プロローグ
今ここに書き記すことは、きっと何の意味もない。
だけど今の僕には、ぼんやりとでも何かを思考している必要があるのだと思う。
未来に待ち受ける絶望へと、飲み込まれてしまわないように。
あの日、初めて漆黒の悪魔が現れた日。あの時既に僕たちの世界は終わっていたのかもしれない。
最初に襲われたのは商業旅団、ファヴニル。七つの旅団の中でも強力な軍事力をもつあの飛空艇が、たった1日で沈んだ。
伝説の龍は僕らの伝え聞いたよりも遥かに大きく、その雷撃は遥かに強い。伝説通り空を割るようなあの一撃は、船体を簡単に引き裂いてしまった。
そこから落ちる無数の人や物。あれだけの物資があれば、一時的でもどれだけの人間が助かったのか計り知れない。
それから数日経った時であろうか。
芸能旅団、ミルティアイが空の世界から消えた。
あの時旅団の代表ともいえるエンジェルボイス航空団は、メンバーごとに分かれ各旅団を励ましていた。 だが、その活動の最中にまた『あれ』はあらわれた。これは最悪の偶然か、はたまた最低の運命だったのか。心の支えである彼女たちの死が最初に訪れたことは、旅団の崩壊を一気に加速させていたはずだ。
確か同じころにログロムも堕ちたのだ。
技術旅団である彼らが生きていたなら、あの醜い龍を討ち滅ぼせる何かを作れただろうか。
いや、彼らの軍も一流だったはずだ。そして国家全体が軍事に対しての用意と結束を持っていたはずなのに、それでも負けてしまったのだ……。
やはり、こんな行為は無駄なのだ。
人々はかすかな希望に身を任せ戦い、伝説によって無残にも歴史から消え失せるのだ。
ああ、今ならわかる。アビスメシア教団の言うことを聞くべきだった。
どうせ死ぬなら、少しでも希望を持っていたい。だがもう遅いな。
さぁ龍よ、その雷撃で、せめて一瞬で私を終わらせておくれ。
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貴方は、あの戦いの最中に拾い見た日記の内容を思い出していた。
日記の作者はこの世界を確かに見つめていた。最後の絶望の中でも。
思いを馳せる中、何かの音にふと我に帰る貴方。
戦闘の混乱のためか、貴方の通信機には見知らぬ人からのたくさんのメッセージが届きます。
「孤高の鷹団、守備隊12番文隊員応答せよ。我々は旅団全体の指揮系統から外れてしまった。よって今後の指揮は私、カーターの判断に従ってもらう。早速だが各自、現時点で任務の変更を命じる。護衛中の輸送船・エリアからの退避だ。救援が見込めない今、我々だけの戦力ではこの場を守り切ることは出来ない」
「誰か聞こえる!? エンジェルボイス航空団メンバーの一人、ルイだよ! 船の操縦が利かないの! お願い、助けに来てっ! このままじゃブロントヴァイレスに突撃しちゃうよ~~~!」
「エルマー部隊長! エルマー部隊長! くそっ、エルマー部隊長、早く旅団にお戻りください。このままでは攻撃が行えません! 索敵班、蛍緑丸(けいろくまる)の信号はまだ見つけられないのか!」
あの時、あの人がいたならば。
あそこで、あれをしていれば。
あのまま、あの場を守れたとすれば。
今、新たな歴史の中で再び龍の悪夢と戦う貴方達。
ですが、それに立ち向かっているのは貴方達だけではありません。彼らの戦いの要となる人物たちを助けられれば、たくさんの御礼と、勝利という一番の報酬が貴方を待っているはずです。
さぁ、小さな歯車をどう動かすかは、貴方次第。
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エピソード③:愛のしるし
「エルマー部隊長! エルマー部隊長! くそっ、エルマー部隊長、早く旅団にお戻りください。このままでは攻撃が行えません! 通信班、蛍緑丸(けいろくまる)の信号はまだ見つけられないのか!」
通信機が音を立てる中、青年はそれを鼻で笑いながら聞いていました。
「バカかよアンタらは……こういうの、灯台下暗しって言うやつか?」
「エルマー……もう、行って下さい」
「おい雪白(ゆきしろ)……それ、オレに死ねって言ってんのと一緒なんだけど、分かってる?」
エルマーは、自分のアニマである雪白にそう語りかけます。冗談事でも話しているかのような彼の額には、玉のような汗がにじんでいます。
「でも、このままじゃ貴方も!」
「分かった分かった、お説教は帰ってからゆっくり聞かせてもらうよ」
「私は本気で!」
「オレだって本気だ! ……あんたのいない世界に意味なんてねぇんだよ……!」
雪白は、彼の言葉の重みに口をつぐんでしまいます。
この足が動かせたならば。どんなにそう思っても、瓦礫に挟まれた足はぴくりとも動きません。
「あんたを拾ったあの日から決めてんだ……俺が絶対助けるって……ぐあっ!」
彼の魔装化した腕からは、大量の血が流れています。
「エルマー……」
事は数時間前。雪白の体である生体ユニットを修理する道具を買うため、エルマーは自身の船、蛍緑丸
でファヴニルへと買い物に赴いていました。無事に必要なパーツを買い揃え帰途につく途中、突然彼の船は襲撃を受けたのです。犯人はアビスメシア教団の人間たちでした。彼らの意図は不明ですが、雪白の存在を是としない彼らは執拗に追い打ちをかけました。
結果、蛍緑丸は近くの旅団に墜落。脱出を図った2人は墜落の影響で起きた崩壊に巻き込まれてしまいました。
そう、彼女の宿った生体ユニットはその時瓦礫の下敷きになってしまったのです。辺りはビルの破片や、瓦礫の山で覆われ、小さな明かりが入り込む隙間を除けば、暗く静まり返っています。
「ちくしょう……この馬鹿腕が。もう少し、持てっ……」
「エルマー、それ、こっちに蹴って」
「ん?」
彼女が指さしたのはエルマーの通信機でした。
「どうする気だ? 奴らに通信を傍受されちまったら、こんな状況じゃ反撃できねぇぞ」
「お願い、私を信じて下さい」
「へっ、そう言われたら大抵断れねぇの、知ってんだろう……よっ!」
エルマーは、近くに飛んでいた通信機を雪白に蹴とばして渡します。
「ぐっ……!」
ですがその衝撃で、エルマーは片膝をついた状態になってしまいました。
このままでは、2人を押しつぶそうとしている破片を持ち上げるどころか、そう長くは持たないでしょう。
(お願い、誰か気づいて……!)
雪白は、そう願いを込め通信機を手に取ります。
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「通信機におかしなノイズがあります」
「どれだ?」
その頃、黒いローブの集団は辺りを執拗に調べ続けていました。
「これは何かの暗号か?」
「そのようですが、内容までは」
「まぁ良い。見つけてしまえば同じことよ」
彼らの指揮者と思われる男は、黒く染めた歯を鈍く光らせました。
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一方、ログロムの通信室にもこの音は届いていました。
「これはエルマー部隊長の! ……暗号班、解析を!」
「どうやらログロム式の暗号ですね。解析結果、表示します」
【我が身、夕光を映して愛を照らさん】
「一体この暗号にどのような意味が?」
「分からない。だが、通信班・暗号班は引き続き注意を払っていてくれ。索敵班、引き続き蛍緑丸を捜索。ライトが当たればアビスの中でも薄緑色に光るはずだ!」
崩壊のカウントダウンは止まることがありません。
果たしてこの結末はいかに。
※このエピソードはグランドプロローグ「崩壊の始まり」の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお「崩壊の始まり」にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
解説
③愛のしるし
ログロムの一指揮官、エルマーがアニマと共に閉じ込められています。彼らの救出が目標です。
現在彼らの位置は、はっきりと分かっていません。ログロム索敵班はエルマーの行動記録から、これまでファヴニル内を捜索していましたが、痕跡を見つけられていません。
同じ旅団内の通信はハッキリと聞き取れますが、別の旅団や空での通信はアビスの影響で繋がらない場合もあります。
現在ログロムでは、敵の攻撃の影響を受け各地で倒壊したビルがあります。また、町の北側・東側・西側にてアビスメシア教団員が複数目撃されています。彼らは全員の力を合わせても倒しきれないほど多数です。陽動等を行う際には囲まれないよう注意が必要です。
蛍緑丸は、暗闇内又は特殊なライトを当てると、外装が蓄えた光を放出し光ります。
墜落直前、外装は多少剥がれ落ちており、これを利用すれば痕跡を発見できます。
雪白は皆様と同様、エルマーの体内にあるアニマリベラ―によって生成された情報生命体であり肉体を持ちません。
しかし彼は、アニマに実体を持たせる実験の過程で生まれた、生体ユニット(体長30cm程度の人型ロボット)を彼女の本当の体と考えており、助け出そうとしています。機械との同化などが出来ない他、ボディは瓦礫に足を挟まれてしまっています。瓦礫は普通の石ころサイズのため誰でもどかすことが出来ます。
何処から電波が出ているか分かれば通信機で彼女と話すことが出来ますが、この通信は傍受されてしまいます。
エルマー自身は体力の限界が近い状況です。
彼の抑えているビルの破片はかなりの重さがあり、持ち上げる際には、それに関わる全員のSTRの合計値が30~80必要です。この数値はVITが高い探究者が、早く目的地にたどり着けるほど小さくなります。
アニマが索敵やエスパイロの操作などを行わず、瓦礫を持ち上げることに集中すれば「基本能力値/4-1」が主人の能力に追加されます。
ゲームマスターより
このゲームでは一キャラがグランドプロローグのリザルトで活躍し、連動エピソードでも同じ時間のはずなのに活躍する場合が出てきます。本来はあり得ませんがゲーム上この矛盾は無視されます。
ですが今回は、同じ時間のほぼ同じ場所で起きる出来事として扱う為、基本的に同名タイトルシナリオへの複数参加はご遠慮ください。
※メタ的に言えば、抽選漏れを減らしより多くの方が楽しめるようにするためです。
このシリーズでは、プランの判定などが他のシナリオと比べて厳しい(判定するポイントが多い)ですので、皆さんとアニマ/皆さん自身の協力がとても重要です。
プロローグ・解説内にない手段を用いてのアドリブプランも大歓迎です。ルール上ご期待に添えない場合もありますが、なるべく採用していきたいと思っています。
あくまで隠された真実ですのでグランドプロローグへの影響はありませんが、是非新しい未来を掴み取って下さい!
【隠れた真実・歪】あの日の君に希望の欠片を(3) エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/9 0
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難易度 |
難しい
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報酬 |
多い
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公開日 |
2017/7/19 |
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瓦礫をどかしながら探すわ…大きいサイズは剣で斬って進ませてもらうわ… あと、落ちてくる破片を盾でガードするわ… 「破片は任せなさい…」
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星野平匡
( ハルキ )
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エルフ | スナイパー | 36 歳 | 男性
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平匡は非力である。しかしながら知識は人一倍ある。 「いつもエルマーさんにはお世話になっています!必ず救出します!」 仲間に笑われたが、平匡は気にしない。そんな奴らにかまってる暇はないのだ。 「夕光ということは西の方角かな。」 平匡はエスバイロを最高速度まで加速させ、エルマーを探す。発見の報があったら、すぐさま向かう。 現場に着いたら、仲間の探索者に手持ちのロープを渡し、エスバイロと瓦礫を結ぶことを指示する。 「エスバイロの推進力で瓦礫をどかしていきましょう!」 救出活動中に教団が現れたら、操縦はアニマに任せ、平匡はスナイパーライフルで攻撃していく。近接戦闘時はガンフーと一子相伝の蹴り技「タイキック」。 「邪魔をする人には消えてもらいましょうか。」 救出後、平匡は自分のエスバイロにエルマーを乗せ、拠点に戻る。雪白は別のエスバイロに乗せる。蛍緑丸などの事後処理は他の探索者などに任せる。
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エルマ―さんが緊急事態だから、終わったら体力補給できるものとか用意した方が良さそうかなー水と―食料と―怪我をしていたら大変だし、救急セットとかも準備はしておけば十分かなー?とりあえずそれだけ持って探索へレッツゴー! 暗号の【我が身、夕光を映して愛を照らさん】って言葉的に夕日で何か条件があるのかも―…愛が何かは分からないけど、夕日が落ちる場所…それと南側に教団の人が少ない…そっちに探しに行く人も多いだろうから…西と北を中心に行ってみようか。あんまり素早さとかもないから、教団の人に注意しつつ、さーがそー もし夕方までに見つからなかったら、光を頼りに探すってことで! どこら辺探すのか意見交換できたら効率的に探せるけど―…望み過ぎても仕方がないか。出来ることをやらなきゃ アニマがエスパイロを使うのをやめる代わりに瓦礫を持ち上げることに集中してもらおう…ただでさえ非力だしこれくらいはしないとね
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ログロムの通信室に向かい通信精度の向上と通信室を利用した大規模な索敵に努める。エルマー達の発見は勿論、アビスメシア教団員の正確な位置も索敵するよう努める。ほんの一瞬だけ電波の出ている位置を特定するも、すぐに見失ってしまう。(特定といいつつ、かなり大雑把な方角しか特定できず。)エルマー達の発見、救出、または敵が先に発見した時、時間稼ぎのための最終手段として敵の通信手段を妨害する電波を発生させる。しかし、味方の通信手段も妨害してしまうので、最終手段。
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ルー
( ローパー )
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ドワーフ | スナイパー | 14 歳 | 男性
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持ち込む武装は銃(狙撃銃) 銃のスコープを望遠鏡替わりとして高所からの捜索メインとする。可能なら銃のレーザーポインターとして、蛍緑丸が発光するライトを装着。 まずはどこの旅団にいるか確定させる。高所からファブニルやログロムなどの複数の旅団を捜索する。見つかったらログロムの通信室を介し連絡。通信が改善されてなさそうなら味方に直接連絡。 旅団が確定したら安定した高所(ビルの上など)を拠点に捜索。 崩壊したビルの隙間を覗き込み内部が発光してないか確認。隙間がなさそうなら銃弾を撃ち込んで無理やりにも穴をあける。 見つかったらいきなり救助に向かうのではなく、救助に支障がでないように付近の敵陣営を狙撃によって妨害。 特に敵がいない、もしくは安全になったら救助に向かう。瓦礫はエスパイロに紐かなにかでしっかりとくくりつけ、エンジンを用いてひっぱる。
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エルマーと雪白の捜索、救出に向かいます。 捜索時にアビスメシア教団員に見つからないように、よく周囲を確認しつつ、サイレントムーブを駆使して、教団員を回避しながら捜索します。 万が一見つかってしまったら、地形を複雑に、かつ素早く移動してかく乱しながら追跡を回避します。 また、捜索時は蛍緑丸から剥がれ落ちた装甲を目印にできるよう、それを探しつつ、それを基にエルマーの所在をたどっていきます。 (可能でしたら、事前に捜索班の人から特殊なライトを借りて、それも利用して捜索します) 雪白やエルマーを見つけたら急いで救出!エルマー救出の際は仲間と力を合わせて行います。 その間も周囲の警戒を怠らず! 万が一救出中に教団員を確認したらみんなの意見を参考に協力して対処します。 それから、いずれの場合も、仲間とこまめに連絡、可能な状況ならアニマも含め連携して、捜索及び団員回避の効果を上げていきます。
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速やかにエルマー部隊長の元へ向かうために通信機で連絡を取り合うべきですが、暗号での連絡が来たという事は通信は何者かに傍受されていると考えるべきです。連絡はログロム式の暗号でやり取りをするよう提案します。こちらから暗号を使って部隊長に居場所を確認する事は出来るでしょうか?試してもらいます。 探索の際に何かしらと遭遇する可能性もあります。隠密行動を心がけ、何かしらと遭遇した場合は直ぐに通信を入れて囮として北側へ敵を引きつけます。 頂いたヒントが居場所を示しているなら解き明かすべきですが、『我が身、夕光を映して愛を照らさん』は夕日に照らされていると言う事でしょうか?ゲッカコウのサポートを貰ってエスバイロで西から東に向けて探索、更に陽の光が当たっている場所に特殊なライトを当てながら探します。 発見したら皆に連絡をした後、エスバイロを使いながら瓦礫をどかしていきましょう。
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参加者一覧
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星野平匡
( ハルキ )
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エルフ | スナイパー | 36 歳 | 男性
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ルー
( ローパー )
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ドワーフ | スナイパー | 14 歳 | 男性
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リザルト
●光の裏に蠢く脅威
一度目のブロントヴァイレスによる襲撃から生き延びたファヴニル、ミルティアイ、ログロム。
これらを含んだ七大旅団は未曽有の危機に対抗すべく急遽同盟を結成した。
『オクセン・マイスナー』は、アビスに覆われた空をエスバイロで駆ける。
(かつての歴史では滅んだ旅団達、か……これでこの世界も変わっていけるだろうか)
そう、探究者である彼らは、闇へと飲まれてしまった【存在しないはずの過去】を知っている。
だがそんな彼らにとっても未知の事はある。それはかつて【存在しなかった未来】なのだ。
その事に不吉な予感を感じていた彼は、かつて滅んだ3つの旅団周辺を警備していた。
そんな時、彼の通信機にログロム通信室の音声が紛れ込んでくる。
(大方、今度の同盟でエルマーの代わりがいないのだろうな)
技術旅団ログロムは全てが個人の技術集合体と言っても過言ではない。
それは武装や器具の開発だけでなく、戦闘においてもまた各分野のエキスパートがその技術の粋を結集させる。
そうして完成した軍隊は他の旅団とは異なり、異質な強さを持つものの、技術が1つでも欠ければたちまち脆くなってしまうのだ。
この事態を知り、彼は捜索に参加するため通信機によってログロム通信室と連絡を取ろうとする。
だがアビスの闇がそれを阻む。
「まずは彼のいる旅団を見つけなければ」
(オクス! あれを見て下さい!)
彼はアニマ『シュリー』の緊迫した様子に急ぎ視線を移す。
そこには闇に紛れてログロムへと進行する小型艇があった。
「あれは! アビスメシア教団……」
アビスメシア教団。
その組織力、軍事力。全てが不明ながらも世界の隅々で暗躍する彼らは、まさに見えざる影といったところだろう。
「恐らくあれがエルマーにつながる。シュリー、スプライトのエンジン駆動出力を最小限に。尾行する」
(分かりました。オクス、くれぐれも気をつけて)
「ああ」
今まさに、新たな未来の光を覆い隠さんとする影の魔手。
オクスを筆頭にエルマーの通信を聞きつけた探究者達はこの危機に急遽ログロムへと集う。
●情報を制する者
エルマーの通信を聞き、真っ先にログロムの通信室へと向かったのは、『キース・ヴァールハイト』だった。
「なんだお前は!?」
探究者の存在は世間に広く認知されているため、ある程度は助力を得ることが出来る。
だが、ログロム通信兵は突然の来訪に驚きを隠せない。
指揮官が欠けただけでこんなにも練度が落ちるものかと、キースは頭を悩ませる。
「俺はキースだ。ここの通信室を利用させてもらう」
「部外者にこの設備を貸すわけにはいかない」
「お前こそ、一介の通信兵の分際でそんな権利があるのか?」
キースは側にあるデスクを思いきり叩きつける。
バンッ! という音は、兵士達の注意を向けさせるには充分だった。
「時間がないんだろう? 安心しろ。何も乗っ取るつもりはない。一帯の通信制度を向上させ、エルマーを見つけ出そうというだけだ」
彼の強気な態度に、思わず萎縮する兵士達。
規律にはうるさい彼等もついに事態の緊急性を理解し、通信室内でのアクセスを許可する。
キースはそれを受けアニマ『マナビ』をシステムへと同化させる。
「任務を始める。任務内容はエルマー及び教団員、双方の索敵。またエルマー捜索に協力出来そうな探究者が居れば、彼等に通信を開き援助も同時に行うものとする。マナビ、1人も漏らすなよ!」
(了解ですキース。でも貴方、少し熱くなりすぎです。そんな辺りに強く当たって……自重して下さい)
「煩い! ここは技術の聖地。何かあれば研究に支障が出る。俺の研究の障害は、俺自身の手で排除する!」
(またそんなことを……)
彼女は肩を竦めるようなジェスチャーをすると、帰ったら情熱の示し方について話し合わねば、等と考えつつ作業へ取り掛かる。
しばらくしてマナビの分析結果が表示される。
「蛍緑丸の痕跡はデータでは見つけられないか。おい通信兵。どうしてこんなにも町中瓦礫の山なんだ?」
「ブロントヴァイレス襲撃の後、各旅団にアビスメシア教団が攻撃を仕掛けたんだ。ここは人手が不足していて、対応が追い付いていない。もう既に、旅団内で何度か大きな爆発が起きてる」
「そうか。だが数が多いな……これじゃあ迎撃という訳にもいかない」
「エルマー部隊長さえ居てくれれば……」
「おい、そのエルマーについてどこまで分かってる?」
その言葉に、通信兵は暗号の事や蛍緑丸の性質について話す。
「なるほど、マナビ。今の情報も通信で伝達だ。さて……辺りはもう暗い。これで発光が判別出来ないとなると、ライトで照らすしかないか」
そこにオクスから通信が入る。
「通信室、聞こえるか?」
「こちら通信室、暫定で指揮を執っているキースだ」
「探究者か、俺はオクス。通信を聞いて連絡した。エルマー捜索に協力を申し出たい」
「丁度良い。こちらも人手が欲しかったところだ」
「そうか。俺は付近の高台からライフルを使い、蛍緑丸の痕跡を探す。捜索に必要なブルーライトをこちらに転送してもらいたいのだが」
「オクス、お前エルマーの船の事を知っているのか?」
「ああ。ログロムの中でも奴は変人で有名だ」
オクスの要請を受け、キースはライトを転送する。
こうした細かな事態に対処出来るのも、ログロムの強みだろう。
(レーザーポインターとして装着できるライト……これなら)
彼は注文通りの品に満足しながら、自身のライフルにライトを装備させる。
(銃を改造するのも中々良いな……)
「オクス、届いたか?」
「ああ、すまない。期待通りだキース。こちらは実弾もある。狙撃や索敵の指示があればそれに従おう」
「頼んだぞ。ではまず……」
「待ってください!」
今度はそこに、『チュベローズ・ウォルプタス』から通信が入る。
「突然の通信失礼致します。私はチュベローズと申します。浅慮ではありますが、エルマー部隊長からの通信、暗号で送られてきたということは、何者かに傍受されていると考えた方が良いのではないでしょうか?」
「そうか。その可能性があったな」
「だがオクス、通信を封じてしまってはこちらも身動きが取れなくなる」
「いや、通信をせずこちらの連携を取る方法はある」
そう言うと、オクスはシュリーに命じチャットを使い、通信室とチュベローズに文章を送る。
(侵入している教団員の通信機は旧型であることを先程確認している。あの型は音声データしか受信することは出来ない)
(そうか……なら位置情報とチャットを使って連絡を取り合おう。システムの構築は任せてくれ)
(では、私はわざと通信を使い教団の皆様の注意を惹きます)
(了解した。マナビ! 付近の探究者にライトを配布。それから作成した位置データとこことの連絡方法、全て伝達しろ)
マナビは複雑な指示全てに淡々と対応していく。
その頃、ログロムに侵入した教団員を指揮する男は、その黒く染まった歯を悔しそうにかみしめていた。
「まさか傍受がバレてしまうとはな……」
「いかが致しますか?」
「まぁ良い。我が身、夕光を映して愛を照らさん。小生意気な暗号だが、この情報があればおよその予測は着く。一般の教団員には探究者を探させろ。見つけ次第攻撃、通信機を奪い取るのだ」
3人の連携により、アビスメシア教団が得られた情報は最小限に留められる。
最初の戦い、情報戦の軍配は探究者側にあがったのだ。
●北側エリアにて
技術旅団ログロムには、戦いに備えるための技術も完備されていた。
エルマーを探す『舞鶴冬花(まいづるふゆか)』には、偶然調査していた家の中にあるトースターからライトが飛び出してくる。
「ふわっ!?」
突然の出来事に驚き、尻もちをついてしまう。
(冬花、大丈夫ですか?)
彼女のアニマ『プラチナスノウ』は彼女を労わるように手を差し出す。
「だ、大丈夫ですっ。 お気遣いありがとうございますっ!」
思わずその手に手を伸ばす舞鶴。
だが、それは決して結ばれることはない。
「あっ……そ、そうでしたっ! 私ったらつい……」
アニマとは所謂情報生命体。
たとえオープンモードで誰にでも知覚出来るとしても、そこに実体はない。
触れられないもどかしさに舞鶴は思わず左手を握りしめる。
「この手にもっと力があれば、あの時みたいに……貴女に触れることが出来るのでしょうかっ……」
そして今度は悲しそうに包帯で覆われた右手を見つめる。
そんな彼女を優しく励ますプラチナスノウ。
(いつかそれが叶う様……私も願っています)
「はいっ」
(さぁ、捜索を続けましょう)
「分かりましたっ」
舞鶴は、プラチナスノウの案内に従い付近を探索する。
しばらくすると、辺りには教団の者と思われる黒いローブ姿の男達が、至る所を探し回っていた。
(あんなにもいっぱい……見つかったら大変な事されちゃうかもですし、慎重にいかないと……)
(冬花。どうやら追われている方がいるようです)
彼女達の通信機に映し出された探究者は、入り組んだ路地をぐるぐると動いていた。
恐らく地形を利用し教団員を撒こうとしているのだろう。
そんな様子を黙ってみていられない舞鶴。入力端末を片手に対処法を考える。
(この辺りに何か使える物は……あっ!)
舞鶴は街のネットワークに侵入すると、街灯の電圧に細工を加え探究者が通過した瞬間、教団員の目をくらませるようタイミングを計って一気に光らせる!
「ぐあああぁ!?」
野太い悲鳴が聞こえたのを確認し、彼女は通信機で探究者と接触を図る。
「き、聞こえますかっ? 私がサポートしますから、ここまで逃げてきて下さい!」
「すみません、ご助力感謝します」
数分後、舞鶴の待つ所にチュベローズが姿を現した。
「貴女が先程私を助けて下さった方ですね。私はチュベローズと申します」
「あっ、さっき通信の話をしてた! えと、私は舞鶴冬花ですっ。困った時はお互い様ですよっ!」
「感謝致します。では早速ですが、話は移動をしながらに致しましょう」
「はいっ!」
チュベローズは舞鶴と情報を共有しつつ、エスバイロを隠してあった地点へ移動する。
「では、チュベローズさんはこちらに囮として来られたのですねっ」
「ええ。教団の皆様はエスバイロをお持ちになっていないようでしたから。西側から引き付けて参りました」
「西側は如何でしたっ?」
「私は所在を掴むには至りませんでした。舞鶴さんは北側を?」
「はいっ。この辺りには、風防や尾翼のみたいな、船の外装の中でも自主的にパージ出来るような部品が多くある気がしましたっ。そういった外装の痕跡が残っている割には、船が衝突したような崩落跡はあまりありませんし、エルマーさんはわざとここに痕跡を残したのかも……と思いますっ!」
「では、私は未だ捜索出来ていない東側を探してみたいと思うのですが……」
「はい! 一緒にエルマーさんを見つけましょうっ!」
2人は次の目的地を定めると、教団員に気づかれぬ様に静かに空へと飛び立った。
●西側エリアにて
2人が北側エリアを出発するような頃、一方では暗号の情報を受け【西側エリア】へと目星をつけ訪れた者達がいた。
『アリシア・ストウフォース』は、地上で長い時間捜索をしていたが、これといった痕跡を見つけられずに悩んでいる。
「うーん。夕日が落ちる場所、って意味だと思ったんだけどなー」
怪しげな教団員から身を隠しつつ、小さく立ったアホ毛をいじりながら、今一度考えをまとめる。
「このエリア、剥がれた外装多すぎで逆に全然分かんないし。というか普通のライトでこんなに町中照らしちゃ、ワタシ達のライトが薄れてちょっとずつしか探せないじゃん!」
彼女は不満のあまり地団駄を踏む。
確かに上を見上げれば、夜の闇を照らすために白色ライトが煌々と輝いていた。
「ん、待てよ~……? そっか。ワタシ達の所にこんな都合よくライトが届くんだし、別にそれくらい出来るのかな? 早速きーてみよー!」
言うが早いか、チャットで提案するアリシア。
(ねーねーキースさん。どうにかこの町の電気消せないかな? それで、ワタシ達の使ってるライトのおっきい版でぶわーってやれば、何か分かるかも!)
(なんだと? いや、確かに一理あるか……おい通信兵、出来るか?)
(何とかしよう)
(わー、すってき~! じゃあ、ワタシはもうちょっとこの辺探してみるねー)
突拍子もない作戦だったが、他の手立てがないキースはその申し出を受け入れ準備を始める。
そんな彼女の頭上を『星野平匡(ほしのひらまさ)』が通過する。
彼もまたエスバイロを駆使し懸命に西側を探すが、目ぼしい成果は得られていなかった。
(夕光は西の方角を示していると思いましたが……くっ、落ち着け。あの人の講義を思い出すんだ)
難航する捜索に焦りが見え始める星野だったが、彼の武器は学者業で磨いたその知識だ。
彼はかつてアカディミアで受けたエルマーの講義を思い出していた。
「あーっと……特別な意義のない暗号において、基礎となる要点はそんなに多くねぇ。第一に敵対勢力に文章だと理解されない事。第二に、仲間しか知り得ない情報で構成する事。最後に、暗号中のもの全てに意味を持たせる事。これだけだ。この3つを踏まえて解読しろ。以上!」
「エルマーさん、質問があります」
「あ、何だ? え~あったあった。言ってみろ星野」
「そのような曖昧な説明では理解が深まりません。具体的に説明して下さい」
「面倒くせぇな~。……はぁ。分かりましたよ」
エルマーはダルそうな態度を取りつつも、真摯に学ぼうする星野のその態度に屈し、説明を続ける。
思い出でヒントに気づいた星野は、はっとした様子で我に返る。
「そうか! あの暗号は場所を示していたんじゃない、方法を示していたんですね!」
彼はキースに、消灯後のブルーライトを西から東に向けてのみ当てるよう依頼すると、位置データを確認しアリシアへ接近する。
「ん? えっと……あ、お仲間さんかな?」
「私は星野と言います。アリシアさん、あなたの案こそが、エルマーさんの求めた答えだったんです!」
「何々? 暗号分かったの!?」
「ええ。一緒にこのエリアで待ちましょう。キースさんの準備が終われば、全てが分かります」
星野はアリシアを自分のエスバイロに乗せると、空中に待機する。
●闇に浮かぶ道標
少々の手間を取ったがさすがはログロム。
巨大なブルーライトが用意され、後はキースの判断を待つだけとなった。
(これからアリシアの作戦を実行する。星野、作戦通りやればエルマーの居場所が分かるんだな?」
(はい!)
自信のある星野の返答に、彼は最後の手段を使用する事とした。
(皆、これから旅団全体に妨害電波を流し通信・チャットを遮断する。もって3分から5分と言ったところだ。その後作戦通り、ライトで旅団を照らす。通信が遮断されている間に居場所を特定してエルマーを救出してくれ!)
キースの号令の下、旅団全体の明かりは消され、夜の暗闇が旅団全体を覆いつくす。
「あっ、すごい! 至る所で光がいっぱいだよ!」
空中から旅団を見渡すアリシアの目には、北、西、東の各エリアに散らばった蛍緑丸の蓄光がはっきりと映っていた。
「エルマーさんはきっと居場所がすぐに特定されないよう、墜落の際になるべくばら撒くよう外装をパージしたんでしょう」
そして作戦通り、西から東にかけてブルーライトが照射される。
「夕光を映す、そのためには西から差す光を受ける必要があります。そして既に日が沈んだこの時に夕光に代わるのはライトの事。つまり西からのブルーライトに反応する外装だけを辿っていけば、それが本当の墜落コースです!」
その光は遠く離れた東側エリア、大きなビルの崩れた下へと続いていた。
「おー!? あそこだね!」
「アリシアさんしっかり掴まっていて下さい。飛ばしますよ!」
星野はエスバイロを最高速まで一気に加速させると、エルマーが待つと思われるその場所へ一目散に飛ぶ。
地上から星野達を監視していた教団員は咄嗟の動きに反応できない。
悔しさをにじませながら、指揮官は命ずる。
「何をしている! 早くあいつらを追わせるのだ!」
「しかし、通信が遮断されてしまっています」
「くそっ!」
こうして連携のとれぬまま、動き出す教団員。
キースの妨害が功を奏し、多くの敵を西側にくぎ付けにすることが出来た。
●辿り着く先に
「今日は本当に騒がしいわね……」
作戦により明かりが落ちた東側エリアで、探究者『シェリーニャ』はひたすらに瓦礫をどかす作業に取り組んでいた。困っている人は見過ごせない性質の彼女は、エルマーも含めて、被害にあった人がいないかログロム中を探していたのだ。ガーディアンである彼女は、自身の持つ大きな盾を瓦礫に差し込むと、てこの原理でそれを持ち上げ排除していく。
「ここ……一段と光が大きいのね……」
作業を進めていると、遠く西側からライトの光が差し込んできた。
見ると、丁度自分が瓦礫をどかしていた場所が色濃く光っている。
良く見れば、瓦礫の中には船のパーツと思われるものがかなり混じっているようだ。
「ここ掘れ……ゲコ、ゲコ……」
彼女はお気に入りのカエルのフードを被ると、盾に収納していた片手剣で瓦礫を粉砕していく。
「チュベローズさん、あそこですっ!」
「着陸致します」
そこに、東側エリアへ接近していた舞鶴とチュベローズが到着する。
「私があの方を手伝います。舞鶴さん、周囲を警戒して頂けますでしょうか?」
「はい、お任せをっ!」
舞鶴は、ライトで周辺の敵影を探す。
その間にチュベローズもシェリーニャと一緒に掘り進める。
シェリーニャが事前にかなり瓦礫を撤去して事もあり、2人は何とか瓦礫の山を切り分ける事が出来ていた。
「くっ……! これでっ……!」
そしてついに、チュベローズは瓦礫の下に空間を発見する。
そこにはバラバラになった蛍緑丸の残骸と、瓦礫を支えるエルマーの姿があった。
「エルマーさん、エルマーさん!?」
反応のないエルマーに駆け寄ろうと必死に瓦礫を砕くチュベローズ。
しかし、瓦礫を崩され地盤が緩んだビルの破片が、そんな彼女の頭上に降りかかる。
「はっ…!?」
(シェリーニャ、上だ!)
「……しっ!」
間一髪、アニマ『フレーメル』の声を聞きシェリーニャは盾でチュベローズを庇う。
「破片は任せなさい……」
「も、申し訳ありません……!」
冷静さを欠いていた事を反省し、彼女は何とかエルマーまでの道を作る。
丁度その時、街には再び明かりが灯った。それはキースの妨害が終わったことを告げる合図でもあった。
そこへ星野とアリシアも到着する。
「エルマーさん、良かった、間に合ったか」
「いやァ……もゥ……意識がァ……やばいよォ……」
発見し安堵する星野の傍らで、エルマーを診るアリシアは苦悶の表情を浮かべながら診察する。
その姿はまるで、真剣なあまり彼の苦しみに感応し、代弁しているかのようであった。
彼女は、アニマ『ラビッツ』に命じてクラスフォームを起動させると、彼女が所持している救急セットを使い、全技術を持ってエルマーの応急処置を行う。
「破片をどかせェェェーー!!」
アリシアの雄叫びに、一行は動き出す。
彼女以外の全員でエルマーの支える破片を持ち上げようとするが、エルマー自身に押し返す力は残っていないようでびくともしない。
「このままでは皆つぶれてしまいます。エスバイロの推進力で破片をどかしましょう!」
星野はそう言うと、持ち込んでいたロープを手早く破片に結びつけると、チュベローズのエスバイロと自分のエスバイロにつなぎ合わせた。
そして2人はそれぞれのアニマ『ゲッカコウ』と『ハルキ』にオーバーチューンさせたエスバイロの力を使い、一気に破片を持ち上げる。
『せーの!』
彼の機転で、一行はついに破片をどかすことに成功する。
そこへキースから通信が入る。
「皆、そろそろ限界だ。教団の連中がそこに来る」
「君達の位置はこちらで捕捉している。オレが撤退を支援しよう」
「なら私も前線で暴れてきてあげる……長くは持たないけれど、陽動も任せなさい……」
「オクスさん、シェリーニャさん、宜しくお願いします。私達は一度通信室まで避難しましょう。エルマーさんを私のエスバイロへ」
星野のエスバイロに、エルマーと治療にあたるアリシアを乗せ、チュベローズの方に舞鶴が乗り、4人は通信室の方へと帰還する。
そしてその撤退を支援するためシェリーニャと、合流した探究者『ルー』がアニマ『ローパー』と陽動に当たる。
こうして一行は、何とかエルマーと人形を回収した。
●時空の果てに掴んだ欠片
「ふぅ……」
撤退時に陽動を行っていた2人の探究者が逃げ果せたのを確認すると、オクスはスコープから目を離す。
「オクス、そっちはどうだ?」
「状況終了だ。キース、エルマーの容体はどうだ?」
「ああ。あんた達のおかげで無事に死に損こなったぜ……」
通信機からは一命を取り留めたエルマーの声が返ってくる。
すっかり性格が元に戻ったアリシアは、彼に人形を手渡した。
「はい、これ。雪白さん」
「……あぁ、すまねぇな」
彼女から人形を渡されると、壊れた腕でそれを大切に抱きしめるエルマー。
そんな様子を見つめる一行だったが、やがてオクスが口を開く。
「ひとつ教えて欲しい。あなたにとってその人形は……生きているのか」
「ああ、当然だ。あんたも自分のアニマは生きてるって感じんだろ?」
「それは否定しないが……実体があるからそう思うのか?」
「実体があろうがなかろうが、オレに雪白がいる限り彼女は間違いなく生きて存在してるさ。オレはそれをてめぇの技術で証明する。そのためにも、ここでこの体を失う訳にはいかねぇのさ」
「……そうか」
生きているものを作る。それはオクスの永遠の命題だ。
彼は自身の大切な【もの】に確かな【生】を見出していた。
「では、私はこれで失礼致します」
医療棟にいたチュベローズは、静かに呟くと、そんな彼らを見届け部屋を後にする。
(エルマー部隊長と、雪白さん……互いを想う強い絆……)
アニマと触れ合う。互いを主従を超えて求め合う。それは決してありえない出来事。
そう思い続けてきた彼女の心に彼の姿はやけつくように眩しく感じられた。
「行きましょうゲッカコウ。サポートを頼みます」
「はい、チュベローズ様、私にお任せください」
助けを求める誰かの為に。彼女は自身の願望を胸の奥にしまい込む。
そんな彼女の後ろ姿を見送るように、最後に残った小さな歪みはゆっくりと消えていった。
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