正義を燃やせ、追いつけるまで!pnkjynp GM) 【難易度:とても簡単】




プロローグ


 今から十数分前のとある昼下がり。
 商業旅団ファブニルでは、今日も人々が思い思いの時間を過ごす。
 ある者は仕事に勤しみ、ある者は休日を楽しむ。
 またある者は誰かと一緒の時間を過ごし、そしてある者は……自分の為に誰かを傷つける。
「ああっ誰か! 誰か娘をっ!! 誘拐よー!!!」
 穏やかな日常を切り裂く女性の叫び声。
 声が聞こえてきた方を振り向くと、旅団内だけで使用可能な空飛ぶ車が、ある宝石店の駐車場から勢いよく飛び出してきた。
 車はそのままルールなど跳ね飛ばしてしまえ! と言わんばかりに、信号を無視しながら街の外れへ向かい爆走を始める。
「何!? 俺に任せろっ!」
 その場にたまたま居合わせた探究者【平 凡(たいら ぼん)】は、暴走する車を見つけると、誘拐されたエスバイロで追跡する事を決意。車を追いながら自身の置かれたこの状況を整理することにした。
(どうやらブレーキもかけずに飛び回るあの銀の車が何かやらかしたらしいな……見たところ、件の暴走車は通常6~7人が定員の中型車。このままエスバイロで追いかけるだけじゃ、追いつくのは厳しそうだ)
 この世界における移動手段は、小型飛空艇【エスバイロ】を始めとするバイク型の乗り物が幅を利かせてはいるものの、戦闘には縁のない人々や物資を運搬するには少々容量不足であることは否めない。
 そのような状況下で、一度に多くの運搬に適しているという点から、旅団毎に定められた公的機関や企業の業務においては車型の小規模・中規模飛空艇がよく利用されていた。
 そうした車型の乗り物は、バイク型の物に比べれば小回りに少々何があるものの、馬力やボディの装甲の面では上回る性能を持っていた。
(エスバイロにはシールド機能があるから体当たりも出来なくは無さそうだが、そのためにはまずあの車に接触できる距離まで接近しなければ! どうにかして回り込むか車の速度を減速させないと!)
 平はそう考えると、対策を考えるため自身のアニマに周囲の情報を分析させる。
(うぅ~、運転しながらじゃちょこっと難しいけど~~……頑張るねっ! ご主人様!)
 暫くして、平の脳内にはアニマが調べた情報が視覚化して表示された。
「ありがとう。ふむふむ……。このまま街外れの人工林エリアまで逃げられてしまったら、捕まえる事は難しいかも知れないな。今日は一般市民も普通に生活を送っているし、人質も乗っているからエスバイロの火器で範囲攻撃する! ……なんて手段じゃ街に被害を出しかねないか。どう思う?」
(うーん、私が分かるのは、あの車の人達はあまのじゃくさん、って事くらいかな?)
「どうしてそう思ったんだ?」
(だってあの人達、赤信号の方にばっかり進んでるよ? 本当は行っちゃダメな方なのに、危ないよっ!)
 この世界にも、平が元いたという彼の世界同様、運転手が車の移動可否を判断するための信号の概念があり、この地域では地上を走る車用と空を飛ぶ車用の2種類が使われている。
 どうやら彼らなりにルートは選びつつ走行しているようだ。
「くっ、それを判別するには情報が足りないか……とにかく、追跡を続けよう! それからテレルバレルへ応援を要請してくれ!」
 平はアニマに指示を出すと、エスバイロのグリップを大きく引いた。
 


 そして時は今。
 平からの応援依頼を受けファブニルにいた貴方達は行動を開始する。
 この追走劇がどういった結末を迎えるのか。
 それは貴方達の選択次第。


解説


 今回は【車の中にいる誘拐犯を捕まえる事】が出来れば成功となります。

 オープニングの状況を一言でまとめると、所謂空中カーチェイス状態です。
 空中と言っても、イメージとしては現実世界の地上で繰り広げられるものと変わりません。
 信号機やガードレールに駐車中の車、対向車などは車が走るコース上に存在しています。
 エピソードは建物が立ち並ぶ街中を1台の暴走車が逃げるように走り回っており、それを平が1人で追いかけている、という場面から始まります。
 犯人を捕まえるために必要な行動を考え、協力してこの事件を解決しましょう!

【解決へのヒント】
■車を止める
 どのような作戦であっても、暴走車を止めない事には捕まえる事も難しいでしょう。
 状況を俯瞰し車の逃走経路を割り出すも良し、最小限に攻撃するも良し、集まったメンバーの得意を活かしてみて下さい!

■車の中には?
 暴走車は現金輸送車のような風体ですので、内部が良く分かりません。
 少なくとも運転手と人質がいるとは思われますが、もしかしたら皆様にとって有利に働く何かが積んであるかもしれません。
 どうにかして情報を集めましょう。

■1人でも笑顔に!
 今回、確定事項として犯人は純粋悪です(私のこれまでのエピソードでは真っ当な悪役は少なめなのですが、これはただのチンピラみたいなものです)。
 テレルバレルから出た依頼はあくまで【平の応援として犯人を捕まえる】のが目的ですが、皆様の協力があればもっと多くの人が笑顔になるはずです!

■役割分担
 平は現状追跡を行っていますが他行動をやらせる事が出来ます(無理にNPCの行動に皆様が寄せる必要はありません)。
 あくまで人数の問題等で生じる問題を解決するためのギミックですので、皆さんのやりたいことが出来るよう上手に活用して下さい。


ゲームマスターより


 いつもお世話になっております!
 今回も初心者向けシリーズのエピソードになりますので、エピソード参加が初めてという方も、興味がわきましたら是非参加してみて下さいませ!
 また、参加したはいいがプランを考える時間が無かった・プランが浮かばない!という場合もあると思います。
 そんな時には「プランは浮かびませんがカッコよく活躍したい! アドリブ可」等だけでもご記載いただければと思います! 一生懸命プランを記載して下さった方とは多少描写量に差をつけますが、精一杯皆様のキャラクターが輝くよう、勤めさせて頂く所存です。

それでは、リザルトにてお会いできますことを楽しみにしております! 




正義を燃やせ、追いつけるまで! エピソード情報
担当 pnkjynp GM 相談期間 7 日
ジャンル 冒険 タイプ ショート 出発日 2018/1/20
難易度 とても簡単 報酬 通常 公開日 2018/01/30

 ヴァニラビット・レプス  ( EST-EX
 ケモモ | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
◆方針と担当
犯人の逮捕、人質の救出。
どっちもやらないといけないのが、ヒーローの辛いところだけど…やってみせる!

◆行動
全速力で現場に向かい、まずは平と合流して情報共有。
自分はそのまま先回りして行く手を遮るポジションに…『天邪鬼』という方針から人と街を盾にし、紛れる方針で行動していると考えつつも、
近づける時は呼びかけ、返事や行動、仲間たちの情報からから敵の進路を予測。
先回りができたら、建物の影などから『エネルギーブレード』で敵飛空艇の駆動系(ジェットやホバー?)もしくはドアを強襲、破壊して妨害を試みる。
飛空艇の墜落後も敵の脱出・逃走には注意。平さんに呼びかけ、人混みに逃げ込まさず捕縛できるように
 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
動機
小さい子を攫うなんて許せなーい!
絶対に助けて見せるんだから!

行動
要請にすぐさま応えたは良いけど…出来ること少ないなー
あ、ドーピングクッキングで料理作ったから、それでAGL上げるとかどうだろう!

車の中めちゃくちゃ大きくない…?何入っているんだろう?
気になるけど、調べらんない…ラビッツ分かる?
ちょっと通り過ぎた人に何入っていたか聞こうか、それで分かったら連絡しよう!

…あと出来ることはないから突撃だー!
うちのエスバイロは丈夫だから大丈夫大丈夫!ラビッツ!やっちゃって!
ある程度なら治療できるから車思いっきり攻撃しても大丈夫!
他の人も困ったら声かけてね!直しに行くから!傷でもエスバイロでも!
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 
・フィール


目標の車を、エスバイロで後ろから追っかける。


他の二人が先回りしたり、横から仕掛ける……手はず……のはず……うん。だから、とにかく追っかけます。


み~らくるくる☆マジカルで幸運状態になりながら、やきい~れ☆デッドハントで追い詰める。

・アルフォリス


目標の車の進路を演算するかの。フィールの魔法がキッチリ狙える進路をとらせるようにせんとなぁ。

あちら二人のアニマとも連絡を取り合って、うまーくせんとのぅ。

参加者一覧

 ヴァニラビット・レプス  ( EST-EX
 ケモモ | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 


リザルト


●黒く勇壮な兎の跳躍
 俺の名前は【平 凡(たいら ぼん)】!
 何事も一人称視点で誰かに語り掛けるように考えるのが好きな、ごく普通の高校生!
 ……というのは昔の話。
 ある日異世界より召喚された夢を見た俺は、気づけばこの不思議な世界に転移していた!
 だが今では探究者としてこの空の世界で忙しい日々を送っている。
 そんな俺は目下、ある少女を攫ったという車を追ってカーチェイスに奔走中だ。
(御主人様! 前っ、前ーっ?!)
「うわぁっ!?」
 脳内モノローグに夢中で危うく前方に停車中の車へ衝突しかけた平だったが、アニマの声に意識を引き戻すと間一髪でそれを回避する。
「くそっ! 一体全体どういうつもりなんだ、あいつらは!」
 彼が体制を崩している間に、件の車との距離はどんどんと開いていく。
「とにかく、追いかけるしかないか……」
 平がグリップを引くと、再び彼のエスバイロは加速を始める。
 車体の小さい平の方が速度は上であるが、相手は何処へ行くとも知れぬ暴走車。
 このまま後ろから追いかけているだけでは埒が明かない。
 そう考え、助けを求めていた彼の元に最初に駆け付けたのは【ヴァニラビット・レプス】であった。
「平さんっ! 助けに来たわよ!」
「救援か!」
 平のすぐ後方に現れた彼女は、エスバイロで切る風に美しい黒髪とケモモらしいウサギ耳を靡かせる。
 こうして合流した2人はそのまま追跡を続けつつ、簡単な自己紹介を済ませ今後の方針を話し合う。
「誘拐犯の車を追っているから助けてくれ、そう聞いて駆けつけたのは良いのだけれど……何か作戦はあるのかしら?」
「絶賛追跡中、ってとこだ。俺も走り出した車を追いかけてるだけで……。取り敢えず、あの中にはある女性の娘が捕まってるのは確かなんだ」
「そう。取り敢えず何をするにも情報が欲しいわ。キミが持ってるこれまでの視覚と聴覚データ、私に共有してもらえる?」
「分かった。【美鈴(みすず)】、頼む!」
(あいあいさー!)
 プライベートからオープンにモード変更した平のアニマは、同じくオープンモードで起動したヴァニラのアニマ【EST-EX(イースター)】の手を握る動作を行うと、主人が目撃した現場の情報を共有する。
「情報共有を確認。……なるほど。ヴァニラ、平さんは女性の助けを求める悲鳴を聞き振り返ったところ、宝石店から飛び出してくる車を目撃したようです」
「そう。となると直接犯人を目撃した訳じゃない、つまり犯人の人数や車内の状況は不明……ってことよね」
「そうなりますね」
 ヴァニラの言葉にイースターは簡潔に応える。
「ちょっと!? それってほとんどこっちは打つ手なし、って事じゃない!」
「ふふっ。だからこそ、そんな状況を何とかするのがあなたの仕事では? それとも……こなせる自信がありませんか、ヴァニラビット?」
「……全く、簡単に言ってくれちゃって」
 揶揄うようなアニマの問いかけに、為すべきことを改めて認識した彼女は前を見据える。
「分かってるわよ。私の信じる正義のために……犯人の逮捕と人質の救出、どっちもやってみせる!! 良いわね!」
「そうですか。そこまでしてやりたいというのであれば、わざわざ止めはしません。是非どうぞ?」
 主人の決意に、やれやれと言わんばかりの口調で答えるイースター。
 だがその顔には、ほんの少しの笑みが浮かんでいた。
「でもヴァニラビットさん、相手は狭い道も使いながら上手く逃げてる。このまま2人で追いかけるだけじゃ捕まえる事も出来ない」
「そうね。だけど、2人だから出来る事があるわ。挟み撃ちよ」
 彼女はそう言うと、自身のエスバイロ『レッドスプライトⅣ』を上昇させ始める。
「上空から逃走ルートの判別とナビゲートをするわ! 平さんはこのまま追跡して! ルートが分かったら私は先回りして道を塞ぐ!」
 本来であれば旅団外への渡航を除けば、旅団内でその旅団が指定する以上の高度を出すことは禁止されている。
 それは旅団が行う飛空艇管理の面からの要請でもあるが、飛空艇がそのシステム上、根本的に上下の移動に向かないというのも1つの大きな要因と言える。
 だが今回は依頼のため。禁を破ったとしても咎める者はいないだろう。
 そしてそれをやろうとするは探究者として、ソライズナとして経験を積んできたヴァニラだ。機体の重いハンドルを一気に手前引くと、イースターの姿勢制御も受けながら、空へと跳ねるように飛びあがる。
「……すっげー。俺も負けてられないな!」
 彼女の操縦テクニックに触発された平もまた、速度を上げて犯人を追いかけるのであった。



●優しく激しい悪魔の推察
「くそっ!」
 車は未だ暴走を続けていた。
 ヴァニラからの情報で進路上の障害を予測しやすくなったため、平と車の距離は些かに詰まったものの、何かアクションを仕掛けようとすれば、平の速度が落ちてしまい元の木阿弥だ。
 しかし、そんな膠着状態を打ち破る一手は突然放たれた。
「全速前進! 突撃行くよー!」
「あわわわ……! こんなにとばしちゃダメだってば~?!」
「大丈夫大丈夫、ぶつかってみれば分かるって! それー!!!」
 車が直線道路から大きな交差点へ出ようとした瞬間、アニマの【ラビッツ】の制止にも構わず【アリシア・ストウフォース】の乗る『バイコーン』が物凄い速度で飛び出してきた。
「おいっ!?」
 あわや大事故かと思うようなタイミング。思わず目を瞑った平ではあったが、車はまるでアリシアの突撃を知っていたかのようにドリフトでそれをかわすと、アリシアの突撃してきた方向へと逃走を再開した。
 自身の背後に逃げられる形となったアリシアは、急ブレーキをかけるとエスバイロを反転させる。 
「ウソー?! 絶対当てられる! って思ったんだけどなー」
 アリシアの落胆に、彼女の背負う漆黒の羽もシュンとしたように縮こまる。
「絶対当てられる! じゃない! あれで衝突したらどうするつもりだ?!」
 先ほどの自体に驚いた平は、アリシアへと接近し抗議しようとするも……
「ん? ああ、アナタが平さんだね。アタシはアリシア! 宜しくねー!」
「あ、そうです。えっとどうぞ宜しく……でもなくっ!!」
「よし! 自己紹介も済んだし取り敢えず追いかけよっかー。ラビッツ! シールド全開、エンジン全開! リトライだー!」
「え? そんな一遍に無理だよー! それにこの人に謝らないとぉ~~~?!」
 平の声が聞こえなかった様子のアリシアは、ラビッツが話し終わるのも待たず、急ぎ車を追いかけ始めてしまう。
 デモニックという種族とは思えぬほど快活な彼女。
 そんな彼女の自由奔放さに振り回されるラビッツと平であった。

~~~

「つまり、エスバイロのシールドがあるからぶつかっても逃走車は大破しない。そう考えたってことか」
 アリシアに追いつき並走する平は彼女の意図を確認した。
 彼女の駆るエスバイロが防御性能が高い事もあり、彼女の言う通りシールド機能を全開にさえしていれば突撃しても車中の人間にまで被害が及ぶことはないだろう。
「アリシアさん、そういう事なら先に言ってほしい……心臓が止まるかと思った」
「ゴメンゴメン。小さい子を攫ったーなんて聞いたら、もう何とか助けなきゃーって夢中になっちゃって! でもさ、犯人さんもスゴいよねー。咄嗟にあんな反応出来るなんて! 華麗なドライブテクニック、ってやつ?」
「確かに……。あの速度の、しかも視覚外から動きに対応できるなんて……」
「じゃあ、あの人達は運転の上手なあまのじゃくさん、なんだねっ!」
 平のアニマである美鈴が、感心する様に声を上げた。
「そういえば美鈴、さっきもそんな事言ってた気がするけど……」
「うん、あれを見てて!」
 美鈴の言葉に従い一同は注意深く、交差点を通過しようとする逃走車を……ではなく、信号機を監視した。
 現在逃走車が進行する車線の信号は、赤信号を示している。
 当然この場合は停止線で停車するのが普通だが、逃走車はその速度を緩めることなく赤信号を通過した。
「ほらね! ダメな方に進んでるよ!」
 これだけならば、犯罪をおかした人間のとる行動としてあまり違和感を感じはしないが……。
 美鈴の指摘を受け、追跡をしつつしばし観察の目を光らせるアリシア。
「あーーー!!!」
「うわぁ?! なに急にそんな声を出して?」
「ふむふむ~! 分かっちゃったかもしれないよー平さん!」
「一体何が?」
「ほら、信号無視する前と、後だよ!」
 彼女に促され、再度逃走車の様子を確認する。
 車は先程同様、何に阻まれる訳でもなく赤信号を通過する。
 そして通過すると同時に、逃走車が通過したものと交差する車線の信号が、赤から青に変わったのだ。
「そうか! 今は休日の真っ昼間。ただの信号無視なら、当然交差する車線の車両と衝突の危険が生じる。だがあいつらにはそれがないんだ。対して俺は危険を避けるためにブレーキをかけたり、車の波を避けるために急上昇を強いられ速度を落とさざるを得ない」
「つまり誰かが意図的に信号機を操作している! って感じかな?」
「そういうこと……分かってしまえば案外単純なカラクリね」
 エスバイロ同士の通信でアリシア達の会話を聞いていたヴァニラもそう呟く。
「それが分かればこっちのものね! 私は逃走経路に当たりそうな場所の信号機に異常がないか、調べてみるわ!」
「了解ー! それじゃ、私はこのまま平さんと犯人を追いかけるね!」
 通信を終え、アリシアと平は追跡を継続し状況を整理する。
 この区画では、空中に用意された道路は地上からおよそ7m前後。
 商業旅団であるファヴニルでは背の高いビルも多いため、ビルの間を縫うようにして用意されたこの空中経路は見通しが良いとは決して言えない。
 しかし心配する必要は無かった。車線の指示や中央分離帯はレーザーポイントで表示され、信号機や標識、ガードレールといったものは所謂ブイと呼ばれる、推進力を持たない浮遊ユニットがその役割を担う。
 おまけに走行する車やエスバイロの殆どは、アニマによる電子制御でコントロールされている。
 そう、電子制御だからこその安全……それがこの事態を引き起こす原因となっていたのだ。
(盲点だった……これだけ自動化されている社会だ。人間が運転に集中する必要が無ければ信号機をわざわざ気にする者は皆無。少しの時間邪魔になる車線を止めてしまえば、楽に通過できてしまうし、仮に信号機を破壊してしまおうものなら、運転中のアニマは判断基準を失い事故が生じる……いや、それだけじゃない。落下した浮遊ユニットのせいで地上の人々に被害が及ぶ可能性もある。こっちの初期対応は全部封じられるって寸法か)
 一体誰がこんな事を計画したのであろうか。平の脳裏にはそんな考えが過る。
「どうしたの平さん? 何か急に思いつめたみたいな顔してるよ?」
「えっ? ああいや、まさか信号を操作してる人がいるなんて思わなかったから……」
「そうだよね。こーいう公共の設備って、プロテクトとかしっかりかかってるはずなのにねー。あっ、ラビッツ! 正面の信号黄色になった!」
「ふえっ!? ああ、うん! えっと、赤になるけど、このまま直進だね!」
 アリシアの指示を受けたラビッツは、早い段階から高度を取り始める。
 これによってアリシアと平は次の交差点を減速する事無く通過できた。
「こらー、犯人の3人組! そんな事したら故郷のお母さんが悲しむぞ~!!」
「えっ、3人? アリシアさん、その情報どこで?」
「んー? ここに来る前に、誘拐があったっていう宝石店、寄って来たんだ」
 彼女はそこで、娘を誘拐された母親や宝石店の従業員から事件の詳細を聞き込んでいたのだという。
「あ、でもそういえば犯人達は天邪鬼なんだっけ? だとすると……おーい! そのまま逃げたら、お母さんが喜ぶぞ~!!」
 美鈴の言った天邪鬼はあくまで例え、そういう意味ではないかと思うんだけど……
 平は心の中でそんなツッコミを入れるものの、アリシアの呼びかけに犯人達が答える事はなく、実際は分からない。どちらにせよ誘拐犯は聞く耳を持つ気が無いようだし、このような犯罪を犯した時点で余程お母さんを困らせたい変わり者であるのは確かだろう。
 そんな彼等の素性はともかく、犯人達とアリシア・平組の距離は確実に縮まりつつあったのであった。



●腹ペコ系魔法少女の受難と激走
「ああ~!! アリシア、このままじゃエスバイロのエネルギーがなくなっちゃうよー?!」
 ラビッツが主人へ限界を告げる。
 逃走する犯人は予想外に距離が詰まっている事に焦りを感じているようで、助手席の窓から後方へ銃撃を行ってきた。またより入り組んだ裏道を多く使い、確実にこちらへ被害を与えようとしてくるのだ。
 アリシアはそんな悪条件の中シールドを頼りに追い続けたものの、全ての攻撃を受け止めつつエンジンを全開にする状態は長くも保てるものではない。
「アリシアさん、ここは俺が追いかける! 後は任せてくれ!」
 平に促されたアリシアは、彼に追跡を引き継ぎ一旦車道の脇へ停車する。
「何とか追いつけそうだったんだけど……もう!」
 悔しがるアリシアだったが、そこにヴァニラからの通信が入る。
「安心してアリシア、作戦が決まったわ! 貴女は一旦エネルギー補給に離脱して。後の追跡は彼女が引き継いでくれるから……頼めるわね、フィール?」
「任せて……下さいぃ……」
 アリシアが止まったところへ、ヴァニラビットが声をかけていたもう1人の探究者【フィール・ジュノ】が合流する。
 アリシアも面識のある仲間であったが、今日のフィールは普段よりも疲れているのか、呼吸が荒々しく思えた。
「どうしたのフィールさん? なんだか元気が無さそうだけど……どっか具合とか悪い?」
「いえ、ちょっと3日間くらい水だけで暮らしてただけですから……」
「ええっ!? ダイエットか何か?」
「う~ん……まぁ、社会的に生きるために食より衣を取った、と言いますか……」
 フィールは、スタイルも良く艶のある黒髪が魅力の美少女であった。
 だが、そんな彼女の弱点……それは妙にエロティックな目に合いやすいというある種の不幸体質だ。
 勿論何事も問題なく依頼をこなす事も多いのであるが、彼女の魔法少女ライフを支えるアニマ【アルフォリス】曰く、それが魔法少女の宿命……らしい。
「仕方あるまい。魔法少女にはエロとピンチが付き物じゃ。食事を優先する資金があるならば、それを毎週ボロボロになる際どい衣装へにつぎ込んだ方が世の為になるのじゃ!」
「ちょっとアル! なんでそうなるのよ!? というか、流石にいっつも破れすぎな気がするんだけど?!」
 彼女が抗議したくなる気持ちも分からなくはない。フィールが魔法少女として活動する際に身に着けるのは、アルフォリスによって用意された白が基調のノースリーブに黒のミニスカ&ニーソックス(ちなみにオーダーメイドであるらしい)。
 利点があるとすれば、下心丸出しの男連中には目に毒の効果を与える事が出来そうではある。だがなにぶん隠すべきところはかなり際どいラインで隠しているため、ちょっとの破損が主にフィールのメンタル面に多大な影響を与える事となる諸刃の衣装でもあった。
 そのため彼女がいくら依頼をこなせど、衣装の修繕や買い替えで出費がかさんでばかりの毎日が続くのである。
「とにかく! 今日のご飯の為にも頑張りますから、ここは私に!」
「あっ、待ってフィールさん! 本当はアタシがどっかで使おうかと思ってたんだけど……」
 すきっ腹を押して出発しようとする彼女に、アリシアはエスバイロに積んであった鞄から小さな包み紙を取り出す。包みを開けると、自家製のサンドイッチが顔をのぞかせた。
「サンドイッチ! 良かったらこれで元気出して!」
「はあぁぁ……! アリシアさんありがとうございますっ! いただきますっ!!!」
 よほどお腹が空いていたのであろう。片手サイズのそれをフィールは一口に飲み込むと、全速力で逃走車の追いかけていったのであった。
「頑張ってね~~! さ、アタシ達は先に燃料補給だね。いくよラビッツ」
「ねぇアリシア? さっきのサンドイッチって……」
「うん。後で使おうと思ってたお薬マシマシのやつ! 丁度お腹減ってたみたいだから、よーく効くんじゃないかな?」
「あう~……ケガとかしないと良いんだけど……」
 笑顔でそう答えるアリシアの言葉に、ラビッツは不安そうに垂れ下がった両耳をギュッと握りしめるのであった。

~~~

「それで作戦なんだけど……」
「うおおおおぉぉぉっ! 漲ってきたーー!!!!」
「ちょっとフィール、聞いてるの?」
「勿論です! 今なら私、イケる気がしてるのでっ!!!」
 アリシアが補給の為離脱を始めた頃、フィールは逃走車にも負けない暴走っぷりでその距離を縮めていた。
 この異常なスピードはアリシアが【ドーピングクッキング】で作ったサンドイッチに含まれる『おくすり』の力によるものだが、フィール自身の空腹っぷりか、はたまた彼女が事前に使用していた【み~らくるくる☆マジカル】の影響か、まるで狩りをする肉食動物さながらの血走った眼で獲物である車を追いかける。
「そ、そう……?」
 そんな彼女の気迫に若干とまどうヴァニラだったが、気を取り直して作戦説明を続ける。
「私達の方で逃走経路を予測したわ。データを送るから確認して頂戴」
 エスバイロのナビ上にデータが表示される。
「恐らく狙いは人工林エリアへの逃亡。現在地からそのエリアへ逃げるための道のりは2つ。データに示されている交差点で左折して長いトンネルを抜けるルートと、その交差点を直進してトンネルを迂回し、市街地を抜けるルートよ」
「なるほど! そのどちらかに先回りして挟み撃ちって訳ですね!」
「そういうこと。だから貴女は平さんと協力して車を直進のルートに追い込んでほしいの。もしそうなれば後は私が何とかするわ。アリシアには当てが外れた場合を考えてトンネルの方に先回りしてもらってる。ただトンネルの入り口付近は車線が狭まるから、被害を抑えるためにも出来ればこっちにお願いしたいところね」
「わかりましたぁ! フィール・ジュノ、行きまーすっ!」
 作戦を把握した彼女は、エスバイロの出力を臨界ギリギリにまで高める。
「犯人を捕まえられたら、依頼の報酬で私の今日のご飯がまともになる……逃がさない……絶対にぃ……!!」
 魔法少女の、明日の食事をかけた戦いがいま、始まる。



●Black Beauty Seekers
「くっ、俺もエネルギーが限界か。フィールさんはまだか!」
 平と逃走車との距離、およそ100m。
 ヴァニラに指示されている交差点までの距離ももうほとんど残されてはいない。
 もうダメかと諦めかけたその時……彼の脳内に声が響く。
「ほれ小童。おぬしにもまだ出来る事があるのじゃ! エスバイロのエンジンを止めて、シールドにエネルギーを回せい!」
「えっ?」
「ご主人様! この声、フィールさんのアニマの、アルフォリスさんからの通信だよ!」
「良いからさっさとするのじゃ!」
「わ、分かった!」
 言われた通り、平は残されたエネルギーを急いでシールドに集中させ、機体全面に展開する。
「今じゃ、フィール!」
「私達を、振り切れるなんて……思うなぁぁぁ!!!!」
 フィールは全魔力をこめて特大の釘バットを右手に形作る。
「【やきい~れ☆デッドハント】ぉ!!」
「うわぁぁ?!」
 彼女の想いが籠った一振りは、平のエスバイロを一気に前へと弾き飛ばす。
 回転のかかった機体は勢いを増すと、交差点へ進入し左折しようとする逃走車に激突し、無理矢理直線方向へ押し出したのであった。
「後はおぬし達の仕事じゃ、EST-EX殿」
「くふふ……あなたのやり方はいつもながら無茶苦茶ですね」
 まさか仲間をぶつけてくるとは。
 別名玉突き事故ともいえるアルフォリスの方法に、イースターは呆れつつもほくそ笑む。
「来ましたよ、ヴァニラ」
「見えてるに決まってるでしょ? さぁイースター……魅せるわよ!」
「ご自由に」
 作戦通り先回りして待ち構えていたヴァニラは、センシブルを発動すると愛用の槍に蓄えていた魔力を解放させ【エネルギーブレード】を生成する。
「これで……終わりっ!!」
 横薙ぎ一閃。
 彼女の槍さばきは見事、浮力ユニットを維持したまま、車の推進エンジンだけを切り裂くのであった。

~~~

「うわぁぁぁん! 怖かったよ~~~!!」
「よ~しよ~し。もう大丈夫だからね~。お姉ちゃんがギューってしてあげるから……」

 ヴァニラによって確保された車は地上に降ろされ警察によって処理されることとなり、中からは幼い娘子と宝石強盗犯兼誘拐犯の3人が救出された。
 犯人たちは気絶していたため、ファヴニルの警察にそのまま引き渡され、娘は医者であるアリシアが心身共の健康チェックを行っている最中だ。
 子供の元気そうな姿に、身構えていたヴァニラも肩の力が抜ける。
「ふぅ……取り敢えずはこれで事件解決ね……皆、お疲れ様」
「そうだね~。この子もちょっと車内で体をぶつけちゃってるみたいだけど軽傷だし、無事に終わってよかったー!」
「アリシアさん、俺は結構無事じゃないんですけど?」
「まだ目が回るよぉ~~~?」
 2人の後方からはふらふらとした足取りで平と美鈴が歩いてくる。
「あー、平さん災難だったね。この子を診終わったら、アナタも診てあげようか?」
「診るって……抱きしめてるだけじゃないか」
「大事な事だよー? 体もエスバイロも大半が治せるけど、心だけは……一度壊れちゃったら大変な事になるんだからさ」
「ふふっ。まるで悪魔の羽を生やした天使(ナース)ね、アリシアは」
 ヴァニラの言葉に、アリシアは笑顔で答える。
「うぅ……アリシアさん……私も診て下さ~い……なんだか急な倦怠感が……」
「あら、今度はフィール?」
「ほらフィールよ、疲れた体には豊満なぱふぱふが利くぞい。そのままヴァニラ殿に飛び込むのじゃ」
「そっか~……じゃあ……」
「こーら。オイタは他所でやりなさい」
 ドーピングの作用で体力を消耗している彼女は、ヴァニラがおでこに当てた人差し指一本で押し返される。
「ねぇねぇ皆! この子、何か甘いものが食べたいんだって! 解決を祝ってこの後喫茶店でも行くのはどうかな?」
「ご飯! やったーー!!」
 ブチン。
 アリシアの提案に万歳で喜んだフィールの胸から鈍い音がする。
「ちょっと!? 前、ボタン飛んだわよ?!」
「い、い~~やぁぁぁーーー!!!」


 こうして街中を騒がせた追走劇は、新たに小さな騒ぎを残し終幕した。



依頼結果

大成功

MVP
 ヴァニラビット・レプス
 ケモモ / マーセナリー

 アリシア・ストウフォース
 デモニック / マッドドクター

作戦掲示板

[1] ソラ・ソソラ 2018/01/10-00:00

おはよう、こんにちは、こんばんはだよ!
挨拶や相談はここで、やってねー!  
 

[6] ヴァニラビット・レプス 2018/01/19-21:36

そうすると私が前から…かしら?
アリシアの情報収集とあわせて、上手く挟み打ちでいきたいわね。  
 

[5] アリシア・ストウフォース 2018/01/19-19:54

じゃあ、ワタシ横からで!
ちょっと情報集めてから向かう予定だから遅れてになるかも!  
 

[4] フィール・ジュノ 2018/01/19-14:03

ヒューマンな魔法少女、フィールだよー。二人ともお久しぶりー。

私は後ろから追い立てするねー。先回りとか横から突撃とかはまかせたー!  
 

[3] アリシア・ストウフォース 2018/01/18-20:04

マッドドクターのアリシアだよー。
三人いるから先回りと横からと後ろから出来たら捕まえやすそうだと思った!  
 

[2] ヴァニラビット・レプス 2018/01/14-06:19

マーセナリーのヴァニラビットよ、よろしく。
飛び入りの助っ人って感じで参戦予定よ。
相手は車だし、空からなら先回りがいいのかしらね…