【空の農場物語】特産品が運ぶ未来pnkjynp GM) 【難易度:とても簡単】




プロローグ


 【浮島】。
 それは世界の崩壊を免れた古の大地。と言われている。
 空という絶海に浮かぶその場所には、まだ見ぬ……いや、忘れ去られた神秘が、今もなお眠っているそうな……。

~~~~~ 

「そろそろ、あれの収穫時期だな」
「ああ。まぁ今年は比較的実った方だが……やっぱり数は減ってきてるよな」
「仕方ないさ。俺達に出来るのは、このまま島の人間の為に出来る事をやり続けるだけだ」
 2人の男がそんな話をしつつ、目前の木を見上げる。
 木の幹には、茶色に色づいた果実がそよ風に揺れていた。
 
~~~~~

「カカオ?」
 1人の探究者が、思わずそう声を上げる。
 その声に【カンナカムイ】のシスター【桜礼(おうれい)】が応える。
「はい、チョコレートなどに使用されているあのカカオです。それを各々旅団まで持ち帰って頂きたいのです」
 探究者達は彼女の小型飛空艇に乗り込み、とある浮島へと向かっている最中であった。
 それはテレルバレルにて彼女の護衛任務を受けたからであったのだが……。
「このような騙す形を取ってしまい、申し訳ありません。ですが私めの行っている活動はあくまで慈善活動。物資流通といった経済活動に関わる行いを、表立って行う訳にはいかないのです……」
 その後、探究者一行は桜礼から詳細な説明を受ける。
 今一行が向かっている島は、【遠隔地】と呼ばれる大型旅団から距離がある地域に浮かぶ島であり、その存在を知って以来、桜礼は【ワールズ教】のシスターの務めとして、医療や学問的知識の提供を中心とした慈善活動のため度々足を運んでいた。
 だが先日、その島で大きな問題が起こる。
 かねてより島に影響を及ぼしていた空賊と、桜礼との間で衝突が起きてしまったのだ。
 彼女に同行していた探究者の活躍もあって、空賊による直接の被害が桜礼や島民に及ぶことは無かった。
 だがそれにより、空賊によって管理されていたこの島の物資流通は途絶えてしまい、島はこの空で完全に孤立する状態となってしまったという。
「人間の治療とはお金がかかり、経済的価値は薄いもの。そういった部分を私め達に行わせ、自分達は不当な取引によって、利益の上がる物流のみを統括する……それが賊の皆様のお考えだったのでしょう。そうした行いを容認できるわけではありません。ですが、彼らによって島に旅団からの物資が流れていた事も事実です。もしそれがこのまま絶たれてしまえば……島民はいずれ、生きる術を失ってしまうでしょう」
 ベールの下に隠された彼女の瞳が、探究者達には影がさしたように思えた。
「あの時の私めには、そういった事情を推し量るだけの情報を持ち合わせておりませんでした。ですが……」
 知らなかった。それは決して、今を見捨てる理由にはならない。
 彼女は自身の意思で、この島への支援を行う事を決めたのであった。
「今回護衛の依頼でお渡しする報酬とは別に、報酬をお支払い致します。どうかこの依頼を、お引き受け頂けないでしょうか」
 桜礼の願いに、探究者達は顔を見合わせると、全員で頷き合った。
「お心遣い、感謝致します」
 桜礼は探究者達に深く頭を下げる。こうして一行は、護衛という名の物資運搬という依頼をこなすことになったのであった。

~~~~~

 目的地についた一行は、東西に3つ並んだ浮島の内、東端である一ノ島へと降り立った。
 気嚢植物によってつくられた人工の足場に腐葉土を撒いて作られた大地は、発着場となるよう手が加えられている為に、気嚢植物が傷つく事さえなければ足元に不安はない。
「さぁ、参りましょう」
 島と島をつなぐ橋を渡り、二ノ島へと向かう一行。
 道中、桜礼から島の特産品について説明を受ける。
「今の時期、この島では先程説明したカカオが取れるのです。イベント事との頃合いも丁度良いですから、空賊様達も、安いなりにそれなりの報酬を支払っていたそうなのです。昔は他にも空鯨漁で得た加工品なども払い出していたそうなのですが、今の島の状態では空鯨を狩る事自体が難しいそうで……漁に出なくなって久しいと伺っております」
 その他にも農産品を生産しているため、旅団にて販売出来そうな物を桜礼の資金で自由に買い付けて欲しいとの事であった。
「以前の事件がありましたから、ここにお住いの皆様は基本的に皆様に融和的であると考えます。ですが大型旅団での常識はこちらでは非常識となります。収穫のお手伝い等を通して、こちらでの文化を知って頂ければ、より理解が深まるのではないでしょうか」
 そこまで話し終えたところで、一行は目的地であった屋敷へとたどり着く。
 二ノ島の中心部に立つこの場所は、島の人間にとって集会場のような役割を果たしていた。
「それでは、私めはここで通常の慈善活動を行っております。何かあった際にはお声がけ下さいませ」
 彼女は探究者達に必要な資金を渡すと、先ほどよりは浅い礼儀正しい一礼をし、屋敷の中へと入っていった。

 こうして、残された探究者達は買い付けの為にこの島を歩き渡る。
 発着場として利用され、それ以外には殺風景な一ノ島。
 自然の大地の上に成り立った住居や木々の中で、人々との交流が行える二ノ島。
 島の住人の生活を支える農産物が生育されている西端の三ノ島。
 
 彼らがここで過ごす時間は一体どのようなものになるのであろうか。



解説


 テレルバレルからの依頼は桜礼の護衛という内容ではありましたが、
 今回は「島の品々を何か1つでも持ち帰る」事が出来れば成功となります。
 この島で以前起きた出来事は「心空輪舞曲~」というエピソードに当たりますが、こちらを未読でも参加に全く支障はありませんので初めての方もご安心下さいませ!

 さて今回のギミックですが、
 一ノ島:サッカーコート程度の広さ。船の発着場として利用されている。農作物等はない。気嚢植物による人口の大地で構成されている。
     以前登場したNPC【弥陸(みろく)】はこちらで【キュービー】という生き物の世話をしています。
 二ノ島:居住スペースとして利用されている。過去の大地の破片とされている自然物で出来ている。大地に根付いた植物や「カカオの木」などが存在する。
     NPCの桜礼はこの島にある3階建ての屋敷にて、病人の治療や子供の世話をしています。
 三ノ島:大規模な農作スペース(一ノ島3つ分)。気嚢植物による人口の大地で構成されている。植物の生育を優先しているため、足場は比較的脆い。以前空鯨漁で使われていた見晴らし台があり、付近の空が良く見えます。
     各種農作物を品定め出来ます。

 上記ギミック内において、農産物を収穫したり、島の文化や歴史を知ったり、島に新たな文化を伝えて頂くなどして頂ければと思います。

 この島はタイトルにもあるように、【空の農場物語】として今後も継続して出していく予定です。
 島の呼び名や新たなギミックの提案、どんな特産品があるのかなど、皆様次第で島の発展も衰退(!?)も思うがままですので、自由なアイデアでプランをご提出して頂ければと思います!



ゲームマスターより


 皆様の意見を反映できる場所を作りたい!との考えの元、このようなエピソードを用意致しました。
 世界観の許す範囲内で、日常を色々と楽しめる場所になっていければ幸いです。
 一応島の人々との触れ合いを求める内容にはなっていますが、アニマとの日常を楽しむというプランでも問題はありません。基本的に何でもアリですのでエピソードの参加を通して是非PCやアニマの設定を深めていって下さいませ!
 それでは、リザルトにてお会い出来ます事を楽しみにしております!



【空の農場物語】特産品が運ぶ未来 エピソード情報
担当 pnkjynp GM 相談期間 7 日
ジャンル 日常 タイプ ショート 出発日 2018/1/31
難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 公開日 2018/02/10

 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
目的
二ノ島でお手伝い

行動
カカオ…カカオって媚薬じゃなかったけー…?ま、いっか
収穫したら、少しだけ分けてもらえると嬉しいなーというわけでラビッツ、交渉よろしくよろしくっ!

浮いているからか、いー天気になりやすそー
この光景を見るためにここに来る人もいるかもね
この島の名前…特に決まっていないんだっけ?私はどっかの国の星空の神の名前「アストライオス」を推しておこうかなー
住人が決めるのが一番だとは思うけどね!

あ、そだワタシ、桜礼さんに用事あるんだった
治療の仕方とか違ったら、学べるじゃん?
文化とか結構違いそうだし、学ぶこといっぱいありそー
代わりににお手伝いもちゃんとするよ!マッドドクターだからね!
 ヴァニラビット・レプス  ( EST-EX
 ケモモ | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
◆目的と予定
島で子供たちとの交流とお手伝い。
それと作物について

◆行動
まずは島についたら再開の挨拶と、桜礼のお仕事の手伝い。
そのうえで先日の続き…子供たちとの交流、外の世界の話(先日のクリスマス大規模作戦とか、『正義を燃やせ、追いつけるまで!』のような、わかりやすい冒険譚とか)をしたり、逆に島や周辺の伝承、最近の噂を聞いてみたり。
(遺跡とか空賊とか冒険の匂いがするところは別の機会(シナリオ)で探索に行けたら…)

また大人たち向けの話で…過去の大規模作戦で手に入れた『フラグメント椰子の種子』を預けられたら。
上手く育てば…程度だけど、育てば希望になるかもしれないし、自分の手元にあるより役に立つかと

参加者一覧

 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
 ヴァニラビット・レプス  ( EST-EX
 ケモモ | マーセナリー | 20 歳 | 女性 


リザルト


●カカオ収穫のお手伝い
「さーてと、どうしよっか?」
 屋敷に入る桜礼を見送ると【アリシア・ストウフォース】は共に同行した【ヴァニラビット・レプス】に問いかける。
「そうね。私は桜礼さんと一緒に屋敷の方でお手伝いでもしようかしら。前回来た時にはバタバタしてたから、島の人達にきちんと挨拶とかしておきたいし」
「そっかそっか。それじゃアタシは先にカカオを見に行ってこようかな!」
「了解。それじゃあ後で屋敷で合流しましょ」
 そう言ってヴァニラもまた屋敷へと入っていく。
 アリシアは屋敷とは反対方向、二ノ島内にある植林地に向かって歩き出した。
「う~ん……! いや~、それにしてもいい天気だね、【ラビッツ】」
(そうだね~。普通の青空なのに、いっつもよりキレイに見えるかも!)
 アリシアは道中、アニマであるラビッツと他愛のない会話をする。
 真っ直ぐに伸びる澄んだ青空。優しく体を撫でる風……。
 それら全ての自然が、彼女達にとってはもの珍しい事柄であった。 
 それもそのはず。普段彼女達探究者が生活を送るのは7つの大型旅団のどれか。大型旅団は空を渡る箱舟であり、同時に人々が生活を送る人工の土地である。
 旅団の生活区画は一般的に、天候による不便が生じぬ様透明な天窓に覆われ、内部の気候は通風設備によって快適に調整される。そのため彼女達がこうして自然を感じられる機会は意外に少ないのだ。
(でも不思議だよね~。この島って普通の地面? のはずなのにどうやって浮いてるんだろうね?)
 ラビッツは簡単に自身の周りの地面をスキャンしてみる。
 だが機械的に浮遊を促す何かは探知できなかった。つまりこの状態は、現代の理論でいえば『ありえないけど浮いている』という事になる。
「ワタシ達にすれば変な話だけどねー。こっちの人には当然の事なんだろうけど……そういうの、不安じゃないのかな? 後で聞いてみよーっと」
 そうこうする内、アリシアは目的の植林地へ到着する。
 桜礼が話を通していたようで、2人の男が彼女を出迎えた。
「あんたが手伝いに来たっていうやつだな。桜礼さんから話は聞いてる。取り敢えず、こいつを使ってくれ」
 男の1人がアリシアに鉈のようなものを渡す。
 それを確認したもう1人の男が手近な木に歩み寄り説明を始めた。
「この辺りのは全部カカオの木だ。幹の部分から垂れてる赤茶色だったり黄色だったり……こういうのが実だから、まずはこうやって切り落とす」
 男は慣れた手つきで次々と実を落としていく。
「さ、あんたもやってみてくれ」
「ふ~ん。とにかくバンバンやっちゃえばいい感じだね。オッケーオッケー!」
(ア、アリシア! 気を付けてね!)
「大丈夫大丈夫! んしょっと!」
 アリシアは勢い任せに鉈を振り下ろす。やってみると木と実の接合部分はそんなに固くはなく、スパっと切り落とすことが出来た。上手くねじってやれば引っ張るだけでも取れそうなくらいだ。
「おー取れたー! ほらね? 大丈夫でしょ?」
(むぅ~……ケガしても面倒みてあげないよ?)
「アハハ、ゴメンゴメン! ちゃんとやりますよ~。よし、次はこれ!」
「待ってくれ、その緑のはダメだ。まだ熟しきれてないぞ」
 時折男達からの指導を受けつつ、ルンルンと鼻歌混じりで収穫を進めていくアリシア。
 葉に隠れた高い所にある実はラビッツに探してもらい、2人で会話をしながら初めてにしては手際よく作業をこなしていく。
 そんな彼女の様子を、男達はチラチラと伺っていた。
 流石に彼女もその視線が気になり、声をかけてみる。
「ん? どうかしました? もしかして何かやり方間違ってたとか!?」
「ああいや、そうじゃないんだ。あんた、さっきから独り言ばっかり言ってるから気になってな……あんた、何か憑いてるのか……?」
「独り言? ……あぁそっか! すみません、オープンで話した方が良かったですね」
 彼女はラビッツをオープンモードで再起動させる。
 当然、そうすることでアニマは他者からも可視化され、彼女の横には半透明の少女が姿を現す事となる。
 白いセミロングの髪に赤い瞳、そんな特徴を持つ少女が空中に浮いているのである。
 旅団ならば、そんなラビッツの姿は兎のようで可愛いね~という反応になるのであろうが……
『うおおおあ!?』
 男達は、自分達の理解を超える突然の出来事に尻持ちをついてしまうのであった。

~~~

「いや、すまない。どうにも俺達にはその『アニマ』というのがいまいち理解出来なくてな……」
「うぅ~……幽霊扱いなんてされたの初めてだよ~……」
「アハハハ! まぁまぁ。これでラビッツも一発ギャグが出来るようになった、ってことで!」
「アリシアぁ~!」
 アリシアと島民との交流は続く。
 ほんの一部ではあるが浮島での生活を体験してみて思うのは、旅団の人間から見ればとても原始的であるという事だ。
 食料は工業プラントで生産され出てくるわけではなく自分達で用意する必要がある。また自分の身体の具合は数値として認識することは出来ない。当然時間の管理も曖昧だ。
 もし、自分が浮島に生まれ暮らしていたら。
 ワタシはこのアニマという存在を、そこにいると信じられないのだろうか。
 一瞬そんな疑問が頭をかすめたが、アリシアはそれ以上深く考える事を止めた。
 少なくとも今、彼女にとって間違いなくラビッツは存在しているのだから。
「今回はこんなものか。後はこれを屋敷まで運ぶぞ」
 収穫を終えた3人は、台車や背負い籠に詰めた実を運んでいく。
「結構、重いー……!」
「おいおい大丈夫か? 1つ1つは軽いが数が数だ。あんまり無茶するなよ」
「ありがとおじさん! 平気だよ!」
「アリシア頑張って! これだけあればきっとチョコレート沢山食べられるよ!」
 運ぶ事に参加出来ないもどかしさもあるラビッツは、必死に声援を送る。
「楽しみにしてるところ悪いが、この後は実の中身を発酵させたり色々工程があるからな。そう簡単にはチョコレートなってくれないぞ」
「ふえー!? 大変なんだね、チョコレート作りって……」
 がっくりと肩を落とすラビッツ。
 カカオが甘く美味しく生まれ変わるのは、まだまだ先の話になりそうだ。



●子供達のお世話をお手伝い
 時は遡り。
 アリシアと別れたヴァニラは桜礼の後を追って屋敷の中へと入っていく。
「お邪魔するわよ」
「あー! ウサギのお姉ちゃんだー!!」
「ホントだー!」
 外界からほぼ閉鎖されているこの島にとって、ヴァニラは普段目にする事の無い貴重な客人だ。
 特に彼女の場合は特徴的な耳を持つケモモ族。
 以前の依頼でこの島を訪れた際出会った子供達は、彼女の事を覚えていた。
「皆久しぶりね! 前は色々慌しくなっちゃったけど、今日は色々と頑張るわよ!」
「あ、姉ちゃんの銛カッケー!」
「髪キレー!」
「それは銛じゃなくて槍……ああちょっと!? そんなに引っ張ったら?! ほらほら分かったから、皆ちょっと待ちなさいってば!」
(くすっ。良かったですねヴァニラ。こんなにも子供達に囲まれて……お望み通り人気者ですよ?)
 腕や服の裾を引っ張られ、てんやわんやな状態の主人を見ながら【EST-EX(イースター)】はほくそ笑む。プライベートモードの彼女は子供達に認識されることはないため、遠目からこの騒ぎを楽しんでいた。
「ほら皆、ヴァニラビット様がお困りですよ? 一度席について下さい」
『はーい!!!』
「ふぅ……助かりました、シスター」
「いいえ。子供達がご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「良いのよ、迷惑だなんて思ってないし。今日は子供達と触れ合ってみたいと思ってたところだから」
「そうでしたか。ではこちらで私と子供達のお世話をして頂いても宜しいですか?」
「もちろんよ」 
「ありがとうございます。それでは2階の物置に、私めの名前が書かれた授業用道具がおいてあります。持って来て頂けますでしょうか?」
「了解」
 どうやら本日の桜礼の予定は、子供達へ勉強を教えるところから始まるらしい。
 彼女に促され、ヴァニラは屋敷の階段を登っていく。
(それにしても……以前も思いましたが、随分とおかしな様式の屋敷ですね。ほとんどが木造で作られている割に、所々には金属を練り込んでいる反応があります)
「確かここに来た商人が建てたって話よね? 自分の手持ちのものとありあわせの材料で作っただけの話じゃないの? ほら、強度を高めたいとか?」
(そう結論付けるのはいささか短絡的な気もしますが……まぁいいでしょう)
「そういうのを考えすぎって言うのよ」
(ん、どうやらこの先の部屋の様ですね)
 普段イースターには言われっぱなしな事も多いヴァニラは、ここぞとばかりに言ってやったという顔をしていた。
 だがイースターはそれを気にも留めていない様子で、物置の場所を指し示す。
「えっと……って、凄い数ね」
 そこには『桜礼:○○用』と書かれた段ボールが所狭しと並べられていた。
 治療用、授業用、調合用……中にはヴァニラでさえも目を見張るような高級品が、カギもない部屋に無造作に置き去りにされている。
「いくら何でも不用心過ぎるんじゃないかしら、これ?」
(よく空賊に見つからず済んだものですね。まぁ、空賊にすればこの屋敷は子供と病床に伏せる老人の溜まり場。あまり価値を見出さなかったのかも知れませんけど)
「まぁいいわ。早いとこ持って行くとしましょう」
 ヴァニラはパンパンに膨れた授業用の段ボールを持ち上げると、急ぎ1階へと戻るのであった。

~~~

「では、今度は植物へ丁度良い日光を与えるために、植える場所を決める方法を皆で考えてみましょう」
『はーい!』
 ヴァニラが運んだ道具を使い、子供達は桜礼から授業を受ける。
 内容としては単純な数学や読み書きといった内容に留まらず、気嚢植物の育て方やこの島で生きる上で必要な教育が施されていた。
 その様子を授業参観宜しく見学しているヴァニラだったが、彼女に話しかけてくる中年の男がいた。
「なぁあんた、今ちょっといいか?」
「……あら、あなたはあの時の……良いわよ」
 彼女に話しかけてきたのは、以前の事件でヴァニラに桜礼を差し出すよう脅した集団のリーダー格の男。
 多数に囲まれた状況であったにも関わらず、あの時のヴァニラは一歩も引かず見事桜礼を守り切ったのであった。
 彼はヴァニラの横に並び壁へもたれかかると、目も合わせぬまま話し始める。
「正直、もうここには戻ってこないと思ってたよ。桜礼さんも、あんたも」
「そうですね。そういう人も多いかと思いますけど、シスター桜礼の、この島を想う気持ちは本物だと思いますよ。あの時だって進んで身を差し出そうとしてましたし」
「その……この前はすまなかった。武器を向けたりして……」
「良いんです。私としては気にしてませんから。結構ああいうの多いんですよ? 傭兵って仕事をやってると」
 それに武器を向けたのは私も同じことですし、とヴァニラは普段通りの口調でそう付け加える。
「あなた達に守りたいものがあって、私達にもそれがあった。互いの守りたいものが違えば意見がぶつかるのは仕方のない事です。守りたいものの為に武器を手に取る事も……。勿論こうして冷静に話し合えるのであればそれに越したことはありませんけど」
「だから武器を向けた事に関して、私は悪い事をされたとは思っていません。ただ、それが人を傷つけるために向けられている、その事が問題なんだって、私は……そう思います」
 これまで何度も空の世界で戦ってきた彼女の言葉は重い。
 大地に縛られず、鍛え上げた己の力で、自分の信じる正義を貫き通す……それこそが、彼女なりの【天空依存症候群(ソライズナ)】思想であった。
 その真っ直ぐな考え方は、島の中という小さな世界しか知らなかった男に深く、響く。
「……そうか。そうだな。この空で生きているのは自分達だけじゃない。思い出したよ……ありがとう」
「私は何もしてませんよ」
 男はヴァニラの方に顔を向ける。
 そうして男は優し気な微笑みを浮かべる彼女と、やっと視線を交わしたのであった。
「それでは、本日私めの授業はこれにて終了と致します。次は……ヴァニラビット先生による、運動の授業です」
「ええっ!? ちょっと桜礼さん!?」
「わー! 運動だー!!」
「遊ぶぞー!」
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
 数時間ぶりに、再び子供達に囲まれる彼女。
「お手伝い、宜しくお願い致します。ね?」
「全く……桜礼さん。落ち着いた方かと思ってましたけど、貴女もいきなり結構な無茶ぶりをしてくるんですね」
(おや、では辞めますか? こんな数の子供達は面倒見切れません! なんておめおめと)
 こう言われてしまっては、断れば女が廃るというものだ。
「そんな訳ないでしょ。さ、行くわよイースター! 皆~! 今日はお姉さんといっ~ぱい、遊びましょう!!」
『わー!!!』

~~~

 アリシアが収穫を終えて屋敷に戻ってくる頃には、子供達は土まみれになりながらヴァニラ先生の特別授業を堪能している最中だったそうな。
 
 



●種を宿し、聖名(みな)が甦る
「そーら!」
 ヴァニラは、授業道具として桜礼が用意していた柔らかなボールでドッジボールを行っていた。
 と言ってもヴァニラ対子供達全員、陣地無し、何度当たっても終わりなしという変則マッチ。
 彼女は程よく球に当たってあげつつ、子供達を走らせる。
(ヴァニラ、右の子が狙ってますよ)
「見えてるわよイースター!」
 男の子の狙いすました球が、彼女の胴体を完璧に捉える……! はずだったが、ヴァニラは空中で体制を変えると器用にそれを回避する。
「えー?! マジかよー!?」
「ふふっ。ほらほら、私はまだまだイケるわよー!」
「くそー! もう一回ー!」
 キャッキャッワイワイ。
 屋敷の前に響き渡る子供達の声を聴きながら、屋敷内では桜礼とアリシアが、病人の治療を行っていた。
「アリシア様。ここはそちらの薬ではなく、こちらの薬を投与して下さいませ」
「え? このお婆ちゃんの症状だと、こっちの方が効力は高いと思いますけど……?」
「はい。ですがこの島の方々はそちらの薬に混入されている成分が体質的に合わないようなのです。恐らく自然の気候で生きてきたために、私達とは体の構造が微妙に異なるのでしょう」
「そっかー! 分かりました! じゃあラビッツ、この薬調合し直しだから配合率の計算宜しくね! それからそっちの男の子の分の消毒液、後3階で寝てるお姉さんの検査結果、早めに教えてー」
「はわわはわ!?! えっとえっと……」
 ヴァニラの方がワイワイだとすれば、こちらはバタバタが適した擬音であろう。
 同じマッドドクターとして、先人に医療の知識を学ぶためアリシアは片っ端から患者を診ていく。
 カカオ狩りとは違い普段通りの医療のお手伝いと安心していたラビッツだったが、あまりの忙しさに目が回りそうになっていた。

~~~

 そして時は流れ。
 島での手伝いを終えた一行は屋敷にて帰りの準備をする。

「ふーっ。忙しかったけど、楽しい一日だったー!」
「ははっ。今日は収穫から治療までありがとうな嬢ちゃん。助かったよ」
「いえいえ~……ってはっ!」
「どうしたのアリシア?」
 突如何かを思い出したかのように固まる主人の顔を、ラビッツは不思議そうに覗き込む。
「カカオの事頼むの忘れてたー! それじゃ、交渉よろしくっ! ラビッツ!」
「ふえっ!? そ、そんな、突然交渉とか任されても困るよー!? 何言っていいかも分からないし?!」
「大丈夫! 今日一日でこんなに受け入れてもらったんだから! おじさんは友達、怖くないよ?」
「怖いとかそういう問題じゃなくてー!?」
 小さな声で二人だけの会議は続く。
 だが結局は主人に逆らえないと悟ったのであろう。ラビッツは男達に向き合うと、涙目になりつつも上目遣いでこう言った。
「あ、あの……私達、収穫とかしてみて、楽しかったよ? それでね、この島の事、もっと一杯皆に知って欲しいって思うから……その、か、カカオ! 少し譲ってほしいの! お願いっ!!」
 髪の中で耳の様に伸びた部分を握りしめながらラビッツは頭を下げる。
「ふぅ……だってよ? どうする?」
「まぁ、前みたいな暴力で言う事を聞かせてくるやつらに渡しちまうよりは、この子達に渡してあげたい気はするが……」
 カカオから作られるチョコレートは、この島に暮らす人々にとって貴重なエネルギー源だ。
 今回収穫を行った2人の男も流石にタダで譲ってしまう事には抵抗を感じているようであったが……。
「いいんだ。持って行ってもらえ」
 そんな2人にヴァニラと共に居た男がそういった。
「今日この人たちに触れ合って良く分かった。この人達は俺達を見捨てない。だからもう一度信じてみよう。あの商人みたいに……な?」
「……ああ」
「分かった!」
 こうして彼らは、ヴァニラやアリシアの活躍によって、今後物資の運搬を探究者達に担ってもらう代わりに、島の文化や資源を旅団に提供することを決めたのであった。

~~~

「じゃーなーウサギの姉ちゃん! 今度は負けないからなっ!」
「お姉ちゃん、またお空で悪い人やっつけた話聞かせてね!」
 子供達がヴァニラにまだ話したりないとばかりに押し寄せるが、彼女は手を振ると子供達と距離を取る。

「もう……はいはい。また絶対来るわ。約束よ!その時まで、キミ達は元気にお父さんやお母さんのお手伝いをしてること。良いわね!?」
「はーい!」
(すっかり体育のヴァニラビット先生ですね。くふふ)
「イースター、うるさいわよ。でも、たまにはそれも……悪くないかも」

 別れの挨拶を終えた一行を乗せた小型艇は、島民に見送られながら空へと旅立っていくのであった。

~~~

「お疲れ様! ヴァニラビットさん。こんなにカカオもらえたよ!」
「アリシアもお疲れ様。凄い数ね~……ん? 『アストライオス』?」
 カカオを詰めた箱にはアリシアの手書きで聞き馴染みのない言葉が書かれていた。
「ああ、その箱に書いてある名前? 島で治療のお手伝いをする前に、おじさん達と発酵作業やってたんだけど、その時に聞いた話でさー。何だか昔そんな名前の人があの島の部分の大地を浮かせて、空に逃がしてくれた伝説があるんだって! だからその名前を付けて、旅団で紹介しようと思って! きっと皆興味持ってくれるよねー」
 ニッコリ微笑むアリシアは満足げな様子だった。
 アストライオス。それはきっとこの島だけに伝わる小さな伝説。
 だがその伝説は小さいからこそ、この島を顕すには十分過ぎるだろう。
「なるほど。アリシアもそういう話を聞いてた訳ね」
「ってことはヴァニラビットさんも?」
「ええ。私はかつてあの島でフラグメントが採掘されてた洞窟の話を聞いたの。それとあのお屋敷を立てた商人の事……」
「へー! 面白そう! 聞かせて!」
「ええ。私もカカオの収穫の話、聞かせてもらいたいわ」
「ふふっ。皆様があの島を好いて下さったようで……私めはとても嬉しく思います」


 こうして一行はガールズトークに華を咲かせる。
 優しい小悪魔が名前を取り戻したあの島は、これからはちゃんと空の世界の一部としての時を刻んでいくのであろう。
 そしてこれからの交流が深まるようにと、黒兎が植えてきたとある種が……。
 これからあの島に何かをもたらしたりもたらさなかったりするのであるが、それはまた別のお話。




依頼結果

成功

MVP
 アリシア・ストウフォース
 デモニック / マッドドクター

 ヴァニラビット・レプス
 ケモモ / マーセナリー

作戦掲示板

[1] ソラ・ソソラ 2018/01/21-00:00

おはよう、こんにちは、こんばんはだよ!
挨拶や相談はここで、やってねー!  
 

[2] ヴァニラビット・レプス 2018/01/29-20:52

っと…だいぶ過ぎちゃったわね。
マーセナリーのヴァニラビットよ、今回もよろしく。
島には一度来たことがあるし、お手伝いと…あと作物の提案をしてみようかな。
ちょうど種が一つあるのよね、手元に