ヴァニラビット・レプスの俺の嫁と! 最後の日常を!桂木京介 GM) 

(イベントシチュエーションピンナップ制作 : ルカ二 IL)



リザルトノベル


 昨夜あれほど星が輝いていたというのに、その日、払暁より天気は崩れ、陽が中天にかかる頃になっても空は昏かった。
 老人の繰り言のような小糠雨が、途切れるもことなく降り続いている。
 沈黙はにわかに破れた。
 下腹に響く大砲の音が、ちょうど三度、それぞれ一定の間隔を置いて放たれたのである。傘越しに、あるいは雨に打たれながら数百数千の目がこれを見ているが、皆、何も言わない。視線を落とし、ただ音のみ聞き肩を震わせている姿もあった。
 弔砲だった。
 尉官には一発とするのがレーヴァティン正規軍の通例ながら、この日に限っては特別に三発の弔砲が用いられた。将官に匹敵する待遇である。
 当然かもしれない、これは救世の英雄【リン・ワーズワース少尉】の葬儀なのだから。正確には、その追悼式典という名目になる。
 正装した兵士の一団が、軍旗を被せた棺を運んでくる。
 重そうだ。兵たちの歩みも遅い。
 棺には、何も入っていないというのに。

 最後の献花者が立ち去ったのは、もう夕刻近くになってからだった。
 やがて無人となった献花台の前に、忽然と人影が現れた。
 レインコートを頭から被った姿だ。顔もフードですっぽりと覆われている。冷たい雫を、フードの縁からぽたぽたと落としていた。
 レインコートの人物は、懐から花束を出した。
 花束を構成するのは二色だ。赤と白。
「こういうときの献花に赤と白なんてちょっと場違いだけど、今はこれが私のパーソナルカラー、あなたなら、笑って受け取ってくれると思ってる」
 雨で額に張り付いた前髪を払いのけ、【ヴァニラビット・レプス】は唇を歪めるだけの笑みを浮かべた。
「あれが最後になっちゃったわね……リン。私はまだ道化だけど……道化なりに生きてみるわ」
 顔を上げた。
 献花台の豪華さと比べるとなんだかちっぽけな、リンの遺影が雨に打たれているのが見える。
 いつごろ撮影したものだろうか。モノクロで、リンは笑顔なのだけれど、なぜだか眩しそうな眼をしている。まるでカメラの向こうに、自分の運命が見えているとでもいうかのように。
「今はさよなら。そっちに行ったら笑ってちょうだい」
 背後で足音が聞こえたので、ヴァニラビットは身こわばらせた。
「ヴァニラビット・レプス」
(……あの人ですね)
 プライベートモードの状態で【EST-EX (イースター) 】が告げた。
 ヴァニラビットは小さくうなずく。ここで会えるという予感はしていた。
「お久しぶりです、特佐」
 銃はない。傘も持たない。軍礼服が雨に濡れるに構わず、両手をポケットに入れたまま、【ガウラス・ガウリール特佐】が立っていた。供や警護も連れていない。
「これくらいの時刻まで待てば、貴公に会えると思っていた」
「今の私は空賊です。しかもその頭領。立場上、公の場に顔は出せませんから」
 言いながらヴァニラビットはフードを上げている。蒸し暑さとビニール臭さから解放され、一息つくことができた。
「私を逮捕なさるおつもりですか?」
 まさか、とガウリールは即座に否定した。
「マッチョーネと取引したのは私だ。そんなことはできないし、したいとも思わない」
「ありがたいお話です」
「成り行きかもしれんが貴公には世話になった。まずはその礼を言いたい」
「どういたしまして、私もこの展開には驚いています」
「ものは相談だが」
 とガウリールが言いかけたところで虚空よりイースターが姿を見せた。彼女はまだスレイブ化が不完全で、長くアニマの状態が続いている。
「失礼します。この場の証人として参加させていただいてよろしいでしょうか?」
 イースターは丁重にお辞儀する。雨も、彼女の体は素通りした。
「構わない」
 と言いガウリールはヴァニラビットに向き直った。
「私はこれから腐敗しきった旅団連合……メデナ上層部の荒療治に着手する。率直に言おう。貴公にも加わってもらいたい。改革の尖兵として」
「なるほど」
 イースターはうなずくと続けた。
「メデナから悪性腫瘍を綺麗に取り除くには、正規軍でも一般の傭兵でもない非合法な『刃』が必要、そういうことですね」
 イースターはヴァニラビットを見上げた。彼女の意志ならわかっているつもりだ。だが方針を改めるなら――それはそれで、協力は惜しむまい。
 しかしヴァニラビットは首を横に振ったのだった。迷いはない。その証拠に、薄笑みすら浮かべていた。
「メデナには戻れません……まさか、特佐の口からそんな言葉を聞くことになるとは思ってもみませんでしたが」
「傘下に入れと言っているのではない。空賊の旗もそのままであれば、アウトローとしての名目も立つ。それでもか」
「特佐、私が旗を下ろさないのはアウトローでいたいからではありません。私が、我々が目指すのは権力の暴走への抑止力となることです」
 必要と判断すればガウリールに協力もしよう、だがガウリールが世界に対し抑圧を行おうとするのであれば敵となる――そういう意味だった。
「第二のリンを生み出したくないし、なりたくもないので……飛び続けます、空賊として」
 ヴァニラビットは言い切った。「今さら止まれませんしね」と軽口まで添えて。
 この間、イースターは口を挟まなかった。むしろ内心舌を巻いていたくらいだ。直感を優先させがちな印象のあった彼女が、いつの間にか自分の使命と進むべき道を、現実的合理的に判断できるようになっている。
 イースターとしては、嬉しさを表に出さないようにするのが大変だった。
 成長したものだ。
 リン・ワーズワースの死を目の当たりにしたからだろうか。
 空賊団の団長として、数十名を率いることになったからだろうか。
 それとも――まさかとは思うが、自分が常に小言を投げていたからだろうか。
「懐刀になってやってもいい、というわけだな。しかしその刀は柄がなく、切っ先は私の腹にも突きつけられている、と――」
「そう考えていただければ光栄です」
 旨いウイスキーでも呷ったように、ガウリールはひとつ溜息をついた。
「結構だ。トロメイアにもそれくらいの覚悟があればな」
「トロメイア? 前議長の父親の……?」
「いや、娘のほうだ」
 それにしても、とガウリールは言う。
「だが、空賊だけでやっていけるのか」
 その話ですよ、と言ったとき、ヴァニラビットは雨が、完全に上がっていることに気がついた。もういいかな、とレインコートを脱いでしまう。あらわれたのは赤と白の戦装束、【ヴァニラビット一家】の団長着だ。
「儲からないんですよね、空賊って。とりわけ義賊を目指すとあっては。だから表家業もはじめます。ビジネス、つまり会社法人です」
「ほう」
「考えてるのは運送業……運び屋ですね。人モノ合法非合法問わず、インフラ取りに行きます。損はさせませんよ?」
「さんたくろーすうんそう!」
 ヴァニラビットもイースターも、驚いてガウリールの足元を見た。
 そこに中世騎士のような全身甲冑を着た姿が立っていたのである。といっても四、五歳程度、ミニチュア頭身の。
「かいしゃなら、なまえは『さんたくろーすうんそう』がいいとおもうよ!」
「……【X2(エックス・ツー)】、下がっていなさい」
「その子ってまさか……」
「私にも、アニマはいる」
 居心地悪そうにガウリールは視線を逸らすのである。
 ヴァニラビットは屈み込んでアニマに告げた。
「うん、『サンタクロース運送』で行こう! ありがとね。ドン・マッチョーネ元団長が出所できたら、社長お願いしてもいいかも」
 ガウリールにうながされ、不承不承エックス・ツーは姿を消した。
「それで特佐、どう思います? 乗るか、そるか、この場で止めるか……ご選択は?」
 ガウリールはどれを選ぶとも明言しなかった。ただ、
「必要なら、マッチョーネの仮釈放は急がせよう」
 とだけ告げると背を向け、振り返らずそのまま去ったのだった。

 ヴァニラビットはもう一度だけリンの写真を見上げ心の中で別れを告げると、レインコートを担いで歩き出した。
「考えること、やること、いっぱいあるわね」
「そうですね。裏と表、どちらの稼業も忙しくなるでしょう」
 と答えるイースターの足に、草を踏む感触があった。唐突に実体化したのだ。
「けど最初は決めてるの」
 自身も足を止め、ヴァニラビットは人差し指を立てた。
「あなたの新しい衣装と、二人の部屋作り!」
「私の?」
「必要でしょう? これからもそんな風に実体化するんなら」
 と笑うヴァニラビットの顔は、明るく派手好きな無頼漢な頃と、まったく変わらぬものだった。
「そのようですね」
 イースターも、ばつが悪そうに笑み返すほかはない。
「ならこれからも、指摘は厳しめで従いますのでそのつもりで」
「ありがとう、イースター。これからも末永く……よろしく」
 夕方の太陽が、雲の間からそっと顔を出した。


 ヴァニラビット・レプス  ( EST-EX
 ケモモ | マーセナリー | 20 歳 | 女性 
◆デートスポット
1:第一位空挺都市・軍事旅団レーヴァテイン

◆目的
戦後処理と独立のご挨拶

◆行動
立場上、公の場に顔は出せない(出さない)ため、匿名で献花か、式典終了後の墓碑へ個人的に参拝。
空賊団および協力者でカタギに戻りたい者がいれば下船させ、ガウリール特佐(や、親交のある一部傭兵)に内密で挨拶へ。
「ひとまずお別れと、ビジネスのお話に」

要約すると…今更止まれないし、権力の暴走への抑止力として空賊は続行します。
ただ野盗化はしたくないし、義賊家業だけじゃ食えないので、カバー会社起業しようと思います。乗るか、反るか、止めるか、さぁ三択しろ。
事業は空賊の運輸能力活かして運送会社。『サンタクロース運送』とかで…ドン・マッチョーネ元団長が出所できたら、社長お願いしてもいい

やることはいっぱいあるけど…最後に、まず手を付けるのはEST-EXの衣装選び。
これから末永く、いつか倒れるまで共に。よろしく。



依頼結果

大成功

MVP
 ヴァニラビット・レプス
 ケモモ / マーセナリー

 EST-EX

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