プロローグ
今日は久々に取れた貴重な休日だ。ここのところちょこちょことした依頼で忙しかったので正直ありがたい。俺は自宅でのんびりと過ごす事に決め、ネットショッピングを楽しんでいた。
(ああ、そうだ。服もそういやなかったな……)
たまっていた買い物を片付けながら、俺はふと思い出した。アニマに適当に見繕ってもらおうかとも思ったが、こういうのは自分で選ぶのも楽しいものだ。俺は立体ホログラムの照射だけアニマに頼み、色々な服を映像で試着する事にした。
「あ、その服はとっても素敵ですね。ご主人様」
「でもこっちも捨てがたいな~」
元々服が好きな俺のアニマは、あーでもないこーでもないと色々とアドバイスしてくれる。それをありがたく拝聴しながら、俺はふといい事を思いついた。
俺は自分の試着をやめ、タブレットでまたネットサーフィンをし始めた。この服はどうだろう。いや、これも可愛くて捨てがたい。……いやいや、思い切ってこれくらい冒険した服はどうだ?
俺が夢中になっているのをアニマは見て、不思議そうな顔で訊いてきた。
「どなたかにプレゼントですか? ……まさか、それをご主人様が着るんじゃ……」
「あはは、さすがにそれはないだろ」
俺は思わず笑ってしまった。俺が見ていたのは……女性用の服だったからだ。俺は1番気に入った服を画面に表示し、アニマに言った。
「これ、着てみてよ」
「え?! 私ですか?」
「うん。きっと似合うと思うんだ」
俺の笑顔を前に、アニマは大いに照れている。
―――いつも俺の事ばっかりだけど、君の服を俺が選ぶっていうのもたまにはいいだろう?
解説
あなたの可愛いアニマに洋服を選んであげてください。勿論アニマは実体がありませんので、ホログラム上での試着となります。
以下の項目から選んで下さい。
【A】女の子らしい、可愛らしい洋服
【B】ボーイッシュな洋服
【C】ゴスロリ風な洋服
【D】SM女王様のようなボンデージ風衣装
【E】上記以外
【E】は自由記述となりますが、【A】~【D】を選んだ場合でも、その上で「こんな風な洋服」と具体的に記述してもらっても構いません。
貴方が選んだ服をアニマが着た時、貴方はどんな感想を持ちますか? その時のアニマの反応は?
(あんまり過激なのはアニマが怒って引っ込んでしまうかも……(笑))
そしてその後どう過ごしますか?
アニマにその服を着て貰ったまま自宅でのんびり? せっかくだからそのまま一緒に街に出てぶらぶらする?
おしゃれにうるさいアニマは「私はこんなのがいい!」って1人ファッションショーを始めるかもしれませんね。
基本個別エピソードとなります。
ゲームマスターより
閲覧ありがとうございます!
KANと申します。初めまして。
日常を描くことが多くなるかと思います。
このエピソードでアニマと楽しい時を過ごして下さいね。
似合いますか、ご主人様? エピソード情報
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担当 |
KAN GM
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相談期間 |
4 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/11/7
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2017/11/10 |
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選んだ服 【C】 感想 …どうだった?おー!思っていた以上に似合ってるじゃん! そこでくるくる回ってみてよー!ふわってスカートが広がるように! ほらー恥ずかしがってないで!ついでに頭にも着けてみよー? いやー普段の服と違うっていいね!面白いし!さぁ、次の新しい服にいってみよー!次はもっと珍しい服だよ! 行動 言葉を掛けながら自分自身も色んな角度からラビッツを見る 写真を撮ってもいいか聞く 見ながら、似合いそうなものをいくつか想像する 最終的に格好が決まってからもう一回とってもいいか聞く その後、同じ服を着てみたくなって着替える 一番気に入った格好で一緒に帰る
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・フィール あぁぁ……今日も貧乏。いいなぁ、服。 買う余裕ないしなぁ……アルフォリスは見たらデータ化して着れるなんて羨ましい。 ……本人は勝手にデータ試着してるし。買えない私が試着するのは迷惑だろうし。うわぁぁぁん!不幸だぁぁぁ! と、データ服試着するアルフォリスを横目に見ながら己の不幸を泣き嘆く。 ・アルフォリス 【A】~【E】まで何十着も遠慮なく試着しまくり。 最終的に、艦隊司令官用の制服ぽいので落ち着く。 ほれほれ、良かろう?これなら、指揮官としての見た目も悪くあるまい?ん、どうしたフィール?服が買えんくて悲しいか。 なら、アレ(露出大の服。ちなみに値段は隠れているが高い)なら、安そうじゃからOKじゃぞ?
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参加者一覧
リザルト
●アリシア&ラビッツ
「ようふくようふく、おっようふく~♪」
主人である【アリシア・ストウフォース】が鼻歌を歌いながらタブレットに向かい始めたのを、アリシアのアニマである【ラビッツ】は不思議そうに見ていた。
アリシアの機嫌がいいのは手に取るように分かる。鼻歌を歌ってるし、心拍数表情その他も解析しても良好だ。だからこそ不思議だった。
(どうして自分の試着をやめちゃってご機嫌なんだろう?)
そう、自室でラビッツにホログラムを照射してもらい服の試着していたアリシアは、突然ラビッツに照射をやめるように言うと、タブレットを持ってソファに座ってしまったのだ。
タブレットを操作しながらご機嫌のアリシア。その姿を見ながらふむぅとラビッツは考えてしまう。そしてアリシアの見ているタブレットの画像を見て、またふむぅと首を捻った。アリシアの見ていた服は、先程試着していた物とはテイストが違いすぎたのだ。
(気分転換かな? でもそれなら尚更着てみればいいのに)
大きな赤い瞳をぱちぱちと瞬きしながらもうラビッツの首は90度だ。主人であるアリシアの気紛れぶりは随分慣れたつもりだけど……う~ん、やっぱりよく分からない!
すると、タブレットをいじっていたアリシアが、その美しい水色の瞳をキランと輝かせながらラビッツに向けた。
「これ! 着てみてよ!」
「え?」
アリシアの言葉にまたもやラビッツはその兎のような可愛らしい瞳をぱちぱちさせた。
目の前に差し出された画面には、シックで雰囲気のあるドレスのような洋服が表示されている。ゴシック・アンド・ロリータ、いわゆるゴスロリ風の洋服だ。
うん、なるほど。ラビッツはその繊細なレース使いの洋服を認識したが、アリシアの言葉はどうしても認識できなかった。
……今、着てみてよって聞こえたんだけど。
「……えーと、アリシアが、着るんだよね?」
その名前の要因の1つともなった、頭から生える兎の耳のようなものを不安げに垂らしながら、ラビッツは恐る恐る自分の主人に確認を取る。彼女の問いに、アリシアはもの凄くイイ笑顔で答えた。
「まっさかー! ラビッツに決まってんじゃん!」
「えええええええーーーっ?!?」
ラビッツは垂らしたうさ耳を今度はピンと伸ばし、驚愕した。
「どうだったー、ラビッツ? もう目開けていいでしょー? てか開けるよ!」
ウキウキソワソワ。ソファで体を小刻みに揺らし顔を覆っていたアリシアは、待ちきれないようにがばりと顔を上げ、ラビッツの姿を探した。
「む? いない?」
自分が選んだ服に着替えたラビッツの姿が目の前にあると思っていたアリシアは、軽く眉をひそめ、その小悪魔のような艶やかな唇を尖らせた。そう、自分のアニマが部屋のどこにもいなかったのだ。
まあ確かに着替える前にラビッツはさんざんごねていた。「似合わないからイヤだ」と。それを主人の権限で……というか元々の性格からだろうが、アリシアはあっさりと聞き流し、ラビッツに半ば強引に着替えるように言ったのだ。
(拗ねて引っ込んじゃったかな?)
アリシアはそんな風にもちらりと思ったが、すぐに首を振った。あの小心者がこれくらいで自分の命を無視するとは考えられなかったし、それに。
(絶対あーいう服もラビッツ似合うと思うんだー!)
自分が自信を持ってラビッツに選んだ服。それを彼女も分かっているはずだ。という事は。
「ラビッツ……恥ずかしがらないで出てきなよ」
アリシアは立ち上がりくるりとソファに向くと、腕組みをして言った。すると、ソファの背もたれからぴょこんと白い耳が出てきた。
「……どうしても見せなきゃ駄目?」
耳の後からおずおずと現れた赤い瞳に、アリシアはにやりと笑って一言。
「ダメ」
「わかったよ……」
へにゃりとうさ耳を垂らし、ラビッツはソファの後ろから姿を現した。
「おー! 思っていた以上に似合ってるじゃん!」
目の前のラビッツの姿に、アリシアは思わず歓声を上げた。
確かに、似合っていた。ラビッツの白く輝く髪に黒くシックで豪華な服がよく映える。繊細なレースに彩られたラビッツは、まるでルビーの瞳を持つ高級なビスクドールのようだ。いつものラビッツとは雰囲気が全く違うその姿に、アリシアは前から後ろからしげしげと眺め回した。
「うう……やっぱり、これは似合わないよ……」
ウキウキするアリシアとは対照的に、主人から穴の開く程見つめられ、ラビッツの恥ずかしさはMAXだ。本当はアリシアに褒められて凄く嬉しいのだが、自分に自信がないものだからどうしてもその言葉を信じ切れない。その上アリシアの遠慮のない視線に晒され、ラビッツはしゅんしゅんと湯気を噴きながら顔を覆ってしまった。
しかし、アリシアはそんな事お構いなしだ。
「そうだ! そこでくるくる回ってみてよー! ふわってスカートが広がるように!」
「えええっ? そんな~」
「ほらー、恥ずかしがってないで!」
にししと笑いながらアリシアはラビッツをせき立てる。おどおどとラビッツは回ってみせるが、回ったというよりかは単に後ろを向いただけくらいの勢いだ。当然の如くアリシアからは「そんなんじゃ、ふわってならないでしょー!」と文句が飛んでくる。回っちゃあやり直し、回っちゃあやり直し。
「ふええええ~……」
とうとうラビッツは目を回してぺたんと尻餅をついてしまった。
「うんうん、いいねー。可愛いよ! 写真撮ってもいい?」
「写真は撮っちゃ駄目ー!?」
ちゃっかりカメラを構えるアリシア、涙目のラビッツ。その後も花飾りのついたヘッドドレスを着けさせられ、謎のフリフリ日傘まで持たされたラビッツは、またアリシアに舐めるように眺められる。しばらくラビッツの姿を堪能した後、アリシアは嬉しそうに言った。
「いやー、普段の服と違うってのもいいね! 面白いし!」
「……もう満足した?」
まるきりお人形さんみたいになってしまったラビッツは顎のリボンを揺らしながら恐る恐る訊く。そこにアリシアはさっとタブレットを差しだした。
「さぁ、新しい服にいってみよー! 次はもっと珍しい服だよ!」
「ふええええ~っ?!」
ラビッツの赤い瞳がぐるぐると渦を巻いた。
「も、もういいよね……」
セーラー服を着たラビッツはぜえぜえと肩で息をしながら縋るようにアリシアを見る。もうこれで何着着たか分からないくらいだ。アリシアはうーんと顎に手を当ててラビッツを見ていたが、うんと軽く頷いた。
「やっぱ1番最初の服にしてよ、ラビッツ」
「最初の? 分かった」
ブンと一瞬だけ画像が乱れた後、ラビッツは初めに着たゴスロリ風の衣装を纏う。それを確認するとアリシアは言った。
「ラビッツ、その服の在庫がある店ピックアップして。なるべく近いところ」
「了解」
ラビッツは瞬時に検索をかけ、何軒かのお店をアリシアに提示する。アリシアはその中で1番近い店を選び、ラビッツに言った。
「よし、じゃあ行こうか」
「どこに?」
ラビッツの問いに、アリシアはウインクで答えた。
「店にだよ。ワタシもその服着たくなっちゃった!」
そして。ある店の試着室にアリシアとラビッツの姿があった。
「どっかな?」
試着室の鏡の前でくるりと回るアリシア。その姿にラビッツは感嘆していた。
鏡には妖艶な魅力をクラシカルな衣装に閉じ込めた少女がいた。ロリータ風の服は露出度が低いが、それ故匂い立つような艶めかしさがアリシアを包んでいる。もしもこの少女に酷い目にあわされると分かっていても、男達は進んで飛び込んでいってしまうだろう。同じ衣装を着て、この差は何なのだろう。ラビッツはアリシアの見事な胸の膨らみを見、その後自分のちんまりした胸に視線を落とし、嘆息した。
「よーし、これ着て帰っちゃおう! ラビッツ、会計よろしく」
「う、うん分かった」
アリシアの言葉にラビッツは慌てて店のレジに回線を繋ぐ。その間もアリシアは満足そうに鏡を見ていた。
「会計終わったよ~。その服気に入ったの、アリシア? 確かによく似合ってるけど」
会計を済ませるとラビッツはまだ鏡を見ているアリシアに問いかける。アリシアは鏡に一緒に映っているラビッツににっこり笑った。
「うん。ラビッツとお揃いだからね! ねえねえ、帰ったら一緒に写真撮ろうよ! いいでしょ?」
「え?」
また写真と言われ、ラビッツは少し躊躇する。けれどもアリシアの屈託ない笑顔を前に、根負けしたように笑った。
「……うん、分かった」
「やったー♪ そうと決まったらすぐ帰ろー!」
アリシアは弾む声で言うと元気に試着室から出て歩き出す。そのなびく長く美しい髪を見ながらラビッツは思っていた。
(色んな服着るのって恥ずかしいけど、アリシアが喜ぶなら時々はしてもいいかな。最近は戦闘とか治療とか色々頑張ってたし)
オープンモードで歩けって言われたらちょっと無理だけど。
自分と同じ服で街を歩くご機嫌な主人の横顔を眺めていたラビッツは、楽しそうにくすりと笑った。
……でもたくさん振り回されるのは困るから、暴走は控えめにして欲しいけどねっ!
●フィール&アルフォリス
ここは空挺都市『レーヴァテイン』にあるシティのショッピングモール。そのとあるアパレルショップのショーウインドウ前に、涎を垂らしながら佇む少女がいた。
「あぁぁ……いいなぁ、服」
べったりとガラスに張り付き目の前のマネキンを見つめ、その大きく艶やかな黒い瞳に清らかな涙を浮かべているのは【フィール・ジュノ】。ボンキュッボンのナイスバティを勿体なくも地味ーでくたびれた服で包んでいる残念な魔法少女だ。ちなみに戦闘ではフィールはそのびんぼ臭い服を脱ぎ捨て、肩出しミニスカ、脇乳も眩しくニーソックスからの絶対領域を周囲に見せつける魅力的な魔法少女に変身する。しかし平和な日常では変身する必要もないのでそのナイスバディが世間に知れ渡る事もなく。彼女は昨日も貧乏、今日も貧乏……そしてきっと明日も貧乏に違いないのだ。
「ふむ、服も満足に着られないとは……ほとほと可哀想な奴じゃのう」
マッチ売りの少女よろしく哀れに服を眺めるフィールに冷ややかな視線と言葉を容赦なく投げつけるのは、彼女のアニマ【アルフォリス】だ。オープンモードで主人の横にいるアルフォリスは、青い瞳を持つ一見儚い少女のような外見のアニマだが……出てくる言葉は辛辣そのものだ。アルフォリスはウィンドウの中の服をじっと眺めると、ブンと一瞬その画像を乱した後、フィールの方を向いてにやりと笑った。
「どうじゃ? 似合うか?」
「あ、あ、あーーーっ!?」
虐げられる魔法少女フィールは、その瞳を零れんばかりに見開いて己のアニマを指さした。
アルフォリスは……ショーウィンドウの中にあるマネキンそっくりの服を着ていたのである。
「ずるいー! アルフォリスずるいー!」
マネキンとアルフォリスを何度も交互に見比べながらフィールは叫ぶ。その言葉にアルフォリスは心外そうに腕を組んだ。
「なんじゃ、こんな服如きで。試着だけならおぬしでも出来る。何ならここで照射してやろうか? ……まあ、下着くらいにはなってもらわんといかんがな」
アルフォリスの楽しそうな視線に、フィールは思わずその豊満な胸を両腕でかき抱き、ふるふると首を振る。そして恨めしそうにアルフォリスの姿を見た。
(いいなぁ、アルは。データ化した服を自由に着られるんだから。羨ましい)
確かに試着だけなら自分もいくらでも出来る。でも実体のある身としては、お金を払わないと現物は手に入らないのだ。まさかホログラムの試着をしたまま、下着が透けた状態で街中を歩く訳にはいかないだろう。アルフォリスは大喜びするだろうが。
ああ、げににくきは貧乏なり。フィールは新作の服を身に纏うアルフォリスを見ながら、はらはらと涙を零した。
フィールの羨望の視線を一身に受けているアルフォリスは、つまらない物を見るようにその視線をフィールに投げ返していたが、ふとその唇が酷薄そうに上がった。
「フィール……おぬし、そんなに服が好きか」
「そりゃそうよ。貧乏で最近全然服買ってないし」
むっとして言い返すフィールに、アルフォリスは鷹揚に頷いて言った。
「そうかそうか。では思う存分堪能するが良い。我の姿でな」
パッ。またアルフォリスの格好が変わり、可愛らしい洋服を着た姿が現れた。驚愕するフィールの前で、アルフォリスのワンマンファッションショーが始まった。
「ああっ、それはこの前雑誌に載ってていいなと思ってた洋服!」
パッ。
「そのボーイッシュなのもいいなぁ!」
パッ。
「ああ、ゴスロリのお洋服って高いけど、憧れる~!」
パッ。
「ええ……ボンデージ……アルフォリス似合いすぎなんだけど……」
次々に洋服を替えるアルフォリスを、フィールは指を咥えながら眺めるしかなかった。好きなだけ服を着替える己のアニマを前に、着た切り雀のフィールの心は折れる寸前だ。そしてもう何十着目かの、艦隊司令官の様な制服をバッチリ纏ったアルフォリスが、
「ほれほれ、良かろう? これなら指揮官としての見た目も悪くあるまい?」
と言ってきた時、とうとうフィールはよよと崩れ落ちた。
「ううう、自分のアニマは好きに服を着られるっていうのに……うわぁぁぁん! 私は不幸だぁぁぁ!」
往来で号泣するフィール。するとアルフォリスはそんな主人の姿をにたにたと眺めた後、彼女の耳元にそっと囁いた。
「ん、どうしたフィール? そんなに服が買えんのが悲しいか。そうかそうか。なら、アレはどうじゃ? アレなら服の生地もちょぴっとしか使ってなくて安そうじゃぞ?」
「……どれ?」
「ほら、アレじゃ」
珍しく寄り添ってくれるアニマの指さす方を、涙で濡れた目をこすりフィールは見る。アルフォリスが示した店内のマネキンは……超ミニのスカートにレースがふんだんに使われたヘソ出しベアトップという、なかなか攻めたデザインの服を着ていた。
「確かにあれなら生地もちょっとしかないから安そうだね」
「じゃろうじゃろう。ほら、試着室を借りて着て来るが良い。会計は我が済ませといてやろう」
「ありがとう、アルフォリス……」
ふらふらと夢遊病者のように店内に吸い込まれていく主人の背中に、アルフォリスはほくそ笑みながらついて行った。
この店のデータベースにアクセスしていたアルフォリスは知っていたのだ。あの服は実はブランド物で、フィールの一ヶ月分の食費くらい吹っ飛んでしまうくらい高い金額だという事を。
そして……アルフォリスは躊躇なく会計を済ませたのだった。
「アル……この服ちょっと寒いよ」
そう呟きながら店内から出てきたフィールの姿を見て、モールを往来していた野郎共が一斉にその視線を彼女に向けた。
それもそうだろう。レースがはち切れんばかりに伸びきったベアトップに窮屈に押し込まれたたわわな胸、申し訳程度にしかないスカート生地が更にずり上がってしまうキュッと上がったヒップ。そんな男の夢を体現した少女が目の前に現れたのだから。
恐らく気に入ったのであろう、司令官の制服姿のままのアルフォリスは、あられもない姿の主人を見て満足そうに頷くと、スチャリと拡声器(の画像)を構え、あらんばかりの大声で周囲に呼びかけた。
「あー、あー。聞こえるか、欲を持て余す諸君! ここに、ぐらまーな魔法少女がおる! R17までのえっちぃ事は許してやるから……総員、突撃せよ!」
勿論アニマが拡声機能を持っている訳ではないから、アルフォリスの声は人並み程度の距離しか情報共有されない。それでもフィールは仰天した。
「ちょっ、アル?! 何言ってんの?!? あ、違うんです、気にしないで下さいー!」
フィールは足を止め始めた男達に慌てて言う。その様子にアルフォリスは冷ややかに言った。
「ほう、余裕があるようだな、フィール。逃げなくて良いのか?」
「え? だってここら辺の人にしかアルの声って聞こえなかったでしょ? これくらいの人数なら何とか」
「ほんとにおぬしはマヌケだのう。我が普通に呼びかけただけだと思ったか?」
「え? どういう事……」
嫌な予感がしてフィールはアルフォリスから視線を外し、恐る恐る周囲を見る。そしてさあっと青ざめた。
―――何百メートルも先から、血走った目の男達がこちらに向かって駆けてくるではないか!
「え、何これ?!」
叫ぶフィールにアルフォリスはケラケラと笑った。
「近距離情報通信をリレーしたのじゃ。勿論反応してくれたアニマだけじゃがな。しかしリレーがリレーを呼んだようじゃ。結構な人数になったのぅ」
「嘘?! やだ、何なのーっ?!?」
涙を浮かべて慌てて逃げ出すフィール。追い縋る男達。アルフォリスは主人の横にピタリと付きながらも後ろを振り返り楽しそうに言った。
「あ、R18になったら黒服に連れていかれるのでそれだけ警戒せよ。それ以外は自由じゃ、ヤってしまえ!」
「黒服って何ー?! ていうかそれ以外もやっちゃだめ……やだ、胸触らないでぇっ!!」
極上の獲物を前に本能全開で群がる男達。ブランド物のベアトップもスカートもただのちぎれた布きれと化している。それでも必死に逃げるフィールに、アルフォリスは優しく話しかけた。
「服が破れても大丈夫じゃ。我が代わりの服を用意して……また男達に呼びかけてやるから」
「それじゃ意味ないでしょー?! あ、やめてーっ!!」
追いかけてくる1人の男の指がベアトップだったであろうビリビリの布を掴み、とうとうそれを引き剥がした。ああ、ポロリ! ……寸前でフィールはバッと胸を両腕で隠すと、ふえええと泣きながら叫んだ。
「アルゥゥゥ、覚えてなさいぃぃ!」
どれだけフィールが速く走っても、疲れても、アルフォリスは常に彼女の傍にいるし、涼しい顔だ。
(これも魔法少女としての修行の一環じゃ。しっかりと世界に満ちる不思議パワーを集めるのじゃ)
必死に逃げるフィールの横でうむとアルフォリスはもっともらしく頷くが、勿論じゃあ不思議パワーとは何なのかなんて主人に説明する事もなく。
厳しくも有能な司令官は、周囲の映像情報を総動員してフィールの恥ずかしい姿を撮影し、データとしてしっかり残すのだった。
依頼結果