あの日の思い出pnkjynp GM) 【難易度:とても簡単】




プロローグ


 俺の名前は平凡(たいらぼん)!
 何事も一人称視点で誰かに語り掛けるように考えるのが好きな、ごく普通の高校生! 
 ……のはずだったんだが、どうやらそうでもないらしい。
 
 ある日異世界より召喚された夢を見た俺は、気づけばこの不思議な世界に転移していた!
 右も左も分からないこんな場所。周りの人に相談してみたはいいが、誰もまともに取り合ってくれない上に、気づけば【自称異世界人】なんてあだ名が付いちまった。

 まぁ幼馴染で可愛い同級生なんてものはいなかった俺には、またとないチャンスだ!
 ここは開き直って心機一転、名前も変えて新しい世界を満喫だぜっ!




 というわけでこの世界に馴染むため探究者になった俺だったが、依頼をこなすうちに気づけばもと居た世界と何ら変わらぬスローライフを送っていた。

(どうしたのご主人様? 今日はお疲れなのかな?)

 訂正しよう。
 俺はこの世界に来て、大きく変わった事がある。
 それは【自分の嫁】が出来た事だ。

(どうしよう、取り敢えずお茶入れるからっ! 待っててね!)

 そう言うと俺の嫁はキッチンの方へ、とてとてと走っていった。
 あいつはいつも俺の側にいて、俺の為に何でもしてくれる。
 まさに嫁のような存在、その名をアニマというらしい。

「いや~気が利くねぇ~」

 目が覚めた時既にこの世界の住人だった俺は覚えていない話だが、この世界の住人は6歳になると、イニシエーションとかいう制度でアニマリベラ―とかいうビー玉みたいなカプセルを体内に埋め込むそうだ。
 その手続きを経て旅団の市民として登録されると、各種制度が利用できるようになる。

「移動も買い物も通信も……何でもアニマ任せに出来るから楽でいいよな。おまけに体内にデバイスがあるから落とす事もないし!」

 アニマリベラ―の役割は多種多様だ。
 例えば電話を掛けたりチャットで文章を送ったり情報を調べたり……その辺りは旅団が提供するネットワークを介してほぼどこからでも可能だ。俺の世界で言うスマホみたいなものだな。
 
 それだけじゃない。
 買い物の支払いも、銀行の資金管理もしてくれるから財布もカードも必要ないし、普及している電化製品はほとんどアニマリベラ―に対応してるから、自分がそうしたいと思えば、誰もいない部屋の電気をつけたり自動で風呂を沸かす事も出来る。
 だがこういった遠隔操作は、自宅のような、自分のアニマが特別その空間を制御できるような場所じゃないと、せいぜい10mくらいが限界だ。
 それに物理的距離があると通信が不安定になるしな。過信は禁物だ。
 これだけ立派なシステムがあると、俺の世界じゃハッキングし放題だと心配になるがそこは対策バッチリだ。
 さっき例に挙げた旅団が関連するオープンなネットワークを除いて、基本的に外にあるシステムや機器に介入することは不可能。まぁ直接それに手を触れアクセスしプロテクトを突破したなら話は別だが。
 
 さて、ここまで色々リベラ―の凄さを語ってきたが、今度はアニマについて考えてみようか。
 【アニマ】は、簡単に言えばリベラ―にインプットされたホログラムデータということになる。
 と言ってもただ動作を視覚的にアナウンスするだけの機械的ものじゃない。
 アニマにはそれぞれ人格があるんだ!

 例えば俺のアニマはかなり優しい。
 アニマには何か事件があれば俺を起こすように命令してあったんだが、先日のブロントヴァイレス事件の際には、俺が余りにもスヤスヤ寝ていたものだからそのままにしておいてくれたそうだ。
 まぁ気持ちは嬉しいんだが、これ下手すると俺死んでたんじゃ……と、それは置いといて。
 
 これにはアニマの性格もあるが、俺が予め起こすか起こさないかの決断をアニマに委ねているという事も理由の一つだ。
 彼女達は独自で重要な判断・決定は出来ない。そういう意味ではちょっと機械的……なのか?
 まぁ、つまりそうだな……リベラ―の動作を制御してくれる感情を持ったAIってところか。

(ご主人様~! お茶入ったよ~!)
「おう、今いくよ!」

 まぁ細かいことはどうでも良いか! 
 俺が世界の中心かの如く、献身的に支えてくれる存在がこんな身近にいるなんて! しかも可愛いぃ!
 これだけでも、宿主のメンタルヘルスケアに大いに役立つな!

「まぁ……本当に【俺の】嫁、なんだけどな」

 ただこのアニマ、俺の居た世界の嫁とは大きく違うことがある。
 それは、この嫁は俺にしか見えないということ。そして俺を含む誰もが触れられない、ということ。この二点だ。

 先程俺は【とてとて走る】という表現をしたが、これには語弊がある。
 実際は【とてとて走っているように見える】というのが間違いのない表現だ。
 彼女の体は、ホログラムとして背景が透けるように見えている。
 まぁ何というか……この見え方はある意味幽霊に近いものがあるかもしれないな。
 それも仕方ない。この姿はあくまでアニマリベラ―が俺の脳内にだけ映像として見せているものだからだ。そして遠隔操作でお茶を入れられても、最後にコップを手に持つのは俺自身だ。
 あ、ちなみにこの脳内映像はいわゆる妄想に近い。体つきから着ている服まで自由自在に……ムフフ。

「ズズズ……あぁ、今日もお前が入れるお茶は美味い! 元気百倍だ!」
(えへへ~! 元気になって良かったっ!)

 こうしてアニマと話す様は、はたから見れば遠隔操作で入れたお茶を自画自賛してるという恐ろしい状態となる。
 いや、アニマが俺を気遣っていれてくれたお茶だ。美味いのは間違いないのだが。
 なので心の中で念じるように話す念話によってコミュニケーションを取る人も多いだろう。
 
 だがこれほど愛おしい存在を自慢せずにいられるだろうか、いや、いられない。
 そのため、アニマを【オープンモード】という形で起動させることで、他人にもホログラムが見えるようにする方法がある。
 まぁこれをするには、追加データの入ったチップをアニマリベラ―にインストールさせなきゃいけないけどな。
 だが、そうすれば他人にアニマの姿を見せる事が可能だ!
 チップも多種多様で髪型や服装、おまけに声データまであるとは……!
 俺はまだ何も購入していないが、チップの組み合わせは無限大! 夢は膨らむな!

(あっ、ご主人様! そろそろデレルバレルに行く時間だよ!)
「おっ、わりぃ。じゃあエスバイロにエンジンかけといてくれ」
(あいあいさ~!)

 さて、そろそろ探究者として輝く時間がやってきたかな?
 
 俺はそうつぶやくと、探究者達が集まるデレルバレルの支社へと向かう準備をする。
 アニマといちゃいちゃするのも大切な事だが、アビスとこの世界の謎を解き明かし、人類の未来を切り開く事も俺達の立派な使命なのだっ!

 さぁ、俺達の戦いはここからだぜっ!










 と。今日も元気な若者が、これまた元気なアニマを連れて冒険へと出発していきました。
 彼らの愛の冒険記はこれから刻まれていくことになりますが、それは皆様も同じこと。
 ですが皆様が彼と違うのは、この世界での思い出が既にあることです。

 ただ、ちょっと記憶があやふやな部分もあるかと思います。
 アニマとの思い出や世界に対して思う事・知りたい事、どうして自分が探究者になったのか……。
 時には思い出を振り返ってみるのは如何でしょうか?


解説


 今回は各PCに焦点を当てる日常エピソードとなります。
 協力や作戦は必要のないものですので、お気軽にご参加ください。

 まずはこちらのテンプレをご覧下さい。
 【・時
  ・場
  ・誰
  ・何
  ・理
  ・味     】

 今回参加される皆様には、こちらに沿ってプランを作成して頂きます。
 そのプランを参考に、記載された内容に応じてオリジナルショートストーリー(OSS)を作成します。
 ゲームの世界感上採用できないプランを除きまして、プラン採用の上ほぼアドリブの形になりますので予めご了承ください。

 A:各項目について
   テンプレの各項目は、詳細な程皆様のご想像に近いものに出来ると思います。
   分からない、埋められない場合は空白で構いません。
   以下項目別解説になります。

  ・時 OSSがいつ頃の出来事か、です。
     二度目の歴史にてブロントヴァイレスを撃退し平和が訪れたこの時を今とし、どのくらい過去の出来事かを記載下さい。未来も可ですが、その場合は確定した未来ではなく夢オチとさせて頂きます。

  ・場 OSSの舞台となる場所、です。
     具体的な旅団名でも良いですし、水の流れる場所など抽象的でも構いません。

  ・誰 OSSの参加者、です。
     基本的にはPC本人とアニマになりますが、このエピソードに一緒に参加しているPCであれば、共通の思い出として指定出来ます(いわゆるGAに当たります)。

  ・何 OSSで何があったか、です。
     戦闘、捜索、ただの世間話、パーティー等々、出来事の種類をご記載下さい。

  ・理 OSSは何故起きたか、です。
     巻き込まれた、放っておけないなど、心情や行動の目的に近い部分です。

  ・味 OSSがどういったお話なのか、です。
     喜怒哀楽や甘い、酸っぱい等、OSSの方向性をご記載下さい。

 アニマの可能な行動についてはプロローグをご確認ください(今後世界の成熟により変わる可能性があります)。

 プラン・フレーバーに空きがあればセリフ、人称や語尾の補足など口調関連を補強して頂ければ幸いです。


ゲームマスターより


 ※解説捕捉
 B:戦闘面におけるアニマ
   戦闘時アニマが出来る事にセンシブル(才能解放)がありますが、これは何に作用するかで呼び名が3つに分かれます。
   その内エンチャットとオーバーチューンはPCが直接触れていないとできません。これは同化も同じです。
 C:魔装化について
   魔装化はアニマの能力ではありません。
   簡単なイメージで言うと、アニマがインプラントによる演算能力向上とすれば、魔装化は肉体の直接改造です。
   混同しないようご注意下さい。※



 ここまで長々とお付き合い下さりありがとうございます。
 皆様が世界を救って下さったおかげで、戦闘以外の楽しいことも出来るようになりつつあります。
 折角この世界に生まれた新しい命、まずは思い出という栄養で豊かに育んでみては如何でしょうか?

 描写量はプラン量に比例しますが限界はあります(多くて1人当たり800~900字)。
 自由設定がどこまで採用されるか試すも良し、アニマとイチャコラするもよし、世界の謎に触れようとする硬派な物語も大歓迎です! ただ、力の入れ処にはご注意下さい。

 皆様がこの世界に愛着を持って頂く第一歩となるよう、誠心誠意描かせて頂きます。どうぞ宜しくお願い致します。



あの日の思い出 エピソード情報
担当 pnkjynp GM 相談期間 3 日
ジャンル --- タイプ EX 出発日 2017/8/7 0
難易度 とても簡単 報酬 なし 公開日 2017/8/17

 ロベリア  ( アーモンド
 デモニック | 魔法少女 | 13 歳 | 女性 
・時 第二回崩壊の始まり前

・場 自分の部屋

・誰 ロベリア、アーモンド (ロベリアの親友:デュランタ)

・何 第一回での世界線。
   ヴァイレスに襲われたロベリアを助ける為親友デュランタは全ての力を使いきりロベリアを救い死亡。
   それがきっかけで、ロベリアは絶望し暗い性格になる。
   1年後、正面攻撃部隊としてブロントヴァイレスに挑む。
   世界線が変わる。
   目が覚めたのは崩壊し無くなったはずのログロムでの自分の部屋。
   親友の事を思い出しすぐに調べるが死亡ではなく行方不明扱いになっている。
   竜の討伐戦には参加しようとは一度思ったが、
   デュランタのことが心配で参加せずに布団の中でしばらくふさぎ込み苦悩する。

・理 親友がいたからお互いを信じて頑張れた。
   親友が死んだから自分を殺して頑張った。
   親友が生きているのなら…?

・味 親友の生死の苦悩、自分が今後戦う理由の苦悩
 ロゼッタ ラクローン  ( ガットフェレス
 ヒューマン | ハッカー | 16 歳 | 女性 
時:数ヶ月前ぐらい
場:アカディミア特設ライブ会場にて
誰:ロベリアさんとか
何:エンジェルボイス航空団のコンサート
理:激戦チケット、当選
味:コンサートを楽しんで楽しんでライブ後にネットでハッカー的に盛り上がりたい

職業ハッカー故にこっそりばれないようにハッキングしつつコンサートを楽しみます

参加者一覧

 ロベリア  ( アーモンド
 デモニック | 魔法少女 | 13 歳 | 女性 
 ロゼッタ ラクローン  ( ガットフェレス
 ヒューマン | ハッカー | 16 歳 | 女性 


リザルト


●新世界の贈り物
「わぁーっ!?」

 飛び起きた少女の名は【ロベリア】。
 パジャマは汗に濡れ、心臓は早鐘のような鼓動を打ち続ける。

「はぁ、はぁ……」
 
 恐ろしい夢を見た。
 滅んだ旅団、人々の結集、恐怖と焦りに満ちた咽かえりそうな空気。
 迫る最後の戦い、どんな小さな力も必要だから……だから私はそこにいた。
 私は頑張ろうとした。でも怖かった。だからなけなしの勇気を振り絞ったんだ!
 デュランタ……今だけ力を貸して!

(ロベリー、大丈夫? ロベリーってば!?)
「へっ!? ……あ、ゴメンねアーモンド」

 アニマ【アーモンド】の呼びかけに意識を取り戻すと、力なく笑いかける。

(ううん。それより凄い汗だよ? 体は普通みたいだけど……)

 心配したアーモンドはすぐさま彼女を検査する。

「怖い夢見ちゃっただけだから……大丈夫」

 そういうとロベリアは、着替えようとタンスへ歩いていく。
 下着は二段目。タオルは三段目。
 赤い宝石が正面に煌めき、後ろが二股に分かれた帽子もここにある。
 分かれた先に結んだ青いリボンは特にお気に入りだ。
 それからクローゼットでワンピースに着替え、身支度をし、毎日気分にあった帽子を被ると、大好きな友の元へ出かけていく。
 それが彼女の日常だった。ほんの1年前までは。
 
「……あれ?」

 しかし、彼女は今の状況がおかしい事に気づく。
 ここは長年住んでいた技術旅団ログロムの家だ。
 だが既にこの場所はブロントヴァイレスの襲撃を受けもう存在していないはず。
 それは夢の話……なのだろうか。

(ロベリー見て! 外の様子変だよ?)

 窓に近寄るロベリア。
 眼下には緊急時の軍備体制を整えるため、慌ただしく行き交う人々。

(きっとあのバケモノを退治しようとしてるんだよ! あれ、でも私達確か負けちゃって……?)

 首をかしげるアーモンド。
 夢を知っているのは自分だけじゃない!
 異変を感じたロベリアは情報収集の為、町へと飛び出していく。


 ~~~


「……あった」

 肩で息をするロベリア。調べてみれば、彼女が参加した龍との戦いは、何故か全て無かった事になっていた。
 もしその影響で旅団が崩壊を免れたのならば。
 推測通り、目の前にはかつて自分のために死んでしまった親友、デュランタの家があった。
 デュランタはログロムでは珍しい家系の生まれで、代々魔法少女として平和の為に尽力してきた家柄である。

「今行くからっ!」

 彼女の両親は、旅団領域外の人々を救う旅で家を空ける事が多かった。
 一人でいる親友を気遣うロベリアは、よくここに遊びに来ており合鍵もある。
 玄関の扉を開くと、彼女の部屋へ階段を駆け登った。
 あの時失われた家が元に戻ったのだから。
 あの時の笑顔はきっとそこに。

「デュランタ!?」

 待っていたのは埃を被った昔と同じ質素な部屋。
 魔法書は整頓され、布団は部屋の隅で小さく畳まれていた。

「そう、だよね……」

 やはり元に戻ったのは龍による被害だけだったのか。
 ロベリアは何か惹かれるように数歩、部屋に入ると布団へ倒れ込む。
 それを優しく受け止めるのは、デュランタの枕。
 抱きしめると、微かに彼女の香りを感じられる気がした。
 顔を埋めれば、溢れ出る涙と声が彼女の抜け殻へと沁みていく。
 沁みれば沁みる程、ロベリアの中には彼女との想い出が広がっていった。
 
「デュランタ……私、どうすればいいの……?」

 思えば私はいつも泣いていて。いつも彼女は守ってくれた。


 ~~~


「どうしてこの子をイジメるの!?」
「だってこいつ、頭から変な角生えてんだぜ」
「私にも角はあるわ。そんなに変?」
「お前のはデモニックらしくてかっこいいし、魔法も上手だから別だよ。な?」
「そうそう。でもこいつは魔法も出来なきゃ何の技術もないじゃん! 弱っちくて、ログロムの恥さらしだ!」
「彼女の事何も知らないくせに、イジめる方が恥さらしよ!」
「なんだとー!?」

 涙で歪んだ視界には私を虐める三人組を相手に、たった一人で喧嘩してくれる女の子がいた。
 ひっかいて、叩いて、叫んで。当時5歳の子供達には精一杯の……意地のぶつけ合い。
 揺れる紫の髪は、とっても綺麗に見えたっけ。
 
「大丈夫? あんなのが言う事、気にしちゃダメ」

 男の子の泣き声が遠のいていき。
 ひっかき傷で赤くなった手が差し伸べられる。
 
「ロベリアちゃん、だよね? 私デュランタ。いっつもご本読んでて、勉強頑張ってるなーって思ってたんだ。良かったら、私とお友達になってくれないかな?」

 本当は絵本だったんだけど。
 握り返した手はすっごく熱くて。 
 それが初めての触れ合い。


 ~~~

 
「ほらロベリー。早くしないとおいて行っちゃうよ?」

 学校の研修旅行、沢山の生き物が集まる浮島で二人っきりの班行動。
 いたずらっぽく笑う彼女は、必ず待っていてくれた。
 彼女には生まれ持った才能があった。魔力も、知恵も、立派な角も。
 私に無いもの、全部持ってた。

「そんな事ないよ。例えば……」

 み、見ちゃダメ!

「ロベリー。確かに貴女のは、この浮き羊さんに似た珍しい角。他の子とは違ってるよ?」

 ……

「でも私は貴女のその角が好き。羊さんみたいにちょっと怖がりだけど、羊さん以上に可愛いくて、もふもふで、他人思いで……そんなロベリーが大好き」

 わわっ?!

「ほら。ロベリーはこんなにあったかい……私の持ってない素敵な優しさ、もっと皆に知ってもらいたいな」

 イジメられるの……怖いもん

「じゃあ、探しに行こうよ。本当にロベリーの事分かってくれるお友達」

 ええっ!?

「私、卒業したら魔法少女になるの。皆の笑顔の為、平和の為にこの空で生きていく……そしたらここに居られなくなる。でも、ロベリーを放っておけない! 離れたくない!」

 初めて見た、涙。
 抱きしめる腕に入る力のせいかな。
 震えてた。
 だから、私も抱き返した。

 それからも沢山話して、沢山泣いて。

 私達は将来の誓いを立てた。

「ロベリー。いつか一緒に、皆を笑顔にできる……優しい魔法少女になろうね」

 立派な魔法少女を目指して、私達は冒険をした。
 彼女には決意があって。私はそれを支えていたくて。
 いつも側にお互いがいた。


~~~


「じゃーん! ロベリーにプレゼント♪」

 お帽子?

「うん! 角が気になる時は、それで隠せば可愛い普通の女の子だよ」

 あ……ありがとう!

「いつか、ありのままで居られるようになるまでの……私からのお守り。大切にしてね?」

 うん!

「じゃあ今日も行こっか。私が絶対、ロベリーを守るからね」


~~~


「ロベリー逃げてっ!」

 あの時、初めて彼女を信じきれなかった。
 いつも守ってくれた貴女を。
 目の前に突如現れた黒い靄。異形の存在。
 ただ、それが怖くて。

「もしかして足が竦んで!? ……くっ!」

 それでも……諦める私の前には変わらない貴女がいた。
 
「この笑顔だけは……守ってみせるっ!」



 バタン。
 音を立て何かが落ちた。
 それはロベリアを現実へと引き戻す。
 丁度良い。これ以上罪を見たくない。
 のろのろと起き上がると落ちた書物を覗き込む。
 それは彼女の、あの日の日記。

『ロベリー。何も言えずにいなくなってゴメンね。
 大好きな貴女の為に、ちょっとだけ旅に出てきます。
 絶対帰って来るって約束するから。頑張るから。
 ロベリーも泣かないで。笑顔でいてね。
 心はいつも、貴女の側に』

 その文面にたった今使い果したはずの涙がこみあげる。
 それは彼女が、あの日ここを旅立ったという証。
 歴史は、変わっていた。

「デュランタっ……生きてっ……?!」

 泣いて泣いて泣いた先に。
 時を越えた二度目の約束を胸に。
 彼女は再び、魔法少女になる事を誓った。







●あるハッカーの記録
 アカディミア特設会場にやってきたのは【ロゼッタ ラクローン】。
 握りしめるチケットには『エンジェルボイス航空団 空色ジュエリー特別ライブ』の文字。

 1枚だけ当選した倍率千三百倍の激レア物だ。

「今日は楽しませて頂きましょうかね~。ウッシシ~!」
(全く。其方の野心が透けて見えるようだよ)
「そう? ライブが楽しみで仕方ない、フツーのお姉さんなつもりなんだけどなー」
(良き催しである事は否定しないが。精々私が気を遣う事にしよう)

 ほんのり素が漏れ出している彼女をたしなめる、アニマの【ガットフェレス】。
 黒髪ときっちり着こなしたスーツが似合うクールな美男子。そんな見た目だ。
 漂う品性、行動の隅々に感じさせる教養。一風変わった言葉使いはミステリアス。
 それらは残念ながら、女性を魅了する為でなく専ら主人のこういった部分を隠す為に用いられた。

「そんなに尽くされたら、私惚れちゃうかもかも~♪」
(ふざけた事を。アニマに男はいないだろうに)
「ぶー。ムード台無し」
(さ、受付だよ。スイッチを入れてくれるかな、ご主人様?)
「……ええ。かしこまりましたわ♪」 

 揶揄いに反抗するようお嬢様言葉を使うロゼッタ。
 彼女は巷では所謂常識人で通っていた。普段人と関わる時では、ガットの言葉を合図に猫を被るのだ。
 無事に手荷物検査も済ませ、開始されたライブをしばし楽しむ。

「流石アイドル。歌を聴いてるだけで、テンションが上がっていく! って感じね」
(ふむ。歌を聴いた者は新陳代謝の活性化がみられ、精神値も高い水準で維持されている。他者を鼓舞する力だけで軍を名乗るのは伊達じゃない……といったところかね)
「この歌、データ的に詳しく調べられるの?」
(状況次第かな。今はこの施設機材にかかったプロテクトの影響で、音波を直接解析する事は出来ないのだよ)
「今の分析は?」
(五感は其方と共有しているからね。あくまで主人のデータから導き出す推論の域を出ない)
「ふ~ん」
(感情に関係する部分は特に数値化が難しい。それが完璧に出来るなら、それこそ他者を操るような武器さえも作れてしまう)

 どうしようもないと言わんばかりに、首を振るガット。

(勿論、相手からデータとして提示があれば別だが)
「なるほどね」

 歌の合間にはトークパート。
 最近話題になるのは、メンバーのアレッサが飼い始めたペットのピルピムだ。

「でたでた! あの子可愛いよね~」
(……これはまた、随分と珍しい)

 件の生物。
 今は『アレッサちゃん(のペット)に(サイリウムの電力を)吸ってもらえる権利』という酔狂な企画の為、ファンから電気を吸収中だ。

「へ~。ほっぺが赤く光るんだ」
(電気が好きな割に、吸い過ぎると痺れて動けなくなる。難儀なものだ)
「あの子、最近拾われたって話だけど、そういうもの?」
(自然界においてはほぼ絶滅品種。一般的には考えづらい)
「……なら、そっち方面から探ってみようかな」
(こうなると思っていたが……仕方ない、付き合うとしようかね)

 ライブが終わり人々が興奮を胸に帰る中、ロゼッタは1人逆方向へと消えていった。


~~~


「さ、一気にいくね」
(了解。センシブル……起動)

 ロゼッタの体には一瞬電流が流れるような感覚が走る。
 これは主人自身や主人を通して触れる物に、多様な効果を生み出す事が出来る探究者特有の技。

「オーバーチューン発動。この案内板から会場のシステムへアクセス。空色ジュエリーの情報を抽出して」

 彼女は隠して持ち込んだ小型入力端末をライブ会場の案内板に接続。
 案内板に手を触れるとハッキングを開始する。
 
(案内板プロテクトを突破。情報抽出作業へ移行。案内板と並行して端末をオーバーチューン)

 オーバーチューンの対象となるのは主人が直接手に触れる機械物。
 単に機械を自分の意思で規定通り稼働させる同化以上に、機器のコントロールそのものを掌握できる能力だ。
 
(抽出率70……)
「お前! そこで何を!?」
「やっば。ガット、リンクカット。逃げるよ!」

 警備員に見つかってしまうロゼッタ。
 仕方なく走って逃亡を図るが、目の前の通用門をロックされてしまう。

「あちゃー、どうする?」
(仕方ない……クラスフォーム発動。このまま正面突破で行く)
「了解! はぁぁぁっ……エクステリアメルトッ!」

 彼女が端末から放った魔法は命中、門全体を解析すると、最も魔術耐性が低い部分の情報を改竄し表面を融解させる。改竄された部分には赤い光が灯る。
 これはハッカー特有のスキル。
 最大限に力を引き出したクラスフォーム中のみ使える強力な魔法だ。

「見えた、あのマーカーね!」
(改竄部破砕に必要な圧力を算出。同時にエンチャント発動、空間凝固の術式を演算。ロゼ、其方は風を!)
「任せて!」

 クラスフォームは自身のクラスが持つ能力を極限まで高める力。
 そして主人の肉体を、技術をも、強化する力。
 それに支えられたロゼッタは、走りながら難しい魔術を生成する事も、脆くなった門を突き破る事も可能となる。

「トルネード……パァーンチ!」

 2人が生み出した風を纏う拳は、脱出口を見事切り開くのであった。


~~~


「ふぃー。疲れたー」

 ベットに倒れ込むロゼッタ。
 警備を振り切り家へ帰る頃には、辺りは星空へ変わっていた。

(今日は体に鞭打つ一日だったものだ……)

 眠そうに欠伸をするガット。

(消耗が激しい。先に休眠に入らせてもらうよ)
「はいさー。本当に今日は感謝感謝~」
(端末にも随分負担があっただろう。壊れなかったのは幸運の賜物だよ)

 オーバーチューン以外にも、魔術を構成し放つ武器としてロゼッタの風を収集する魔法に、ガットの空間凝固の術式を付与したエンチャントの使用。
 端末に負荷が集中しやすいのは悩みどころだ。

「近接武器ならこう、上手く使えるようになる! って感じで楽なんだけど……難しいよね。エンチャント」
(ハッカーは解析のプロでもあるが、戦いでは世界の理という大きな力を書き換え操る魔術使い。力を実現させるには対価が必要ということだ)

 もう一度欠伸がこぼれる。

(其方もクラスフォームでの消耗が激しい。半日は動けないだろうから覚悟する様に)

 それだけ言い残しガットは眠りに入る。
 ロゼッタは以前の出来事を思い出した。

「あの時もエスバイロにオーバーチューンして速度を出して、クラスフォームで私の魔力を高めて、エンチャントで複合魔法を作り出して、泥棒を捕まえたんだっけ」

 その後ガットが休眠しかけ、墜落しそうになったのは苦い思い出だ。

「アニマ無しじゃエスバイロは操縦出来ないし、もっと苦労を掛けないようにしないとね」

 そんな時、彼女の端末に夥しい数の通知が届く。
 それは彼女がネット上に立てた掲示板への書き込みを伝えるものだった。

「おっと~?!」

 急ぎ彼女は内容を確認する。





【空色ジュエリーのアイドル、ピルピムちゃんスレ】

1 超プリチィ♪

2 違法飼育じゃね? 保護扱い?

6 アレッサちゃんが法を犯すとかどういう思考w 馬鹿なの?

45 今日のライブも結構警備厳しくなってたけど、関係あるのかにゃー♪

47 ちょいと調べてみたらさ、5年くらい前に動物園から何匹か盗まれたっぽい……?

48 選ばれし者に祝福を選ばれし者に祝福を選ばれし者に祝福を

49 選ばれし者に祝福を選ばれし者に祝福を選ばれし者に祝福を





330 連投やばw アビスメシアさんチィース





999 選ばれし者に祝福を選ばれし者に祝福を選ばれし者に祝福を




依頼結果

成功


依頼相談掲示板

あの日の思い出 依頼相談掲示板 ( 2 )
[ 2 ] ロベリア  デモニック / 魔法少女  2017-08-07 10:39:11

あ、よろしくお願いしますロゼッタさん!  
 

[ 1 ] ロゼッタ ラクローン  ヒューマン / ハッカー  2017-08-07 08:28:29

どうぞ、よろしく。
(という前回の参加では表示されなかったのでテストをしてみる)