利き手に武器を対の手に菓子をpnkjynp GM) 【難易度:とても簡単】




プロローグ


 学園旅団アカディミア。
 そこはあらゆる学部・学科・専門分野の集う学びのフロンティア。
 毎日繰り返される研究の中で、様々な発見と新たな挑戦がそこに住む人々を刺激する。
 今回の舞台は、そんな旅団の中に存在する中規模の学び屋【マノリフィア学院】だ。

 マノリフィア学院は第10学区にて魔法に関わる研究を行う教育機関であるが、今日は少々様相が違っていた。
 講義は全て休講となり、学院の生徒達は何か催しの準備に追われている。
 先日とある事件に巻き込まれ数週間休学していた【マディス】という青年は、近くにいた友人に事情を尋ねる事とした。
「ああ、お前最近休んでたもんな。今日は第1学区にある別学院からの要請で先端軍事品の展覧会をここでやるんだよ。だから今日は生徒をみんな駆り出してパーティーの準備をさせてるって訳さ」
 まぁバイト代は悪くないから良いんだけどよ、と呟く彼に別れを告げると、マディスは学院内を暫く見回ってみる。
 校庭に当たる野外スペースは、普段のだだっ広さは無くパーテーションによって細かく区切られていた。衝立の中を幾つか覗いてみると、第1学区から来た教授や生徒、商人達がそれぞれ見た事もないような剣や盾を並べている。恐らく最新の研究や技術が反映された試作品、といったところだろう。
(うわ……こんなの、一体どのくらいの値段がするんだろう?)
「おいそこの君、学院の生徒とお見受けする。すまないがここに教授として勤めているこの人物を探しているのだが……」
「は、はい! この写真の人ですね。えっと~……あ、魔装科の先生です。じゃあ、教授の研究室に行ってみましょうか」
 マディスは声をかけてきた男を連れ、教授の研究室へと向かう。
 道すがら彼は男を横目に観察する。男の身長は2mにも届きそうなほど大きく体格もしっかりとしていた。サングラスから覗かせる目つきは鋭く、スキンヘッドのその容姿は彼の厳しい性格を感じさせるような気がする。軍人かそれに類する立場にいる人間だろうとマディスは直感的に思った。
「……ここですよ」
「そうか、案内感謝する」
 男はそれだけ言うと、研究室のドアをノックし中に居た教授に向かい入れられる。
 ドアが閉まろうとする直前、教授がその男を【カーター】と呼んでいるのが聞こえた。

 それから少しの時間が経ち、マディスは1階の食堂へ訪れていた。
 普段はイスとテーブルしかないただの学生食堂であるのだが、今日は喫茶店の様に飾り付けられており、生徒達が正装をしてメニューや机をセッティングしていた。どうやら今日の展示会で来た客人を、飲み物やお菓子でおもてなしをするつもりらしい。
「おっ、いたいた! マディス~。ちょっとこっち来てくれよ」
「えっ? なになに?!」
「い・い・か・ら☆」
(う……何か嫌な予感……)
 先程の友人とは別な友人に肩を組まれるマディス。
 力強く厨房の方へ引きずられていく彼を歓迎するかのように、多種多様なメイド服が風に裾を揺らしていた……

 そして現在。
 貴方はテレルバレルにて受け取った一枚のチラシを手に、このマノリフィア学院に訪れていた。
 チラシには【先端軍事品展覧会のお知らせ~おいしいお菓子もあるよ~】という文字が。

 さぁ、貴方はここでどんなロマン(ス)を見つけるのでしょうか?



解説


 武器は男の、お菓子は女の浪漫!
 ということで今回はほぼ日常成分で出来ているロマンスエピソードとなります。
 
 舞台である学院で出来る事は大きく分けて
 A:先端軍事品展覧会を見て回る
 B:食堂にて食事を楽しむ
 の二種類となります。

■Aについて
 こちらでは普段市販されていない武器類のお試し体験が出来ます。
 プランにはこんな武器・防具があったら良いな、こんな風に使ってみたいな、という願望等を自由にご記載下さい。世界観上問題が無ければ今回のみのお試しとなりますがなるべく実現させたいと思います。
 いつかは似たような武器がショップに実装されるかも? 

 またNPCのカーター(ヒューマン/ガーディアン)が武器の使用感をチェックする評価員として、この会場を訪れています。
 戦闘RPがご希望の場合は、彼と手合わせをすることが出来ますので自由にお使いください。
 (カーターが使用する武器もご希望があれば指定できます)
 他にも武器や技術の研究を行うPCであれば、自身の作った品々を紹介してみても良いと思います。

■Bについて
 こちらではマディスやマノリフィア学院の生徒が、展示会に訪れた人々をおもてなししています。
 ここは学生食堂でありますが、安価で大盛りのご飯より、おいしいお茶菓子が食べられるところとして知られています(大盛りご飯も無い訳ではないので食べたいものが食べられますよ)!
 皆様は真っ直ぐここへ食事をしに来ても良いですし、Aを堪能した後でも構いません。
 
 また人手が足りないのでバイトも募集しております。
 その場合、男女共に正装にて接客又は厨房にて料理をして頂きます。正装は男性用・女性用どちらも用意されていますが、必ずしも自身の性別に合ったものを着る必要はありません。どちらかをご着用ください。
 プランでは食べたい料理や客とどう関わりたいか等をご記載下さい。

■その他
 ロマンス扱いですのでお菓子や武器に関わるアニマとの甘い想い出もお待ちしています!


ゲームマスターより


 ※他GM様のエピソード内容を使用したい場合、参照出来るものは1つのみとさせて頂きます。ご希望の際には必ず【エピソード名】をプラン内にご記載下さい。また、公開済リザルトの結末や展開に反する内容には出来ませんのでご了承下さいませ。※

 のとそらと幻カタの世界はまだまだ未成熟。
 逆に言えば、この先世界の成長を決めていくのはPLである皆様の選択とPCの活躍次第!
 今なら皆様の声が届きやすい絶好のチャンスですよ!
 この機会に是非世界を創造して頂ければと思います!

 さて、今回は余程の異常事態が無ければ平和な1日となりますのでお気軽にご参加下さいませ!
 また今回のものは、のとそらでのショップ実装記念という意味合いも込めております。
 今後も様々アイテムが追加されていく予定だそうなので、エピソード参加で集めたCrで基本武装以外にも沢山集めて装備してみて下さいね!

 それでは、リザルトにてお会いできることを楽しみにしております!



利き手に武器を対の手に菓子を エピソード情報
担当 pnkjynp GM 相談期間 5 日
ジャンル ロマンス タイプ ショート 出発日 2017/12/12
難易度 とても簡単 報酬 通常 公開日 2017/12/22

 朔代胡の枝  ( カメリア
 ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性 
葉くんにも兄ちゃんにも連絡は入れたし、来るまで色々食べよっと。
ここのお茶菓子もなかなかにおいしいって噂だしね! これはちゃーんと確認しないと!
ケーキとカステラはマストだよねやっぱ!

あれ? あのメイド服の人、なーんか見覚えあるなあ。
確かマディス君だったっけ? うーんでも自信ないなあ。カメリアちゃんに、過去のデータから照合を頼むね。

合ってたんなら、遠慮なく声掛けちゃお。手とか振ってテーブルに呼んでさ。あの時の探索者だけどって。
向こうが覚えてそうなら、あの後の話とかも聞けたらいいなあ。カステラ一緒に食べつつさ。
覚えてないなら……あんま引き止めても悪いよね。バイバイくらいは言ってもいいよねえ。

 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
ワタシが使うんじゃなくて、どんな傷になるか、それをどう治療するかーそれを考えたいな
初心者でも簡単に使える武器(例えば銃)…?命の重さが軽くなったみたい…こういうの嫌いだなー
…戦うとその人の事が理解できるようになるとか聞いたことあるからちょっと感じてはみたい…

さて、これからは食事メイン!
片っ端から気になるの食べる…?そんなことしたらすぐお腹いっぱいになるよ!だから、1度全部見てから取るもの決めてこー
ふんふん…ラビットが気になったのは…お菓子多くない!?甘いもの食べ続けていると飽きるし太っちゃうじゃん!気にしたことないけど!
サラダとか野菜料理もちゃんと選んでよー!
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 
プランA

・フィール

うーん……ブロントヴァイレスの件もあるし、強力な新装備とか必要だよね。何か可愛くて強い武器ってないかなー。
と、きょろきょろ見て回る。



・アルフォリス

ほー、先端軍事品……なんかフィールに似合いそうなのないかの?
最近の魔法少女に、普通の魔法の杖とか時代遅れじゃ。こんなの↓ないかのー

『まじかるバスターライフルロッド』(魔力を大出力で撃ちだす杖型魔銃

『マジ狩るチェーンソーロッド』(杖なのに魔力で稼動するチェーンソー。マジ狩る系に必須じゃ。手が滑って自身の服を破くのはお約束じゃなー



っと、こんなの↑あったらフィールに用意してやりたいの。装備に金をケチる必要はないからの。食費抜けばOKじゃ


参加者一覧

 朔代胡の枝  ( カメリア
 ヒューマン | ハッカー | 15 歳 | 女性 
 アリシア・ストウフォース  ( ラビッツ
 デモニック | マッドドクター | 18 歳 | 女性 
 フィール・ジュノ  ( アルフォリス
 ヒューマン | 魔法少女 | 18 歳 | 女性 


リザルト


●腹が減っては戦は出来ぬが……
「へぇ~、結構活気づいてるんだねー」
 デレルバレルで配布されていたチラシにて今回の催しを知った【フィール・ジュノ】は、マノリフィア学院の校庭を訪れていた。
 彼女の周りには、簡易なパーテーションで区切られた区画がいくつもあり、そのどれもに様々な装備が陳列されている。
 区画の中からは商品の良さをアピールしようとする装備品の作成者と、それに興味を示す客の問答が聞こえてきており、会場はフィールの想像を超える中々の賑わいを見せていた。
 だが、フィールはそんな活気に足を止めることなく学院1階にある食堂を足早に目指す。
「まぁ、プロントヴァイレスの件もあるし、皆が強力な新装備とか探す気持ちは分かるけど……今はいっか」
(こーーーりゃ!! 一体どこに行こうとしておるのじゃ!)
 そんな様子を見かねたかのように、彼女のアニマである【アルフォリス】が耳元で大きな声を出した。
 プライベートモードのため、周囲に声は聞こえてはいないものの、フィールには思わずのけ反ってしまうほどの大音量だ。
「うひゃあ!? ちょ、アル! なんなのいきなり?!」
(なんだではない! これほどの宝の山を前に、おぬしはどこへ行こうとしてるのじゃ!)
「そりゃあ、このチラシに書いてある安くて美味しいご飯を食べようと……」
(そんなもの後回しにせい! まずは展示品を確認に行くのが優先じゃ!)
「えー!? そんなのやだぁー! 最近なんてパンの耳と水しか食べてないんだから! 鳩になっちゃう前に食べに行くぅー!!!」
 往来の真ん中で子供のように駄々を捏ねるフィール。
 改めてになるが現在アルフォリスはプライベートモードの為、周りから見れば目に痛いのはフィールである。
 だがそれをついつい忘れてしまっている主人を前に、アルフォリスは浅くため息をついて続ける。
(よいかフィール。食事など逃げはせん。こんな催しの日じゃ、備蓄も大量にあるじゃろ。じゃが今回展示されておる品々はいつか正式な装備となって帰って来る可能性がある……つまり、武器に己の意思を反映させる絶好の機会なのじゃ、これを逃す手はないじゃろうに)
 アルフォリスの言葉に落ち着いて考え直すフィール。
(確かにアルの言う事にも一理ある……かなぁ……どうせ魔法少女をやっていくなら、やっぱり可愛くて強い武器の方が良いし……)
 彼女は自身の握りしめる杖、ブルーアイズを見つめる。軽く振ると、「ホヒュ! ホヒュ!」と気の抜ける音がした。
 旅立ちの武器としては申し分ない性能だが、数々の冒険で危機に遭遇してきた彼女には少々物足りなくなってきているのも事実だ。
「よ~し、分かった! それじゃあ良い武器探しに行こう!」
(うむうむ)
 こうしてフィールは、アニマの説得を受け入れ展示品を見て回ることにした。


●☆マジ狩るファンタジー☆
 しばらく展示を見て回るフィール、そんな時1つの区画が目に留まる。
「あ、ここ魔法少女向けの装備品紹介してるみたい!」
(ならば早速ゴーじゃ!)
「オッケー。すみませ~ん!」
「はいはい~いらっしゃいませでございやす!」
 フィールの呼びかけに、手をすり合わせながら小太りの男が近づいてくる。
 彼はフィールから装備の要望を聞くと、少しの時間をおいて2つの武器を持ってきた。
「可愛くて強いもの、とのご要望でございやしたので、このようなものは如何でございやしょう?」
「これって……杖とチェーンソー……?」
「何をおっしゃいやすやら。魔法少女用でありやすから、どっちも【杖】に決まってるでありやすよ!」
 眼前に鎮座する武器に困惑するフィール。だがそれとは対照的に、アルフォリスは目を輝かせながらそれを物色していた。
(ほほーー! ふ~~む、これは中々……イカすのう)
「いやいや。片方なんて杖の原形留めてないよ~……」
(使う前から文句を言うでないわ! ほれ、まずはそっちのを試しているのじゃ)
 促されるまま、フィールは太い……というよりはゴツい方の杖を手に取った。
 一応武器には星やハートのような幾何学模様などマジカルできゃる~ん☆な装飾が施されているものの、そんな装飾に反する刃の部分がどうしても目に付いた。
「あの、一応確認ですけど、これってどうやって使うんです?」
「へい、そりゃあ敵に向かって思いっきり振り回すんでありやす! 込めた魔力がスイッチとなって起動して、そのまま刃に纏いやすからどんな物でも簡単に真っ二つって寸法ですぁ!」
「やっぱり物理攻撃じゃないですかぁーー?!」
 清々しいまでのチェーンソーぶりに思わずツッコミを入れてしまうフィール。
 その気が抜けた隙に、アルフォリスがフィールの魔力を武器に向かって放出させる。その途端刃の先端部分から魔力の刃が辺り一帯に飛び散った!
「うわぁぁ!? え、ちょ、ストップストップ!」
「あ~……言い忘れてやしたけど、中距離くらいでしたら攻撃も出来やすよ、こんな感じで魔力を飛ばして」
「そういうのは先に言って下さいっ!!!」
 突然の魔力の暴発に、フィールの服やパーテーションはボロボロに切り裂かれてしまう。ハプニングにスカート部分を抑えつつ猛抗議する主人を見てアルフォリスはご満悦の様だ。
(魔法少女に必須のサプライズお色気もばっちりじゃな! この武器、良い出来じゃ!)
「褒めるんじゃなーい!」
 フィールはこの武器を【マジ狩るチェーンソーロッド】と名付け、強く改善を要求した。
 その後彼女は、チェーンソーロッドが引き起こした惨劇の後片付けを先に伸ばし、もう1つの武器を手に取る。こちらの方は先程とは違い、持ち手部分が片手で握るのにギリギリなくらい太い作られているものの、見た目はなんとなく杖っぽい。
 だが、この区画にある商品がまともであるはずもなく。暫し何かを読み込むような音がしたかと思うと、突如杖から「STANDBY……」という音声が聞こえてくる。
「……これは?」
「へい! これは【まじかるバスターライフルロッド】といいやして、杖のグリップ部分にある引き金を引きやすと、先端から込めた魔力を強化して打ち出す事が出来る遠距離向けの杖になりやす!」
 最早ライフルじゃないか! とツッコミをする気力はもうフィールには残されていない。男の説明に従って用意された的に狙いを定める。
「出力は最低に調整しておきやしたから、試し打ちとは思わず思いっきりぶちかましてみて下せぇ」
「は、はぁ……」
 男の目はキラキラと輝いていた。
 その純粋さに若干の不安を感じながらも、フィールは控えめに魔力を込めてゆっくりと引き金を引いた。


●それは戦いに勝つための力
「え、何々?!」
 背後から突如聞こえてきた爆発音に【アリシア・ストウフォース】は思わず声を上げる。
 振り返れば、とある区画の中からピンク色の煙ときゃる~ん☆が黙々と立ち上っていた。
(う~ん……何だか出力? の調整が間違ってて、おっきな魔力が暴発したみたい! でも怪我人はいないって!)
 彼女のアニマである【ラビッツ】が断片的ではあるものの情報を整理する。
 まさかこんなところで顔見知りの魔法少女が巻き込まれているとは思いもしないアリシア。だがそれでも、その場にいた誰かが無事であった事に彼女は安堵していた。
「それなら良かった……それにしてもこの展示会、物騒な装備が多いよね~。ちょっと複雑な気分」
 彼女もまたフィール同様、この展示会を見て回っていた。
 展示されている品々は、最新技術を売りにした簡易性や強大な力を謳い文句にしているものばかり。昨今の情勢を考えればそうした需要が高まることは理解できるものの、マッドドクターとして精力的に活動してきた彼女にとって、こうして誰かを傷つけるための何かが世に蔓延るということは、手放しで喜べるような状況ではないだろう。
(……アリシア? なんだか元気ない?)
「ううん! 何でもない! それじゃ~~……あっちの方見に行こうか!」
 ラビッツの問いかけに顔を上げた彼女は、笑顔を見せるとまだ回れていない区画の方へと歩いていく。
 その後ろ姿を見つめながら、ラビッツは考え込むように自身の頭にあるウサギの耳のような部分を、ぎゅっと握りしめていた。


●それは誰かを救うための力
 アリシアは展示会を隅から隅まで見て回り、端の方に一際小さな区画を見つけた。
 そこにはマッドドクター向けの注射器や薬品類がいくつか展示されているものの、最先端技術が目白押しであるこの会場の展示品としては貧相とも言える。そこでは老婆が静かにイスに座っていた。
「……いらっしゃい。好きに見ればいいよ」
「はーい」
 しっかりと見てみると、アリシアのように分かる人には分かる名品が無造作に陳列されている。
「わー、こんなのもあるんだ……」
「ああ、そりゃ麻痺薬だね。もしかしてお前さん、医者なのかい?」
「はい! こういうのがあれば、色々楽になるかな~と思って!」
「ほう、色々とな?」
「ん~っと、アタシ的には患者さんは治療の時に痛いのを嫌がるかなーって思うんですけど、それって本末転倒な気がするんですよね。だって元気になってもらうために必要だから、今痛みを与える事を承知でこっちは治療をするわけで。でも現場によっては充分な麻酔も用意できない! そんな時にこれがあれば、患者さんも痛みを感じないから治療がしっかり出来るだろうし……」
「そうかい。でも分かっちゃいると思うが、こいつは無造作に使えば人を3日は動けなくさせる薬。戦いに使っちまおうなんて気になれば戦場のど真ん中に人を置き去りにすることも、その場で息を止める事も出来るわけだ。お前さんには、これを間違える事無く使いこなす覚悟はあるのかい?」
 それまで薄目だった老婆はアリシアを見定めるようにその眼(まなこ)を小さく見開いた。老婆の生み出す空気感に暫しの沈黙が生まれる。
 やがて、アリシアは小さく深呼吸をするとにっこりと笑顔を浮かべる。
「……あります。戦える医者! っていうのはかっこいいなーと思うけど、医者の智慧は誰かを守る為の力じゃないと!」
 その答えに、老婆は微笑む。
「その想い、確かに受け止めたよ」
 老婆は満足したように店じまいを始める。
「あれ? もう片付けちゃうんですか?!」
「そうだよ。ここに並べたあたしの子供達は、見せるべき相手に見せられたようだからねぇ」
 そう言いながらテキパキと片づけを終えた彼女は、最後にアリシアへ語り掛ける。
「いいかいお前さん。お前さんは優しい子だ……誰かを助けたいという純粋な気持ちが伝わった。だが、お前さんの中にある残酷とも言える心も、あたしにゃ見えた気がするよ。それは分かっとるね?」
「はい。でも、アタシはもうその心と向き合えてますから! ダイジョーブ、ですよ!」
「そうかえ。なら、あたしゃその言葉を信じてやるとしようかね」
 それだけを言い残し老婆は自分の展示品と共に、何処かへと去って行ったのであった。


●3分だけの永遠
「それじゃ【カメリア】ちゃん、メール送信宜しく~」
(かしこまりましたわ)
「これで場所取りも連絡もオッケーっと。2人とも来るかなー?」
 フィールやアリシアが展示会を見回っている頃【朔代 胡の枝(さくしろ このえ)】は真っ直ぐにマノリフィア学院の食堂へと訪れていた。
 自身のアニマに命じて送信させたメールの相手は、彼女の自慢の家族である秀才の兄『幹弌(みきひと)』と、スポーツ万能の弟『葉(よう)』。
 内容はこの展示会の詳細と自身の待っている場所と告げるものであった。
(3人が揃う確率は……約2.8%。率直に言って、あまり高い数字とは言えませんね)
「まぁ、兄ちゃんなんて馬鹿みたいに忙しいしねぇ~。葉くんは何かの練習あるかもだし」
 学園旅団で育った朔代家は、それぞれがアカディミアの学校に通っている。
 幹弌は第1学区の中でもトップクラスの学院で帝王学を中心に100を超える学問を学んでおり、毎日学院に缶詰状態だ。
 一方の葉は第12学区に通う普通の学生。但しそれは彼の通う学校がエスバイロを用いて行われるスポーツ『フライムーン』を始めとしたスポーツの強豪校であり、彼がその万能っぷりでチームのエースとして活躍していなければ、の話である。
(兄弟の活躍は喜ぶべき事。ですが……最近はそれぞれの分野が忙しくなる分あまり触れ合える機会がなかったことも事実。複雑ですわね)
「まぁ、コノさんも最近は探究者活動で割と忙しかったし、こればっかりはどうにも、って感じかなー」
 そうこうしているうちに、胡の枝の目の前には注文したケーキ・カステラセットがやってくる。
「おおーっ。やっぱりここの食堂と言えばこれだよね! ちょっとテンション上がっちゃったかも!」
 一口頬張れば、カステラの程よい触感とザラメの甘味が口いっぱいに広がる。
「うんうん。焼き具合もバッチリ。この前夜中にここで食べた時も美味しかったけど、あれはちょっとだけ焼き過ぎだったし」
 続いて胡の枝はケーキにフォークを入れる。こちらは生チョコレートをふんだんに使用したショコラケーキで、スポンジ部分もふんわりとした優しい口当たり。プレーンカステラと食べ比べれば味も触感も堪能できる中々食べ応えのあるセットだ。
「むふふ~♪ はー、贅沢な時間だね~!」
(コノエ、本日の摂取カロリー予測ですが……)
「あ~! そういうのは無し無し! 今日は心の休肝日! お腹一杯食べるよ~!」
(ええ、そう言うと思っておりましたの)
 カメリアは主人のこの答えを分かり切っていたように、翌日以降の食事メニューを作成し始める。
 ただでさえ痩せ気味の胡の枝が夏場に初ビキニの為挑戦したダイエットメニュー。そこから、冬に向けて少しでも精の付くものを、メニュー構成を変えてきたカメリアだったが、この後にもクリスマス等が控えている点から考えて、どうやら当初の予測値は大幅な修正を余儀なくされそうだった。
「全く。相変わらずお前はマイペースだな、胡の枝」
「えっ?」
 突如呼びかけられた事に思わず振り返る胡の枝。カメリアもメニューの方へ気が傾いてしまい気が付かなかったが、そこには彼女の兄である幹弌がコーヒーを片手にやってきていた。
「うわぁぁ!?? 兄ちゃん!?」
「何だそのリアクションは? 俺をここへ呼んだのはそっちだろうに」
「だって! 兄ちゃん忙しいからあんまり期待してなかったし!」
「正直な感想をありがとよ。まぁ確かに本来はここに来る予定は無かったがな、応援に呼ばれたんだ」
幹弌の話によると、今回展示会を主催する第一学区の学院と彼の通う学院は関係があるらしく、幹弌の当初の予定をキャンセルしてまで手伝いに駆り出されていたのだ。
「今日は論文の打ち合わせを教授とする予定だったんだが……こうしたお祭りムードも悪くない。そうだろ、葉?」
「そうかな? 大会の決勝戦なんてこんなもんじゃないぜ?」
 幹弌の問いかけにその背中に隠れていた葉も姿を見せる。
「葉くん?! ……うわー、これは第15回コノさん驚きエピソード選手権、記録更新しちゃったよ」
「はははっ! またコノねぇは変な事言ってやんの!」
「だって久しぶりに兄弟が揃ったんだよ! カメリアちゃん、何日ぶり?」
「3人が同時刻家に居た状態から起算すると27日。こうして顔を見合わせる状態から起算すると125日ぶりになりますわね」
「へー、ミキにぃとコノねぇ、それぞれとはもうちょっと喋ってる気がするけど、確かに3人顔付き合わせちゃないか」
 カメリアがオープンモードで3人に聞こえるように答えると、葉も思った以上の数値に驚きを示す。
「原因は主に俺だ。あまりお前らに構ってやれていないな。すまない」
「いやいや。兄ちゃんの元気そうな顔が見れてコノさんは満足だよ。相変わらずブラックばっかり飲んでるのも安心したしね」
「ふっ。お前が砂糖で出来てるように、俺はカフェインで出来るってだけだ。さ、申し訳ないがこの学院でやらなきゃならん仕事が残っている。胡の枝には悪いが、もう行くぞ葉」
「しょうがねぇな~! んじゃコノねぇ、またな!」
 どうやら幹弌がその交渉力をもって、監督から葉を彼のチームメート毎駆り出したらしい。
 2人は胡の枝に別れを告げると、その場を去っていった。
「嵐のような一瞬だった……でも、2人とも元気そうで良かったかな」
「わずか3分ほどではありましたが、胡の枝は2.8%の確率を引き寄せたのです。流石ですわ」
「あそっか、そういう事になるのか~。案外コノさん、幸運の女神だったりして~」
 冗談を言いつつも笑顔を見せる胡の枝。
 彼女と兄弟達の絆は、ずっと昔から繋がる家族の絆。
 たった3分の間なれども、彼女達の絆はしっかりと確かめられたのであった。


●マノリフィアの明暗
 胡の枝が兄弟と別れて少しした頃、食堂は展示会の見学を終えた人々が流れ込んできた事もあって更に混み合ってきた。
「混んできたね。食後のティータイムも満喫したし、そろそろお暇しようかな?」
「コノエ、その選択は少々早計かも知れませんよ」
 カメリアの指さす先には、以前から知り合いであったアリシアの姿が見えていた。
 彼女の持つお盆には所狭しと並べられたお菓子に、わずかな隙間を埋めるようにサラダの乗った皿が少々乗っている。
「そうみたいだね。おーい、アリシアく~ん!」
 その声に気づいたのか、アリシアは人波を掻き分け胡の枝の方へと近づいてきた。
「やっほー胡の枝さん! 胡の枝さんも来てたんだねー!」
「まぁーねー。それにしてもアリシア君、随分お菓子を食べるんだね?」
「ああ、これはラビッツに選んでもらったんだけど、何時の間にかこんな風になっちゃって」
 胡の枝とは違い、ビュッフェコーナーから来たアリシアはラビッツの気になる品を選んで取っていくと、気づけばお盆がお菓子だらけに! なんとか手に届く範囲でサラダ類を確保したものの、これでは胡の枝以上に糖分過多になってしまう。
「だって、アリシアが元気出るかな~って、思って……」
 アニマはあくまでデータ上であるものの、主人の味覚を感じることが出来る。
 当然それは主人の感情の起伏も一緒にデータ化され、ラビッツにも記憶されていた。
 アリシアだって年頃の女の子、甘いものを食べれば嬉しい感情を示している時も多く、先ほどの展示会で複雑な表情をしていたアリシアを励まそうと、ラビッツは敢えて甘いものをチョイスしていたのであった。
「ふふっ。そっかそっか! ありがとねラビッツ! でも甘いものばっかりだと飽きるし太っちゃうから、今後はサラダとかもしっかり宜しくね!」
「う、うん! 分かった!」
 アリシアの感謝に子供のような笑顔を見せるラビッツ。
 そんな様子を微笑ましく見つめていた胡の枝とカメリアも交えて4人でしばし女子トークの華が咲く。
「そろそろ飲み物頼もうかなー。アリシア君もどう?」
「賛成賛成ー!」
「すみませ~ん、店員さーん!」
「はーい、ただいま!」
 胡の枝の呼びかけに1人のメイドが近寄って来る。
 そのメイドに胡の枝は妙な見覚えがあった。
「あれ? あのメイド服の人……もしかしてマディス君? カメリアちゃん、照合お願いー」
「少々お待ちを」
「お待たせしました! ご注文をお伺いいたします!」
 やってきたメイドは注文を取ろうと胡の枝たちの側に佇む。声は若干低めであるが、近くで見ても女の子にしか見えない彼女。だが……。
「データ照合完了。一致率97%、そちらのメイドは照合対象のマディスという人物で間違いないかと」
「え”え”っ!?」
 カメリアの調査結果に思わず荒い声が出るメイド。その正体は件のマディスという青年であった。
「いや~びっくりしたよー。結構女装似合うんだねマディスさん!」
 アリシアの言葉にトホホと言わんばかりに頬をかくマディス。
「一応種族はエルフですから、そんなに男らしい顔じゃないのは自覚してますけど……」
「まぁまぁマディス君。出来る事は多い方が良いと思うよ? うん、きっと」
「胡の枝さん、それフォローになってないよー!?」
 以前この学園で起きた事件にてマディスと関わりがあった胡の枝とアリシア。彼と会うのはそれ以来の事であったため2人はこれまでの経過を彼に問いかける。
「僕はロイアの見舞いがありましたから、ほとんどずっと病院に居ましたよ。僕自身もケガしちやってましたからその検査もありましたし」
 彼の親友であるロイアは、何者かの手によって特殊な魔装を施され、体中から高熱を発する異様な存在へと変えられてしまっていた。
 胡の枝とアリシアを含めた探究者達の活躍によりロイアは魔装の呪縛から解放されたものの、魔装の中で蒸し焼きの状態であった彼のダメージは大きく、マディスによると現在も意識はまだ戻っていないのだという。
「僕はもう良くなったんですけどね。まぁ、アイツ結構寝坊助ですから。もう暫くこのまま寝かせてやろうかと思ってます。アイツが死なずに済んだのは、お二人のおかげですし、本当に、感謝しています」
「そっか……でもマディス君はもう元気そうで安心したよ! 今度お見舞い行くよ、皆でね」
「そうだね胡の枝さん、アタシも何か治療で力になれる事があったら絶対協力するし! 絶対目を覚ますよ!!」
「ありがとうございます。胡の枝さん、アリシアさん」
 他の店員から呼ばれたマディスは、2人の追加注文を取ると改めて深くお辞儀をして去っていく。
 2人は彼の今後を見守っていく事に決めたのであった。


 そして展示会は終わりを迎える。
 吹き飛ばしてしまった区画の後片付けに追われ、フィールはこの時間まで拘束されていた。
「うぅ~……疲れた~…ご飯ーー……」
 しかし、既に食堂は締まってしまっている。
 それを見て涙ながらに帰ろうとする彼女をとある男が呼び止める。
「おいなんだ? 女がそんなはしたない恰好をして」
「こ、これは魔力の暴走で服が破けて!!! ……って」
 フィールは男の声に振り返る。よく見るとその顔には見覚えがあった。
 展示会で武器の評価を行っていたカーターであった。
「あー! カーターさん!」
「煩い声を出すな。お前があのやらかした奴という訳だな」
「そうなんです、だから食事もまだ出来てなくて……」
「はぁ……食え」
 カーターは御礼として学院から配布された弁当を袋ごと押し付ける。
「俺は特に腹が減ってないからな。これに懲りたら武器の扱いには注意しろ」
 そういって去っていくカーター。
 フィールはその晩、彼に感謝を述べつつ久しぶりのしっかりとした食事にありつけた喜びを噛み締めるのであった。



依頼結果

成功

MVP
 朔代胡の枝
 ヒューマン / ハッカー


作戦掲示板

[1] ソラ・ソソラ 2017/12/04-00:00

おはよう、こんにちは、こんばんはだよ!
挨拶や相談はここで、やってねー!  
 

[2] アリシア・ストウフォース 2017/12/09-00:59

はろはろー。
マッドドクターのアリシアだよー。
武器見るか―お菓子食べるかーバイトするかー悩み中だけど、楽しもうと思っているよ!
よろしくね!