プロローグ
俺の名前は平凡(たいらぼん)!
何事も一人称視点で誰かに語り掛けるように考えるのが好きな、ごく普通の高校生!
……のはずだったんだが、どうやらそうでもないらしい。
ある日異世界より召喚された夢を見た俺は、気づけばこの不思議な世界に転移していた!
右も左も分からないこんな場所。周りの人に相談してみたはいいが、誰もまともに取り合ってくれない上に、気づけば【自称異世界人】なんてあだ名が付いちまった。
まぁ幼馴染で可愛い同級生なんてものはいなかった俺には、またとないチャンスだ!
ここは開き直って心機一転、名前も変えて新しい世界を満喫だぜっ!
とまぁ時折脳内でこの自己紹介文を再生するのだが、何だかアニメや漫画のキャラクター紹介みたいだなーと思うことも多い。
勿論この不可思議な人生をアニメで例えるなら俺は主人公だ。
この世界が滅びない限り、俺はここで俺の物語を全力で生き続ける!
現実の状況に立ち返ると俺は今日、絵画のモデルという大層立派な依頼を受けそこそこな繁華街にある画廊へとやってきていた。
「おおっ、中々でっかいな~」
(ギャラリーって言うのかな? 他のお兄ちゃんお姉ちゃん達の絵がたくさん飾ってあるよ! 素敵だねっ♪)
俺のアニマはとにかく可愛い。
そんな可愛い嫁の大好物は、他の探求者達のイラストを眺めることだった。
それも不思議ではない。世界の期待を一身に受ける探求者達は、場所による違いもあるが比較的好印象で受け入れられる。
多くの依頼をこなす者や、依頼には顔を出さないものの陰でひっそりと人々を守り続ける者。
そんな誰かに必要とされる人間達は、その功績を讃えられこうして描かれる事が日常茶飯事なのだ。
「やっと俺も描かれる立場となったということだな。くははははっ!」
(ご主人様……なんだか前に言ってた魔王? みたいな笑い方だねっ。のけぞりすぎて腰を痛めないように注意だよっ!)
漢には……やらねばならぬ時がある。
例え体に大きな負荷がかかろうとも、見栄えのためならばそのくらいへっちゃらなのだ!
痛いポーズ(決して見た目が情けないという意味ではない)を終えた俺は、画廊へと足を踏み入れる。
その先には画家の名前と、簡単な文章、以前作成した絵画などが展示された大きな窓枠がずらりと顔を揃えていた。
どの画家も魅力的で中々に決めがたい。
「えっと……この窓から自分の絵画を担当してもらう人を選ぶのか」
(今日はお休みって人は窓を閉めてるんだねっ。描いてほしい時はどうするんだろ~?)
「ゲーム的に言えば、今はまだここに来るべきではない! って感じだろう。やってほしいという愛の篭った呼びかけさえ出来れば良いんだけどな……」
俺はアニマと共に興味津々に画家達の窓枠を覗き込む。
とは言うものの、本日は依頼を受けここへやってきた身。
自分達を担当する画家は既に決まっているので、物色もほどほどに奥へと進む。
「失礼しま~す」
「おおっ、君が依頼を受けてくれた探求者か。ここへ座ってくれ」
担当者に促されるまま、しばらく待っていると2人の画家がやってくる。
1人は気弱で若そうな青年、もう1人は経験の量が顔のしわに現れるほどの老人であった。
ただどう抗おうと気になってしまうのは、2人共純白のタオルで目隠しをしている事であった。
「あの、担当さん? この状況でこの人達はどうやって絵を描くんです?」
「そりゃ心眼に決まってる! さぁさぁ、今日はよろしく頼むぞ!」
努めて冷静に振舞おうとした俺だが、担当者の気合の入った言葉には一撃で根負けしてしまった。
「心眼って!? 見ないでどうやって人物画を描くっていうんですか!!」
「そう吼えるでないわ阿呆! お前らの事を書くくらい基礎情報があれば充分じゃわ!」
「あわわ! 師匠、折角久々のお客さんなんですから……」
弟子と思われる若者があらぬ方向を見ていることを差し置けば、この心眼、本物らしい。
絶対に見えていないはずなのに、俺には師匠と呼ばれた老人が目隠しの奥からじっとこちらを見据えているようにしか思えなかった。
(俺はこの感覚を信じて、素直にモデルを続けるぜ!)
そう決めた俺は、依頼である2人の画家のモデルを正式に引き受ける事になった。
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「では始めさせて頂きますね。貴方の性別や身長……目や肌の色等という基本的な情報は前もってご提出頂いたプロフィールシートで確認済みです。暗記するまで読み込んでいますからご安心下さい」
弟子の前に座らされた俺は説明を受ける。
依頼を受けた時画廊から送られてきた書類にはプロフィールシートなる物が入っており、俺は事前にそれを記入し送付していた。
要はそこで記載した髪の色など基本的な事は改めて言われなくとも分かってる、と念押しされたらしい。
「平さんは画廊で描かれるのは初めてということですので、今日は貴方の普段らしい部分を描かせて頂きたいと思います。貴方が経験された冒険の一幕等を描いても良いのですが、そういった絵はやはり自分自身の描かれ方を知ってもらってからの方が良いと思いまして」
「そこは皆さんが専門家ですから、お任せしますよ」
「ありがとうございます。では平さん。貴方は一体どんな人か、私に教えてください」
「え?」
「ああ、説明が必要でしたでしょうか? 我々画家は、そういう人種……ともいえるほど想像力を大切にする人が多いのです。今この目隠しを解いて貴方を完璧にこのキャンバスへ生き写すことは正直容易いのですが、それでは意味がありません。貴方の声、仕草の音、アニマや仲間達との会話から垣間見える人柄……そういった部分から目には見えない貴方らしさをここに描き出す事こそ、私達の至上の喜びなのですよ」
確かに言われてみれば、彼の目はこちらからも見えないが、その微笑む口元やや息づかいから優しいタレ目であるような想像が働く。
「勿論自分が気になっている身体的特徴は必ず教えてくださいね? 目の下のほくろとか、過去に負われてしまった傷とか……ちなみにですが師匠はメガネフェチなので、きちんと言っておかないと勝手に似合うメガネを想像されちゃいますよ」
俺は自身の顔を思い浮かべる。
かなりのナルシストでもない限り自分の顔を完璧に思い描ける人は稀だろう。
だが自分の目立つ特徴は美術の成績がいつも『もう少し頑張りましょう』だった俺でもよく思い出せる。
例えば俺なら、この骨でも入っているかのようにせり立つアホ毛なんかは正直気に入ってる。
でも思春期らしく顔に出てしまったニキビは大きなマイナスポイントだ。こんなものをもしかしたら末代まで残る絵画に描かせるわけにはいかない。
いざスタートというその時、彼自身が言ったこととして『画家との出会いは一期一会』だという。
想像の波長が合わなければ、どんなに技巧を凝らした作品であってもモデルは違和感を感じてしまうんだそうだ。
でも俺は妙な確信を持っていた。
俺が任せたこの人はきっと素晴らしい物を仕上げてくれると!
そこからは沢山話をして、楽しい時間が過ぎた。
最初は顔の向きから姿勢まで、俺の世界ではおよそモデルが説明するのか? と思うような話から始まり、次は服装やアクセサリーの話をした。
アニマがアクセサリーの思い出話をはさんできたりなんかして、自分の気持ちや考え方なんかも話しただろうか。
長いようで短いような、一週間以上のようで実際は一瞬のような不思議な時間を経て、俺はモデルとしての仕事を果たしたのである。
解説
以下、解説といいつつほぼ『マスターより』の内容になってしまった解説になります。
個人的目線であることをご了承の上お読み下さいませ。
この世界が出来ておよそ5ヶ月、皆様仲の良いPCが出来たり思い出に残る一幕はありましたでしょうか?
頂戴したプランを見てみると【○○】というようなGAを組んでいる方や、自由設定が以前より深まった方、姉妹の契りなど深い関係を構築された方まで! 少しずつこの世界での関係が深まっている人が増えているような印象を受けております。
PBWはそのゲーム形式上どうしても最低限人との関わりは発生してしまいますので、どうせならそうした交流をとことん深めて頂いた方が、平のような明るい人生になっていくのかと思います。
(勿論明るいだけが人生ではありませんので、楽しみ方は他のPCに非常識な迷惑をかけない範囲で人それぞれです)
運営チームの方からはIL様へのラブコール機能は鋭意製作中と伺っております。
今後この世界での交流をより楽しくしていくためにも、まずは一枚貴方の姿を形にしてみてはいかがでしょうか?
さて本題ですが、今回皆様は平凡同様に画廊へモデルとして呼ばれたところから始まります。
あくまでモデルですからあまり激しい動きは出来ませんが、プランに何を書くかは基本自由です。
アニマと楽しくおしゃべりするもよし、自身の服装や外見を事細かに書くもよし。
イラスト発注文の練習とでも思っていただければ幸いです。
こちらで性格や印象等、文章によるPCの味付けをしてお返し致します。
やってみて【これは違う】と感じられれば、ここでの出来事はそっと胸にしまって頂ければ幸いです。
GM一同、盛り上げようとこのリニューアル後からはかなり本気を出しつつ頑張ってきたと思っております(勿論サービスインから全力でやらせて頂いておりましたが)!
もし宜しければ、一緒に世界を創り上げる皆様のお顔を拝見させて下さいませ!
ゲームマスターより
プロローグに興味を持って頂きありがとうございます。
私のエピソードに関する注意点は個人ページにございますので、お手数ですがそちらをご覧下さい。
PBWは自身のキャラクターが『意外な』成長をしていくのも魅力の1つ!
特にイラストは担当者によって独特な変化をしますので、是非最初の一歩を踏み出してみませんか?
ちなみにGM側でもエピソード毎に、プラン確認画面から提出時皆様がセットされていた【アイコン、バストアップ、全身図】が見えております(なので常に水着を装着されている方とかもいらっしゃいます)。
文字数等の要因からプランが不採用になった方の描写を深めようと、アドリブでイラスト情報を描写することも。
アホ毛が立っていればコメディエピソードでは大活躍?!
なんていうのは冗談ですがアドリブをどうするかの判断には意外と絵が関わっている事が多いのも事実です。
それでは、リザルトにてお会い出来る事を楽しみにしております。
想像の輪を結んで エピソード情報
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担当 |
pnkjynp GM
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相談期間 |
3 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/10/30
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
なし
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公開日 |
2017/11/09 |
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・行動? 画廊でモデルをする事に。静かに座って、なるべく動かない様に。(外見・服装等は下記) (※PC・アニマ共に、アドリヴ大歓迎) ・全体的に 優しげな眼差しの魔族種の青年(外見は、汎用種寄り)。ほぼ生身。 髪は、肩甲骨下くらい迄伸ばした……ロングとセミロングの中間的な感じ? どちらかと言うと、切りに行く時間が在ったら、他の事(研究とか、文献調査とか)する って感じで……伸びるに任せて、伸ばしておいた様な感じで……手入れは最小限にだけ。 ・服装 公式の、男性用事務服(1)をベースに……論理物理学者系っぽい感じのアレンジを 加えた様な感じに。ハッカーらしく、何か小さな入力端末みたいな物を携行している
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(画家へ) 気を使わずに普通に描いてもらって大丈夫ですよ スピカは普通に可愛いですから(にっこり) (スピカへ) 自分の顔を説明するのって難しくない? お互いに見慣れている相手が説明した方がやりやすいと思うんだけど 顔の事、もう少し褒めてくれたらうれしいのにな じゃあ今度は僕の番……ちょっと顔こっち向いてくれるかな 触れることはできなくてもそっとスピカの頬の位置に手をそえて じっと彼女の顔を見つめながら説明 だって、普段はスピカ上から目線だし(浮かんでても、きちんと立っていても身長差あり) たまには目線を合わせて見てみたいと思ったんで♪ 今はまだ身長は足りてないけれど、 でも身長ならすぐに伸びるから……覚悟していてね
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参加者一覧
リザルト
●真実を求め続ける者にこそ、優しい光が降り注ぐ
「それでは、今日は宜しくお願いします」
【Truthssoughter=Dawn(トゥルーソウター ダーン)】は、落ち着いた声でそう挨拶をすると、用意されたイスに座り込む。
彼の傍らにはアニマである【lumiere=douceur(リュミエール ドゥサール)】が付き従っていた。
「はい、こちらこそ宜しくお願いしますね。今日はモデルを引き受けて下さりありがとうございます」
今回トゥルーソウターを担当する画家もまた、挨拶と共に深くお辞儀をする。
当初この依頼を受けた際、トゥルーソウターは変わった依頼だと感じていたがその感覚は間違いではないらしい。
何故なら眼前に映る画家の顔には目隠し用のタオルが巻かれており、こちらの様子を伺い知ることはおよそ出来そうにないからだ。
「あはは。やはり不思議に思われますか? モデルまで呼んで絵画を書くのに、目隠しをしているなんて。先程も平さんという方の絵を一枚書かせて頂いたのですが、その方も最初は戸惑っておられる御様子でしたし」
「……これはこれは。凄いですね。僕はまだ挨拶しかしていませんが、何を考えているか分かるものなのですね」
「勿論完璧に分かる訳ではありませんけどね。こうして目を塞いでいると、他の感覚は研ぎ澄まされている気がします」
「なるほど」
「それでは、作業にかからせて頂きます。こちらから色々と話しかける事もあるかと思いますが、気に障らない程度にご返答下されば幸いです」
「分かりました」
トゥルーソウターの返事にうなずくと、画家は鉛筆でアタリを書き始める。
「トゥルーソウターさんとお呼びしても?」
「ええ。構いませんよ」
「ありがとうございます。今は座っておられますよね?」
「はい。今回はこのまま座った姿勢で描いて頂ければ」
「かしこまりました」
今回トゥルーソウターが描かれるのは全身の肖像画。
背景などの書き込みはないが、イスや小物などはその対象に含まれる。
画家はアタリをつけ終えると、詳細を書くためトゥルーソウターとの問答を続けた。
「貴方の身長は185cmと記憶しておりますが、男性の中でも中々大きい方なのではないですか?」
「そうですね。僕がデモニックという事が関係しているかも知れません」
「ああ、なるほど。では今回のお召し物も露出は多めで?」
「いやいや、僕はそう肌を晒したがる訳ではありませんよ。着ている服は、そうですね……リュミエール、こういった服はどう言えばいいと思う?」
(う~ん……一応売り場では事務服と紹介されておりましたが、執事服と言った方が良いかと思うのでございます!)
「分かった。ええっと……男性用事務服だけど、執事服風? だそうです」
「ふふっ」
「どうされました?」
「もし宜しければ、貴方のアニマ様もオープンモードで会話に参加して頂いても宜しいでしょうか。その方が話も盛り上がるかと思いますよ?」
リュミエールは指示を仰ぐように主人へと視線を向ける。
トゥルーソウターが許可を出すと、彼女は自身をオープンモードで起動させる。
「えっと……こほん。き、聞こえますでしょうか?!」
「よく聞こえてますよ。ありがとうございます。どうやら服飾に関しては貴女様の方が詳しそうでしたのでその辺りをお伺い出来ればと思います」
「そ、そんな! あたしなんかより御主人様はずっと物知りでございまして、ちょっと髪とかは放置しがちなんですけど、それでもこう、大人の男の人~……みたいな~、お兄ちゃんみたいな包容力があって、その~……ううぅ! 上手く言えないのでございます~!」
「大丈夫、落ち着くんだリュミエール。……うん。まだ時間はたっぷりありますよ。ゆっくり自分の言葉で画家さんに話してください」
彼は折り畳み式の入力端末で時間を確認すると、慌てふためくリュミエールを優しく諭す。
その会話を画家は熱心に聞き込み、絵に落とし込んでいく。
「やはりリュミエール様に出てきてもらったのは正解でした。それにしても、可愛らしいアニマ様ですね。顔が赤らむ様子が目に浮かびます」
「基本的にはしっかり僕のお世話をしてくれているのですが、意外と抜けてたりすることも多くて……まぁそういったところや、こうして何を考えているのか分かりやすいところは、リュミエールの立派な個性だと思っていますよ」
「わわわっ?! そ、そんなに褒められると照れてしまうのでございますよ~!!」
ちょっと解釈がズレているリュミエールを彼は優しく見つめていた。
それからしばらく会話を続け画家は線画を完成させる。
「一度確認して頂けますか?」
そこには、柔和な表情で傍らの空間に何か語り掛けるようなトゥルーソウターが描かれていた。
服は上下のスーツにベスト、装飾はボタンのメッキなど最低限に抑えられ落ち着いた大人としての印象が感じられる。
見ていない状態でもここまで描けるものなのかと、トゥルーソウターは感動していた。
「髪は先リュミエールさんのおっしゃられた長めのセミロング調に、イス以外の装飾品は入力端末を記載させて頂きました。それと先程デモニックでいらっしゃる話を致しましたが、何か魔力を高めるような指輪や、魔族としての身体的特徴など、描写が抜けている部分はありませんか?」
「大丈夫ですよ。私は自分自身に宿る魔力というものを大切にしたいと思う部分がありまして……魔装化など肉体を変質させるようなものはしていないのです」
「あっ、でもご主人様の牙が抜けているのでございます! ここなのでございますよ!」
「リュミエール、場所は正確に言わないと。ですが私も指摘するのを忘れていました。左上歯の部分ですね」
画家は口元から覗かせる歯を小さな牙に書き換える。
これはヒューマン種に見える彼が、悪魔族である数少ない証明の1つでもあった。
「それと、ご主人様が持ってない書物を膝に抱えているのでございますよ?」
「ああ、そちらは私個人が『目を塞いだことで見えた』ものを書かせて頂きました。トゥルーソウター様はアカディミアの職員向け居住区で、学院所属の物理論・論理学の学者として生活されている事。またリュミエール様へ落ち着いた口調で何をすれば良いのか導くように話されていた事。これらから、リュミエール様にトゥルーソウター様が難しい本の内容を語り掛けるようなシーンを想像で描かせて頂きました」
トゥルーソウターはこれまで自宅で幾度も研究した内容を彼女に語り掛けた事を思い出した。
画家は更に言葉を続ける。
「理知的に……ですが人としての想いを持ちながら真実を追い求める者と、それに見守られるお日様のような柔らかい暖かさを発する者。私にはお2人がそのような存在に感じられました。老婆心で申し上げますが、もしこの感覚が間違いでないのなら……トゥルーソウター様。見守っているつもりでも、いつもリュミエール様の光が貴方を照らしてくれている事を忘れず、大切にしてあげて下さいませ。リュミエール様は貴方の中で唯一貴方でない部分なのですから」
画家の指摘にうなずくトゥルーソウター。
勿論リュミエールの事はとても大切に思ってはいたが、彼はその想いがより深まっていくのを感じていた。
リュミエールも自身が太陽に例えられたことが嬉しかったのか、赤い完熟具合が高まっている。
その様子を感じ取った画家は、色を塗る作業へと移った。
「そういえば、リュミエール様も瞳の色が左右で異なっていたのでは? そこもお2人の繋がりなのかも知れませんね」
プロフィールシートには、アニマの基本的な情報も含まれている。
色がついたトゥルーソウターの肖像画はこれで完成でもあるのだが、その絵を見ながらリュミエールはもじもじしていた。
その様子にトゥルーソウターは再度入力端末を開く。
「すみません、宜しければリュミエールも隣に描いては頂けませんか?」
「私はそれでも問題ありませんが、お時間は大丈夫ですか?」
「ええ。本来は時間のある限り研究するのが学者という職業。ですが……たまにはこうしてゆったりと時間を使う事も、良いものだと感じられましたから」
「うわぁ~~ぃ! お兄様、ありがとうございますっ!!」
外では御主人様と呼ぶように心がけているリュミエール。
そんな彼女がつい時々呼んでしまう呼び方が、つい飛び出る。
そんなちょっとおとぼけな太陽を、優しい悪魔は微笑ましく見つめていた。
●覚悟の象徴
「僕らの事は気を使わずに、普通に描いてもらって大丈夫ですよ」
自身を担当する画家に【羽奈瀬(はなせ)リン】はそう告げる。
彼はまだ若干12歳であるものの、両親の他界から羽奈瀬家を継ぐこととなった現当主だ。
彼の家は代々からくり細工の箱等を作ってきた名家として周辺地域では知られており、先祖代々その当時の当主を描いた肖像画、当主画を飾る習慣があった。
そのため、彼は今回の肖像画を自身の当主画に使おうと考えていたのだ。
「わわ、分かり、ました……あ、ありがとう、ございます……」
リンの言葉に感謝を述べる女性画家。
しかしその声からは少々気弱そうな印象を受ける。
恐らくいきなり当主画を担当する事となったため、緊張が抜けきらないのであろう。
リンは、なるべく彼女の緊張を解くよう会話を多くする事に決めた。
(ちょっとリン、なんで座らないのよ?)
画家は恐る恐る背景やイスを描き始めていた。
だがリンは用意されたイスに座ることなく、何故かその傍らに立ち続ける。
その不自然な様子に彼のアニマである【スピカ】は問いかけた。
「なんでって……この肖像画を『僕ら』の肖像画にしてもらうためだよ」
彼はそういうと、オープンモードでスピカを起動させイスに座るよう促した。
「私がイスね。それじゃ……ってそれじゃまるで私が肖像画の主役みたいになるじゃない!」
「ふふっ。心配しなくて良いよ、スピカは普通に可愛いから」
そういう問題ではない! 一体リンは初っ端から何を言っているのか……
恥ずかしさに照れつつ抗議してみるものの、リンに押し切られる形で、今回はスピカがイスに座る事となる。
勿論スピカはアニマであるから、あくまで座っているイメージ……となるのだが。
「では……お2人の立ち位置が決まりましたので……お互いに外見の特徴や……印象などあれば……お、教えて頂けますか……」
「印象ですか……そうだ、ねぇスピカ。良かったら僕の事、画家さんに説明してくれないかな?」
「えっ!? 私?!」
「そう。だって自分の顔を説明するのって難しくない? お互いに見慣れている相手が説明した方がやりやすいと思うんだけど」
「わ、分かったわよ……」
彼女は自身の右側に佇む主へと目を向ける。
以前に依頼とは別に通常の肖像画を書いてもらった時よりも、髪は少し伸びてロングヘアーとなっていた。
服装は正装という事もあり、ジュニア向けのタキシードを着ていた。
胸元には彼が大切にしているアクアブルーの宝石が煌めいている。
(顔を説明って言われても……え、えーと……目は青色でしょ? あ、でもそれは分かってるんだっけ? 後は鼻が1つに口も……ってそんなの当たり前だし?! あーもうどうしよう~!!)
スピカは頭をぶんぶんと振り回す。
顔を説明しろと急に言われても、色々と語彙が思いつかず言葉にならない。
その様子にリンは微笑むと、スピカに声をかける。
「そんなに難しく考えなくてもいいのに。それとも、僕の顔じゃつまらない?」
「そ、そんなんじゃないわよ! リンはその……綺麗な顔してると思うし……たまにイジワルだけど優しいし……だけど、それをどういったら良いのか……」
「それで良いんですっ!!」
ビクッとなるモデル2人。
それは先ほどまでおどおどしていた画家から発せられた声であった。
「お2人の事! 見えてきましたからぁ……もっとお話聞かせて欲しいのです……これまでの思い出とか、感じた事とかぁ……うふふふふ」
どうやら画家の中では何かスイッチが入ったようだ。
「思い出? 思い出……」
スピカは言われた通り思い出を語ろうと記憶を辿る。
思えば、リンとスピカの付き合いは2年ほど前に始まったばかりだ。
だが、その短い期間でも思い出はたくさん生まれてきた。
一緒に裏山に桜を見に行ったり、エスバイロで飛び回ったり、行方不明の子供を探した事もあればトレジャーアイランドにだって行ってきた。
他にも変な空賊の対応のためにほんのり酔っぱらってしまった事もある。
そのどれもは、2人でいたからこそ乗り越えられた困難であり、2人だけの大切な思い出でもあった。
どんな場所でもどんな時でも……
「リンは……まだ子供なはずなのに、頼りになるところはあるし、余裕もあって……だから、その……」
彼はいつも彼女に前向きな笑顔を浮かべていた。
それは出会った頃の悲しみを感じさせない、優しい微笑み。
幼さの中に垣間見える当主としての自覚。
それを言葉にまとめるならば……
「笑顔が……凛々しくて優しい人……なのかな。うん。そんな感じ」
「へぇ……僕の事、そう思ってくれてるんだ」
「はっ!? 私ったら!?」
普段、その性格的な面から素直に褒める事の少ない彼女。
スピカはリンに言われる事で己が如何に恥ずかしい事を口走ったのか気づかされる。
顔はみるみる紅潮し、耳まで赤く染まってしまっていた。
「ありがとスピカ。じゃあ今度は僕の番……ほら、顔を見せてよ」
リンはスピカの頬へ手を伸ばすと、じっと彼女の顔を覗き込む。
その手は決して彼女に触れる事はないが、スピカは自身の頬が熱くなる感覚を感じていた。
「スピカは……本当はすっごく綺麗な人だと思います。白くて長い髪はいつもキラキラと輝いていて……燃えるような朱い瞳は、吸い込まれてしまいそう……ずっと見ていたくなります。スタイルも良い方だと思いますよ。僕の自慢の人です」
(ちょ!? ちょぉぉ!? なんでそんなに真っ直ぐこっちを見るのよ、なんでそんな恥ずかしい事をさらっと言えるのよ~!!?)
リンは迷いなく言葉を紡いでいく。恐らく普段からずっと思っている事なのであろう。
そのストレートな言葉と視線に、スピカの心はざわつき顔は更に色づいていった。
「でも、一番僕が好きなのはこの性格なのかも知れないです。羽奈瀬家当主のアニマではなく、羽奈瀬リンのアニマとして生きていてくれる。これ以上素敵なアニマなんて、この世にはいないと思いますよ」
「ああ~~ぁぁぁ……良いです、良いですよぉ~! 甘い春の香りがぷんぷん致しますぅ~!!!」
「も、もうやめてぇぇぇ……!!」
~~~
それからしばらくして、肖像画は完成した。
その帰り道、2人は夕日に照らされながら絵の出来を振り返る。
出来た肖像画には、イスに座るドレスを纏ったスピカと傍らに立つリンが描かれていた。
羽奈瀬家はからくりを扱うのが専門である事もあって、当主画にアニマも描かれるケースもあるにはあるが、こうしてアニマがイスに座っていたり、2人が互いを見つめ合い笑顔を向け合う構図は異彩を放っていた。
「中々良い絵になったね。スピカのおかげだよ」
(もぅ。私はなんかこの絵がすっごく恥ずかしい……って)
隣を歩く主人はこちらを見上げながら話してきた。
2人はかなり身長差がある為、スピカが空中に浮遊せず立っていたとしてもリンが見上げる形となるのが普通である。
しかし絵を見てみると、スピカががイスに座った事により目線が同じ高さとなっていた。
(そっか。今日はリンがすっごく近くに見えたのは、目線が同じだったから……な、まさか!?)
「うん。だって、普段はスピカ上から目線だし……たまには目線を合わせてみたいと思ったんで♪」
(か、かわいこぶったって誤魔化されないんだからっ! もうぅ~~!!!)
こうして、普段以上にスピカがリンを意識してしまった『からくり』は解き明かされた。
流石は羽奈瀬家当主である。
「あはは、ゴメンゴメン。でもね……僕は本当にこの絵が気に入っているよ。先代達の様に威厳を感じる当主画じゃ無いかもしれないけれど……羽奈瀬リンは僕1人じゃない。スピカが居てくれるから、一緒に笑い合ってくれるから、僕は羽奈瀬リンとしてやっていけてるんだろうと思ってる。だから……スピカ。これからも宜しくね」
……ズルい。
それが彼女の正直な感想だった。
「あ、それと今はまだ身長が足りてないからこんな感じだけど、でも身長ならすぐに伸びるから……覚悟していてね?」
(か、覚悟ってどういう意味っ!?)
「う~ん……内緒、かな」
そういうとリンは走り出す。
いっちょ前に内緒だなんて、やっぱりリンは『ませお坊ちゃま』だ。
スピカは改めてそう思うと大切な主人の後を追った。
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「うふふふ……素敵なお2人、御馳走様でしたぁ~……それにしても、私ったら当主画なのにちょっとレトロな結婚写真風にしちゃったけど……大丈夫だったでしょうかぁ~……?」
首をかしげる彼女が、画家として才能を積んだ頃。
男女が逆転した当主画を描く日がやってくるのかも知れない。
依頼結果