プロローグ
空の世界の崩壊。
それを目の当たりに生きることを諦めていないのは探究者だけではなかった。
「さぁ、ここもいつまで持つかは分からねぇ。野郎ども!慈悲は無用だ。全力で確保せよ!」
首領【ガズバ】がこう告げると、空賊達は力強く雄叫びを上げた。
彼らの目的はただ1つ。
レーヴァテインの食糧庫の1つから、自分達の食糧を確保する事だった。
「俺たち、本当にこのままでいいんだろうか……」
「たとえどんなことをしても、生きてなくちゃ意味なんてねぇんだ。誇りもなにもな」
しかし、そんな彼らの中にも迷えるものがいた。
確かに食料を奪えば自分たちは生きることが出来る。
だがそれは、誰かが変わりに飢えに苦しむことを意味していた。
確かに今ここをのりきれば、まだ生き延びることが出来る。
だがそれは、ブロントヴァイレスの陰におびえる日々を過ごすということだ。
「予定通り一班はオトリだ。こんな状況で正義を気取ってやがる奴らを引き付けておけ。
残りのやつは倉庫へ。俺と一緒に船への積み込み作業だ。安心しろ。
お前らだけは絶対死なせねぇよ」
「う、うるせー!もうこのままじゃいられねぇ!」
「あ?」
「あんな化け物相手に生き延びるなんて出来るわけねぇだろうが!俺は降りる!」
「けっ、なら勝手にしやがれ。生きる勇気がねぇ奴はうちに必要ねぇんだよ!」
こうして多少の不和を抱えながらも、ガズバの一団はレーヴァテインに降り立ったのだった……
全ては生き残るため。貴方は彼らにどう対処するのでしょうか?
解説
空賊が食糧庫を狙い襲い掛かります。空賊を離れた1人から情報を聞きつけた皆様は、食糧庫を守るため活躍して頂きます。
人数は全体で30人程度、部隊を二分割して行動しており、それぞれ対処する必要があります。
1つは陽動部隊で、20人程の空賊が辺り構わず暴れ回ります。
目的は食糧庫部隊の守護ですが、放っておけば避難中の人々に危害を加えたり、
辺りの建物を破壊してしまいます。戦闘能力は低く皆様一人で複数人を相手に出来ます。
短剣など凶器を所持している者がいます。『この部隊は全員が地上で行動しています。』
もう1つの本隊は食糧庫に侵入し『エスパイロで』船まで食料を積み込んでいきます。
ある程度回収すると逃走を図るため、迅速に対応する必要があります。
ガズパはこの部隊を指揮しておりこちらも武装している者がいます。
こちらの部隊は、倉庫で作業中の地上部隊と船へ積め込むエスパイロに搭乗している部隊があります。
また、皆様に情報をくれた者以外にも数人が船内に逃げ出しました。
空賊は全員共通の特徴として赤いスカーフを手首に巻いています。
基本的に空賊を抜けたいと思っていますが、恐怖におびえた精神状態では、
危機に陥れば新たな脅威となってしまうことも考えられます。
普段は盗みなどに手を染める集団ではありませんが、彼らは生き延びるために必死の行動を行っています。それでも泥棒は泥棒。純粋にねじ伏せてもよいでしょう。
ですが、ガズパの思うように本当にこの世界は終わってしまうのでしょうか。
皆様にしか出来ない何かがあるはずです。
空賊はどう考えて何をするのかという考察や、空賊に対してどのような行動を起こすのかという具体的行動、彼らに伝えたい想いや言葉等をプランにご記載下さい。
『なお、地上で行動している・エスパイロに登場している空賊双方に対して、エスパイロに搭乗した状態で会話や攻撃が可能です。』
ゲームマスターより
皆様初めまして、フロンティアファクトリー様のPBWに
初めて参加させて頂きます。マスターのpnkjynpです。
ゲームのルール上出来ることに限界はありますが、
皆様のキャラクターを精一杯輝かせられるよう努力して参ります。
どうぞ宜しくお願い致します。
【隠れた真実】未来を求めて エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/2 0
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難易度 |
普通
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報酬 |
少し
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公開日 |
2017/7/12 |
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空屋
( シロア )
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ヒューマン | スナイパー | 23 歳 | 男性
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まずは可能なら双方に対して降伏勧告を行い(片方しかできないなら食料庫を狙う方にする)従わないものに対して銃撃を行う(この際なるべく死なないように手や足などを撃つ)食料庫を狙う場合エスパイロに乗っている賊を狙う、なるべく1人で行う
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・目標は、市民・建物・食糧等の被害を抑えて、空賊の撃退が為される事。その為の支援(土台)をしっかりとやる ・ハッカーの索敵能力を活かして、空賊の位置や状況・周辺の建物の状況や市民の位置と情報・今回対応にあたる探求者の位置と状況等、現状の把握に尽力する ・現状を把握したら、それらを他の対応にあたる探究者に発信・情報共有……緊急性の高い所から、近い人に対応を頼む。また、目標被りの様な状況が発生しそうな場合……それによって、手薄になって被害が出そうになる所が在れば、対応目標を変更して貰える様に説得する ・各探究者の対応(市民治療・市民護送・空賊対応……等々)に極力合わせた情報を提供する様に努める。原則は、緊急性の高いものを最優先に、そうでない時は……各人に近い位置での対応から ・リュミエール(アニマ)には、数ある把握情報の把握の手伝いや、他探求者のアニマへの通信・情報伝達等で手伝って貰う
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目的: 強奪阻止 心情: いつか誰でも人は死ぬのよ セカイノオワリだなんて関係ないわ 戦っている人がいるというのに、強奪なんて許さない 作戦: 全員と連携 エスバイロに乗って、食料庫担当の空賊と戦うわ みんなと行動は共にし、周囲の様子を観察 イヴの空賊のエスバイロ破壊がやりやすいように、周囲に注意してスキル使用。 その際、味方の攻撃射程内に空賊を誘導するように使う 交戦時はエスバイロで挑発しつつ逃げる 「生きる為の強奪?くだらないわ、マトモに生きてないクセに」 「生まれた以上、人はいつか死ぬ運命よ。他を害して、それでも真っ直ぐ生きたとあなた達は言えるの?」 「生き方と死に方がその人の価値を決めるのよ」 怖がるだろうマジュを宥めつつ戦うわ 空賊を引きつけるためには何度でも攻撃>>逃げる…を繰り返す 世界が脅威に満ちてるのは当たり前 自然界の力に人が勝てるわけがない だから、人にも世界に対しても謙虚さと優しさが必要なのよ
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ルゥリィ
( ミリル )
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デモニック | マッドドクター | 13 歳 | 女性
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敵揺動部隊に対処。味方の探究者および避難中の人々に負傷者が出た際に処置を施します。
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散葉
( 譲葉 )
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ケモモ | マーセナリー | 16 歳 | 女性
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敵揺動部隊に対して攻撃。避難中の人々や建物に被害が出ないよう全員倒します。
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イヴ
( ハーデス )
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ドワーフ | スナイパー | 22 歳 | 女性
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敵本体のエスパイロに対してクラススキルフラッシュエイムを使用しつつ破壊し、敵船に食料を回収させないように行動します。
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船内に逃げ出した空賊を探して説得を試みます。アイドルの歌で精神状態を落ち着かせ話を聞いてくれやすい状況を作りだします。
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参加者一覧
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空屋
( シロア )
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ヒューマン | スナイパー | 23 歳 | 男性
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ルゥリィ
( ミリル )
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デモニック | マッドドクター | 13 歳 | 女性
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散葉
( 譲葉 )
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ケモモ | マーセナリー | 16 歳 | 女性
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イヴ
( ハーデス )
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ドワーフ | スナイパー | 22 歳 | 女性
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リザルト
●デュアルアイズ AEGIS and HAWK
ある高いビルの屋上。周囲を見渡せるこの位置で、問題の空賊達を見つめる男がいた。
「皆様、こちらの音声は聞こえていますか?」
デモニックのハッカー、『Truthssoughter=Dawn(トゥルーソウター=ダーン)』だ。彼の声が探究者達の通信機に響く。
「大丈夫でーす。ね、ルゥリィちゃん」
「問題ないわ」
その声に『散葉(ちるは)』と『スネグーラチカ スリヨーズ』が応える。
どうやら散葉と『ルゥリィ』は一緒に行動しているようだ。
彼らは事前に連絡を取り合い、今回の作戦に共同で当たっていた。
「では情報を整理します。今、皆さんの端末に付近の地図データを送ります」
トゥルーソウターはそう言うと、慣れた手つきで装備している入力端末を操作する。
数秒後、探究者の通信端末には立体映像による地図が投影されていた。
「敵は30人。手首の赤いスカーフを目印に判別してください。二手に分かれていますが、既に破壊行為の目撃情報があることから陽動部隊は西側……ここです」
「へぇ~分かりやすいですね! じゃ、そっちはわたし達に任せて下さ~い!」
そう応答するや否や、散葉は指定された場所へと走り出してしまう。
「あぁ散葉さん! ……もぅ。わたしも散葉さんと一緒に西側の対処に向かいますね。怪我人が居たら教えてください。わたしが助けますから!」
ペコりと通信機に向かってお辞儀をすると、ルゥリィもまた散葉を追いかけて現場へと向かっていった。
「ではスネグーラチカさん、貴女は食糧庫の対処をお願いします。詳しい指示はもう少し情報を集めてから送りますので」
「分かったわ」
スネグーラチカもまた、指示に従いエスパイロで現場に急行する。
続いて彼はアニマ『lumiere=douceu(リュミエール=ドゥサール)』に念話で指示を出していた。
(今後の通信をオープンに調整。探究者の位置情報と食糧倉庫内部の状況が知りたい。これらを近くの防犯カメラにアクセスし調査。その後は散葉さんとルゥリィさんのサポート。頼めるかな)
(はい、あたしにお任せでございますです!)
リュミエールに情報収集を任せ、彼は通信を続ける。
「引き続き情報を伝達します。敵が狙う食糧庫は北の端、第三倉庫と思われます。食料の運搬に使われるエスパイロは3機……いえ、4機ですね。1つ目立った外装のものがあります。恐らくそれに搭乗しているのがガズバでしょう。各エスパイロの軌道を分析してみましたが、僕達のいるこの位置からでは狙いがつけづらいかと思います。また、現在倉庫を狙っている部隊は10人と推測されています。この事から倉庫内に少なくとも6人はいると考えたほうが無難です。注意して下さい」
そこまで言うと、彼は一度大きく深呼吸をした。
「さて、荒事は出来かねますが……この戦局、必ず全てを読み切ってみせましょう」
決意を確かすると、自身のアニマと共にありとあらゆる情報へとアクセスを開始、分析する。
彼の役目は、探究者全員の見えない目となること。その一点に徹していた。
そして、そんな彼の様子をはるか上空から伺っていた者がいた。
スナイパーの『イヴ』だ。
「私の存在に気づいている……か。だが」
彼女は搭乗するエスパイロ上で器用に狙撃体制を取っていく。
「情報だけじゃ実力は分析しきれない」
姿勢を整え彼女はスキル、フラッシュエイムを発動させる。
空間が張り詰めたような感覚と共に、スコープは狙うべき獲物を捕らえる。
こんな状況でそれが出来るのは彼女自身の射撃技術と、アニマ『ハーデス』の繊細な調整の賜物だろう。
「君達に恨みはないがこの状況で悪事を働こうというのだ。容赦は……しないっ!」
そして彼女は、迷いなく引き金を引いた。
(ヒットです!)
ハーデスが小さくガッツポーズで狙撃成功を報告する。
イヴの体から赤いオーラが消える頃には、食糧庫付近を飛行していた空賊のエスパイロが1機、煙をあげて墜落していった。
それを見届け、イヴは高度を落としトゥルーソウターに近づく。
「見事的中ですか、やりますね」
「あら、この結果も織り込み済み?」
「ええ。貴女の実力は未確定要素でしたが、想定よりもずっと優秀で安心しましたよ」
「そうか……一応礼は言っておく。君の軌道予測データも利用させてもらったから」
「いえ……貴女は……イヴさんですね。残り3機、お任せしても宜しいですか?」
「勝手に人の情報を調べないで頂戴」
イヴはエスパイロで飛び去ってしまうが、彼女の飛び去った方角が北側であることに彼は気づいていた。
「感謝します。さ、ここからは……」
トゥルーソウターは、データを見ながら少しだけ眉をしかめる。
それは食糧倉庫内部、まだ見ぬ探究者の反応に関連していた。
●「覚悟は出来たか?」
突如放たれた一発の弾丸が、食料を輸送中のエスパイロを貫いた。
エンジン部を打ち抜いた正確無比な射撃によって、機体は当然その軌道を維持できなくなる。
突然の襲撃に対応できず、状況も読み込めていなかった搭乗者には為す術もない。
墜落する機体、闇の底へと消えていく食料達。そして……
「アッシュ! アッーシュ! ……嘘だろ」
「おい、なんだよ今のは!?」
「陽動はどうなってんだよ!」
誰の犠牲も出ずに終わるはずだった、当初の計画。しかしそんな予定とは裏腹な状況に、倉庫内の空賊達は次々に騒ぎ出していた。
「うろたえんじゃねぇよお前ら!」
そんな時、ガズバが倉庫内の仲間達を怒鳴りつける。
「わめく暇あったら手を動かしやがれ!」
空賊達はしばし戸惑っていたが、気を持ち直すと作業を早め始める。倉庫内の食糧は次々とコンテナに移し替えられていった。
一方ガズバは、運搬担当であった他の2人と共にジグザグ飛行を行いながら、スナイパーの位置を特定するため倉庫から距離を置く。
死の瀬戸際を感じさせる現状に、空賊達はそれぞれの作業に集中しきっていた。そのため、その様子を観察している者の存在にも気づかない。
(ここに6人。空にいるのは1人減って、残り3人。手首のスカーフ……あいつの言った通りの様だな)
(そうですね。彼らが目的の空賊で間違いないでしょう)
それは、『空屋(からや)』とアニマの『シロア』の存在だ。
彼らはあらかじめ食糧倉庫にアタリをつけておき、トゥルーソウターの情報を利用してここを突き止めていた。
(空屋様。皆様の明日の食事の為、宜しくお願いしますね)
(フッ……自分のこの身はシロアの物。キミの為にこそ、必ずこなしてみせる)
空屋はシロアのホログラムを愛おしそうに見つめると、その手にキスをする仕草を見せた。しばしの余韻に浸った後、彼は近くのコンテナの上に飛び乗り倉庫内に声を轟かせる。
「動くな!」
一斉に振り返る空賊達。中には短剣を構える者もいる。
それに空屋は素早く反応し、装備中のハンドガンで空賊の持つ短剣を打ちはじく。
「動くなと言っただろう? 分かっていると思うが、キミ達の作戦は全てこちらに筒抜けだ。今すぐ降伏しろ。そうすれば、そのちっぽけな命くらいは見逃してもいい」
装備している武器や熟練度を見ても、空賊達に勝ち目はない。しかしこれだけの実力差を見せつけていてもなお、空屋の思う通りには行かなかった。
「なら……きっちり見ててもらおうじゃねぇか!」
そう雄叫びをあげながら、彼らは真っ直ぐに空屋に襲い掛かってきた。
「な!?」
個々の実力は大したことが無いものの、まとめて来られては空屋も狙いのつけようがない。
腕や足を打ち抜き2人までは無力化したが、残りの4人によって一気に接近戦へと持ち込まれてしまう。
「どうした、避けるので精一杯か! あぁ!?」
「面倒だなっ……!」
シロアになるべくケガをさせずに捕まえてほしいと頼まれていたことから、空屋は上手く反撃できずにいた。だが容赦のない攻撃に、回避しきれない切り傷はどんどんとその数を増やしていく。
(仕方ないか……)
なるべくはなるべくだ。そんなことを思いながら、空屋は銃に弾を装填し直す。
しかし彼が引き金を引こうとしたその時、彼の通信機からトゥルーソウターの声が聞こえてきた。
「空屋さん、左に思いっきり飛んでください」
咄嗟の出来事で反射的に声に従って身を投げ出す空屋。
「きゃるーん☆テンペストっ!」
直後、倉庫の窓を突き破り小さな放射線状の光線が飛び込んできた。
丸、三角、星やハートの不思議な形をしたそれは、空賊達の目を直撃する。
「って!? んだよ今の!」
空賊達は目に沢山の石ころが入ってきたような妙な痛みに耐えながら、光線の飛んできた窓を見上げる。
「これでも随分手加減したのよ」
そこには夕日よりも赤い深紅の髪の少女、スネグーラチカの姿があった。
その赤さに思わず目を奪われる空賊達。空屋はその隙を逃さなかった。
「グアッ!?」
ふくらはぎや膝などを打ち抜かれた空賊達は、地べたに倒れ込む。
何発もの銃声に、スネグーラチカのアニマ『マジュ』は怯えて、自分のふわふわとした服の中に顔を隠してしまう。
(スネグーラチカ、僕ちょっと怖いよ……)
(安心してマジュ。もう少しの辛抱だからね)
スネグーラチカは、マジュを宥めつつ、エスパイロ上から魔法で短剣を弾き飛ばし空賊達を無力化すると、倉庫内に機体を降ろす。
「これで倉庫内は安心ね。私はスネグーラチカ。あなたは……それよりも怪我は平気?」
「この程度なんでもない。それよりも自分はキミに助けなど求めたつもりはないんだが? それと遠くから人を覗き見してるキミもだ」
空屋の通信機からトゥルーソウターは応答する。
「すみません。空賊を手早く処理するにはこれが一番良いかと。スネグーラチカさんは僕の作戦に協力して頂いただけです」
「なら期待通りの働きをしたこの赤ずきんを褒めてやるんだな。冷たい目に似つかわしい可愛い呪文詠唱は傑作だったぞ」
「随分な言い方ですね……」
アニマと話す時の表情とは打って変わり、軽薄な笑みを浮かべる空屋。
「……平気ならそれでいい。じゃあ私は行くわ」
スネグーラチカは、空屋の皮肉も意に介さないような様子で、エスパイロに乗りガズバ達を追っていく。その反応を意外に思いながらも彼は話を続ける。
「自分の仕事はここまでだ。これ以上干渉するなよ、ハッカー」
「はい。ただ、最後に空賊の引き渡しをお願いできますか?」
(空屋様、私からもお願い致します)
(シロア……)
「……分かった」
「へっ……全部終わったつもりでいい気なもんだな」
血を流し動けなくなりながらも、まだ抗う姿勢を崩さない空賊達は空屋に対して笑って見せた。
「覚悟しとけよ……さっき陽動部隊に救援要請を送ったからな……」
空屋はそれを無視し軍に連絡を送る。
「空屋さん、もう1つお願いしても宜しいですか?」
「うるさいぞ」
「すみません。すぐ済みますので」
トゥルーソウターはそれだけ言うと、自分に届いた音声データを空屋の通信機で再生させる。
「トゥルーソウターさん! スネグーラチカさん! こっちは皆倒しましたよ~!」
「あっ、散葉ちゃん動かないで。傷口消毒するから……」
「わわっ?! 沁みるの嫌だよー!」
そこまで聞くと、空屋は自分の通信機の電源を切ってしまう。
そしてだるそうに空賊達に向き直ると、冷たくこう言い放つのだった。
「お前達……覚悟は出来たか?」
●悪魔とケモモの行進
イヴが狙撃に成功した頃、散葉は西側の現場へ到着していた。
そこには彼らの陽動作戦にかかり、空賊の対処に追われる兵士の姿もある。
「さ、悪い人達はわたしがみ~んな、お仕置きだからねっ!」
散葉は、ここまで走ってきた疲れも見せずに空賊達に飛びかかっていく。
そこに少し遅れてルゥリィもやってくる。
「はぁ……はぁ……。散葉さん……ってば……」
(大丈夫でございますです? ご主人様に怪我人として報告しちゃいますですか?)
(大丈夫よリュミエールさん。これはケモモとデモニックの体力差が引き起こした現象です)
(はわ~! ミニルさん、博識です~)
トゥルーソウターの代わりに彼女達2人への情報伝達を担当した彼女は、ルゥリィのアニマ『ミニル』の言葉に良く分からない感銘を受けていた。それを見て彼女に若干抜けている部分を感じたミニル。
(それよりもルゥリィ。やれますね?)
「う、うん。大丈夫だよ」
(ではリュミエールさん。付近の怪我人を教えて下さい)
(はいです! あそこで散葉さんがケガ人を量産しているのでございます!)
彼女が指さす先では、憲兵と一緒に空賊に対処する散葉の姿があった。
ケモモの身体能力に加え、片手剣と盾の組み合わせで防御と攻撃の両方をこなす散葉。
人数的不利をその技量と運動量で覆していた。
「あ~うん……そうですよね。確かにあれは痛そうです」
傷をつける意思は無い様で、剣の柄や盾で上手く空賊を気絶させていく。
その様子に思わず感心するルゥリィ。
(確かに怪我人が発生してはいますが……お願いしたのは空賊ではない民間人の怪我人の事です)
(あわわ……申し訳ないでございますです~。えとえと……、出来ましたでございます!)
リュミエールはルゥリィの通信機に怪我人の位置を表示する。
「ありがとうございます、リュミエールさん。ミニル……私頑張りますからっ……」
(大丈夫。私が見守っています……ですから、全力で救ってみせなさい)
息を整え、ルゥリィは情報を元に怪我人の治療に奔走する。その姿はデモニックという見た目からは想像できない、彼女の人を助けたいという強い思いを感じさせた。
一方陽動部隊と対する散葉の戦いも終焉が近づいていた。
「くそっ! てめぇ、どういう神経してんだよ!?」
ガンッ!
「えっ? なんて言った……のぉ!?」
「ぐっはっ!?」
「おい、あのケモモやばすぎねぇか?」
「盾があるとはいえあいつに殴られて吹き飛ばねぇ。こっちが切りつけても平気な顔とはなぁ……」
空賊の中でも特に体格の大きな男を回し蹴りで吹き飛ばし気絶させた散葉。
一度に数人の攻撃を同時に受ければ当然彼女も相応の傷を負っているのだが、それでも彼女は戦う手を止めはしない。そんな彼女の勢いに空賊達は困惑を隠せなくなっていた。
「わたしだって平気じゃないですよ?」
ポンポンと服の汚れを払いながら、空賊の漏らした問いに答える散葉。
「でもご飯が食べられなくなったらもっと平気じゃないです!」
剣を構え直し体制を整えながら、最後に残った2人へ高らかに宣言する。
「だからあなた達みんな、【ぶっとば☆】だよっ!」
その言葉を最後に、彼らの意識は途絶えてしまう。
薄れゆく意識の中で、彼女の言葉は山彦のように何度も繰り返されていた。
「ふぃ~。おーっしまい!」
そして全てが終わったことを確認し、散葉は武器をその辺に投げ捨てる。
同時に彼女のセンシブルに集中していたアニマの『譲葉(ゆずりは)』もその姿を現す。
(散葉~! また勢いだけで何でもやっちゃうんですから!)
「にゃははー。だって早くなんとかしなきゃーって思ったんだよね」
(だからって……いつも無茶ばかりするんですから)
「ごめんごめーん」
(ルゥリィさんをこちらに呼びますから、ちゃんと見てもらって下さいね)
こうして陽動部隊の方も無事に対処された。
そしてこの後、彼女達は一緒に戦う探究者達にその結果を報告する。
●未来の行き先
こうして2つ部隊が制圧された頃、空ではイヴとガズバが戦いを続けていた。
「聞こえたか? 君の部下どもは皆お縄についた」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
ガズバのエスパイロが銃弾を乱射する。それを上手く避けるイヴであったが、ここまでにガズバに随走してきた2機を撃墜したことで疲弊していた。
(イヴ、このままでは燃料が持ちませんよ!)
(ライフルも残り1発。さてどうする……)
しかし突然、銃弾の嵐が止んだ。
イヴは反転すると、ガズバの方へ銃口を向ける。
「そこまでよ」
そこには杖を構えるスネグーラチカの姿があった。
「ちっ……」
「ここで動けばあなたは死ぬわ。それはあなたの求める結果では無いでしょう?」
「……確かに。死ぬのはごめんだ」
「なら計画を終わりにすることね」
彼女はガズバと会話を続け、イヴが狙撃するための時間を稼ぐ。
「てめぇは死ぬのが怖くないのか?」
「怖くないとは言えないわ。……でも、怖いからって生きる為に強奪? それはくだらないわ」
彼女は氷のように冷たい視線で語り続ける。
「生まれた以上、人はいつか死ぬ運命よ。他を害して、それでも真っ直ぐ生きたとあなた達は言えるの?」
この間にイヴはなるべく悟られないよう慎重に動き、準備を完了させた。
(ハーデス。彼女にいつでもやれる、とメッセージを送って頂戴)
(任せて下さい)
通信機に届いたメッセージをスネグーラチカは一瞥する。
「てめぇには分からねぇさ」
「……生き方と死に方が、その人の価値を決めるのよ」
「じゃあ聞くが……アッシュの価値ってのは一体何だったんだよ……」
「アッシュ?」
「お前らに殺された……仲間の名前だー!!!」
次の瞬間。ガズバはエスパイロの機銃を乱射しながら、ハンドガンも用いて2人の探究者を襲う。
「くっ」
イヴも反撃するが、回避行動を取りつつの射撃で体制を崩してしまう。放たれた鉛は、彼の頬を引き裂いた。
伝う血を気にも留めず打ち続ける彼をなんとか抑えたいが、スネグーラチカも回避で手が回らない。
そんな状況を救ったのは、2人の人間の言葉だった。
「止めてくださいっ!」
「兄さん、ここまでだ」
それは探究者『ましろ』と彼女が見つけ出した空賊の、想いを込めた言葉。
彼女のアニマである『ファーファ』は彼女のエスパイロに着けられたスピーカーで声を他の探究者にも聞こえるよう拡散させる。
「ごめんなさい皆さん、この方を見つけるのに時間がかかってしまって……」
銃撃は止み、彼女達が乗ったエスパイロがガズバの目の前へとやってくる。
「お前……」
「やっぱりこんなやり方は良くないよ、兄さん」
ましろの後ろにいる空賊は、申し訳なさそうに……そしてせつなそうにガズバを見つめていた。
そんな彼の様子を見てましろが言葉を続ける。
「ガズバさん達は元々、貧困街で育ったそうなのです。悪い人からお金を奪って、自分の仲間や貧しい人に分けてあげる……そんな人達だったのです。でもブロントヴァイレスが初めて襲来したあの時。ガズバさん達はここを離れて他の旅団にいる仲間を助けに行っていたら、食料も資金も全部、この旅団の仲間に奪われていたんです」
ましろから聞かされる言葉に、驚きを隠しきれないスネグーラチカとイヴ。
「僕達には、表の世界で生きられるような資格は何もありません……。だから、自分達が助けてきた仲間達に助けてくれるようにお願いしてきました、でも誰も助けてはくれなかった」
「だから気づいた。俺が守るべきは俺の仲間だけだってな。あんな化物が出て、どうせ世界が終わっちまうなら限界まで守り切るって決めたのによぉ……アッシュ……」
うなだれるガズバ。そんな彼を優しく包み込むようにましろは歌を歌う。
それはこの世界に伝わる神への祈りと許しの調。
歌い終わると、彼女はガズバの頭をそっとなでる。
「ガズバさん、あなたのしたことは本当にやっちゃダメなことです。でも、きっと未来は良い方向に進めていけると思うんです。だから、わたしにはこんな歌しか贈れないけど、かつての仲間達も……誰かを守り切れなかったあなた自身も許してあげてほしいです……」
(お姉ちゃん……泣いてる……)
ましろは、かつての歴史でこの世界が終わってしまったことを思い出していた。
だが、今再びこの世界は変わろうとしている。彼らには分からないことだが、それは確かに存在する事実だった。
それならば。こぼれる命や変えられない出来事があったとしても。彼女はそれを信じていたいのだ。
きっと未来は良い方向に変えて行けるのだと。
彼女が必死の思いで紡いだ心の声は、彼の深層意識に小さな希望を紡ぎ出していた。
「さぁ、帰ろう。兄さん」
「………待ってくれ」
ガズバは、少し優しくなった声色でスネグーラチカに問いかけてきた。
「なぁ赤髪。俺の価値って……なんだ?」
「そうね……」
その様子を、ましろはぎゅっと手を握りしめながら見つめている。
「あなたが本当に怖がっていたのは、死ぬことじゃない。死なせてしまうことよ。その恐怖に向き合った時、彼女の言うように避けられない運命は必ずある。でも……」
ガズバ、そして弟の顔を交互に見ると、彼女は何かを確信した様子でこう言った。
「あなたが失いかけた謙虚さと優しさがあれば、きっとあなたは最後に笑っていられるでしょうね」
「そうか……。ありがとうな」
こうして空賊ガズバは弟と共に軍に投降。彼の起こした小さな事件は幕を下ろすこととなる。
「状況終了ですね。皆様お疲れ様でした」
「助かったぞスネグーラチカ」
「いえ、私達を本当に助けてくれたのは彼女よ」
「わ、私はそんな……でも、1人でも助けられてよかったです」
「ましろ~! カッコよかったよー!」
「散葉さんってば、そんなに叫んだら傷に響くよ?」
彼らと、そして空屋の活躍により、食糧は守り切られた。
これから彼らは、さらなる脅威を乗り越えていくこととなるのだが、それはまた別のお話。
依頼結果
依頼相談掲示板