プロローグ
砕け散る戦闘艇、はじけ飛ぶ甲板。第一空挺団レーヴァティンの至る所で怒号と爆音が響き渡っている。それは巨大な構造物の連なりであるレーヴァティンの階層都市も例外ではなかった。
この戦いが人類の終末であろうとも、君たちはレーヴァティンの都市機能をまもろうと奔走していた。終末を叫ぶカルト教団を打ち倒し、人類の歴史が終焉してしまうと理解してなお居住区を荒らす空賊を片づける。
周囲の驚異に一つずつ対処し終え、やけに静かになった街中で君たちは瓦礫に腰を落ち着けた。
「一息つけるか……」
誰かがぼそりとそう言った。その声に合わせるかのように戦闘糧食を口にしたり、タバコに火を点けたり、読みかけの小説を鞄から取り出したり、携帯端末でSNSを確認したりと行った具合に思い思いの休息を取り始める。
しかし、その休息は長く続くことはなかった。君たちが持つ端末に突如として救難信号が鳴り響いたのだ。座標はレーヴァティンの階層都市の奥深く。はるか昔に建造され現在居住者がいないとされていた区画だ。
班長が手早く端末を操作し、コンピュータが自動的に最短ルートと危険を回避できる迂回路とを割り出した。だが、コンピュータがはじき出したルートに班長は顔をしかめる。唸るように息をを吐き、君たちに立体映像としてルートを示した。
迂回路はまあいい。安全だがかなりの時間を要する。問題は最短ルートだ。瓦礫に埋もれたドアの向こう側にある通路を通り、進んだ先にある破損した電子ロックを解除する必要があった。床の抜けた吊り橋を渡る必要があり、灯りが届かないダークゾーンでは冷静さを保ち抜ける必要がある。さらにダークゾーンを抜けた先にあるエレベーターの配電盤を修理する必要があった。エレベーターで降りた先、古代の配管が巡らされている通路では定期的に吹き出す高温の蒸気をかいくぐることを要求される。それらを突破した先に要救護者が居るというのだ。
班長は無言で君たちを見回した。
「たす……け……。た……け……て」
救難信号に続き、かすかだが助けを求める女性の声が聞こえる。それに合わせるかのように遠くで構造物が崩落していく音が響いた。
その場に居た全員が土煙が昇る方向を見つめていた
「放置された区画は構造物か脆い……。いつ崩落するかわからん」
班長は全員を見回し声を張った。
「ここに居る者で救助に行ってくれる者は居ないか!」
解説
●シナリオの目的
構造物が崩落する前に要救護者を確保する。
●最短ルートを進む場合の障害について
最短ルートを通り要救護者の元に向かう場合、危険な場所や専門知識が要求されます。最初から迂回路を使うという選択肢も勿論ありです。
瓦礫に埋もれたドア。
崩落した瓦礫に埋もれています。生半可なSTRでは動かすことができないでしょう。(STR目標値-6)
破損した電子ロックを解除。
破損している電子ロックを解除する必要があります。コンピュータ端末を所持してなおかなりのINTが要求される作業です。(INT目標値-10)
床の抜けた吊り橋を渡る。
文字通り床のない吊り橋で体力と頑強さがものを言います。渡りきるにはVITを要求されます。(VIT目標値修正なし)
灯りが届かないダークゾーンを冷静さを保ち抜ける。
ライトの明かりも通用しない完全に暗闇の空間です。冷静さを保ち行動するMIDの値が重要となります。(MID目標修正値なし)
エレベーターの配電盤を修理する。
機械的に破損しているエレベーターの配電盤を修理する必要があります。手先の器用さであるDEXを要求される作業です。(DEX目標値-3)
定期的に吹き出す高温の蒸気をかいくぐる。
次々吹き出す高温の蒸気をかいくぐることとなります。タイミングを見計らい行動するAGLが要求されます。(AGL目標値-3)
●それぞれの判定は一人1回となります。何度も挑戦できることになるといつか成功してしまうからです。アイデアがあれば判定の目標値にプラス修正がつきます。
●迂回路はかなりの時間を要します。1回毎に要救護者の危険度が増し、6回で完全に崩落してしまいます。
●判定について
能力の判定は、キャラクターのフィジカルパラメータ+職業ボーナス+(アニマのフィジカルパラメータ/4-1)に難易度修正を加えたものが目標値となります。20D1を振り目標値以下を出した場合成功となります。
ゲームマスターより
はじめまして。GMの鷲塚です。
このシナリオがプレイヤーにとってもGMにとってもチュートリアルになればいいなと思っています。そこでまず、能力判定はどうするのかということをプレイヤーの皆さんに知って頂こうと思います。
頑張っていくので、これからよろしくお願い申し上げます。
【隠れた真実】デッドリーチュートリアル エピソード情報
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担当 |
鷲塚 GM
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相談期間 |
7 日
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ジャンル |
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タイプ |
EX
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出発日 |
2017/7/3 0
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難易度 |
普通
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報酬 |
通常
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公開日 |
2017/7/13 |
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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ルートは『最短ルート』を考えています。 障害排除はすべて全力でチャレンジしますですが、 特に『破損した電子ロックを解除』には自分の全力を注ぎ込みたいと思います。 電子ロックが成功したら、配電盤の修理をがんばりたいと思いますですね。 電子ロックは、準備にちょっと時間はかかるかもですが、 電気系の機材をしっかりと整え、ロックの破損度を確認してから解除に望みます。 事前にそのセクションで使用されている電子ロックとエレベーターの種類、正常ならどう作動するのか、 あるのなら回線図やID、パスワードなども、わかるなら調べておきたいですね。 それと道中で電子ロックを見かけたら、それも参考にしていきたいと思いますです。 障害の突破に失敗したときは、迷わず迂回路を選択。 要救護者さんのところまでいけたらしっかりフォローをして、 帰り道も油断せず、しっかり帰ってくることを心がけるよ。
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まずは…それなりの長さのロープをありったけかき集めよう。 ないならないで仕方はないが、あれば多様な使い方ができる。 さて、瓦礫だが、これは僕一人ではとても対処できない。 だが2人、3人がかりと複数人で当たれるならばその一助とはなれるだろう。 電子ロックはお手上げだ。技術のあるものに任せる。 吊り橋は、ロープが確保できているならば命綱と、続く者の足場代わりにする為の2本を渡したい。 全員が渡り切る方法がないならば早々に迂回を考えた方が良いかもしれん。 ダークゾーンも道標代わりにロープを入り口から出口まで渡す。 ロープを離さない限りどちらかに出られる状況ならばそう不安がる者も居ないだろう。 配電盤は…無理ではないが、確実とは言えんな。 できる限りの事はしてみるが、期待はしないでくれ。 蒸気の吹出は、まず観察することだ。ある程度の規則性は掴めるだろう。 後は、己を信じ、進むのみよ。
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基本的に全て最短ルートを進行。瓦礫は得意そうな人の補助を務める形で撤去を試み、ダークゾーンはロープを全員に持ってもらい、先導できないかやってみます。その為にも、そこまでにロープのようなものがないか捜索してみます。
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ユウ
( アリス )
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ヒューマン | マーセナリー | 25 歳 | 男性
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瓦礫に埋もれたドア、床の抜けた吊り橋、灯りが届かないダークゾーン、エレベーターの配電盤を修理、定期的に吹き出す高温の蒸気を最短ルートで突破し、破損した電子ロックを解除するのは迂回路を使い目標までたどり着くことを狙う。
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片手剣と片手盾を持っていきます。ゲッカコウを魔装化しておきましょう。 全員が判定をして達成が難しくかつフォロー手段がない時は迂回路の使用を提案します。 瓦礫に埋もれたドアの瓦礫は皆で協力をして剣を棒代わりにテコの原理でどかしたり【デュエルブラッディ】で破壊を試みます。 エレベーターの配電盤修理は修理方法を確かめ確実に作業する為にマニュアルを探します。 ダークゾーンや吊り橋ではロープでお互いを繋げれば助け合えますね、予め用意出来ればいいんですけど難しい場合は服を破って繋いで替わりにしましょう。 火を灯したりして明かりを確保したらダークゾーンを抜けやすくなりませんか?自ら目を瞑り自発的に暗闇に入って冷静さを保とうとします。お互い声をかけ合うのもいいですね。 蒸気をかいくぐる時に盾や上着を脱いで蒸気を防ぐように出来れば楽になりませんか? 助けを求めている人が待っているんです、必ず助け出します。
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出来る限り最短距離を使用。 各種判定が必要な場面は、成功すれば全員が通過できる所はより成功できる人に優先してもらい、 成功したら一緒に通過。その人が失敗したら私も実行。 瓦礫を押す事や、ダークゾーン突破等、みんなで協力できる場面はできるだけ協力して一緒に突破&ピンチを回避できるように! 私が得意で、一番成功できると思っている場面、 エレベーターの配電盤の修理と、高温の蒸気をかいくぐる所はみんなより先に実行。 メンバー全員が判定しないといけない所もしっかりトライ。 もし失敗したら、成功した人を中心に固まって行動する事や、下記のロープで使っての補助ができなさそうな場合は迂回路を使用。 また、現場に行く前にあらかじめロープを用意しておき、ダークゾーンではぐれないようにしたり、 蒸気をかいくぐる時や、吊り橋を渡る際にピンチになった仲間を素早く引っ張って救援したりします。
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ドドリゲス
( ミミ )
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デモニック | 魔法少女 | 15 歳 | 女性
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参加者一覧
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まゆゆ
( ゆゆゆ )
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ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性
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ユウ
( アリス )
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ヒューマン | マーセナリー | 25 歳 | 男性
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ドドリゲス
( ミミ )
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デモニック | 魔法少女 | 15 歳 | 女性
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リザルト
●出発前には準備をしよう
班長の言葉に8名が名乗りをあげた。
『メルフリート・グラストシェイド』とアニマの『クー・コール・ロビン』。
『イツカ・クロフォード』とアニマの『レ・フィ』。
『チュベローズ・ウォルプタス』とアニマの『ゲッカコウ』。
『まゆゆ』とアニマの『ゆゆゆ』。
『舞鶴冬花』とアニマの『プラチナスノウ』。
『ユウ』とアニマの『アリス』。
『ドドリゲス』とアニマの『みみ』。
『akihisa』とアニマの『ミリンダ』。
アニマがいるのに8名というのは少々妙に感じるかもしれないが、アニマとはアニマリベラーにインストールされており、普段はマスターにしかその姿を認識できないからだ。その姿を他者が認識するには、マスターがオープンモードを指定しホログラムを投影する必要がある。
「よし、では君たちに救護任務に就いて貰う……と、少し人数が多いかもしれんな」
能力を使うにはアニマが近くに居る必要がある。部隊が大所帯となることはある程度仕方の無い。班長は全員を見回して少し考えた。
「ドドリゲスとakihisaはこの場に残りバックアップを頼む」
頷いた二人は隊長から通信機を受け取る。
「休憩終了、行動開始だ。救護に向かうもの以外は俺に付いてこい。まだまだやることは沢山あるんだからな」
班長の言葉にそれぞれ立ち上がり片付けを始めた。そんな中、救護に向かう5名は行動を開始したのである。
「まずは……、それなりの長さのロープをありったけかき集めよう」
そう切り出したのはメルフリートだった。スパイという職業柄ロープの扱いには長けている。それに、多様性のあるロープはいくらあっても困るものではない。その横でクーが静かに頷く。
「賛成! 他のみんなと分かれる前に集めておくのがいいですね」
イツカはそう言って笑顔を振りまく。女装して一見少女にしか見えないイツカだが、立派な男の子である。そう、彼は魔法少女なのだ。早速ロープを探しに走り回っているイツカの後ろには、彼よりもさらに小柄なレ・フィがまるでマスコットのようにちょこちょことついてまわる。
「プラチナスノウ、私たちもロープを探しておこう。スパイにロープは基本」
「そうですね冬花さん」
冬花とプラチナスノウも一緒になってロープを探して回る事にした。
ロープを探した6人は結果として充分な長さのロープを確保することに成功した。それを手分けして持ち合うことにする。
その間、チュベローズは武器と防具を確認していた。
(助けを求めている人が待っているんです、必ず助け出します)
そんな思いを胸に秘め黙々と作業をこなす。マセーナリーとして戦うなら武器の手入れを欠かすことはできない。いつもの手順で武器を確認した後、チュベローズは通信の状況を確認した。通信の確保は基本だ。何度か通信機を作動さてみる。この混乱の中雑音混じりだが通信に問題はなさそうであった。
「チュベローズ様、私も頑張ります!」
もはやツーカーの仲であるゲッカコウもやる気充分ので腕まくりしてみせる。
「よーし、やるか!」
「はい、チュベローズ様!」
その横では、準備行動に移った瞬間その場に座り込んだまゆゆが真剣にモニタを睨み、自分のサイドテールを指先でくるくるいじくっていた。
「ルートは最短ルート……なのです」
ハッカーの本領発揮とばかりに端末のキーボードを叩く。そんなまゆゆの端末をアニマであるゆゆゆがのぞき込んだ。
「なーにやってんの篠峰さん」
「私をその名で呼んではだめなのですです、ゆゆゆ氏」
「ごめんごめん、まゆゆさん」
まゆゆは一瞬目線をゆゆゆに上げ、にっこりと微笑んだ。すぐにモニタに目を移し先ほど隊長から示されたルートをトレースする。
「電子ロックは私の領分なのですよ。型番~、あ~古い……。パスワードは……、今はアクセスできないか。これは現地で一発勝負なのですです」
ふうと大きく息を吐き、まゆゆは進むべきルートを見据えた。
「アリス、これは時間勝負の救護任務だ。不要なものはバックアップに預け身軽になっておいた方がいい」
マセーナリーのユウは荷物を下ろし、不必要と思えるものをアニマのアリスと分別しておいた。それをひとまとめにしてバックアップの二人に預ける。
そうこうしているうちに12人全員が元の場所に集合していた。
「よし、準備は整ったようだな。それでは任務開始だ!」
●瓦礫に埋もれたドア
一行は細い通路を進んでいた。かなり古い時代の通路で照明や配管がむき出しになっている。戦闘状況が芳しくないのか、時折爆音が響きレーヴァティン全体が小刻みに揺れ、その度に埃が天井から降り注いでいた。
「このブロックの先にドアなのですよ」
まゆゆが端末を見て確認するように言った。全員がまゆゆの示す道を早足で進む。程なくして一行は崩れた瓦礫にぶち当たった。大きさの大小があるが人力で何とかできそうな範囲である。
「これは一人では対処できないな……」
メルフリートがメンバー全員を見回した。頭脳よりパワーが必要なこの場面、マセーナリーの二人に一行の期待がのしかかってくる。
ユウが無言で瓦礫に手をかけ気合いを入れ、重い瓦礫を抱える様にして取り除いていく。
「それじゃ私の出番かな。てこの原理でも何でも使ってやるしかないですね」
「チュベローズ様がんばれー」
「はいよー」
チュベローズも剣をテコとして利用し、瓦礫を移動させていった。
他のメンバーも二人の後ろで小さな瓦礫を処理していく。最後にチュベローズとユウが巨大な瓦礫を押しのけ、人一人通行可能な隙間を作り上げた。
「お嬢さん大丈夫? 今そっちに向かってるからね」
ユウがスライド式のドアをこじ開けている間、チュベローズが無線で少女に確認を取った。
「こっ……、だい……ぶです」
「今そっちへ向かってるから頑張って!」
少女の無事を確認し一行は通路を奥へと進んでいった。
●破損した電子ロック
「それじゃあここは任せて貰いますですよ」
まゆゆが電子ロックの外装を手際よく取り外していく。出発前に集めた情報と、ここに来るまでに通ったドアの電子ロック。それらを勘案し、自らの持てる全ての技術を駆使し事に当たる。
そんなゆゆゆをユウとプラチナスノウを除いたメンバーが見守っていた。二人は途中の迂回路に進み、残りのメンバーで最短ルートを進んでいたからだ。
「物理的な破損は……、ここなのですよ」
まゆゆの頭の中に回路図が浮かび上がり、破損箇所をブリッジすると電子ロックがポーンと低い音を出して起動した。
「あとはパスワードをクラックするのですね。私のツールが合えばいいのです……」
ツールと端末を接続してから電子ロックに接続する。何世紀も前の電子ロックに現代のツールが通用するか、言わばこれは過去と現代との勝負といえた。ツールに読み取られた文字列が凄まじい速度で端末に展開される様がまゆゆの瞳に映り込んでいく。
しばらくまゆゆはぴくりとも動かなかった。手伝おうか、と舞鶴が声を掛けようとしたときだ。もの凄い早さでツールと端末を片づけ、まゆゆはすくっと立ち上がった。
「迂回決定なのですね。皆さん急ぎますですよ!」
失敗したからには迂回しなければならない。まゆゆは迷うことなく通路を引き返していた。
「ものは試しということです……」
冬花もそのあと試してみたのだが電子ロックはエラーを吐き出すばかり。結局、小走りで一行の後を追いかけるのであった。
●吊り橋
吊り橋に辿り着いたユウは周辺の状況を確認していた。最短距離のルートから来たと思われる痕跡は見当たらない。ここに来る途中、遠くで地響きがしたから現場の様子も気になるところだった。
吊り橋を確認してみるとメインケーブルにハンガーケーブルが垂れ下がっている状態だ。縁に立ちちらりと下を覗いてみるが溝が深く底が確認できないほどだった。
(迂回路を使うべきだろうか……)
ユウは体力がある方ではない。このまま最短距離を進んでも成功する確率は低いのではないかと思えた。自分たちの安全が確保できなければ即座に撤退する。それは、見知らぬ人間より自分の命が大事だという彼自身の考えからだ。
あれこれ考えているうちに通路から足音が聞こえてきた。あとから迂回路に入ったメンバーが追いついてきたのだ。
「こういう状況だけど、安全とは言えないと思う」
ユウが全員に状況を説明した。
「ロープでお互いをくくれば良いと思うんだけど」
チュベローズに同意してメルフリートも頷く。ユウが押し黙ってしまったのを見て、アリスが通信回線を全員に開いた。
「安全第一! そうでしょ、みなさん!!」
アリスは半分泣きそうな顔をして他のメンバーに訴えかけた。その姿は見えないが、本当にマスターを心配している事が伝わってくる。少し間をおき、他のアニマ達も口々にマスターの安全確保を叫び始める。周囲はさながらアニマ達のコンサート状態だ。
「よし、迂回だ。迂回!」
「私もそれに賛成です」
まだ時間は残されているし無理はしなくても良いだろうという判断のもと、メルフリートがアニマ達に叫ぶように言った。イツカもちょこんと手を挙げて同意する。少し重くなっていた空気がぱっと軽くなったようでアニマ達も笑顔を見せていた。
「迂回路はあっちなのですよ」
ゆゆゆと手を繋いだまゆゆが端末の画面をみんなにみせる。
「ん、このルートだとだいぶ離れてしまいますね」
額に手をかざした冬花が迂回路方面を眺めて眉根を潜める。
「現地はまだ大丈夫みたいだから、なるべく早く行きましょう」
チュベローズが無線機ごと手振りで道を指し示した。
●ダークゾーン
全員が足を止め、真なる闇を見上げていた。
「ダークゾーンか……。こんな所で実際にお目に掛かることになるとは思いませんでした」
イツカがぼそりとそう漏らした。ご先祖様の時代には地下迷宮を守るためにこういうダークゾーンが設置されていたということを皆に伝える。
「つまり、入り口から出口まで道しるべがあれば良いわけだ」
「ああ、ロープね」
「そうそう」
メルフリートがロープを取り出すと、それに次いでイツカと冬花たちもロープを取り出す。三人は手分けしてロープを繋ぎ、長いロープを用意した。
「まずは道しるべを私が準備します」
イツカが真剣な面持ちでロープの端を握っていた。暗闇で動じない精神力には自信がある。ここは自分が頑張る場面だとイツカは自覚していた。
「ダークゾーンを抜けたら3回引っ張るから、それを合図に皆も渡ってきてね」
チュベローズとユウが頷く。
「それじゃ、行ってきます」
イツカがそっと足を踏み入れた。ダークゾーンと通常空間との境目で自分の体がすっと消えていく。まるで自分が消えてしまうかのような感覚だ。そのままゆっくり二歩目で完全にダークゾーンに体を沈めた。
感覚の一つを絶たれるとこれほど心細くなるものなのか。片手にロープを握りしめ、もう片方の手で杖をしっかりと持っておく。魔法少女の杖で一歩先を確認しながら歩き段差や崩落がないか確認していく。
100メートルもあっただろうか。唐突にダークゾーンは終わり、これまで見てきた通路が姿を現した。
残されたメンバーは、ゆっくりと闇の中に吸い込まれていくロープをじっと見ているしかなかった。
全員が腰にあまりのロープを結びイツカの合図を待つ。15分ほどしてから三度ロープを引っ張る合図が送られてきた。
「どうやら無事に向こう側に辿り着いたみたいね」
チュベローズが腰のロープを確認し了解の合図を送り返した。
「じゃあオレ達も行こうか」
ユウもロープを確認しダークゾーンの方を向くとその先にイツカの顔があった。
「折角なので先導しますよ」
満面の笑顔を皆に向ける。これは心強いと一同はダークゾーンに挑んだ。
「クー・コール・ロビン君」
「何ですかメルフリート」
「闇に呑まれぬには他者の存在による自己認識の影響は強い。なるべく近くに居てくれよ」
他者には見えないが、メルフリートにはクーがそこに居るかのように見えていた。マスターはオープンモードを使わずともアニマの存在を映像として認識できるのだ。メルフリートはクーに何の臆面も無く手を伸ばす。
「勿論良いですよメルフリート」
クーは優しくメルフリートの手を取るような仕草をみせると、二人はそのままダークゾーンへと消えていった。
その様子をみていた一同は状況を察し、おのおの自分のアニマと一緒にダークゾーンへ入っていくのだが通路にはチュベローズとユウの絶叫が響いていたという。
●配電盤
「次はエレベーターの配電盤なのですね」
連絡通路様の小さなエレベーターが設置されており、その脇に小型ボックスが据え付けられていた。まゆゆが蓋を開けると基板の放つ独特の臭いが漂ってくる。
「ほら、ボックスの蓋の裏に図面がありますよ」
「配電盤は……、無理ではないが確実とは言えんな」
チュベローズとメルフリートが配電盤の図面を見てムムムと唸る。
「では、ここは私が……。手先の器用さには少々自信があるんですよ」
図面と配電盤とを交互に見て冬花が作業を開始した。見たことが無い型式のものだ。1000年も浮いているこの船だ、現代の技術と過去の技術の延長線上にあるとは限らないと思い知らされる。
数十分後、ベストを尽くした冬花がレバーを下ろし通電を試みた。みんな固唾をのんでその様子を見守っている。暫しの沈黙がその場を支配し、
「動かない……」
ぼそりと呟いた冬花はがっくりと肩を落とした。
「次は僕がやろう。できる限りのことはしてみるが期待はしないでくれ」
メルフリートが冬花と入れ替わり配電盤に向かう。
「確実に修理するならマニュアルとか検索でいないんですか?」
「それでは私が検索してみるですよチュベローズ氏」
「ああ、私のときに検索してくれていれば……」
「こればかりは時の運、冬花氏が悪いわけではないと思うのですよ」
検索のためキーを叩くまゆゆは冬花を慰める様に優しく言った。
「とほほ、勇み足でした」
検索結果は上々であとは手先の勝負となった。メルフリートは慎重に事を運ぼうとするがなかなか思い通りにならない。他のメンバーも交代交代に挑戦してみるが配電盤の故障は改善されずエレベーターはうんともすんともいわないのであった。重い空気が場を支配しそうになろうかというときだ。
「迂回路へゴー!」
イツカがめいっぱい明るく振る舞いその空気を払拭した。
●蒸気が吹き出す通路
一行は迂回路の螺旋階段を延々降りていた。蒸気が噴き出しているという通路に楽々到着とはいかなかったが、迂回路の階段が近くにあったことが唯一の救いと言えよう。
階段を降りる途中、結構な大きさの地響きが発生し要救護者の安否が問われたが、チュベローズにより無事が確認された。
「次は蒸気が噴き出してるんでしたっけ?」
「そうなのですよ」
冬花言われ、まゆゆが端末を確認する。現場が近くなってきたのか、空気が湿気を帯び周囲の壁面が結露していた。
階段を降りきった先は湿度が高すぎて服が肌に張りついてしまうほどだった。一行は端末で進むルートを確認しさらに奥へと進んでいく。
「で、ここが問題の高温蒸気というわけだ」
通路に絡み合う配管から所々蒸気が噴き出している。高温の蒸気でむせかえるような湿気だ。
「今度こそ、私が突破して見せますよ!」
やる気の炎を瞳に灯し、冬花は通路の入り口で仁王立ちしてみせる。
「舞鶴冬花君」
「はい?」
「蒸気の吹出は、まず観察することだ。ある程度の規則性は掴めるだろう」
「なるほど、闇雲に行っても蒸気に巻かれて火傷は必至ですね……」
メルフリートの意見に冬花は通路の奥に目をこらす。なるほど、蒸気の噴出には規則性がありそうだった。
「それと、蒸気をかいくぐる時に盾や上着を脱いで蒸気を防ぐように出来れば楽になりませんか」
「それも有りですね」
チュベローズがなるべく怪我をしないようにと盾の具合を確かめる。冬花は、盾を持っていないのでタイミングと自分の敏捷性だけが頼りだ。
「あとは個人の勝負というわけなのですです」
「がんばりましょう!」
先陣を切って通路に挑んだ冬花であったが、惜しいところで蒸気の回避に失敗してしまう。本人はセーフと言い張ったが蒸気が触れた箇所は赤くはれ上がっていた。
冬花に続いて他のメンバーも次々とチャレンジしていくが通路には絶叫が響きわたる。そんな中、涼しい顔で成功させたのはイツカとチュベローズだ。イツカは絶好調のようで吹き出してくる蒸気によく反応していたし、チュベローズも盾を使いながら上手く立ち回っていた。
●ついに到着!
蒸気の通路を突破し一行はさらに奥に進んでいった。ぼんやりと浮かび上がる照明の光を頼りに走り続ける。正面に小さな明かりが見えてくると、一行はそれが目的地を告げる明かりである事を確信する。自然と歩調がはやまり、一行は自然と駆けだしていた。
通路を抜けた先は思いの外狭い空間だった。三分の一程が埋まった広場の片隅に10代前半であろう人間の少女がぽつんと座っている。この辺りでは見られない服装で、ゆったりとした群青色のローブを羽織っている。その手には見たことも無い端末が握られていた。まるで昔物語から出てきたようなその姿に一行の動きが一瞬とまるがすぐにメルフリートが近づき少女に毛布をかけてやった。
「もう大丈夫だ」
「ありがとう」
少女は毛布の裾を摘まみ消え入りそうな声で答えた。
「こんなところで一人だったの。お父さんとお母さんは? あなたのアニマはどうしたの?」
チュベローズが少女に尋ねるが、少女は黙ってうつむいてしまった。不味いことを聞いてしまったかもしれない、とチュベローズは少し後悔する。周囲に人影がなく生き別れたのかもしれないとチュベロースは思った。
「一刻も早くここを脱出した方がいいかもしれないのですよ」
低い唸りを上げる構造体にまゆゆが迂回路を指し示した。
「そうですね、早く脱出した方がよさそうです」
冬花が指し示した先ではひび割れた天井から破片がぱらぱらと崩れ落ちてきていた。
「あなたは私の背中に」
体力的にチュベロースが少女を背負い全員その場を速やかに離れることにした。
元来た通路を戻る途中、後方で構造物が崩落する音が何度も聞こえてくる。それでも帰りは急ぐ必要性がないので一行は迂回路を進んでいた。
「そういやまだ名前を聞いてなかったね。私はイツカ。イツカ・クロフォード。貴方の名前は?」
チュベローズにおぶられた少女はイツカの方をちらりと見て何か考えているふうだった。何かを言いかけて口を開くがなかなか言葉が出てこない。たっぷり時間をかけてからようやく少女は口を開いた。
「わからない……、です」
「判らないって、自分の名前がですか?」
イツカの問いに少女は小さく頷いた。
「出身は? 私はカンナカムイなんだけど」
少女は黙ったまま答えられない。このあと、イツカは色々な事を少女に聞いてみるが、反応は芳しくなかった。少女自身に関する記憶だけがすっぽりと抜け落ちているのだ。
「うーん、まいったなあ」
イツカは腕組みをして唸ってしまう。
「何かぱっと思いつくような事はないんですか?」
自分と年が近そうな少女に冬花が問いかけた。その問いに少女はすっと目を瞑り少し考えている様子だ。瞼の裏で眼球がぴくりと動き、その動きが止まるとゆっくり目を開ける。「サーヴィン・エデン・サテライト……」
消えそうな声でそう言った。
「サーヴィン・エデン・サテライトと言えば昔からサービスやってるVRパークなのでありますですよ」
オンライン情報ならお任せとばかりにまゆゆが知識を披露する。
「冬花氏、話せば長くなるのですが……」
「お願いします」
話したくてうずうずしているまゆゆに冬花は二つ返事でお願いした。通路を引き返す中まゆゆが話した事を要約すると以下のようになる。サーヴィン・エデン・サテライトは失われた地上を再現したVRパークでログインはフルダイブ形式である。VRパークではアニマを介する事なく能力が使用できる。能力はログインした時点でのものが反映されるというものである。
「どこまで詳細に再現されているのか未知数なのですよ」
「なるほど。この子なんでそんなVRの事が一番最初に思い出されるんでしょうね」
二人は少女をじっと見るが、少女は顔一杯にハテナマークを浮かべている。
「なんにせよ、この子を地上に送りとどけたらすぐに他の任務だからな。ブロントヴァイレスの脅威はまだまだ続いてるんだ」
安心したのかだろうか、いつの間にか少女は寝息を立てていた。そう。一つの命を救うことに成功したが、まだ人類存亡の危機が去ったわけではないのだ。
一行は地上に帰還した後バックアップのドドリゲスとakihisaに少女を託し次の現場へと向かっていった。
記憶を無くした少女はどうなるのか、それはまた別のお話である。
完
依頼結果
依頼相談掲示板