プロローグ
空挺都市第3位ミルティアイ。
芸能旅団の異名を持つ、この巨大空艇都市は、その異名通り芸能が盛んな都市だ。
映画やTV番組、舞台やコンサートなど、人が楽しめる要素のほとんどを生産供給している。
ここで成功しスターになれば、巨万の富と名声、そして強力な発言権すら手に入れることが出来る都市。
しかし、それだけに競争は厳しい。
それは芸能だけに限らない。
有名人のセレブ達に提供される料理も、その競争から逃れることは叶わないのだ。
各地から集められてきた様々な食材を一流の料理人が調理し、一流のレストランで出されることを目指し鎬を削っている。
そんな場所であるからか、芸能と料理が合わさったコンテンツもあったりする。
その1つ、素人に料理をさせて、味や見た目を競い合い審査する番組を作っているプロデューサーは、絶賛ピンチだった。
「出演者が全員食あたりってのはどういうこった!」
「なんか打ち合わせの時の、ロケ弁に当たったみたいで」
「なに出したんだ!」
「生ガキの、ほぼ生詰め合わせでしたね」
「ほぼ生ってなんだほぼって!」
「何か不安になったんで、表面だけさっと火で焙ったらしいです」
「不安になったんなら捨てろ! それやった奴どこ行った!」
「逃げました」
「ああああああっ! どうすんだよ! もう時間ねぇぞ!」
「どうしましょ?」
「暢気か! ああー、もう、こうなったら――」
頭を抱えたプロデューサーは、思い付きを口にした。
「もう企画変えるぞ! とりあえず出演者は、探索者雇って来い!」
「はぁ。探索者なら、今からでも依頼出せば間に合いそうですけど、どうすんですか?」
「探索者おすすめレシピ! 秘境の浮島で見つけた極レア素材で料理勝負! とかテキトーにでっち上げる!」
「はぁ。そんな美味い具合に、レア食材手に入りますか?」
「良いんだよ! あとで編集で、伝説の浮島で見つけられた絶滅牛で作られたステーキ、か? とかテロップ入れるから!」
「さすがプロデューサー。こすっからい仕事は上得意」
「テメー褒めてないよな、それ」
「気にしないで下さい。それより、そういうことなら探索者に依頼出しに行きますね」
「おう、行って来い!」
てなことがあって、依頼が出されました。
内容は、料理番組に出て、なんでも良いから料理を作って欲しいとの事でした。
食材は、番組で用意するとの事です。
その番組では、料理中のパフォーマンスも自由に行っても良いらしく、それに必要な物があれば、それも用意するとの事でした。
この依頼、アナタ達ならどうしますか?
解説
状況説明
料理番組で、なにか料理を作って下さい。
料理の種類は自由です。
必要な食材は、番組が全力で用意します。
なぜか料理中のパフォーマンスもオッケーな番組なので、料理中に何かパフォーマンスがしたい場合も、それに必要な物は番組が全力で用意します。
ただ限界はありますので、用意する物によってはスケールダウンします。
各種料理機械が用意されていますので、アニマと息の合った調理をすると美味しい料理が出来、評価が上がります。
その辺りの判定は、プランを前提に判定します。
作った料理は、審査員達が食べて評価します。
ただ、プロデューサーから、とにかく褒めろという指示が出ているので、何が出てもとにかく褒めます。
プロなので、仮にどれだけキワモノ料理だったとしても、笑顔で食べて褒めます。
心の中で泣くかもしれませんが。
成功度に関しては、全員が何か料理を作って提供できたら成功以上になります。
プランから、美味しい料理が出来た、あるいは番組が盛り上がった、と判定出来れば出来るほど成功度は上がります。
PC同士が協力して料理を作ることも可能です。
その場合は、一緒に作るPC間で、その旨をプランにて書き込みください。
AとBというPC2人で作る場合は、それぞれBと一緒に作る、Aと一緒に作ると書き込み下さい。
流れとしては、
1 料理制作。パフォーマンスがあればそれも可能。
2 探索者が作った料理を提供し、審査員による実食と評価。
3 結果発表
という流れになります。
以上です。
それではご参加をお待ちしております。
ゲームマスターより
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回のエピソードは、料理番組に出てみよう、というエピソードになっています。
美味しい料理をアニマと息を合わせて作るか、あるいはキワモノ料理を作ったり、パフォーマンスに走ったり、どう動かれるかは、それぞれ自由になっています。
ご自由に楽しんで頂ければ幸いです。
それでは少しでも楽しんで頂けるよう、判定にリザルトに頑張ります。
料理番組に出演しよう エピソード情報
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担当 |
春夏秋冬 GM
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相談期間 |
7 日
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ジャンル |
日常
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タイプ |
ショート
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出発日 |
2017/11/17
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難易度 |
簡単
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報酬 |
少し
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公開日 |
2017/11/19 |
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【目標】 番組を盛り上げよう! 【準備】 解毒剤とメディ系スキルを持ってくね。 【行動】 アリシアさんとの料理対決、ボクはこのカードを切る。 天空秘境に棲む魔獣「ヨダ・ソー」の生き血を使った『血の池地獄鍋』! 魔女が使うような大鍋で、赤黒い何かがグツグツ煮えたぎってるぅっ! え、色モノ? 【パフォーマンス】 フォブは小悪魔ぽい翼と尻尾を付けたサキュバスさんコスでお手伝い。 ボクは吸血鬼めいた服装で棺桶から登場して調理。 ハロウィンはもう終わったけど気にしない! スープは予め輸血パックに入れておいたのをドボドボとお鍋に。 具材は色や形が怪しいヤツを適当に放り込んじゃう! カメラ目線で含み笑いはお約束だよね? アドリブ大歓迎!
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目的 料理を作るぞー! 行動 ラビッツ!最初は見ていて!ワタシでもどこまでできるか試してみたい! やばかったら止めてね! んーあんま道具の使い方わかんないけど、てきとーでいっか!いっちょやってみよー! …え?駄目?もー早く言ってよー ワタシ今回豪快な料理作ってみたいんだよね! お肉大きめ野菜大盛り!お菓子は…ラビッツに任せる! 演出も大切じゃん?だから、いくよーファイヤ! あ、いちおー怪我に備えて【癒しの豪雨】いっとく?ご飯にまでかかりそーだけど食べたら、回復するかもよ?それって面白くない? はい!料理かんせー! 今回はぶつきり焼肉、野菜たっぷり八宝菜、リンゴのジェラートだよ!栄養にも気を付けて作ったよ!召し上がれ!
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参加者一覧
リザルト
○お料理バトルを始めましょう
きらびやかなキッチンスタジアム。
並べられるは、数多の食材。
幾つものカメラが向けられる中、素人お料理バトルの司会者は開幕を告げる。
「さあ! 時は来た! 全旅団から厳正なる審査の元、今日ここで料理の腕を振るうは探究者! 未知を求め探る彼、そして彼女達は、まだ見ぬ料理の探究者としても実力を見せつけるのか!? その答えは、いま2人に委ねられた! 早速お呼びしよう! カモーン!」
やたらとテンションが高い。
なぜならカンペで『とにかく盛り上げろ』と指示されているからだ。
プロである司会者は、テンション高く探究者を呼ぶ。
「まず1人目は、豪快料理の伝道者! されど医食同源ここにあり! 兎のようにかわいいアニマと共に、新たなる食の一ページを築くのか!?」
必死な司会者の口上と共に、キッチンスタジアムへと続く花道がスモークに包まれる。
そしてスポットライトに照らされる中、【アリシア・ストウフォース】と彼女のアニマである【ラビッツ】が現れる。
その途端、一斉に湧き上がる歓声と拍手。
プロ観客による賑わいの中、2人はキッチンスタジアムへと向かう。
「賑やかだねー」
「賑やか過ぎるよ」
歓声に応えるように手を振って、堂々と進むアリシアに、その後ろをちょこちょこと可愛く付いていくラビッツ。
キッチンへと辿り着くと、司会者がマイクを向ける。
「今日の意気込みをプリーズ!」
マイクを取ってアリシアは応える。
「今日は、どこまでできるか試してみたい! ラビッツ! 最初は見ていて!」
そこまで言うと、笑顔のままラビッツに続けて言った。
「やばかったら止めてね!」
「うん。分かった」
一生懸命に返すラビッツ。
そして不安になる食の審査員。
それはそれで数字が取れそうなので良し! と拳を握りしめるプロデューサー。
盛り上がる中、司会者はアリシアからマイクを受け取り、対戦相手である【アクア=アクエリア】と彼のアニマである【フォブ】を呼ぼうとする。
しかしその時、照明が落とされ薄暗くなった。
「なんだ? なんだこれは一体どうしたことかー!」
打ち合わせ通り、驚く司会者。
それを合図に、キッチンスタジアムの一角にスポットライトが集中する。
「おおーと、これはなんだー!? 突如現れた、この棺桶は一体!?」
カメラの見えない所で疲労困憊なADは無視して、丁寧かつ素早くADに運ばれた棺桶に司会者が近付く。
すると棺桶が内側から開き、アクアがフォブと共に現れる。
「魔界料理をごちそうするよー!」
「期待してねー!」
吸血鬼めいたコスチュームのアクアに、トレードマークなSD注射器を持った小悪魔ぽい翼と尻尾を付けたサキュバスさんコスチュームのフォブが、笑顔で手を振る。
その途端、歓声を上げ拍手する観客たち。
そして更に青くなる審査員。
それをしっかりとカメラに撮らせ、喜ぶプロデューサー。
掴みはオッケーな感じに盛り上がる中、料理バトルは始まった。
○いざ、料理開始
「んーあんま道具の使い方わかんないけど、てきとーでいっか! いっちょやってみよー!」
様々な料理機械に調理器具を前にして、アリシアは明るく言った。
そこに早速ツッコミを入れるラビッツ。
「適当だと、巧く行かないかも」
「……え? 駄目? もー早く言ってよー」
そこでちょっと考えて、アリシアは言った。
「ワタシ今回豪快な料理作ってみたいんだよね! お肉大きめ野菜大盛り! お菓子は……ラビッツに任せる!」
言うなり早速、用意されている食材を取りに行く。
お目当ては、ずっしりと重そうな浮き牛の肉のブロック。
しかも、ヨーグルトに漬けて寝かした後で水洗いし拭き取って、その後に玉ねぎとワインに漬けた下拵えが済んでいる。
下拵えには時間が掛かるので、事前に用意していたのだ。
「豪快に、行ってみよー」
ステーキのように分厚く切っていく。
一口では食べ切れないほど大きく豪勢だ。
味付けに塩コショウを振りかけて、それを用意された鉄板で焼いていく。
途端、肉の焼ける景気の良い音と、お腹が刺激される香ばしい匂いが広がる。
「うん、良い匂い。でも、ちょっと物足りないな~? 派手さが足りないよね」
これに、料理機械に備え付いていたロボットアームで林檎をミキサーに入れていたラビッツが、気になって声を掛ける。
「派手にするの? どうする気なの?」
これにアリシアは笑顔で返す。
「演出も大切じゃん? だから、いくよーファイヤ!」
ラム酒を盛大に焼肉に振り掛けて、いざファイヤ。
盛大に燃え上がる。
「よし、派手だし綺麗で問題なし!」
香り付けに、アルコールの強いお酒を振り掛けて火を点けるフランベは、立派な料理法。
とはいえ今回は、振り掛けたお酒が多すぎた。
肉の油にも火がついて、高らかに燃え上がる。
「おー、よく燃えるね」
「感心してる場合じゃないよ! 燃えちゃうー!」
慌てるラビッツに、アリシアは落ち着いたまま返す。
「大丈夫! すぐに消しちゃうよー!」
そう言って、スキル癒しの豪雨を使い、鎮火する。
「ちょっと掛かっちゃったかな? でも食べたら色々と回復するかも? それって面白くない?」
楽しそうに言うアリシアに、実食する審査員はドキドキだった。
そうしてアリシアが料理を作る一方で、アクアだって負けてはいない。
「アリシアさんとの料理対決、ボクはこのカードを切る!」
そう言ってアクアが指を鳴らすと、スタジオの一部が下に沈む。
沈んで出来た穴からは、ゆらゆらとドライアイスの煙が溢れ、ゆっくりとアクアの料理がせり上ってくる。
「ボクが用意したのは、天空秘境に棲む魔獣「ヨダ・ソー」の生き血を使った『血の池地獄鍋』!」
アクアの宣言に合わせるように、高らかにBGMが鳴り響き、その全容を露わにする。
それを見た司会者が、驚いたように声を上げた。
「これはなんだー!? まるで魔女が使うような大鍋で、赤黒い何かがグツグツ煮えたぎっているぅっ! これが血の池地獄鍋だというのかーっ!」
優に50人前は出来そうな、ところどころ刺々しい真黒な大鍋に、赤黒いスープが入り、ぐつぐつと煮えている。
「あくあん、お鍋一杯煮えてるね?」
「うん。でも、まだまだ足らないよ」
サキュバスさんコスで背中の翼をパタパタさせながら、アクアの周囲をふわりふわりと浮かぶようなホログラムを見せるフォブに、アクアは笑顔で返し調理を開始。
「血を一杯、もっともっと入れて行こー」
「溺れるほど、入れちゃおう」
アクアとフォブはリズムカルに、次々食材を鍋の前に持って来る。
「獲れたて新鮮真空パック。あくあん、どれだけ入れちゃうの?」
自走式のワゴンをフォブが操作し持って来たのは、輸血パックに入った赤いスープ。
それをアクアは手に取ると、カメラ目線で含み笑いを見せながら、イタズラするように茶目っ気を込めて言った。
「もちろん全部入れちゃうよ。でないときっと物足りない」
ザックリ封を切って、次々じゃばじゃば追加投入。
「あくあん、スープだけじゃ、物足らなくない?」
「うん。だから具材も一杯入れよう」
新たな自走式ワゴンが、フォブの操作でやって来る。
それに載っていたのは、私毒持ってます、というような真っ赤なキノコ。
他にも刺々しい葉野菜をざく切りにして、鍋に放り込んでいく。
「なんだかヘルシーになって来たね、あくあん」
「だったらここで、お肉を投入だ」
用意したのは鳥の挽肉と粉砕された軟骨。
混ぜ合わせお団子にして、串に刺して直火で焙る。
香ばしい匂いが漂ってきたところで、それを串から外して鍋に投入。
そしてぐつぐつと煮ていく。
一見すると火が通り過ぎのように見えるが、フォブがしっかり注意して、一番美味しくなるよう火の回りを管理していた。
そんな風にフォブに協力して貰いながら、アクアは鍋を木のへらでゆっくりと掻き回し、良い匂いが漂ってくる。
「よし、これで出来上がりだ」
小さな小皿にひとすくい入れ味見をすると、出来上がりを宣言する。
それとほぼ同時に、アリシアも作り終った。
「こっちも完成ー」
盛大に炎に包まれ焼き上がった焼肉に、野菜たっぷり八宝菜。
そして、ラビッツが作った林檎のジェラート。
手早く作られたそれらは、見た目だけでも美味しそうだった。
2人の出来上がりに、司会者は調理の終了を告げ、いよいよ審査員の実食へと進んだ。
○料理勝負!
冷めては勿体ないという事で、2人の料理は早速、審査員の元に。
3人の審査員は、漂ってくる美味しそうな匂いに胸をなでおろすと、次々に食べていく。
「……うん、どちらも美味しい」
含みは無く、素直な響きを声に滲ませながら、審査員は評価していく。
「焼肉は厚みがありますが、やわらかく旨味がある」
これにアリシアは返す。
「ヨーグルトで肉の臭みを取るのと同時に柔らかくしたからね。そこに玉ねぎも付け足して、ワインにも漬けた効果が出てるんだよー」
「漬ける時間を間違えると柔らかくなり過ぎますが、これは良いですね。食べ応えがある厚みのある肉を、ほど良い柔らかさで味わえます。あとは、なんでしょうなこの味? 旨味に近いんですが?」
「癒しの豪雨の味じゃない?」
「……そういえば、入ってましたね。ん~む。でも美味しいんですよね、ホントに」
アリシアの言葉に、どうコメントして良いのか悩みながらも、実際美味しいので次々に食べていく審査員。
そこに、他の審査員が他の料理の評価を口にする。
「この八宝菜は、味だけでなく見た目が綺麗なのも良いですね」
ミニトマトの入った八宝菜は、野菜たっぷりで、見た目の色合いも鮮やかで綺麗だった。
それを審査員は食べていく。
「単体でも美味しいですが、肉の後に食べると、また違う味を楽しめて良いですね」
そこに他の審査員も話を合わせていく。
「トマトは火を通して食べると、また味わい深い。卵でとじて合わせる料理もありますが、八宝菜もまた良いですな」
「味も良いですが、栄養のバランスも良いですね」
これにアリシアは返した。
「今回の料理の題材は医者いらず! だから栄養も取れて、家で誰でも作れるように考えて作ってあるんだよ!」
これに納得する審査員たち。
「なるほど。食べてみて、それは実感できます」
「ある意味、家庭料理とも言えますな」
「でしたら、こちらの鍋料理は、お店の料理といった所ですね」
そう言って、審査員はアクアの鍋料理を味わう。
まずはスープを一口。
コクのある旨味溢れる味が広がっていく。
「美味い。それに、ほっとする味わいですね。これは、豆乳がベースですか?」
これにアクアが返す。
「浮島産の赤豆を絞った物を使ってるんだ。そこにペースト状になるまで丁寧にすったゴマを混ぜたら、隠し味は同じく赤豆から作ったお味噌を入れてるよ」
「ベースの豆乳も味噌も赤豆ですし、味が喧嘩せず馴染んでますね。そして具材も良い」
喜んで食べる審査員に、アクアは嬉しそうに返す。
「具は、味の出るキノコと葉野菜。それに浮島地鶏の軟骨入り肉団子。スープのコクに負けないように、肉団子は直火で軽く炙って香ばしさを出してるんだ」
「滋味あふれる味がスープにとけ出して、味の奥行きを広げていますな。それに、火の通りも良い。濃厚なスープですから、一歩間違えると煮詰めすぎて味が壊れかねないが、しっかりと調整されている」
「ウチが、ちゃんと見てたもん」
アクアの背中に抱き着くようにしながら、胸を張るように言うフォブに、審査員たちは和やかな笑みを浮かべる。
「アニマとの共同作業で出来た味、といった所ですね。美味しいですよ」
「でしたら、デザートとして用意された、このジェラートもアニマのお蔭ですね」
ラビッツの作った林檎のジェラートを、スプーンでひとさじすくい取り、審査員は食べる。
口の中ですっと溶け、林檎の爽やかな味わいが広がっていく。
「口溶けの良いジェラートですね。サッパリとした味わいが、一息つくような心地好さをもたらしてくれます。美味しいですよ」
笑顔で褒める審査員に、ラビッツは恥ずかしそうにしながら返した。
「頑張って、作ったから。美味しいなら、良かった」
そんなラビッツに、審査員たちは和みながらジェラートを食べ、感想を続ける。
「美味しさも良いですし、作業の様子を見ていましたが、ご家庭でも作れそうですね」
これにアリシアは返す。
「もちろん! 林檎は言わずもがなだけど、材料は簡単に手に入るもので作ってるよ。それに今回は果実から絞っているけど、作ろうと思えばリンゴジュースからでも出来るんだ。簡単な作り方だから、子供と一緒に作っても良いかもねー」
これに、審査員ではなく観客の方から声が上がる。
家でも簡単に作れる、といった点が琴線に触れたらしい。
それを見たプロデューサーは、ADに指示して、放送する時にはレシピのテロップを流すことを指示した。
そうして出された料理を食べ終わり、審査員が協議に入ろうとした、その時だった。
「ちょっと待って。最後の締めがあるから」
アクアは、審査員たちが食べている間に作っていた、最後の一品を披露する。
「『血の池地獄風真っ赤なカルボナーラ』だよ。鍋の締めに、麺料理は合うと思うんだ」
茹で上げたパスタに、血の池地獄鍋のスープを入れ絡めると、一端火を止め卵黄を投入。
よく馴染んだ所で、チーズを追加投入。
そこから弱火で全体が馴染むまで混ぜ合わせた所で、味のキレを良くする胡椒を入れて出来上がり。
皿に綺麗に盛られた真っ赤なカルボナーラに、審査員はフォークでパスタを巻き取り口に運ぶ。
濃厚な、それでいてクドくは無い、コクのある美味しさが広がっていく。
「これは、美味しいですね」
「鍋で煮込まれたスープが、パスタに絡まり味わいの複雑さと広がりを楽しませてくれます」
「スープが豆乳ベースですから、決してクドさもなく、旨味だけを感じさせてくれますね」
アクアが最後に投入したカルボナーラを食べ終わり、審査員たちは本格的な協議に入る。
そしてしばし待った後、審査員たちは結果を発表した。
「今回の料理人。アリシアさんとラビッツさん、そしてアクアさんとフォブさん。皆さんお疲れ様でした」
「どちらの料理も、とても美味しかったです」
含みは全くなく、素直な響きを込めて審査員は続ける。
「それぞれどちらも、特徴のある料理でした。アリシアさんとラビッツさんの料理は、題材が医者いらずという事で、肉に野菜とバランスのとれた食材を使われ、その上でご家庭でも作り易い物でした。八宝菜にミニトマトを入れるなど、彩りが楽しいのも良かったですね」
「林檎のジェラートも、美味しかったですから、これが家でも出来るとなると、嬉しいですね」
審査員の言葉に観客が賛同するように声を上げる。
それが静まってから、審査員は続けた。
「対するアクアさんとフォブさんの料理は、お店の料理という風情がありました。見た目のインパクトもあり楽しめましたし、そのインパクトに負けないほど美味しかったです」
「そして、鍋料理を食べた後に締めの麺料理としてカルボナーラを出されることで、コース料理を食べたような満足感がありました」
「どちらのチームの料理も、美味しいですし特徴のある、良い料理でした。それだけに、我々としても悩みましたが、僅差で決着がつきました」
審査員の言葉に、周囲の照明が落とされ、期待感を煽るようなBGMが響く。
そしてスポットライトが周囲を巡る中、結果を審査員は口にした。
「今回の料理勝負、僅差でしたが、アクアさんとフォブさんチームの勝利です!」
高らかなファンファーレと共に、スポットライトがアクアとフォブに集まる。
「やったね! あくあん!」
アクアの背中に抱き着くようにして、はむはむと肩を噛むフォブに、アクアは嬉しそうに返す。
「ありがとう。手伝ってくれたお蔭だよ」
この結果を受けてラビッツは、残念そうにアリシアに言う。
「負けちゃったね」
けれどアリシアは、元気に返した。
「ま、そういう時もあるよー。勝負は時の運だしねー」
そして労うように続けた。
「お疲れさま。ありがとうねー」
「……うん」
はにかむように、照れながら返すラビッツだった。
こうして番組は盛況の内に終わった。
番組の中で、アリシアとアクアの作った料理のレシピはテロップとして流れたのだが、非常に好評だったという。
そして番組終了後は、スタッフと一緒に残った食材も込みで、美味しく出来上がった料理を食べて依頼を完遂する探究者たちであった。
依頼結果