プロローグ
今ここに書き記すことは、きっと何の意味もない。
だけど今の僕には、ぼんやりとでも何かを思考している必要があるのだと思う。
未来に待ち受ける絶望へと、飲み込まれてしまわないように。
あの日、初めて漆黒の悪魔が現れた日。あの時既に僕たちの世界は終わっていたのかもしれない。
最初に襲われたのは商業旅団、ファヴニル。七つの旅団の中でも強力な軍事力をもつあの飛空艇が、たった1日で沈んだ。
伝説の龍は僕らの伝え聞いたよりも遥かに大きく、その雷撃は遥かに強い。伝説通り空を割るようなあの一撃は、船体を簡単に引き裂いてしまった。
そこから落ちる無数の人や物。あれだけの物資があれば、一時的でもどれだけの人間が助かったのか計り知れない。
それから数日経った時であろうか。
芸能旅団、ミルティアイが空の世界から消えた。
あの時旅団の代表ともいえるエンジェルボイス航空団は、メンバーごとに分かれ各旅団を励ましていた。 だが、その活動の最中にまた『あれ』はあらわれた。これは最悪の偶然か、はたまた最低の運命だったのか。心の支えである彼女たちの死が最初に訪れたことは、旅団の崩壊を一気に加速させていたはずだ。
確か同じころにログロムも堕ちたのだ。
技術旅団である彼らが生きていたなら、あの醜い龍を討ち滅ぼせる何かを作れただろうか。
いや、彼らの軍も一流だったはずだ。そして国家全体が軍事に対しての用意と結束を持っていたはずなのに、それでも負けてしまったのだ……。
やはり、こんな行為は無駄なのだ。
人々はかすかな希望に身を任せ戦い、伝説によって無残にも歴史から消え失せるのだ。
ああ、今ならわかる。アビスメシア教団の言うことを聞くべきだった。
どうせ死ぬなら、少しでも希望を持っていたい。だがもう遅いな。
さぁ龍よ、その雷撃で、せめて一瞬で私を終わらせておくれ。
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貴方は、あの戦いの最中に拾い見た日記の内容を思い出していた。
日記の作者はこの世界を確かに見つめていた。最後の絶望の中でも。
思いを馳せる中、何かの音にふと我に帰る貴方。
戦闘の混乱のためか、貴方の通信機には見知らぬ人からのたくさんのメッセージが届きます。
「孤高の鷹団、守備隊12番文隊員応答せよ。我々は旅団全体の指揮系統から外れてしまった。よって今後の指揮は私、カーターの判断に従ってもらう。早速だが各自、現時点で任務の変更を命じる。護衛中の輸送船・エリアからの退避だ。救援が見込めない今、我々だけの戦力ではこの場を守り切ることは出来ない」
「誰か聞こえる!? エンジェルボイス航空団メンバーの一人、ルイだよ! 船の操縦が利かないの! お願い、助けに来てっ! このままじゃブロントヴァイレスに突撃しちゃうよ~~~!」
「エルマー部隊長! エルマー部隊長! くそっ、エルマー部隊長、早く旅団にお戻りください。このままでは攻撃が行えません! 索敵班、蛍緑丸(けいろくまる)の信号はまだ見つけられないのか!」
あの時、あの人がいたならば。
あそこで、あれをしていれば。
あのまま、あの場を守れたとすれば。
今、新たな歴史の中で再び龍の悪夢と戦う貴方達。
ですが、それに立ち向かっているのは貴方達だけではありません。彼らの戦いの要となる人物たちを助けられれば、たくさんの御礼と、勝利という一番の報酬が貴方を待っているはずです。
さぁ、小さな歯車をどう動かすかは、貴方次第。
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エピソード①:ファヴニルの輸送船を守りきれ!
ファヴニルは商業都市として、今回の戦いに各旅団への物資貸出を行うことにしました。そのため彼らは傭兵団「孤高の鷹」に物資輸送を行っている輸送船の警護を依頼しています。船は各方面へと出発しましたが、それに呼応するようにブロントヴァイレスより生まれたヴァイレスが輸送船に襲い掛かりました。
傭兵団は全体の数で劣るものの、自分たちの訓練された陣形に基づき、互いの場所を把握しながら対応しました。その結果として現在の被害はほとんどありません。
しかしアビスの闇が深い影響で、電波は届きづらく視認も難しい状況です。敵の猛攻を受け、ある一部隊が陣形を崩さざるを得なくなってしまいました。
その部隊を指揮していたのは、カーターという男でした。
「孤高の鷹団、守備隊12番分隊員応答せよ。我々は旅団全体の指揮系統から外れてしまった。よって今後の指揮は私、カーターの判断に従ってもらう。早速だが各自、現時点で任務の変更を命ずる。次の任務は護衛中の輸送船・エリアからの退避だ。救援が見込めない今、我々だけの戦力ではこの場を守り切ることは出来ない。」
貴方の通信機に声が聞こえます。その声は落ち着き払っており、歴戦の戦士の貫録を感じさせました。
「AチームからCチームはヴァイレスの注意を引け。D、Eはその間に現戦闘域を放棄。ファヴニルの現在位置を見つけるんだ」
「了解」
「これより我が艦は一時的に旗艦としての機能を担う。旗艦を中心として陣形を組むのだ」
「当艦を旗艦に指定。陣形プログラムを変更」
「信号弾放て。視界が悪い、3分おきに信号を放つ。各艦確認せよ。ファヴニルの位置を発見次第、別の信号弾で合図、撤退する」
「信号弾発射。各偵察員は、閃光を目視し当艦の位置を確認せよ。また、陣形生成員は別船に乗せている自身のアニマの状態を確認せよ。オープンモード起動で船員に目視で確認させ、アニマの位置データを船体データに同期。プログラムに入力せよ」
「特定の機体に同化させたアニマデータを、主人である人間が確認する。そして信号弾で目視による陣形の整理。この方法なら我らの位置情報はほぼ把握出来た」
手早く必要な指示を出し終えたカーターは、ふっと息を吐き、小さな声で続けます。
「目的地はまだ遠いか……この闇の中ではな。現在の陣形データの共有が出来ない以上、高射砲での援護射撃はもちろん、あちらからの援軍は期待できないだろう。輸送船には悪いが仕方あるまい」
隊員達は指示に従い的確な行動を取り始めましたが、護衛という任務は放棄されたため、敵の攻撃が輸送船に当たり始めます。
「お、おい! どうなってるんだ!?」
「このままじゃあたし達……」
事前に指定された航行プログラムに従い自動で動く輸送船は、一心不乱に前へと進み続ける。
レーヴァテインへの輸送任務もあと少し。最短距離で移動できれば、きっと彼らがこの輸送船を救ってくれる。
そんな時襲いかかる激しい揺れ。大量の物資と共に乗り込んでいた商人や技師達は、不安の声を漏らします。
しかしその中には、不敵に笑うフードの男も紛れ込んでいました。
「さぁ、ヴァイレスよ。この魔石を道標に、我らをかの地へ送り届けるのだ。フハハハハッ」
果たしてこの輸送船の未来はいかに。
※このエピソードはグランドプロローグ「崩壊の始まり」の連動エピソードです。
イベントで起きた様々な大事件の陰で、隠された物語をエピソードにしています。
歴史の狭間、真実の隙間を埋める物語へ参加してみてください。
なお「崩壊の始まり」にて選んだ選択肢と関係ないお話でも参加可能です。
解説
今回は、以前の歴史では同盟を組む前に沈んでしまった3つの旅団にスポットを当てたシリーズエピソードです。
現在の状況としては、各旅団が迫りくるブロントヴァイレスと戦うべく集結しつつあります。
しかし緊急同盟のため、各旅団では未だ戦闘準備が整っていなかったり、攻撃にさらされていたりします。そんな中、皆様には下記の問題解決へ立ち向かって頂きます。
1 ファヴニルの輸送船
周辺はアビスの霧が濃く、思うように通信・索敵が出来ません。
目視で周囲約50Mと、陰や動きの大きい輸送船、ヴァイレスのおよその位置くらいが限界です。
ただし、自分のアニマが同化した機械の場所はある程度離れていても認知できます。逆も然りです。
輸送船を狙うヴァイレス(ブロントヴァイレスのミニサイズ、体長はおよそ4M)は70匹。
エスパイロを使えば直接戦うことが出来ますが、一対一だと時間をかけてやっと倒せる強さです。
ファヴニルにある高射砲なら数匹を一撃で倒せますが敵味方の位置がはっきりせず、普通には当たりません。狙いを定める工夫が必要です。台数は2台、アニマが同化をすれば1人1台利用可能です。
カーターには戦う意思がありませんが、彼らが本気で戦えば皆様と協力して45匹は対応可能です。この状況をどう打開するか的確に説明できれば、協力を仰げるでしょう。
輸送船にはアビスメシア教団の人間が一人紛れ込んでいます。彼の持つ魔石にヴァイレスは引き付けられているようですが、攻撃を受け揺れる船体、人と荷物で込み合った中を探すのは困難が伴います。
また輸送船も操縦が可能ですが、操縦に関わる人全員のINT+DEX合計値が40以上必要です。アニマが同化すれば「基本能力値/4-1」が、主人の能力値に加算されます。
出来ることが多いので、よく相談して対応を決めてください。
皆様の協力が不十分だったり、作戦をあまり手広く展開すると中途半端な結果しか得られないでしょう。
ゲームマスターより
このゲームでは一キャラがグランドプロローグのリザルトで活躍し、連動エピソードでも同じ時間のはずなのに活躍する場合が出てきます。本来はあり得ませんがゲーム上この矛盾は無視されます。
ですが今回は同じ時間のほぼ同じ場所で起きる出来事として扱う為、基本的に同名タイトルエピソードへの複数参加はご遠慮ください。
※メタ的に言えば、抽選漏れを減らしより多くの方が楽しめるようにするためです。
このシリーズでは、プランの判定などが他のシナリオと比べて厳しい(判定するポイントが多い)ですので、皆さんとアニマ・皆さん自身の協力がとても重要です。
プロローグ・解説内にない手段を用いてのアドリブプランも大歓迎です。ルール上ご期待に添えない場合もありますが、なるべく採用していきたいと思っています。
あくまで隠された真実ですのでグランドプロローグへの影響はありませんが、是非新しい未来を掴み取って下さい!
【隠れた真実・歪】あの日の君に希望の欠片を(1) エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/9 0
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難易度 |
難しい
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報酬 |
多い
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公開日 |
2017/7/19 |
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さてと…忌兵隊の参謀としてはちゃんと考えて指示を出してあげないとね… とりあえず狂次は紛れているはずのアビスメシア教の信者を、ベイバルはヴァイレスの眼をスナイパーライフルで狙撃よ… でもこんな状況じゃ追い払うにしても時間はかかるしずっとついてきそうだし可能な限りは撃退すべきとカーターを説得するわ… 「このままではいずれにしても追いつかれるわよ…?だったら可能な限り撃退すべきよカーター…」
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ヴァイレスの足止めをしよう…エスバイロには乗らず奴らの眼を狙い撃つ… 倒せなくともこれで一時的に時間は稼げるだろうし上手くいけば完全に眼が潰れて落ちる奴もいるだろうからな… この悪天候でも俺は俺の仕事をするだけだ… 「…外しはしない」
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何かスゲー事になってるじゃねーか!これは忌兵隊としちゃこんな窮地、凄く燃えるってんだ!! で、フリアエさんの分析によりゃあ何か敵が混じってんだってな?じゃあオレはそいつを探し出してとッ捕まえてやんぜ!! 「絶対に見つけてやんぜ!!」
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魔石持つ男の捜索最優先 事前に仲間全員にインカムを渡す 輸送船へ近づき船の管理室へ 船には最短ルートを維持し移動してもらう 捜索方法 船に監視カメラ等の類があれば映像解析 不審人物発見後は捜索組にインカムで外見等の情報を通達 カメラがないなら船の搭乗者名簿を調査 顔と名前が一致しない奴など不審人物いたら通達 情報揃ったら自分達も船を捜索 男を捕獲後は捕縛用の縄で縛る その時、仲間全員に男捕獲の旨を伝達 魔石を回収したら魔石を破壊 破壊しても敵侵攻が止まらなければUNOと一緒にエスバイロに乗り船から出る 自分の行動は仲間へインカムで伝達 敵対応組に極力此方に敵が来ないよう足止め依頼 敵が此方に来ても逃げる事に専念 ある程度船から離れたら石の欠片を手放す 敵の進行方向逸らす 任務終了後、捕獲した男に教団について何か分かれば吐かせる ◆UNOの手段 レイの補助 頑丈な体活かしレイ護衛
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ミクシィ
( ミヤビ )
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デモニック | マーセナリー | 20 歳 | 女性
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味方の皆さんとの連携は重視し行動致します。 【敵対応組】に所属致しますの。 アニマのミヤビちゃんを同化させた高角砲を使い、エスバイロに乗ってマーカー役を務めて頂くクロカさんの誘導に従い、敵ヴァイレスを攻撃致しますわ。 説得班がカーターさんの説得に成功した場合、引き続き彼らと協力し、アニマ同化の高角砲を使って船の護衛を続けますの。 但し、その場合はマーカー役であるクロカさんが捜索班へと移動し、抜ける可能性がありますので、カーターさんたちのどなたかにマーカー役を引き継いで頂けるようお願いできればと思いますわ。 他に狙いを定める工夫として、敵の進路軌道を予測し、その移動先を狙うようにして、射撃を行うよう心掛けてみますの。 ともあれ、この巨大な軍事力を持つ商業旅団が生き残れば、また歴史は大きく変わるはずです。 今回の作戦、必ず成功させて見せますの。 悲劇の物語、今度こそ止めて見せますわ。
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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輸送船に合流次第、エスバイロを駆りヴァイレスの周辺を飛行。注意深く周囲を警戒しつつ味方高射砲の射線を指示、説得組に対してもヴァイレスの撃墜に専念する事を伝え、カーターの戦意を得る材料にする。 そして他部隊がカーターの説得に成功、協力を取り付け日高陽一がマーカー役として到着次第、輸送船へと着艦、中に潜むアビスメシア教団員の捜索に入る。 レイの指示の下、輸送船内を駆け教団員を発見次第交戦開始。 逃げる事を許さない猛攻を仕掛け、可能であればその場にいる人間と連携し、教団員を仕留める。 その後はヴァイレスの引きはがしまで敵の対応に戻り、マーカー役としてだけではなく、必要であればヴァイレスの弱点を斬り、各個撃破を狙う。 魔石を奪取した場合、日高にそれを渡す。
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日高 陽一
( ミアナ )
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ヒューマン | ガーディアン | 18 歳 | 男性
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最初にカーターと接触し、説得を試みる。説得材料は今紛れ込んでいるアビスメシア教団が持つ魔石の存在。それに自分たちが救出、護衛作戦に加わること。 説得の成否にかかわらず、話した後はヴァイレス撃退組に加わる。先にマーカー役を担ってくれていたクロカと交代し、マーカー(前衛)へ。信号弾を使用したり、大声で叫んだり、片手剣と盾を力の限りヴァイレスにたたきつけて音を反響させたりして位置を知らせる。流れ弾に当たらぬよう、盾は常に構えておく。 また、魔石が見つかったときはそれを受け取って自分の方へとヴァイレス達をおびき寄せ、高射砲の餌食とさせる。防御に専念し、自分が力尽きるよりも先に残滅してくれると仲間たちを信じる 助けられる人々には手を差し伸べる。その手が掴まれたのなら、僕は全力で応えて見せよう。 ――陽の昇らぬ日などない。人々がまた、明日の太陽を拝めるように。
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参加者一覧
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ミクシィ
( ミヤビ )
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デモニック | マーセナリー | 20 歳 | 女性
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クロカ
( 雪月 )
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ヒューマン | マーセナリー | 23 歳 | 男性
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日高 陽一
( ミアナ )
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ヒューマン | ガーディアン | 18 歳 | 男性
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リザルト
●【茶会】の約束
かつて故郷が消えた時、この心は何を感じたのであろうか。
かつてその手が届かなかった時、どれ程自分の無力に嘆いただろうか。
自分自身が生まれ育った大地の上で。
『日高陽一(ひだかよういち)』はあの時感じた想いを、今一度握りしめると大切にしまい込んだ。
「今度こそ……僕が必ず守って見せるから……ね」
「陽一くん。いつもの可愛らしいお顔が台無しですわよ?」
「あ、ミクシィさん。来てくれたんだね。クロカさんも」
「悪い、遅くなった」
空から聞こえる声。それは陽一の所属する組織の仲間『ミクシィ』と『クロカ』のものだ。
「可愛らしいって……僕はそういうタイプじゃないつもりなんだけどな」
「ふふっ、軽い冗談ですの。今回は随分……緊張なさっていると思いましたから」
「ゴメンね、皆に心配かけちゃったね」
彼女達は普段遠慮がちで謙虚な陽一からの救援依頼を聞いて駆けつけてきたのだ。
「まぁ普段のアンタからじゃ考えられない様子だったしな。突然土下座までしようとするなんて……正直こっちの心臓に悪いぜ」
「どうしても、このままにしておけなかったんだ……ゴメン」
「そんな暗い顔しないで下さいな。仲間として助けに来ることは当然ですもの」
「そういうこと。面倒事は嫌いなんだけどさ……まぁ、今回は特別だ」
いつも淡々とした態度でいることが多いクロカも、かつての熱い血が滾り始めているようだ。
「そこまで申し訳なさを感じるのでしたら、そうですね……では、この戦いが終わったらミアナちゃんの手料理を振る舞って頂きたいですの♪」
ミクシィは、『ミアナ』という陽一のアニマが作った料理を所望する。
独特な味付けではあったが、そんな味に一喜一憂したのも平和だった時の彼女達の良き想い出だったからだ。
自分を元気づけてくれる事に安らぎを感じ、陽一の瞳にはいつもの穏やかさが見え始める。
「ありがとう。じゃあ終わったら皆でパーティーにしようか」
それを見て安心する2人。そんな時、彼らの視界には強い黄色の閃光が映り込む。
光が映し出したのは、大きな輸送船とその付近にいくつか見える中型船団。
そして獲物に群がる小さな影の群れ。
「あれがカーターさんの船、ですわね」
「陽一、これ持ってけ」
そう言うとクロカはインカムを投げ渡す。
「それがあればカーターの通信を聞いてこの辺りに集まった仲間と連絡が取れる」
続けて彼は、事前に『レイ・ヘルメス』から聞いた情報と作戦を陽一に共有する。
「分かった。じゃあ怪しい男の捜索は任せます。僕はカーターさんを説得してみせる」
そして陽一は自身のエスバイロに乗って、閃光の見えた方角へと飛んでいく。
「さて、こっちも始めるか」
「ええ。クロカさん、宜しくお願い致しますね?」
「へいへい」
クロカとミクシィは事前の作戦通り、高射砲とのリンク確立のために動き出す。
本来、アニマの同化とは主人の触れているものにしか行うことが出来ない。
勝手知ったる家の中の機械だとしても、遠隔操作はせいぜい10mが精一杯だ。
それを覆すには特別にチューニングされた通信機器を用いるしかない。
だが、そもそもアニマはどうして遠隔で機械を操作出来るのか。
それは一度直接同化しシステムを完全に理解するからこそ可能となる。
理解があれば、理論上アニマは機械が出す数値を計算で導き出すことが出来、望んだ結果を得られるというものだ。
つまり目印となる機械と狙撃する機械。両方の性質・受ける影響を完全に把握していれば、その時実際に発生する移動方向や速度を計算に組み込むことで見えない敵も狙い撃つことが可能になる。
ある探究者はこの方法を作戦として立案。
それに則って、砲手であるミクシィは事前にアニマ『ミヤビ』をクロカのエスパイロに同化させており、そしてマーカー役であるクロカはアニマ『雪月(ゆつき)』をファブニルの高射砲へと同化させる。
「さ、後は双方のデータを2人に共有・同期してもらうだけですの」
共有状況を確かめるため、2人はオープンモードでアニマを起動する。
そこには、同期の様子がホログラムとして映し出された。
(雪月さん、相変わらず綺麗な手です。それにお肌はこんなすべすべ……)
(ミヤビさんはふにふにですね。この触り心地。雪月的には、戦闘中に寂しくなったら真っ直ぐ揉みに帰ってきてしまうかもしれないレベルです)
「いや、もしお前に高射砲へ向かわれたらオレ絶対死ぬからな?! 斜線上は危険領域なんだからなぁ!?」
「まぁまぁ。あなたが彼女を寂しくさせなければ済む話ですわよ? うふふ♪」
いたずらっぽく笑うミクシィ。
彼女に揶揄われ怒るクロカだが、自身の命を任せられるほど、彼女を信頼していた。
そして同期が終了したのを確認し、彼もこの漆黒の空へと飛び立っていく。
●不可能を覆す連携
2人の準備が終わる頃、陽一はカーターの船に到着していた。
「何の用だ、少年」
「カーターさん。警護の任務を続けてください」
「君は我ら孤高の鷹団の上官ではない。ならばここの指揮命令権は私にある」
「貴方の通信を聞きました。僕が……僕たちが救援です」
「……ふっ、そうか」
カーターはまるであざけるかのように彼を笑い飛ばす。
「私には1人にしか見えないが。君ならばこの状況を劇的に変えられると?」
「僕達には作戦が……」
「その続きは私から話すわ……」
陽一がその声に振り向くと、真っ黒なローブに身を包んだ銀髪のエルフが佇んでいた。
「私は『フリアエ=アレンシェル』。カーター、私は貴方と同じ存在……傭兵団【忌兵隊】の参謀を務めているわ……」
「忌兵隊……か。それで、何の用だ参謀殿」
「傭兵が一度請け負った仕事を投げ出すなんて……あまり好ましいものではないでしょう……?」
「確かに。だが今後の戦局を考えれば当然、無駄な疲弊は避けるべきだ」
「金が全ての傭兵が、契約を違えると……?」
「そうだ。我々はあくまで金で動く。この場合想定される隊の被害と天秤にかければ、違約金を払う方がずっと割安だ」
カーターは、その決断がさも当然のものだと言いたげな態度であった。
その様子にそれまで黙って聞いていた陽一が、耐え切れず声をあげる。
「輸送船に乗ってる人はどうでも良いんですか!?」
「陽一殿……!」
「……っ」
「でもカーター……あなたとて、無駄に任務失敗の汚名と違約金を背負いたくはないはず……ならば可能な限り撃退すべきよ……」
「先程の作戦とやらか」
「ええ……私達と貴方達が力を合わせれば可能よ……」
「面白い。だが考えれば分かるだろう。戦力差は圧倒的、かつ敵はこの視界の中でも自由に動き回っている。対してこちらは一寸先は闇……君はつぶれた目で銃弾の雨の中踊る趣味があるのか」
「肯定はしないわ……でも輸送船が悪夢のワルツを終えてしまえば、次は貴方達の番……」
「敵は明らかに輸送船を狙っている。恐らく食糧に反応しているのだろうが、攻撃を仕掛けてきたものに反撃こそすれ、深追いしなければこちらに被害はないだろう」
「あら、知らないのね……? あの中に魔石を持ち込んだ愚か者の存在に……」
「この攻撃は仕組まれていると?」
「知り合いに優秀なハッカーがいるのよ……今頃私の仲間と一緒にその鼠の尻尾を引きちぎろうと舌なめずりでもしてるのでしょうね……」
「既に手は打ってある、か」
「そう……魔石さえ消し去れば、後はただ雲海を漂う輸送船を眺めるのみ……」
「方針は理解した。だが周辺に溢れるヴァイレスの壁をどう崩す?」
「……すぐに分かるわ……」
彼女が不敵に笑っていると、カーター船のすぐ側を高圧のエネルギー粒子が通過する。
揺れる船体に驚くカーター達。
「索敵班、状況報告!」
「はっ! 本艦左舷方向距離30m、高エネルギー粒子の通過を確認。これは……高射砲です!」
「高射砲? 援軍……いや、旅団からではこちらの位置は確認出来ないはず」
「今のは僕の仲間達です。ファヴニルから砲撃しています」
「ファヴニルからだと……この状況で狙撃したというのか」
「馬鹿ね……不可能をどう覆すのか、それを考えるのが私の仕事よ」
(ま、レイの叔父様と旧友の助けがあってこその作戦だけれど)
「この場のヴァイレスを凌ぐ方法も、この状況を根本的に打開する手段も、いざという時逃げるファヴニルの場所も、これで全て分かった……よね」
陽一は小さく息を吐くと、先ほどまで握りしめていた拳をゆっくりと開き前に差し出す。
「カーターさん、僕達に協力して下さい。……貴方がこの手を掴んでくれるなら、僕達はそれに全力で応えて見せる」
カーターはしばし陽一を値踏みする様に見つめ続ける。
(……若いな。眩しいくらいに)
やがて肩をすくめると彼の手を取った。
「俺達は高いぞ」
「交渉成立ね……」
「そちらの要望を聞かせてもらおう」
「この闇の中でも隊を統率出来るその通信機器を貸してほしいわ……」
「良いだろう。但し出力強化と君達の通信開設・維持のためにのみ使用を許可する」
交渉の末、カーターの旗艦が管理する軍事用通信システムを介すことが許された。フリアエがアニマ『A88B2(えーはちはちびーつー)』を同化させることで探究者同士の通信が可能となる。
「皆聞こえるかしら……?」
「……ああ」
「フリアエさん! オレもばっちりだぜ!」
フリアエの交信に、忌兵隊の仲間『ベイバル=ゴレインダー』と『木島狂次(きしまきょうじ)』が応答する。
「では作戦通り狂次はアビスメシア教信者を……ベイバルはヴァイレスの足止めをなさい……」
彼らはフリアエの指示に従い、侵入したと思われる怪しい人物の捜索とヴァイレスの対処に当たり始める。
「次にクロカ、貴方生きてるかしら……?」
「ああ。上手くいったようだな」
「ええ……ではこちらに合流して陽一殿と交代を……それにしても、私とレイの叔父様が指示した距離より20mも近かったわ……?」
「昔からアンタの要求は厳しいな。こっちは死ぬ気でヴァイレス引き付けてんだ。それくらい誤差だろ誤差」
クロカは『健病喜悲富貧愛敬慰助命限真心尽誓(誓いの言葉)』とそのアニマ『リナ』の助けも借りて、ヴァイレスの注意を引き付けていた。
努力の甲斐もあり、高射砲の射線上に複数のヴァイレスを誘導することで一度に4匹の殲滅に成功していた。
「ってな訳でミクシィ。次はもうちょっと正確にだと」
「分かりましたわ。先ほどは正直勘で撃ってみただけですから……気をつけますわね♪」
「おいおい!? 冗談キツいぜ……」
陽一とエスバイロを入れ替えるため、一旦カーターの船に向かうクロカ。
彼はその後、輸送船の不審人物捜索に加わる算段だった。
(まぁこの闇の中、確定出来ない想定値に基づいた長距離射撃……本当に結果は分かりませんでしたから、私はクロカさんの誘導を信じてやることをやっただけですけれど)
高射砲のチャージを待つ間、ミクシィは射撃角度を確認する。
高射砲は特に重量があり、細かな姿勢制御はアニマによるオートメーション作業でなければ本来厳しいのだが、彼女はアニマを計算に集中させるため、その女性らしい体つきに反した怪力を発揮し微調整を行っていた。
「ですが、もう通信も開きましたし、陽一くんがマーカーを引き継いで下さる……ならば私の全てをかけて、今回の作戦……必ず成功させて見せますの」
「さあ次の一手は……」
ミクシィとフリアエ、2人の淑女はそれぞれの場所から連携の枝葉を紡いでいく。
●魔をあぶり出す4人
「フリアエ嬢、やってくれたか」
レイは通信の確立を確認する。彼は忌兵隊の2人と共に輸送船内へと潜入。真っ先に管理室へと向かい、輸送船の乗組員に作戦を伝え協力を仰いでいた。
「いいかいお前達。いたずらに進路を変えても賊に気取られるだけ。ここは全てが恙なく進行していることを装うのだ」
彼は自身の作戦を完遂するため輸送船の進路をこのまま維持、つまりヴァイレスの攻撃を避けずに進む道を選択したのだ。
しかしこの選択は時間との戦いとなる。未だ多数のヴァイレスの攻撃を受けているこの輸送船が沈むのはそう遠い話ではない。
(こちらの手駒は足りず、状況は刻一刻と悪化していく。このハイリスク、面白いじゃないかい……)
レイのモノクルが、まるで彼のぎらついた輝きを象徴するかのように光を反射する。
「UNO、手伝いたまえ」
「Si、兄様」
彼はアニマ『UNO(うの)』をオープンモードで起動すると、船内のコンピューターに自身の端末を接続する。その画面には【analisis】の文字が表示されていた。
「ゲームを始めるとしよう」
その言葉を合図に、膨大な情報が端末へとなだれ込む。
レイはその全てを瞬時に判断し必要な情報をより分ける。
(船員様、紙媒体の乗船リストを此処に。データとの照合をさせてもらうわよ)
UNOもまた、彼の欲する情報を先回りして仕入れる。
「さて、少々の時間もかかろう……忌兵隊諸氏。お前達の奮闘、期待させてもらうぞ」
その頃、狂次は輸送船内の中をひたすら走り回っていた。
「あぁ~! 見つかんねぇな! さすが教団、コソコソさせたら天下一品だぜ!」
旅団に送られる支援物資の20%をも積んだこの大型船。
特にレーヴァテイン行き船の広さは、とてもじゃないが1人で探索しきれるものでは無かった。
「これって超ピンチだよなぁ……!」
肩で息をしながらも、どこか嬉しそうな顔で膝に手をつく狂次。
「だが忌兵隊としちゃ、こんな窮地、逆に燃えてくるってもんだ!! 愛! センシブルだっ!」
彼はアニマの『錦河愛(にしきがわあい)』にそう命じて自身の能力を解放する。
「うおおぉぉぉ!!! クラス、フォォーーム!!!」
アサルトである彼の持ち味は、他の追随を許さない機動力にある。彼は筋肉や内臓機能を極限にまで調整し全身全霊をかけて対象を捜索する。
「取り敢えず狭っ苦しいとことか片っ端から潰して! 絶対に見つけてやんぜ!!」
クラスフォームは肉体的負担が大きいことに加え、出力全開で発動させていては当然体力が持たないのであるが、今、狂次の中には悪を必ず捕まえるという正義の信念だけが渦巻いていた。
揺れる船内。倒れかかってくる物資を払いのけながら、彼は前だけを見つめ猛進する!
(……狂次の奴、また暴れているか)
輸送船頂上部にある見渡し台の中。
そこには通信を全開のまま叫ぶ狂次に頭を悩ませつつも、後輩の活躍にほくそ笑むベイバルの姿があった。
3人はここから船内に突入したのだが、ベイバルは殿として付近のヴァイレス迎撃に尽力していた。
体とライフルを船体に結び付け、その大きな体格を生かした安定感で狙いを定める。
(倒すには火力が足りない、か……だが、足止めならば)
彼はスコープを覗き込み一匹のヴァイレスに的を絞った。
彼の役目はあくまで不審人物捜索の時間を稼ぎ輸送船を守ること。
例えどれだけアビスの闇が深くとも、彼は自身の役割を確実にこなすことだけを思索する。
限りある弾数で最大の効果を生むために狙う場所は1つだ。
「……外しはしない」
解き放たれた鉛はヴァイレスの眼球を貫く。例えこれでトドメをさせないとしても、視界を奪われてしまえばその機動力を大幅に削ぐことが出来る。
その考えを証明するかの様に、奇声をあげながら墜落していく竜は彼にとって最高の報酬だった。
次の獲物を狙うため弾を装填していると、突然アニマの『モカにゃん』が声をあげる。
(にーに! 人が飛んできたよっ)
彼が視線を向けると、そこには陽一のエスバイロを輸送船に結び付けるクロカがいた。
クロカを中へと通し引き続き獲物を見定めるベイバル。そこで彼はふとヴァイレス達の挙動に怪しい点を見つけ出す。
「……フリアエ。手前に報告すべき事項がある……」
忌兵隊が活躍する中、レイも情報の収集解析を終えようとしていた。
(兄様、フリアエ様から通信よ。きっと最後のピースがこれで埋まるわね)
「どうしたフリアエ氏? ……そうか、報告に感謝するぞ」
通信を受け、彼は最後の情報を端末へと入力する。
「コードネームCEROが命じる……我が望む理を前に示せ!」
彼の端末に移し出されたのは、【Found】の文字。
勝利を確信したレイは、位置データを仲間達に送信。その後目的地へ向かい歩き出しながら、船内放送を使い朗々と侵入者をさらし上げる。
「さて……黒いローブの男。丹念に入船記録を消去していたのはいいが、乗り込む際の記名はさすがに避けられなかったな。紙の記録にしっかりミルゴという名前が記載されていたよ。これは偽名かも知れないがその事に興味はない」
彼が着いたのは5階部分、救命艇が備え付けられているデッキだ。
「カーター氏の部隊に対し的確に反撃するよう魔物を操るなら、位置を把握する必要がある。五階層に分かれたこの船内で、外部を見渡せるのは8か所。監視カメラに一度しか映っていなかった事を考えれば、入口近い洗面所から通風孔で移動し、定位置を決めじっとしているのだろうな。それを加味し残るは4か所。第1階から第3階までは狂次氏がくまなく探しておる。これで2か所。さて……ここでその思考から推察出来る事として、お前は自身が死んででもこの船を落としたかろう?」
彼はデッキに不審な人物の姿が無いことを確認し、自分の予想を裏切る事が無かったことに物足りなさげな表情をしつつ、溜息をつく。
「ミルゴ氏。お前では俺の相手には役不足でありましたな」
次の瞬間、罠にかかった獲物を前に舌なめずりするハンターのようにニヤリと笑うと、こう言い放つ。
「これでチェックだ」
ギイィと鈍い音を立てながら、第4階層砲座室の扉が開く。
そこには黒いローブの男が魔石を赤く光らせていた。
「感謝するぜとっつぁん……こっちをオレに譲ってくれてよ」
「なに、一か所だけ全く攻撃されていない箇所がある……この情報だけで居場所はほぼ確定していたからな。狂次氏はさすがに体力の限界だ。クロカ氏よ、決めてしまいたまえ」
「任せな」
クロカは男を視野に捉えたまま、そっと軍刀を構えた。
彼の瞳には、陽一達の前では見せない殺意の炎が燃え上がる。
「良い眼をしているな……我々と共に人々を導く気はないか?」
「導く? 誰がアンタらみたいな自殺志願者について行くかよ」
「自殺とは心外だ。我々が黒いメシアに選別される機会を与えてやろうというのに」
「……あぁ、ごちゃごちゃうるせえな……」
彼は自身の被る軍帽を握りしめながら、積怨の言葉を吐き出す。
「ホントお前らの破滅思想にはうんざりだ……消えろ、アビスメシアァァァァァァァァッ!!!」
「……クッ!」
これ以上の戯言を封じてしまうように、彼の刀は男の心臓を一突きにした。
男は咄嗟に魔石を構えたが、迷いのない一撃はそれをも穿つ。
砕け散った魔石は、色濃く輝きを放ちながら、鮮血に混じって足元へと降り積もっていく……。
「ぐっふ……あぁ……残念だ……」
その言葉を最後に、男は動かなくなった。
クロカは刀を引き抜くと、血を払い鞘へと戻す。
「誰が何と言おうが、オレはお前達を許しはしない。……過去に誓ってな」
彼は身なりを整えその部屋を去ろうとする。
しかし、窓から異様な光が入り込んできた事に気づき、振り返った。
「アァァァアアァ!」
「何っ!?」
ヴァイレスの目、ほとばしる閃光。
刹那。雷光と爆音が砲座室を包み込む。
●護り手の矜持
カーターの協力を得た探究者達であったが、苛烈なヴァイレスの攻撃に劣勢を強いられていた。
特に最前線で戦う陽一は限界が近い。
「はぁはぁ……こっちだっ……!」
枯れかけた声で叫びながら、カーターから譲り受けた信号弾でわざとヴァイレス達の注意を引く。
闇に生きるその目にまばゆい光は毒なのであろう。陽一に向かって襲い掛かる竜達。
辺り一面を囲まれてもなお、彼は諦めない。
(輸送船近くで戦えば高射砲の余波が出てしまうし、カーターさん達も手一杯……それでも今は、最後まで皆を信じる!)
「アァァァアア!」
「はぁぁぁ!」
ガンッという鈍い音。強烈な尻尾の一撃を盾でいなす陽一。彼の腕にはその衝撃が電撃の如く走る。
だが彼は決してその盾を離しはしない。それはガーディアンであるという矜持。
何故ガーディアンであることを選んだのか。それは差し伸べる手に抱いていたい、敵を倒すのではなく誰かを守りたいという想い。そんな彼の姿に気圧されたのか、ヴァイレス達も旋回しながら様子を伺っていた。
陽一はどうすれば上手く射線に乗せられるのかを考えていたが、そんな時ヴァイレス達の目が突然光り出し一斉に輸送船へと視線を移す。
(輸送船を見て……? うっ!?)
頭をかすめるデジャヴ。歪んだ映像の中に見えるのは、傷ついた友の姿。
いち早くその意図を察した彼は、エスバイロを輸送船へと加速させる。
その後を追うような形で連なるヴァイレス達。
「……この時を、待っておりましたわ!」
このチャンスをミクシィは逃さなかった。
陽一のすぐ後ろを通過するよう狙いを定め、一気に引き金を引く!
『アアアァァァアアアア!!?!?』
ヴァイレスの軌道を予測した彼女の一撃は、多くの敵を薙ぎ払う。
しかし陽一の目には、今まさに輸送船に向けて電撃を放とうとする個体しか映らない。
「届けぇぇぇーーー!!!」
輸送船とヴァイレスの間に飛び込み、その盾で身を覆う。
刹那。雷光と爆音が彼を包み込む。
「うぁっ?!」
その雷撃は輸送船を直撃するが、盾によって分散され最悪の事態は避けられる。
爆風の勢いでエスバイロから弾き飛ばされる陽一。割れる窓。開けた空に男だった何かが、船から滑り落ちる。
生き残ったヴァイレス達はそれを追うように、遥か底へと飛び去って行く。
それを間近に見ていたのはクロカだ。
「陽一!?」
自身も外に投げ出されないよう捕まりながら、彼は消えた友人の姿を探す。
「安心しろ。問題ない」
眼下へと視線を移すと、そこにはエスバイロを駆り陽一を受け止めたカーターがいた。
「アンタ、何でここに?」
「ヴァイレスに対処する白兵が少なすぎたのでな。都合よくいた頭の切れる参謀に指揮を任せたまでだ」
彼は抱き留めた青年の顔を覗き込む。気絶してはいるが、完治出来ない外傷は見当たらない。
(無茶な奴だ……だがよく気づいたな)
誰かを守るためにその身を犠牲にして飛び込んでいく。そんな姿は彼を少々歯がゆい気持ちにさせていた。
「こいつを頼む。防衛続行の契約金を支払うまでは、死なれては困る」
彼はクロカに陽一を託すと、未だ交戦を続けるヴァイレスのもとへ向かう。
その顔には、昔のような希望の光が灯っていた……。
●時空の果てに掴んだ欠片
こうして彼らの戦いは終わりを迎えた。
カーターを説得出来た事で何とか防衛線を維持したものの、多数のヴァイレスに対処しきれず輸送船は煙をあげていた。だが、何とか船はレーヴァテインへと降り立つ。
船がたどり着くことが出来たのは、ギリギリで黒幕の男を排除出来た事と高射砲による援護射撃が功を奏した結果だろう。
もしも何かが欠けていれば、この船は空の藻屑と消えていたかも知れない。
そんな輸送船を前に、青年は記録する。
一瞬頭をよぎった悲劇の物語。それは悪い夢だったのだろう。
目の前の船を見よ。希望はまだ、我々のこの手に残っているのだ。
日記を書き終えると、青年は夜明けの太陽を背に、前を向いて歩き出す。
その光の輝きに包まれ、最後に残った小さな歪みもまた、闇に溶け消えていくのであった。
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