プロローグ
商業旅団ファヴニルは、文字通り商売に特化した旅団だ。
買い物をするのに、値切りが普通という独特の文化があったりする。
そんな場所なので、商売に繋がりそうなイベントは定期的に開催されている。
それは、ホワイトデーイベントも例外ではない。
ファヴニルの商業地区の一角。
アンティークの調度品が商品として並べられた屋台の店主が、ホワイトデーのイベント企画を持って来た女性と話していた。
「千年前から伝わるイベントですか」
屋台の店主、クロアが思案するように呟く。
50代のクロアは、多くの商人との伝手を持っている。
なので彼に根回しをすれば、規模の大きなイベントを開催することが出来るのだ。
「あれ? ひょっとして、疑ってる? クロさん」
クロアに企画を持ち込んだ女性、企画屋のパールは猫が笑うような笑みを浮かべながら問い掛ける。
これにクロアは、肩をすくめるようにして返した。
「疑っちゃあいませんよ。貴女の話は、どんなに突拍子の無いことでも、全部本物でしたしね。問題は、お客さんが信じてくれるかってことですよ」
「信じてくれないと思う? やっぱり」
パールの言葉に、クロアは手にしたサイコロを転がしながら返した。
「千年前の情報なんて、なにが本当か分からないんですからねぇ。胡散臭く感じられそうですよ」
「良いじゃない、それでも。物の真偽よりも、楽しめるかどうかでしょ」
これにクロアは、にやりと笑みを浮かべながら返す。
「そりゃそうだ。その上で儲かれば、アタシらとしては言うことなしだけどね」
「そこはそっちの腕の見せ所。儲ける自信は、あるでしょ」
持ち上げつつ挑発するような物言いをするパールに、クロアは喉の奥でクツクツと笑い返す。
「そりゃ、自信はあるよ。でも、やる気があるかは分からない」
「そこはやる気を出してよ。やる気が出ないってのなら、一勝負やってみる?」
パールは、そう言うとコインを一枚出す。
「表か裏か、一発勝負でどう?」
クロアは賭け事が好きなので、パールは事ある毎に勝負を持ちかけている。
ちなみに今の所、パールの全勝だ。
クロアは、楽しそうに目を細めると承諾する。
「良いですよ。いい加減、勝ちたいですからね」
「じゃ、表か裏、どっちにする?」
「そっちが決めて下さいな。その代り、コインを投げるのは、アタシにさせて貰うよ」
「オッケー。じゃ、投げてみて」
パールからコインを受け取ったクロアは、親指でコインを跳ね上げ、手の甲と手の平で見えないようにして挟む。
「さあ、どっちです?」
これにパールは、にこりと笑い応えた。
「両方表。すり替えたでしょ、投げる時に」
これにクロアは、両方表のコインをパールに投げてから返す。
「残念。また負けか」
「いい加減、イカサマするの、止めたら?」
肩をすくめるようにして言うパールに、クロアは楽しそうに返した。
「イカサマを見つけて貰うのが、楽しいんでねぇ。それはそれとして、ホワイトデーイベント、アタシが責任を持って開くよ。お客さんの呼び込みは、任せたよ」
「うん。任せてちょうだい」
などというやり取りがあり、パールや商業旅団に属する商人達の宣伝が行われました。
内容は、千年前から伝わるホワイトデーイベントに参加してみませんか? という物でした。
開催される場所は、ファブニルの商業地区。
そこで、イベントが行われるとの事です。
これにアナタ達は参加する事にしました。
購入したホワイトチョコに書かれた番号と同じ相手とお店を回り、途中で普段は言えない自分の想いを皆に発表し、最後は用意された幾つもの花の中から、贈り物を選ぶイベントです。
これに興味を持ったアナタ、そしてアニマは参加しますが、そこで何が起こるかはアナタのプラン次第です。
ご参加を、お待ちしております。
解説
詳細説明
商業旅団ファブニルの商業地区で行われているホワイトデーイベントに参加して下さい。
イベントの流れは、以下の通りです。
1 番号の書かれたホワイトチョコを購入する。その番号と同じ番号の書かれたチョコを購入した相手とお店を回る。
2 イベント広場で、普段は言えないことを皆に大声で言う。それが無理な場合は、歌を歌ったり踊ったり、なんでも良いので一芸を披露する。
3 最後に、幾つもの種類と沢山の花を用意された広場で、好きな花を選び誰かにプレゼントする。アニマ用に、花のデータもあります。
この流れの中で、どう動かれるかをプランにてお書きください。
1で一緒に周ることになる相手は、プランにてどういう相手か書いて頂けると、それに沿ってリザルトで描写されます。PC同士で巡る場合は、双方がその旨をお書きください。書かれていない場合は、PC同士では描写されません。
ホワイトデーイベントの参加者の傾向
大半は、イベントとして楽しんでいます。なので、これを機会に恋人を見つけようとかの参加者は少なめです。あくまでも、イベントの遊びとして一緒に店を回ったりする、とかがほとんどです。
イベントで回るお店
プランにてお好きにお書きください。書いて頂いたものが描写されます。
アニマの反応
自由にお書きください。誰かと周るマスターにやきもきするでも、一緒に会話に加わって巡ってみるでも、あるいはけしかけるでも、自由にお書き頂けます。
以上です。それではご参加をお待ちしております。
ゲームマスターより
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。
今回のエピソードは、幻カタで私が提供させて頂きました「Vd:バレンタインを作ってみよう」からネタを考えて作っています。
向こうですとバレンタインイベントでしたが、千年経つ内に色々と変わる部分も出て来るよね、ということでホワイトデーイベントになっています。
そんな感じに、幻カタのエピソードの結果から、そそらの方でエピソードを出してみる、とかも今後やってみようかなとか考えています。
あるいは、なんらかの形で逆のパターンもやれたらなと思っています。
興味を持って頂けましたら幸いです。
では、少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。
vD:千年後のホワイトデー エピソード情報
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担当 |
春夏秋冬 GM
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相談期間 |
5 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2018/3/26
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2018/03/31 |
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「千年前からの、ね…そういえば三倍返しだっけ。EST-EXから言われてたっけね」 ◆行動 特に使命はなし。NPCや誰か一緒にまわりたいという人がいた場合はお任せします。 広場では…告白する相手でもないし、ダンスを披露。ケモモのうさ耳を生かしてバニーダンスなど。 イベントって現地頂いたので割とハッチャケ気味。 最後の花束はアニマに。 ウサミミヘアバンド(データ)をEST-EXへプレゼント。日頃の感謝といたずら心を込めて 「お揃い。いいでしょ? けっこういいヤツよ!」 (データにいい悪いでお値段あるかは知らないけど)
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真奥
( 恵美 )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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恵:ホワイトデーって、結構ロマンチックなイベントよね。 真:なんだ恵美、興味あんの? 意外と女々しいところあるんだな。 恵:失礼ね。っていうか女々しい、って元々女なんですけど。ぶっ飛ばすわよ。 真:はは、お前は俺に触れられません~ 恵:じゃあ、家の鍵ロックして路頭に迷わせてやるわ 真:すみませんでした 恵:慇懃無礼さを感じるほどの、素早い土下座ね……。いや、別に本気で怒ってないから 真:まぁ、アレだよなぁ。こういうのって大抵どっかの企業とかが生み出した文化だったりするけど、楽しまなきゃ損だよな。せっかくだし楽しもうぜ 恵:せっかくだし、付き合ってあげるわ
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参加者一覧
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真奥
( 恵美 )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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リザルト
○それぞれのホワイトデーイベント
千年越しの由来を持つというホワイトデーイベント。
確かめようもない話だが、それはそれ。
興味を持った探究者が、アニマと共に参加していた。
○たまには想いを言葉に乗せて
「ホワイトデーって、結構ロマンチックなイベントよね」
ホワイトデーイベントの開催ホログラフを見ながら、【真奥(まおう)】のアニマである【恵美(エミ)】は乗り気な声で言った。
「なんだ恵美、興味あんの? 意外と女々しいところあるんだな」
真奥は、からかうように恵美に返す。
2人は探究者として必要な道具を購入するためファヴニルに来ていたのだが、その日はホワイトデーイベント。
いたる所に映し出された開催ホログラフを見て、恵美は興味を持ったのだ。
「失礼ね」
恵美は真奥の言葉に、拗ねるように言った。
「女々しいって、元々女なんですけど。ぶっ飛ばすわよ」
これに真奥は、子供のように返す。
「はは、お前は俺に触れられません~」
「へ~、そうなの」
にこやかな微笑みを浮かべる恵美。
(あ、ヤバい。これ本気だ)
からかい過ぎたことに真奥が気付くも、すでに遅い。
「家の鍵ロックして路頭に迷わせてやるわ」
微笑みを浮かべたまま、恵美は宣戦布告。
これに真奥は、流れるような美しい所作で土下座した。
「すみませんでした!」
恵美は、ため息をつくような間を開け返す。
「慇懃無礼さを感じるほどの、素早い土下座ね……。いや、別に本気で怒ってないから」
「そうか良かった」
「……すぐに立ち直られると、それはそれでもやもやするけど。まぁいいわ。それで、参加してくれるんでしょ?」
これに真奥は、開催告知のホログラフの内容を確かめながら返す。
「まぁ、アレだよなぁ。こういうのって大抵どっかの企業とかが生み出した文化だったりするけど、楽しまなきゃ損だよな。せっかくだし楽しもうぜ」
誘うように手を差し出す真奥に、触れることは出来ずとも、応えるように手を伸ばし恵美は言った。
「せっかくだし、付き合ってあげるわ」
その表情には、楽しそうな笑みが浮かんでいた。
そしてイベント参加。ホワイトチョコを買い、対応する番号のか書かれた相手が、イベント関係者に連れられてやって来る。
「ヨナと言います。今日は、よろしくお願いしますね。一緒に、楽しみましょう」
やって来たのは20歳前後の金髪の女性。
にこやかな笑顔が魅力的だ。
「良かったわね。綺麗な人が相手で」
恵美の涼しげな声と、やわらかな笑み。
機嫌好さげな筈なのに、気のせいか真奥は微妙に冷や汗をかきそうな気持になる。
「いや、確かに綺麗な人だけどそれはそれというかイベントだからというか」
「……なに慌ててんの。イベントとはいえ、ちゃんとエスコートしなさいよ」
ため息をつくように恵美は言う。
そんな2人を見て、ヨナは楽しそうに笑みを浮かべ言った。
「仲が好いんですね」
「それは、まぁ。小さい頃から、見てるもの」
苦笑するように、恵美は真奥を見詰めながら言う。
これにヨナは、僅かに目を細め提案した。
「ふふ、そんなに仲が好いなら、ダブルデートしませんか?」
「それってどういう……?」
聞き返す真奥に、ヨナは応える。
「一緒に自分のアニマとデートしながら、見て回りませんか? 楽しいと思います。ダメですか?」
少しだけ不安そうに聞くヨナに、真奥は一瞬、恵美の気持ちを確かめるように視線を向ける。
恵美は視線を合わすと、「好きにしなさい」とでも言うように、楽しそうに目を細めるだけで何も返さない。
ちょっとだけ迷うような間を開けて、真奥は応えた。
「それじゃ、お願いします。一緒に楽しみましょう」
そうして皆で、ファブニルのお店を回る。
「恵美さん、似合いますよ、その服」
「ありがとう。ヨナさんも、似合ってるわ」
途中で、アニマ用の服飾データもある衣料品店に。
「2人でいると、余計に素敵ね」
恵美は、ヨナのアニマであるリリムも見ながら言う。
リリムは黒髪の大人しそうなタイプのアニマだが、明るい雰囲気のヨナと共に居るとお互いを引き立てあっている。
「うれしい、ありがとう。恵美さんも、真奥さんと一緒に居ると似合って素敵よ」
「……そう?」
まんざらでもないというように返す恵美。
ちなみに真奥は、女性陣に囲まれながら着せ替え人形状態である。
男一人に女が3人。
綺麗な花に囲まれて、楽しませるように話し掛けられ、ある意味うらやましい状態ではある。
とはいえ、ちょっとばかり女性陣のパワーに押され気味ではあった。
そうしてお店巡りをするうちに、様々な花が展示された広場に。
「そういや最後に、プレゼントする花を選ぶんだっけか」
広場に辿り着き、何とはなしに口にする真奥。
するとヨナが、提案するように言った。
「恵美さんに、花を選ぶのを手伝って欲しいんです。少しの間、一緒に巡らせて貰っても良いですか?」
これに真奥は、恵美に顔を向けながら問い掛ける。
「良いか?」
「ええ、構わないわ。それじゃ、少し待っててね」
そう言って、恵美はヨナと共に花を見に行く。
真奥から離れ声が聞こえない距離で、ヨナは囁くように恵美に言った。
「頼んでおくと、好きな場所に花を届けてくれるらしいですよ。真奥さんに、サプライズプレゼントしてみませんか?」
これに恵美は少し考えるような間を開けて返す。
「そうね。それも良いかも」
そうして真奥には内緒で花を選び、ダブルデートを再開。
アニマにも食事のデータが出る店で軽食を摂ってから、普段は言えないことを口にするイベント広場にやって来た。
「俺は時間帯責任者からの、店長昇進。そしてゆくゆくは代表になる!」
「……そこは探究者としての夢を語りなさいよ」
イベントステージに立ち、壮大な口調で声を響かせる真奥に、恵美は呆れるように呟く。
そんな恵美に、ヨナは言った。
「次は恵美さんの番ですよ。サプライズプレゼント、準備して貰えるように言ってきますね」
どこか背中を押すように言って離れていくヨナに少しだけ視線を送ると、恵美はステージに。
言葉にするべき想いは決めているが、いざ口にするとなると気恥ずかしい。
けれど自分を元気づけるように見詰める真奥に気付き、息を抜くように小さく苦笑すると、真奥の心に届くように声を響かせた。
「真奥、あなたは頑張っているわ」
自分の想いを素直に届けるように。
余計な力の入っていない自然体で、恵美は真奥に言葉を贈っていく。
「他の誰が何と言おうと、私は知っているわ。だって、ずっとあなたの側で見続けていたもの」
恵美の言葉に、最初は驚くように身体を硬くしていた真奥だったが、すぐに聞き入るように耳を傾ける。
そんな彼に、恵美は想いを言葉に乗せ届けていく。
「失敗することや、思い通りにならない事だってあったわ。でも、その度に頑張った。諦めなかったわよね、あなたは」
一つ一つ想い出を心に浮かべながら、恵美は語っていく。
その言葉に会場の皆が聞き入るように静かになる中、一番の想いを口にするのは恥ずかしくもある。
けれど贈りたい言葉を届けるために、恥ずかしさを飲み込んで恵美は言った。
「いつも頑張っているということは、評価してあげるわ。その、なに。……いつもお疲れ様」
その言葉の終わりと共に、花束を手にしたロボットが会場に上がる。
真奥は応えるようにステージに上がり、恵美が操作するロボットから花束を受け取った。
照れ臭そうに真奥は笑みを浮かべながら、けれど心からの想いを込めて言葉を返した。
「ありがとな。すっげぇ嬉しい」
ほっそりとした枝に、星形の可愛らしい花をつけたサザンクロスの花束。
願いを叶えて、という花言葉を持っている。
それを手にして、真奥は笑顔を浮かべた。
その笑顔に、恵美も嬉しそうな笑顔浮かべ応える。
「そう……良かった」
それは見とれてしまうような、魅力的な笑顔だった。
こうして2人はホワイトデーイベントを楽しんだ。
それは、他の探究者も同様だった。
○お揃いをプレゼント
「参加してたんだ」
少しだけ驚くように【ヴァニラビット・レプス】は声を上げた。
ホワイトデーイベントに参加しホワイトチョコを買って、イベントの間パートナーとなる相手を見たからだ。
「この前の依頼ぶりですね」
ヴァニラビットのアニマである【EST-EX(イースター)】が、相手であるパールに声を掛ける。
少し前に受けた依頼の頼み人であるパールは、人懐っこい笑顔を浮かべながら返した。
「私、このイベントの企画をやってるのよ。で、それならそれで成功させなきゃいけないでしょ? でも参加して貰うのは良いけど、人数が奇数だったらあぶれる人が出ちゃうじゃない? その時の要員で待機してたってわけ」
「それで偶々あぶれた私達の所に来たという訳ですか」
「そういうこと。という訳で、今日はよろしくね」
イースターの言葉に返したパールに、ヴァニラビットは応える。
「オッケー。こっちも、よろしく。それで早速だけど、どこ周る?」
「どこでも良いけど、ファヴニルには詳しいの? そうじゃなきゃ、お勧めの店を教えるけど」
パールの言葉に、ヴァニラビットは返した。
「大丈夫よ。私たち、ここを拠点にしてるから」
ファヴニルで活動するフリーの女傭兵であるヴァニラビットとしては、勝手知ったる旅団なのだ。
これにパールは、笑みを浮かべ返す。
「だったら、お互いの贔屓にしてるお店を周ってみる? 私も、知らないお店があったら教えて欲しいし」
これに返したのはイースターだった。
「構いません。ですが、3倍返しをして貰えるお店をお願いします」
「3倍返し?」
聞き返すパールに、ヴァニラビットが苦笑しながら答える。
「バレンタインのお返しよ。EST-EXからバレンタインに3倍返しって頼まれちゃって……」
「古き良き習慣は守られるべきです。そう思いませんか?」
イースターの言葉にパールはクスクスと笑いながら返す。
「そういうことね。だったら任せて。イベントに協賛してくれてるお店があるから、そこを巡ってみましょう。ブティックが良い? それともアクセサリーショップとか?」
「どうせなら、全部周ってみましょう。折角のイベントだから、色々と楽しみたいし」
イベントということで気分を高揚させているヴァニラビットに、パールは応える。
「それなら早速行きましょう。ファヴニルが拠点なら、ここの風習は知ってるわよね。値引きは、大丈夫?」
ファヴニルでは、買い物をするなら値引きが常識だ。
売る方も、それを込みで値段をつけていたりする。
これにイースターは粛々と返した。
「慣れています。店主が泣きを入れて来てからが本番ですね」
「ほどほどにね」
苦笑しながら、ヴァニラビットはお店を巡って行った。
ブティックにアクセサリーショップ。
色々なお店を巡っていった。
「これなんか良いんじゃない?」
アクセサリーショップでパールは、ケモモ用の耳飾りをヴァニラビットに勧める。
ヴァニラビットは手に取って、試しに付けて見ながら返す。
「悪くはないけど、仕事の時に邪魔になりそう。普段使いなら良いかもだけど」
ヴァニラビットは、そう言ってパールに耳飾りを返す。
パールは耳飾りを受け取って元の有った場所に戻すと、今度はイースターに顔を向け言った。
「EST-EXは? ここはアニマ用の装飾データもあるから試してみる?」
これにイースターは、カタログデータを見ながら返す。
「悪くはありませんね。あとは値段次第といった所でしょうか」
「3倍返し、でしょ? 安心してちょうだい。忘れてないわよ」
ヴァニラビットの言葉に、イースターは楽しそうに目を細め返す。
「期待しています」
「任せてちょうだい。そうと決まれば――」
そう言って、ヴァニラビットは店主に商品のことを聞きに行く。
「少し待っててね。なにをプレゼントにするかは後のお楽しみにしたいから、今は秘密ね」
いたずらめかして言うヴァニラビットに、イースターは肩をすくめるように苦笑すると、パールと店の商品を見ていく。
その間に、ヴァニラビットは商品のカタログデータを確認し、一つの商品を選ぶ。
「これ、下さい。値段は――」
3倍返しには、ちと高い。
けれどそこで値切り交渉。
「もう一声。プレゼント用なのよ。折角だから、良い物を贈りたいし。また来るから、もうちょっとまけてくれても良いでしょう?」
ギリギリの値段交渉。
こう着気味になった所でパールが助っ人に入り、店主は降伏宣告。
「分かりましたよ。ええい、ついでだ。おまけも付けますよ」
そうして購入し、店の外に。
「イベントの最後に巡る花の広場で、商品は渡してくれるのですか?」
イースターは、いつもと同じ声の口調だが、ほんの僅かに弾むような響きを滲ませヴァニラビットに尋ねる。
これにヴァニラビットは、くすりと笑い返した。
「ええ。それまで楽しみに待ってね」
そうして一行は、更にファヴニルを巡っていく。
途中、イベントステージに立ち寄ると、踊りを披露することを選択し皆に披露した。
「EST-EX、一緒に踊りましょう」
ステージに立ち、ヴァニラビットはイースターをダンスに誘う。
これにイースターは、いたずらめかした笑みを浮かべ返す。
「構いませんが、リードしてくれますか? それともリードしましょうか?」
「どちらも楽しそうね。でも今日は、私がプレゼントする日だから。リードするわ。連いて来れる?」
「もちろんです。そちらも頑張って下さいね」
「大丈夫よ。いつも一緒なんだから。離れそうになっても、引っ張ってあげるわ」
打てば響くように言葉を交わし、2人はダンスを披露する。
音楽は、パールが担当。
かわいらしくも軽やかな、明るい曲が響いていく。
それに合わせ、ヴァニラビットとイースターは踊りを見せる。
ヴァニラビットが先行し、イースターが重ねるように合わせていく。
バニーなダンスを披露して、会場を盛り上げる。
「これだけだと、物足りませんね。いつもの戦いのような、華やかさが足りません」
踊りが一息ついた所で、イースターは提案する。
「剣舞をしてみるのはどうでしょう? 敵のデータは私がホログラフで出しますから、それに合わせてみては?」
これを耳ざとく聞いたパールが、イベント関係者から長柄の槍剣を持って来て貰い渡す。
「重心も、悪くないわね。これならいけるかも」
手に取ったヴァニラビットは、くるりと軽やかに振り回し、いつでも動けるように脱力する。
「いつでも行けるわよ」
「なら、今すぐ始めましょう」
イースターはヴァニラビットの言葉に返し、会場に設置された機器に干渉し、今まで出遭い倒してきた敵のホログラフを映し出す。
その全てを倒すように、ヴァニラビットは剣舞を見せた。
それはまさしく踊るように見栄え良く、華やかな動きで、会場の皆を魅せていく。
盛り上がり、拍手に包まれるヴァニラビットだった。
こうしてイベントを巡っていき、最後に花の広場に。
そこでヴァニラビットは、イースターにホワイトデーのプレゼントを。
「お揃い。いいでしょ? けっこういいヤツよ!」
プレゼントは、ヴァニラビットの兎耳に似たウサミミヘアバンドのデータ。
日頃の感謝といたずら心を込めたプレゼントに、イースターは早速付けてみる。
「お揃いですね」
「ええ。気に入ってくれた?」
「悪くはないです。気が向けば、これからも付けましょう」
イースターは気の無いように言いながら、積極的にデータを確認する。
「複数、データはあるんですね。花飾りを付け加えることもできるようですね」
確認し、早速付け加えてみる。
ウサミミヘアバンドの耳の付け根を、色とりどりの小さく可憐な花で飾られる。
「他にも幾つかパターンがあるみたいです。これだけ手間のかかったデータなら、3倍返しには十分ですね」
「気に入ってくれたみたいで良かったわ」
嬉しそうなイースターに、ヴァニラビットも嬉しい気持ちになる。
そこに、ウサミミヘアバンドを売ってくれた店主からおまけが届く。
「花飾り、お揃いですね」
イースターの言葉通り、それはウサミミヘアバンドに付け加えられた花飾りと同じ物。
それをヴァニラビットは付けてみる。
「似合う?」
「ええ。一緒に映像に残そうかと思うぐらいには」
お互いを見つめ合い、くすりと笑う。
楽しい気持ちに包まれながら、ホワイトデーイベントを満喫した2人だった。
こうして探究者たちのホワイトデーイベントは終わりを見せる。
それぞれ良い贈り物をしたホワイトデーイベントだった。
依頼結果