プロローグ
「ぎゃあああ!!」
吹っ飛んだ。
青い空に綺麗な放物線を描いて副業アイドル農家(46)のおっさんが飛んでいく。
「来たぞ、奴らだ」
「おのれぇ~、即刻ステーキにしてやる!」
他の男たちが農業用に改良したエスバイロに飛び乗って、「それ」を追いかけはじめた。
「ぶも゛ぉ゛お゛お゛~~~!」
そう、それは空飛ぶ牛の群れ。
大事なことなのであえて言おう、そやつらは「浮き」ではなく――「飛ぶ」のである。
浮き羊のように比較的大人しい生物とは違い、浮く代わりに飛ぶ事を選んだ進化型。
しかも、モーレツに何かを追い回す習性も持っていた。
「ぶも゛ぉ゛お゛お゛~~~!」
「おいおいおい?!」
「逃げろ!」
「そんなこと言ったって!」
間一髪で助けられだアイドルファーマーは、自分のエスバイロに乗って逃げはじめる。
これが、この「モット畜産合同会社」の朝の日課ともる光景で、さすがの農家たちも閉口気味だった。
「でも……美味いんだよねぇ、この牛」
「精肉ブランド作っちゃったしな」
「ミルティアイの有名人から注文入ったし。今更引き下がれないべ」
逃げる男をのんびりと眺めつつ、口々に言う男たちは不意に決意したかのような表情で互いの顔を見た。
「助っ人、呼ぶか……」
「んだな……」
そうして、助っ人を呼ぶべく、モット畜産合同会社はイベントを立ち上げたのであった。
* * *
「というわけで。モット畜産合同会社は人員を募集いたします!」
ネット配信の液晶画面の向こう、カメラ目線で社長(=アイドル)は言った。
イベント参加の募集のようである。
「題して【(飛び)牛追い祭り】!!」
「めっちゃ危険ですやん」
「でも、めっちゃ、メッチャ美味いよ! 飛びまわる牛の筋肉が、明日の精肉業界を支えるんですよ!」
「まあ、うちはね。撮影で知った畜産&農業の世界に魅了された一人のアイドルが中心となり、狭い食料プラントで働くより自然食を求めた元作業員たちで構成されている……素晴らしい会社ですんでー」
「業界人の使命です」
「お前、めっちゃ説明口調やな」
「台本読んでますからねー」
「ぶっちゃけますとね。なんとか世話とか放牧に成功したものの、ちょっぴり危険だし、人手不足だし、辺境だから寂しいんですよ(強調)」
「それな」
「それなー」
辺境にはさすがに何もないのか、一同がうんうんと頷く。
「でもね。安全ではないんで、一般の方はお呼びできないと言いますかネ」
「シティーの子供さんが来ちゃったら困るので。探究者【ラストエイジ】の方限定でってことで」
男の一人がそう言うと、隣の男が演技の入った仕草で驚いてみせた。
「マジで!?」
「マジです。危ないし。まあ、そこそこ人気の精肉ブランドになってきたことだし、辺境は寂しいし。イベントしたいかなって」
「寂しいし(笑)」
「俺だってネ! 英雄と仲良くなりたいもん♪」
「はーい、はいはいはい。社長の本音が出たところで募集要項です!」
「この動画を見てくださっている探究者【ラストエイジ】様、2~8名を募集いたします。それ以外の条件はありません」
「参加者がたくさん来たら、競争しますかね。牛を追い回して、牛舎に入れた数で勝敗を決めましょうか。景品はイベント後のバーベキュー大会で美味しいところを食べられる……ぐらい、かな?」
「では、この動画を見てくださってる探究者の方々、是非お待ちしております!」
シティーの公園よりも広い、本物の地面とそこから見上げる空。
美味しい食事と自然の中で生きる人たち。
今は無い、昔の人々の生活。
少しばかりシティーを離れ、そんな週末を過ごしてみませんか?
締めの言葉を言った後、そんなテロップが最後に流れ、一同が頭を下げて動画が終わった。
解説
飛び牛の飼育に成功した人々が立ち上げた会社でイベントを行います。
この募集要項は、社長の友人でテストピア出身の人が作って流したようです。
ごくありふれた動画サイトで流されているので、探究者の皆様は誰でも参加できます。
・牛を牛舎に追い込む手伝いをしてください。
参加5名以上で、追い込んだ数を競う競争となります。
牛舎に入ると飛び牛は大人しくなります。
牧場は孤島を丸ごと改造してあるので、民家と言えば社長の家やほかの社員の家だけです。
・飛び牛は何がしかの理由で人を追いかけます。
相談掲示板に一番に書き込んだ人が【追われる対象】となります。
逃げてください。
・祭り中にはハプニングが起きます。
参加者のエスバイロの型式で、一番多かったものと少なかったもの数字からハプニングを決めます。
内容は秘密です♪
・依頼先
おっさんアイドルと農家に転職した食料プラントの作業員、アカディミアの生徒で構成された会社です。
ここで売られている牛肉とラム肉はネット販売でそこそこ人気です。
・餌(牧草)が無いので、牛は島の外から一キロ以上先には出ません。
・危険ではありますが、エスバイロの大破はありません。
・イベント後はバーベキューを開催します。
こちらの描写もしようと思っていますので、文字数が余った方は何かお書きください。
ゲームマスターより
はじめましてこんにちは、GMの狐夜魅です。
どうぞ、よろしくお願いします。
プロフがないので簡単に説明をば。
シナリオ傾向:
バカ騒ぎ、日常、恋愛、戦闘、しんみり、まったり
PCの描写:
文面上、アドリブが必要になる時がありますので、アドリブが入る時があります。
苦手な方はご注意ください。
NPCの描写:
今回のプロローグはよく喋っていますが、基本リザルトではそこまで喋りません。
絡んでいただけますと喋ります。
突撃! 飛び牛追い祭り エピソード情報
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担当 |
狐夜魅 GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/15
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難易度 |
普通
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/7/25 |
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エスパイロに乗って飛び牛を追い詰めて牛舎に入れようー! ラビッツ!運転は任せたよ! 牛が逃げ出してくれるものって何だろ…?興奮するものなら赤い布とかだと思うんだけど…追われたくないしなー 尖ったものとかだったら流石に嫌がるかなー?普段から追っている人たちに話を聞いてみよー とにかく行動あるのみ!一直線に牛に向かってみよー! それにしても…ロベリアさんは心配だなーほんとにやばそうだったら手助けする様に動きたいかも…一番興奮している牛の視界を覆うような布用意して被せてみようかな…それで色々迷惑かけたとしたらごめんね! 牛追い終わったら、BBQかー楽しみだなー ソルお兄ちゃんにあーんするでしょ? 自分は野菜を中心に食べたいけど…この企画的に滅多に食べられないお肉メインの方がいいのかなー? 肉の奪い合いとかになったら楽しそー!これが弱肉強食ってやつだよね!
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目標 ・アリシアとチームを組み、連携して牛を牛舎に追い込む。またチームとして競争で勝利をする。 ・BBQを楽しむ。 行動 エスバイロで移動しつつ、【追われる対象】を追いかける牛を拡散し、注意を向かせようとする。 拡散させる方法はスナイパーライフルなどの銃声を響かせたり、ワイヤーフックなどを活用して進路を変更させる。 注意を向かせる方法としては着ているコートや布を振り回して突撃をうまく誘導する。 上記の作戦をアリシアに提案し、可能であれば実行する。 もし作戦が失敗した場合はアリシアの提案する作戦に従い、連携して行動する。 勝利を優先するが、ハプニングにより他人の機体が破損した場合や牛の突進などの大怪我を伴いそうな場合はそちらの支援をする。 また一番怪我する可能性の高い【追われる対象】とアリシアの行動には常に注意を払って、怪我がないように援護する。 BBQでは仲間との会話を積極的に。
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●動機 バーベキュー大会…だってアーモンド! ウェイさんとのフードファイト…負けられないね! ●目的 きゃるーん☆テンペストを使用して、 牛さんをたくさん引き連れて牛舎に飛び込む。 ●行動 どうやって牛さんを追い込めばいいんだろう…。 あれ…牛さんの群れが私の方に…えええ!? パニックになり思考が急速に冷静に頭の中で駆け巡る。 (たしか…飛び牛さんの習性でモーレツに追いまわす習性がある。) (島から外、つまり牧草がない地帯に行くと、牛さんは追ってこない。) (でも、島から出たらどんどん他の人に先を越されちゃう。) (牛さんの気を引くには…?よりたくさんの牛さんに追いかけてもらうには…?) こうなったら覚悟を決めようよ、アーモンド。 いくよ!!牛さんに向かって、きゃるーん☆テンペスト! アーモンド私の事はどうなってもいいから、牛舎に速度全快で突っ込もう! よーし牛舎に向かって全速前進だよっ!
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あぁ?動画だ?…勝手に映すんじゃあねぇよ(恥ずかしかっています) 指先が傷つくような荒事は避けたいし、何より商品でもある… 自分の身を守る以上の事はしちゃいけねえだろうな。 だからといって何が策でもあるわけでもなし 堅実にロベリアを追う牛の列を乱さんようにエスバイロで並走し 牛舎前で方向転換される前にカット(場合によってはエスバイロによる体当たり)しようと思う。 あとは…アニマに牧草の状態を観察させ、追い込みの際に牧草を使っても良いか聞いておこう。 追い込みの時間が長くなるほど食べ物に引き寄せられる確率は高くなるんじゃないかと見てる。 アップルジャックは手伝いに意気込んでいるが…余計なことすんなよ おめえは俺が言った通りに行動すりゃあ良いんだ 第二条、だ (後に、攻撃行為をとってしまった飛び牛には牛舎まで様子を見に行こうとします)
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全身に赤い布+エスバイロにも紅い布をまとって、牛を引き付ける 来ない場合や、追っかけられている人がヤバそうだったら、クラススキルを使用してひきつける。 布が効かなかったら、いっそのこと一頭一頭を運べるかチャレンジ。STR頼り。
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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事前に農家たちに話聞いてから事に臨むとするか……。 行動自体はシンプルに、牛たちを追って、牛舎に追い込むのを第一とする。 許可がおりたり有効的だったら刀使うのもやぶさかではないとは思うが……怒られたらそこまでにしよう。 「さぁて牛ども……鬼さん、コチラァアアアアアアア!!!」 で、今回行はまゆゆと冬花。二人とも危ない目に遭わないよう協力してもらおう。 連携しつつより多くの牛を追えるようエスバイロを駆る。 必要があったら赤い布とかで注意を引くのもありだ。 全てが終わったら、まぁ肉食いまくるわけだが! 俺としては! 是非とも米と一緒に食いたいもんだな! 「おい、その肉は俺が前々から狙っていたもんだぞふざけんなオラァ!!」 「やっぱ……肉には米だな、なんでも合うけど」 「食い過ぎるなよー、太るぞ」 みたいな会話をするのかもな。 まぁ、勿論予想外の出来事に関しちゃ冷静に対処したいもんだが。
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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クロカにーさま、舞鶴さんとチームを組んでいきたいですね 作戦としましては 競技が始まる前に 端末で、ロベリアさんと牛さんの想定コースを算出 それをある程度の目安にして動きたいと思うのです 競技の時は ロベリアさんを追いかけていった飛び牛たちが牛舎から逸れないように、 3人で半包囲しながら追い込んでいきたいと思います にーさまに中央で指揮をしてもらって 舞鶴さんとわたしが左右から追い込めたらいいなって思っています アニマのゆゆゆには コースを逸れそうな牛を早めに見つけて、リアルタイムで教えてもらいたいですね 服装も、牛追いとうことですので 牧羊犬(ウェルシュ・コーギー)イメージの全身タイツでいきますのです 競技後のBBQでは、みなさまと美味しいお肉で乾杯なのです! わたしはメープルのお湯割りを飲みながら にーさまにあーんしたいのですよー! え?順位? たのしかったので、気にしないのです
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牛を追い込む際は、まゆゆさんやクロカ兄さまがカウントを増やせれるように立ち回ります。 二人が同数の場合はまゆゆさんの方を重視しちゃいますっ。 まゆゆさんが犬の着ぐるみを着て追い込みをする場合、一緒に着ぐるみ着用で追い込みしちゃいます。 また、ロベリアさんがたくさんの牛に追いかけられ続けててピンチだと感じたらこちらでも注意を引き付けて、 いくらか離すようにします。 離す時はこっそり用意しておいた赤い布をはためかせます。 離すことに成功したらそのまま誘導して、まゆゆさんやクロカ兄さまがゲットできるようにしていきます。
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参加者一覧
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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リザルト
●Fine day♪
空はピーカン。どこまでも透き通る青空。
入道雲は泡立てた卵白みたいに膨れ上がり、どこまでも続く雲海を彩っていた。
「わぁ~、すごい天気!」
『アリシア・ストウフォース』は緑深く生い茂る島の自然と、空のコントラストを見ながら感嘆の声を上げた。
まさに今日は飛び牛追い祭り日和と言えよう。
「日差しも暑っ♪」
「今朝の朝焼けは燃えるような赤い色だったぞ」
『ソル・グラディウス』は全身で嬉しいと楽しいを表現しているアリシアに苦笑しつつ、今まで色々あったものだと感慨深く他の仲間を見やった。
メンバーの殆どはどこがしかで出逢い、戦い、行動を共にした相手だ。
そんな仲間たちと小さな会社のイベントに出れるのは、人生の休日というべきか。はたまた天からのプレゼントか。
皆が楽しそうにしているのはモット畜産合同会社の社長たちにも伝わっているようで、社員さんを交え、牛舎の傍で楽しげに話し合うみんなの姿がそこにあった。
「いやぁ~、イイ構図だよ。バッチリだネ☆」
「そんなものか?」
『ウェイ・ゴーイング』は動画を撮り続ける社員(=農家のおっさん)たちに言う。
体が大きく声も大きい故に怖がられることがるウェイも、この長閑な大自然の中ではきっと自然の一部なのだろう。
おやと首を傾げたウェイに、農家のおっさん達は怖がることなくニコニコと笑って応対していた。
「探求者の中の探求者。先の戦いに参戦した英雄が、俺たちの島に来てるてぇンだから感動もひとしおでさァ」
「そうそう! 初イベントの記念にネ、撮ってるんですよ」
「あぁ? 動画か? ……勝手に映すんじゃあねぇよ」
近くにいた『マッキントッシュ・ホリールカ』はそう言ったものの、そっと背を向けたその姿が照れているようで。
おっさんたちはそんな彼を微笑ましげに見つめ、すんませんと言って頭を掻いた。
「イメージ的に戦士の休息ってゆーか。どっちかってーと、皆さん……家族(?)みたいッスね」
戦いが繋ぐ絆みたいな感じですよと言って、牛舎の前で準備をする人たちが笑った。
確かにアリシアはソルの妹分みたいな存在で、『クロカ』にとっても『まゆゆ』と『舞鶴 冬花』も妹分みたいなものだ。
『ロベリア』は殆どの者と友人だということで、見知った者同士の雰囲気もあるかもしれないし。皆の活気がそうさせているところもあるのだろう。
「ふむ。まあ、これで酒でもあれば……」
焼ける肉と酒を想像したところで、ウェイはふっと笑う。
「バーベキュー大会……だって、アーモンド!」
ふわふわの青い羊少女、ロベリアが楽しげに言った。
アニマの『アーモンド』は甘いピンク色の髪を揺らして笑う。
「うん、ロベリー。頑張ってね」
「ウェイさんとのフードファイト……負けられないね!」
「お? 負けねぇぜ」
ウェイの言葉に応じるかのように、背後で社長が酒の瓶をチラチラと見せる。
「ふふふ……」
「ぬッ! それは」
「牛追い祭りに必要なのは、やりがいと美味い物。……酒、用意させてもらってます☆」
「その戦い、乗ったぜ!」
社長の楽しい挑発にウェイはGOサインで応じ、そんな彼をアニマの『マイ』は「もぅ、しかたがないわね」といった顔で見ていた。
「事前に農家たちに話聞いてから事に臨むとするか……」
一方、まゆゆ達とチームを組んでいるクロカは、肉が食えるという事で、ちょっとだけテンションが高くなっているらしい。
面倒くさがりな部分があるクロカと言えども、若さゆえの食欲もあって真面目に農家のおっさんたちの話を聞きはじめた。
「で、普段はどうやってるんだ~?」
「あー……一応、塀はあるんで鉄の門を閉めるんだけど。あいつら飛ぶしなあ。その後はひたすら追いかけるしかねえのよ」
「鉄の門……追いかけるのみ……」
飛ぶ牛がどれだけ移動するのかを考えると、クロカは思わず唸るしかなかった。
そうなると自分たちの行動はシンプルにした方が良い気がした。
牛たちを追って、牛舎に追い込むのを第一とするべきだろう。
「有効的だったら刀使うのもやぶさかではない、か……」
「刀?! まあ、後ろかきやべこサ突かれだばしたきや危ねし。ヤバぐなたきや使っての?」
そして、その男は『できればその時は足ではなく、首を落してほしい』と頼んできた。
クロカは何故だろうかと訝しむ。
「首を狙えばいいのか~……」
そして、質問してみようと待っていたアリシアも、少し間を置いて農家の人に質問してみた。
「牛が逃げ出してくれるものって……何だろ?」
「逃げ出すってもなあ。食肉加工場に行く時は暴れるぐらいかね」
アリシアはそれを聞いて、うーんと一つ唸った。
(興奮するものなら赤い布とかだと思うんだけど……追われたくないしなー)
「じゃあ、尖ったものとかで追ったら嫌がるかなー?」
「そりゃぁ、さすがに怖いだろうサ」
「困ったなー」
「加工場サ連れて行ぐ時は……まあ、引っ張ってあべんだぁ。べこサも心はあらんだし」
社長が思いついたイベントだから、深く悩まずに楽しんで欲しいと農家の人たちは言った。
「じゃあ、追い込みの際に牧草を使っても良いか?」
ふと声をかけられ、農家の人が振り返るとそこにはマッキントッシュがいた。
アニマである『アップルジャック・B・ドリーマー』に牧草の状態を観察させているところだ。
「追い込みの時間が長くなるほど、食べ物に引き寄せられるんじゃないかと、な」
「牧草を使うのは構わんよ。でもなぁ、俺らがやった時には上手くいかんかったのよ」
農家の一人が難しいと思うよ、と答えて苦笑した。
自分らの失敗を思い出し、マッキントッシュに農家の面目無ェわなと肩を竦めてみせる。
マッキントッシュは何かの足しにはなるだろうと、牧草を少し分けてもらった。
「クロカにーさま。端末で牛さんの想定コースを算出して、それをある程度の目安にして動きたいと思うのですけど」
まゆゆが島の広さや土地の起伏を入力し終わり、端末の画面から顔を上げて言った。
いつもの元気な雰囲気ではなく端末の前にいるせいか、キリリと凛々しい眼差しだ。
「コース……それは難しい気がするぞ。鉄の門や塀付近のコースぐらいならできるんじゃないか?」
「じゃあ、スピードダウン時の速度を予測計算しておきますね」
なるほどと頷いて、まゆゆはウェルシュ・コーギー・ペンブロークのコスチュームのまま計算をはじめる。
普段の明るい彼女が思いついたコスチュームを、ハッカーとしての本分を発揮中の彼女が纏うと、とても不思議な感じがした。
でも、イベントが始まればいつものまゆゆに戻るだろう。
そんなところがまゆゆの魅力なのか、冬花はいつもの半袖セーラー服の代わりに彼女と同じ衣裳を着て微笑んでいた。
大切な絆は、太陽の下できらきらと輝いている。
そして、小さな島の初イベントは昼前に開幕した。
●暴走飛び牛×ロベリア
「さぁて牛ども……鬼さん、コチラァアアアアアアア!!!」
クロカの掛け声は、まさに咆哮と言わんばかりのものだった。
緊急時に刀を使っても良いなら、そう大変なことではない。
赤い布を振り回し、煌めく夏の空をエスバイロで飛びまわる。
「おォッ! ナイス被写体☆」
動画のレンズは彼をキャッチだ。
「考えても仕方ない。飛び牛を追い詰めて牛舎に入れよゥ!」
本番は真剣に。アリシアの瞳がきらりと光る。
エスバイロに飛び乗れば、思考は全て戦闘一色。
「ヒヒヒ……『ラビッツ』! 運転は任せたよ!」
悩まなくていいと農家の人たちに言われたのなら尚の事。とにかく行動あるのみと、アリシアは飛び牛たちに向かって行った。
「ほらァ、捕まえるよォ!」
アリシアの乗ったエスバイロ、マクガイアM29「バイコーン」はタフな機体で少々のことではビクともしない。
ブロントヴァイレス達と戦った愛機だ。
牛如き、屁でもない。
牛を機体で追いやり、猛烈なスピードで近付くアリシアは小さな台風のようだった。
そして、その後方をロベリアが猛然と追いかけてくる。
「ん? 援護かァ……え?(汗)」
「アリシアさん、逃げてくださーい!」
ロベリアが叫んだ。
フラツキーニ社製のエスバイローーCr33「ブリスコラ」に必死にしがみつくように、ロベリアが文字通りすっ飛んできた。
その後ろには、牛、牛、牛。
牛、牛、牛、牛、牛、牛……。
巻き上がる土煙と共に、雲霞の如く牛たちがロベリアを追いかけてきている。
アクロバットスポーツ機だったブリスコラだからこそ、牛の急な襲撃をかわせたといえよう。
しかし、彼女の表情は必死の一言に尽きた。
どうやって牛さんを追い込めばいいんだろうだなんて考えていたのが十数秒前のことで。
あれ、牛さんの群れが私の方にと、思考が向いた時にはもう遅かった。
「えええ!?」
パニックになり血の気も下がっていったその瞬間、アリシアの姿を目の端に捕らえる。
止まった思考が急速に復帰し、冷静さが頭の中で駆け巡った。
(たしか……飛び牛さんの習性でモーレツに追いまわす習性がある)
ロベリアは顔を上げる。
(島から外、つまり牧草がない地帯に行くと、牛さんは追ってこない)
その考えを振り切るように首を振った。
(でも、島から出たらどんどん他の人に先を越されちゃう~ッ)
エスバイロのハンドルを握りしめ、飛び退く様に過ぎ去る景色に視線を送る。
(牛さんの気を引くには…? よりたくさんの牛さんに追いかけてもらうには…?)
「よし!」
ロベリアは片手でハンドルを握り、機体を右に倒してアリシアの進路から外れていった。
「ロベリー……」
「こうなったら覚悟を決めようよ、アーモンド」
「ロベリーがそう言うなら……頑張る」
「じゃぁ、いくよ!! 牛さんに向かってェ――きゃるーん☆テンペスト!」
体を斜めにして振り返り、振り落とされないように魔法を放てば、星状の光がポップコーンの様に弾け飛ぶ。
『ブッ、モ゛もももォォォッ!』
「ロベリア!」
ぐるっと機体を回して、アリシアが遠く後ろから追いかけた。
家畜と言えど、加工場に行く時には暴れたり逃げたりする牛たちにも、それを理解する知能はある。
見事に挑発された飛び牛たちは、仲間を追い越せ追い抜けと飛びながらロベリアに追い縋ろうとしていた。
『ブモ゛ォォォッ!』
「……チッ、しかたねえな」
マッキントッシュはスピードを上げ、ロベリアを追う牛の列を乱さないようにエスバイロで並走する。
「おらッ、ロベリアの邪魔すんじゃねーよ!」
ふと、自分の指に視線を落し、溜息を吐いた。
(指先が傷つくような荒事は避けたいし、何より商品でもある……)
思考は実家の家族へと飛んだ。
カジノディーラーにとって、指は命。商品だ。
いつも生計が苦しい家族を守る為、自分は自立の道を選んだのだ。
(自分の身を守る以上の事は……しちゃいけねえだろうな)
「どうしたの、マック? 追いかけっこの始まりよ?」
「わかってる。アップルジャック……余計なことすんなよ」
「えー」
「おめえは俺が言った通りに行動すりゃあ良いんだ……第二条、だ」
「第一条は第二条より優先される項目だから、マッキントッシュが危なそうなときは聞けませーん」
(っていうか、言い方冷たすぎ!)
……だなんて思ってみたものの、アップルジャックに何かあれば、勿論マッキントッシュは動揺を見せる。
これは彼なりの想いが重なったものと受け取って、彼女は矛を収めることにした。
矛を向けるべきは、目の前の得物。飛び牛だけだ。
アップルジャックは思考を切り替えて、出来うる限りサポートに専念した。
「アリシア、飛ぶ角度を変えろ!」
手に持ったスナイパーライフルの銃声を鳴らし、ソルはロベリアを追いかける牛を少しずつ拡散していく。
気の荒い飛び牛はなかなか逃げないが、気の弱めのやつや、紛れ込んだ浮き乳牛たちは大慌てて逃げていった。
二人は着ているコートや布を振り回して、押し合いへし合いしている飛び牛の群れを少しずつコントロールする。
「了解!」
借り受けたワイヤーフックやなどを活用したのは良い結果になったようで、怖がった牛がスピードを落として飛ぶ姿も見受けられた。
未だ走り続ける黒い集団。牛津波の向こうには、相変わらずロベリアがいた。
ロベリアの何に惹かれて追い回しているのか、もうすでにわからない。
「きゃるーん☆テンペスト!」
『ブモォォォッ!』
「きゃるーん☆テンペスト!」
『ブモッ、ブモォォォッ!』
ロベリアが魔法で飛び牛を釣りながら、少しでも多く、少しでも体力を削るように走り続けた。
飛び牛たちは魔法で怒りの感情を刺激され、地霊の如き怒りの声を響かせている。
そして、ソルが拡散して数を減らし、順序良く並ぶようにマッキントッシュが右側を並走していた。
「俺がいるのを忘れてもらっちゃ困るぜ!」
赤い布を振り、エスバイロも赤い布で飾って勇ましくウェイが突っ込んでくる。
皆の邪魔にならないよう、少し後ろを並走するも、大声を張り上げる姿はでテンション上々だ。
「よし、ここで叩き込むぞ!」
ソルの掛け声が響いた。
●はぷにんぐ☆GOGO!
「無理はするなよ!」
「はい、にーさま!」
クロカはまゆゆと冬花に注意を配りつつ、まゆゆが計算してくれたデータを元に塀を越えて追いかけていく。
時には下から挑発し、牛が速度を見誤り自分から塀に引っかかるよう動いたりした。そして、地道にカウントが増えていくという寸法だ。
基本はロベリアを追いかけていった牛を追ってエスバイロを駆る作戦。
三人は互いに連携しつつ、3人で半包囲しながら追い込んでいた。
出足の遅れた牛たちを追いかける群れに纏めると、まゆゆは『ゆゆゆ』に声をかける。
「ゆゆゆ、コースを逸れそうな牛さんは?」
「今はいないよ!」
「ありがとっ」
「まゆゆさんっ! こっちは押さえておきましたので、さっきの牛さんはよろしくお願いします!」
「舞鶴さん、ありがとうございますっ」
「クロカ兄さま、牛さん達をそっちに誘導しますので、最後の追い込みはお願いしますねっ」
(あぁ、ロベリアさんがあぶないっ! ここは思い切って……!)
「牛さん! うしさーん!! こっちにもカモンカモン、ですー!」
冬花は牛に向かって叫ぶ。
「まゆゆ、ソルさんから連絡だよ。フィニッシュ決めるって~」
ゆゆゆの声を聞いて、クロカが叫んだ。
「よし、こっちも行くぞ!」
「「はい、クロカにーさま!」」
クロカは三機編成の中央で指揮をし、まゆゆと舞鶴がが左右から追い込めていく。
赤い布を掲げて前方に踊り出したウェイが見えてきた。
「おい、後ろッ! スピード落せ!」
「え?」
振り返ったウェイの視界を真っ赤な布が遮る。
しかも、クロカの持った布も同時に風で翻った。
「ブモ゛ォ!」
「「うわぁっ!」」
きゃるーん☆テンペストを何度も撃たれた飛び牛が手加減などするわけがない。
彼らの怒りは最高潮☆
燃え上がる俺らの怒りが有頂天。
数匹の飛び牛がクロカとウェイに襲い掛かり、彼らの機体をぶっ飛ばす。
「うォ……わぁァァァァッ!」
「ちきしょうッ!」
「負けるかァ!」
二人は体勢を整えたものの、バウンドした先が『牛の上』。
すかさずクロカは機体狙ってきた牛の頭を切り飛ばす。
「ブォッ、ブフォッ!」
「ウェイッ! クロカ! 牛舎だ、逃げろ~~ッ!」
ソルの声が木霊した。
「げッ……どうする、クロカ?!」
「知るか、そのまま突っ込むしかないだろッ!!」
眼前には牛舎。
左右には、進路を変更した仲間たちの叫ぶ姿。
足元には怒れる牛共。
エンジンの再起動は無理だ。
「牛の姿はさながら黒い潮!! 探求者たちの雄姿をご覧ください!」
気付けばそこには並走する農家社長&動画担当のアカディミアの生徒がいる。
「てめぇ、どっから湧いて出たァ?!」
「ハプニング最高ですね☆ 編集はお任せください」
「ありがとう、ありがとう。そして、ありがとう! 君の雄姿は忘れない!」
「クロカ兄さま!」
冬花はこっそり用意しておいた赤い布をはためかせ、兄さまとロベリアのピンチを軽くしようと努力していた。
いくらか牛が離れ、それをクロカやまゆゆのカウントにできるよう飛行する努力っぷりである。
牛津波の本体から離すように飛んでいる。
「アーモンド。私の事はどうなってもいいから、牛舎に速度全開で突っ込もう!」
『え?』
前方で危険な言葉が聞こえた。
走る走馬燈。流れる景色。
手を伸ばし、叫んだ言葉も跳ね上がる鼓動の音にかき消されて聞こえない。
「……ファッ?!」
「よーし、牛舎に向かって全速前進だよっ!」
「ちょ、ちょまッ!」
「きゃる~~~~ん☆テンペストぉ♪」
『うわァあああああああああああッ!!』
絶叫を上げて、二人が牛津波に飲み込まれた。
暗闇の視界に牛の怨嗟の声。二人の怒号をバックに、へし折られた牛舎の壁が吹き飛んでいく。
二人はそのまま牛波サーフィンを強制させられ、ぶち壊した第一牛舎を抜けて第二牛舎に飛び込んだ。
●打ち上げBBQ大会
「それではァ、クロカ兄さまの健闘と~」
「イベントの成功を祝して……」
「「かんぱーい♪」」
牧羊犬の全身タイツに扮装したまま、冬花とまゆゆは乾杯の音頭を取った。
「俺も健闘したぜ!」
ウェイがジョッキを掲げて大きな声で言った。
楽しくて仕方ないといった表情から、ハプニングも良い思い出になったらしい。
ジョッキの中身ももう半分ほど減り、しかもこれはすでに三杯目だ。
「ウェイさん、お約束のフードファイトですよ!」
本日一番の功労者、ロベリアが瞳を輝かしてウェイに言う。
力の限りきゃるーん☆していたのも、ウェイとの約束の為だ。
炭火焼のジューシーな肉の匂い。ココットダッチオーブンの中には鶏の丸焼き。
香草と焼ける肉の匂いで、ロベリアの期待ははちきれそうだ。
「よーし、手加減しねぇぞ」
(ちっこいから勝てないかもな?)
ウェイは笑って挑戦に応じた。
その隣でマッキントッシュが農家の一人に話しかけていた。
「一時はどうなるかと……牛舎は木造じゃなくてコンクリートの方が良いんじゃないか?」
「それだど、べこが潰れて死んですまうし。壊れらばって、木造の方がマシのんだし~」
自分らも困ってはいるが、一応採算はとれているので我慢しているとのこと。
苦笑しながらマッキントッシュの質問に答えた。
どうも牛舎破壊はよくあることらしい。飛ぶ牛を追いかけるのだからしかたないかとマッキントッシュは溜息を吐いた。
「さて、新しい料理がまた来たぞ……野菜の蒸し煮か。冬花、満遍なく食べろよ」
ソルはまゆゆや冬花に野菜を薦めつつ、自分もケバブやサラダなどを皿に積み上げていた。
「ねえ、ソルお兄ちゃんにあーんするでしょ?」
「ん? じゃあ、してもらおうか」
「はい、あーん……」
アリシアは夏野菜を中心に、ミスジ肉やサーロインで皿をいっぱいにしている。
ソルにはお肉が良いだろうと、食べやすく切ったサーロインを口に運んだ。
「あ~~……ん。……美味い」
少しはにかみながら、でも満足げにソルは笑った。
戦いの育んだ義兄と義妹の絆は、本当の兄弟のようで微笑ましいものだ。
そして、向こうでは山盛りの銀シャリを片手に、クロカが肉争奪戦をしている。
「おい、その肉は俺が前々から狙っていたもんだぞ。ふざけんなオラァ!!」
「肉は戦いよォ、ははは!」
アカディミアの生徒と農家のおっさんたちが、網焼きと焼き鳥片手にクロカを煽る。
「ネギまとトントロ、あとタン塩は飯に合うんだよ……隙ありィッ!」
『うりゃー!』
始終こんな調子で、クロカは楽しげに食べる姿を動画に収められていた。
「あー、美味んめぇ。やっぱ……肉には米だな、なんでも合うけど……ん?」
「にーさま♪」
楽しげな様子でまゆゆが近付いてくる。
「おう、まゆゆ。食い過ぎるなよー、太るぞ」
「大丈夫ですよ。あのね……わたしもにーさまにあーんしたいのです」
少し恥ずかしそうに、まゆゆはソルとアリシアの方を指さして言った。
本当の兄弟みたいに仲良く食べさせっこして食事する2人。
とても眩しげにまゆゆが見ている。
「あー……。ま、いいか」
「ありがとうです、にーさま♪」
少しだけなと苦笑して、いつもと違う笑みをクロカはまゆゆに見せた。
美味しい笑顔。
胸いっぱいに貯めて、まゆゆは満面の笑顔を向けた。
歌ったり、撮った動画のダメ出しをしたり。
みんなは束の間の休日を堪能した。
幸いにして牛舎の牧草がクッションになり、ロベリアとウェイ、そしてクロカのエスバイロは無事だった。
もちろん、一番の功労賞はロベリアだ。
勇気と健気さもさながら、彼女を中心に一丸となって取り組んだことが農家たちの心に沁みたらしい。数も一番多かったそうだ。
二位はもちろんウェイとクロカ。三位はソルだ。
閉幕式には農家たちからのお礼の言葉が述べられた。
ブロントヴァイレスを打ち倒し、未来を切り開いてくれた探求者たちはこの世界に生きる人々の未来も救った。
何より、今回のイベントで一生懸命戦ってくれたのだと実感できたことが、一番嬉しかったという。
「あんた達は、本物の英雄だよ」
そう言って、彼らは探求者たちに拍手を送った。
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