ロゼッタ ラクローンの俺の嫁と! 最後の日常を!桂木京介 GM) 




リザルトノベル


 橙と見まがうほどの、彩度の高い茶色の髪、そのやわらかさのなかに左右の手を差し入れ、両サイドからひとつかみずつ取ってねじるようにしながら、後頭部で花の冠のようにまとめ結い留める。
 同じものを、やや後方の髪からもう一組作る。
 そうして組み合わせた束に、残った髪を巻きつけしっかりと留める。
 バランスが大切だ。ときに崩し、ときに直し、均等に整えたところで、残りの髪、余った髪を押し込むようにしてまとめあげ、華やかなギブソンタックを成していく。
「慣れてきた?」
 木製の丸椅子に座ったまま、【ロゼッタ ラクローン】は振り向くことなく【ガットフェレス】に声をかけた。
「おかげさまでね」
 ガットフェレスは作業に没頭している。ロゼッタの髪の手触りや香り、まぶしいくらいのうなじの白さ、甘やかな息づかいに至るまで、さまざまな要素を知覚してもいる。それらは混然となって我が身のなかに入り込み、胸を焦がす。
 一瞬、我を忘れかけるも、ガットフェレスの両手は作業を継続していた。
 やがてその仕事を終える。
「できた」
 ギブソンタックの結い方は幾通りもあり、これは比較的シンプルな手法である。いくらか前髪にふわっとした感触を残すあたりがコツといえよう。
 このところ毎日のように、ガットフェレスはロゼッタの髪を整えている。
 専属の髪結いだ。しかれど業務ではなく趣味、そう言って語弊がなければ、ガットフェレスにとって誇りにして喜びだった。
 技術も向上しこの頃は、苦もなく丁寧に仕上げることができるようになっていた。
「お嬢様、お加減のほどはいかがでしょう?」
 冗談交じりの気取った口調で、ガットフェレスはロゼッタに鼈甲縁の手鏡を渡す。
「うん、上出来上出来」
 ロゼッタのほうも慣れたものだ。
「誉めてつかわす」
 茶目っ気をだし、胸を反らせ気味にこう返すと、
「ありがたき幸せ」
 まるで古典劇の一場面、ガットフェレスは従者のように、うやうやしく礼をするのである。
 そうしてふたりは、顔を見合わせて笑った。観客は誰もいないのだけれど、喝采のひとつくらいあっていい。
 決戦の日(現在では【暗流】と呼ばれている事件)から数年の月日が流れ、ついに研究者たちは、アニマとスレイブに関する安定化技術の解明に成功した。かくしてアニマは自分の意思で、アニマ・スレイブの両形態を自由に切り替えられるようになったのだ。それも、電灯のスイッチをオンオフする程度の気楽さで。
 必要なのは簡単な手術だけだった。ホスト側のアニマリベラーに極小の追加パーツを埋め込めば、この恩恵はほぼ永久に受けられるようになる。手術といっても、インフルエンザの予防接種より痛みは少なく短時間で終わる。まれにだが、追加措置なしで成功したアニマもいるらしい。
 ロゼッタも追加パーツを埋め込んでもらった一人だ。
「どう? やっぱりスレイブ状態のほうがいいでしょ?」
「そうだね。認めざるを得ないところだ。実体があれば、重みも、香りも味も感じることができるからね」
 主として実体でガットフェレスは過ごしている。最近では、一日の八割を実体のままおくることも珍しくない。
 といっても、すぐにこうなったわけではなかった。
 長かったよね、ここまで――ロゼッタはふと、思いを巡らせた。
 あの日、暗流を乗り切っても、ガットフェレスの実体化が安定することはなかった。
 当日こそスレイブ状態になったものの、すぐに解け霊体のようなアニマに復したのである。
 実体と非実体を行ったり来たりするアニマが多い中、ガットフェレスは一年以上アニマのままだった。
 安定化技術の恩恵を受けても、ガットフェレスはアニマでいるほうを好んだ。というより、あえてアニマであり続けようとしたのだった。荷物を運ぶなど必要に迫られれば実体に切り替えるが、用が済めばすぐ戻してしまう。
 安定化技術が確立して以来、日常はスレイブで過ごしているアニマのほうが圧倒的に多い。マスターと結婚し、対等の存在として過ごしている者もよくある。スレイブ化してもアニマには生殖能力はないが、戦災孤児を養子として受け入れている家庭もあった。
 なぜ実体化を避けるのか、ロゼッタは問うことをしなかった。
 ガットフェレスにはガットフェレスの考えがあるはずだ。それを尊重したかった。
 シンクロニシティというのだろうか、このとき偶然、ガットフェレスも同じことを考えていた。
 実体をもつことに、抵抗がなかったと言えば嘘になる。
 コウモリの翼をもつ謎の猿『猿バット』と戦いつつ小さな浮島を探索した依頼、その記憶がガットフェレスの中で長く尾を引いていた。
 圧縮術式、これはアニマ内にあらかじめ魔法術式を圧縮して格納し、必要なときに解き放つというプログラムの一種だ。一瞬だが爆発的な効果を発することができる。これを使った戦法をロゼッタは得意としており、シープヘッドとの戦いでも多用していた。
 この圧縮術式をはじめて用いたのが、猿バットとの戦いだったのである。
 ――あのとき『感じた』ものが忘れられない。
 人間ならば解放感というのだろう、己のなかからこみあげるものをさらけ出したような、あるいは、縛られた鎖を断ち切ったような、そんな気持ち。
 アニマに感覚はない。食物の疑似データを摂取しても『美味しい、と表現する』よう自動反応することはあれど、心からそう思うことはないのだ。
 しかし圧縮術式を解放した瞬間、たしかに感覚はあった。疑似ではない。心で理解した。
 以来、ガットフェレスは感覚に興味をもった。圧縮術式を用いるたびにそれは高まった。けれども実体化してみれば今度は、濁流のように感覚が押し寄せ、面食らったというのが正直なところだった。
 ましてやスレイブには、『センシブル』という機能がある。マスターの能力を一時的に上昇させる反面、用いるたび『エクスタス』という過剰なまでの感覚に溺れることになるのだ。それはガットフェレスにとって、ほとんど恐怖だった。
 でも、それを変えてくれたのが――。
 ロゼッタだ。
 あるとき何気なく「髪を編むの手伝ってくれない?」とロゼッタがガットフェレスに声をかけたこと、これがきっかけとなった。
 そのときもガットフェレスは無数の感覚に襲われた。
 けれど感覚の大半は、ロゼッタに由来するものだった。
 まるで、彼女に包まれているような。
 あるいは感覚として、彼女を味わっているような。
 それなら構わない、このときガットフェレスは確かにそう思った。
 このときをもってガットフェレスの、そしてロゼッタの日常は大きく変化したのである。
 ピアスの穴のようなものだ。最初は、短い時間に過ぎなかった。しかしガットフェレスがスレイブの形態を取る時間は目に見えて延びつづけ、かくて現在に至るのである。
 まだ芝居の続き風にガットフェレスは言う。
「さて姫、朝食の席に向かいましょう」
 いつの間にか呼び方が『姫』になっている。ガットフェレスはロゼッタに手をさしのべた。
「喜んで」
 ロゼッタもつきあうことにして手を取る。
 やっぱり、スレイブ状態のほうが楽しいんだろうな。
 そんなことを思った。
 あまり自覚ないみたいだけど、ガットってスレイブ化すると愛情表現が多くなるんだよね――。
 今だって、握った手をなかなか離さないのだ。散歩道を母と歩く幼子、あるいは、はじめてガールフレンドができた少年のように。
 ガットフェレスはやわらかな手の感触や、ふれ合う肌の温もりを好んでいるようだ。
 少しくすぐったいけど、とロゼッタは考える。
 ま、そんなもんだよね。

 食事を終え、身だしなみを整えた。
 今日もガットフェレスは、細身のダークスーツを着用している。セミウインザーノットに巻いたえんじ色のネクタイは、まっすぐ真下に垂れていた。
 待って、と言いながらロゼッタは靴べらを使う。
 履いているのはブラウンのパンプスだ。本革の。
 かつては、おなじブラウンでもキャンバス地の丈夫なジャングルブーツばかり履いていたことを顧みれば、変われば変わるものだと思う。
 探究者として空のほうぼうへ調査探検に出ていたのも今は昔、現在のロゼッタは、圧縮術式など様々な技能を巧みに使いこなしていた実力を買われて、旅団連合の公企業にスカウトされ研究者の職に就いている。
「毎日エスバイロを飛ばして、猿バットなんかと戦ってた頃と比べると隔世の感があるけど」
 これはこれで、気に入っている。
「何か言った?」
 小首をかしげるガットフェレスに「何でも」とロゼッタは答えた。
 ガットフェレスがドアを開けてくれる。
 陽射しが眩しい。もう夏なのだ。
「じゃあ行こうか」
 ロゼッタを抱きしめるようにしてガットフェレスは告げた。
 そして次の瞬間には、音もなくアニマ化するのだった。
 毎日の生活が、はじまる。


 ロゼッタ ラクローン  ( ガットフェレス
 ヒューマン | ハッカー | 16 歳 | 女性 
数年後、椅子に座っているロゼッタ、その後ろに立ってロゼッタの髪をギブソンタックに編むガットフェレス。
決戦後はアニマ化していたが現在はアニマ・スレイブの両形態が取れる様になった。
スレイブ状態はどうも楽しいらしい、あまり自覚はないようだがガットはスレイブ化すると愛情表現が多くなる。
触れた感触や肌の温もりを好んでいる様子、ロゼッタがそんなもんだよねと受け入れていたためガットも気が付かない。

そして食事をして身だしなみを整える。
準備が出来た、外出だ。
「じゃあ行こうか。」
ロゼッタを抱きしめるようにしてアニマ化するガット。



依頼結果

大成功

MVP
 ロゼッタ ラクローン
 ヒューマン / ハッカー

 ガットフェレス
 

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