【サンタ狩り】マッチ売りの症状(≠少女)桂木京介 GM) 【難易度:普通】




プロローグ


 しんしんと雪つもりゆく、夜の町の片隅です。
 ひどく冷えるこの場所で、声からす物売りの少女がおりました。
 誰にも買ってもらえぬマッチをたくさん、バスケットに入れているのです。
「マッチはいりませんか? マッチは……」
 無視され、拒絶され、はねのけられるたび、少女の声はか細くなっていきます。
「よく燃えるマッチです。暖かな火のともるマッチです。とても勢いのいい火なんです……」
 とうとう少女は力を失い、その場に座り込んでしまいました。
「とってもいい火なんです……本当です…………おまえらを焼き尽くしてしまえるくらいになァ!!!」
 イッヒッヒー! 少女は身をしならせ常人とは思えぬ角度でバック転すると、真改造した俺ジナル【マッチ箱型エスバイロ】に飛び乗り空中から、ひとつひとつが新体操の棍棒くらいはある投擲炸裂弾マッチ暴(誤字ではない!)を次から次へと降らせてくるのでした。
 なんだこの話!!!

 で、この話は本当のところ、『町の片隅』ではなくて【クリスマスツリー型三択空賊浮遊要塞】が舞台なのである。
 文中の『行き交う人々』だって、買い物客とかそういうのではなく、ソリ型エスバイロでぶつかってくるサンタコスプレ空賊野郎どもだったりする。
 要するにこれは、聖夜期限定空賊【三択弄す(サンタクロース)】団一掃作戦の途上で、あなたたちが出会った、常軌を逸した敵幹部との遭遇戦を描くという、外伝的戦闘エピソードなのであるよ!
 あなたたちをだましおおせたと信じると、少女はきっとこう言うだろう!
「イッヒッヒー! か弱いマッチ売りの少女と思って油断したねェ! オニーサンにオネーサン、童話の読み過ぎじゃアないかい!? 聖夜・雪空・マッチの行商、とくれば『マッチ売りの少女』だとうっかり早とちりするなんて、もうこれは末期……末期症状!」
 空賊の要塞攻略戦中にこんな『うっかり』する人なんていないと思うが……誰か、ツッコんでくれ。
 また、こんな名乗りもすることだろう!
「あたしは【三択弄す】団四天王のひとり、【マッチ売りの症状】!」
 たぶん、残りの三人は出ないと思う。
「ルーベンスの絵を見た後、あの世に連れて行かれるのはおまえらさ!」
 いやそれ別の……ええい、誰かツッコむか、こいつを倒すかしてくれ!(両方でも歓迎)


解説


 史上最大のクリスマスツリー攻略戦(クリスマス大規模作戦『輝け聖夜! 天空のサンタ狩り!』の【狩れ! 三択弄す(サンタクロース)!】ですね)が繰り広げられているなか、ツリー内に設けられた街角のような舞台装置にて、あなたたちはこの女幹部と遭遇します。

 彼女は12~3歳程度に見えますが、実はとっくに成人女性でしかもヘビースモーカーです。ロリ顔をいかしてこのような邪悪な作戦を用いているだけなのです。
 最初は「マッチを買ってください」などと泣きついてきますが、買おうが買うまいが足蹴にしようが、必ず正体を現して襲いかかってきます。

 舞台装置は天井が高いので、こちらもエスバイロに乗って空中戦を繰り広げましょう!
 彼女は理不尽なほど高性能なエスバイロを有しているので追いつくだけで苦労しそうです。

 主として使う武器は【マッチ暴】とか名付けていますが、要は棒状手榴弾です。投擲後数秒ですさまじい閃光と熱を発し、砕けた破片でダメージを与えてきます。
 どこまでが本当かはわかりませんが、彼女は幹部なので、サンタ空賊(ソリ型エスバイロで武装)を呼び出して自分の盾や攻撃要員に回してくる可能性もあります。

 プロローグ内の台詞からもわかるように、彼女は自分が頭がいいと信じており、みなさんは自分の策にひっかかるものと決めつけています。
 その裏をかいたり、逆にきっぱりと反論して凹ましてやりましょう。

 勝利できれば成功とします。



ゲームマスターより


 ここまで読んでくださりありがとうございました!
 マスターの桂木京介です。
 そもそもダジャレみたいな連中が敵なので、幹部クラスもこんなやつだったりしますが、あきれつつも叩きのめしちゃってください。
 戦闘、といってもコミカルなお話なので、彼女が死んでしまうという結末にはならないでしょう。

 それでは、リザルトノベルでまた会いましょう!
 桂木京介でした!!



【サンタ狩り】マッチ売りの症状(≠少女) エピソード情報
担当 桂木京介 GM 相談期間 3 日
ジャンル 戦闘 タイプ ショート 出発日 2018/1/8 0
難易度 普通 報酬 通常 公開日 2018/01/18

 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 
・フ

うう、ひもじい。そこの幹部を倒して私のご飯(報酬)にして、せめてこの聖夜にはマトモナご飯が食べたい!。

まっさきに遠距離からテンペストで、きゃるーん的なビームで怒らせます。

で、やきい~れ☆デッドハントで、このひもじさをあの幹部に叩き付けます。


高速エスバイロを使ってる事について

「接近戦を避けて逃げ回るなんて……きっと四天王最弱とか呼ばれてるに違いない!」


・ア


あの棒状手榴弾がめんどーじゃな。爆発する前に、フィールに対応させてカウンターさせるかの。

アレの行動パターンを我が演算能力で分析するぞい。棒状手榴弾を投擲する瞬間を見計らって、フィールの魔法で迎撃させてアヤツの目の前で暴発させてやろうかのー?
 ヴァニラビット・レプス  ( EST-EX
 ケモモ | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
◆方針と担当
野球しようぜ!お前ら守備側な!
と、いうことでマッチ暴を打ち返す(物理)

◆行動
演技に付き合ってやりつつ、タイミングを計ってこちらのペースに引き込む
(※しょうもなさにもはやヤケクソというか悪ノリ気味です)
「本当、いいマッチね。とてもよく炎上しそう…だけど、勝負はまだ一回の表よ」
(槍の柄を長く持ち…要するにバットの構え)「さぁ、投げてきなさい!」

野球のようなポーズしてますが、着弾前に『ダッシュスラッシュ』で距離を詰め、タイミングずらして打ち返し。
「千本ノックいくわよ、取ってみなさい!」
と、取り巻きがきたら呼びかけて巻き込みつつ打ち返し。あ、乱闘希望なら正面勝負もできますよ?
 ブレイ・ユウガ  ( エクス・グラム
 ヒューマン | マーセナリー | 18 歳 | 男性 
傘地蔵に出てくるおじいさんに扮して登場
笠を買ってくれと言いながら接近。【スタンダード】で先制攻撃を仕掛ける

戦闘時はG-ZONE(地蔵っぽく装飾したブリスコラ)に搭乗
ブリスコラの特性とエクスのサポートを活かしてかく乱したり、敵の妨害を回避。障害物がなくなったら【オーバーチューン】で加速して一気に接近

接近したら『ウェポンマスターⅡ』の技量と『エネルギーブレード』の特性を併用して攻撃
注意を逸らしたらマッチ暴を一本奪う

敵を地上に追い込めたら再接近。奪ったマッチ暴を投げ渡して爆破

撃破後エクスに天使の格好をしてもらい、ライトで照らした敵をエスバイロで吊り上げてフ●ンダースの犬のラストーシン風な昇天を演出
 メルフリート・グラストシェイド  ( クー・コール・ロビン
 ヒューマン | スパイ | 14 歳 | 男性 
なるほど、君はいい年をしてマッチ売りの少女を気取った夢見がちな女という訳だな。
いや、それがあっているかどうかはどちらでもいい。結果は同じだ。
君はマッチに火をつける度に現実ではありえない光景を目にし…最後のマッチが燃え尽きた時、その命の火も消えるのだ。
まあ、殺しは好かん。せいぜいいい夢を見られなくなる程度で済ませてやる。

ええと…どんな幻を見たのだったか。
確かこうだ。1つ目の幻は、数多くの人々に囲まれ集中砲火。とても暖かい。
2つ目は…そう、ツリーに串刺しだったか。だがそんなに大きなものは持っていない。針で我慢しろ。
3つ目は単純だな。死神の顔を見て地に堕ちる。クー、せいぜい怖い顔でも見せてやれ。

参加者一覧

 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 
 ヴァニラビット・レプス  ( EST-EX
 ケモモ | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
 ブレイ・ユウガ  ( エクス・グラム
 ヒューマン | マーセナリー | 18 歳 | 男性 
 メルフリート・グラストシェイド  ( クー・コール・ロビン
 ヒューマン | スパイ | 14 歳 | 男性 


リザルト


 硝煙の匂い。鉄の匂い。魔法の余韻で歪曲する空気と熱風。
 雄叫び。閃光。
 爆発。
 ここは戦闘空域、空賊集団と探求者たちがぶつかりあう決戦の地だ。
 しかしこれを構成するものは、屍山血河の荒涼たる戦場(いくさば)ではなかった。
 むしろその逆、正反対といっていい。ぴかぴかした光とファニーな飾り付け、心躍るクリスマスミュージックにあふれた楽しい光景なのだった。
 異常だが、現実だ。
 赤と白が行き交い、緑が興を添える。空賊はみなサンタクロースの仮装をしており、白髭をなびかせてソリ形エスバイロを駆り立てているのだ。赤鼻のトナカイドローンまで浮かせているやからもいた。
 しかもこの賊徒が根城としている要塞たるや、色も形もクリスマスツリーという浮遊島なのだ。
 もちろん驚愕のサイズであることは言うまでもない。当然というかなんというか、ツリーは色とりどりの巨大オーナメントで飾り付けられ、猛烈にピカピカしているという始末。その正体は絢爛たる電飾の嵐だ。電飾! 電飾! また電飾! ガンガンに流れるハピネスチャージなホリデーソングも、はっきり言って狂気の沙汰である!
 この状況下で『フィール・ジュノ』が学んだことがある。
 それは、
「いくらハッピーな光景でも、見ているだけじゃお腹はいっぱいにならない!」
 という、数学で言う解の公式なみに冷然たる事実だった。
 激しい光線でサンタ帽を撃ち落とし、華麗なるアクロバティック・エスバイロ操縦術で追っ手を煙に巻く。光の尾を曳きながら攻撃そして撃破! もう何人のサンタクロースを、ぶっ飛ばしたのか覚えていない。
 だけど活躍すればするほど、必然的にフィールのカロリーは消費される。要するに、空腹に響くのだ。
 やがて要塞内部への入り口をツリー根元に発見したフィールは、障害レースの競走馬よろしくエスバイロでここに突入している。
「うう、ひもじい……けれど、ここを占領すればお給金が……そして飢えを満たせる……」
「また腹具合のことを言っておるな」
 アニマの『アルフォリス』が、フィールの隣を浮かびながら呼びかける。
「そりゃ言うわよ……お腹すいた。最近まともに食べたのいつだっけ?」
「フィールよ、もっと好意的に考えたらどうじゃ?」
「お腹がグーグー鳴ってるこの状況で、どう好意的になれってのよ」
 ちちち、と人差し指を左右に振りアルフォリスはニヤリとする。
「たとえばじゃ、その腹の音を聞いて、ゲスい空賊どもが集まってくるとか考えてみてはどうかの? そうすると空腹で力の出ないフィールは、野獣どもの汚い手によってあれよあれよという間に白い裸身をさらされあられもない姿に! うむ、よいぞよいぞ! このシナリオでいかんか?」
「一瞬でも真面目に聞いた私がバカだった……」
 そんなフィール一行からさほど離れていない地点では、別の進入口から要塞入りした『ヴァニラビット・レプス』が、奇妙な光景に直面していた。
「都市? こんなところに?」
 思わずエスバイロを止め、ホバリングしたまま周辺をうかがってしまう。
 殺風景な要塞基地内に、突如として町並みが出現したのだ。
 まるで街角、それもレトロな街角だった。煉瓦造りの建物が立ち並んでおり、馬車が往来できる程度の石畳の道が縦横に通っている。点在する街灯はガス灯らしく、うすぼんやりした光を投げかけているではないか。要塞の外は雪が降り始めていたが、ここではすでに積もっており、建物の屋根は一様に白い帽子をかぶっていた。
 どこか夜の街に迷い込んでしまったかとヴァニラビットは錯覚した。
 けれども変だ。人の姿がない。
「間違いありません。ここは要塞内部です」
 戸惑う主を尻目に『EST-EX (イースター)』は何ら動じることなく、オープンモードになって分析結果を報告するのである。
「この一帯だけ、映画のセットのように用意されただけのもののようですね」
「だよねえ。これ、なんのつもりなんだろ?」
 というヴァニラビットの声に応じるように、か細い声が建物の陰から聞こえた。
「マッチはいりませんか? マッチは……」
 商売っ気のあまりない、今にも泣き出しそうな口調だった。
「暖かな火のともるマッチです。とても勢いのいい火なんです……」
 つぎはぎだらけの服を着た少女がまろび出てくる。
 年の頃は十二、三だろうか。少女は手に籐編みのカゴをかけていた。赤いスカーフを頭に被っており、それがまるで赤頭巾のように見えた。
 マッチ売りの少女、ということか。
 怪しすぎるっつーの!
 あまりのしょうもなさにヴァニラビットは鼻白むも、付き合ってどうなるか見てみよう、というイタズラっ気も出てきて、エスバイロを降りると少女の目線の高さに腰をかがめて告げた。
「どんなマッチなのかな、お嬢さん?」
「はい、ものすごくよく燃えるマッチなんです」
 少女はあいかわらず、追い詰められたウサギなみにおどおどしている。
「ものすごく?」
「とってもいい火なんです……本当です…………おまえを焼き尽くしてしまえるくらいになァ!!!」
 イッヒッヒー! 少女は身をしならせ常人とは思えぬ角度でバック転すると、マッチ型こそしているがマッチというよりは棍棒といったほうが適切なサイズのシロモノを、オラオラオララーと叫び投げつけてきた。
 インパクトがあるのは彼女の武器や身のこなしだけではない。着目すべきは、その笑み! 瞳はぐるぐると渦を巻いており、口は耳まで裂けそうな三日月形だ! ノコギリみたいな歯も恐い!
 少女としてはここで相手(ヴァニラビット)がびっくり仰天し、「な、何ィーっ!」とか言いながら炎に包まれることを期待していたものと思われる。
 しかし、もちろんそんなことにはならないのであった。
「本当、いいマッチね。とてもよく炎上しそう……だけど、勝負はまだ一回の表よ」
 ヴァニラビットの反応は迅(はや)い。彼女はクワと目を見開き槍の柄を長く持ってこれをバットのように構えるや、マッチ形爆弾(マッチ暴、と呼ぶ)の着弾前に『ダッシュスラッシュ』で距離を詰め、豪快なフルスイングで打ち返した!
「何やてェー!!」
 驚いたのは少女のほうだ。自分の頭上を越えはるか後方で破裂したマッチ棒を、唖然として見上げている。
 しかし呆けたのは一瞬だった。すぐに少女は向き直り、カカカカと悪魔的に笑ったのである。
「よくぞこのアタシのコスプレを見抜いたねェ!  あたしは【三択弄す】団四天王のひとり、【マッチ売りの症状】! 冥土の土産によーく覚えておくがいい!」
 そしてまた、口いっぱいのノコギリ歯をざらりと見せる。
 ヴァニラビットは半ば以上あきれて、後頭部をぽりぽりとかくのであった。
「ったく、どこかにマトモな空賊はいないの……マトモじゃないから空賊やってるの……?」
 このとき、
「なるほど」
 屋根の上から声がした。
「何者だ!」
 ギイッと目玉を剥き、マッチ売りの症状はその方向を見上げる。
 屋根に座っている姿があった。髪は雪に勝るとも劣らぬ艶のある銀色、涼やかな瞳の奥には、冬のような厳しさがある。整ったその顔立ちは、童話の世界の王子様を思わせた。
 空賊少女の問いかけを無視して『メルフリート・グラストシェイド』は続ける。
「君はいい年をしてマッチ売りの少女を気取った夢見がちな女というわけだな」
「キイイ!」
 図星だというのか、少女の赤頭巾から湯気が上がった。
「……いや、それが合っているかどうかはどちらでもいい。結末は同じだ。君はマッチに火をつけるたびに現実ではありえない光景を目にし……最後のマッチが燃え尽きたとき、その命の火も消えるのだから」
 メルフリートの断定的な言葉、鋭い瞳にたじろいだか、少女は野生の狼のごとく、うなり声を発し一歩後退した。
「まあ、殺しは好かん。せいぜいいい夢を見られなくなる程度で済ませてやる」
(ああ、まったく)
 彼のアニマ『クー・コール・ロビン』はプライベートモードで、メルフリートの隣に座って首をすくめていた。
(メルがいじりがいのある相手を見つけたときの顔をしているわ……)
 クーはメルフリートの顔に唇を寄せた。
(この後もあるのだし、あまり遊びすぎないようにね)
 とクーはたしなめるも、聞いているのかいないのか、メルフリートは雪を滑って街路に着地した。
「さて、始めようか」
 すっくと立つメルフリート、そして、やる気十分で槍をバット風に構えるヴァニラビット、対する少女はハアハアと荒い息をしながら、舌なめずりするようにしてこの両者を交互に見比べている。
「殺してくれる……さてどっちからいただこうか……」
 けれどもマッチ売りの症状は行動に移れない。
「はい、ちょっとごめんなさいよ」
 探求者らと少女のあいだに、飄々と割り込む姿があったからだ。
 その男は腰をかがめている。蓑(みの)を着て、竹の笠を頭にのせていた。手ぬぐいでほっかむりをしており顔は見えないものの、声色から判断してどうやら老人らしい。老人は、わら靴を履いたおぼつかぬ足取りで歩いてくる。
「何だァ? このジジイはァ」
 少女はじろりと老人を見た。すると老人は、
「お嬢ちゃん。笠はいらんかえ?」
 と手作り風の竹笠をひとつ取り出し、手渡そうとするのであった。
 見れば彼は、紐を通した竹笠をいくつも背負っていた。笠売りだというのか。
「テメー、あたしのこのロリータスタイルに、そんなオールドファッションドな笠が似合うとでも思ってんのか」
 石ころを差し出されたかのように少女は一顧だにしない。すると老人は哀願するように膝を屈すると、
「頼むから買っておくれ。でないとバアさんに六分割された挙句地蔵の下に埋められてしまうぅ!」
 などとオイオイと泣き出すのであった。
(なんかあのおじいさん、家庭内で虐待されてるみたいよ。メル、ひとつ買ってあげたら?)
 クーが耳打ちするもメルフリートは、
「よく見ろ」
 と言うだけだった。
 すがりつこうとする老人に、マッチ売りの症状は声を荒げた。
「ええい! 放さんかジジイ!」
「『花咲かじじい』? いいや、わしは『笠地蔵』のお話なんじゃよう~」
「何だと!?」
 直後グゲッ! と少女はのけぞった。胸元を光が奔ったのだ。
 それは刃の輝き。輝きの源は、長剣『スタンダード』による逆袈裟の斬撃。
 すなわち『ブレイ・ユウガ』が変装をかなぐり捨てて抜刀し、電光石火の一太刀を浴びせたのである!
「騙したなァ!」
 ひらり飛び退いて少女は吼えた。ブレイは相手を指さす。
「お前に言われたくない! 自分も騙そうとしてただろ!」
「騙しは女のアクセサリーだけど、あれは色々と台無しねぇ……」」
 腕組みした状態で『エクス・グラム』が現れ、ため息とともに首を振った。
 ヒーッ、と少女の栗色の髪が逆立った。
「おまえら三人ッ、全員残らず血祭りにあげてくれるわ!」
「待って待って! 三人じゃなくて『四人』でお願い!」
 ぼごっ、と建物の壁が砕けた。ハリボテだったのだ。
 そこから飛び出してきたのは、ご存じフィールのエスバイロ!
「といっても、血祭りにあげられるのは勘弁だけどね。ていうか赤ずきんちゃん、四対一だし降伏したほうがよくない?」
「四対一だと?」
 またもカカカカと少女は高笑いしたのである。
「探求者、おまえの目は節穴かッ! いでよ!」
 少女がパッチーンと指を鳴らすと、バン、バン、バンとハリボテ建物が倒壊し、わんさとサンタがまかり出た。
 二十人はいるだろうか。もちろん全員空賊だ。剣や短銃で武装し、ソリ形エスバイロのハンドルを握っている。
 ギラギラと少女は目を光らせ叫んだ。
「ここで三択ッ! 死に様を選ぶがいいッ! 『1,爆殺』『2.撲殺』『3.とにかく惨殺』ゥ!」
「『4.フィールだけ男どもの慰みものにされそうになる』、を希望する!」
 アルフォリスがさっと手を挙げた。「セクハラ反対!」とフィールが叫ぶ。
 もちろん少女はそんなやりとりは無視だ。蝶のごとくひらり跳躍した彼女の体を、マッチ箱型した奇妙なエスバイロがキャッチしていた。
「イッヒッヒー! 皆殺しだよォ! ルーベンスの絵を見た後、あの世に連れて行かれるのはおまえらさ!」
 どういう意味なんだ!? ともかく、この叫びが開戦の合図となった。
 負けじと声を上げたのは、元・笠地蔵のおじいさんことブレイだ。
「マッチ箱形とはしゃれてるな、だが俺のエスバイロも拝みな……行くぞ! G-ZONE!」
 マントを脱ぐようにして蓑を投げ捨てると、ブレイは拳を振り上げた。
 するとどうだろう!
 ブレイの呼び声に応じ飛来してきたのは、なんと! 地蔵! お地蔵さんだ!
 眠る赤子のような穏やかな表情をした石地蔵、それがロケットのように横倒しでカッ飛んできたのである。
「なにがG-ZONEよ……これ、オリジナルならぬ『俺ジナル』な外装を自分のブリスコラにかぶせただけでしょ」
 エクスはぶつくさ言いながら、地蔵にまたがったブレイに付き従った。
「言っとくけどこれ、後で元に戻さなかったら二度と動かさないからね?」
 不満げな表情を残して姿を消す。エクスはG-ZONEにシンクロしたのである。
「マッチ箱エスバイロ……、あんな無駄だらけの外装をしているのに」
 メルフリートは短剣をひらめかせ、サンタ集団の攻撃をしのぎながらうめいた。
「うん」
 彼の言葉を継いだのはフィールだ。
「……マッチ売りの症状……すごいインチキなエスバイロなのに速い……!」
 どういうチューンナップをほどこせばああなるのか。マッチ箱エスバイロは超高速でセット内を移動し、そこから少女はぽんぽんと盛大にマッチ暴を投下してきたのだった。なのにコウモリのごとく、壁面や天井への衝突はたくみに回避している。
 当然、マッチ暴の破裂と煙でその場は大変なことになった。といってもこの爆発に味方のはずのサンタもだいぶ巻き込まれているようだが。
 けれどこれでフィールの闘志が衰えたりはしないのだ。むしろ、高まる!
「……そうだ!! あのエスバイロ、奪って売ればきっと高値で売れる!」
 キラッとフィールの目は輝き、グーッとフィールのお腹は鳴った。
「そうと決まったら、あいつをところがギッチョンしてへこませてやるぅ! 待ってなさい私のご飯……いや、報酬! せめてこの聖夜にはマトモなご飯が食べたいから!」」
 しかし押し寄せるサンタ軍団にフィールとメルフリート、そしてブレイも足止めを余儀なくされる。なにせ敵が多いのだ。
「まずは雑魚サンタをどうにかすべきか!」
 ブレイは剣を水平にし、加速した地蔵エスバイロの勢いを駆ってサンタマシン集団に挑みかかった。
 そんな中ヴァニラビットはバット(本当は槍)を握った手をすっくと伸ばすと、心の中のバックスクリーン方向に切っ先を向けた。
「ほらほらどこ狙ってるの? 打者はここよ!」
 すると高速回転しながら、火の付いたマッチ暴が飛んでくる。
 待ってた! この瞬間!
「千本ノックいくわよ!」
 ぐっと腰を引きバットにて、ヴァニラビットはマッチ棒の真芯を狙い叩きつけた! 猛打者降臨! ヴァニラビットはこれをピッチャー返しの要領で打ち返したのだ。マッチは射線上に入ったサンタのひとつに激突し派手な花火を上げている。
「さぁ、投げてきなさい!」

 当初不利かと思われた探求者たちであったが、あっという間に形勢を逆転させていた。
「お地蔵さんに手を上げるとは……この罰当たりがっ!」
 ブレイが暴れる。暴れまくる。刃だけではなく蹴りに肘に突進、あらゆる部位を使ってサンタを蹴散らす。
(そのお地蔵さんにまたがって暴れるほうがよっぽど罰当たりだと思うけど)
 というエクスのツッコミはさらりと聞き流しながら、暴れる!
 メルフリートの活躍も特筆すべきものがある。
「所詮は統制の取れていない暴徒といったところか」
 磨かれたスパイの技術【サイレントムーブ】を使えば、敵の背後を取るはたやすい。そうして隙だらけのサンクの延髄に、彼は音もなく短剣の柄を叩き込んだ。
「聖夜に殺しは無粋というもの。この程度で済んだことを感謝するんだな」
 ひゅう、とクーは口笛を吹きたい気分だった。それほど見事に、メルフリートはサンタを一体一体着実に仕留めていったのだった。今の彼は影、銀色の影だ。その影に包まれた相手に、抗うすべは存在しない。
 一方でフィールは、困っていた。
 敵に困っていたのではない。味方のはずのアルフォリスに、である。
「聖夜じゃなぁ。これは、フィールのサービスシーンも、いつも以上に際どいことにせねばやる気でないのー? 神よー、悪いことは言わん。フィールをR-17クラスのサービスシーンで彩るのじゃぞー」
「ちょっと! 誰に何を祈ってるのよ! 神様て誰!?」
「邪神ポロリ。その名の通りポロリに継ぐポロリをつかさどる大いなる者じゃよ」
「今作ったでしょ! それ!」
 そんなフィールの声に謎めいた笑みを返すと、減ってきた敵にアルフォリスは発破をかけるのである。
「こらー、そこのサンタコス空賊ども! どうしたぁ! せっかくの聖夜じゃろうが! 女の服くらい剥ぎ取って人質にするくらいの根性見せんか!」
 アルフォリスが竹刀を持っていたとしたら、きっとバシバシと地面を叩き頭上で振り回したことだろう!
「剥ぎ取られたくなーい!」
 このときひらりとフィールのスカートがまくれあがりレース飾りの下着があらわになったのは、邪心ポロリの粋なはからいかもしれない。
「ほらライトー、いくぞー!」
 ヴァニラビットの華麗な流し打ち! これまたサンタに命中した。
 気がつけばもう、手勢はほとんど残っていない。
「ぐうう、このままでは……」
 さすがにマッチ売りの症状も焦ってきたようだ。彼女はギョロギョロと目玉を左右にせわしなく動かし、逃げるタイミングをはかりはじめていた。なにせ投じる爆弾が次から次、例外なく弾き返されてしまうのである。勝負にならない。しかも弾がもう尽きかけているという体たらくだ。
 不幸にして本人は気付いていないのだが、これは彼女つまりマッチ売りの症状には、挑発に乗りやすい、という致命的すぎる弱点があるためだった。要するに、ヴァニラビットに煽られるたびそちらに爆弾を投げてしまうのだ!
「どうした? 落ち着かない様子だが」
 唐突に背後から声をかけられ、少女はびくっとすくみ上がった。その様子は、会議中居眠りしていた会社員が、急に上司に発言を求められた様子に似ていた。
「そういえば原典……つまり、マッチ売りをしていた少女は、マッチを擦るたびどんな幻を見たのだったかな」
 どことなく楽しげにメルフリートは言う。幻の種類? とクーは姿を見せて応じた。
「ああ。三つあったと思う」
「三つだったかしら? まあ、童話なんて子どものころ読んだきりでしょうしその辺もあやふやなのでしょうけど」
「確かこうだ。1つ目の幻は、数多くの人々に囲まれ集中砲火。とても暖かい」
「何やとォ!」
 少女の抗議は聞こえない。メルフリートが合図すると、フィールが待ってましたとばかりに【やきい~れ☆デッドハント】を発動、ブレイが地蔵で「これが本当の石頭!」と突進をかけ、ヴァニラビットも飛んできて一刀を加えた。
 ふらふらな少女に追い打ち! メルフリートは言った。
「2つ目は……そう、ツリーに串刺しだったか。だがそんなに大きなものは持っていない。針で我慢しろ」
「そんな話じゃな……グエエ!」
 飛ぶ飛ぶ飛ぶ針が飛ぶ! 【アンチニードル】の無数の針が、全方位から少女を襲った。
 もう彼女はうめくことしかできない。なぜなら、針の効果で麻痺してしまったからだ!
「3つ目は単純だな。死神の顔を見て地に堕ちる」
「し、死神ィ!」
 マッチ売りの症状は死を覚悟した。死神の登場とは……どんな陰惨な攻撃が加えられるのか。「せめて最後に煙草一本くらい吸わせtェ!」などと哀願するも、メルフリートの言葉は、少女の想像とはかけ離れたものであった。
「クー、せいぜい怖い顔でも見せてやれ」
「……死神の怖い顔ですって? 私にそんな顔をしろと?」
「得意だろう?」
「得意じゃありません! まあ、こういう手合いには、鏡写しのように己の行いの愚かさを教えてあげないと、とは思うけど」
 すると地蔵に乗った少年ブレイが、「あの世を見せろということか」と応じた。
「いい考えがある。それは俺に任せてもらおう」
 そしてブレイは麻痺中の少女をロープで縛り、自分のエスバイロに吊したのである。
「ほら、天使が迎えにきたぞ」
「はいはい、天使ね。私がやればいいんでしょ? わかってるから」
 ちょうど持ち合わせがあった『天使の衣装』コスプレデータをエクスが身に帯びたところで、ブレイは地蔵エスバイロG-ZONEをゆっくりと上昇させたのである。
「あ、狙いがわかった」
 フィールは腕組みして、天に召される(?)少女を見上げるのだった。
「なにに納得しておる?」
 アルフォリスが訊く。フィールにかわって答えたのはブレイだった。
「有名なシーンの再現だ。一度やってみたかった」
 天使のお迎えを受け、温かな光に包まれながら、来世に旅立つという趣向だ。これがどういう意味かわからない人は、お父さんかお母さんに聞いて見てほしい。
「ルーベンスの絵を見た後にあの世に逝くのはあなただったわねぇ……まあ、絵なんてないし、第一死んでもいないけど」
 ぱたぱたと天使の羽根を動かし少女の周囲を巡りながら、エクスは満足気に言うのだった。
 完敗だ、と認めながらも、なおマッチ売りの症状は強がった。
「ククク……あたしを倒したくらいで調子づくなよ、探求者どもめ……」
 ぶら下げられたままヒヒヒと笑う。
「あたしは四天王の中でも最弱……あとの三人がきっとおまえらをぶち殺してくれるわァ……」
 だが、残りの三人なんて登場しないのである。
 ていうか実在しているのだろうか、そもそも。
 真相は誰も知らない。



依頼結果

成功

作戦掲示板

[1] ソラ・ソソラ 2018/01/02-00:00

おはよう、こんにちは、こんばんはだよ!
挨拶や相談はここで、やってねー!  
 

[5] フィール・ジュノ 2018/01/07-17:53

ども。魔法少女、フィールです。

たぶん、普通に攻撃してます。マッチ売りの症状……捕まえてあのエスバイロ売ろう!  
 

[4] メルフリート・グラストシェイド 2018/01/06-23:50

ふむ、では僕も名乗っておこうか。
僕の名はメルフリート・グラストシェイド。よろしく頼む。

マッチ売りの少女は原典では死ぬ。
どうせならば3つの夢を見せつけてやろうと思うが。  
 

[3] ヴァニラビット・レプス 2018/01/05-22:14

挨拶はダイジ。予言の書にもそう書いてある。
と、いうわけで…同じくマーセナリーのヴァニラビットよ。よろしく。
愛称はヴァニラでもラビでもお好きにどうぞ。

童話の登場人物ねぇ…そういえばマッチ売りの少女って大抵の絵本で赤ずきん被った挿絵よね(唐突)  
 

[2] ブレイ・ユウガ 2018/01/05-10:20

ドーモ、ヒューマンでマーセナリーのブレイです

なんか四天王とか強敵っぽいのが出てきたが、多分最弱だろうからなんとかなるだろ
とりあえずあっちが童話の登場人物なら、こっちも童話の登場人物として対抗しようと思う