プロローグ
--------------------------------------------
このエピソードはグランドプロローグ「崩壊の始まり」の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお「崩壊の始まり」にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
--------------------------------------------
レーヴァテインの街中は、混乱の真っ只中である。
フロントヴァイレスが蔓延る中、それに乗じて暴れまわる空賊は、荒廃しつつあるこの街を、どんどんと荒らしていく。
もう何人が死んだのだろう。救える命も確かにある。しかし当然、全てを救えるわけではないのだ。
性別、身分、年齢問わず。空賊はただただ限りある命が潰えていく。
あなたは、そんな現状を目の当たりにしながらも、救護部隊として奮闘している。その数少ない救える命を、とにかく多く救うため。あなたは周りの人と協力して、駆け回り、空賊を迎撃しつつ人を救い、近くの救護施設へと送ることを繰り返していた。
また一人の命を救い、一息つく暇もなく次―――というところで、目の前の、足を引きずる一人の女性がこちらへと、必死の表情で向かってくる。空賊に襲われたのだろう。体は傷だらけで、しかしそんなことは知らないとでも言わんばかりに、涙混じりの声を張り上げた。
「子どもを……!! 私の子どもたちを、助けてくださいっ!!」
女性はあなたの腕を勢いよく掴む。
まずは事情を説明してもらおうと、女性をなだめてなんとか落ち着かせる。
少しして、女性は呼吸を落ち着かせ、しかし早口で事情を話し始めた。
「えっと……まだ九歳の兄と七歳の妹なんですけど、はぐれてしまって……。気づいたときにはもう後ろにいなくて、それで……!」
感情が溢れ出しそうになる女性に落ち着くように言うと、女性は頷いて、更に言葉を続ける。
「ごめんなさい……ここらへんは道も悪くて、空賊も襲って来るし、必死で……。正確な位置はわからないんですが、多分ここらへんではぐれた、と思います」
女性は口頭で位置を伝える。しかし、中々距離がある。それに時間も経っているだろう。
こんな状況だ。恐らく、元の姿を保っている建物も、決して多くはないだろう。
頼りになるのはこの街での経験と、時間から割り出した大まかな距離、それと実力のみ。
跳梁跋扈したこの街で、兄妹を見つけるのは至難の業だろう。しかし、あなたは、決断する。
二人の小さな命を救うために、女性の方を向いて大きく頷くと、あなたは周りの仲間とともに、勢いよく駆け出した。
解説
今回の目的は行方不明の兄妹の保護、救護施設までの護衛です。
兄妹の安否は不明だが、無事だと仮定して話を進めることとする。もし既に空賊にやられてしまっていた場合、兄妹とわかるものを持ち帰ること。
女性もボロボロで、すぐに死に至ることはないが、放置していくには少し容態に不安が残る。
今いる付近にまだ少しだけ人を受け入れることができる救護施設がある。
空賊が暴れまわっていて混乱状態。道もボロボロで、荒れている。何が起きるかはわからない。
ゲームマスターより
初めまして。今回から始めてシナリオを書かせていただきました。Narviと書いて『ナルヴィ』と申します。
みなさんにより良いシナリオをお届けし、楽しんでもらえるよう精一杯リザルトを書かせていただきます!
みなさんにご参加、お待ちしております!
【隠れた真実・歪】離れ離れの家族 エピソード情報
|
担当 |
Narvi GM
|
相談期間 |
6 日
|
ジャンル |
---
|
タイプ |
EX
|
出発日 |
2017/7/9 0
|
難易度 |
普通
|
報酬 |
通常
|
公開日 |
2017/7/19 |
|
|
●動機 空賊さんが暴れまわって怖いけど…このお母さんの為に頑張らなきゃ! ●目的 少しでも急いで子供たちのところに向かわないと…。 ●行動 えっ、お子さん達がはぐれちゃったんですかっ!? ふむふむなるほど…この辺りにいるんですね。す、すぐ助けに行きますねっ! でもその位置まで行くには、結構距離があるし空賊さんたちも居そうだなぁ…。 頭の中でレーヴァテインの街の地図を考えながら、言われた位置にたどり着けるような安全なルートを思い浮かべる。 ろろさんも一緒に来てくれるんですね!宜しくお願いしますっ 道中で空賊さんを見かけたら。 1.相手が一人なら先手で攻撃して無力化させます。 2.沢山いて手がおえないなら、きゃるーん☆テンペストで混乱状態にさせて瓦礫に隠れてやり過ごす。 極力戦闘は避けて子供たちがいた所に走る。もしいないなら、地図を考えてここなら安全だろうというところに向かう。
|
|
|
|
子どもだァ…?面倒だねェ… まあいいやァ…この女を見るに空賊かなんかがいるんだろォ? ならアタシは空賊かなんかが出てき次第首を斬り落としてやろうじゃないのォ… 他のが情報を聞き出そうとしてるみたいだけどアタシが見つけたやつはアタシの獲物だからねェ… 「情報を吐いても吐かなくてもぶっ殺すけどなァ…」
|
|
|
|
おやおや子供ですか…ですが私はそれよりも救護施設が気になるのでそこまで女性をお連れ致しましょうかぁ… あ、戦闘面に関してはアーレさん達がどうにかしてくれるでしょうし私は女性の援護をしますからねぇ… おっと…それにしてもこの地形も興味があるんですがねぇ… 「大丈夫ですよぉ…私は貴方の親友、貴方を無事施設に送り届け設備などの見学をさせて頂きたいだけですからねぇ…」
|
|
|
蓮 蒼馬
( アスナ )
|
ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
|
|
|
余裕があれば母親からさらに子供の名前を聞き、幾人かで組になって子供達捜索へ向かう。俺はA班で母親が示した位置までのメインルートに沿って子供達の名を呼びながら捜索。俺のアニマ、アスナも心配そうにしているが、必ず見つけるさと笑って安心させる。途中空賊に出会ったら躊躇なく他の二人に支援してもらいながら相手の攻撃をよく見極め、カウンターアタックを駆使して相手を殴り飛ばし抑えつけると「この辺りで男女の幼い兄妹を見なかったか?」と尋問する。上手く見つかったら、空賊に捕まっているようなら躊躇わずとびかかり蝶のように舞い、蜂のように刺す戦法で相手をボコって救出。疲れているだろうから母親の所まで背負っていこう。万が一子供達の命が奪われている事があれば、怒りでその相手を殴り殺してしまうかもしれない。その際も遺品は必ず持ち帰る。無事生きた子供達を連れ帰れたら、「もうお母さんと離れるんじゃないぞ」と頭を撫でてやる
|
|
|
|
【A班】 ☆兄妹の保護を優先 ・着ている服や髪、肌の色など二人の外見の特徴を母親から聞いておく ・母親と兄妹、三人の名前も聞く ・母親から兄妹へのメッセージがあればそれを覚えて伝える (二人の不安を和らげるためと、自分は空賊ではなく母親に依頼されて探しているのだと信じてもらうため) ☆クラスと種族の特徴を最大限に活かす ・フェアリア元来の足の速さや器用さを使い混乱状態の荒れた街中を出来るだけ素早く着実に捜索 ・スパイの隠密性と情報収集能力で、空賊に見つからないよう子供が通れそうな隙間や隠れられそうな空間も探す ・可能かつ必要ならスキル・サイレントムーブで捜索の邪魔となる空賊をかわす ☆万が一に備える ・交戦になれば回避を重視 ・捕まっているなら二人が逃げるための隙と時間を稼ぐ ・兄妹の所持品を持ち帰る。扱いは丁寧に ☆アニマ ・仲間との密な連絡や捜索中の索敵のサポートをお願いする
|
|
|
|
・ハッカーの索敵能力を最大限に活かして状況を把握、他の探究者にアニマ同士を介して、情報をリアルタイムに、なるべく多く、的確に伝える事を旨とする。 ・女性からの情報を元に、行方不明の双子を捜す。看視カメラ的な物がオンラインであるなら、その映像や記録も精査対象。 ・逃げ惑う市民の位置と状態、空賊の位置と状態、建物の状態……等の情報を収集し集積する。また、探究者各班に、それぞれ重要度の高そうな情報を優先に情報共有を(優先は優先であって、可能なら全部を共有する) ・安全そうな避難位置や医療的な事も、容態(状態)と相談して、女性を送迎する班に情報として送り、最終的に女性の避難先になった所を、双子を捜しに行った班に情報として共有する ・双子を保護した後の移動経路に関しても、明らかに危険なものは廃除しても、幾つかの選択肢を用意したい(送るのは指示ではなく情報だから、可能な限り一択にしない)
|
|
|
|
・心情 はぐれた、か…こんな状況、早く見つけないと危ないわ ・行動 セーレニアと共に母親を救護施設へ送り届ける 道中、子供の特徴やよく行く場所を聞き出す 得た情報は仲間に通信で伝える 捜索中に、まだ街に人が居るなら避難場所を伝えつつ、子供の姿を見てないか聞いてみる 空賊が居て誰かを攫っているようなら倒して尋問 尚、尋問は指を1関節ずつ瓦礫で叩き潰す拷問を併用して行う 本当に知らないなら、他の人に処遇を任せる ・台詞 子供の名前を教えてくれる?あと、その子達が好きな場所も 空賊か…何か知ってるかもね さて…1つ協力して貰いたいのだけど、子供を見なかった?(捉えた空賊に子供の詳細を伝える ………(非協力的な態度なら拷問執行)もう一度聞くわ。『協力』して貰えるかしら?
|
|
|
ろろ
( マニア )
|
ケモモ | アサルト | 25 歳 | 男性
|
|
|
|
参加者一覧
|
蓮 蒼馬
( アスナ )
|
ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
|
|
ろろ
( マニア )
|
ケモモ | アサルト | 25 歳 | 男性
|
リザルト
●【離れ離れの家族】
「えっ! はぐれちゃったんですか!?」
慌てた様子で『ロベリア』は言った。
目の前には涙ながらに事情を話す一人の女性。彼女の言葉には、自責の念と後悔で溢れている。
悩むことはなかった。
「子供達の名前を教えてくれないか?」
「あなたの名前と、子供達の大まかな特徴もだね」
『蓮 蒼馬』は冷静に母親から情報を聞き出し始める。それに『ヘリファルテ』が付け足した。
母親は「名乗り遅れました」と一言添えて、話し始める。
「私はフェリスといいます。子供は兄の方がアベル、妹の方がシュリアです。アベルは白いパーカーと黒いズボンで、短剣を腰につけています。シュリアはピンクの服とスカート、クマの人形を離さず持っていると思うのでわかると思います」
「それだけわかれば充分です。ありがとうございます」
ヘリファルテが言う。フェリスは「お願いします」と言って深く頭を下げた。
「悠長にしている時間はないわね……早く見つけないと危ないわ」
『カーディナル』の発言に全員が頷く。
「僕はハッカーの索敵能力を活かして状況把握に専念します。皆さんには子供たちの搜索と母親の救護施設への護衛をお願いしてもよろしいですか?」
『Truthssoughter=Dawn(トゥルーソウター ダーン)』は優しい口調で名乗り出た。
その発言にみんなが反応する。そして、それぞれが名乗りを上げた。
蒼馬、ヘリファルテ、『アーレニア=シャゴット』はフェリスが示したメインルートから、ロベリア、『ろろ』は別の安全なルートから兄妹の搜索。カーディナル、『セーレニア=シャゴット』は救護施設までフェリルの護衛。
短い話し合いの中で、流れるように役割分担がなされていく。
確認まで終えて、しかし一息つく暇もなくトゥルーソウターが告げた。
「あまり時間もありません。僕は監視カメラがあるところに移動して索敵を始めます。情報はアニマを介してお伝えします」
全員がその言葉に頷き返す。動機は違うが、望む結果は全員同じ。
それを合図に、彼らはそれぞれの方向へ駆け出した。
●【大人と子供】 母親護衛班
救護施設に向かうカーディナルとセーレニアはフェリスと共に、早歩きで進んだ。
「迷惑をおかけしてすみません……」
そう謝るフェリス。しかしこれも仕方のないことだった。
フェリスは踏ん張りのきかない足を引きずり、痛む腕をもう片方の腕で抑えている。
「いえいえ、私は貴方の親友ですからぁ……当然のことをしているまでですよぉ……?」
そう言ってセーレニアは笑いかける。
彼女が生み出す不思議な空気の中、カーディナルは通信機を繋ぐ。
「トゥルーソウター。このあたりには空賊はいるかしら?」
トゥルーソウターは「すぐ終わりますので」といって、入力端末を叩き始めた。
数秒後、トゥルーソウターは口を開く。
「救護施設までのルート及びその付近で、接触する可能性のある空賊はいないですね」
トゥルーソウターはカーディナルの他にセーレニアにも繋いで、情報を送りはじめる。
「ありがとね、ウォルフィス」
「ええ、どういたしまして」
カーディナルの言葉に、落ち着いた様子の女性のアニマ――『ウォルフィス』が返す。
アニマを介して行われるそれは、最初に空賊の情報、そして数秒おいて近辺の建物の状態、それを踏まえた複数のルートが次々と伝わってくる。
「ありがとう、助かるわ」
「いえ、他に何かありましたら連絡をお願いします」
では、と言って通信を終える。
受け取った情報を見て、自分の知識と照らし合わせていく。
ある程度終えた後で、カーディナルはフェリスに声をかけた。
「兄妹のこと、いろいろ聞かせてくれないかしら?」
「はい、わかりました……」
フェリスはそれに従う。
「まずは探す時に手がかりになりそうなところからかしらね。二人がいそうな場所とかわからない?」
「どんなことでもいいですよぉ……焦っても仕方ありませんから、いろいろ聞かせてくださいね……?」
二人の言葉に、フェリスは手がかりになりそうなことや兄妹の性格など、細かなことを少し辛そうに話していく。
大人として、親として。とにかく子供のことが心配なのだろう。
「大丈夫よ」
そんなフェリスに、カーディナルは言った。突然のことにフェリスは呆気にとられる。
「……え?」
「私たちが必ず見つけるわ。だから、大丈夫よ」
当然、確証はない。しかしその言葉にフェリスは笑顔を浮かべた。
「ありがとう、ございます……」
こんな状況だ。完全な笑顔なんて作れないだろう。
少しでも安心してくれれば、そんな気持ちで紡いだ言葉は、続くフェリスの発言で崩れさった。
「でも、あれですね……」
そう言い、フェリスは言葉を続ける
「キメラの人形を抱いた小さい子供に頼って、励まされるってなんか変な感じですね……」
少し笑いながらフェリスは言った。
カーディナルは、慣れた口調で言い返した。
「失礼ね。私はもう成人してるわよ」
「……え?」
綺麗な白い肌と緑と青のオッドアイをしていて、フェリスの胸辺りまでしかなく、大事そうに人形を抱いている子が、成人している?
驚きを隠せないフェリスと、それを見て怒りはしないものの何も言えないカーディナル。そして、周りをキョロキョロしながら気にせず進むセーレニア。
戦場ではありえない、何とも緊張感のない護衛がそこにはあった。
●【行く手を阻む空賊】 兄妹搜索班――安全ルート
一方その頃、ロベリアとろろは安全なルートを搜索中だった。
安全、とは言っても戦場に完全な安全地帯なんて存在しない。ここも、少なからず傷跡が残されていた。
「トゥルーソウターさん、ここら辺に空賊や市民の反応はありますか?」
通信機越しにロベリアは話しかける。トゥルーソウターは入力端末を一定のリズムで叩き始めて数秒後、情報を伝え始める。
「ロベリアさんとろろさんの付近には空賊はいないようです。これから進む方向から見て、二人の空賊と遭遇する可能性はあります」
トゥルーソウターはそう言って、索敵で得た情報を送る。
「届きました! ありがとうございます! アーモンドもありがとう!」
「えへへ! どういたしまして!」
ロベリアは二人に礼を言う
彼女のアニマ――『アーモンド』はロベリアの役に立てて喜んでいるようで、ピンクの髪を揺らしながら可愛らしい笑みを浮かべた。
それを見てから、ロベリアは情報に目を通し始める。
「それでは私は引き続き兄妹らしき人物を探します」
「はい、お願いします!」
そう言って通信を切る。情報を頭に詰め込んで、二人は走り出した。
「ろろさん、一緒に頑張りましょう!」
ロベリアの言葉に、ろろはやる気の表情で頷いた。
二人は足場の悪い地面を蹴る。ロベリアは崩壊した街と昔の綺麗な街を思い浮かべ、照らし合わせながら進んでいった。
ろろが急に止まり、ロベリアを手で制した。
「ど、どうしたんですか? ろろさん?」
ロベリアの質問に、ろろはある方向を指さした。ロベリアはその方向を見やる。
「……空賊、ですか」
ロベリアの呟きにろろが頷く。その方向には空賊がいた。
目を凝らさないと見えない距離。ケモモであるろろは他種族よりも感覚が鋭い。だからこの距離でも気づけたのだろう。
相手は情報通り二人。こちらも二人。面倒なことに進行方向を見事に塞がれているが、相手は全く気づいていないようだ。
「片方お願いしてもいいですか?」
ロベリアの問いかけに、ろろは小さく頷く。
二人はゆっくりと距離を詰める。そして、残り数十メートルのところで加速した。
空賊が気づく。
しかし後出しの上、身体能力ならケモモであるろろが負けるはずがない。空賊が何か行動するよりも早く、自分の持つ得物を力強く振るった。空賊は勢いのままに吹き飛んだ。
今更この事態に気づくもう一人の空賊。しかし、その空賊すらも―――
「えいっ!」
ロベリアは銀色の髪を揺らしながら魔法少女が持つ杖で、空賊の頭を渾身の力で殴打した。
何もさせることなく、二人の空賊は地面に伏した。
「ろろさん、速いですね……」
ロベリアは息を整えながら訴えかける。ろろは笑いながら申し訳ない、という表情を浮かべる。こればかりはケモモとデモニックの種族差なので仕方のないことだが。
少し落ち着いて、ロベリアは顔を上げた。
「よし、行きましょう!」
二人は搜索を再開する。
しかし、それは通信機から発せられた声によって、別のものに変わった。
「皆さん。兄妹――アベルとシュリアの大体の場所が掴めました」
兄妹の搜索から、保護へと変わった瞬間だった。
●【それでも止まれない】 兄妹搜索班――メインルート
時は少し遡る。蒼馬、アーレニア、ヘリファルテはフェリスから教えてもらった道を愚直にもまっすぐ進んでいた。
「かなり破壊されちまってるじゃねぇか……!!」
アーレニアは苦々しい表情で叫んだ。
記憶の中にあるレーヴァテインの街中の光景は、跡形もなかった。
とはいえ、アーレニアの怒りの矛先は他とは違う。
「ぶっ壊すもの……ないじゃねーかよォ!!」
どさくさにまぎれて破壊でもする気だったのだろうか。
もちろんヘリファルテと蒼馬はそんなアーレニアの胸中なぞ知る由もない。
ヘリファルテは通信機越しに問いかける。
「トゥルーソウターさん、聞こえますか?」
「はい、聞こえています。地形のことですね。まず、ヘリファルテさんたちがいる場所は―――」
そう言ってトゥルーソウターは次々と索敵で得たあたり情報を伝えていく。ヘリファルテたちはその情報とレーヴァテインの地形を照らし合わせていく。
「―――となります。行動は皆さんに任せます。それでは情報を送りますね」
「ありがとう、助かる」
蒼馬は端的に言う。
「いえ、それと……その位置から数メートルしたところに、おおよそ十人の空賊がいます。詳しくわかり次第、追加で情報を伝えます」
「リョウカイだ! せいぜいあがいてくれよォ……?」
アーレニアがニヤリと笑みを浮かべた。
情報によると、前方に八人、少し離れたところに数人の空賊がいる。
トゥルーソウターから受け取った情報は空賊と地形だけでなく、逃げ惑う市民の情報もあった。
「つくづく下衆な奴らだ……」
蒼馬はそう吐き捨てる。
「その市民たちも助けてあげないといけないね」
「そうだな。それに、兄妹の情報も得られるかもしれない」
ヘリファルテのその言葉に、蒼馬はこくりと頷き答えた。
三人は一気に駆け出す。
空賊のところまでそれほど距離はない。
目の前に空賊が見える。
市民を追いかける空賊たち。最初にたどり着いたのはフェアリアであるヘリファルテだ。
ヘリファルテはサイレントムーブを使用し、気づかれずに市民と空賊の間に割り込むと、空賊によって振るわれた武器を自分の持つ短剣で受け止めた。
「なに!?」
空賊が目を見開く。その一瞬の隙を見逃さず、短剣で空賊の武器を押し返した。その間にアーレニアと蒼馬が遅れてやってくる。
「よっしゃあ! コイツらはワタシのエモノだからなァ?」
アーレニアは昂ぶりを一切隠そうとせずに言った。空賊ですら若干引いている。
しかしアーレニアにはそんなこと、全く関係なかった。
気づいたときには、空賊の後ろに居た。
「まずはヒトリィ……」
そう呟いて、アーレニアは空賊の首を一寸の躊躇いもなく切り裂いた。
「……は?」
遅れて空賊の口から声が漏れる。
しかし、もう遅い。首元から勢いよく鮮血が飛び散り、その後で気づいたかのように相手の身体はどさりと崩折れた。
「次の相手はダレカナァ……?」
アーレニアは次の標的を見据えて、ニタリと笑う。
その表情は狂気で溢れていた。
「アーレニアは相変わらずだな……!」
「これがワタシの楽しみだからなァ……!」
アーレニアのアニマ――『アンサー』はそれを見て笑う。
アーレニアも釣られて笑いながら、次々と空賊の首をはねていく。
「……情報を得たいんだが」
恐怖に染まった空賊たちが逃げていくのを見て、蒼馬は溜息を吐く。しかしもちろん、同情心は全くない。
「私は市民に近くの救護施設への道を教えてくるよ」
ヘリファルテはそう言って、トゥルーソウターから情報をもらい、市民への案内を始めた。
それに蒼馬が軽く頷くと、逃げていく空賊の後ろを追いかける。
そして空賊の背後、手の届く距離についたところで空賊の肩を強引に掴んだ。
無理やり振り向かせる。驚く空賊のことなんか歯牙にもかけず、言い放った。
「このあたりで、男女の幼い兄妹を見なかったか?」
「し、知らな――」
「見なかったか……?」
「み、見てない! 本当だ!」
嘘ではないのだろう。この空賊は何も知らない。
用無しの空賊を投げ捨て、軽く舌打ちする。
「……ん?」
服を引っ張られている感じがして蒼馬はその方向を見る。
そこには、心配そうに蒼馬の顔を覗き込むアニマ――『アスナ』がいた。
「……大丈夫だ。必ず、兄妹を見つけるさ」
そう言ってポンポンと頭に手を置く――ような素振りをした。
実際に触れることはできない。それでも蒼馬は手を動かし、安心させるように笑いかけた。
「蓮さん、こっちは終わったよ」
「あーあ、全員逃げちまった……殺したりねぇなァ……」
ヘリファルテとアーレニアがやることを終えて戻ってくる。
「尋問は失敗した。お前らは?」
「情報なんて知らねぇなァ……」
蒼馬は自分の結果を告げる。アーレニアはそもそも尋問なんて面倒なことをする気はなかった。
そして最後に、ヘリファルテが言った。
「市民の何人かが、兄妹の居場所を知っていたよ」
それに蒼馬は食いついた。
「……それで?」
「トゥルーソウターさん、聞こえますか?」
「はい、聞こえています」
ヘリファルテはトゥルーソウターにも伝えるために再度通信機を繋げる。そして、市民から得た情報を話していく。
「リュミエール、お願いしますね」
「はい!」
長い付き合いの二人の間には、凝った会話など必要なかった。
トゥルーソウターはオンラインの監視カメラを活用し、自分のアニマ――『Lumiere=Douceur(リュミエール=ドゥサール)』と協力して索敵していく。
どれだけ時間が残されているかわからない。もしかしたらもう既に殺されているかもしれない。
だが、それでも進まなければならない。
兄妹を搜索、保護すること。それが今回の依頼で、母親であるフェリスの望みだから。
離れ離れの家族のために。
彼らは止まれない。止まることは許されなかった。
●【信じて待つ】 母親護衛班
救護施設に着いたセーレニアとカーディナルはすぐにフェリスの応急手当を始めた。
ここには簡単な医療道具は一通り揃っていた。しかし、肝心の医療を施せる人が足りていない。
そこでセーレニアが申し出たのだ。
「それなりに知識があるので、道具が揃っており設備を見せて頂ければ、応急手当くらいなら施せますよぉ……?」
さりげなく設備の見学を条件に出すことも忘れない。
施設の人々はその言葉に大きく沸いた。飛び交うお礼の言葉に、セーレニアは言う。
「私は貴方たちの親友ですから……当然ですよぉ?」
深い紫色のロングヘアーを静かに揺らし、セーレニアは優しそうな笑みを浮かべた。
「ここは興味深いですねぇ……」
「そうだね、いろんな設備があって面白いよ……」
セーレニアの感想にアニマ――『クエスチョン』が頷いた。
応急手当を終え、あとは安静にしているのみというところでカーディナルが言った。
「セーレニア、もういいかしら?」
「少し名残惜しいですが、大体は見ることができたので大丈夫ですよぉ……」
フェリスを送り届けた以上、長居は無用である。
市民の手当も当然大事だが、兄妹の失われるかもしれない命と比べればそれも霞む。
二人は救護施設を後にした。それまでに聞き出したフェリスや市民からの情報はトゥルーソウターに伝え、索敵に役立ててもらっている。
いまできることといえば、未だ見つからない兄妹の搜索に参加することくらいだ。
「空賊が何か知っているかもね……」
カーディナルは尋問を、果てにはそれなりに残酷な拷問をも辞さないつもりでいた。
「とにかく、急ぐわよ」
「そうですねぇ……」
カーディナルがそう告げ、セーレニアが答える。しかし、カーディナルの拷問――もとい、尋問は実際に実行されることはなかった。
トゥルーソウターからの音声が届く。
「みなさん。兄妹――アベルとシュリアの大体の場所が掴めました」
突然の報告に驚くが、すぐに冷静になる。
「トゥルーソウター、兄妹の安否はどうなのかしら?」
「それはまだわかりません。ですが、索敵に引っかかるので生きていることは確かです」
「そう……わかったわ。情報助かるわ」
通信は切られる。それと同時に二人のアニマに情報が伝えられる。
「急いで向かうわよ」
「はい、わかりましたぁ」
二人は兄妹を救うため、伝えられた情報を胸に、荒れた地面を蹴った。
●【兄妹の絆】 兄妹搜索班
蒼馬、ヘリファルテ、アーレニアは現在、兄妹のいる場所まで最短距離で走っていた。
「アベル! シュリア!」
蒼馬は兄妹の名前を叫ぶ。しかし返事はない。
焦りが募る。最悪な結果を想像して、すぐに首を振った。そんなこと、あってはならない。
必死に捜す。しかし、一向に見つかる気配がない。
「蒼馬さん! ヘリファルテさん! アーレニアさん!」
急に声をかけられ、僅かに身構えるがすぐにやめる。
「ロベリアとろろか……」
その声の主はロベリアだった。ロベリアとろろがこちらに向かってくる。
「そちらは見つかりましたか!?」
「いや、まだだ」
蒼馬の発言にロベリアは「そう、ですか……」と浮かない顔をした。
その数秒後のことだった。
「ペルラン、声が聞こえないか?」
「え……?」
五感を研ぎ澄ませていたヘリファルテが、唐突にそんなことを言い出したのだ。彼のアニマ――『ペルラン』も、ヘリファルテに言われて耳を澄ませる。
『やめ……助け……』
「……!! ペルラン!!」
「うん、私にも聞こえたよ!」
そのあとのヘリファルテの行動は早かった。
「トゥルーソウターさん!」
「はい! 場所は監視カメラで確認済みです。すでに情報は送りました!」
トゥルーソウターは早口でまくしたてる。五人は一斉にアニマの方を見た。
続けて、言葉を放つ。
「兄妹の居場所は前方の路地、空賊はそこに三人、近辺に五人います」
その言葉が紡ぎ終わる前に五人は駆け出していた。
救える命が、手に届く命が、たった今潰えようとしている。
一番速いのはヘリファルテだった。少し遅れてろろが、全速力で兄妹の元へと駆ける。
路地に入る。そこにはアベルとシュリアがいた。
アベルは妹を守るように前に立って必死の表情で前に短剣を構え、シュリアはクマの人形を抱きながらアベルのそばをぴったりと離れない。
ものすごく怖いのだろう。短剣を持つ手は小刻みに震えている。
しかし、二人の目に涙はなかった。強い絆が、二人の間にはあった。
状況はすでにトゥルーソウターのおかげで知っている。すぐにヘリファルテはサイレントムーブを使用した。
数人の空賊を横切る。狙うは兄妹の前にいる二人の空賊のうちの一人。
「ふっ……!!」
ヘリファルテは空賊の、武器を持つ方の腕を切りつけた。
痛みに悶える空賊。数秒遅れてろろが、もう一人の勢いよく吹き飛ばす。狭い路地を空賊が転がる。
呆然としているアベルとシュリアに、ヘリファルテは告げる。
「君たちのお母さんに頼まれたんだよ。一緒に帰ろう?」
兄妹にかけられた優しい言葉。
我慢の限界がきたのだろう。二人は涙声になりながらも、強く頷いて、大きな声で言った。
『うん……!! 帰るっ……!!』
蒼馬、ロベリア、アーレニアが遅れて路地に入る。
「怖かったですよね……よく頑張りました……!」
ロベリアは二人に近づいてそっと抱きしめた。少しでも安心できるように、二人の頭を優しく撫でる。
蒼馬は守るようにその前に立った。アーレニアも短剣を抜いて、鋭く睨みつける。
向かってきた空賊は蒼馬のカウンターアタックで殴り飛ばし、アーレニアが喜々として切り倒す。
「空賊はこれが最後です。戦闘お疲れ様でした」
しばらくして、そんな言葉が通信機越しに届く。それは戦闘終了を知らせるものだった。
「救護施設までのルートをお送りしますね」
今回の情報は帰還ルートだった。最短ルートだけでなく、地形を考慮したものから、比較的安全なものまで、何個かの道がある。
「最後までありがとう、トゥルーソウターさん」
「いえ、では最初の場所でお会いしましょう」
通信が切られる。
手を繋ぎあうアベルとシュリアのペースに合わせて進む。途中でフェリスを護衛したカーディナルとセーレニア、今まで索敵能力で状況を把握していたトゥルーソウターと合流した。
保護には成功したが、何が起こるかわからない。最後まで気を抜くことなく、全員揃って帰り道を歩いた。
●【少年の決意】
いつ空賊が現れても対応できるように警戒していたがそれは杞憂に終わり、帰り道は特に何事もなく、救護施設にたどり着いた。
入口には、フェリスが立っていた。
「アベル……シュリア……!!」
『おかーさぁぁぁん!!!!』
アベルとシュリアは母の姿を見るやいなや、傷だらけの体で飛びついた。それをフェリスは傷だらけの体で受け止めた。
「ごめんね……! 私が手を離さないでいれば……!」
「怖かったよぉ……!」
「うぅ……!」
離れ離れになってしまった家族の、感動の再会。
「ありがとう……生きていてくれて、ありがとう……!」
フェリスは子供たちを優しく包み込むように抱き、涙声で言った。
「本当に、ありがとうございました!」
フェリスは満面の笑みを浮かべながら、深く頭を下げた。
「皆さんと出会えなければ、私たちは離れ離れのままだったでしょう……本当に、感謝しています!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう!」
「……ありがとう」
シュリアは可愛らしい笑顔で、アベルは思案顔を浮かべながら、礼をした。
蒼馬はそれを見て、満足そうに表情を少し緩ませる。兄妹の頭を撫でながら、蒼馬は言った。
「もうお母さんとはぐれるんじゃないぞ」
「うんっ!」
シュリアは嬉しそうに答える。
アベルはそんなシュリアを隣で一回見て、正面を向いて言った。
「ボク、兄ちゃんたちみたいに強くなって……シュリアとお母さんを守れるようになるよ!」
アベルの目には八人の探究者への尊敬と強い憧れが、その言葉には力が溢れていた。
決意を固めたアベルの顔は、空賊に囲まれた時の恐怖に染まった表情とは違い、前向きで立派な、探究者の顔だった。
依頼結果
依頼相談掲示板