七枷陣の俺の嫁と! 最後の日常を!桂木京介 GM) 




リザルトノベル


 おじさんはね、と【七枷陣】は、ピスヘルメットの位置を直しながら言う。
「本当はテストピアの隅っこで、ハッカー中小企業の経営者をしている人なんだよ」
 ピスヘルメットというのは、よく漫画で探検家がかぶっているヘルメット状の帽子である。陣は現在、これに加えてサファリジャケットを着用し、バックパックも背負っている。
「否定する材料はありません、マスター」
 同様の服装をした【クラン・D・マナ】が、抑揚に乏しい口調で答えた。
「ただ強いて言えば、発言中の『中小企業』は『零細企業』と言い換えたほうがより正確かと」
「相変わらず手厳しいなあ」
 陣が疲れた笑いを浮かべたところで、
「良かったときもありますものね、景気が。ね? ね?」
 わたわたと両手を振り【フラジャイルのマリア】が口を挟んだ。マリアも二人とお揃いの探検家ルックだ。さらに早口でマリアは言い足す。
「また来ますよ、稼げるようになる日が。大丈夫です、陣さんなら……! マナさんもいますし。本機、いえ、私も、及ばずながらお手伝いしますし」
「ありがとうマリア。おじさんはその気持ちだけでも嬉しいよ」
 ここで三年前、シープヘッドを含むアビスが急上昇した事件(現在では【暗流】と呼ばれている)後の陣の動向について説明しておきたい。
 陣はめまぐるしい日々を過ごした。世情の混乱に乗じ投機の世界へ飛び込んだためである。
 これが当たった。大当たりした。
 元来の情報収集力の高さもあり、賭けのことごとくに陣は連戦連勝したのだ。マナという、優秀すぎるアシスタントがいてくれたことも大きかった。なお、いち早くスレイブ化したマナは、珍しいことにその後一度もアニマに戻ることのないまま現在に至っている。
「おじさんの時代キタ!」
 大成功していた当時、思わず陣はこう叫んだものだ。
 実際、最初の一年前後に限ればそれは間違いではなかった。
 ところがある日突然、θ(シータ)と名乗るクラッカー(ハッカーの中でも悪質な者)が陣の前に立ちふさがって以来、陣の調子は目に見えて衰えはじめたのである。
 年齢性別一切が不明のシータは、陣の経済活動のことごとくに敵対的行動を取った。粘着質につきまとっては、陣の利益をかっさらい、陣の持株会社を買収した。インサイダー情報をつかむなどダーティな手段も取りながら、決して尻尾はつかませなかった。
 陣は応戦したものの、チェスの小学生大会に世界ランカーが乗り込んできたようなもので、最終的にシータに対し大敗北を喫したのだった。
 かくして暗流から三年、陣のバブル景気はきれいにはじけ、ほぼブラスマイナスゼロの状態に戻ったのである。
「破産をまぬがれただけ良かったかもね……ま、楽しかったよ」
 あの日々を思いだすと陣は、どうしてもしみじみしてしまう。投資界隈では、陣とシータの仕手戦は伝説として語り継がれているという。
「いいのではないでしょうか。持てあますような財はかえって不幸の元です」
 マナはいたって平気な様子だ。考えてみればマナは大勝ちしていたときも敗北を重ねていたときも、浮かれたり落ち込んだりすることがなかった。
「それに、マリア様とより親しくなれましたから」
「嬉しく思っています」
 マリアは照れ笑いした。
 この三年、陣とマナの日々の生活、炊事洗濯掃除といった家事を受け持ってくれたのはマリアだった。住み込み家政婦のようになっていたのである。
 スレイブ化の代償としてマナは家事の機械を遠隔操作することができなくなり、人手を雇おうとしていた矢先、マリアが志願したのがきっかけだった。
「お二人にはありますので、ご恩が」
 ピスヘルメットのつばをちょこっと下ろしてマリアは言う。
「それに家事って本機、いえ私の好みだったみたいで」
「いやあ、マリアには甘えっぱなしだった気がするよ。面目ない」
 一千年の時を超えたスレイブが、家事好きだったとは意外な話だ。
 労働をするようになってマリアは眠そうな姿を見せなくなった。一人称も、『本機』という不自然なものから『私』になりつつある。
 意思を有す個人として、自立できたということなのだろうか。
 この三年間は、マナとともにマリアの成長を見守るための時期だったのかもしれない――そんなことすら陣は思うのである。
 ところで、と陣は言った。
「おじさんとしては大助かりだったけど、お前さん自分の時間はちゃんと取れてる?」
「ご心配なく、見つけております。日々の楽しみを。季節の移り変わり、近所の野良猫ちゃん、干したお布団の匂い……」
 マリアはうっとりした口調で言う。
「それに今日はむしろ、お二人にお付き合いいただいているような状態ですから……私の用事に」
「いいえ、私たちも興味があります」
 あそこに、と言ってマナは目前の遺跡を見上げた。
 ピラミッド型の構造物である。サイズこそ小さいものの、その姿はかつて【トレジャー・アイランド】で発見されたものに酷似していた。
 テストピア付近の空域に、ガス雲の塊が発見されたのはごく最近のことだ。その内部にドーム球場程度の浮島があること、島にこの遺跡が存在していることはもちろん、世間的にはまだ、ガス雲のことすらほとんど知られていない。
 しかしその情報を、陣はたやすく入手していた。そうして、他の探究者の手が入る前に素早く駆けつけたのである。
 トレジャー・アイランドのときと同じだとすれば、このピラミッドには、マリアの関係者が眠っている可能性が高いではないか。
 マナが言う。
「いちはやくこの遺跡の存在をつかんだのは、さすがマスター、情報収集家の面目躍如といったところでしたね」
「ありがとう。でも、お前さんにそうストレートに褒められると逆に居心地が悪いなあ」
「個人投資家としては今ひとつでしたが」
「そうそう、そういう余計な一言があるほうが落ち着くよ……って聞き捨てならんディスを受けている気がするが」
 まあいいさ、と流して陣はピラミッドに歩を進めた。
「見れば見るほどマリアが眠っていた遺跡とそっくりだ。こりゃ、ひょっとするとひょっとするかもしれんなあ」
「七枷陣探検隊のアドベンチャア堂々開始、というわけですね」
 これまで以上に平板な口調でマナが言った。

 ピラミッド内での大冒険、血湧き肉躍り骨砕けるスリルとアクションの数々は、紙幅の都合により残念ながら割愛する。

 ヘルメットは煤だらけ、服もボロボロの状態ながら、それでも大きな怪我はなく一行はピラミッド最奥部の石室にたどり着いていた。
「穏やかじゃないねぇ」
 ある程度予想はしていたが、と、陣は縦に置かれたガラスケースの前に立つ。
 既視感のある光景だった。ケースの内側には、やはり一人の少女の姿があった。
 ケースの隅に刻まれた文字をマナが読んだ。
「『fragile』に『MARUTA』、ですか」
「マリア、お前さんマルタって名前に聞き覚えはあるかい?」
 マリアは首を横に振った。
「けれど抜けがあるので、私の記憶には」
「どっちにしろ放置できる代物じゃないし、ケースごと彼女を運ぶとしようか。マルタ……か。マリアの姉ちゃんかもしれんからね……?」
「マスター」
 マナが言った。陣の背後、ガラスケースを指している。
「それは、私の目は節穴です、という自虐でしょうか?」
「え?」
 振り返って陣は仰天したのだった。なぜってケースの中の少女が、怒りに燃えた目で陣を凝視していたからだ。
「遅い!」
 黒髪の少女、【フラジャイルのマルタ】は言った。
「きみはいつまで私を待たせるんだ七枷陣くん! 株だのM&Aだのやってる暇があったら、さっさとこの島を見つけて、妹とともにここに来てほしかったな!」
「……おじさんは予想外すぎる展開に凍りついてるよ、いま」
 陣の戸惑いを無視してマルタは続ける。
「私はマリアから二年ほど遅れて目覚めていたんだ。なのに誰も私に気付かなかった。マリアと親しいきみですら、投資なんていう原始的なゲームにうつつを抜かしてほったらかしだったじゃないか。だから叩きつぶして目を覚まさせてあげた」
「ちょっと、いいかい?」
 もしかしてθ(シータ)って、と言いかけたところで、「愚問ですね」とマナに一蹴されそうな気がしたので陣は質問を変えた。
「お前さん、どうやって株の売買とかやったんだい?」
「ネットにはつながるんだよ、ここ。ただ、内側からはケースを開けられない」
 マリアは、マルタと陣を交互に見ている。事態に頭が追いついていない様子だ。
 マナはいつものように超然として「仕方ないですね」と腰に手を当てている。
 そしてマルタは、これが初対面なのに妙になれなれしく「早く開けたまえ」と催促してくる。
 衝撃的な追加メンバーを加え、陣一家のめまぐるしい日々はまだまだ続くことになりそうだ。



 七枷陣  ( クラン・D・マナ
 ヒューマン | ハッカー | 45 歳 | 男性 
スポット番号:5
概要
最終作戦から3年と少し経過
クランはスレイブ状態のアニマを選択
テストピアの隅っこで相変わらずの(建前上は)中小企業ハッカー生活
フラジャイルのマリアがお礼と称して手伝いに通い詰め半ば助手状態

あれから数年…目まぐるしい日々だった
混乱のドサクサの最中、稼ぎ時とばかりに抜き出して切り売り、投機も少し手を出して儲けたり
クランはフォローする時手っ取り早く合理的、とスレイブ状態を選択したり
マリアはあの時のお礼を、とわざわざ家に訪れてハッキングから家事関係まで手伝ってくれたりと
それなりに充実した生活を送っていた

そんな中、ネットでテストピアのアニマセメタリー付近で新たな遺跡が突如浮上の速報が来る
発見された物の中に『fragile』『MARUTA』と書かれたガラスケースがあったとも
十中八九、マリアの関係者なのだろう
今まで手伝ってくれたお返しに、マリアと姉?を引き合わせるよう協力するとしよう



依頼結果

大成功

MVP
 七枷陣
 ヒューマン / ハッカー

 クラン・D・マナ
 

>>>イベントシチュエーションノベル ページに 戻る