プロローグ
とある民間エンジニアの事務所。そこにいぶし銀のおっさんと、やり手そうなお姐さん、といった感じの女性が話をしていた。
「大セレナの遺産?」
「興味ない?」
「なくはねぇさ。本物だったら、ていう前提だけどな」
胡散臭そうに、ゴローという名のいぶし銀のおっさんが、パールという名のやり手そうなお姐さんに返す。
これにパールは、清々しいほどの笑顔を浮かべ返した。
「本物だって。正真正銘、バレンタイン伝説の1人、大セレナの遺産なんだから」
「本物ねぇ……確か大セレナっていったらあれだろ? オークマスターで従者にゴブリンのアルテアを連れてたっていう」
ゴローの言葉に、パールは頷く。
「そそっ、それそれ。その遺産がある場所が分かったのよ」
「なんで、そんなもんが分かったんだ?」
「ウチの孤児院の古文書に書いてあったのよ」
パールは、自信ありげに応える。
彼女は、とある孤児院の出身なのだが、独り立ちした今でも時折帰り、色々と漁っているらしい。
今回の件も、そういうことなのだろう。
「大セレナにまつわる古文書? なんであるんだ、そんなもんが」
「だって、ウチの孤児院の創立者って、大セレナだもの」
これに、ゴローの胡散臭いものを見るような視線は、さらに強まる。
「お前ん所の孤児院って、千年も歴史あったっけ?」
「あるある。歴史の影に埋もれた老舗なんだからウチは」
これにゴローは、ため息をつくように返した。
「……胡散くせぇ……孤児院で老舗ってなんだよ。だいたい、大セレナの伝説に、そんな話あったか?」
「伝説は伝説。ウケの悪い事実は、ポーイと捨てられるもんよ」
「……分からんでもないが。で、遺産って具体的には何なんだ?」
「友人のデーモンに向けて、バレンタインにプレゼントしたものらしいわ」
これにゴローは、胡散臭さを通り越し、キナ臭いものを感じたかのように眉を寄せ返した。
「……デーモン? デーモンっていったらアレだろ? 悪逆非道の、それこそ悪魔みたいな奴ら」
「変わり者だったらしいよ、そのデーモン。名前はセパルね」
「お前の名前に似てるな」
「そりゃね。そこから取ってつけられた名前だもの」
これにゴローは、気遣うように間を開けて返した。
「……そうか。で、中身は何なんだ?」
「デーモンに向けて、大セレナが死ぬ直前に贈り物として隠した何か、らしいわね。具体的な部分は、損傷が酷くて読めなかったから分かんないわね」
「死ぬ直前に隠した贈り物?」
訝しげに訊き返すゴローに、パールは説明する。
「ええ。寿命の無いデーモンに向けて、自分が居なくなっても寂しくないように。そういう想いを込めた物らしいわね」
「なるほどね。詳細は分かったが、それで場所まで分かんのか? 当時と今じゃ、地形からなにから全く違うだろ」
終末世界ともいえる現代では、当時の地形など碌に残っては居ない。
けれど、それでも当てになる物をパールは返した。
「そこは目印があるから。チョコの木の群生地に、置いてあるらしいのよ」
「チョコの木? カカオの木じゃねぇのか?」
「元々のバレンタインで、使われてたのはそっちらしいのよ。で、そのチョコの木だと思われる大群生地が、とある浮島で見つかったってわけ」
「そこに行けば見つかるかもってことか。で、なんで俺らを誘うんだ?」
これにパールはニッコリと笑みを浮かべ返した。
「そこ、空賊が居るらしいのよ」
「またか!? 前もこんなことあったよな!?」
「前の時は噂話だけで、実際は居なかったじゃない。今回はガチで居るから!」
「なに嬉しそうに言ってんだテメェ」
苦虫を噛んだように眉を寄せるゴローに、パールは楽しそうに言った。
「スリリングじゃない? そっちは探究者の人達を雇って解決して貰うとして、万が一エスバイロとか傷付いた時に、修理したりする人が居るじゃない? それを頼みたいってわけ」
「だからついて来いと……いつもいつも、面倒そうな依頼を持ってくんなお前は」
「それだけ、腕を信じてるってことよ。それじゃ、これ前金ね。当日は、よろしくー」
「……ったく、しょうがねぇなぁ」
てなことがあった数日後に、アナタたち探究者に依頼がありました。
とある浮島に居る空賊を撃退し、可能なら、その島に隠されているという大セレナの遺産を見つけて欲しいというものです。
あくまでもメインの依頼は空賊の撃退なので、そのあとは帰還するまで浮島で自由に散策するのも可能との事でした。
この依頼に、アナタたちは?
解説
詳細説明
チョコの木が群生する浮島に居る空賊を撃退して下さい。
そのあとに、大セレナの遺産を探すかは自由です。アニマと一緒に浮島の散策、とかも可能です。
空賊
サン・シッターズ
三下っぽい空賊。喋りも「やんす」「でげすよ」とか三下っぽい。今回のエピソードは戦闘がメインではないのでサクッと撃退できる相手です。
ただし、逃げ足だけは速いので、撃退できてもとっ捕まえたりは出来ません。
浮島に近付くと、エスバイロに乗って向かってきます。
基本やられキャラなので、少々コメディ調に戦っても問題ありません。
大セレナの遺産の探索
空賊のアジトの探索と、浮島に群生しているチョコの木の探索の2種類があります。
空賊のアジトには、しょうもない罠や、どーでもいい物品があります。プランにて詳細を書いて頂ければ、リザルトで描写されます。
例としては、「アジトで足止めするためにもふもふ子猫が足元に擦り寄ってくる罠」や「全108巻いやんな大人の本」とかあったりします。
そんな感じに、色々とプランにて書いて頂ければ描写されます。ただし、他のPCやNPCの行動を確定する描写は不可になります。
チョコの木の探索は、プランの内容次第で、短時間で大セレナの遺産が見つかったりします。
浮島の探索
自然豊かな浮島をアニマと散策します。空賊の撃退をしていれば、大セレナの遺産の探索はせず、アニマと2人っきりで動くことも出来ます。
自然豊かな島なので、そういった場所にありそうな、小動物やら湖やら、プランにて書いて頂ければ描写されます。
NPC
ゴロー・ヤス・ミキ 民間エンジニア エスバイロの修理やアジトの罠の解除など便利なキャラ達です。
パール 依頼人 無茶な事でなければサポートしてくれます。
以上です。それでは、ご参加頂けることを願っております。
ゲームマスターより
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回のエピソードは、嘘かまことか? 1000年ごしのバレンタインにまつわるエピソードです。
それはそれとしまして、コメディ調でも、アニマと2人で浮島散策デートでも、少々どういう形のエピソードでも可能なものになっています。
少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張りたいと思います。
それでは、ご参加頂けますことを願っております。
vD:千年後の貴女にバレンタイン エピソード情報
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担当 |
春夏秋冬 GM
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相談期間 |
6 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2018/3/5 0
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難易度 |
とても簡単
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報酬 |
少し
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公開日 |
2018/03/11 |
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◆目的 パールの依頼に面白そうと相乗り。空賊アジトを中心に宝探し。 ◆行動 まずはエスバイロで空中戦。 規模にもよるが探索中に背後を突かれてもイヤなので、パールやゴローを守りつつ出来る限り撃滅。 ただ余裕があれば殺しは避け、捕縛して話を聞けるように。 「宝探し抜きでも、賊にのさばられちゃ困るからね。覚悟なさい!」 (空賊に)「あなたたちは知らない? 大セレナの遺産の話…教えてくれれば悪いようにしないけど」 島に降りたら空賊のアジトと周辺を探索。遺産以外でも目ぼしいものがあれば頂いて諸経費の足しに。 「これも違う…これは? うーん」 ◆罠案等 字数ゆえ案だけですが… 対ケモモ用罠:獣耳や尻尾など先端を狙ったロープ罠
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・フィール 少尉から貰ったチョコで、今の私はチョコパワー全開!水と塩のディナー…空腹で戦っていた時とはわけが違う! ひっさ~つ☆ファイナルダウンで、最初からクライマックス!撃ちまくる! グレーターブロントヴァイレスを爆散させた私の力、今こそ振るう時! 空腹の時とは違うのよ、空腹の時とは! 終わったら、遺産探し! み~らくるくる☆マジカルで幸運力を発揮しながら探す!エスバイロで空から見たら何かわかるかなー? ・アルフォリス どうみても三下……今のフィールに敗北の目は無いの。 大セレナ遺産探索計画を練るとしよーかの。 野生動物が寄り付きにくい場所を探索じゃ。
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参加者一覧
リザルト
○浮島に着く前に、ちょっとティブレーク
バレンタイン伝説の1人、大セレナの遺産の探索。
その依頼を受けた探究者達は、依頼人の飛空艇にエスバイロを乗せ、目的地に向かっている。
そんな中、目的地である浮島までは時間があるということで、探究者達は飛空艇のリビングルームで待機していた。
「チョコの樹、って言い回しが気になるのよね。なんでカカオじゃないのかって」
待機中、時間に余裕があったので【ヴァニラビット・レプス】が依頼人であるパールに尋ねる。
これに、ショコラケーキをフォークで切り分けていたパールが返す。
「カカオとは違うのよ、チョコの樹は」
いま探究者たちとパールの居るリビングルームは、企画屋のスポンサーを接待する時にも使われる部屋なので、品の良いテーブルなどの調度品が置かれている。
そこでくつろぐようにして、ちょっとしたお茶をしながら待機しているのだ。
「カカオと違うということは、異なる種類の植物ということですね」
ヴァニラビットのアニマである【EST-EX(イースター)】が、先ほどまで飲んでいた紅茶のティーカップデータをテーブルに置きながら問い掛ける。
いま居るリビングルームは接待用という事もあり、アニマも味わえる食品データを提供できる仕様なので、イースターの前にもショコラケーキと紅茶のデータが、人間にも見える形で出されていたのだ。
「カカオとは、何の関係もない樹なのよ、チョコの樹は」
イースターの問い掛けに、パールは紅茶を一口飲み喉を潤してから応える。
「チョコの樹の実が、チョコに似た味だから、チョコの樹って言われていただけみたい。でも元々バレンタインは、チョコの樹の実を使った贈り物をする風習だったみたいね」
「そうなの? だったら美味しいのかしら?」
ヴァニラビットの問い掛けに、パールは返す。
「すっごく美味しかったみたいよ」
「美味しいんだ」
興味深げに口を挟んだのは、【フィール・ジュノ】。
彼女の前には、生クリームとチョコレートソースがたっぷり掛かったパンケーキが置かれている。
普段から金欠で、食に困っている彼女だとお代わりをしそうな所だが、今は優雅に食べていた。
なぜならここしばらくは、カロリーはしっかり取っている。
なにしろ、英雄と言われているリン・ワーズワース少尉から大量に貰ったチョコを食事に当てているからだ。
それはそれとして、美味しくパンケーキを食べながらフィールは続ける。
「そんなに美味しいんなら、ちょっと食べてみたいかも」
これにパールが返すよりも早く、フィールのアニマである【アルフォリス】が口を挟む。
「食べるのは構わんが、その前にカロリーを調べねばな。魔法少女としてプロポーションは保たねばならんからのう」
フィールを魔法少女として大成させるために、フィールの魔法少女姿の恥ずかしい姿を回りに見せ付ける事を徹底しているアルフォリスとしては、食べ過ぎてぽっちゃりさんになり過ぎないよう気にしているのだ。
しかし、フィールはパンケーキをぱくつきながら返す。
「大丈夫。むしろ、今は少尉から貰ったチョコがあるから良いけど、それが無くなったら水と塩のディナーに逆戻りなんだから。食べられる時に、食べておかないと」
実際のところ、フィールの今の姿は、出るべき所は出て引っ込むべき所は引っ込んでいる。
それを確認しながら、アルフォリスは空賊との戦いをどう繰り広げるか考えていた。
(空賊どもの力量次第じゃが、魔法少女としてのサービスシーン製造は避けてはならぬ。どうするべきか……)
などとアルフォリスが熟慮している間に、飛空艇の操縦室から音声が聞こえてくる。
「そろそろ浮島に近付くから、用意しといてくれ」
操縦室で、娘のミキと従業員のヤスと共に、光学観測とレーダー観測をしながら操縦していた民間エンジニアのゴローの呼び掛けに、探究者たちはエスバイロを置いてある格納庫へと向かい、外に出る。
そのままエスバイロに乗って進み、浮き島が見えて来た頃、空賊たちがやって来た。
○空賊をどうにかしよう
「お前達、一体何者でやんすか!?」
「ここは俺たち、サン・シッターズの縄張りでげすよ」
浮島から現れた空賊たちは十数人だったが、露骨に三下感を醸し出していた。
「今すぐ逃げるなら、なにもしないざんす」
「我輩たちは紳士ゆえ、女子供には手を出さない主義である」
「決してビビっているのではないのであしからず」
空賊たちは脅しなのか懇願なのかよく分からないことを言いながら、びゅんびゅん飛びまくる。
しかし連携も何もあったものではないので、脅威は感じられない。
「楽な仕事になりそうですね」
空賊たちの様子に、イースターは静かに言う。
これにヴァニラビットは返した。
「そうね。でも、依頼人のこともあるし、後ろにつかれないよう気を付けないと」
「慎重なのは良いことですね。ですが、それで好機を逃してしまっては意味がありませんよ」
「なら、少し踏み込んでみましょうか」
ヴァニラビットは空賊の動きを見極め、依頼人の飛空艇に近づけないようプレッシャーを掛けながら、エスバイロを一気に加速。
慌てて逃げ回る空賊を追い駆け、浮島の上空に。
自然豊かな浮島の様子に、気分を高揚させる。
「へぇ、いいところじゃない。暴れさせてもらうわよ!」
ヴァニラビットはエスバイロを巧みに操り、逃げ回る空賊に攻撃を重ねていく。
「宝探し抜きでも、賊にのさばられちゃ困るからね。覚悟なさい!」
先回りするように動き、死なない程度に攻撃を叩き込む。
「ぎゃー!」
「強いでやんすー!」
次々にダメージを受けていく空賊たち。
そうしてヴァニラビットが空賊を追い立てている頃、フィールも空賊たちと対峙していた。
「グレーターブロントヴァイレスを爆散させた私の力、今こそ振るう時! 空腹の時とは違うのよ、空腹の時とは!」
フィールは最初からクライマックスに、ひっさ~つ☆ファイナルダウンを撃ちまくる。
撃ち出された魔法弾が命中するたびに、フィールの過去の勇姿が華々しく浮かび上がる、ような気さえする猛攻だった。
「助けてー!」
「容赦ないざんすー!」
攻撃を受け、逃げ惑う空賊たち。
それをみたアルフォリスは、冷静に判断する。
(どうみても三下……今のフィールに敗北の目は無いの。となれば、あとは如何にしてサービスシーンを製造するかじゃな)
どんな時も、フィールの魔法少女大成のために努力を惜しまないアルフォリスだった。
「大変じゃ! エスバイロが不調じゃ! あまりスピードを出すと空中分解するかもしれんぞ!」
まずは空賊を倒されないよう、嘘の報告をする。
これに慌てるフィール。
「嘘でしょ!? こんな時に!?」
スピードを落とし、空賊たちが攻撃する隙が出てしまう。
しかし、先ほどの攻撃でビビったのか、遠巻きに飛び回るだけの空賊たち。
(くっ、役に立たん奴らじゃ。ならば、これでどうじゃ)
アルフォリスは空賊たちが使っている回線に強制介入。
フィールの行動予測を流してやる。
でもやっぱり逃げ回る空賊たち。
(なにをしとるんじゃ! ならばここは思い切って)
今まで撮り貯めていたフィールのサービスシーンを一瞬だけ流してやると、協力要請。
すると空賊たちは、決断する。
「こ、これは」
「乗るしかないだす。このビックウェーブに」
自分たちの欲求に正直な空賊たちだった。
次々に攻撃してくる空賊たち。
しかし腕がヘボいのか、それとも他の理由があるのか、全く当たらない。
なので、エスバイロの操縦に介入し、わざと当たりに行くアルフォリス。
「突発的なアクシデントが発生したのじゃ!」
「うひゃあ!」
かすめるように通り過ぎた攻撃に、体勢を崩すフィール。
そのせいで、スカートがギリギリまでめくれる。
ついでに、ぼん、きゅっ、ぼん、なスタイルがたわわに揺れる。
「よし!」
「我輩たちの成果なのである」
喜ぶ空賊たち。
しかし、満足はしないアルフォリス。
(くっ、これでは足らぬのじゃ。もっと、あのどう見ても三下なサン・シッターに、フィールの服をボロボロにさせ、見所のあるサービスシーンを撮影せねば……骨が折れそうじゃのぅ……骨などないが)
さらに、サービスシーン製造の鬼と化すアルフォリス。
ちなみに空賊たちは、サービスシーンはともかく、女の子の服をボロボロにしたりする趣味は無いので、尽く攻撃をかすめるだけにさせ、その上でスカートの絶対領域をギリギリまで攻める活躍はしていた。
その一方で、ヴァニラビットの方は、かなり空賊たちを追い詰めていた。
「あなたたちは知らない? 大セレナの遺産の話……教えてくれれば悪いようにしないけど」
追い詰めた空賊たちに、問い掛けるヴァニラビット。
すると空賊たちは、口々に返した。
「知ってたら、とうの昔に手に入れてるざんす」
「むしろこっちが訊きたいでやんす」
「ヒント、プリーズ」
「役立たずですね」
辛辣に評価するイースター。
それに苦笑しながら、ヴァニラビットは更に空賊たちを追い詰めていく。
すると、空賊たちは最後に泣き言を言いながら一斉に逃げ出した。
「これ以上は勘弁だす!」
「今日の所はこれぐらいにしておいてやるざんす!」
「また敗北を知ってしまった」
空賊たちは、これまで見せたことのない速さで、一気にその場から逃走した。
「あの速さを攻撃で見せれば良かったのでは?」
呆れたように言うイースター。
そして、怒るアルフォリス。
「こりゃー! この根性なしめー!」
逃げ出したことに言っているのか、それともサービスシーンの過激さが温いことに文句を言っているのか、微妙な発言だった。
そんなこんなで、三下な空賊を探究者たちは撃退する。
依頼人を放置できないので追いかけることは出来なかったが、逃げた盗賊たちが見えなくなるまで警戒をし続けた。
そして安全を確認してから、浮島に大セレナの遺産を探しに降りるのだった。
○遺産を探そう
「なに、これ?」
「罠のつもりではないですか? かなり独創的ですが」
呆れたような声を、ヴァニラビットとイースターは上げる。
いま2人が居るのは、空賊たちのアジトである。
飛空艇から浮島を見て回った時に、隠そうともしていないアジトを見つけ、大セレナの遺産のヒントでもないかと訪れたのだ。
アジトの中は、進んでいると何故か子猫や子犬が出て来たてじゃれて来たり、やたらと巧妙に隠してあった金庫を開けてみれば中に入っていたのは「大人のいやんな大全集」だったりと、訳の分からないものが多かった。
道中、現れた子犬と子猫をパールが保護して飛空艇に連れていっているので、今アジトに居るのはヴァニラビットとイースターだけだ。
そんな中、更に進んでいると、罠らしきものに出会ったのだ。
「これ、ロープ罠よね、多分」
ヴァニラビットの視線の先にあるのは、レース状のリングアクセサリーに縄が付いたものだ。
「リングアクセサリーを身に着けたら、縄に引っ張られて動きを止める罠のようですね」
「なんで、そんな罠になってるのかしら?」
疑問の声を上げるヴァニラビットに、イースターが推論を返す。
「恐らく、ひとりでに縄が巻き付く罠が作れなかったのでしょう。だから自分から罠にかかりたくなる物を作った。そういうことではないですか?」
「……なるほど。苦心の作って感じね」
「発想の初期で間違って、そのあとに迷走した感じがします」
「作っている内に、後に引けなくなった感じがするわね」
「頑張れば良いという訳ではない、良い例ですね。しかし、これは――」
レース状のリングアクセサリーを観察していたイースターは、気付いたことを口にした。
「ケモモ用の罠ですね。尻尾や耳に着ける用のアクセサリーです。試しに、身に着けてみますか?」
「……そうね。身に着けるかどうかは別にして、諸経費の足しにでもさせて貰いましょう」
そう言って、ヴァニラビットは縄からリングアクセサリーだけを慎重に取り外し手に入れると、更に先に進む。
すると、倉庫っぽい部屋に辿り着く。
データではない、紙に書かれた資料の山に、何か手がかりがないかと探してみる。
「これも違う……これは? うーん」
次々手に取って調べ、やがて一つの地図を見つける。
「これって、ここの浮島の地図よね」
エスバイロで上空を見て回った時の島の輪郭の一部と、地図が合致していることに気づく。
それをイースターも確認し、現時点で観測した島のデータと照合する。
「ほぼ、間違いないでしょう。しかしそうなると、この記しの付いた所は一体なんでしょう?」
浮島の幾つかの場所に付いた丸印と、バツ印。
それを見たヴァニラビットは、ひらめきを得る。
「これ、大セレナの遺産があるかもしれない場所が記されているんじゃないかしら? 空賊も、探してたみたいだし」
空賊を追い詰めた時に訊いた質問に、空賊が応えた内容を思い出す。
場所は知らないようだったが、探していたようである。
「確かに、その可能性は高いですね。しかしそうなると、丸印が予想地点。バツ印が、すでに探してみた場所といった所でしょうか?」
「かもしれないわね。となると、残った場所のどこかになる筈なんだけど」
五つほど残った丸印に、どこが本命か悩んでいる頃、フィールとアルフォリスは手掛かりを上空から探っていた。
「遺産って、なんだろうね?」
エスバイロで島の上空を探索しながら、フィールはアルフォリスに話し掛ける。
「さて、なんじゃろうな。役に立つものであればよいが」
浮島の地形データを収集しながらアルフォリスは返し、続けてフィールが言った。
「他とは違う、目立つ場所があれば、そこを探してみるんだけど」
「今の所、見つからんのう。どこもかしこも、手付かずの自然が広がっとるだけじゃ」
全てが樹で生い茂っているという訳でもなく、場所によっては湖や草原の広がる場所もあるのだが、それでも特別に目を引く変わった場所が一目見て分かるというほどではない。
「目印に、なりそうな場所もないね」
「確かに。じゃが、遺産は人の手で隠されたものじゃ。あとあと野生動物に荒らされんような場所を選んだ可能性は高い」
「だったら、野生動物が寄り付きにくそうな場所を探してみよう」
アルフォリスの助言に、フィールは野生動物が寄り付きにくそうな場所を探してみる。
とはいえ、いま探している浮島はかなりの大きさなので、該当する場所は幾つかある。
それを運だけで探すのは骨が折れるので、スキルを使う。
「み~らくるくる☆マジカルを使ってみるね」
使用すると幸運が舞い込むと言われているスキル、み~らくるくる☆マジカルをフィールは使い、再び探索開始。
すると、ある一本の木に光る物を発見する。
気になって行ってみると、それは鳥の巣だった。
どうやら、鳥が何か光りものを見つけ巣に持ち帰っていたらしい。
なにかと思って近づくと、巣の持ち主である鳥が襲い掛かってくる。
「うわっ、ちょっと待って。別に卵とか狙ってるわけじゃないから」
慌てて離れるも、一羽だけでなく十数羽の鳥が興奮したように突きに来る。
鳥を撃ち落すのは気が引けるので、その場から離れる。
「うぅ、酷い目に遭ったよ。折角スキル使ったのに、幸運が来てないよ」
「……いや、そういう訳でもないようじゃぞ」
アルフォリスの言葉に、フィールは気付く。
慌てて逃げていたので、逃げ場所を考えずに移動していたが、そのお蔭で他とは違う雰囲気の場所に辿り着いていることに。
そこは、一際立派な大木を中心として、円周状に草原が広がっている。
大木の根元には、鮮やかなピンク色の薔薇が群生し、周囲には厳かな気配が漂っていた。
「この樹、なんだか他とは違うね」
「そうじゃな。あまり野生動物も近く居らんようじゃし、この周辺を探してみると良いかもしれんのう」
気になる場所を見つけ、しかし自分達だけで探索するのは手が掛かりそうだったので、皆を呼ぶ。
呼ばれて来たヴァニラビットは、空賊のアジトで手に入れた地図と場所を照合。
丸印は付いているが、バツ印は付いていないので、期待感を持って周囲を探してみる。
その際は、依頼人であるパールに付いて来ていた民間エンジニアのゴロー達が、音波を使った探知機を使って探索を手伝う。
すると、大木の近くの地面に、何かが埋まっているのが分かる。
早速、掘り起こしてみる。
シャベルで慎重に掘り続けること30分。
それは見つかった。
「うわ、綺麗。これってなにかな?」
目を引かれる綺麗さに、フィールが思わず声を上げる。
掘り起こされた地面から出てきたのは、一抱えはある代物だった。
「宝石、みたいね」
ヴァニラビットが、鑑定するように言う。
それは黄昏を切り取り固めたような色合いをした物だった。
企画屋として、宝飾品の類を取り扱うこともあるパールが、その正体を口にする。
「これ、琥珀みたいね。ここまで大きいのは、お目に掛かった事は無いけど」
天然樹液が化石化したものである琥珀は、その中に当時のものを閉じ込めたものもある。
その例にもれず、いま見つけた琥珀の中にも、幾つも何かが入っていた。
「指輪のようじゃのう」
アルフォリスの言葉の通り、それは指輪だった。
よくよく見れば、宝飾部分に何かが見える。
「これは……どこかの風景を記録したものでしょうか?」
イースターが宝飾部分を確認し、疑問を口にする。
イースターの言葉通り、指輪の宝飾部分には、それぞれ異なる風景が精緻に描かれ封入されていた。
それにパールが応える。
「これ、シークレットウッドだ。うちの孤児院に残ってる古文書に書かれてたよ」
「シークレットウッド?」
訊き返すフィールに、パールは応える。
「御神木の枝を指輪に、御神木の樹脂を加工したものを宝飾部分にしたものだよ。古文書が本当なら、フェアリーズの助けを借りて作る物らしいね」
「フェアリーズ、ですか? 確か、1000年以上前に居た魔物ですね」
イースターの問い掛けに、パールは返す。
「うん。といっても、色んな種類が居たみたいだけどね。シークレッドウッドを作るのを手伝ってくれたフェアリーズは、人懐っこかったみたい」
「そうなんだ。随分、精巧なものを作る力があったみたいね」
シークレッドウッドの宝飾部分に描かれた風景を見て、ヴァニラビットは興味深げに言う。
それにパールは説明する。
「シークレッドウッドを作って貰う人の想い出の風景を、フェアリーズが宝飾部分に刻んでくれたみたい」
これに、アルフォリスはひらめきを得て、それを口にした。
「なるほどのう。じゃったら、それが大セレナの遺産かもしれんのう。想い出の風景を刻んだシークレッドウッドを、残したということじゃろう」
これに、パールは感慨深げに目を細め同意した。
「うん、きっとそうね。自分が死んだ後も友達が思い出せるように、想い出を指輪に封じて残したのね」
パールは琥珀に手を触れながら、小さく呟く。
「確かに受け取りました。セレナさん」
その声は、酷く懐かしい響きを滲ませていた。
こうして探究者たちは見事、空賊を撃退し大セレナの遺産を見つけ出すことに成功した。
見つかった大セレナの遺産はパールが持ち帰り、孤児院に寄付したという。
1000年越しのバレンタインを成し遂げた依頼であった。
依頼結果