プロローグ
黒い靄に、その飛空艇は囚われていた。
その見た目から、そのまま『黒い靄』とも、あるいは『黒い霧』とも呼ばれるそれは、いくつかの特性を持っている。
ひとつは、エネルギーの吸収。
これに包まれた物は、機械の類であればエネルギーを食われ機能を停止するのだ。
そのため、飛空艇は空に浮かんだままどこにも行けず、その場に留まっている。
本来なら黒い靄は移動速度が遅く、飛空艇ならば事前に発見さえすれば避けることは難しくは無い。
だがこの飛空艇は、学園旅団アカディミアから商業旅団ファヴニルに物資の買い出しに行く途中、空賊に襲われ、それから逃げる途中で黒い靄に捕まってしまったのだ。
襲うべく追跡していた空賊は、今は居ない。
何故なら、黒い靄に囚われた物の中に訪れることは、危険だという事を知っていたからだ。
その理由が、飛空艇の表面を蠢いている。
例えるならば、それは巨大なアメーバ。
小さい物で数十cm。大きい物であれば2mを超える。
オーピム。それが、蠢くモノ共の名だ。
通常であれば、半透明の実体を持たないそれは、黒い靄に居る間は実体を得る。
そして手当たり次第に、あらゆる物質を貪り食っていくのだ。
もちろん、人間も例外ではない。
オーピム自体は、それほど強くは無いので一時的な撃退は出来る。
だが黒い靄がある限り、次から次に実体化してくるため際限がない。
そして黒い靄は、現時点では消し去る手段を誰も持っていないのだ。
だから黒い靄の中に留まり続ければ、いずれ確実に破滅する。
逃れるためには、黒い靄から離れるしかない。
しかし、いま飛空艇に乗っている者達には、それは叶わなかった。
「全員無事か!?」
飛空艇の中央、リビングルームに、1人の探究者が扉を開け中に入る。
そこに居るのは、20人ほどのアカディミアの学生たち。
そして6人ほどの飛空艇の乗組員。
最後に残る3人は、探究者たちだ。
「全員無事だ! 取りこぼしは無い!」
リビングルームでオーピム達の襲撃に備えていた探究者の1人が、リビングルームに入って来た仲間の探究者に返す。
そして続けて言った。
「そっちはどうだ。脱出できそうか?」
「難しいな。途中の通路にもオーピムが居やがるし、出入り口には何匹居るかも見当が付かねぇ」
脱出路を確認するために一人で探索した探究者は、苦い口調で返す。
これに、探究者ではない学生たちからは、絶望の声が上がる。
だが、それを振り払うように、探究者は言った。
「諦めるにゃ、まだ早い。幸い、黒い靄に捕まる前に通信を飛ばしている。すぐに助けは来てくれる筈だ。なに、遅くなるようなら、俺達に任せな。脱出艇のある玄関まで、エスコートしてやるからよ」
わざと軽い口調で、探究者は笑顔で言う。
決死の覚悟を、腹の中に飲み込みながら。
この状況に、救助隊が組織されました。
探究者であるアナタ達も、そこには含まれています。
現在黒い靄は、飛空艇のエネルギーを集中して奪っているらしく、エスバイロで飛空艇に降り立っても、脱出するためのエネルギーが奪われることは無いと説明を受けました。
ですので、飛空艇の前方と後方にある出入り口にエスバイロにて降り立ち、飛行艇の乗組員と乗客を助け出して来て欲しいとの事でした。
飛空艇の最後の通信から、中に居る人達は中央部分のリビングルームに居ると推測されています。
そこまでの配置図は渡されていますので、飛空艇に降り立てば、数分でリビングルームに訪れることが出来るでしょう。
ですが、道中は実体化したオーピムが徘徊していると推測され、それを倒さなければいけません。
そして出入り口にある脱出艇まで、要救助者達を警護しながら進む必要もあるでしょう。
この依頼に、アナタ達はどう動きますか?
解説
状況説明
黒い靄に囚われオーピムが徘徊する飛空艇から、人員を救助して下さい。
救助の流れ
1 エスバイロにて、出入り口に降り立つ。
2 飛空艇内を移動し、オーピムを撃破しながら要救助者の居るリビングルームまで移動。
3 出入り口にある脱出艇まで要救助者を誘導し、脱出する。
この流れの中で、どう動くかをプランにてお書きください。
飛空艇内部
出入り口からリビングルームまで、幅が4メートルの通路を数分ほど進みます。
途中で、幾つか脇道があり、そこからオーピムが徘徊してきます。
飛空艇の内部図のデータは事前に渡されていますので、迷うことはありません。
敵
オーピム
巨大なアメーバ、あるいは菌類のような見た目をしています。
接触した物を溶解して取り込む能力を基本能力として持ちます。
今回のオーピムはそれ以外に、自分の身体を伸ばして叩き付ける攻撃を行います。
一体一体は、それほど強くは無いです。
ただし、黒い靄の内部では際限なく現れますので、一体一体を倒すのに手間取ったり、脱出の移動に手間取ると危険です。
その他
飛空艇の出入り口は前方と後方の2か所があり、ご参加頂けた人数によって、突入個所が変わります。
前方の方がオーピムが少なく、後方の方が多いです。
参加人数が4人以下の場合は、前方になります。
どちらからの突入であっても、移動に必要な距離と成功度は変わりません。
出入り口から内部に突入する間は、救助隊がエスバイロを守ってくれます。
要救助者
学生20人。パニック一歩手前です。
乗組員6人。避難誘導の際、協力も可能です。
探究者4人。たまたま客として乗っていた。学生たちをオーピムから守り疲労しているが、協力も可能です。全員、そこそこの能力です。アサルトが2人に、スナイパーが2人です。
以上です。
それではご参加を、お待ちしております。
ゲームマスターより
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回のエピソードは、救助しながらの戦闘です。
この状況で、皆さまがどんなプランを書いて頂けるのか、楽しみにしております。
それでは、少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。
黒い靄から助け出せ! エピソード情報
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担当 |
春夏秋冬 GM
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相談期間 |
7 日
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ジャンル |
戦闘
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/11/27
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難易度 |
普通
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/12/06 |
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◆作戦 正面から突入。殿を務め脱出を促す ◆行動 突破~脱出までの目安時間を目算し、救助隊に一応連絡 エスバイロで船内突入後は速度重視で。数がいる場合は躊躇わず『ソニックエッジ』 リビングまで突破出来たら、救助ができたことを伝え、脱出を促す 探究者と乗員には地図を渡し、突破の先鋒を依頼 自分は学生たちを励ましつつ殿を務める 「もう大丈夫よ。約束する、私がついてる」 「ここは任せて!行きなさい!」 追いつかれそうになった場合、救助者を先に行かせて殿で足止め 距離を稼いだ後、可能なら周囲のものなどを投げてかく乱、脱出を図る ◆その他 他人の目がある限り、弱音は吐かず余裕ある態度 (大真面目に救世主しようとしてる子なので…)
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真奥
( 恵美 )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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「突破してリビングで救助者と合流後は脱出を促して、殿で追撃を阻みに回る予定。」のヴァニラビットさんに基本的に行動指針を同じくする。 基本的に、無益な戦闘はなし。人命救出が最優先。多少自分が傷を負ってでも、人命を救出する方針でいく。 戦闘にならざるを得ない場合にも、自分から攻撃を行うよりは、敵の攻撃に合わせて移動するなどを行って対応をする。 ヴァニラビットさんが殿で阻むために交戦している際に、救出が人手不足ならそちらにまわる。大丈夫そうであれば、全力戦闘へ。
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・フィール 1・開幕 へんしーん☆トランスで攻撃力を上げる 2・攻撃 突入時と、撤退時には大量のオーピムに向かって、真っ先にきゃるーん☆テンペストの範囲攻撃。数を減らして、単体攻撃を得意とする仲間の攻撃で道を切り開きやすくする。 3・防御 最近買った盾使う。 ・備考 持っていけたら、抗アビス薬も持っていこう。事前に飲んでおけば予防になるし、数を持っていけるなら救出対象や他の探求者にも回せるしね! ・アルフォリス あー……これはいつものノリするとまずいの。 フィールのきゃるーん☆テンペストが、最も効率よくオーピムを消滅させられるよう計算して伝えるとするかの。他の人員の突撃、脱出のタイミングもはからんといけんかのー。
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参加者一覧
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真奥
( 恵美 )
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ヒューマン | アサルト | 27 歳 | 男性
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リザルト
○突入開始!
オーピム蠢く飛空艇。
そこから要救助者を助けるため、救助隊に参加した探究者達は突入の時を待っていた。
「うわぁ……オーピムいっぱい。オニューの盾買ってきたけど、これ役に立つかなぁ?」
エスバイロに乗りながら【フィール・ジュノ】は、飛空艇の表面を蠢くオーピムを見て思わず声を上げる。
飛空艇全てを覆うほどではないが、一目見て見当が付けられないほど、蠢くオーピムの数は多い。
「あー……これはいつものノリでするとまずいの」
フィールのアニマである【アルフォリス】も、いつになく真剣に声を上げる。
いつもならフィールを魔法少女として大成させるため、彼女が魔法少女姿の時に、スカートから覗く絶対領域を周りに見せ付ける事を徹底しているアルフォリスだが、今回はその余裕が無いと判断したのだ。
そんなアルフォリスの様子に、フィールは言葉を交わす。
「何だかいつもと違って、真面目な感じだね」
「そりゃのう。流石にアビスに感染とかは笑えんしの。支給された抗アビス薬、ちゃんと持っておるじゃろうの?」
事前にアルフォリスが救助隊に頼み用意して貰った抗アビス薬は、万が一も考え、飛空艇内の要救助者の分も込みで渡されている。
飛空艇の内部に突入する前の最終確認も込みで、フィールは確かめる。
そして言葉には出さないが心の中で気合を入れていた。
(アルも、久々に完全真面目に動いてくれるみたいだし……これは気合を入れないと)
その一方で、真面目にやらざるを得ないアルフォリスは、どこかに居るかもしれない神に向かって心の中で訴えるように願っていた。
(おーい、神様とやら聞こえとるんじゃろー? 真面目にやってやるから最後にフィールにえちぃサービスシーンを用意するんじゃぞー。泣くぞー。拗ねるぞーい)
そうしてフィール達が気合を入れる近くで、【真奥 (マオウ)】も気合を入れていた。
「普段から世界征服のためにはバイトが最優先、とは言っているものの、人命救出とありゃ見過ごせないよな」
真奥は、救助隊から渡された船内データを確認しながら、やる気を見せる。
そんな彼に、アニマである【恵美 (エミ) 】は呆れた声で言った。
「探究者なんだから、バイトが優先的になっている方がおかしいのよ。いつもより今回は、探究者らしい仕事なんだから頑張りなさい」
「頑張るさ。もちろんバイトもだけどな」
「頑張りどころ間違えてない? それに、このまま救助活動が遅れたら、バイトには間に合わないと思うんだけど」
「それは困る。でも、人命救助は大事だからな。まずはキッチリ、助けてみせるさ」
「その意気ね」
「ま、これはバイトに遅刻しちまっても、ちゃんと説明してくれる人居るだろうし。俺の名前を世間様に知らしめるチャンスだ」
「派手に暴れすぎて、飛空艇壊しすぎたりしたら、過剰防衛でニュースになるかもしれないわね」
「お前、縁起でもないこと言うなよな……」
「そうならないように、船内データの最終確認やっておくわよ」
「ああ、分かってるよ」
そうして真奥たちが突入前の準備をしている中、突入から救出までのシミュレーションを終わらせた【ヴァニラビット・レプス】は、救助隊の後方支援部隊に連絡を取っていた。
「はい。提出したプランデータの誤差範囲で、救出は可能だと思います」
提案を受けた救助隊からは、プランデータを考慮するために少し待って欲しいと応えが返ってくる。
それを待っていると、アニマである【EST-EX (イースター)】が声を掛ける。
「今回はタイムアタックですか? 速さは大事ですね。ですがゲームとは違い現実の命は一つです。気を付けて下さいね」
どこか諫言めいた言葉を口にするイースターに、ヴァニラビットは慣れた様子で返す。
「ええ、命は一つね。私達の助けを待っている人達だってそうよ。だから、急がないと。一つだって、取りこぼす訳にはいかないもの」
「私が言ったのは、他人の命ではなく自分の命に関してですが。他人の命と自分の命を同等に語るのはどうかと思いますが?」
「そうかしら? どちらも大事でしょ? 自分の命も誰かの命も、粗末にする気はないわよ。助けるから、全員。だから、力を貸してね」
「その考えは非合理で危険です……が、やるなら止めません是非どうぞ」
打てば響くようなやり取りを2人が重ねていると、救助隊から連絡が返ってくる。
『プラン、了解した。確度を上げるため、まずはこちらで援護する』
「援護? なにをするんですか?」
ベテランの年長者らしい救助隊員からの連絡に、ヴァニラビットが訊き返すと詳細が返ってきた。
『囮でオーピムを引きつける。飛空艇には、前方と後方に出入り口用のデッキがあるが、後方の方がオーピムが多い。だから、そちらにオーピムを集中させる。そのための人員は確保した。先攻して先制攻撃を行いオーピムが誘き寄せられている間に、飛空艇内部への突入と救出を頼む。突入の際にエスバイロを守るだけの人員はそちらに回せるが、内部への突入までは人手が足らない。すまない』
これにヴァニラビットは、力強く返した。
「いえ、十分です。そちらも気をつけて」
『ああ、ありがとう』
連絡が終わると同時に、救助隊は動き出す。
飛空艇の後方出入り口デッキに多くのエスバイロ乗りが集まり、オーピムに対して攻撃開始。
それに反応し、少しずつオーピム達は集まり出す。
お蔭で、飛空艇の前方出入り口用デッキに居たオーピム達も少しずつではあるが減っていった。
だが、まだ数は多い。突入を始めるには少し時間が掛かるだろう。
その間に探究者たちは話し合い、それぞれ役割を決める。
十二分にブリーフィングを終わらせた頃には、飛空艇の前方出入り口用デッキに居るオーピムの数は少なくなっていた。
それ以上は減る様子が無いことを見極め、探究者たちは突入を開始した。
○接敵!
「まずは変身じゃ!」
オーピムの数を減らすため、エスバイロで突っ込むフィールにアルフォリスは勢い良く言う。
前方出入り口用デッキに降り立つと同時に、フィールは魔法攻撃力を上げるため、へんしーん☆トランスで魔法少女姿へと変わっていく。
突如発生した光に包まれると、フィールの服は輝ける粒子へと変わり形を変えていく。
スカートは見えそうで見えないギリギリのラインを死守したミニスカートに変わる。
しかも変わると同時に、絶対領域を死守しながらふわりと舞い上がり、艶めかしい素足を覗かせた。
その素足も光に包まれると同時にニーソックスに包まれ、最後にポンッという煙と共に肩を出した上着が。
魔法少女姿になったと同時に周囲に星くずのような光が広がり、フィールは決めポーズ。
決めポーズに合わせ、ぼん、きゅっ、ぼんでグラマーなフィールの胸がふよよんと柔らかそうに揺れた。
そんなフィールにオーピムが集まってくる。
「なんだか一斉に集まって来てるよ」
囲まれないように動きながらフィールが言えば、状況を把握し演算を開始しながらアルフォリスが返す。
「変身した時の光と音に反応したんじゃろ。このまま引き付けるんじゃ。最も効率よくオーピムを消滅させられる位置取りは教えるからの」
「分かったよ!」
アルフォリスのサポートを受けながら、フィールはオーピムを引きつけ走る。
時折オーピムが身体を伸ばし叩きつけて来るが、ギリギリで回避。
その度にミニスカートが悩ましげに舞い上がり、胸はぽよんぽよんと揺れる。
思わず見ていると目が向きそうになる光景ではあったが、知性どころか意識があるのかどうかも怪しいオーピムは、淡々と追い詰めるように集まってくる。
それが限界まで集まった所で放射状に範囲攻撃を行う、きゃるーん☆テンペストを撃ち放つ。
攻撃範囲に重なるように密集していたオーピムは、まともに食らい大半が消し飛ぶ。
だが、身体の大半を削られながらも、ずるずると身体を引きずりながらフィールに変わらず向っていく。
そこでヴァニラビットが追撃で動いた。
片手槍ドルフィンを手に、切り裂き突き刺す。
ドルフィンを振るう手は止まることなく、前へ前へと進んでいく。
「蛮勇と勇気は違いますよ」
「分かってる! でも今は速さが大事だから! 守りに入ってる場合じゃない!」
イースターに返しながら、ヴァニラビットの動きは加速していく。
飛空艇内へと続く扉に立ち塞がるオーピムに、真っ直ぐに速度を緩めず踏み込む。
それを迎え撃つように、オーピムは身体を伸ばして叩きつけてくる。
だが無駄。
ヴァニラビットはオーピムの動きに合わせ、右前方へと跳び込む。
かすめそうなほどギリギリで避けながら、交差した瞬間ドルフィンを振るい切り裂いた。
真っ二つに裂けるオーピム。
びたんびたんとデッキの上で跳ねていたが、やがて力尽きたのか動かなくなる。
それを確認する手間すら惜しみ、ヴァニラビットは飛空艇内へと通じている巨大な防災扉を開けていく。
その隙を狙うように、新手のオーピムが。
しかし真奥が立ち塞がった。
「こっちだ! かかって来い!」
少しでもオーピムを引き付けるため、大声を上げながら拳を叩き込んだ。
ナックルである鉄拳のスパイクがオーピムに減り込む。
真奥に殴りつけられたオーピムは、その一撃で痙攣するようにして動きを止めるが、新手のオーピムが仲間の死体を乗り越え這い寄ってくる。
(扉を開ける邪魔にならないように引きつけないと)
真奥は、ヴァニラビットのサポートをするように動きながら、オーピム達を誘導していく。
戦いは最小限にし体力を温存しながら、仲間の動きを援護していた。
そこにフィールも援護に入る。手にした魔法の杖であるブルーアイズから輝きを撃ち放ち、真奥と共にオーピムを倒していった。
2人の援護もあり、飛空艇内への扉をヴァニラビットは開けきる。
「中に通じる扉を開けたよ! 今から突入する!」
ヴァニラビットの声に応じるように、真奥とフィールが後に続く。
残りの救助隊は現場を保持するため、探究者たちのエスバイロを守るように円陣になりながら、オーピム達を撃退し続けていた。
救助は、探究者たちに託される。
その期待に応えるように、探究者たちは果敢に進んでいた。
○救助!
要救助者たちが避難しているリビングルーム。
そこへと続く通路を塞ぐようにしているオーピムに、ヴァニラビットの刃が疾風の如く走る。
「邪魔よ!」
ウェポンマスターで強化したソニックエッジが、2体のオーピムを一撃のもとに打ち倒す。
そこにイースターがナビゲートをしてサポートする。
「このまま真っ直ぐ進んで下さい。この調子なら、あと1分もかかりませんね。予定より速いです」
「ならもっと加速するよ。助けを待っている人達が居るんだから」
ヴァニラビットの進行速度は更に上がっていく。
それは自分の身を省みないような勢いがもたらす速さだった。
その速さは、彼女だけのものじゃない。
援護するように動く仲間が居たからこその速さだ。
「右の脇道から、一体進んで来てる。早めに迎撃した方が良いわよ」
恵美の助言に、真奥は返す。
「分かった。そっちに集中するから、周囲の警戒は頼む」
リビングルームへと続く通路。その脇道から這い出て来ようとしたオーピムに、真奥が突っ込む。
オーピムは真奥の動きに反応すると、体の一部を撃ち出すように伸ばす。
それを真奥は、カウンターアタックで対抗。前に踏み込む動きに合わせ、左足を軸にして体をひねる。
目の前を通り過ぎるオーピムの一撃。
それが引き戻されるよりも早く、渾身の拳を真奥は叩き込んだ。
破裂するような勢いで、オーピムは衝撃を受け一撃のもとに倒された。
そうして先行するヴァニラビットの援護に動いているのは、フィールも同様だ。
最近買った円形の小型盾ヨードルでオーピムの攻撃を防ぎながら、攻撃を叩き込んでいく。
すでに最初にした変身の効果時間は過ぎているが、今は再び変身していない。
なぜなら魔力が続かないからだ。変身し攻撃力を上げたのちに範囲攻撃をすれば、通路に固まっているオーピム達を一時的に一掃できるが、続ければ魔力が足らなくなる。
リビングルームから要救助者を連れ出すここぞという時まで、魔力は温存しておく必要があるのだ。
そうして苦しい状況の中、探究者たちはリビングルームへと辿り着く。
「お待たせ、騎兵隊の到着よ!」
真っ先にリビングルームへと跳び込んだのはヴァニラビット。
少しでも早く救助者の元に辿り着くために無茶をしたため、無傷ではない。
けれどそれでも力付けるような笑みを浮かべている。
それに要救助者たちの内、学生たちは余裕が無いのか固まったように反応できない。
だから最初に反応したのは、飛空艇にたまたま乗り合わせていた探究者たちだった。
「ははっ、これで助かるぜ! ほらほら、とっととこんな所からはおさらばしようぜ!」
この言葉に、飛空艇の乗組員たちが学生たちを誘導し、残った探究者は笑顔のままヴァニラビットに近付く。
「助かった。それで、アンタ1人か?」
「いえ、他に2人。お礼なら、その2人にも言ってあげて。お蔭で予想より早くここに辿り着けたんだから」
その言葉が終わるより早く、フィールと真奥が辿り着く。
「抗アビス薬を持って来てるから、念のために飲んでおいて」
フィールは手早く抗アビス薬を渡していく。
その一方で、真奥は飛空艇の乗組員と協力して学生たちの避難誘導をしていく。
「慌てないで! 落ち着いて指示に従ってくれれば助かるから!」
その間に、ヴァニラビットは乗り合わせていた探究者たちに協力要請。
乗り合わせていた探究者たちは快諾すると、脱出準備を整える。
用意が整った所で、最初に出て行くのはフィール。
まずは攻撃力を上げるために変身。
その変身シーンの華やかさに、学生たちは元気づけられる。
(むぅ、こんな状況でさえなければ、魔法少女姿をもっと見せつけてやれるというに)
残念がるアルフォリスだが、サポートはキッチリとこなし、ギリギリまでオーピム達を引き付けさせたところでフィールに、きゃるーん☆テンペストを放つように指示。
まとめてごっそりと消し飛ぶオーピム達。
「行くよ! ついて来て!」
フィールの後に続いて、乗組員に誘導された学生たちが走り出す。
同時に、乗り合わせた探究者たちの内、アサルト2人がフィールの護衛役として動く。
先行するフィールに近寄ろうとするオーピム達を倒し、あるいは誘導。
オーピムが固まって集まった所で、フィールが更にきゃるーん☆テンペストを放ち出入り口デッキまでの道を切り開く。
これにより脱出への道は開かれる。
だが、追い縋るようにオーピム達が脇道から這い出てくる。
そこに殿のヴァニラビットが立ちはだかった。
「ここは任せて! 行きなさい!」
学生たちの背中を押すように声を掛けながら、オーピム達に果敢に挑む。
片手槍ドルフィンを無数にひるがえし、オーピム達の進行を止める。
だが、そのままではヴァニラビットが逃げられない。
その猶予を作るべく、真奥が踏み込んだ。
「出し惜しみしてる余裕はないわよ!」
「分かってる! 全力でいく!」
恵美に返しながら、真奥はアイアンバレットを放つ。
無数の拳が、ヴァニラビットに襲い掛かろうとしたオーピムを破砕した。
「今の内に早く!」
「ありがとう!」
オーピムを退けた僅かな猶予に、ヴァニラビットと真奥は出入り口デッキに向け走り出す。
そこに乗り合わせていた探究者たちの内、スナイパー2人が援護射撃。
オーピム達の動きを止めた所で、全員が後ろを振り返ることなく全力疾走。
後ろから少しずつ少しずつ、オーピム達が這い寄る音が近付いていく。
べた、べたりと、音は大きくなっていった。
だが、それに捕まるよりも早く、皆は出入り口デッキへと辿り着いた。
「救助者が脱出するまであと少しよ! 頑張りましょう!」
ヴァニラビットの呼び掛けに力強く皆は返す。
そこから最後の踏ん張りを皆は見せた。
「いい加減しつこいわよ!」
ヴァニラビットは、執拗に襲い掛かってくるオーピムを果敢に切り裂き。
「バイトに遅れるだろ!」
真奥は脱出を邪魔するオーピムを殴りつけ撃退する。
そして皆の誘導で一か所に固まったオーピムにフィールが、きゃるーん☆テンペストを放つ。
一気にオーピムは消し飛び、一時的に邪魔が居なくなる。
その隙に、要救助者達は脱出艇で飛び出し、探究者達もエスバイロで脱出した。
脱出し安全圏まで辿り着いた所で、ほっと一息つける。
その瞬間、風が吹き、フィールのスカートを舞い上がらせた。
「うわわっ!」
慌てて押さえたので絶対領域は死守されたが、ギリギリのラインをのぞかせる。
そしてその時の動きで、ふよよん、と胸が弾んだりもした。
「これがステージであれば」
ハプニングがありつつも観衆が居ないので残念がるアルフォリスだった。
かくして、探究者たちの奮闘によりオーピム蠢く飛空艇から皆は助け出される。
犠牲者を1人も出さない活躍を見せた探究者たちであった。
依頼結果