦慄しつつ被災者に助力を頼む。 救助中は被災者との連絡をメインに、メンバーと協力しつつスキル・エクステリアメルトで壁・瓦礫を弱体化して他の方に撤去してもらう。 被災者の方にも魔法は打てるので状況で使用する。 なおマーカーは四葉のクローバー印。 空賊は基本他の方にお任せしたいが必要ならマジックミサイル。 火災はスキル・エクステリアメルトで弱体化で燃えるものを潰して失火ぐらいしか思い浮かばない。 空挺に乗っているので救助で艇を生贄にする事も出来るし被災者を乗せる事も可。
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☆人命最優先 ・可能な限り重傷者も救助 ・仲間や周囲の人々と連絡を取り合い、協力できるようにしておく ☆エスバイロのCr33「ブリスコラ」を操縦 ・周囲の瓦礫と接触、または振動などで崩れないよう慎重かつ素早く走らせる ・瓦礫に邪魔されない空中から、被災者やアニマのSOSを受け取れるように探す ☆救助 ・正確な位置を探る ・被災者が見つかれば外部、内部の状況を伝え合う (負傷者の状態や内外の人数など人に関する情報や、外から見たビル壁の危険度・迷路のマッピングなど出来そうな範囲で) ・放置された車があるが、負傷者を乗せられないか?など被災者や仲間にも脱出のアイデアがないか聞いてみる ☆空賊 ・出来るだけ見つからないようエスバイロを操縦 ・可能ならスパイのスキル、サイレントムーブも使う ☆アニマ ・無理のない範囲で通信や操縦のサポートをお願いする
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参加者一覧
リザルト
燃え盛る炎と見上げるような瓦礫の山。
近づくにつれて肌が焼けるような感覚が増してくる。炎は周囲に燃え移りながら大きくなりつつあった。
空挺で現場に近づくことはできるが、真上にいては立ち昇る炎と煙によって人の身では耐えられないだろう。
間近に見る惨状に『ミズーリ・T・ヘレン』が憤る。
「全く、好き勝手にやってくれちゃって……!」
「今は落ち着いて、救助が先よ」
ミズーリのアニマである『アスラル・ライサ』は悲惨な状況に泣き出したい気持ちを堪えながら、今はミズーリをなだめることしかできない。
周囲に人影は見当たらない。救難信号があったのはビルの密集地であるこのあたりだが、すでにかつての景観はなく土地勘は働かない。
『ラルフ アレンス』がアニマの『ジュア』と共に、早速被災者の捜索を開始する。
アニマはその実体であるアニマリベラーが主人の体内にあり、視界なども主人と共有している。物を直接動かせるわけではないが、代わりに主人が気づかなかったものへ気づくことができるし、周囲に通信できるものがあれば扱うことができる。
必要があればアニマ固有スペックのフィードバックにより、主人に超人的な能力を与えることができる。
それは救助においても非常に役立つのだ。
「救難信号はこのあたりだった。この瓦礫の山のどこかにいるかもしれない」
「そうですね。ここを中心に捜索しましょう」
ラルフの言葉に『ロゼッタ ラクローン』が同意する。
ロゼッタはアニマの『ガットフェレス』のサポートを受けながら、空挺で低空飛行したまま周囲を飛び回る。
現場の広さも理由だが、近くに行きさえすれば被災者と通信できる可能性が高いからだ。
『ヘリファルテ』と『森塚ころな』も空挺での捜索に加わり散開する。
別行動となるのは医者である『アリシア・ストウフォース』とミズーリだ。
アリシアは周囲を調べ、被災者を救助した場合に備えて簡易的な避難所となる場所を探す。避難所の目処がつき次第、救助に加わる予定だ。
そしてミズーリは銃のスコープも使いつつ周囲の警戒。みんなと同じように飛び回りながらも、その意識の大半は空賊や市街の混乱に向けられている。
最初に被災者を見つけたのはロゼッタだ。
瓦礫の山の中腹で、煙に追われている被災者たちと通信できたのだ。
混乱する被災者たちからなんとか話を聞き出して状況を把握する。
そして、まだ取り残されている人々が多数いることを知る。
「重傷者のいるグループは下に向かったんだ! そっちも頼む!」
必死の訴えかけに手際よく対応しながら瓦礫内部の状況をつかんでいく。
情報は迅速に仲間に伝えられ、ラルフとヘリファルテが下へと向かう。
周囲では炎の勢いがさらに強くなっている。
どう行えば内部の人々が窒息する前に瓦礫撤去できるのか、どこから撤去すべきか。情報が足りず答えは出ない。
アリシアところなが応援に来たが、崩れずに残ったビル壁にどうすることもできない。
この現場に力仕事の得意なメンバーがいないことに戦慄を覚えながらも、ロゼッタは知恵を働かせる。
ころなが中の人々と連絡を取り合っている姿を見て、ロゼッタの目が輝いた。
「中と外、両方から都合のいい場所を探そう」
被災者たちに周囲を調べてもらい、出られやすそうな場所を探してもらう。
瓦礫の山は上にいくほどビル内部の形を残しているため、移動に不自由しないはずだ。無闇に瓦礫撤去をするよりずっといい。
内部からの探索により、都合の良さそうな場所は発見された。
「ここからなら他の場所と違って壁一枚で塞がっているだけかな」
そこへ周囲を探索していたアリシアが空挺に鉄骨を積んで戻ってくる
「棒を持ってきた。てこの応用でどうにかならないだろうか」
「試しましょう」
ロゼッタたちは被災者たちを安全な場所へと誘導し、隙間に差し込んだ鉄骨を空挺で引っ張り上げる。
出口を蓋のように塞いでいた瓦礫はその重さで抵抗したが、色々と試しながらも瓦礫を撤去することができた。
撤去した場所からは煙がもうもうと立ち昇る。上へ逃げた被災者たちは大量の煙と共に救助された。
「ワタシは救助者を安全な場所へ連れて行こう」
医者のアリシアは被災者たちを連れて仮設の避難所へ向かう。今のところ治療が必要な人はいないようだが、助かった人が休める場所は重要だ。
ころなはまだ見つかっていない被災者を探すために再び空挺を飛ばす。
残ったロゼッタは、勢いを増していく炎と瓦礫の山から立ち昇る煙を見つめる。
風下には他の建物もある。町に燃え移ったら余計に手がつけられなくなるだろう。
火の勢いを弱める必要があるのだ。
ロゼッタは手始めに周辺の燃えやすいものを先に壊すことで被害の拡大を防ぐことにした。原始的だが確実に効果のあるやり方だ。
空挺に乗り込むと、ロゼッタは炎と戦うため飛び出した。
折れ残ったビルの柱が木々のように突き立つ中、ラルフとヘリファルテが瓦礫の山を下っていく。
ラルフはどこかにいるはずの被災者へ大声で呼びかけ続けている。
ヘリファルテも声を上げながら、小さな声やどんな通信も逃さないように注意している。だが下に向かったはずの被災者からの反応を見つけられずにいる。
いるはずの被災者の返事がない中で救助するのは想像以上に神経を削られる。
ラルフは焦りそうになる心を自らの大声でかき消す。返事のないままどんどん下っていく。
そんな中、町が揺れた。どこかで何かあったのかもしれない。
瓦礫の山のバランスが崩れ、倒れずにいたビルの柱が一気に倒れてくる。そのうち数本はヘリファルテに襲い掛かった。
ラルフが何か叫んだが間に合わない。
体の芯まで響く轟音。
細かい破砕音もあったかもしれないが、柱の落ちる音で全てかき消えている。
と、巻き上がった砂埃の中から空挺が飛び出した。
「『ペルラン』ありがとう。今のは危なかった」
ヘリファルテは無事だった。アニマのサポートでなんとか巻き込まれずに済んだのだ。
「救助に夢中になりすぎだよ。まだ崩れそうなものが多いから気をつけてね」
周囲からヘリファルテに安否確認の通信が来るが、混乱が広がらないよう何事もなかったと返事する。
そしてラルフに合流してさらに瓦礫の山を下っていく。
瓦礫の山の下層で被災者は見つかった。
ラルフとヘリファルテの呼びかけに返事があったのだ。
ヘリファルテは被災者の人数や状況を聞き取りつつ、外部から見た状況を伝えていく。
被災者たちはまだ使える非常口を探しているそうだが、中からでは崩れている場所が多すぎて出口が分からないらしい。
「とにかく火がすごい。蒸し焼きにされそうなんだ」
被災者たちが火にまかれるまで時間がない。重傷者もいるようなので動きも制限されている。
そんな中、最初に動いたのはラルフだ。
ヘリファルテに内部の人たちの誘導を頼むと、ラルフは周囲の状況を見ながら非常口を探す。
だがしかし。
「非常口が、そんな……」
非常口はあった。しかし、大小様々な瓦礫によって扉が半壊し、半ば埋もれている。
被災者がもし非常口にたどり着いても、ここから出ることは不可能だ。
掘り出せるわけがない。
だが、他に出口になりそうな場所はどこにもない。
ラルフから連絡を受けたヘリファルテは別の出口や壊せそうな壁を探すが見当たらない。
先ほどの揺れで色々崩れていたようで、被災者たちは道を戻ることができないらしい。だからもう選択肢はどこにもない。
「移動をお願いします。今から下の非常口へ誘導します」
僅かな可能性に賭け、被災者たちは移動を始める。
ころながその通信を聞いたのは、火勢の強い場所で取り残されている被災者がいないか探している時だった。
見張りをしているミズーリの淡々とした口調が、氷のような闘争心をともなって耳に響く。
「来た。空賊のエスバイロが二機。アイツらはボクが潰す、構わないね?」
ミズーリから送られてきた敵座標をアニマの『きょーこ』が指差す。
空賊がエスバイロでこちらに向かっているのが見えた。
仮設の避難所には被災者たちがいる。
さらには瓦礫の山の下部で見つかった被災者たちがまだ救助途中。炎の勢いは縮小するどころか拡大している。
救助の手を止めるのは馬鹿げている。もう時間は残っていない。
かと言って、ミズーリがたった一人で空賊二人を相手するのは無謀だ。何しろここには彼女の盾になれる者がいないのだから。
ミズーリが瓦礫に隠れながら狙撃を行う。
空賊たちの軌道に予測とのわずかなズレがあり攻撃は当たらない。むしろ存在に気づかれ、警戒されしまう。先制攻撃のアドバンテージが失われた。
空挺に乗ったまま狙撃を行うミズーリは瓦礫の影から影へと移動しながら攻撃を続け、空賊たちとの撃ち合いになる。
空賊たちの攻撃がミズーリの周囲を弾けさせる。今は遠いから助かっているが、もっと接近されては対応できないだろう。
迷っている暇などない。
「私が注意を引きつけますっ」
ころなは最も暑い区画から離れつつ、空賊の気を引くため空挺を一気に上昇させる。
見下ろすシティはひどい光景だ。空は焦げのような臭いが漂っている。
炎からかなり離れているが、それでも息をするたび肺の焼けるような熱気が身を焦がす。
時折、吹き付ける風が火照った肌に涼しさを運んでくる。ただ、それだけ。でもその風がころなの思いを強くする。
「私たちがこの空の自由を守らないと!」
空賊たちからの攻撃が迫る。
空挺を急降下させながら危ういながらも回避。
距離を取って注意を引くのだがここは空。低空で物陰に入れば隠れられるが、下から狙っているミズーリの援護をするためにも高度を保たなければならない。
激しい攻撃に晒されながらも高度を保ち、何度も危ない場面を乗り越える。
そんなさなか、空賊の一人が体に銃撃を受けて倒れた。
「残り一機」
機械のように淡々と告げる声、ミズーリからの通信。ミズーリは瓦礫の影から影へと移動しながら敵の隙をうかがっている。
数で有利になった。そう思った瞬間に激しい衝撃。
被弾した。残りの空賊の攻撃は的確にころなを捉えていた。
衝撃で投げ出されそうになるが、かろうじて空挺にしがみつく。
操縦どころではない。アニマのきょーこが遠隔操縦により空挺の姿勢制御を行うが、ころなを振り落とさずに飛行状態を安定させることは両立できない。
「勢いが抑えられません。落ちます!」
凄まじい勢いで迫る地面。
一人で空賊たちを引きつけることに成功した代償に、ころなは瓦礫の山へと墜落した。
「誰か救助を! 座標は……」
ミズーリはみんなにころなの救助を要請しながらも、残りの空賊と戦い続ける。
上空からの攻撃が瓦礫を砕いた。その破片が肩に当たる。痛みを感じる暇もなく撃ち返す。
激しい撃ち合いが続いた。居場所がばれているためミズーリが不利だ。
だが瓦礫を隠れ蓑にしながら執拗に背後へと回り込むことで攪乱することに成功する。
チャンスは一瞬。それを逃さずに敵を撃ち抜く。
「やっと落ちたね。自由だった空は……君らにはもったいないよ」
落ちていく空賊を見届けたミズーリは再び周囲の警戒に戻る。
まだ空賊は残っている。気は抜けない。
「ころなさん! 大丈夫ですかっ?」
瓦礫撤去を中断して駆けつけたヘリファルテが発見したとき、ころなは意識を失っていた。
あれだけ無茶をした上、空戦の高度から墜落したのだから、もしかしたら……。
そんなヘリファルテの不安は杞憂に終わったようで、大きな傷は見当たらない。墜落の仕方が良かったのだろう。
小さな体でなんとかころなを空挺に乗せると、落とさないよう慎重に飛ぶ。
瓦礫の山から少し離れると放置された車両が点在している。
「ペルラン、放置車両を起動させられる?」
「できそうだよ。救助に来る人が動かせるようにしてあるみたい」
荷台のある車を見つけたので、不安定な空挺から荷台へところなを移す。
「アリシアさんのところへ運ぼう。今は早く治療を受けてもらわなきゃね」
「分かった。車を起動するわ。瓦礫を踏まないように気をつけてね」
いつもと違う荒れた道を車が走る。
ほんの目と鼻の先にあるはずの仮設の避難所に着くまでが長く感じられた。
仮設の避難所でアリシアにころなを預け、怪我人がいたら放置車両で運べないかを提案したりしつつ、ヘリファルテは荷台に自分の空挺だけ乗せた車で次へと向かう。
少し離れた場所ではミズーリが警戒を続けている。何かあれば連絡が来るだろう。
目指す先はラルフとの合流だ。
ラルフは今も瓦礫撤去を続けている。
ヘリファルテが着いたのは瓦礫の山の下部、埋もれた非常口がある場所だ。
近づくと炎の熱気が感じられる、非常口のあたりにはすでに炎が迫っている。
そんな中、ラルフが滝のような汗を流しながら瓦礫の撤去を続けていた。
「状況はどうですか? って、瓦礫がほとんど退かされてる! すごい!」
「瓦礫はなんとかできた。中の方からも手伝ってもらってあと少しだ。ほんの少しなのに……非常口が歪んで開かない。あとこれだけなのに」
ヘリファルテがころなを助けに行った時点では瓦礫で埋もれていた非常口だが、今やその姿は完全に露出している。
ラルフはすでにアニマのジュアのサポートを受けながら、周囲の放置車両を使い、牽引ワイヤーで瓦礫を引き抜いたり、あらゆる手を尽くしていた。
だが非常口はくの字に歪んで瓦礫と一体化しているためどれだけ引いても動かない。
それでもラルフは諦めない。
今は非常口周辺の壁を掘ってみたり、中から引っ張ってもらったりしている最中なのだ。
被災者たちの声は扉越しに聞こえる。
「まずい、ここにも煙が降りて来た。早くドアをぶっ壊すことはできねえのか!?」
被災者たちの焦りにつられそうになるが、ラルフは冷静に対処しようと頭を働かせる。
暑さがひどい、意識が朦朧とし始めている。中の人たちも同じ状況で、体力は熱に奪われている。
爆破するか? だがここは瓦礫が複雑に積み上がっているところが多いため崩れるのが怖い。爆破は本当に最後の手段だろう。
瓦礫が撤去されているのは非常口周辺だけだ。今から他の場所を探して間に合うだろうか。
そんなことを考えながら周囲を見回すうちにラルフは気づく。ヘリファルテの車に。
救助者を運び出すために乗って来たのだろう。しかし他にも使えるはずだ。
「ありったけの乗り物で一斉に引っ張ろう。ジュア、遠隔操縦でサポートを頼む」
「いいけど、遠隔操縦する車もちゃんと見ててねっ。見えてないと操縦するのは難しいのよ」
ラルフはヘリファルテにも協力してもらい、ありったけのワイヤーで非常口に空挺や車をつないだ。力任せだが、非常口を爆破するより安全だ。
ラルフは被災者たちを扉周辺から避難させる。
「崩れないように最初はゆっくり行こう」
大きな力が加わり、非常口の壁がポロポロと崩れる。
しかしそれだけだ。
意を決したラルフは一気に非常口を引き抜きにかかる。
脆くなった壁の一部ごと非常口が外れ、周辺が崩れ始める。
息を呑むような一瞬の後、崩れは収まった。
中から被災者が出てくる。
ラルフは早く危険が残っていないか確認し、誘導しなければと思いつつも、一度だけ安堵のため息をついた。
仮設の避難所は大勢の人々でごった返している。
そこにラルフとヘリファルテの助けた人々も加わり、場は騒然としている。
アリシアは治療に大忙しだが、本人は嬉々として対応している。特徴的なのは小さな傷でも治療するところだ。
擦り傷で血が滲んでいるだけの怪我人が、これくらいツバでもつけておけば治ると治療を断っている。
「ツバでもつけとけば治るかもしれないねェ。でもワタシからはこの消毒液をプレゼントだ。痛がってもやめないよ。感染症は残酷だからね、こうして簡単な処置をするだけでも助かる命がある」
「心配性だな。面倒だって思わないのか」
「ヒヒヒ……治療の必要があるのかはワタシが勝手に決めるんだよねェ。それに治療というのは最高の遊戯だよ」
あまりにも無邪気な言い方に、怪我人がどう答えていいのか分からず戸惑っている。
「怪我の治療を受けていない人がいれば、ぜひとも連れてきて欲しいんだよ。怪我人が多くて困ることはないからね」
「わ、分かったよ」
怪我人はもうたじたじだ。
そんなアリシアのところへ重傷者が担ぎ込まれた。
「おい! 傷がひどいんだが……なんとか! なんとかならないか!?」
「ワタシは医者だ。重傷者を見捨てるわけにはいかないねェ。『ラビッツ』、楽しい楽しい治療の時間だ」
傷を見たアリシアが嬉しそうに唇を歪める。
災害時によく使われる簡易手術室セットで即席の手術台を用意し、手術道具をきらめかせる。
「……痛がってもやめないよ? 治さないと大切な患者が減ってしまうからねェ?」
悲鳴、悲鳴、絶叫。
傷はどんどん治される。
ここはアリシアにとって天国らしい。
目覚めたばかりのころなが、救助した人たちに他の救助者がいないかを尋ねている。
だが特にいないようだ。近くで治療を続けているアリシアが手を止めずに反応する。
「治療が終わったら次の現場へ向かいたいねえ。きっと、どこも怪我人で一杯だろうからね」
今後の救助について話し合うため、警戒を中断してミズーリが戻ってくる。周囲に敵影はなく、少し緊張が抜けているようだ。
「まだ混乱は続いてるみたいだね。助けが必要なところは沢山あるみたい」
みんなで集まり相談していると、火が燃え広がらないよう消火に行っていたロゼッタが戻ってくる。
「こっちも終わったよ。火がすごくて大変だったんだからね」
「素が出かかっているわよ。自分を褒めずにみんなを褒めなさい」
上品な雰囲気を醸し出しながらロゼッタに注意するのはアニマのガットフェレスだ。
ガットフェレスからしきりに合図を送られながら、ロゼッタは猫を被り直す。
もちろんアニマの姿は見せようと思わなければ他人に見えたりしないので、やり取りは二人だけの秘密だ。
ロゼッタは姿勢を正すと、にこやかに微笑む。
「お疲れ様。みんなの力があったからこそ成し遂げられたね」
芝居がかった言葉に、みんなが頷いた。
背後では天を焼くような炎が瓦礫の山を覆い尽くしている。
あの中に取り残されていたらこの場の被災者たちはみんな死んでいただろう。
目の前には助かった人々がいる。
それはみんなが全力を尽くしたから救うことができたことなのだ。
依頼結果
依頼相談掲示板