闇の先を覗く者pnkjynp GM) 【難易度:難しい】




プロローグ



旅団進路上にある黒い靄を調査せよ。
 上司の命令を受け、調査団を率いる【シトー】は溜息を隠せない。

「はぁ」
「シトーさん?」
「あぁ、何でもないっすよ。航路の維持、宜しくっす」

 シトー達の乗る小型飛空艇には、総勢8人の調査員が乗船していた。
 船は順調に航行中。後20分もすれば目的地に到着するだろう。
 目的は言うまでもなく。数時間前に出現した黒い靄を調べる事。

(黒い靄、黒い霧……そして【アビスの闇】の残滓とも呼ばれるそれは、この世に訪れる破滅の瞬き……誰かがそんな事言ってたっすかね)

 情報旅団テストピアに所属している彼だが、決して軍人という訳ではない。
 どんな事も知っておきたいという市民のニーズに応えるため、テストピアでは民間企業がこうした調査に赴くこともある。
 彼はそんな情報流通を生業とする中堅企業の主任職だ。
 だがその肩書も名ばかりで、裏の名前は雑用管理責任者。
 こういった微妙に危険だが、素人にも任せられるような面倒くさい仕事をいつも押し付けられていた。
 
(通常アビスの闇は、突如空に現れ水平方向に広がりを見せる。しかし何が理由か、その広がりは数分で姿を消し、残された黒い靄もまた、時間と共に空の光へ溶けていく……ってはずなんすけどね)

 今回彼が調査に派遣されたのは、闇の靄が既に一時間以上もその姿を留めていた事が理由だった。

「やっぱりこれって……特ダネになっちゃう感じですかね?」

 目的地も近づいてきた頃、そわそわとして落ち着きのない新人社員が話しかけてくる。
 仕方なくその質問に応えるシトー。

「ならないっすよ。……どうせ今回も、すぐ消えるに決まってるっす」
「シトーさん冷静ですね。オレは間近で見るの初めてなんで、結構興奮ものです!」
「あら、おたくアビスメシア信者っすか?」
「そういう訳じゃ! なんていうか、空の底から噴き出た闇の先……その深淵に我々は終焉を見たっ! とか、面白そうな見出しになりません?」
「そんな楽しいもんじゃないっすよ。大体、今回の靄はせいぜい直径3m級。大きさは大したことないっす」
「え~。つまんないですね。あ、ていうか今大きさと大した、掛けました?」
「どーでも良いっす」

 彼は再度溜息をつく。
 ずっと同じ場所で生きてきた彼は、勿論生粋のテストピア人だ。
 情報には敏感で、溢れる山から必要な物を取捨選択をし、自身の考えに基づいてそれを使いこなす。
 だからこそ、分かっている。何が無駄で何が無駄でないのかを。
 せっかちを極めた先に、面倒な回り道は最初からしないという答えへ彼は行き着いていた。

「じゃあ、あっしは奥で寝てるっすから、是非その興味を生かして密着取材をお願いするっすよ」
「ええ!? シトーさん、調査の責任者じゃないですか!」
「そうっすね。だからあっしの仕事は責任を取ることっす。あっしはおたくらを信じてますから。頼むっすよ」
「……これは自主性を試しているんですね! その信頼にオレ、こたえて見せますっ!」

 そう言うと新人は、元気よく走り去っていく。

(信頼じゃないんすけど……前向きっすね~……)

 そんな様子を横目で見送りながら、彼は責任者に与えられる艦長室へ向かう。
 




 椅子を倒し見上げた天井に問いかけるシトー。

(黒い靄……仕事柄色々見てきたっすけど、やっぱ民間じゃ限界があるっすねぇ~…)

 彼は目を閉じると、本格的に思考をまとめ始める。

(現状の通説では、七大旅団は50年前に発生し拡大するアビスの闇から逃げ続けている。この闇を避けなければいけない理由は、一度靄に捕まると船のエネルギーを抜かれ動けない状態にされてしまい、その後ゆっくりと溶かされてしまうから……らしい。しかし旅団としてもオーパーツ的過去の技術を用いて浮かんでいる以上、高度を上げて避ける事は厳しい。だがこのまま水平に逃げ続けていても、いつか追いつかれる恐れがある。この危機を根本から打開するためにも、どんな無駄な情報も積み重ね精査すべき。それが世間一般の考えだ。……けれどもう数えきれないほど昔に生まれたこの闇は、今なおその性質の殆どを、謎というベールから覗かせはしない……果たしてこんな状況で、我々が努力することにどれだけの意味があるのか……やはり疑問は拭えない……っすね)

 そう。この世界には分からない事が多すぎるのだ。
 旅団の事、迫りくる脅威の事、自分達の辿り着くべき未来。
 それを探していくのは本職に任せればよい。
 自分自身はしなければならない仕事を、ただ命令通りにこなしていれば良いのだ。

 目を開ければ、先程よりも少しだけ、部屋の中が薄暗く感じられた。
 不思議に思った彼は、窓へと視線を移す。

(あれは……【オーピム】!)

 オーピム。空間の狭間に住むと言われる謎の生物。ヴァイレスの一種とも噂される者。

(何でこんなところに、事前調査じゃ見つからなかったはず……?!)

 彼は急いで艦長室を飛び出し、船体中央部の管制室へと飛び込んでいく。





「皆さん、状況報告お願いするっす!」

 叫ぶような彼の声に驚きつつも、乗員の1人がそれに応じる。

「目的の靄までは残り20m。データ搾取可能エリアに丁度到着ですよ」
「オーピムは?」
「周辺に複数体確認できます。事前情報では確認出来ませんでしたが、非覚醒状態ですから今のところ危険は無さそうですけど……」

 オーピムは、例えるならば細菌が数メートル台に巨大化したもの、と言ったところだろう。
 普段あまり目撃される事はないが、こうした現場では稀にその姿が確認されている。
 目撃される場合、半透明の触れられない体を持った非覚醒状態、かつ空をふわふわと漂っていることが多い。

「調査は中止。今すぐ反転し靄から距離を取って下さいっす!」

 だがもし、一度でも覚醒し実体を持ってしまったら。
 物理的接触が可能となったそれは、好戦的となり触れた物体を溶解し取り込む悪魔と化す。
 こうなってしまえば、なんとかしてオーピムから生き延びなければならない。
 かつてオーピムに襲われた人間によると、数本触手のようなものを飛ばしてくること、実体の中心部にある核のようなものを攻撃すると怯んだことが報告されている。

「待ってください、既に調査の為エスバイロに搭乗した2名が靄へと接近中です」
「……ちっ!」

 彼は舌打ち混じりに溜息をつくと、部屋から飛び出そうとする。

「シトーさん、どちらへ!?」
「2人を迎えに行くっす。乗員全員へ持ち場でバリケードを作るように指示。それからデレルバレルに連絡。探究者に救援依頼を出して下さいっす!」 
「わ、分かりました」

 それだけ言うとシトーは走り出し、彼の指示の下、乗組員達も慌しく動き出す。

(普通ではない靄に感知出来なかったオーピム……何かある!)

 彼は、船に備え付けられた調査用装備を手早く身に着けると、エスバイロへと乗り込む。

(ルクス力場発生装置、抗アビス薬、追加用の液化フラグメント。これでやるしかないっすね)

 管理職の責任として、情報を求める一市民として。
 彼は覚悟を決めると、勢いよく飛び立つ。
 そしてそれを向かい入れるかのように、黒い靄は突如巨大化を始めるのであった……。
 






 貴方達が依頼を受け目的地へたどり着いた時、全長15mの調査船をも飲み込んだ靄は、不気味にその浸食を広げ続けている……。

 果たして、調査団を救うことは出来るのだろうか。



解説


 情報旅団テストピアにスポットを当てたエピソードです。

 黒い靄は楕円形に広がり直径90m級に成長しています。
 皆様には靄の中で救出作業を行って頂きます。



 共通装備として

  ・探究者同士位置が分かり連絡を取れる通信機

 が貸し出されます。 

 

 目標は調査団の救出、1人でも助けられれば成功となります。



 調査船は反転した状態で靄円周から10mの位置にて捕まっています。
 船内の5人は以下の持ち場で墜落を阻止しています。

 ・船体中央部管制室(2人)
  ここは船内で最も装甲が固いですが襲われれば墜落は免れません。
  船内の情報アクセスや警備等のシステム管理はここからのみ可能です。
  
 ・船体後部エンジン室(2人)
  燃料を携帯用タンクへと移し替えています。この作業は彼らでしか出来ません。
  燃料が残っている状態ならばここを爆破することが出来ます。
  
 ・船体上部見渡台(1人)
  ルクス力場発生装置という器具を使い、アビスから体を守り敵の侵入を阻止しています。
  この力場は数mの範囲で効果がありますが、未だシステムに問題があり故障の危険があります。



 靄の中心付近にはシトーを含む3人が捕らわれていると推測されます。
 
 オーピムは事前情報では5体です。

 黒い靄への対抗手段は今のところありません。
 靄の中に長時間いるとアビスに感染してしまいます。
 抗アビス薬を飲めば事前予防他、2粒で軽度感染を治療可能です。 



 今回のみ皆様のエスバイロ燃料を満タン状態で7Eとします。
 靄内部ではエスバイロもエネルギーが吸収される為、以下の事象によりEを消費します。

 ・靄の中を10m進むのに2E
 ・停止中は一定時間で1E
 ・火器機能使用で1E
 ・高速戦闘、高速移動で3E

 残量を意識しながら行動して下さい。



 またテレルバレルから探究者共用で

 ・追加用燃料タンク(7E入、1E毎に補給可)×4
 ・ルクス力場発生装置×2
 ・抗アビス薬30錠

 が支給されます。



ゲームマスターより


 プロローグに興味を持って頂きありがとうございます。
 私のエピソードに関する注意点は個人ページにございますので、お手数ですがそちらをご覧下さい。


 リニューアル大攻勢、私の二本目のエピソードはシミュレーションゲーム的な発想でご用意致しました。
 本来調査団はこのまま全滅コースですが、皆様の力で1人でも助け出して頂ければ幸いです。

 また今回はHPが無くなる以外にも、Eが無くなり、靄の中からPCが脱出不可能の状況になると強制帰還となりますので、対処用意のない確定ロール等は危険です。
 よく既存の情報をまとめて、協力プレイでクリアしてやるぜ! という感じで遊んで下さい。

 このエピソードでは、PCのステータス差はあまり意味を成しません。
 (プランによる補正を強めにかけております)
 ですのでpbw初心者の方も、のとそらの世界は今回が初めてという方も大歓迎です!

 それでは、リザルトにてお会いできることを楽しみにしております。



闇の先を覗く者 エピソード情報
担当 pnkjynp GM 相談期間 6 日
ジャンル 冒険 タイプ ショート 出発日 2017/10/5
難易度 難しい 報酬 通常 公開日 2017/10/14

 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
心情
アビスの闇かーマッドドクターとして何か助けになるようなことがあるといいんだけどー
人に感染するっていうし、抗アビス薬もあるんだからサンプルが増えれば、もっと助かる人も増えそうだよね
余裕があったら、調べてみたいなー

行動
前もって役割分担されていた通り、船体上部見渡台に救助に向かうよ!抗アビス薬を1粒服薬して出発だー!
位置的には10mの位置だから、最低4E必要でー救助中の時間も1E消費するから…うん、問題ないね
力場はいつ故障しても可笑しくないから、なるべく早く助けに行かなきゃ
救助が終わったら、靄の調査だね!それと帰ってきた人たちのエスバイロが壊れていたら【ナノ・エイド】で修復かな。直るといいなー
 online  ( sample
 デモニック | 魔法少女 | 17 歳 | 女性 
④靄中心
抗アビス薬1錠服用と4錠携帯
燃料タンク2つ満タン携帯
中心までの最短ルートをアニマに解析
ルート上に調査船があれば補給
靄の中では定期的に感染症状がないかどうか確認 他の人のも観察し教える

シトー以外の調査船員2名の名、特徴を調査船の探究者から報告
名を叫び探索
未覚醒のオービムは警戒し覚醒オービムは基本回避
覚醒オービム発見次第位置情報共有
避けられない時は距離を取り「きゃるーん☆テンペスト」で他の探究者からコチラに引き付け
「まじかーる☆プロージョン」で怯む様なら「ぴかりん☆サンダー」の攻撃型
調査船員見つけ次第薬投与
他の探究者とフォローしながら
発見できない場合最短ルート分の残量になったら離脱
 サヤ  ( キリエ
 エルフ | スナイパー | 18 歳 | 女性 
船体中央部管制室へ。
アニマに船体の情報を把握させつつ、迅速な行動と対応を心掛ける。

可能なら此処で把握した情報を逐一通信機にて報告。
襲われる危険性を少しでも避けたいので、上手く行くならアニマに管制室から分かる範囲で敵の動きを察知出来るか頼む。
また、警備システムも応用出来る事がないか模索したいです。
 アクア=アクエリア  ( フォブ
 フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性 
【目標】
乗員全員の救出

【事前に】
巻取りウインチ付きのワイヤー(50m)、ウインチ用バッテリーを用意
抗アビス薬を各自1錠服用
乗員用5錠を調査船班に、残りは中心班に

【調査艇救助】
エンジン室班
まず乗員に抗アビス薬服用を確認
未服用なら備付け薬か共用品を1錠ずつ飲ませる
シトー他2人の情報を聞き、靄中心班へ連絡
自爆用の燃料を残して携帯タンク化してもらい、エスバイロに最大量積んでおく

靄中心班の連絡を待ち、行動を選択

【靄中心班撤退成功】
そのまま、他の調査船班と乗員を連れて靄外へ退去

【靄中心班燃料不足】
仲間にエンジン室乗員2人を任せた後、靄中心班へ向かい通常移動
中間地点で合流後、燃料補給して靄外へ退去
 蛇上 治  ( スノウ
 ヒューマン | マッドドクター | 25 歳 | 男性 
【目的】靄中心にいる3名の救出
【事前準備】抗アビス薬を1錠服用しておく
靄の形を考慮しアニマに靄中心へ向かう最短ルートを検索してもらう
船組が持っていく分以外の残りの薬、燃料、力場発生装置を持っていく
【行動】仲間との連絡は逐一行う
靄中心へ向かう
移動は原則通常移動で行う
オーピムは避ける
避けられない場合は仲間に任せ救助に集中
こちらに来る場合は核へ攻撃
3人が見つかったら力場発生装置を使用しケガや汚染がないかをチェック
ケガしていたら治療し、汚染に対しては抗アビス薬を飲ませる
処置が終わり次第3人を分担してエスバイロに乗せてアクアさんと合流し燃料補給を行い離脱
靄組だけで離脱できるなら連絡し合流せずに離脱
 ロゼッタ ラクローン  ( ガットフェレス
 ヒューマン | ハッカー | 16 歳 | 女性 
テストピアに滞在していた理由=物資補給のバイト
以前エピソード【体の病と心の病】にそういう理由でアリシア・ストウフォースさんと一緒にレーヴァテインで参加したので。

<救出>
まず抗アビス薬を飲んで事前予防、メンバーとプランの確認

黒霧の中へ調査船へ向かって進行、船に搭乗し船体中央部管制室へ向かう

船のクルーと対話して理解を求め管制室よりシステムをオーバーチューン・ハッキング、システムの回復及び制御を司る

あとはチームからの指示待ち、指示通りに船を動かす、どう動かすかは状況次第

最後に、今回の普通ではない靄と感知出来なかったオーピムに、不安とともに「何かある」のか確認したいとも思っています。
 アイギナ  ( ルル
 ドワーフ | ハッカー | 31 歳 | 女性 
調査船の大まかな位置を調べる
船が霧の外側にあるのは霧に飲まれてからそんなに時間がたってないから
霧の広がる方向や形、大きさから推測できないか調査

薬2錠飲んで(念のため周りにも言っとく)船へ向かう(5e
船の装備を霧班と9eずつ分配する。あまる1eは蛇上さんに持たせる(レッドスプライトだから火器強そう)(14e
調査亭に残る3人から3eずつ貰う(17e
ルクス力場は1個だけにしたい(船体上部見渡し台のが壊れそう
1個で数mカバーできるなら充分、途中で壊れそうだけど
薬はがっつり
いざ救助!霧の中心へ(10e
救助(9e
オーピムはルクスで防ぐ、どうしてもなら自衛で火器を最低限だけ使用する。核を狙う
アクアと合流する
 エクセル=クロスワード  ( ソーラー
 ヒューマン | マーセナリー | 32 歳 | 男性 
序盤全機に通信機で飛行ルート指示。霧範囲外ギリギリから力場発生装置二台をオンにして全機を二倍拡大力場発生エリアに入れて船体上空から舟見渡し台にエスバイロのエンジンを切って重力落下着陸。まず故障している見渡し台力場発生装置をアニマを融合分析させて修理。他の力場発生装置は船体の他の場所に行く探究者に渡して手分けして救出後、三台にした力場発生装置を持って離れ、霧中心にいる要救助者に発生装置を持っていき助けて薬で応急処置し全員助けて船から力場発生装置三台分の範囲に守ってもらいながら全員脱出。

参加者一覧

 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
 online  ( sample
 デモニック | 魔法少女 | 17 歳 | 女性 
 サヤ  ( キリエ
 エルフ | スナイパー | 18 歳 | 女性 
 アクア=アクエリア  ( フォブ
 フェアリア | マッドドクター | 12 歳 | 男性 
 蛇上 治  ( スノウ
 ヒューマン | マッドドクター | 25 歳 | 男性 
 ロゼッタ ラクローン  ( ガットフェレス
 ヒューマン | ハッカー | 16 歳 | 女性 
 アイギナ  ( ルル
 ドワーフ | ハッカー | 31 歳 | 女性 
 エクセル=クロスワード  ( ソーラー
 ヒューマン | マーセナリー | 32 歳 | 男性 


リザルト


●闇照らす8つの光
 目前の重厚な闇に、【ロゼッタ ラクローン】は唖然とする他なかった。
 彼女と【アリシア・ストゥフォース】は緊急の依頼と聞いて駆けつけたのだ。

「丁度テストピアにいたから来てみたは良いけど……何なのよ、これ!?」
(依頼を聞いてなかったのかい? 私にはどうみても闇の靄に見えるが)
「なっ、それくらい分かってるわよ! 私が言いたいのはサイズの問題!」
(確かに興味深い大きさに成長している。だがむしろこの方がやりがいがあるというもの……如何でしょう? アリシア殿もそのように思われませんか?)

 ロゼッタの懸念を軽くあしらうのは彼女のパートナーである【ガットフェレス】。
 アニマながらとても男性的な振る舞いをするガットは、隣にいる女性へ紳士的に語り掛ける。
 その対象であるアリシアは右手を顎に添えながら、興味深そうに闇の先を見つめていた。

「オーピムも出ちゃってるらしいし、流石にちょっと不安かもだけど……その辺は考えても仕方ないよねー。とにかく頑張ってやるしかない!」
(もう! アリシアはいっつも勢いばっかりなんだから~! でもロゼッタ、きっと大丈夫! 今回探すのはお船だよ。前に探したお薬に比べればずっと大きいもん! きっと楽勝よ!)

 彼女もぴょんぴょん飛び跳ねるように話すアニマの【ラビッツ】も、不安よりやる気で一杯の様だ。
 かつて共に依頼をこなした仲間の前向きな姿にロゼッタの不安は薄れていく。

(ロゼ。其方はこの時代に生まれた以上、アビスとの邂逅を避ける事は出来はしない。なればこそ、其方の歴史が紡いだ絆で……必ずこの逆境を乗り越えていける)
(なによガット、さっきまで普通に喋ってたくせに急に念話でキザなセリフなんて……)
(それはすまなかったね。ではいつも通りにするよ。其方もスイッチを入れてくれるかな、ご主人様?)

 他の誰にも聞かせる事の無い、心にしまった秘密の会話。

「……上等よ! 解決した暁には皆で一緒に、カフェへでもしゃれこむとしましょう!」

 ついに笑顔を取り戻したロゼッタの背後には、【アクア=アクエリア】と【蛇上 治(へびがみ おさむ)】の姿が見えてきていた。

「すみませ~ん! お待たせしちゃいましたっ! えっとっと……」
「少々薬品の準備に手間取ってしまいまして」

 わたわたとせわしないアクアと、対照的なように冷静な蛇上。
 だが同じドクターとして調査員を救いたいという気持ちは同じだった。
 そこに【サヤ】と【online(オンライン)】も到着する。

「お待たせしました……『黄金の果実教』教団長、快楽と幸福のエキゾチストとは私の事です!!!」
「ワーパチパチー! ふひゅ~ふひゅ~」

 魔王のような黒いマントから腕を伸ばすと、エスバイロ上で遥かな空を指さし、サヤはビシっと決めポーズ。
 少年は大志を抱きたくなるようなその光景に、取り敢えずノリよく乗っかるオンライン。
 故意か本気か、とても上手とは言えない掠れた口笛がまるでサヤの周りを吹く風のようである。

「……ま、まぁ良いでしょう。この状況では『キモチヨク』などなれませんからね! 布教はこの事態を乗り切ってからです!」
「と、いうわけで。何か面白そうな人居たから拾ってきました! 私共々宜しくお願いしまーす!」
(ちょっとオンライン、拾ってきたなんて言い方……それじゃまるでサヤさんが捨て猫みたいだ。せめて猫ではなく人として扱いなさい)
「え、捨て猫? 私ネコ科なのです? このエルフ耳は食肉目のものなのです!?」
(サヤ……そのツッコミ? では貴女が捨てられている部分が承認されたままになるが、良いのだろうか……)
 【sample(サンプル)】と【キリエ】、各々の主人の自由奔放な振る舞いに頭を抱えていた。

「世の中、気さくな方々はまだまだいらっしゃいますね。これだから探究者は面白い」
「治さん、顔がいつもと変わってないよ!?」
「まぁ、私はアクアさん程表情筋が豊かではないのかも知れませんね。貴方や彼女のような面白い顔は出来そうにありません」
「確かに治さんのあんな表情は見た事ないけど……って、え?」
「冗談です。さあ皆さん、テレルバレルからの支給品を持ってきました。こちらホロピニンになります」

 蛇上から配られたのは抗アビス薬。各自1錠を服用し事前に通信で話し合った作戦を確認する。
 司会を務めるのは、ヤンチャっ子のわりに思慮深い一面も持ち合わせるアクアである。

「では調査船内救出班は、アリシアさん、ロゼッタさん、ボクと……サヤさん、良かったら手助けしてもらいませんか?」
「ええ分かりました! カワイイ女の子からの頼み、断る訳ないじゃありませんかっ!」
「うぅ……一応ボク男の子なんですけど……」
「カワイイは人を幸福にしますからね、それだけで愛でられるべきなのですよ!」

 アクアの掠れるような声はサヤの演説の前にあえなく霧散してしまう。

「と、とにかく! 中心部にいると思われるシトーさん達の救出班は治さん、オンラインさんのお2人と、【アイギナ】さんにお願いします」

 アクアはそういうと通信機で離れた仲間と交信を図る。

「アイギナさん! 靄調査の方はどうですか?」
「ええ。外観的な面ではほとんど終了したわ。これを見て。【ルル】、あれを」
(はい、皆様お手元の通信機をご確認下さい)

 彼女の指示と共に通信機に映し出されたのは、黒い靄の全景図であった。

「正確な図形ではないけれど、簡潔に言えばこの靄は横長の楕円体。最長距離は円で言えば直径およそ90mあるわ。今アクアちゃん達がいるところは丁度図形の中心と水平位置。だから中心部に行くなら真っ直ぐ進むのが最短距離になるのよ」

 アイギナの操作で探究者達の位置情報が全景図に追加される。

「次に現在の靄の広がり具合だけど、今のところこの大きさで安定してるわ。私達がこの辺りに来てそんなに時間は経ってないから、どうやら救援依頼の直前に広がり、船を飲み込んで少々で止まったみたいよ」

「後は……調査船の位置ね。テストピアから取り寄せた調査船の航路計画と、救援依頼時の通信内容、そして私がざっとこの靄を一周してみて一番エネルギー反応が大きかった部分の情報を組み合わせた結果、一番可能性が高いのが……ここ」

 表示された場所は、アクア達のいる場所から更に見上げるような位置であった。

「皆の場所から調査船を経由して中心部に向かうのは燃料的に厳しいみたい。だから2つの班は別行動になるわ。それと私は一旦調査船で皆と合流させて頂戴。調査が確かなら私の場所が調査船から近いのと、高速移動で一気に調べたから燃料を消費しちゃって……中心部に行く前に補給したいの」

 アイギナの視線の先、エスバイロの計器表示には2Eと記されていた。
 Eはいわゆるエスバイロのエネルギー残量の事であり、一部エスバイロではこの表示が使われていた。

「分かりました! 追加の燃料も貰ってますから、靄の中で補給しますね!」
「助かるわ。それじゃ内部で」

 アイギナとの通信が終わった丁度その時、【エクセル=クロスワード】が一行の下へ到着する。

「風の傭兵エクセル、ある時は自由気ままな運び屋稼業……ってな。未知へと挑む探究者諸君に、デレルバレルから最後のプレゼントだぜ」

 彼が運んできたのはルクス力場発生装置。
 未だ解明されぬ闇への唯一の対抗……いや、抵抗手段。
 当然そんな物のシステムは非常に繊細に作られており、支給物が新品であるとはいえ、この闇の中にさらされ続ければいつ故障してもおかしくない。

「まぁ、俺が受けた依頼は本来ここで終了な訳だが。乗りかかった船だ、勝手ながら助太刀させて頂きますぜ」
「エクセルさんありがとうございます、心強いです! では、作戦確認を続けますね! まずはボクが運んできた支給の燃料が4つですけど……アイギナさんの分を1つだけ船の方に持っていきます。残り3つは……」
「では私が自分のと予備と2つ持っておきますね♪ やっぱりいざ要救助者に会った時には蛇上さんの手が空いてた方がいいと思いますし。あ! ただお薬は4錠くらい余分に貰っておきたいかなーって感じです」
「分かりました。では予備燃料はオンラインさんにお任せします。私はルクス装置を1つと道中に使う追加燃料を1つ持っていきましょう。それから薬ですが、残ったものは我々で分けて所持しましょうか。アクアさん、アリシアさん如何です?」
「ボクはそれでオッケーです!」
「アタシもいいよー! でもその前にエクセルさん。アナタも薬、ちゃんと飲んでおいてねー」
「……ん? おおっ、ありがたいねぇ。御馳走さんだ」

 各自の服用分にオンラインの所持分と後ほど合流予定のアイギナ分を除いて、残った薬剤18錠はドクターである3人に均分される。

「よ~し、それじゃあ救出作戦、スタート~!」

 アリシアの掛け声に合わせ、一行はエスバイロのエンジンを再始動させる。
 こうして出来得る限りの用意を整えた小さな者達は、大きな闇の中へと飛び込んでいくのであった……。





●「なおす」者達
 シトーの指示からどれだけの時間が立っただろうか。
 1人の青年は、悪夢のような光景に永劫の苦しみを感じ、命の炎が消し去られるような感覚に襲われていた。

 オーピム。
 覚醒し悪魔となったこの世の雑菌。
 そんな蠢く闇に叡智ある人間が今まさに溶かされようとしているのだから。
 最後の砦であるこの水色の薄膜もまた、その源が枯れ果てようとしているのだから。

 こんなことなら調査船になんて乗るんじゃなかった! 助けてくれっ!
 そんな強い思いに応えたのは、同じ水色の髪を持つ少女であった。

「邪魔だァァァ!!!」

 少女は自身のエスバイロから発したルクス力場で群がるオーピム達を弾き飛ばすと、彼の側へと着陸する。

「ヒヒヒ……ヒヒ……ふぅ。えっと、アナタ大丈夫ー? 助けに来たよ!」
「アリシアさんそんなキャラだった!?」
「んー? あぁ! アタシ、こう何かと戦う! ってなると血が滾る? って感じでさー。滾ってる間の事はあんまり良く覚えてないんだけど、まぁデモニックだし……しょうがないよねー」
「そ、そう? 変わってるのね」

 アリシアの様変わりに驚かされるロゼッタ。
 自分自身も普段の姿と建前を分けている自覚がある彼女ですらも、流石に唖然とするほどの豹変ぶりだった。

「付近のオーピムは追い払えましたね。着陸しましょう!」

 サヤの言葉に調査船救援班の一行は船体上部へと着陸する。

「こりゃーひでーな。お前さんの装置、相当やばいぜ」
「エクセルさん、これの事知ってるの?」
「いや。こいつ自体見るのも初めてだが、俺は機械いじりが趣味でね。今にも泣きだしそうな面してやがんのよ」

 それは経験の深さか。
 彼はロゼッタの問いに答えると、アニマの【ソーラー】に調査員のルクス装置を検査させる。

「とにかく、俺はアリシアとここに残ってこいつのご機嫌取りに励むとする。お前さん達は中に残った奴らを頼むぜ。その後の運搬は俺に任せな」
「分かりました、お願いします!」

 サヤ、ロゼッタ、アクアは着陸した見張り台から船内に侵入する。
 アリシアとエクセルは、自分達のエスバイロを隣接させると2つのルクス力場の中にそれらを囲い入れる。

「よっしゃ! これなら靄からエネルギーを絞られる量も減らせるだろ」
(エクセル、簡易スキャンが終わりました)
「サンキューソーラー。データを視界上に表示してくれ。手持ちのもんでやれるだけやってみる」
(分かりました。装置はおよそ30cm四方の箱型……繊細に扱ってくださいね)
「知ってるだろ? 俺は機械と爆乳姉ちゃんだけは泣かせた事はねぇんだよ」
(……もう。先ほどからアリシア様の事をチラチラ盗み見ていることは分かっていますよ! 修理に集中して下さい!)
「えー、エクセルさんの変態おじさーん」
「なっ!? ソーラー! お前すねてんのか!? そういうことはオープンで言うなとあれほど……そしてアリシア、俺は親父じゃねぇ!」
「だって30歳くらいでしょー? 見た目的に?」
(ぐっ……これが医者の目、ってか)

 話ながらも、エクセルはルクス装置の修理を進めていき、アリシアは調査員の腕から血を採取していた。
 針の抜かれる小さな痛みに一瞬顔をゆがめた調査員は、何故そこまで明るくいられるのか問いかける。

「はいラビッツ、これエスバイロにしまっておくから、低温保管しといてねー。それからナノマシン沢山使うから、そっちの準備ヨロシク~」
(えっ!? えっ!? えっとち、ちょっと待ってよ!)
「で、えーとなんだっけ? 質問忘れちゃったけど、どうせ生きるなら楽しい方が良いよね! だから私はいつも全力投球だよー。だからさ、アナタにもそんな顔してほしくないかなーなんて」

 彼女は触診等を手早く済ませると、調査員に薬を一錠手渡す。

「はい診断終了。アナタはアビス感染しておりません! でも環境があんまりだから予防に一錠、飲んでおいてね」

 その後処置を済ませた調査員を連れ、アリシアは一度靄から脱出を図る。
 残されたエクセルはルクス装置越しにその背中を見送っていた。

(どんな人生を送って来たかは知らねぇが……強いな、お前さんは)


~~~


 その頃、船内を捜索していた3人は管制室の前まで来ていた。

「オーピムは5体って言ってたじゃない! ……って。文句の1つもいってやりたいところだけど。もう諦めたわ」

 通路には外部装甲を侵食してきたと思われるオーピム達が、壁や床に張り付くように根を伸ばしていた。
 実体化したその触手に触れたならば、長くは持たないだろう。

「私がこのライフルで押し退けますから、お2人は管制室に!」
「あなた、可笑しなだけだと思ってたけど優しいとこあるじゃない!」
「ふふふ……母なる我が神が言っていたのですよ……愛しき黒の小山羊達を導きなさい、ってぇ~!♪♪ だからこんな所で私のカワイイ皆様を危険にさらせないのですっ!!!」

 サヤは言うが否やクラスフォームを発動させると行く手を阻むオーピムに突撃する。

(ね~ね~あくあん。やっぱりあの姉ちゃんイケてるね! 遠距離型なのに突撃するフリーダムさは良いよ~)
「【フォブ】、危ない危ないよ! そこは見習っちゃダメなとこだよ!?」

 そんな一悶着があったものの、2人は無事に管制室に到達した。
 残されていた調査員たちも安堵の声を上げる。

「遅くなったわね、救援に来た探究者よ。早速だけどここの管制機能……端から端まで私に譲って下さる?」

 小さく震える左手を隠しながら、ロゼッタは軽やかに右手で髪を払って見せた。





●菌糸揺らめく悪夢の宴
「管制室の救助を完了……どうやら調査船は順調の様ですね。我々も早急に救助しなくては」
「はい! 調査員さん達に超ーサインねだられる位、軽やかに助けちゃうのです♪」
(何でアナタはこんな時までそんな風にふざけてるのだ。そんな無理矢理なギャグじゃ滑るに決まっている!)
「え? だって蛇上さん笑ってるよ?」
(あれは糸目というのだ!)

 ぴったりと近づいた並走飛行で、ルクス力場に包まれた蛇上とオンラインは闇を征く。
 力場の中には靄も影響を与えられないのか、Eは通常の飛行消費だけで済んでいた。
 空の世界の核とも言える移動手段。その技術は確立されており、何の弊害もない通常速度の飛行では1Eだけでもかなりの距離を飛行できる。

(くふふっ。糸目だって。バカにされてやんの! まぁ確かにアンタの顔って面白みに欠けるわよね~)
(分からないか【スノウ】。あれはサンプルさんが敢えて聞こえるように言ってるんだ。苦労する主人を持つとアニマも大変なんだよ。逆もまた然りだが)
(何よ急にご主人様ぶっちゃって。アンタは蛇なんだから、猫には勝てないのよ?)
(ほう。そうやって油断しているうちに敗れ去る猫もいるという事、忘れるなよ?)

 オンラインの笑わせよう、驚かせようという数々の仕掛けを悉く愛想笑いで受け流していく蛇上。
 彼の脳内ではアニマと激しい舌戦が繰り広げられていた。
 そうこうしているうち、2人は靄の中心付近にエスバイロを発見する。

「ん? 蛇上さん! あそこ、何かあるみたいです?」
「あれは……シトーさん!」

 管制室から送られてきた情報と照らし合わせて確認する。
 それはシトーと新人社員に間違い無かった。
 但し彼らは生身の体を闇にさらけ出し、息は荒く目が虚ろである。
 そして何よりも死角に訴えかけてきていたのは、顔や首筋にまで広がった黒い痣であった。

「蛇上さん、お2人とも感染してるかと思うのですけども……」
「ええ、まず間違いないでしょう。これは最悪の状況です」
「に……逃げる、っす……」
「え? 良く聞き取れなかったです、もう一度」
「逃げるっすよっ!!!」
「どちらに、行かれるのです? 宴は未だ最高潮とは言えません。もう少しここで踊られませんか?」
「……訂正しましょうか。先程以上の最悪がやってくるとは」

 探究者達を見つめる謎の男。
 袖がまくられた彼の腕には、漆黒の痣と金の腕輪が光る。
 彼が握りしめる杖に呪詛の言葉を捧げると、その輝きは更に強さを増した。

「さぁ、踊り手は私が用意致しましょう。楽しんで逝って下さいねぇ……?」

 いつの間にか、彼らは四方を10体のオーピムに囲まれていた。





●2つで1つの……
(サヤ、右だ!)
「くっ!」

 その頃、調査船ではサヤがエンジン室へと歩を進めていた。
 彼女からすれば、例え筋骨隆々のむさくるしいスミスであっても、救うべき信徒候補なのである。
 オーピムの触手を避けながらなんとか戦ってきたが、近接戦闘は門外漢。限界が近づいていた。

「サヤさん、聞こえる?」
「ロゼッタさん?! 今少し……! 忙しいです、けど! 何でしょう!?」
「通信機の表示を確認して、一旦そこから指定場所まで退いて」
「わ、分かりました!」

 彼女が退却し終えたころ、ロゼッタは既に見渡し台へ繋がる梯子の下にいた。

「お疲れ様。あら、服ボロボロね」
「ええ。ちょっと鈍ってたみたいで……ですが、いい運動ですよ」
「肩で息してるところ悪いけど、そのライフルまだ使える?」
「いけますよ!」
「了解。ガット!」
(任せてくれ)

 ガットの行いで、サヤの視覚に船内に設置された監視カメラの映像が浮かびあがる。
 映像にはこの船のエンジンが映し出されていた。

「手短に説明すると、この船のシステムはもう手遅れだったの。生きてたのは船の各種スキャニングとカメラだけ。このままじゃエンジン室の2人は助けられない。だから、あなたの狙撃でエンジンの中心を打ち抜いてほしい」
「そんな!? それに映像を頂いてもこの距離からあそこを狙うなんてとても……」
「方向の調整は私がするから大丈夫よ! ほら私の肩、使って」
「ううん……」
「私を信じてくれないのね?」
「……いえ、その目その言葉を信じます。お願いしますね!」

 信じるものを信じ切る強さを彼女は知っていた。
 迷う必要などなかった。

「キリエ、フラッシュエイム!」
「ガット、オーバーチューン!」

 2人によって性能が高められたライフル、その銃弾にロゼッタは魔力を込める。

「完全に直接触れてはいないから、上手くいくか分かんないけど……!」
「大丈夫です、絶対きれいに打ち抜きますからっ!」

 風の魔力が込められた弾丸を、サヤはただ真っ直ぐに解き放つ!
 入り組んだ船内の廊下の壁や扉装甲までもうち貫き、弾丸は見事エンジン捕え、エンジン室は爆発した。

「さ、逃げるわよ!」
「でもお二人は……」
「いいから早く! そっちは俺に任せろ!」

 爆発し、エンジン室から投げ飛ばされる乗組員達。
 しかし彼等はアリシアの出したナノマシンによって受け止められた。
 小さく作られた隙間によって、爆散したオーピムが張り付く事は無い。

 ナノマシンが耐え切れなくなる前に、エクセルは素早く2人を救出した。


~~~


 一方囲まれていたオンライン達であったが、突如飛んできた銃撃により、オーピム達が怯む。

「今のは?」
「私が援護するわ。今のうちに下降して! 垂直に降下すればそこから外までの距離は20mよ!」
「アイギナさん!?」

 その攻撃はアイギナによるものだった。
 全エネルギーを集めた攻撃は多数の敵を足止めする。

「アクアちゃん弾切れよ。後は宜しく」
「行きますよ~!」
(あくあん~、これ過剰労働だよー! 後でハムハムを要求する~!)
「分かったから頑張れ! 超頑張れっ!」

 アイギナは、彼女のエスパイロに取り付けられたアクアのウィンチにより靄の外へと回収されていく。
 脱出と攻撃。連携プレーが光る。
 その隙にシトー達を自分達のエスバイロに移し替えた2人は高速移動での下降で退避しようとしていた。

「待ちなさい!」
「待てと言われて待つ人はいないのです! きゃるーん☆テンペスト!」

 謎の男もまたオンラインの魔法に怯まされ、何とか全員で脱出することが出来た。





●1つの後悔、2つの発見

 一行は無事に靄を脱出し、テストピアが手配した救助船にいた。
 彼等は助け出したシトーから情報を聞き出す。

「あっしが2人を見つけた時、既にアビスに感染してたっす……新人君は感染度が低く、手持ちの薬でどうにか出来たんすけど……」

 シトーが助けられなかった最後の1人は、既に感染度2以上の症状が現れてしまっていた。
 骨格が変化し、羽のような何かが背中に生えたかと思えば、そのまま靄の向こう側へと消え去ってしまったという。
 彼を追いかけた先に謎の男に出くわしたのだ。

「オーピムの生みの親はそいつって訳ね」
「あんな触手じゃ快楽は得られそうにないのです……」

 ロゼッタとサヤが意見を述べる。

「今回はルクス装置がもってくれたから良かったけど……故障したなら私達の燃料も吸い尽くされ、皆一緒に死んでいたわね。まさか誰かのEを抜き取る訳にもいかないし」

 アイギナは眼鏡をそっと直すと、極めて冷静に呟く。
 燃料となる液化フラグメントの抽出は、専門技術であり一般には扱えない。
 だがもし尽きてしまった事を考えれば、仲間が燃料に見えてしまう地獄絵図も冗談とは言いきれないだろう。

「でもアイギナさんよ。お前さんとルルのおかげで、俺達はどこを進んでるか良く分かってたしよ。きっと上手くいってたと思うぜ」
「ボクもエクセルさんに賛成です!」

 アクアの言葉に頷く一行。

「それと私見たんです! 怪しい男の特徴、目の形まで覚えてます~!」
「後これ、靄の中にいた被験者の血液サンプルー。これで何か分かるかも?」

 オンライン、アリシアが成果を口にする。

 失ったものはあるが得られた何かは大きい。
 蛇上は犠牲を痛みつつこの成果を生かすのだと心に決めた。




依頼結果

大成功

MVP
 蛇上 治
 ヒューマン / マッドドクター


作戦掲示板

[1] ソラ・ソソラ 2017/09/29-00:00

おはよう、こんにちは、こんばんはだよ!
挨拶や相談はここで、やってねー!  
 

[29] エクセル=クロスワード 2017/10/04-23:18

皆さんの自由にお作り頂いたプランへの後押しとサポートがメインになります。宜しくお願いします。  
 

[28] エクセル=クロスワード 2017/10/04-23:15

アニマへの指示です。序盤飛行ルート連絡連携、力場発生装置内故障箇所スキャン。霧の同行と救助者の生命反応にソナーや通信機で全機と連絡を取り合う。状況と必要に応じてエクセル達に優先プラン順番変更指示。霧範囲と力場発生範囲を確認して通信機で連絡エスバイロ飛行ルートナビと各プランで動く探究者達に有効性のある連絡を。全員脱出後のオーピムを巻き込んだ船体の自爆作戦立案と計算補助担当後、オーピム討伐隊へ霧を無効化させる力場発生装置三台を持って行かせて、霧の展開によるコアの位置を逆引き計算させてアドバイスする。  
 

[27] エクセル=クロスワード 2017/10/04-23:13

プランはこうしました。序盤全機に通信機で飛行ルート指示。霧範囲外ギリギリから力場発生装置二台をオンにして全機を二倍拡大力場発生エリアに入れて船体上空から舟見渡し台にエスバイロのエンジンを切って重力落下着陸。まず故障している見渡し台力場発生装置をアニマを融合分析させて修理。他の力場発生装置は船体の他の場所に行く探究者に渡して手分けして救出後、三台にした力場発生装置を持って離れ、霧中心にいる要救助者に発生装置を持っていき助けて薬で応急処置し全員助けて船から力場発生装置三台分の範囲に守ってもらいながら全員脱出。  
 

[26] エクセル=クロスワード 2017/10/04-21:15

最後の霧オーピム退治メンバーのエスバイロにルクス力場発生装置三台(1台は回収した不良品力場発生装置)を
装備してもらって霧を吹き飛ばしつつコアに総攻撃をしてもらうというのはどうかな。薬も温存できる。  
 

[25] エクセル=クロスワード 2017/10/04-21:12

そのうちに
同じく③のアリシアさんに見晴台の救助一名を確実に助けてもらって
他の探究者と連絡しあって救助者をルクス力場発生装置
の効果範囲を軸に編隊飛行合流させて全員救助して脱出。  
 

[24] エクセル=クロスワード 2017/10/04-21:08

風の傭兵エクセル、合流させて頂きますぜ。
③がいいな。
まず一番槍に突っ込んでルクス力場発生装置を
支給された新品に交換、または設置して
範囲ギリギリの救助に誰か来てもらう。  
 

[23] アイギナ 2017/10/04-18:18

時間ギリギリですいません。
とりあえず霧探索行きます
探索開始前に霧の周りを大きく一周して霧の範囲や形、広がる方向をより明確に把握します。
これらの情報から調査船の位置も開始前ある程度把握できる可能性があったら良い。

船で作業する人たち(アクアちゃん除く)は霧と船の往復で4eの消費のみなので3eあまる
3人分のタンクを貸してほしい


補給品を3人分配だと一人当たり9e+貸しタンク分配して3e
計19e
行き
中心部まで45mなので9eの往復18e
一時停止で1e
計19e

これが最低限だと思います。
最後にランダム要素として
【アクアちゃんが追加で持ってこれる量】が【オーピム対策での消費量】より多ければ大成功

 
 

[22] アクア=アクエリア 2017/10/04-17:54

ボクのプランです
・抗アビス薬1錠服用
・エンジン室乗員の抗アビス薬服用状況を確認、対応
・乗員からシトー他の情報を得、靄中心班へ
・エンジンに自爆分の燃料を残して携帯タンク化
・救出と中継の準備、靄中心班の連絡を待ち対応

靄中心班が自力脱出できるなら中継なし…もプランに入ってます
とりあえず臨機応変で  
 

[21] 蛇上 治 2017/10/03-22:08

おっと、アクアさんが中継して下さるならシトーのエスバイロは別に必要ないですかね?  
 

[20] 蛇上 治 2017/10/03-21:12

現状のまとめて下さった情報から、私がプランに書こうと思っているのは
・抗アビス薬を2錠服用
・残っている薬、燃料、力場発生装置を靄班共有で持っていく
・アニマにルート解析してもらい最短ルートを検索
・ルート案は調査船を経由し燃料補給してから中心へ
・onlineさんが戦闘時に引付を行って下さるなら救助メインで動く
・シトーのエスバイロが無事またはスキルで直せるならシトーにも手伝ってもらい高速離脱、無理なら通常移動で離脱
ですね。  
 

[19] アクア=アクエリア 2017/10/03-18:05

蛇上さん、アリシアさん、よろしくお願いします!
onlineさんの言われるように、アビス感染対策も重要だと思います
特に靄中心班の皆さんは、あらかじめ抗アビス薬2錠を服用していってもよいぐらいかもしれません
調査船にもまだ抗アビス薬が残っているとよいのですが…

【現在の班分け状況】
 ①管制室(1)
  ロゼッタ
 ②エンジン(1)
  アクア
 ③見渡台(1)
  アリシア
 ④靄中心(2)
  online、蛇上
 〇未確定(2)
  サヤ、アイギナ(以上敬称略)  
 

[18] アリシア・ストウフォース 2017/10/02-23:50

挨拶遅くなってごめんー!
マッドドクターのアリシアだよー。
顔出していない間に色々まとめありがとー!

③でも④が足りなさそうだよね…④でも全力で頑張るけど、戦闘は頼りにならないから、③の方がいいかなーって思った!  
 

[17] 蛇上 治 2017/10/02-22:06

顔出しが遅くなって申し訳ないです。
とりあえず、「④靄中心」で行こうと考えています。  
 

[16] online 2017/10/02-21:41

まとめありがとうございます
④靄中心でいきます

非戦闘ですが
避けられない時引付役をします

①②③の方でシトー以外の2名の名や特徴を聞き報告してくださるでしょうか


船も靄の中で調査船員もアビス感染も考えられます

ワールドガイドにありますが
アビス感染lv1これが軽度感染と書かれているものと思われます
皮膚の一部に黒い湿疹や薄っすらと痣ができます
この時点では、本人に自覚症状はないので
定期的に自己管理しなければなりませんのでご注意を

感染lv1で1~2錠で治療可能ですが

感染lv2
紫か黒の痣ができ広がり始めます
痣周辺は感覚が鈍くなり、時折激痛が襲います
治療に20~30錠必要になりますので余裕はありません  
 

[15] アクア=アクエリア 2017/10/02-20:41

ロゼッタさん、どんまいです
普通にある事なのでお気になさらず
むしろ、細目なレスがありがたいです
管制室の制御回復、よろしくお願いします!

【現在の班分け状況】
 ①管制室(1)
  ロゼッタ
 ②エンジン(1)
  アクア
 ③見渡台(0)
  -
 ④靄中心(0)
  -
 〇未確定(5)
  アリシア、online、サヤ、蛇上、アイギナ(以上敬称略)  
 

[14] ロゼッタ ラクローン 2017/10/02-18:35

勘違いしてました、個別じゃなくて共用でしたか。

では私は調査船の管制室へ向かいます。  
 

[13] アクア=アクエリア 2017/10/02-18:01

〇靄中心班の燃料節約
黒靄は楕円だそうです
突入前、アニマに最短ルートを解析してもらい直行すれば、片道45m以下のルートがあるかもです
onlineさんの調査船経由案と合わせて、より確実なルート設定ができればと思います

〇調査船について
ハッカーさんに船の制御を回復してもらいたいと思います
船ごと脱出できれば楽ですし、緊急事態に船の自爆を有効に使えるからです
中心部まで船を移動させたい事態が起こるかもしれないので
あと、爆破に使えるだけの燃料はエンジン室に残してほしいです

3/3

以上です  
 

[12] アクア=アクエリア 2017/10/02-18:00

【抗アビス薬30錠】
靄内に入る時、各自1錠ずつ服用するべきですね(-7~8錠)
調査船班に5錠、乗員5人分(-5錠)
残り17~8錠は、やはり靄中心班に持たせた方が無難だと思います

〇燃料補給について
靄中心班を3人とし往復を考えると、どうしてもギリギリです
各自の位置確認はできるので、調査船班の作業後、1名を船と靄中心の途中に中継所として待機させたらどうでしょうか?
エンジン室で作った携帯タンクを最大限積んでいけば十分な補給になる筈です
もちろん状況を見ながら必要に応じて…でよいと思います

この役はボクがやっても構いません
その場合、ボクは『②エンジン』班ですね

2/3  
 

[11] アクア=アクエリア 2017/10/02-17:59

あまり時間もないので、ボクの考えを書きます
連投になりますがご容赦ください
あくまでも「考え」で、押し付けるつもりはない事をお断りしておきますね

〇共用品について
【追加用燃料タンク×4】
総E28、「全員」でこれだけなので要注意です
基本、靄中心班に全振りでよいと思います
調査船各班は基本消費(往復用)がE-4で、更にエンジン室製携帯タンクを含めると、仮に救出でピストン輸送しても余裕があります

【ルクス力場発生装置×2】
2台とも、靄中心班に持たせた方がよいと思います
これは「靄中心で何が起きるかわからない」という一点からです
シトー他2人の救出の為、必須になるかもしれないので

1/3  
 

[10] online 2017/10/02-11:43

中心で救助、脱出
一定時間停止1E+通常移動2E(10m)×3.5(35m)=8E
        1E+高速移動3E   ×3.5   =11.5E

タンク4個×7E=MAX28Eから

通常移動で救出なら3人
高速移動なら2人が限界(シトーのエスバイロ無事なら可能

てとこですかね

班分けとして
①管制室
②エンジン
③見渡台
④靄中心

どうでしょうか?  
 

[9] online 2017/10/02-11:40

靄の中で救出ですから船は靄の中と思われます

円周から10で船到着(残量5
補給満タン(残量7
中心まで35を通常移動(残量0  
 

[8] ロゼッタ ラクローン 2017/10/02-10:24

「1E毎に補給可」とあるので毎回1E減れば補給できるという意味か?と。
切替式じゃなくて随時追加できますという意味かな?

トータル35E、黒霧の中心まで45mなのでたどり着くまで8~10E消費の往復16~20E、
中心部の三名の安否確認や治療、救出で一定時間停止の1~2Eぐらいとしてのこり12~18E前後で戦闘も含めて脱出。
中心部行は救出組と偵察で4名は欲しいかなと思ってみたり。  
 

[7] アクア=アクエリア 2017/10/01-18:59

機動力低下は間違いないので、確かに戦闘では足かせになりますね。
通信機が問題なく機能するなら通信網もいらないと思います。

そうなると、燃料切れ対策を他に考えないとですね…。
調査船エンジン室で追加の携帯用タンクを作れるみたいですが、渡す手段って何かあるでしょうか?  
 

[6] ロゼッタ ラクローン 2017/10/01-17:40

うーん、ちょっとしんどいかも。
エスバイロの機動性を妨げることになるかと、オーピムからの防衛は基本高速での回避運動ですし。
戦闘がなければ名案だと思います。
通信については共通装備で通信機が借り出されるので、それでOKかと。  
 

[5] アクア=アクエリア 2017/10/01-13:27

こんなプランはどうでしょうか?

エスバイロ1機を基点として他各機をウインチ付きのワイヤーで結び、基点機を経由した黒霧中の通信回線網確立に用います。
更に、燃料切れ時にはこのワイヤーを巻取り回収手段とする事で強制帰還対策とします。

基点となるエスバイロは霧の外での待機がよいと思います。
後は班分けして、それぞれの任に当たる感じで。  
 

[4] ロゼッタ ラクローン 2017/10/01-12:46

調査船の5名からすれば仲間を見捨てるという選択肢は納得しかねると思います。
救出に向かう方向で良いのではないでしょうか?
でもエネルギー管理は大変ですね、戦闘の発生も考えれば余力を持って進まないといけないし。  
 

[3] アクア=アクエリア 2017/10/01-10:39

ドクターのアクアです、よろしく!
調査船の5人に絞るか、中心付近の3人も助けるか、この選択で難易度が大きく変わってくると思います。
ボクは3人も含めた救出を考えたいのですけど、みなさんはいかがでしょうか?  
 

[2] ロゼッタ ラクローン 2017/10/01-10:35

ハッカーのロゼッタです、よろしくお願いします。
どう動こうか迷っていますが皆様はどうですか?
シトー含む3名の探索行が少ないようならそちらへ行こうかとも考えています。

あと黒霧からの脱出について、調査船の爆破フラグもあるようですが。
調査団員を1人乗せてのエスバイロによる各自脱出も考えられますね。